もしも炭治郎の下に義勇と実弥が来ていたら 作:レイファルクス
「鋼錢塚さん!怪我の方は大丈夫ですか?」
緊急柱合会議が開かれた翌日、炭治郎の下に鋼錢塚が訪れた。鋼錢塚は息を荒くしており、何やら興奮しているようだった。
鋼錢塚は無言で炭治郎に刀を差し出す。炭治郎はその刀を受け取った。
「あれ?これは…、煉獄さんの鍔?」
炭治郎の新しい刀には、何故か杏寿郎の鍔が着けられていた。鋼錢塚は刀を鞘から引き抜くジェスチャーをし、炭治郎は刀を鞘から引き抜いた。
「はぁ……」
炭治郎は刀の色に目を奪われた。
「鉄の質がいいし、前の持ち主が相当強い剣士だったんだろう」
鋼錢塚は後藤が座っていた椅子を借りて、そこに腰を落ち着けた。
「"滅"の文字…」
「これを打った刀鍛冶が全ての鬼を滅するために作った刀だ。作者名も何も刻まず、ただこの文字だけを刻んだ」
「この刀の後から鬼殺隊では"階級制度"が導入され、柱のみが"悪鬼滅殺"の文字を刻むようになったそうだ」
炭治郎は刀に文字を刻む由来を聞き、感心していた。
「あれ?でも前使った時にはこの文字は無かったような…?」
炭治郎は刀に刻まれた文字が以前使用した時には無かったことを思い出し、鋼錢塚に質問する。
「だからそれは第一段階までしか研ぎ終えてないのに、お前らが持ってって使ったからだろうが。錆が落としきれてなかったんだよ!研ぎの途中で邪魔されまくったせいで、最初から研ぎ直しになったんだからな!」
鋼錢塚は怒った口調で炭治郎を責めた。
「いいか炭治郎、お前は今後死ぬまで俺にみたらし団子を持ってくるんだ。わかったな?」
鋼錢塚は好物のみたらし団子を炭治郎に持ってこさせる約束をさせ、炭治郎の下を去った。
その直後、伊之助が窓を突き破って入室してきた。しかもやたら興奮気味に。
「強化強化強化!!合同強化訓練が始まるぞ!!強い奴らが集まって稽古つけて…、何たらかんたら言ってたぜ」
伊之助は興奮している理由を言うが、炭治郎は何のことだかさっぱり分からず、伊之助に質問をするが、伊之助は『わっかんねぇ!!』と胸を張って威張った感じで答えた。
「あらあら~、伊之助君、あなたは一体何をしているんですか?」
そこに騒ぎを聞きつけたしのぶがやって来た。しのぶの顔は笑っているのに、出しているオーラは怒りそのものだったため、伊之助は即座にその場で正座をした。
「伊之助君、あなたは物分かりがいい子なので、自分が何をやったのか、分かりますよね?」
「ハイ、ゴメンナサイ…」
その様子はまるで『悪戯がバレた子供を叱る母親』のようだった。
…
……
………
その名の通り、柱が自分以下の階級の者に稽古をつけるもの。
基本的に柱は自分の継子以外には稽古はつけない。その理由は単純明快、"忙しい"。これに尽きる。
柱の仕事は広大な警戒区域の巡回に加え、鬼の情報収集や自身の更なる剣技向上の為の訓練など、やることが多いからだ。
しかし禰豆子が太陽を克服して以来、鬼の出没がピタリと止んでしまった。だが、それを好機と見た柱たちはこれを機に来る最終決戦に向けて少しでも隊士の質を上げようと、この稽古を計画した。
「……らしいよ」
善逸が炭治郎に柱稽古の概要を伝えた。炭治郎は興奮するが、努力が嫌いな善逸は嫌々だった。
「自分よりも格上の人と手合わせしてもらえるって上達の近道なんだぞ?自分よりも強い人と対峙するとそれをグングン吸収して強くなれるんだから」
炭治郎は善逸に向けて熱弁する。
「そんな前向きなこと言うんであれば、俺とお前の仲も今日これまでだな!!お前はいいだろうよまだ骨折治ってねぇから、ぬくぬくぬくぬく寝とけばいいんだからよ!!俺はもう今から行かなきゃいけねぇんだぞ、わかるかこの気持ち!!」
善逸は炭治郎の頭に噛みつきながら炭治郎を批判した。そして泣きながら柱稽古に向かおうとする。
