ようこそ非日常の溢れる教室へ   作:地支 辰巳

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 間章だけしか出番をあげられない生徒たちを出来る限り無くしていきたい


人間は一人では脆く寂しい生物だ

 クリスマスも終わりムードが下がりつつある日。この時期に男女と会っていたとしても、その他大勢として対して気にされることは少ないだろう。しかし、この二人においては違った。生徒たちがほとんど去り、夕日がよく見える特別棟の屋上に綾小路と軽井沢の姿はあった。

 

「はぁーさむ! はやくここから離れない?」

 

「いや、俺と軽井沢の関係を知られる訳にはいかないからな。ここが1番都合が良い」

 

 綾小路と軽井沢の関係は何とも言えないものだった。手を組み、堀北に巻き込まれる形でDクラスの問題に対処するようになっていたが、軽井沢からしてみれば綾小路は船であの時間、あの場所に来ただけの人間であり、実力も何を考えているかもわからない存在で信用も信頼も出来ていなかった。綾小路からしてみても軽井沢を女子の音頭をとれる存在として配下にしたものの、櫛田の問題や堀北兄からの指令などがあって、持て余していた。端的に言うのならば二人の関係はあの時からさほど変わっていなかった。

 

「てか、あの任務やってるの? あの堀北さんとか堀北さんのお兄さんから言われたやつ」

 

「……微妙だな。だが、軽井沢の思っている以上には仕事をしているつもりだ」

 

「……ほんとに? あの櫛田さんのやつとかも何かしてた?」

 

 軽井沢の指摘。それはある意味で的を得ていた。外から見れば櫛田の騒動で動いていたのは龍園と吉宗だけであり、Dクラスの面々が大ぴらに何かをしているとは見られていなかった。それもあって、軽井沢からの目は厳しかった。

 

「あれは櫛田自身が助けを求めていなかったからな。俺たちが出来ることは無かった。何故、解決したかも調査中だな」

 

 ここで正臣に打診したことや櫛田に接触していたことを言うことも出来た綾小路だったが、それを言ったところで証拠も何も無い。綾小路は客観的な視線を持ちつつ、本当にわかっていないことは分かっていないと正直に言っていた。

 

「なにそれ。ちゃんと仕事をしてくれないとあたしまで何か言われるかもしれないんだけど」

 

「それは悪かった。これからは堀北だけじゃなくて軽井沢にも仕事を振ることにするさ」

 

「げぇ、じゃあ言わなきゃよかった」

 

 綾小路とて軽井沢に仕事をこれまでも振っておいた方がいい場面はいくつもあった。しかし、綾小路が現在対処しようとしているのは櫛田や美香などの勘が冴えている人物ばかり。変に軽井沢を使おうものなら関係を勘付かれる恐れが多くあったからこそ、簡単には使えなかった。

 

「何をさせようとかもう決めちゃったりする?」

 

「……軽井沢にはこれからDクラスでの女子をまとめる役割を担ってほしい」

 

「え?! いきなりすぎ! そんなの堀北さんに任せれば良いじゃん」

 

「軽井沢。堀北にお前のように女子をまとめさせる力はない。堀北は紀田が折れた時や裏のリーダーとしての役割があるからな」

 

 堀北が軽井沢のようには女子をまとめることは出来ないという点には微妙な顔をしながらも頷く軽井沢だったが、綾小路の言葉の中にあった紀田が折れた時という仮定には納得のいかないようなそんな顔を隠せていなかった。

 

「でも、紀田くんが折れることはなくない? あんな自信満々なんだし」

 

「前もお前自身言っていただろ? 紀田はお前と同じ闇を持つ人間だ。軽井沢が支える未来もあったかもしれないと思うぐらいにはな」

 

 綾小路の言葉に呆気にとられたような表情になってしまう軽井沢。自分だっていじめられていたような過去があり、それを守るように虚勢を張っている。それと同じで紀田もそのような過去からあんなにも明るく振る舞っているし、どこか寂しそうなところが見られるのだと。そう思ってしまうともう元の考え方には戻れなくなり、紀田への同情が軽井沢の中に蔓延する。

 

「はぁー分かった。具体的にはなにすればいいとかある?」

 

「今のところは特に無いな。次の特別試験で女子をまとめはじめて欲しいだけだ。櫛田はあれの影響力が落ちていて、張間はそもそも感心がないからな」

 

「まぁそれは同意するけど」

 

「なら、任せた。期待しているからな軽井沢」

 

 クリスマスのシーズンというにも関わらず、淡泊な会合は終わりを告げる。帰り道も二人の距離感は知り合いと悟られないギリギリのラインを保っていた。その距離感が縮まるような兆しは見えなかった。

 

 

★ ★ ★

 

 クリスマスのムードが終わり、通常の休暇のようになった日。その日、Aクラスの柴田、渡辺、浜口、帝人の4人はモールにお出かけをしていた。個々では仲の良い面子だが、この4人で集まることは初めてであり、そのきっかけもその場の流れで何となくという感じだった。

 

「みんなは何したい? 買い物とかでもいいけど」

 

「運動でもするのも良くないか?! 卓球とか」

 

 主に柴田と浜口が提案を出しながらそれに対して帝人と渡辺が是非を申しながら進んでいくそんな歪だが形の整ったような関係。今日という日を楽しげに過ごすにはいいバランス関係だと言えた。そんな中、長い議論の末、4人はボウリングすることに決まった。圧倒的な運動能力を誇る柴田の独壇場だったが、他3人も何とか勝負が出来る程度までは頑張っていた。

 

「柴田くんほんとつよきずだよね。勝負にならないよー」

 

「やっぱり運動関係じゃ勝ち目は無いね」

 

