ゴールドシップの理想の三角関係   作:カランコエ(Kalanchoe)

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銀幕での直線一気

「…なあ、マックイーン。こんなフリフリの服、アタシには似合わないと思うんだが…」

「いいえ、お似合いですわよ。それに、トレーナーさんの好みを聞きに来たのは、貴女ではなくて?」

 

マックイーンが微笑ましいモノを見る目をしている。

めっちゃ恥ずかしい。

 

「…いや、でも…」

 

言葉に詰まる。

 

「それとも、私の見立てが信用出来ませんか?」

「…あー!わーったよ!これで行きゃいいんだろ!」

 

 

 


 

 

 

待ち合わせ時間の三十分程前に待ち合わせ場所に到着した。

予定より大幅に早く着くのは、いつもの悪い癖だ。

 

うだるような熱さの中、二十分ほどして、二人の葦毛のウマ娘がこちらに向かって来ていることに気付く。

 

片方はマックイーンだ。今日はフリル多めの青いワンピースらしい。月並みな感想だが、良く似合っていて、綺麗だし可愛いと思う。

 

もう片方は…ゴルシだろう。もし街中でバッタリ会っても、ゴルシとは分からないかもしれないほど、いつもと雰囲気が違う。

いつも身に付けている帽子とイヤーマフ(みたいなやつ)を外して、髪を下ろしている。

服装はマックイーンとお揃いのフリル付きの白いワンピースで、ほんのり赤い顔で、耳も尻尾も落ち着きなくソワソワしている。

 

「ごめんなさい。待たせてしまいましたわね。」

「いや、今来たとこだよ。」

「ところで、今日の私の格好、どう思いますか?」

 

マックイーンにしては珍しいな。

普段は服装の話なんかしないのに。

 

「マックイーンの葦毛が良く映える綺麗な色だな。良く似合ってる。」

 

彼女が見えてから、ずっと考えてたことを言う。

女性の服装の褒め方なんて全く知らないが、彼女はほんのり頬を染め、嬉しそうに尻尾を振っている。

 

「ありがとうごさいます!…ほら、ゴールドシップさんも!」

 

なるほど。

先んじて実践して、ゴルシへのアシストをしてるのか。

おまけに、自分のアピールも出来ると。

 

…それにしても、マックイーンが、孫を見守るおばあちゃんみたいな、慈愛に満ちた顔になってるのが、すごく気になる。

 

「…あー…その…なんだ?…アタシの格好…どう…?変じゃない…?」

 

率直に言って、とても可愛らしいと思った。

モデル体型の彼女に『可愛い』というのは似合わないと思ったが、いつもの傍若無人っぷりが鳴りを潜め、恋する乙女のような挙動に、不覚にもドキッとしてしまった。

 

「…あぁ、変じゃない。可愛いよ。」

 

見惚れてて、良い台詞が思いつかなかった。

 

「…えへへ。なんか照れるな。ありがと、トレーナー。」

 

ツイッと視線を逸らしながら、彼女は微笑む。

 

こいつ、こんなキャラだったか?

めっちゃ可愛いんだが。

ゴルシの後ろで、マックイーンは限界オタク(アグネスデジタル)みたいな顔になってる。

多分、俺も今似た顔してる。

 

「さて!では映画館まで参りましょう!」

 

マックイーンが声を張る。

そのまま、こっちに近づいて来て、俺の右腕に抱き付いてきた。

いつもは手を握ってくるのに、今日はやけに積極的だな。

…妬いてるのかな。

 

一方のゴルシは、目を合わせないように近づいて来て、左手を握ってきた。

少し震えているのが伝わってくる。

 

ギュッと握り返してやると、ちょっと驚いた顔をしてこっちを見た。

その後すぐニヤッと笑って、俺と同じくらいの強さで握り返してきた。

 

「じゃあ、行くか。」

「銀幕の彼方へ出発しんこー!」

 

震えも止まってきたようだ。

 

 

 


 

 

 

観る映画は話題のホラー映画だ。

ビックリ要素少なめで、ジットリとした怖さで評判らしい。

 

ちなみに、三人並んで座って、映画を観ている。

もちろん、俺が真ん中だ。右はマックイーンで、左がゴルシだ。

ここまでと同様に手を繋いだまま、映画を観ることになった。

…ポップコーンを食べることすら出来ないんだが。

 

話が進むにつれ、両腕にかかる負担が増す。

 

右腕は、二の腕がマックイーンの両腕でガッチリホールドされており、手が太ももに挟まれている。

時々、ギュッと抱きしめられ、彼女の体の方へと引き寄せられる。このままだと、手が触れてはいけないところまで引き込まれるのも時間の問題だろう。

 

左腕は、前腕がゴルシの胸の間にすっぽりと収まっている。

怖がる素振りも見せない癖に、両手でしっかりと抱きしめられていて、豊かな双丘の感触を嫌というほど味わう。

 

結局、映画の内容はほとんど頭に入らなかった。

 

 

 


 

 

 

