TS少女の贖罪~女になった逆行元勇者は、勇者パーティーの一員として死に物狂いで戦う~   作:恥谷きゆう

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73 夢にまで見た出会い

 俺が夢に見た過去には、人間たちはゴブリンたちの物量に押されて劣勢だった。しかし今俺の生きているこの時間の王国軍には、あの時よりもずっと余裕がある。

 理由は明らかだ。魔王軍の先遣隊を吹き飛ばした、ジェーンの超大規模魔法。あの時に魔王軍の物量はそれなりに削られたのだろう。

 記憶にあるどの時よりもずっと勢いがない。ジェーンの挙げた戦果は、まさしく人間たちを救った。戦後にその功績を称えられたはずの彼は、もういないが。

 

「押せ押せ押せ! 魔物どもはビビっているぞ!」

 

 勇ましい声と共に、前進する騎士たち。その顔には生気が漲り、足取りも軽い。

 

「下がれ愚図共! 遅れたものから死ぬぞ! おい、ダークエルフどもの魔法はまだか! 押し負けるぞ!」

 

 ゴブリンなど知能の低い魔物たちを指揮する高位の魔族たちは声を張り上げている。しかしその魔族の元に、人間側から放たれた魔法が着弾し黒煙と共に絶命する。

 騎士たちの後方から魔法を放つ魔法使いたちには、ほとんど被害は出ていない。後方支援は十分に行き渡っている。

 

 魔法使いや聖職者の人員は、開戦からほとんど減っていない。後方での支援に徹する魔法使いや聖職者たちが死亡する原因は、人狼など、人間の中に紛れ込める魔王軍のスパイたちによる暗殺などだ。

 しかし、俺は何度も繰り返すうちに人狼などは見分けることができるようになっている。王都に紛れ込んだ人狼たちは、俺が未然に倒しているので、被害はほとんど出ていない。

 繰り返しの経験は、確実に俺を強くしている。けれど、誰も死なせずにいられるわけではなかった。

 

 

 

 

 足並みを揃えて攻撃を仕掛ける騎士たちと一緒に、俺も最前線で剣を振るっていた。意識は目の前に存在する魔物に集中。けれど、周囲の状況に気を配ることも忘れず。

 戦場では、視覚外から攻撃が飛んでくることも珍しくない。しかし、攻撃に気づくことと対処できることは別物だ。

 

 

 唐突に、急激な魔力の高まりを魔族側に感知した。警告を飛ばす間すらなく、魔法が飛来する。

 巨大な火球だった。人間の魔法使いが普段飛ばしているそれの五倍はあろうかという、破壊の化身。加えて、上空を飛ぶ速度すら規格外だ。

 その強力な魔法は、精鋭である宮廷魔法師ですら防ぐことは叶わなかっただろう。着弾した場所から轟音が響き、悲鳴が上がる。

 

「……来たか」

 

 あの鋭く戦場を抉ってくる強力な魔法。間違いなく、やつだ。ダークエルフの長、ロゼッタ。

 

 

「散らばれ騎士ども! 次が来る!」

 

 俺の声に反応した騎士たちが、慌てて散開する。再び、隕石のように巨大な火球が戦場を抉り、不幸な騎士数名の命を散らす。

 

「あんな強力な魔法が連続で……!」

 

 魔法に精通しているはずのオリヴィアから驚愕の声が漏れる。

 

 大規模魔法を二度行使して魔力が一旦尽きたのか、追撃は訪れなかった。

 しかし、安心もできないだろう。後方で安全に守られた魔法使いというのは、魔石を消費することで瞬時に魔力を回復することができるのだ。

 

 おそらく、少しのインターバルを経て次が来る。

 

「……元をさっさと叩くべきだな」

 

 俺が決意と共に火球の飛んできた先へと向かおうとする。

 しかしそれを妨げるように、オスカーが俺の肩を掴んできた。

 

「一人でどこに行くの、メメ」

「決まってるだろ。術者を直接殺しに行くんだよ」

 

 振り返り、意思を籠めてオスカーを睨むが、彼は一歩も引かなかった。肩に置かれた手は力強い。

 

「もしかして、術者がジェーンさんを殺した魔物だと思ってる?」

「そうだ」

「やっぱり……。メメ、冷静になって。僕だって行く。ジェーンさんの仇を取りたいのは、君だけじゃない」

「俺は冷静だ」

「違う! 僕の師匠のメメは、無理をすることはあっても無茶な突貫はしなかった! でも今の君は違う! 単に死に急いでいるだけだ!」

「しつこいぞオスカー! 時間がないんだ。俺がどう思ってるかなんて関係ない! 俺は行く!」

 

