ようこそ非日常の溢れる教室へ   作:地支 辰巳

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 この話でこの章は終わりです


己が未知を恐れないことは成長になる

 

 毎年恒例とも言える行事が近づいている中でも堀北学は日常と変わらぬ態度を保ち、普段通りに行動をしていた。そんなリーダーとして普段様々な人と交流している堀北が一人で中庭でジュースを買っている時、ある人物が接触してくる。

 

「よぉ、一人なんて珍しいな」

 

「そっちも珍しいみたいだな。普段の彼女たちはどうしたんだ」

 

 堀北に声をかけたのは同じく3年Aクラスの六条千景。彼らは互いに尊敬し合っているが、お互いの周りの人物の為に干渉は避けており、一対一で話すのも非常に珍しかった。

 

「ハニーたちは受験勉強とかで忙しいんだよ。俺が何の用で来たかわかるか?」

 

 堀北は考え込む素振りを見せるが、実際のところは大方の予想はついていた。3年間一緒のクラスにいても根本的な考え方が揃うことは少なかった二人だが、そのくらいはわかる程度の関係性ではあった。

 

「俺への忠告と言ったところか?」

 

「そういうことだ。目をかけている後輩に後を託すのもいいが、もう少し自クラスへの興味を持てって言いたいんだよ」

 

「六条も後輩に託している。お前が真面目に働いてくれたらもう少しAクラスのクラスポイントは上がっていた」

 

 お互いに何故それを知っているかを聞かないものの、どちらも言っていることは的を得ていた。堀北は学校としての後を託すことばかりを考え、Aクラスのことよりもそちらを優先しているように映り、千景も他クラスの女生徒や自分の信条を優先するあまり、クラスポイントへの貢献が少なかった。しかし、二人ともそれを誰かに言われたことぐらいで自分を曲げるほど薄い人間では無かった。

 

「俺が託したことは個人的なことだけだ。それに俺が貢献しなくてもAクラスは安泰だろ?」

 

「俺もクラスのことは他の人間に任せている。俺は俺にしか出来ないことをやらなければならない」

 

 千景も堀北の言っていることは理解出来ているし、それが正しいことだともわかっている。しかし、大義の為に自クラスが危険に晒されるのはやはり納得がいなかった。

 

「お前がやらければならないことは南雲や折原、平和島に喧嘩を売ることだろ? それがクラスに危険をすることか分かっているのかよ」

 

 近づき、目を見て堀北に訴えかける千景。堀北とてそれは分かっているのだ。堀北は自クラスの仲間ならその3人からの攻撃を乗り越えられると思い、そこを結果的には見てみぬ振りをしてきた。

 

「分かっている。だが、このままあの3人を放置することはこれからの世代の公平な実力主義を邪魔することに繋がる。何も手を打たないことは出来ない」

 

「なら、南雲や折原がお前の煽りでハニーたちを退学させたら、お前は救えるつもりしてるのか? 自分のケジメぐらいつけれるのか聞いてんだよ」

 

 怒っていた。怒っていたのま。自分が攻撃すれば容赦なく自分以外の子を狙うようなことをする南雲や臨也のことを知っているからこそ、千景は全力で堀北のことを睨む。けっして殴りはしない。自分の周りを守る為にその二人を殴りもしない自分にはそんな権利は無いというように。

 

「……お前の言っていることは分かっているつもりだ。……これから先、あいつらが原因で俺のクラスから犠牲が出るなら全力で救う。そして、退学したのなら俺も退学する」

 

「その約束守れよ堀北」

 

 何故、千景がこんな話をしたのかを堀北は分かっているのだ。これから起こるだろう混合合宿でどちらかが仕掛けてくるであろうことは分かっているのだから。

 

 

★ ★ ★

 

 