「もうちょっとやろうぜ!! まだ時間はあるんだしよ」

 

「あーちょっと待ってくれ。俺トイレ行ってくるわ」

 

 何セットかボウリングを行い、もう会話メインへと空気が移り変わろうとしている中、渡辺は我慢していたトイレへと赴く。ボウリング場から近いトイレということもあって、あまり人が来るようなトイレでは無かったため、素早い所作でトイレを出た渡辺は同じく女子トイレから出てきたであろう女子と遭遇してしまう。

 

「あ、おはよう」

 

「あ、うん。おはよう」

 

 そこで遭遇した女子は同じくAクラスの五十嵐千晶。同じクラスで男女ともに仲の良いAクラスだとしてもあまり接点の無い二人。二人ともがお互いに無視という選択肢は無かったが、アバウトに挨拶することも出来なかった為、何となく気まずい挨拶となっていた。

 

「えーと、何してるの?」

 

「あ、それはあれだよ。ボウリング、ボウリングをやりに来たんだ」

 

「一人で?」

 

「一人でじゃないよ。柴田とか浜口、竜ヶ峰ときてる。五十嵐さんは誰と来てるの? もしかして……彼氏とか?」

 

 丁寧な口調で話しながらも彼氏と来ているかという軽い疑問を聞いていく渡辺。そんな渡辺に千晶も冗談のようなものだと分かっているのか、肩を少しすくめて微笑を浮かべる。

 

「そんな訳ないよ。彼氏が出来るほど良い人じゃないから私」

 

「いや五十嵐さんそんなことないって。良い人だと思うけど」

 

 多分に関わった関係でも無いにも関わらず、渡辺は断言する。そこに大きな意味は持っておらず、善人である渡辺の口から自然に出てきたものであった。しかし、その良い人だと断言されることは千晶からすれば認められないものであった。

 

「わかってない。渡辺くんはわかってない。私は良い人なんかじゃない。悪人だよ。良い人なのは一之瀬さんみたいな人を言うんだよ」

 

 きつめの口調と共に真っ直ぐ渡辺を見つめる千晶。そんな確定的な千晶の反論に渡辺のような善人もなんだか気分が悪くなってくる。一之瀬が善人なのは分かってる。だが、ここまで千晶が善人では無いと否定するのは何故かすごく変で嫌だった。

 

「俺は五十嵐さんが善人じゃないなんて言えない。そんなことないから」

 

「渡辺くんは良い人だね。でも、人を疑うことももっと知った方がいいよ。渡辺くんならそうなれるから」

 

 去って行く千晶はすごくミステリアスで人と壁を阻むようなそんな雰囲気を漂わせていた。そんな今までとは違う千晶の新たな一面に渡辺はこれまでと同じ目線で千晶のことを見ることが出来なくなっていた。そして、この出来事がまた奇妙な縁となることは二人してこの時は微塵も思っていなかった。

 

 

★ ★ ★

 

 

 その日、何気ない足取りで図書館に入っていき、図書館の番人とも言える椎名の前に座ったのは同じくCクラスである幽。幽は目の前に座ったにも関わらず、直ぐに話し出すようなことはせずに手に持った小さな文庫本のようなものを読む。同じく椎名も目の前に幽が座ったことは分かったが、それを気にすることは無く手に持った推理小説と分かるようなタイトルを読み進める。

 何分くらい時間が経っただろうか。何ページか本が進んだところで幽が重い口をすっと開ける。

 

「俺は今回の騒動の犯人が誰なのかは龍園から大体聞いているよ。椎名さんは気にならない?」

 

「気にならないと言えば嘘になります。でも、今回のことは全て龍園くんの興味本位で行われたことなので知りたくはないです」

 

 何故、幽がこのような問いを椎名にしたかは分からないし、本人も何故したのか分かっていないかもしれなかった。そして、そんな幽の問いにも椎名はクラスのことではなく、龍園個人の興味からしたことだから知る必要はないと、知ることを拒否する。

 

「やっぱり、君は大人だよ」

 

「そうですね。もしかしたら、平和島くんよりは大人かもしれません」

 

 いつだって心の底から冷静さを崩さない椎名と比べて表面上は表情を出していないように見える幽。二人はお互いにお互いのそう言った面のことを尊敬しているような、そんな関係性だった。

 実際のところ、幽はこの帝人の正体と臨也の暗躍という二つの秘密を誰かに相談したかったのかもしれない。龍園から口止めされCクラスの中で龍園と伊吹と自分しか知らないこの大きすぎる事柄を。

 

「椎名さん。椎名さんはそのままで居て欲しい。人を思うだけで人に思いが伝わるような椎名さんで」

 

「平和島くんもそうですよ。表情が変わらなくても平和島くんの思いは伝わっています」

 

 何の日陰も無いような笑顔で幽のことを言い切る椎名。そんな椎名の笑顔はこれからも自分は何者にもなれないのだと思っていた幽の心を少しは溶かしたのかも知れない。幽が自分自身を受け入れるにはまだまだ先だとしても。

 




 色んな人の人間関係が煮詰まってきたのでカップル同士の描写をもう少し増やしたいと思ったりしてます。ですが、なにぶん、別の作品同士のキャラのカップリングもあるのでどこまで書いていいのか難しいところもあるのでアンケートを取ろうと思います。ご協力お願いします。深さなどの度合いは主観です

 次回はこれまで焦点を当てなかった組み合わせと次章への布石になります

カップル同士などの描写の深さについて

  • 仄めかしもやめてほしい
  • 仄めかす程度ならば問題なし
  • 軽い描写なら良し
  • 多少深くてもok
  • ギリギリまで攻めてよし
  • どれでも気にしない
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