 肩に置かれた手を乱暴に振りほどくと、俺は前へと踏み出す。後ろからは、オスカーとカレン、オリヴィアが付いてくる気配がした。

 

「なんで付いて……」

「メメさん」

 

 ヒートアップした脳に、オリヴィアの静かな声が染み渡った。足は止めないままに、振り返る。オリヴィアは、静かな声で続けた。

 

「何を恐れているのか、私に教えてはくれませんの?」

 

 核心を突かれた俺は、思わず足を止めてしまった。オリヴィアの、全てを見通してしまいそうな澄んだ瞳が、俺の狼狽を映しているだろう瞳を捉える。

 

「私たちが一緒に進むことによって何か不都合があるのなら、今ここで全部言ってしまえば良いのではないでしょうか」

「……それは」

「できないというなら、私は付いていきます」

 

 凛とした態度で放たれた言葉には、一歩も退く気はないという意思が籠っているようだった。

 そんな彼女の態度に、俺の口から自然と言葉が漏れる。

 

「……俺の知られたくないことが、知られてしまうかもしれない。──失望されるかもしれない」

 

 ああ、言ってしまった。オリヴィアが、驚いたような顔をしている。飛び出た自分の言葉があまりにも情けなくて、俺は激しい後悔に苛まれた。

 

「もういいだろ! 時間がない! 俺は行く! どうしても付いてくるっていうなら勝手にしてくれ!」

「うん」

 

 俺のやけくそ気味な言葉を聞いてもオスカーは表情を変えず、確かな足取りで俺の後ろを付いてきた。

 

「……走るぞ!」

 

 ゴブリンを中心とする魔物の壁へと駆け出した俺たちを迎えたのは、無数の殺気に満ちた目だった。

 

「──舐めるなあああ!」

 

 足にありったけの力を溜め、跳躍する。地を歩くことしかできないゴブリンたちは、空高く飛ぶ俺を呆然と眺めるだけだった。

 空中にいる数秒間に、素早く敵陣を確認する。──いた。ゴブリンの壁の先。ぽっかりと穴が開いたように空白の部分があって、その中心に凄まじい存在感を放っているエルフがいる。

 

 重力に従い、地面へと着地。土埃が舞い、付近にいたゴブリンたちが衝撃に足を取られ、その場に倒れ込んだ。

 俺は後ろを振り返ると、仲間たちに向かって叫んだ。

 

「いた! このまま12時の方向へ直進する!」

「分かった!」

 

 進むべき道が分かり、いざ前進しようとした、その時だった。

 

「メメさん! 上です!」

「なっ!? ……ッ!」

 

 見上げたそこには、途方もない大きさの岩の壁があった。戦場を二分するほどの巨大な壁。

 ギロチンの如く落下してくるそれは、直撃すれば俺の体など真っ二つにされてしまいそうだった。

 

「クソッ! どけ!」

 

 上空から迫りくる死に気づいていないのか、俺と同じく落下地点にいるゴブリンたちはこの期に及んでまだ俺に斬りかかってくる。時間がないので、俺はそれらを体当たりで蹴散らしながら前へと進む。

 

「オオオオオオ!」

 

 ゴブリンたちの突き出してきた錆びた剣先が浅く刺さり。血が流れる。しかしそれどころではない俺は、それらを無視してがむしゃらに前に進む。

 

 やがて、墜落。轟音を立てながら落下した岩の壁は、地響きを立てながら地面に鎮座した。

 

「……分断されたか」

 

 後ろを見れば、分厚い岩の壁が戦場を二分している。

 ……デカい。そして、長い。オリヴィアの魔法もオスカーの聖剣も、これを突破するには時間がかかりそうだ。

 

「メメ無事!?」

 

 壁の向こう側から、オスカーの声が聞こえてくる。

 

「無事だ! そっちは?」

「大丈夫! でも囲まれてて、簡単には壁を突破できない!」

 

 そうだろうな。

 俺という前衛が一人いない状態で戦場の真ん中に取り残された彼らは、周囲の敵の対処でいっぱいいっぱいのはずだ。

 

「焦らずに一つ一つ対処しろ! 壁の攻略は二の次でいい!」

「……焦らずなんて君に言われたくないかな!?」

 

 ……本当にな。

 

 俺はそれっきり言葉を打ち切ると、前へと歩き出した。わざわざ俺だけ分断したということは、ロゼッタの狙いは俺だろう。魔法に長けた相手なら、距離を詰めないと俺が負ける。

 壁のこちら側には、魔物はほとんどいなかった。どうやらあらかじめこうなることを予想して戦力を配置していたらしい。

 

 やがて、平地の先には、夢にも見た顔があった。

 

「──やっと会えたな、ロゼッタ」

 

 俺が名前を呼ぶと、ダークエルフの女は怪訝そうな顔をした。

 

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