「このままトレーナーさんのおうちに参りませんか?」

 

顔を見れば分かる。目がギラギラ光ってる。こいつ"うまぴょい"する気だ。

 

アイコンタクトで断る。今日はそういう気分じゃないんで。

 

この世の終わりのような顔をされるが、演技なのは分かっているので無視する。

 

「…で、行くのか?行かないのか?」

 

無言の攻防を見ていたゴルシが言う。

 

「行こうか。そんなに遠くないしな。」

 

 

 


 

 

 

「ただいまー。」

「お邪魔致しますわ。」

「…邪魔するぜ。」

 

閉じられていた家の中は外以上に蒸し熱く、まるでサウナのようだ。

そんな部屋で過ごす趣味はないので、手早く空調のリモコンを触る。

 

「お茶を入れて来ましたわ。」

 

マックイーンが冷蔵庫からお茶を出してきた。グラスにはご丁寧に氷まで入っている。

 

「ん、ありがと。」

 

有り難くいただき、喉を鳴らして飲む。

 

「…普通に他人の家の冷蔵庫開けて、二人ともそれを疑問にも思わないんだな。」

 

頻繁に来るからな。いつの間にか私物もかなり持ち込まれてるし。

 

「マックイーン、ゴルシと一緒に座っててくれ。飲み物持ってそっち行くわ。」

「分かりましたわ。」

「あいよー。」

 

キッチンへ向かい、冷蔵庫から人参ベースの野菜ジュースのパックを取る。

少し悩んで、缶チューハイを手に取り、リビングへ向かう。

 

「あら、こんな時間から飲み始めるのですか?」

「たまにはいいじゃん。」

 

マックイーンが怪訝な顔をする。

絶対もう一度マックイーンが仕掛けてくるはずだから、酒の力を借りたいだけだ。

 

「そもそもトレーナーが酒飲むって初めて知ったわ。普段はアルコールの匂いすらしねーじゃん。」

「普段は明日仕事の日は飲まないからな。」

 

ゴルシに野菜ジュースを渡しながら答える。

 

 

 

「さて、と、ゴルシ、昨日の話なんだが。」

 

ゴルシが自分のグラスとマックイーンのグラスに、ジュースを注ぎ終えるのを見てから切り出す。

 

さっきまで、無表情だったゴルシが、一気に緊張した表情に変わる。

 

マックイーンをチラッと見ると、彼女は微笑んで、頷いた。

 

「これからは三人で仲良くやっていこう。改めて、よろしく頼む。」

 

結局、断る理由を探して、終に見つけられなかったな。そう思いながら、ゴルシに告げる。

 

「…いいのか?」

 

涙を浮かべながら、ゴルシが返す。

 

「ええ。私達二人で決めましたもの。」

「…アタシ、ホントは楽しい子じゃないし、理屈っぽくて、落ち込みやすいし、やきもちやきだよ?」

「そんなことで私達は幻滅しませんわ。」

「お前こそ、こんな倫理観崩壊男でいいのかよ。」

 

自分で言うのもなんだが、未成年の教え子に手を出してる教員とか大問題だろ。

両家公認で学園が黙認してるから波風立たないだけで。

 

「…アンタがいい。アンタとマックイーンだからいい。」

「なら、答えは決まったのではなくて?」

「……不束者ですが、よろしくお願いします。」

 

 

 


 

 

 

「では、シャワーをお借りしますわ。」

 

と言って、マックイーンは浴室へ向かう。

 

…この後、仕掛けてくるんだろうな。

躱す方法を考えておこう。

 

「なぁ、ゴルシ、一つ聞いてもいいか?」

 

チューハイを開けながら言う。

 

「ん?何だ?」

 

背中から抱き付いているゴルシがこちらを見る。

憑き物が落ちたような顔で、いつもより幼く見える。

 

「なんで、愛人なんだ?重婚でも良いんじゃないか?」

 

ゴルシが苦笑する。

 

「メジロ家に婿入りするやつが重婚とか外聞悪いんじゃないか?」

「愛妾抱えてるのと大差ないと思うが…それと、婿入りは確定なんだな…」

「それに、第二夫人って言うより、愛人って言った方がマックイーンには受け入れられ易いかなって。」

 

ゴルシの目に自己嫌悪の色が浮かんで、消える。

 

「俺はそんな色々考えて行動するお前も好きだよ。」

 

キョトンとした後、声を上げて笑う。

 

「アタシは嫌いだけどな。ま、アンタが好きって言うなら、好きになってみてもいいかな。」

 

そんなことを言いながら、前側に回って、膝立ちの格好で、俺の膝の上に頭を載せてくる。

これじゃ愛人と言うより、でっかい娘とか猫みたいだな。

 

ゴルシの耳がピョコピョコと、尻尾がパタパタと揺れている。

 

思わず、頭を撫でた。

 

「えへへ。」

 

今日一番の無邪気な笑顔だ。

 

 

 


 

 

 

