もしも炭治郎の下に義勇と実弥が来ていたら   作:レイファルクス

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第21話

 

 

柱稽古 第七の試練

 

 

岩柱・悲鳴嶼行冥の筋力強化

 

 

「最も重要なのは体の中心…、足腰である。強靭な足腰で体を安定させることは"正確な攻撃"と"崩れぬ防御"へと繋がる…」

 

 

「まず滝に打たれる修行を一刻してもらい…、次に丸太三本を担ぐ修行…、最後にこの岩を一町先まで押して運ぶ修行をしてもらう…」

 

 

「私の修行はこの三つのみの簡単なもの…。下から火で炙るのは危険なため…無しとする」

 

 

行冥は修行の説明を淡々と話した。

 

 

「あの…、善逸が気絶してしまったのですが…」

 

 

丁度説明が終わったタイミングで炭治郎が善逸が気絶したことを伝えた。

 

 

「……川につけなさい」

 

 

行冥は炭治郎に善逸を川につけるよう言った。

 

 

炭治郎は善逸の上着を脱がし、善逸の足を掴んだ。と思った瞬間

 

 

「よいしょっ」

 

 

ドボ~ン

 

 

何と川に"放り投げた"のだった。

 

 

「うをぉぉいっ!?炭治郎何やってんだよ!行冥さんは川に"つけろ"とは言ったが"放り投げろ"とは言ってなかったぞ!?」

 

 

玄弥は炭治郎の行動に驚きを隠せず、思わずツッコミをいれていた。そして当の行冥も炭治郎の驚きの行動に言葉を失っていた。

 

 

「ギャアアアッ、つべてぇええええ!!」

 

 

川に放り投げられた善逸はその川の冷たさに驚き、一気に目が覚めた。

 

 

「真冬の川よりも冷たいんですけど!死ぬわ!!何この山の川の水、異常だよ死ぬわ!!吐きそう!うわー何か…内臓がヤバい!悲鳴上げてる、死ぬって言ってる!」

 

 

善逸は川から何とか上がるが、体の震えは止まらなかった。

 

 

ヒェッ、ヒャーッ!!だっ駄目だ、上がっても…手遅れ!凍死する!!

 

 

すると岩に引っ付いていた隊士の一人が

 

 

岩に…、くっつけ…。あったかいぞ…

 

 

善逸にアドバイスをした。その隊士とは、以前炭治郎たちが那田蜘蛛山での任務で出会った村田だった。

 

 

善逸は早速言われた通りに岩にくっつくと、その暖かさに涙を流した。

 

 

炭治郎も滝に打たれるために震えながら滝まで移動する。そして次々と滝から離れる隊士たちがいる中、伊之助だけは滝に打たれ続けていた。

 

 

「(伊之助、頑張っているんだな…。あれ?念仏が聞こえない)伊之助?いのっ…、ちょっ、ヤバいヤバい!!」

 

 

炭治郎は伊之助が心肺停止寸前、つまり死にかけていることに気づいた。

 

 

人間は心肺が停止すると、一分につき生存率が約10%ほど低下するのだ。

 

 

炭治郎は急いで川岸まで伊之助を運び、心肺蘇生法を施した。

 

 

その後息を吹き返した伊之助を休ませた炭治郎は、滝行を開始した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

昼となり、目の前の川から魚を捕った炭治郎は魚を捌いて串焼きにしてみんなに振る舞った。

 

 

「アイツ凄ぇよ玉ジャリジャリ男」

 

 

伊之助は魚を食べながら行冥のことを言った。

 

 

「岩柱の悲鳴嶼さんな、変なアダ名つけちゃ駄目だよ。それで何が凄いの?」

 

 

炭治郎は魚を焼いている焚き火に当たりながら伊之助に質問をする。

 

 

「初めて会った時からビビッと来たぜ、まず間違いねぇアイツ。鬼殺隊最強だ」

 

 

伊之助は魚の骨を食べながら断言していた。

 

 

「やっぱりかぁ、悲鳴嶼さんだけ匂いが全然違うもんな。もう痣が出てたりするのかな?」

 

 

「出ててもおかしくはねぇ」

 

 

伊之助は10匹目の魚を食べながら炭治郎の考えに同意していた。

 

 

「悲鳴嶼さんが最強なのは同意だ。何せあの人は今いる柱の中でも長く柱を勤めているんだからな」

 

 

そこに玄弥が二匹目の魚を食べながら言った。

 

 

「そうなの!?」

 

 