 1年Dクラスは表向きは正臣がリーダーだということになっているものの、実際には正臣に引けを取らない発言権を何人かいた。それは平田、軽井沢、櫛田の3人であった。そのすぐ下には堀北や美香などがいたのだが、堀北はコミュニケーションを他の生徒と積極的に取っていないことから正臣が信用を置いていることを差し引いてもクラスからの評価は高くなく、美香はあれのやらかしがまだ尾を引いており、発言権が未だに回復していなかったからあの3人よりも劣っていた。

 そんな運営体系を取っているDクラスだったが、櫛田が前回の騒動からクラス運営への干渉を少なくしていたことでこの中のパワーバランスが少しずつ変わろうとしていた。

 

「ッグ!? ぐねったかな」

 

 そんな中でこれからのクラスのことを1番に想っている平田はその日、サッカー部の練習中に大怪我とはいかないぐらいだが、それなりに大きな傷を負ってしまっていた。

 

「大丈夫か!? これはひどいな。今日は保健室の先生いたか?!」

 

「今日は休日なので居ないと思います! どうしましょう先輩」

 

 保健室の先生に診てもらうのが適当な傷で救急車を呼ぶほどではない傷。それが分かっているからこそ、こう言う時に誰を頼れば良いか1年の生徒や2年のほとんどの生徒は戸惑う。だが、2年Aクラスのある生徒が傷を軽く見ると、電話をしだす。

 

『ああ、そうだ。急患だ。今すぐグラウンドに来てくれ。報酬も払ってやるから』

 

「先輩? 一体どこに電話したんですか?」

 

「医者だ。こう言う時に頼りになる医者の見習いだ」

 

 その先輩の自信たっぷりの顔に他の生徒たちには安心感と多少の疑いというものが広がっていき、当の本人でもある平田はその頼もしさから寝るようにして目を瞑った。

 

 

  ───────────────────

 

 

「……!」

 

「やぁ、目が覚めたかい? さっそくだけど痛みはあるかい?」

 

 平田が気がつくとそこはベッドの上だった。だが、そのベッドの周りの景色は保健室とは似ても似つかないものであり、声をかけてきたその青年もこれまで見た記憶がない人物だった。

 

「痛みは少しだけあります。……治療してくれたんですか?」

 

「一応そういうことになるかな。僕は岸谷新羅。医者の真似事をしてる若輩者さ」

 

 メガネをかけ、優しそうで穏やかな雰囲気を漂わせる新羅に対して初めて会ったにも関わらず、平田は直ぐに良い人間なのだと彼の事を判断していた。新羅はその辺りのことは置いてと、改めて彼の身体を診る。

 

「うん。重めの肉離れになってるね。ウォーミング・アップとか疎かだったんじゃないかな?」

 

 新羅からの的確な疑問に対して、いつもはすらすら答えられるはずの平田は少し言葉に詰まってしまう。実際にウォーミング・アップ中、平田はクラスのこれからを考えており、疎かになっていないとは言い切れなかった。

 

「そう……かもしれません。考え事をしてました」

 

「まさに麒麟の躓きだね。何を考えていたんだい?」

 

 あまり人と話すことの少ない新羅にしては珍しく平田の話を促していく。これが本気で平田の悩みに乗ろうとしているのか、医者としての立場からの問いかけなのかは平田からは分からなかった。しかし、気も身体も少し疲れている平田にとってはその親しみは気晴らしになっていた。

 

「何を……多分、クラスのことを考えてました。これから僕がクラスの為に何が出来るかってことを」

 

 いつもの平田とは違って弱々しく響くその声。いつもを知らない新羅からしてみても、これは落ち込んだいるなと思えるようなもので、あまり人と関わりを持つ事が少ない新羅にしては珍しく老婆心のようなものが芽生える。

 

「うんうん、悩みの中でも良い悩みだね。平田くんにとって絶対に外せないことはなんだい?」

 

「誰もクラスメイトが退学しないことです。それだけは何を置いても外せません」

 

 弱々しい声の中でも強い意志を感じられる言葉。これが平田の中でも絶対に譲れないものなのだと初対面の新羅でもそれをひしひしと感じ取っていた。しかし、平田の考えに新羅は何一つ共感をすることは出来なかった。