「ただいま戻りましたわ…って、どういう状況ですの…?」

「…ゴルシにめっちゃ甘えられてる。」

「マックイーンもして貰ったらどうだ?めちゃくちゃリラックス出来るぜ。」

 

今、俺はゴルシと椅子の上で向かい合って抱きしめられている。

顔は近いし胸は当たってるしで色々とヤバい。

 

「…トレーナーさんもシャワーを浴びてきたら、いかがですか?」

「あー、トレーナー汗臭いしな。」

「ピッタリ引っ付いてるお前が言うか?」

「わりぃわりぃ。」

 

ニコッとゴルシが笑い、膝の上から降りる。

 

「じゃ、サッと汗流して来なよ。ベタベタのままだと気持ち悪いだろ?」

「あぁ、行ってくるわ。覗くなよ?」

 

マックイーンにはしっかり釘を刺しておく。

 

「私をなんだと思ってますの!」

「一回お風呂まで入って来たじゃん。」

「くっ…あれは魔が差しただけです!」

「魔が差してやっちゃうなら、常習化しそうだし、牽制しておくでしょ。」

「ぐぬぬ…」

「…マックイーンって意外と大胆なんだな。」

 

 

 


 

 

 

シャワーで汗を流し、サッパリしてリビングへ向かう。

脱衣所から脱いだ服が忽然と消えていたのは、考えないことにする。

 

「戻ったよ。」

「おかえりなさい。」

「…おかえり。」

 

二人とも頬が紅い。それに、二人が後ろ手に俺の服を持っているのが見える。

 

何をしてたか聞くのは野暮だろう。触らぬ神に祟りなし、だ。

 

「じゃあ、アタシもシャワー浴びてくるわ。」

 

居心地悪そうだったゴルシがそそくさと逃げだす。

 

「行ってらっしゃい。」

「行ってらっしゃいませ。」

 

 

 

「トレーナーさん、今日のこれからの予定を聞いてもよろしいでしょうか?」

 

スッと距離を詰められる。

 

「…今日はお前らを寮まで送ったら寝る。」

「あら、私達との"お楽しみ"の時間が抜けているのでは?」

 

マックイーンの紫水晶のような瞳が妖しく光る。チロッと舌を出すのも狙ってやってるんだろうな。

 

「明日も授業とトレーニングがあるだろ。一応、俺だってトレーナーだぞ。」

「トレーナーなら私達の体調管理の一環として、してくれませんか?」

「体調管理の一環として、早く寝ろって言ってるんだが。」

「…こうなったら、実力行使です!大人しく服を脱ぎなさい!」

「…舌戦弱すぎない?」

 

マックイーンに押し倒される。かなり手加減されていて、本気で襲うつもりではないらしい。

 

「サッパリしてきたぜ…って、また襲われてるのか…?」

「ゴールドシップさん!先程の作戦通り、トレーナーさんを脱がしてください!」

 

押さえ込む力がグッと強くなる。

さっき二人でどんな話をしてたんだ。

 

「あー、マックイーン、それなんだけど、やっぱこういうのはキチンと段階を踏むべきだと思うんだ。」

「…え?」

 

マックイーンの力が緩む。

 

「まだトレーナーとキスもしたことねーのに、そういうことするのは違うと思うんだよな。」

 

「…」

 

「…」

 

「…二人ともどうした?」

 

「かーっ!」

 

「…ゴルシってそんな乙女なキャラだったか?」

 

「アタシだって今は恋する乙女なんだぜ?それに、アンタら二人の前では素のゴルシちゃんでいられるし。」

 

「最初のデートから既成事実を作りにいった私は一体なんなんですの!?」

 

「アレは未遂に終わったし、そこから健全なお付き合いになったじゃん。」

 

頭を抱えているマックイーンを押し返して、座り直す。

 

「…マックイーン…トレーナーも色々苦労してるんだな…」

「最近は落ち着いてきたけど、付き合いたての頃は掛かり気味だったな。」

「私にとって、初めての恋人ですもの…失敗ばかりしてきましたわ…」

 

マックイーンがうなだれる。

 

「色々あったけど、まぁ、全部いい思い出だよ。」

「そうだと良いのですが…」

「……あー、惚気話も聞きたいんだけど、そろそろ帰らないとまずいんじゃないか?」

 

ゴルシが窓の外を指しながら言う。外は真っ赤な夕焼けだ。

 

「…そうですわね。名残惜しいですが、本日はこれでお暇致しましょう。」

「そんじゃ帰るわ。明日からもよろしく頼むぜ。」

「ああ、よろしく頼む。それと、寮まで送って行くよ。」

「そういう律儀なとこも好きだけどさ、今日はもう走って行かないとヤバそうだから遠慮するわ。」

 

申し訳なさそうな顔でゴルシが言う。

 

「あー、じゃあ玄関までかな。」

 

 

 

「じゃーな!」

 

ニカッとゴルシが笑って、走り出す。

 

「では、また明日。」

 

優雅に一礼して、マックイーンがゴルシに続く。

 

「あぁ、また明日。」

 

明日も笑顔の二人に逢えますように。

そう願った。

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