「あぁ、今の柱の人たちが入隊した時から既に悲鳴嶼さんは柱になってたって兄ちゃんから聞いたからさ」

 

 

どうやら情報元は実弥からのようだった。

 

 

「確かにあのオッサン、音が他の人よりも強いもんな。今だって俺たちよりも一回りか二回り大きい岩を押してるみたいだし…」

 

 

善逸が魚を食べながら言うと、ちょうど行冥が善逸が言った通りの岩を押しながら現れた。

 

 

「南無阿弥陀仏…、南無阿弥陀仏…」

 

 

しかも念仏を唱えながら。

 

 

「悲鳴嶼さん、凄いなぁ…。でも善逸、急にどうしたんだ?いつもなら『無理!!』とか『できない!!』とか汚い声で否定するのに…」

 

 

「いや俺だって否定したいよ?でも、いくら否定しても"音"が否定させてくれないんだよ。だったらもう開き直るしかないだろ?」

 

 

炭治郎の疑問に善逸はハイライトが無くなった目をしながら説明をした。その善逸の顔を見た炭治郎は苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

そして炭治郎は滝の修行、丸太の修行を終え、いよいよ岩を押す修行に挑んだ。

 

 

しかしいくら押しても岩はびくともせず、逆に足の方が下がってしまう始末だった。

 

 

行冥の稽古は過酷ではあるが、どれも強制では無く、やめたければいつでもやめて下山できるのだった。炭治郎が来てから、数人が修行に耐えられず下山していった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「俺分かったわ。今の柱の殆んどに継子がいない理由」

 

 

その日の夜、炭治郎が作ったおにぎりを食べていた村田が唐突に話した。

 

 

「訓練がキツかったり、柱との実力差に打ちのめされて心折れたり」

 

 

村田の話を聞いていた他の隊士たちが同意していた。

 

 

「でも継子はいますよね?俺と同期のカナヲだったり、俺だったり」

 

 

炭治郎の言葉に善逸と伊之助を除く全員が炭治郎の方を向いた。

 

 

「ああコイツ、水柱と風柱の継子なんですって」

 

 

炭治郎の代わりに善逸が答えると、伊之助を除く全員が驚いた。

 

 

「しかも俺と炭治郎とそこの伊之助の同期に、風柱の弟がいるんすよ」

 

 

善逸が行った玄弥のカミングアウトにまたもや全員が驚いた。

 

 

「そ…、それは凄ぇな…。それにしても、お前、米炊くの上手くね?」

 

 

「そうそう、昼に食った魚も旨かったし」

 

 

村田は現実逃避するかのように話を切り替えた。

 

 

「俺、昔から料理とか家で手伝っていたので。料理は火加減!」

 

 

炭治郎の力説に皆が納得した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから六日、炭治郎は未だに岩を押すことができなかった。炭治郎は仰向けになり、夜空を見上げた。

 

 

「(はぁ…、今日も押せなかった…。何がいけないんだろう…?単純に足腰の筋肉が足りないのかな…?それとも他の呼吸法があるのかな…?)」

 

 

炭治郎が考えに耽っていると、上から炭治郎の顔を覗く者がいた。

 

 

「炭治郎、お前額の痣濃くなってないか?」

 

 

「玄弥…」

 

 

その者とは玄弥だった。炭治郎は玄弥に指摘された額に触れるが、当人には実感は無かった。

 

 

「そりゃあ毎日鏡で見なけりゃ気づかねぇわな」

 

 

玄弥は炭治郎の横に座り、炭治郎が押そうとしていた岩を見上げた。

 

 

「炭治郎も岩の訓練してんだな。俺もしてるよ」

 

 

「でも全然動かなくて。玄弥は動かせるの?」

 

 

「ああ、動かせるぜ。でも、少しだけ…だけどな」

 

 

玄弥は恥ずかしそうに頬を掻いていた。

 

 

「凄いな…。……なぁ玄弥、岩を動かすための"コツ"とかは無いのか?」

 

 

炭治郎は玄弥に動かすためのコツを玄弥に聞いた。

 

 

「コツ…か?そうだな…、まあ足腰の筋肉も重要なんだが、一番は"反復動作"って奴だな」

 

 

「反復…動作…?」

 

 

反復動作

 

 

別名『プリショットルーティーン』。

 

 

ある一定の動作をすることでイメージをより強くするための動作である。

 

 

かの元メジャーリーガーのイチローが打席に立った時の"腕を大きく一回転させる動作"やラグビーの五郎丸選手がボールを蹴る前にしていた"手を印のように組む動作"がこれに当たる。

 

 