「あっ、善逸。上弦の肆との戦いで片足が殆んど使えなくなった時、前に善逸が教えてくれた雷の呼吸のコツを使って鬼の頚が斬れたんだ。勿論善逸みたいな速さはできなかったけど、本当にありがとう」
炭治郎は善逸を呼び止め、刀鍛冶の里の時のことでお礼を言った。
「こんなふうに人と人との繋がりが窮地を救ってくれることもあるけら、柱稽古で学んだことは全部きっと、良い未来に繋がっていくと思うよ」
炭治郎は笑顔で善逸に言った。
「馬鹿野郎お前っ…、そんなことで俺の機嫌が直ると思うなよ!!」
善逸は照れ臭そうに笑っていた。その顔を見た炭治郎は「すごいご機嫌だな」と思っていた。
「カアアアアッ」
丁度そこに炭治郎の鴉である松右衛門が炭治郎の額に突撃した。
「炭治郎、オ館様カラノ手紙ダ!至急読ムノダ!」
松右衛門は耀哉の手紙を炭治郎に差し出し、炭治郎はその場で手紙を読んだ。
…
……
………
ここは冨岡義勇が住む"水屋敷"。その道場に義勇は一人、座っていた。
「ごめんください!炭治郎です!義勇師範いらっしゃいますか?」
そこに炭治郎が訪れ、義勇は立ち上がり、門前まで移動した。
「炭治郎、どうした?何か急ぎの用か?」
義勇は門前で炭治郎を出迎え、中に通した。
「はい!ちょっと義勇師範とお話がしたくて」
「話?それだけでしのぶが今のお前に外出許可を出すのか?」
炭治郎は今、足の骨折がまだ治っておらず、松葉杖を使って歩いている状態だったのだ。
「その件はしのぶさんにお館様からの手紙を見せた所、『是非お願いします』って言われちゃいました」
「(しのぶの奴…、一体何をお願いしたんだ?)」
しのぶのお願いに疑問を持つ義勇であった。
…
……
………
「茶だ。それとそこの煎餅は好きに食って構わない」
炭治郎を居間に通した義勇は炭治郎をちゃぶ台の前に座らせ、お茶を振る舞った。
「ありがとうございます。それで義勇師範、柱稽古のことなんですが…」
「そのことは既に聞いている」
炭治郎は柱稽古のことを話し、義勇は聞いていると答えた。
「でしたら話は早いです。義勇師範、稽古をつけてもらってもいいですか?」
「悪いが、俺は柱稽古には参加しない。よって稽古もつけない」
炭治郎は稽古をつけてもらうようお願いしたが、断られてしまった。
「何故ですか?」
「俺は柱の階級を貰ってはいるが、柱には相応しく無いと思っている」
義勇の答えは意外なものだった。
「俺は実際には最終選別を突破してはいない。俺が最終選別を受けた日、俺の兄弟子である錆兎と一緒に受けたが、俺は鬼の攻撃を受けて気絶してしまったんだ。そして気が付いた時には最終選別は終わっていた。死んだのは錆兎一人だけだった」
「錆兎は他の人を助けながら藤襲山にいた鬼の殆んどを倒した。しかし、お前も会った手鬼に殺された」
「錆兎が戦っている間、俺は鬼が来ない所にいた。鬼を一体も倒してはいない。そんな奴が鬼殺隊に、ましてや柱であること自体が烏滸がましい」
義勇は自分の過去を炭治郎に話した。
「だから俺は柱と言われても違うと言う。鬼を一体も倒していない者が稽古をつけることはしない。この話は終いだ。蝶屋敷まで送ろう。立てるか?」
義勇は立ち上がり、炭治郎に手を差し伸べる。しかし炭治郎はその手を掴むことはしなかった。
「義勇師範、師範は錆兎さんから託された"想い"を、受け継いではいかないんですか?」
炭治郎のその言葉を聞いた瞬間、義勇は昔のことを思い出した。
…
……
………
『さ…、錆兎…』
『自分が死ねば良かったなんて、二度と言うなよ。もし言ったらお前とはそれまでだ。友達を止める。翌日に祝言を挙げるはずだったお前の姉も、そんなことは承知の上で鬼からお前を隠して守ったんだ。他の誰でもないお前が…、お前の姉を冒涜するな!』
