「あなた」だけが知っているウマ娘:「あなた」が主役の物語 作:ぴちかー党
観客たちの心ない罵声に、思わずあなたは・・・そんなお話
1992年11月8日京都競馬場
ある歴史的偉業を目撃しようと既に場内は競馬ファンで溢れていた。 この日は、朝日杯を制した2歳王者であるミホノブルボンが無敗での三冠達成に挑戦する、第53回菊花賞の開催日であった。
あなたは、歴史的偉業に立ち会うため。有象無象の観客の一人として、一番人気ウマ娘の馬券を握りしめ今か今かとレース開始を待ち望む。けたたましいラッパのファンファーレが鳴り響き各ウマ娘が続々とゲートインを果たす。
そして最後のウマ娘がゲートインを終え、ウマ娘達が今や遅しとゲートが開くのを待ち構える。スタート合図と共にゲートが開き各ウマ娘が出走する。
先頭はミホノブルボン。やはり単勝オッズ1.1。最人気ウマ娘は伊達ではない。
沢山の観客とあなたの声援に答えるように、順調に他のウマ娘を寄せ付けない圧倒的走りで2番手のライスシャワー、3番手のマチカネタンホイザを5馬身以上引き離す。
レースに動きがあったのは残り600m
先頭から5馬身以上あった2番手の3番手が執念の追い上げを見せその距離を4馬身、3馬身と徐々に縮めていく。
あなたを含む観客たちすべてが声もなく見守るなか、終盤残り200m
5馬身以上あった先頭から2、3番手がまでの距離は最早1馬身もない。そして、残り150m
3人のウマ娘は、ほぼ横一線に並走する。中央にはほんのわずかながら先頭を行くミホノブルボン。そしてそれを挟むように、内側からマチカネタンホイザ。外からライスシャワーが追いすがる。
残り100m
遂にライスシャワーが先頭におどりでる。
観客席からは「嘘だろ」とか「まて、やめろ」など悲鳴にも似た観客の声が聞こえてくる。そんなか、あなたは不思議とその光景を悔しさよりも感動を持って眺めている。こんなレースならあなたの購入した馬券が紙屑になっても不思議と悪い気持ちはしない。
そんなことを思わせるほどに、白熱したレースであった。
残り50mライスシャワーが2番、3番てのウマ娘を半馬身以上突き放しそのまま1着でゴールイン。2着にはミホノブルボン、3着マチカネタンホイザと続く。
ミホノブルボン、タンホイザがライスシャワーに称賛を送る。それをいかにも、こそばゆいといった感じに受けとり、そして応援してくれた観客にお礼をするため
観客席に近づくライスシャワー。
その顔には達成感、幸福感、満足感。あなたが生涯で感じるであろう全ての幸せが今やってきたかのように晴れ晴れとしていた。
このときまでは・・・・
観客席から醸し出される冷ややかな視線、ミホノブルボンの歴史的偉業達成を逃した虚無感。そこに購入した馬券が紙屑に変わった不満。それらすべてが罵声となって純粋無垢なライスシャワーに襲いかかってきたのだ。
「金返せ!」
「何でブルボンが2着なんだよ」
「空気読めよな」
おそらくあなたがここで紹介できる罵声はこの程度。中には観客の一人でしかないあなたでも(それは言い過ぎだろ)と思わず呟いてしまうような罵詈雑言も彼女に浴びせられていた。
はじめのうちは、その罵詈雑言にあきれ返り何も言えないあなたであった。
しかし、その罵詈雑言を見開いた瞳一杯に涙を浮かべ黙って立ち尽くし聞いている本日のヒーローを思うと不憫で、いたたまれなくなったあなた。
そして次第に、自己中心的な罵詈雑言を浴びせる観客に腹が立ち、あなたは渾身の力で、あなた自身が思い返しても吃驚するほどの大声で腹の底から叫んだ
「1着おめでとう!!ライスシャワー。次の天皇賞も頼んだぞ~!!」
あなたのその声がライスシャワーに届いたのだろうか?それはわからない。しかし、ライスシャワーの視線はあなたを見つめているように感じられ、深く一礼したその相手はあなたに向けて行われた。そう感じられたようなきがした。
勿論真実はライスシャワーにしかわからない。
長編小説には不向きですが、短編小説には相性抜群。それが二人称視点の小説らしいです。
「あなた」と書かれると読んでいる読者に一瞬(もしかして自分のことかな?)と思わせ、違うとわかっていても読者が主人公のように登場人物と触れ合える素敵な表現方法とのことです。
このような感じに、色々なあなた視点の物語を書いていく予定です
リクエスト等ございましたら感想欄にお願い致します
*レースの馬身やレースオッズは適当です。色々調べましたが調査資料でここら辺に乱れがあったことと、物語を面白くするため敢えて嘘っぱちのデータをのせております。ご了承ください
実際のレースではレース後半くらいまで他ウマ娘(名称不明)に抑えられ先頭には出られなかったそうです。