TS少女の贖罪~女になった逆行元勇者は、勇者パーティーの一員として死に物狂いで戦う~   作:恥谷きゆう

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83 男らしさを説く少女

 活気に湧く王都は、歩いているだけでもなんだか楽しい気分にさせられてしまうような、不思議な魔力のようなものがあった。

 見渡す限りの、人人人。大通りに人が多いのはいつものことかもしれないが、今日は熱気が違った。

 活発に駆ける少年たち。その手元には、出店で販売されるジャンクフードが大事そうに握られている。

 顔を真っ赤にした酔っ払いども。肩を組み意味をなさない歌を斉唱する彼らは、もはや今自分がどこにいるのかすら分かっていないようだった。

 雑談に花を咲かせる主婦たち。いつも通りの風景に見えたが、よく見れば彼女らの頬すらも薄っすら赤い。少なからず酒が入っているらしい。

 

「すっごーい! お祭りって、こんなに人がいっぱい出てくるんだ!」

 

 カレンがウキウキとした足取りで、俺たちの先を行く。俺はその様子に思わず苦笑しながら、一応注意をする。

 

「カレン、あんまりはぐれるなよ。離れ離れになれば最後、祭りが終わるまで落ち合えないぞ」

「はーい!」

 

 聞いているんだか聞いていないんだか。彼女は相変わらず足早に群衆を搔き分けるものだから、俺とオスカーも速足で彼女の後を追う。

 

「楽しそうだなあ……」

 

 オスカーはそんなカレンの様子を見て、ご満悦のようだ。

 

「やっぱり好きだな、お前」

「なっ! 別にそんなこと! ……いや、隠しても無駄か」

「そうだな、お前が俺に隠し事するなんて無理だぞ。なんたって全部お見通しだからな」

 

 その道は、既に俺が通った道だからな。

 

「この前、さ」

「うん?」

 

 オスカーの声音が変わる。真剣な口調に、俺も居住まいを正す。

 

「カレンに、正直に想いを告げたんだ」

「な、なにーっ⁉」

 

 俺は天地がひっくり返ったみたいに驚いた。正直、ここ数十年で一番の衝撃だった。

 

「えっめちゃくちゃ驚くじゃん。僕の事は全部お見通しじゃなかったの?」

「いや、それは予想外だったっていうか、俺はそこまで行かなかったっていうか……」

 

 まさかコイツが俺よりも進んでいるとは思わなかった。ショックだ。

 

「それで、返事を期待してたんだけど、カレンはちょっと待ってほしいって言ってさ。なんかずっとソワソワしてるんだよね」

「それは……大変だな」

 

 正直、他にかける言葉が見つからなかった。俺も経験したことないことだからだ。

 

「メメは、女性の心の扱いには慣れていたの?」

「……いや、剣握ってる時間がほとんどだったからな。正直お前とそんなに変わらないと思うぞ」

 

 まともな女性経験なんて、オリヴィアと一度だけ付き合った時だけだ。その期間も、結局そんなに長くなかった。

 

「よしオスカー、作戦会議をするぞ」

「えっ、でもメメもあんまり経験ないって……」

「やかましい! 男二人で額を突き合わせて案を出し合えば、少しくらいカレンを喜ばれることだってできるはずだ」

「気持ちは嬉しいけど、君は今女の子じゃん」

 

 いちいち一言多い奴だ。そんなんじゃカレンに嫌われるぞ。

 

「二人とも何コソコソしてるの? せっかくのお祭りなんだから、楽しもうよ!」

 

 カレンは、オスカーの悩みなんて知らないような笑顔で言った。そして、何かを見つけたように通りの端へと走っていった。

 

「おじさん、これ三つ!」

「はいよ。落とさないように気を付けろよ」

「うん、ありがとう!」

 

 カレンが持ってきたのは、ホットドッグのようだった。包み紙に包まれた中身から、美味しそうな匂いが漂ってくる。

 

「はい、オスカーの分!」

「あ、ありがとう」

 

 少しどもりながら受け取るオスカー。なんでもないような接近にも彼は動揺しているようだ。告白はできたくせに、そういう度胸はないらしい。

 

「はい、メメちゃんも! 一番おっきいやつ!」

「おお、ありがとう」

 

 気持ち大きめのホットドッグを受け取り、礼を言う。

 流石にこの人混みの中で食べ歩きは難しい。俺たちは少し道の端によると、家屋の壁にもたれかかった。

 

「はー。なんか楽しそうな人たちを見てるだけでもお祭りって感じだねえ」

「雰囲気っていうのは大きな要素だよな。活気あってこその王都の祭りだな」

 

 それっきり会話が途切れ、三人の間に沈黙が下りた。けれど嫌な感じではなく、その場の雰囲気を楽しんでいるような沈黙だった。

 

「そういえば、さ」

 

 カレンの静かな声は、ともすれば群衆のざわめきに紛れてしまいそうだった。

 

「この前の返事」

 

 オスカーが息を吞む。横にいる俺にも緊迫感が伝わってくるようだった。

 

「今日の夜までにはするから、待ってて」

 

 静かな言葉からは、彼女がどんな返事をするのか想像することもできなかった。

 オスカーはその言葉に大きく目を開くと、短く返事した。

 

「分かった」

 

 二人の間に、再び沈黙が訪れる。今回の静けさには、形容しがたい緊張感があった。

 

 

