「では石森さん。貴方に平成ライダーの魅力を教えてあげましょう」
「いや、一般人として生活する上での危険性を教えてくれ」
眼鏡をビシッとかけた天使はプリプリとテンションを上げていた。正直言って可愛い。口調も柔らかくなった。コッチの方が似合う。
好きなんだろうな仮面ライダーが。好きなものを語るのは楽しいしテンションがあがる。
「まず最初にご紹介するのは平成ライダーの歴史の基礎を築いた偉大なる仮面ライダー、クウガの世界です」
俺が「はい先生、質問です」と挙手すると、天使はノリノリで「はい石森君。なんでしょう?」と指揮棒をビシッと向けた。
「仮面ライダークウガの敵はどんなショッカーなんですか?」
チョークが飛んできた。
「分かっていませんね劣等生。ショッカーは主に昭和の仮面ライダーの敵です。平成の仮面ライダーは作品ごとに世界観も敵もバラバラなのです。一部共通していることもありますが」
転生待ちって死んでいる状態だよな? なのに痛い。
「まず、クウガに出てくる怪人は“グロンギ”という存在です。あと、世界観は石森さんが住んでいた元の世界とほとんど同じですよ」
「は、はぁ」
剣と魔法のファンタジーの世界に飛ばされない転生もあるのか。でもクウガ以外の世界は異世界風なのかな?
「ではクウガの世界の人々を脅かすグロンギですが・・・正直言って歴代トップクラスに危険です」
最初なのにトップクラス?
「どのくらいヤバイの?」
「そうですね。稀に街中で無差別大量殺人事件が起きたりしますよね? あれが毎週起きると思ってください」
マジか・・・
「グロンギは非情に好戦的で残忍な戦闘種族で、人間を狩ることをゲームとしています。彼らはそれをゲゲルと呼んでいます。ここまでで分かるように、怪我をさせるとか破壊活動をするとかではなく、人を殺すことを目的にしています」
おぉ、もうお腹一杯。
「出会っちゃったら、どうすれば助かるとかの攻略法はあるの?」
「ありませんね。運次第です」
「運?」
「はい。先程説明したようにグロンギの殺人はゲームです。ルールがあります。そのルールの上で抹殺対象にならない可能性もあるので、そこだけが唯一の生還ルートです。とはいえ殺してしまっても反則というわけではなく、あくまでポイント換算されないというだけですけど」
それ生還ルートとは言わない絶対。
「そんな殺人鬼集団が出てくるのに、世界観が元の世界と同じなのか? 北斗的な拳的な世紀末も真っ青だろ」
「いいえ。あくまでゲームなのでゲーム参加中の個体以外は人間と出会っても殺しに来ません。1回に怪人は1体しか活動しない。なのでその場合に遭遇したら安全なので安心ですね」
安心が仕事してない。
「あ、でも頑張って仮面ライダーが来てくれるまで逃げ切れば助かるんじゃ?」
「いいえ。作中でもクウガが怪人と遭遇するのはある程度ゲゲルが進行して、殺人のルールが判明して、次の標的を推理してからというパターンが多いです。クウガの助けが間に合うのはその回のゲストキャラだったりレギュラーキャラだったりなので、エキストラの一般人が襲われている時にはほとんど死んでいます」
クソじゃん
「あ、ですけど助かる方法もう1つありますよ。ゲゲルには殺害目標の人数があるので、その人数が達成されたら殺されずに済みます」
「あるんじゃん。よかった。じゃあ頑張って他の人が殺されているのを見捨てて逃げ切ればいいわけか。外道だけどマダタスカル」
「ですね。作中ではほとんどクウガに阻止されていますけど」
駄目じゃん。殺害人数から漏れられないじゃん。
「あとその殺害目標人数も100人越えたりするのがザラです」
無理じゃん。画面に映るエキストラの人数が100人もいないなら、自動的に俺もその殺される人数の中に入っちゃうじゃん。
「つまり生存率は限りなく0に近いと。なるほどなるほど詰みだな。っつうかそんな世界観でよくその世界の人間は普通に生活してられるな」
「え? 貴方の世界だって同じようなものじゃないですか」
キョトンとする天使に俺は頭に?が10個は浮かんだ。何言ってんのコイツ。
「だって1日当たりで10人以上、1週間で100人以上も死んでいるような病気が流行っていても、貴方の世界の人たちは普通に生活しようとしてるじゃないですか。それと同じですよ」
反論できないな。
「それでは石森さん。貴方が転生するのは、クウガの世界でよろしいですか?」
笑顔で尋ねる天使に、俺は笑顔で答えた。
「いいえ。俺は仮面ライダークウガの世界に転生なんかしません!」
してたまるかこの野郎。