もしも炭治郎の下に義勇と実弥が来ていたら 作:レイファルクス
そこは山の麓から中腹に掛けて『藤の花』が"一年中"狂い咲いている不思議な山。
しかも人喰い鬼はこの藤の花の匂いを嫌うため、この山は鬼にとっての『天然の牢獄』でもあった。
左近次と同じ服を着た炭治郎は咲く季節でも無いのに咲いている藤の花に見とれていた。
そして階段を上り中腹にある広場に到着すると、自分と同じ最終選別に参加する少年少女が多数いた。
「お時間となりました。皆様、今宵は最終選別にお集まり頂き、ありがとうございます。この藤襲山には鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込められており、外に出ることはできません」
「山の麓から中腹に掛けて鬼共が嫌う藤の花が一年中、狂い咲いているからでございます」
その時、鳥居の前にいた少女二人が最終選別について説明を開始した。
「しかしここから先には藤の花は咲いておりませんから、鬼共がおります。この中で七日間生き抜く」
「それが最終選別の合格条件でございます。では行ってらっしゃいませ」
説明を終えた二人は頭を下げる。それを合図に炭治郎を含む参加者は次々に鳥居を潜り、山へと入って行った。
…
……
………
最終選別が始まって数分後、炭治郎は早速二体の鬼に出会した。鬼は炭治郎を喰おうと襲い掛かる。
『全集中 水の呼吸
しかし炭治郎は左近次から受け取った『
頚を斬られた鬼は着ていた衣服だけを残し、崩壊した。
「(この刀で頚を斬られると、骨も残らないのか…。不死川さんが言ってた通りだな。成仏して下さい…)」
炭治郎は鬼が残した衣服に向かって祈りを捧げる。
すると炭治郎の鼻が何か腐ったような匂いを嗅ぎ取った。その直後、参加者の一人が炭治郎の側を横切った。
「うわァァァ!何で大型の異形がいるんだよ!?聞いてないぞこんなの!」
そして走り去る参加者を追うように、『全身に腕が生えた大型の鬼』が姿を現した。
異形の鬼(以降"手鬼"と表記)は腕を幾つもくっ付け、参加者めがけて伸ばす。そして手鬼が伸ばした腕が逃げる参加者の足を掴む。
『全集中 水の呼吸
しかし炭治郎が自分の体を縦に回転させて斬る水車を使い、手鬼の腕を斬った。
腕を斬られた手鬼は炭治郎を一瞥すると
「また来たな、俺の可愛い狐が」
と嬉しそうに言った。
「狐小僧、今は"明治"何年だ?」
手鬼は炭治郎に今の年を聞く。
「(明治?)……今は"大正"時代だ」
炭治郎は律儀に手鬼の質問に答える。すると
「アァアアア、年号がァ!年号が変わっているゥ!」
急に叫び出した。
「まただ!また!俺がこんな所に閉じ込められている間に!アァアアア、許さん!許さんんん!!鱗滝め、鱗滝め、鱗滝め、鱗滝め!!!」
「どうして鱗滝さんを……」
『知っているのか?』と炭治郎は質問をしようとした。
「知ってるさァ!俺を捕まえたのは鱗滝だからなァ!忘れもしない四十七年前、アイツがまだ鬼狩りをしていた頃だ!江戸時代…
何とこの手鬼は江戸時代に左近次に捕まり、この藤襲山に投獄されたのだった。
「嘘だ!そんなに長く生きてる鬼はここにはいないはずだ!ここには人間を二~三人喰った鬼しか入れてないんだ!選別で斬られるのと、鬼は共喰いするからそれで…」
しかし助けた参加者はそれは嘘だと言い張る。
「でも俺はずっと生き残っている。この藤の花の牢獄で、五十人は喰ったなぁガキ共を」
「十二…、十三…、お前で十四だ」
不意に手鬼は何かを数え始めた。
「!?、何の話しだ?」
「俺が喰った鱗滝の弟子の数だよ。アイツの弟子はみんな殺してやるって決めてるんだ」
手鬼はクスクスと笑いながら数えていた理由を述べた。
「そうだなァ、特に印象に残っているのは二人だな、あの二人」
「