 ホットドッグを食べ終わり、三人並んで歩く。俺を挟んで歩くカレンとオスカーの間に、会話はない。

 

 ふとこちらを見たカレンはお手洗いに向かう旨を告げると、遠くへと消えていった。俺たちは道の端に立ち止まって、彼女の帰りを待つことにする。すると、その時を待っていたようにオスカーが俺に詰め寄って来た。

 

「ど、どうしようメメ! カレンが、今日返事するって!」

「どうするって、待つしかないだろ」

 

 オスカーは、滑稽なほどに狼狽していた。

 

「でも! もし断られたら⁉」

 

 それは……あまり想像したくないな。

 今やカレンは、オスカーの幼馴染である以上の役割を果たしている。勇者パーティーに同伴し、治癒魔法をかける聖職者。一年近くを共に戦い、戦場でもすぐに意思疎通できる貴重な人材だ。そんな彼女が、オスカーを振ったらどうなるか。魔王討伐を目前にして、勇者パーティーに大きな溝ができる。

 

「断られたら……まずいな」

「まずいっていうか僕はもう立ち直れないよ! あああ、どうしよう!」

 

 あわあわとしだす彼は、もう祭りを楽しむ余裕がなさそうだ。

 

「……でも、断られるのが怖くても告白できたんだな」

 

 正直、そこが一番不思議だった。

 オスカーは恋愛において腰抜けだ。かつてオスカーだった俺が断言できる。幼馴染の気持ちに薄々気づいていても一歩が踏み出せない。オリヴィアと近しい関係になっても、こちらから告白できたことなんて一度もない。その他、恋愛関係になるほど距離の近かった女性などいなかったのだ。

 我ながら情けない限りだ。

 

「それはまあ、改めて自分は死と隣り合わせなんだなあ、って思ったっていうか……」

「……」

「それに、こんなに強いメメが一回も勝てなかった魔王に挑むって考えると、なんだかこの胸の想いを伝えておかないとって焦燥に駆られて。気づけば、口から言葉が出てきてた」

「ああ、俺の話がいらんプレッシャーを生んだかもな。すまない」

「いや、メメが全部話してくれたこと自体はとても嬉しかったんだ。でも、同時に改めて勇者の使命の過酷さを思い知ったっていうかさ。……ああ、この前もこんなことメメに話した気がするな。やっぱり、僕はまだ臆病みたいだ」

「馬鹿みたいに勇敢な奴より、臆病な奴の方がずっとマシだ」

 

 それに、お前は少なくとも俺よりもずっと勇敢だ。だって、想いを告げられたのだから。

 

「メメ、さ。その、カレンにそれとなく返答を聞きだしておいてくれない?」

 

 そんなことを思っていたのに、オスカーは急に女々しいことを言いだした。

 

「……お前、俺から告白の返答聞いてどういう気分になるんだ?」

「だ、だって! 怖いじゃん!」

 

 なんだか駄々をこねる子どもみたいだ。オスカーの情けない態度に、なんだか俺はイラついてきた。

 

「なんだよお前! 告白する勇気はあるのに返事を聞く勇気はないとか矛盾してるぞ! だいたい、カレンは返答を保留したんだろ? 少なからず意識されてるってことだ! 男らしく堂々と待て!」

「君に男らしさを説かれたくないな!」

「なんだとコノヤロー!!」

 

 聞き逃せない挑発に、俺は憤慨した。右手に力を籠め、勢いよくチョップ。オスカーのとんちんかんな頭に直撃するはずだったそれは、彼によって白刃取りされてしまう。

 

「ぐぐぐ……。離せえ……! とんちきな頭を叩いて直してやる……!」

「メメこそ諦めなよ……大人げないよ……!」

 

 互いに譲らず、均衡状態が訪れる。手がプルプルと震え出し密着した二人の手が共振しだす。

 俺とオスカーは、互いの目を観察し合い、次の手を模索し始める。次はどうする? 足払いか? 左手を使うか? ……いや、どっちも読まれそうだな。

 俺とオスカーは、度重なる剣の稽古で互いの技をだいたい見ている。その経験が取っ組み合いにも活きた。オスカーの目は、俺の行動を見逃すまいと観察してきている。

 さて、どうやって裏をかこうか。俺が新しい一手を模索していると。突然冷たい声が隣から聞こえてきた。

 

「──二人とも、仲良さそうだね」

 

 聞いたことのないほど低くて冷たいカレンの声に、俺とオスカーは飛び上がりそうになった。

 慌てて姿勢を直し、カレンの方に向き直る。

 

「お、遅かったなカレン。おかげで待ってる間にちょっと遊んでたんだ」

「そ、そうそう。メメがじゃれついてきてさ。僕は仕方なく付き合っていたんだ」

「ふーん、じゃれてたんだ。二人で。仲良く」

 

 馬鹿、余計なこと言うな! 愛想笑いを浮かべているオスカーは、カレンの顔の温度が一層下がったことに気づいていないようだった。

 

「人の気も知らずに全く……こっちは真剣に悩んでいるっていうのに、なんでいつも通りの訳? 返事聞きたくないの……?」

 

 ぼそぼそと呟くカレンの声は、辛うじて俺の耳に入って来た。冷や汗を垂らしているオスカーは気づいていないようだ。

 ──これは、結構勝算高そうだぞ、オスカー。

 俺は内心、オスカーに賛辞を贈った。……それはそうと、さっきの挑発の借りはどっかで返すからな。

 

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