ゴールドシップの理想の三角関係   作:カランコエ(Kalanchoe)

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ゴルシと臨む宝塚記念

この作品を含めて3話で畳む予定です
放置しすぎだし、モチベーションの問題もあるし、かと言ってエタる気もないから畳んでおきたい


追込ためらい

「え?」

 

第一声はそれだった。

 

オイオイオイ、マックイーンのトレーナー室で鏡の前で立ってポーズを決めている長い葦毛のウマ娘はアタシ以外にあり得ないだろ?

何驚いてんだよ。

 

「マックイーンな訳ないし、ゴルシだな?」

「おうよ!(いと)しのマックちゃんはまだ車椅子だろ?」

 

秋の天皇賞で勝利と引き換えに脚をぶっ壊したマックイーンは、トレーナーからもメジロ家からも『絶対安静』と何度も言われ続けて(今は一応杖無しで歩けるくらいには回復しているにも関わらず)車椅子での生活を余儀なくされている。

 

「じゃあ、その勝負服はなんだ?マックイーンのじゃないだろ?」

 

今アタシが袖を通している黒を基調として、各所にメジロ家伝統の新緑色とフリルを(あしら)った……端的に言えばマックイーンの勝負服そっくりの勝負服を指しながら、困り顔のトレーナーは言う。

 

「あたぼうよ!マックちゃんのサイズだとアタシには着れないだろ?」

 

どことはあえて言わないがマックイーンサイズの服なんて入りやしない。

それに他人の想いが、覚悟が、勝利が詰まった勝負服を借りてきてそのまま着るほどアタシはバカじゃない。

 

「マックイーンの勝負服を真似て作ったんだぜ!マックちゃんくらい似合ってるだろ?」

「ああ、よく似合ってる。」

 

トレーナー室にある鏡に映るアタシは、いつもはまとめてる葦毛を下ろしており、帽子も着けていない。右耳にはメジロカラーのリボンが付いており、さながら諸々デッカくなったマックイーンだ。

 

「で、なんでマックイーンそっくりの勝負服なんか着てるんだ?」

「……春天、勝てなかったから。」

 

もう二ヶ月近く前になった敗北を思い出す。

 

「阪神大賞典は快勝。マックちゃんもライスも居ない春天だ。最悪勝てなくても三着以内は堅いとうぬぼれてた。結果は、知っての通り、ギリギリ入着。」

 

フッと自嘲気味に息を吐く。

 

「だから、次こそは気合入れ直してアンタもマックイーンも観客も面白がってくれるレースにしてやる。そのためのこれよ。」

 

マックイーンっぽく優雅に一回転し、柔らかい笑みを(たた)えたトレーナーに向き直って一礼する。

 

「ゴルシ家のウマ娘として必ずや勝って参りますわ。」

「ああ、全力でサポートする。」

 

ボケてんだからツッコんでくれてもいいのにと思いながらも、ツッコミも入れずにアタシの応援をするのは生真面目なトレーナーらしくて、どうしても頬が緩む。

 

「それでこそアタシの相棒!ヤドカリとイソギンチャク!タケウマ・フレンド!だよな!」

 

照れ隠しに放ったアタシの適当な誉め言葉に、トレーナーは穏やかに微笑むだけだった。

 

 

 


 

 

 

『注目の二番人気、ゴールド……えっ?』

『メジロ…マックイーン…?いや、ゴールドシップ…?ですよね…?』

 

実況の困惑声が会場に響いている。

観客もザワついている。

 

狙い通り、と心の中でほくそ笑みながら、内心はおくびにも出さず、マックイーン仕込みの所作で優雅にパドックへと入る。

 

わざわざマックイーンそっくりの勝負服なんて用意したんだ。

観客全員の度肝、ぶち抜いてやるぜ。

 

 

 

『今スタートしました。』

 

『ーー四番手ゴールドシップ?!』

 

実況の驚き声が聞こえる。

周囲のウマ娘も若干ながら動揺してるのかチラチラとした視線を感じる。

 

してやったりと思いながら、第一コーナーを回る。

 

元々スタートダッシュは得意だ。

いつもは気分が乗らないから先行争いなんてやらないが、今日のアタシは『メジロマックイーン』だ。

前目に着けて最後の直線で押しきる。

いつもやってること(ロングスパート)を前の方で仕掛けるだけだ。

 

第三コーナーに差し掛かって、依然としてアタシは四番手。

大外を回らされていてどうしてもコースが膨らんでしまうが、アタシとしてはこっちの方がやりやすい。

 

『第四コーナーカーブ。』

「おっしゃ行くぜ行くぜ行くぜェ!!」

『ここで仕掛けてきた!ゴールドシップ!』

 

 

 


 

 

 

『ゴールドシップ!一着でゴール!!』

 

気付いた時にはゴール板の上だった。

二着との差は三バ身半の圧勝。

 

額ににじむ汗を手の甲で(ぬぐ)いながら、ターフまで出迎えに来てるはずのトレーナーを探す。

 

