ゴールドシップの理想の三角関係 作:カランコエ(Kalanchoe)
まだ夏でもないのに、蒸し蒸しとした暑いある日。
「ゴルシ、悩みでもあるのか?」
トレーナーが心配そうな顔で聞いてきた。
そう言われた時、何と答えていいかわからなかった。
図星を突かれたということもあるが、悩んでいることに気付かれるとは全く思っていなかった。
誰かに心を読まれた事自体、生まれて初めてかもしれない。
「最近、元気がないように見えるし、走りの調子もちょっと悪くなってるよな。」
まさか元気がないなんて言われるとも思ってなかった。
そんなに態度に出てたか?
「『ナヤミ』って、食い物か?それとも、観阿弥、世阿弥の仲間か?よぉし!これから和製ミュージカルについて熱く語り合おうぜぇ!」
咄嗟に『いつもの自分』を演じて、誤魔化そうとした。
理性が打ち明けるべきだと警告したけど、感情的に嫌だと思った。
「図星っぽいな。今言葉に詰まったし、何て返すか考えてただろ。」
…アンタじゃなかったら誤魔化せてたと思うんだけどなぁ。
ホントによく見てるわ。
「言いにくい事なら言わなくてもいい。ただ、お前のトレーナーとして、可能な限り協力するから。それだけは覚えててくれ。」
トレーナーはそう続けた。
経ケン則として、この後、アタシの調子に合わせるためにトレーニング内容の調整と、アタシのモチベーションを上げるのための計画を練るために無理をして、彼は体調を崩すだろう。
そうなると、同じチームのマックイーンにも、トレーナー自身にも迷惑をかけるだろう。
それは、もっと嫌だった。
「…いや、アタシも打ち明けるべきだと思ってた。だから…今日のトレーニングが終わったら、マックイーンと一緒にトレーナー室で聞いてくれ。」
「…わかった。」
なんでマックイーンと一緒なのかとか、今じゃなくてトレーニング後なのかとか聞きたいことが、いっぱいあるだろうに、トレーナーは何も聞かずに了承してくれた。
…さて、退路は断たれた。いや、断った。
…こんなに逃げたくなったのは初めてだ。
トレーニングが終わって、トレーナー室まで来てしまった。
腹は括ったけど、やっぱり怖い。
吐きそうだ。
さっきから二人が、黙っちまったアタシを気遣ってくれてるのがわかる。
余裕がねえんだ。すまねえ。
無言なのが、ありがたかった。
十分ほど経っただろうか。気持ちに整理をつける。
踏ん切りがついた理由の一つは、この二人なら、もし失敗しても『なかったことにしてくれる』だろうという考えからだ。
…そんなことを考える自分が、昔から大嫌いだ。
「…よし。待たせて悪いな。」
ちょっと震えてるけど、いつも通りの声音が出て安心する。
「問題ないよ。で、ゴルシ、何を悩んでるんだ?」
優しい声音でトレーナーが聞いてくる。
「これで、つまらない話だったら、タダじゃおきませんわよ。」
わざと不満気な声を作って、マックイーンがそう言う。
やめろよな。
そうやって、二人して優しくされると、決意したのに揺らいじまうだろ。
まぁ、これからする話が、めちゃくちゃ
「誤解されたくないからさ。直接的な表現を使わせて貰うな。」
そう前置きして、一拍、深呼吸する。
「アタシを、マックイーン公認のトレーナーの愛人にして欲しい。」
「……は?」
「……え?」
「アタシはトレーナーもマックイーンも大好きだ。だから、マックイーンからトレーナーを取る気は全くない。でも、トレーナーを諦めきれなかった。だから、愛妾にして欲しい。」
ずっと秘めてた想いを、言い切ってやった。
漫画みたいに椅子から転げ落ちるトレーナーと、金魚みたいに口をパクパクさせるマックイーンが見える。
こんな面白い光景、二度と見れねぇだろうな。
マックイーンが落ち着いて、トレーナーが椅子に座り直すのを見て、続きを話す。
「もちろん断ってくれていい。これは、どっちかてーとアタシなりのケジメみたいなモンだから。」
叶わない願いなんだから、とっとと玉砕した方がいい。抱え落ちなんてアタシのガラじゃないしな。
「…」
「…トレーナーさん?」
「…なんで黙るんだよ、トレーナー。」
アタシに希望を持たせないでくれ。
早く断ってくれ。
「…正直に言う。ゴルシが俺に好意を抱いているのは知ってた。」
「はぁっ?!」
「えっ…」
寝耳に水で、思わず叫ぶ。
「いや、LoveじゃなくてLikeの方だとは思ってたんだけど…」
恋心までバレてるのかと思ったじゃねーか。心臓にわりぃわ。
後、早く返事してくれ。頼むから。
「…で、返答なんだが…すまん、ゴルシ。お前を、そういう目で見たことがない。」
だろうな。胸にあんまり興味ないのは知ってたけど、腕とか背中に胸押し付けた時も反応薄かったしな。
あーあ、初恋は実らないって言うしなぁ。
「だから、一旦保留にして、明日、三人で映画でも観に行かないか?」
「………え?」
「…はぁ。貴方は優しすぎるから、断らないとは思っていましたわ。」
予想外の展開に思考が追い付かない。
「…マックイーンはいいのか?アタシとトレーナーとデート。」
「…私にも分かりませんわ。トレーナーさんを独占したい、と思う女の私も居ますが、貴方の恋を応援したい、と思う貴方の友人の私も居ます。」
「俺も自分の気持ちがよく分からんから、確認も兼ねて、三人で出掛けよう。」
…マジか。夢か?幻か?それとも、ここがエデンか?
玉砕覚悟だったのに、ハーレムルートワンチャンあるのか?
「…よっしゃああぁぁっ!!!我が世の春が来たァァ!!」
「ようやく、いつもの貴女に戻りましたわね。」
「一応断っておくが、まだOKした訳じゃないからな。」
「わーってるよ!出走取り消し予定だったのに、出れるって言われたんだから、テンション爆上げになるに決まってんだろ!瓢箪から餅!ポイントカードはお餅ですか?!ってな!」
二人が苦笑する。
幼い子供を見るような暖かい目だ。
首を洗って待ってろよ二人とも。絶対両方落として、アタシの理想の三角関係作ってやるからな!