因みに玄弥の反復動作は"念仏を唱える"である。

 

 

「あっ、それって昼間悲鳴嶼さんが岩を押してる時に言ってた…」

 

 

「そうそう、南無南無言ってただろ?悲鳴嶼さんは時々そうやって"見本"を見せてくれるんだ。だから見て盗まないと分からないんだ」

 

 

炭治郎と玄弥が楽しく談笑しているのを木の影から行冥が盗み見していた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その頃、一人の鬼殺隊員の後ろを"肆"の文字が刻まれている"目"が見ていた。

 

 

「また一人見つけました。これで六割程の鬼狩り共の居所を把握、しかしまだ太陽を克服した鬼の娘は見つかりません」

 

 

無限城で新たに肆の数字を与えられた鳴女が無惨に報告をする。

 

 

「鳴女、お前は私が思った以上に成長した。素晴らしい」

 

 

「光栄で御座います」

 

 

「後はそうだな…、この辺り」

 

 

無惨は鳴女を褒め、探索する場所を地図に指差す。

 

 

「竈門禰豆子も、産屋敷も、もうすぐ見つかる…。待っていろ、産屋敷。そして竈門禰豆子」

 

 

無惨は静かに笑っていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

翌日、炭治郎は早速玄弥から教わった反復動作を決めることにした。

 

 

「(俺の集中力を高めるもの…。やっぱり最初に思い浮かぶのは家族の笑顔、それからカナヲとアオイさんの笑顔)」

 

 

炭治郎は家族や大切な女性(ひと)の笑顔が次々に脳裏に浮かんだ。

 

 

そして炭治郎は深呼吸を深く一回すると、岩に手を置き

 

 

「ぐあああぁぁぁっ!!」

 

 

力一杯押した。しかし岩はピクリとも動かなかった。

 

 

炭治郎は次の日も、また次の日も、そのまた次の日も、反復動作を繰り返して岩を押した。

 

 

そして岩の修行を始めてから五日後、炭治郎はいつものように反復動作をし、岩を押す。すると額の痣の色が濃くなり、遂に岩が動いた。

 

 

「(やった!遂に動いた!けど油断するな!少しでも気を緩めると岩が止まる!腕で押そうとするな!足腰で押せ!!)」

 

 

その様子を見ていた伊之助は負けじと反復動作をし、岩を押し始めた。善逸も二人に負けじと反復動作をしようとすると、足下に善逸の鎹雀のチュン太郎こと"うこぎ"が手紙を持って来ていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

炭治郎は岩を一町先まで動かすことが出来た。しかしその間、炭治郎は水分補給をしておらず、脱水状態になりその場に倒れてしまった。

 

 

そこに行冥が現れ、念仏を唱えながら炭治郎に水を飲ませた。

 

 

「岩の訓練も達成した。それに加え"里"での正しき行動。私は君を認める…」

 

 

行冥は炭治郎に水が入った大きめの竹水筒を渡しながら炭治郎のことを認めると言った。

 

 

「君は刀鍛冶の里で、鬼の妹よりも里の人間の命を優先した…」

 

 

「悲鳴嶼さん、それは違います。里の人のことを優先したのは禰豆子です。俺はどちらを優先するのか迷ってしまい、危うく里の人が殺される所でした。簡単に認められては困ります」

 

 

炭治郎は行冥の言葉を否定した。

 

 

「俺はみんなのおかげで助かっているだけです。助けてくれたから道を間違わずに済んでいる。だから悲鳴嶼さんも、俺のことを簡単に認めないでください」

 

 

炭治郎は"誰かの助けで今まで道を間違えなかっただけ"と言った。

 

 

「君への疑いは晴れた。誰が何と言おうとも私は竈門炭治郎、君を認める」

 

 

だが行冥はそれでも炭治郎のことを認めると言った。

 

 

「えっ?なぜ…」

 

 

炭治郎は何で行冥が頑なに炭治郎のことを認めるのか分からなかった。

 

 

「私は昔、寺で身寄りのない子供たちを育てていた」

 

 

行冥はその理由である"自分の昔の話"を始めた。

 

 

「皆、血の繋がりこそ無かったが仲睦まじく、お互いに助け合い、家族のように暮らしてした。ところがある日の夜、言い付けを守らず寺に戻らなかった子供が鬼と遭遇し、自分が助かるために私と残りの子供たちを喰わせる約束をしたのだ」

 

 

行冥が語ったのは、恐ろしい内容だった。

 

 