手鬼が言った特徴に炭治郎は心当たりがあった。そう、自分の修行に付き合ってくれた錆兎と真菰だった。炭治郎は二人が既に死んでいることに驚きを隠せなかった。
「目印なんだよ、その狐の面がな。鱗滝が彫った面の木目を俺は覚えてる。アイツがつけてた天狗の面と同じ彫り方」
「"厄除の面"と言ったか?それをつけてるせいでみんな喰われた。みんな俺の腹の中だ。鱗滝が殺したようなもんだ」
「これを言った時、女のガキは泣いて怒ってたなァ。その後すぐ動きがガタガタになったからな。手足を引き千切ってそれから「もういい」…んぁ?」
手鬼は笑いながら語っていると、炭治郎がその話しを遮った。
「もういいと言ったんだ。お前だけは許さない。今日ここでお前を倒す」
だんだんは怒りを剥き出しにして手鬼に向かう。手鬼も炭治郎を捕まえようと腕を伸ばす。しかし炭治郎は向かってくる腕を悉く斬り伏せる。炭治郎が刀を振ろうとした時、手鬼の拳が炭治郎に直撃し、木にぶつかって気を失う。それと同時に炭治郎の面が粉々に割れてしまった。
気を失った炭治郎は弟の声で目が覚め、手鬼の攻撃を避けた。その後も炭治郎は手鬼の腕を斬る。その時地中から"変な匂い"を嗅ぎ取り、高く跳躍する。すると炭治郎がいた地面から手鬼の腕が出てきたのだった。
手鬼は奥の手を読まれたことに驚くが、空中にいれば避けられないと思い、炭治郎に向けて腕を伸ばす。
『全集中 風の呼吸
だが炭治郎は実弥から教わった風の呼吸を使い、その腕を斬った。
『全集中 水の呼吸
そして炭治郎は手鬼の頚を斬ることに成功した。
…
……
………
頚を斬られた手鬼の頚は地面を転がり、炭治郎を見上げる形で止まった。そして手鬼が見た炭治郎の表情は"嘲笑う顔"では無く、どこか"悲しい顔"だった。
炭治郎は手鬼から悲しい匂いを感じ取り、手鬼の手を握り
「神様、どうかこの人が今度生まれてくる時は、鬼になんてなりませんように」
そう祈った。
手鬼は炭治郎の慈悲深さを目に焼き付けながら、この世を去った。
それから七日後の早朝、残った者が中腹にある広場へと集まった。が、炭治郎は落胆していた。それもそのはず、合格者は自分を含めて"四人"しかいなかったからだ。
「お帰りなさいませ」
「おめでとうございます。ご無事で何よりです」
最初に七日前に最終選別について説明をした少女二人が合格者を労った。
「まずは隊服を支給させていただきます。体の寸法を計り、その後は階級を刻ませていただきます」
「階級は十段階ございます。
「刀に関しましては本日中に
「さらに今からは
少女がまず説明をし、もう一人が手を叩くと、空から鴉が現れ、合格者の肩や腕に乗った。その中には、一人だけ鴉では無く、雀だった。
すると合格者の一人の少年が鴉を払い退け、少女の一人を殴り、髪を鷲掴みにした。
「どうでもいいんだよ鴉なんて!刀だよ刀!今すぐ刀を寄越せ!鬼殺隊の刀!"色変わりの刀"を!」
すると炭治郎がその少年の腕を掴んだ。
「その子から手を放せ!放さないなら折る!」
炭治郎は有言実行と言わんばかりに手に力を込める。すると"誰か"が少年の頭を鷲掴みにした。
「選べェ、今すぐその手を放すか、俺に殺されるか」
「不死川さん(あ…、兄貴)!」
そう、少年の頭を鷲掴みにしたのは不死川実弥だった。少年は実弥に驚いて掴んでいた手を放す。そして炭治郎と実弥は少年から手を放した。
「かなた様、この度は俺の"弟"が失礼をしまして誠に申し訳ありませんでした。この場をもってお詫び申し上げます」
実弥は少女"かなた"に向かって深々と頭を下げた。
「風柱様、頭をお上げ下さい。私なら大丈夫です」
「あ…、兄貴!そんな奴に頭を下げなくても…」
「
実弥は玄弥と呼んだ少年を血走った目で睨み、殺気を放つ。玄弥は殺気に飲まれて動きを止める。
「不死川さん、お久しぶりです!」