 

 

他のウマ娘に目もくれないことに、またマックちゃんからは『他のウマ娘に対する敬意がない』とかお小言をもらうかもしれない。

だが、アタシにとって大事なのは『レースを競うライバル』なんかより『アタシの走りに期待しているファン』の方だ。

荒れたコースの内側からブチ抜くのも、掟破りのロングスパートも、今回の先行策だってそうだ。

 

そして当然、その『ファン』という(くく)りの中にはトレーナーとマックイーンも含まれてる。

 

誰かが面白がってくれるからアタシは走るんだ。

喜んでくれるからアタシは走るんだ。

もちろんアタシが勝てばトレーナーやマックイーンが喜んでくれるから、アタシは勝つために走るんだ。

 

 

 

ほどなくしてワイシャツ姿のよく知る男性が視界に入り、ニヤッと笑いかけ、いつも通りドロップキックでも決めてやろうと思い……思いとどまる。

 

今のアタシは『メジロマックイーン』であって『ゴールドシップ』じゃない。

 

マックイーンはドロップキックなんかするか?

 

ハグくらいならするかもしれないが、菊花賞の時にそれをやったら、思いのほか反響があってトレーナーが対応に忙殺されていたことは未だに申し訳なく思ってる。

 

ほんの一瞬だけ逡巡(しゅんじゅん)したアタシは、結局『マックイーン』らしく優雅に一礼することにした。

面白味には欠けるかもしれないが『礼儀正しいゴールドシップ』は新鮮味があっていいだろう。

 

「勝って参りましたわ。トレーナーさん。」

「ああ、最高の走りだった。」

「ありがとうございます。ですが、この勝利は次なる目標へ向かうための通過点。より華麗に、より優雅に、より完璧に……高みへと登り詰めましょう。」

 

そこまで一息に、真面目な時のマックイーンっぽい硬い口調を真似て言い切る。

 

ここからが本題だ。

……ある意味、この勝負服もそのために用意したようなもんだ。

 

フッと息を入れ、顔を柔らかく崩すと、どういう顔をすればいいのか悩んでいたトレーナーの顔も優しく崩れる。

 

「時に、トレーナーさん。」

「なんだい?」

「せっかくのGⅠ勝利ですし、ご褒美をいただきたいのですが。」

「ご褒美?」

 

トレーナーは頭の上に?マークでも浮かべていそうな、不思議そうな顔になる。

アタシもマックイーンも『勝ったからご褒美』なんて言うキャラじゃないからな。

 

「いいよ。俺にできる範囲なら。」

 

そして、この男はなんのためらいも無くそう言うヤツだ。

 

それにつけこむようなマネをする自分が相変わらず大嫌いだ。

 

「ありがとうございます。続きはウイニングライブの後で。」

 

自己嫌悪の色を隠すために、とっさに頭を下げる。

 

そのまま顔を見られないように、その場を後にした。

 

 

 


 

 

 

「それでご褒美は何が欲しいんだ?」

 

優しい声が控え室に響く。

それに対するアタシの答えは決まってる。

 

(わたくし)を抱いてくださいまし。」

「……ゴルシ、君も俺の恋人なんだ。ご褒美だなんて言わなくても……」

 

優しいアンタならそう言うと思ってた。

だけどな?

 

「いや、アンタはメジロ家に婿入りしたんだ。例えマックイーン公認だからって、アタシとホテルなんか入れねえ訳よ。」

「それはそうだが……」

「筋書きはこうよ。アタシはGⅠ勝利のご褒美として肉体関係を(せま)り、アンタは断ろうとしたが種族差による力関係から断りきれなかった。」

「……ゴルシ。」

 

そんな悲しそうな顔しないでくれ、トレーナー。

アタシまで泣きたくなるじゃねえか。

 

アタシが泣く訳にはいかないから、あくまで冷静に。

淡々と言葉を(つむ)ぐ。

 

「トレーナー、アンタは時々アタシをマックイーンと同じように扱おうとするけど、金輪際(こんりんざい)そんなことはしないでくれ。」

 

悲しそうな顔のまま口を開こうとするトレーナーの機先を制する。

 

「アタシは二番がいいんだ。大好きなアンタと大好きなマックイーンから、少しだけ幸せのおこぼれが欲しいだけなんだよ。」

 

これだけは告白した時から変わってない想いだ。

 

マックイーンもトレーナーも優しいから、アタシのために色々と気を回してくれるけど、結局は全てアタシが告白したせいで招いたことだ。

アタシの横恋慕のせいで二人に迷惑はかけられない。

 

「……すまないな、ゴルシ。」

「謝らないでくれ、トレーナー。」

 

ああ、どうしてこうなったんだろうな。

 

「ほら、笑ってくださいまし?そんな悲しげな顔だと(わたくし)と月へ旅行に行けませんわよ?」

 

アタシはただ、好きな人たちとずっと一緒に居たいって思ってただけなのに。

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