「私の住んでいた地域では、鬼の脅威の伝承が根強く残っており、夜は必ず藤の花の香炉を焚いていた。その子供は香炉の火を消し、鬼を寺の中に招き入れ、直後に四人殺された」

 

 

「私は残った四人の子供を守ろうとしたが、その内の三人は私の言うことを聞かなかった。当時の私は今より痩せ細っており、目も見えなかったから、役に立たないと判断されたのだろう。その三人は暗闇の中で喉を切られて死んでしまった」

 

 

「私は唯一残った"沙代(さよ)"だけは守らねばと思い、戦った。鬼を何度も何度も殴り、夜が明けるまで鬼の頭を殴り潰し続けた。今でも忘れはしない、鬼を殴った気色悪い感触を」

 

 

行冥は涙を流しながら話し続けた。

 

 

「夜が明け、騒ぎを聞きつけた村の者が来た時、沙代はこう言ったのだ。『あの人は化け物。みんなあの人が、みんな殺した』…と。寺の中は子供たちの亡骸が転がり、壁には血がこびりついていた。鬼は太陽の光を浴び塵となり無くなったせいで、私は殺人の罪で投獄された」

 

 

「お館様が私の無罪を勝ち取ってくださらなければ、私は処刑されていた。それから私は人を疑うようになった。人は土壇場になればなる程、その本性が現れる」

 

 

「だが君は現実から逃げず、目を逸らさず、嘘をつかず素直でひたむきだった。これは言うのは簡単だが、それをやれる者は少ない…、君は特別な子供、即ち"やれる者"だ」

 

 

「大勢の人間を心の目で見てきた私が言うのだからこれは絶対だ。君が道を間違えぬよう、これからは私も君を手助けしよう…」

 

 

行冥の話が終わると、炭治郎は涙を流した。行冥は炭治郎の頭を優しく撫でると、炭治郎は笑った。

 

 

行冥はかつて沙代の頭を撫でた時のことを思い出し

 

 

「私の訓練は完了した…。よくやり遂げたな…」

 

 

優しく微笑んだのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その後炭治郎はまだ残っている隊士たちに鍋を振る舞った。玄弥はその鍋を突っつきながら行冥の優しさを語った。

 

 

炭治郎はこれから義勇の下へ向かうため、玄弥を誘うが、玄弥はまだ岩を一町先まで動かせていなかったため、辞退した。

 

 

それを聞いていた伊之助は玄弥を挑発するが、玄弥はそれを無視していた。

 

 

それから炭治郎は善逸のために魚を焼き、善逸がいる所へやって来た。

 

 

「あっ、善逸!岩は動いたのか?」

 

 

炭治郎は岩の上に座っている善逸に声をかける。

 

 

「いや、まだだ」

 

 

炭治郎の質問に善逸の出した答えは"No"だった。

 

 

「なぁ炭治郎、ちょっといいか?」

 

 

今度は善逸が炭治郎に質問をした。

 

 

「もし、もしも…だ。禰豆子ちゃんが人を喰った時、炭治郎はどうするんだ?」

 

 

善逸の質問は、かつて炭治郎の育手の鱗滝左近次が初めて会った時に炭治郎にした質問と同じだった。

 

 

「その時は、『俺が禰豆子を殺して、腹を切ってお詫びをする』。でも、禰豆子にはそんなことしないし、俺がさせない」

 

 

炭治郎は左近次の時とは違い、即座に答えた。

 

 

「そうか…。ありがとう、それを聞けて良かった」

 

 

善逸は炭治郎の回答に礼を言った。

 

 

「善逸…、どうしたんだ?ここ暫く無言だったから……」

 

 

「俺は大丈夫だ。俺は"やるべき"こと、"やらなくちゃいけない"ことができた」

 

 

炭治郎は善逸からかつて無い程の"決意の匂い"を嗅ぎ取った。

 

 

「善逸、俺にできることがあれば手伝うけど」

 

 

炭治郎は善逸に協力を申し出る。

 

 

「ありがとう。でも、これは絶対に俺がやらなきゃ駄目なんだ」

 

 

しかし善逸は炭治郎の申し出を断った。

 

 

「……わかった。でも、もし行き詰まったら、声をかけてくれ。いくらでも協力するから。後、魚焼いたから後で食べてくれ。ここに置いておくから」

 

 

炭治郎は焼き魚を乗せた葉を岩の側に置き、その場を去った。

 

 

「……炭治郎、ごめん。だけど、これは、これだけは俺が"始末"しないといけないんだ…!」

 

 

善逸は誰も聞いていないのに、虚空に話していた。

 

 

 

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