 

「これから先、平田くんは自分の大切な人を退学させたらクラスポイントが手に入るか、知らないクラスメイトを退学させるかならどっちを選ぶ?」

 

「……僕は選べません。選べないです。絶対に選ばなければならないなら、自分が退学します」

 

 覚悟の決まった目。これしか選びたくないように第三の選択肢を選んでくる平田。彼にとってはこれが正解であり、これこそが後悔のしない選択だとして確信していた。

 

「うん、間違ってるよ平田くん。何があっても知らないクラスメイトを退学させなきゃいけない。自分の大切な人を守るためならそれをやるのが当たり前だよ。これからはそういう試験が増えてくるだろうからね」

 

 平田にとっては残酷な新羅の考えと言葉が突き刺さる。いや、普通の人間の心理ならば新羅の方に賛成する人間の方が多いだろう。そのくらいに平田という人は異常とも言えた。

 

「本当に……そんな試験しか来ないんですか?」

 

「うん、来ない。平田くんも大切で一生一緒にいたいという人を見つけた方が良いよ。そうしないと、次は僕にも直せない傷を負うかもしれない」

 

 そう言葉を残した新羅の背後に黒い影のようなものが見えた平田。次の瞬間には消えていたそれは平田の心の中にじっくりと強烈に残った新羅のアドバイスと違い、記憶の中から直ぐに無くなっていた。

 

 

★ ★ ★

 

 

 それは全て偶々だった。この偶々が起こったからこそ、この後に小さくても確かにあの騒動が起こったのだろう。偶々、お手洗いでいなくなった杏里に、偶々靴箱で待っており会話が尽きた坂柳と神室。そして、偶々聞こえてきたどこかの部活動の誰かの歌。それらは全て偶々だったが、まるで運命付けられたようにそれは起こったものだった。

 

「歌……歌ですか」

 

「何か気になることでもある?」

 

「いえ、そういえば歌で思い出したのですが、日本にはある刀があるらしいです」

 

「……刀?」

 

 坂柳から出てきたその単語に神室は訝しげな表情をする。だって、そうだろう。あのふざけるにしても人をいじるようなふざけ方しかしない坂柳から刀という普段聞かない単語が出てきたのだから。

 

「人を愛し、持った者を人を愛する殺人鬼に変えてしまうという妖刀が」

 

「なにそれ。迷信でしょ」

 

「ええ、迷信でしょうね。そんな刀があれば何かしらの騒動が定期的に起こっているでしょうから」

 

 残酷な話をしている話にも関わらず、坂柳はこの話を始めた頃から少しずつ笑みを浮かび上げていく。それは神室の目に飽きれの目を抱かせた。

 

「なんか変なこと考えてない?」

 

「いえ、私もこれに変えられてしまうのでしょうか。私ならば抑えられるのではないかと思っただけですよ」

 

「ありそうなのが怖いんだけど」

 

「すみません、遅くなりました」

 

「いえ、大丈夫です。有意義なお話を出来ましたから」

 

 話がひと段落ついたところで少し早足で帰ってきた杏里。そんな杏里と神室を連れて進み出す坂柳。ゆっくりと自分のペースで進んで行く坂柳のペースに二人も4月の頃よりも慣れてきていた。

 

「なんの話をしてたんですか?」

 

「いえ、少し夢のある話をしてただけです」

 

 たわいもない話で杏里に話すほどの話でもないだろうと別の話を話始める坂柳。この選択も坂柳の気まぐれで偶々だった。しかし、それはある意味で正しかったのかもしれない。この「罪歌」と呼ばれる刀の名前を杏里は聞きたくなかったのだから。




 次回からの章ではお察しの方もいるかもですが、彼女をメインに進んでいきます。

 

カップル同士などの描写の深さについて

  • 仄めかしもやめてほしい
  • 仄めかす程度ならば問題なし
  • 軽い描写なら良し
  • 多少深くてもok
  • ギリギリまで攻めてよし
  • どれでも気にしない
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