『お前は絶対死ぬんじゃない。お前の姉がその命をかけて繋いでくれた命を、託された未来を、お前も繋ぐんだ。義勇』
………
……
…
義勇は鍛練の時に錆兎に叩かれた頬に手を触れていた。
「(痛い…。何で忘れていたんだ?こんな大事なことを…)」
義勇は錆兎のこと、姉のことを思い出していた。
「(そうだ。思い出したら、止まってしまうからだ。涙で前が見えなくなって、止まってしまうからだ。
義勇はその場で目を瞑り、頭を下げていた。その様子を炭治郎はただ黙って見ていた。
すると義勇は頭を上げて
「炭治郎、ありがとう。おかげで忘れていた想いを、未来を思い出した。礼を言う」
義勇は炭治郎に向かって頭を下げた。
「炭治郎、俺も柱稽古に加わろう。いいか?」
義勇は改めて炭治郎に手を伸ばす。
「はい!もちろんです!」
炭治郎は義勇の手をしっかりと掴んだ。
そして炭治郎は義勇の付き添いで蝶屋敷まで戻り、しのぶに義勇も柱稽古に参加することを伝えた。
…
……
………
「遅い遅い遅い遅い!!何してんのお前ら?意味わかんねぇんだけど!!」
「まず基礎体力が無さすぎるわ!!走るという単純なことがさ!!そんなに遅かったら上弦に勝つなんて夢のまた夢よ!?」
「ハイハイハイ、地面舐めなくていいから!!まだ休憩じゃねぇんだよ!!もう一本走れ!!
「オイコラ!!誰が"幼女好きの変態地味柱"だ!?」
(お前にはこれで十分だ)by作者
「後でぜってぇ殺してやる…」
気を取り直して
柱稽古はまず天元の基礎体力向上訓練から始まり、無一郎の高速移動稽古、蜜璃の地獄の柔軟、杏寿郎の模擬戦、小芭内の太刀筋矯正、実弥の無限打ち込み、行冥の筋力強化訓練と続く。
しのぶに関しては、自ら参加の辞退を申し出ていた。その理由は、後日語るとしよう。
…
……
………
ここは蝶屋敷。そこに住むしのぶは今、仏壇の前にいた。
「………」
「師範」
仏壇の前で手を合わせていたしのぶに、カナヲが声をかける。
「カナヲ、どうしたの?」
しのぶはカナヲの方に向き直る。
「これから風柱様の稽古を受けに行きますのでそのご挨拶に」
カナヲはしのぶに声をかけた理由を話した。
「そう…。こんなことしか言えないけど、気をつけてね」
しのぶはカナヲの側まで近づき、カナヲの頭を撫でた。
「師範、どうして稽古の参加を辞退されたのですか?」
カナヲは疑問に思っていたことをしのぶに聞いた。
「実はね……」
しのぶは参加を辞退した理由をカナヲに打ち明けた。
「し…、師範。そのことを知っているのは…」
「当人と柱の人を除けば、あなただけよ」
理由を聞いたカナヲは相当びっくりしていた。
「だからなの。ごめんなさいね?稽古をつけてあげられなくて」
しのぶはカナヲに謝るが、カナヲは首を横に降った。
「"そんな理由"だったら、仕方ないですよ。大丈夫です」
カナヲは笑顔をしのぶに向けた。
その後しのぶはカナヲを抱き締め、カナヲはしのぶにされるがままの状態が続いた。そして満足したしのぶはカナヲを解放し、カナヲは実弥の下へ向かった。
…
……
………
「お待たせ致しました。私、護衛並びに案内役を勤める鬼殺隊事後処理部隊"隠"の後藤と申します」
その夜、とある屋敷の前に、後藤他数名の隠の隊員が並んでいた。
「ご丁寧にありがとうございます。知ってるとは思いますが、私は珠世と申します。そしてこの子は愈史郎と零余子、猗窩座さんです。よろしくお願いします」
後藤たちの前にいたのは、珠世と愈史郎、零余子と猗窩座だった。
「皆様には、蝶屋敷へ丁重にお送りするようお館様より仰せ使っております。それと、護衛の隊員も信頼の置ける者ばかり。頚を斬ることは致しません」
後藤は珠世たちを何処へ連れていくのかを説明した。
「承知しました。皆さん、よろしくお願いします」
珠世は後藤たちに頭を下げ、愈史郎たちと一緒に蝶屋敷へと向かった。