しかし炭治郎は空気を読まず、実弥に声をかける。
「んァ?おゥ炭治郎じゃねぇか!久しぶりだな!前会った時より逞しくなってんじゃねぇか!よく頑張ったなァ」
炭治郎に声をかけられた実弥は炭治郎の方を向くと、今までの殺気が嘘のように成りを潜め、笑顔で炭治郎の頭を撫でながら会話をする。
「はい!鱗滝さんから教わった水の呼吸と不死川さんから教わった風の呼吸を使って何とか生き残りました!」
炭治郎もまた、実弥に頭を撫でられながら笑顔で会話をする。その様子を見ていた他の合格者たちは呆気に取られていた。
「風柱様、お話し中の所申し訳ありません。皆様に玉鋼を選んでいただかないと」
そこに少女の一人が実弥に声をかける。
「
実弥は玉鋼が置かれている棚を指差し、合格者たちはそれぞれ玉鋼を選び、解散となった。
…
……
………
ここはとある屋敷。その一室にいる男性が鴉からの報告を受けていた。
「そうか。
男性はどこか嬉しそうな声を出していた。
…
……
………
「玄弥ァ、お前と炭治郎はちょっと残れやァ。輝利哉様、かなた様。申し訳ありませんが、少しの間、お側を離れます」
実弥は輝利哉とかなたに断りを入れて炭治郎と玄弥を連れてその場を離れた。
「ど…、どうしたんだよ兄貴!」
「不死川さん?」
玄弥と炭治郎を連れた実弥はある程度離れると、いきなり玄弥の顔を殴った。
玄弥は何故殴られたのか分からず呆気に取られていた。
「玄弥ァ、お前が狼藉をしたお方は俺たちを率いるお方の御子女様だァ。狼藉も大概にしねぇとなァ」
"自分たちを率いる人の娘"。それを聞いた玄弥は顔を青くした。
「あの時は俺が頭を下げたが、今度は庇ったりなんかしねぇからなァ?」
実弥の言葉に玄弥は何度も頷いた。
「あの…、不死川さん。彼の名前を何度も言ってましたが、彼は不死川さんの弟なんですか?」
話しが終わったタイミングを見計らった炭治郎は、気になっていたことを実弥に聞く。
「ああそうだ、紹介するぜェ。俺の"生き残った"弟の不死川玄弥だァ」
「……不死川玄弥」
「玄弥、コイツは竈門炭治郎。コイツも俺たち同様、鬼に家族を奪われた奴だァ」
「俺は竈門炭治郎!玄弥、よろしく!」
炭治郎は玄弥に握手をしようと手を差し出す。しかし玄弥は握手をしようとはしなかった。
ハァッ「玄弥、お前何で鬼殺隊に入隊したんだァ?」
実弥はため息を一つすると、玄弥に入隊理由を聞いた。
「決まってる!兄貴と一緒にいたいからだ!」
玄弥の入隊理由は『実弥と一緒にいたいから』だった。
「俺は本音を言えば、お前に
「兄貴…」
実弥は自分の願いを玄弥に伝える。玄弥はそれを聞いて泣きそうになっていた。
「こんな何時死ぬか分からねェ所にお前を巻き込みたく無かった。でも、優しいお前なら、俺の後を追いかけることくらい、分かってたはずなんだかなァ」
「不死川さん、きっと玄弥は不死川さんの力になりたくて入隊したんですよ。でなきゃ、ここまで来る訳無いじゃないですか」
炭治郎は玄弥の思いを汲み取ったのか、それを実弥に伝える。
「……ありがとうなァ、炭治郎。玄弥、お前の今いる世界ははっきり言ってドス黒いモンばかりだ。それでも、進むか?今なら引き返すことも可能だ」
実弥は炭治郎にお礼を言って、玄弥に覚悟があるのか訪ねる。
「俺は…、兄貴…いや、"兄ちゃん"と一緒にいたい!一緒にいるためだったらどんなことでもやってみせる!」
玄弥は自分の覚悟を実弥に伝える。
「……分かった。もう俺は何も言わねェ。玄弥、死ぬ気で頑張りなァ」
実弥は玄弥の覚悟を聞き、頭を撫でてその場を去った。玄弥はポカンとしていたが、最後に実弥に向かって頭を下げて、階段を降りた。その顔は、さっきまでの切羽詰まった表情では無く、イキイキとした笑顔だった。
炭治郎もまた、玄弥の笑顔が移ったのか、笑顔で藤襲山を後にした。