「それでは次に紹介するのは仮面ライダーアギトの世界です。アギトの世界に転生って、『目覚めろ、その魂』を体現できる立場の貴方が羨ましい」
天使は笑顔だ。笑顔は天使なんだけどな。言ってることが悪魔だ。
仮面ライダーに出てくる怪人も天使であってくれよ。そうすれば助かる。
「アギトに登場する怪人は天使です」
???? 俺の耳、壊れた?
「天使が怪人? どういうことだってばよ」
「う~ん、ご理解いただくためにはアギトの根幹から説明しないといけませんね」
そう言うと天使はいかにも宗教画といった絵を出してきた。
「アギトの世界には神さまと天使たちがいます。ある時、天使の中でも上位の天使が人間に仮面ライダーアギトに変身する力を与えました。神様は人間がアギトの力を制御できずに暴走してしまうことを恐れ、天使たちにアギトの抹殺を命じました。これが仮面ライダーアギトの大雑把な物語です」
いいのか大雑把で?
「この話、語り始めると長いんです。永遠に語れますよ」
それは嫌だな。ただでさえ自分にとって興味ない話を、その道大好きな他人から聞かされるのって苦痛なのに。
「ん? だけどその話だと、今回の怪人は人間を襲わないのか?」
「そうですね。アギトになる素質のある人間を襲います。なのでただの一般人に転生される石森さんは抹殺対象になりません。よかったですね」
おっ、これはいいじゃないか。一般人に転生するメリットがこんなところに転がっているなんて。ちょっと複雑な気分だけど。
「絶対に大丈夫なんだよな? 万が一にも殺されたりとかしないよな?」
「よっぽど手出ししない限りは大丈夫ですよ。むしろ人間に手を出した天使は神さまに粛清されるので、絶対に安全です」
なんだよ安全な世界あるんじゃないか。前回からのギャップすげぇな。
という俺の心の笑みに気付いたのか、天使は「ただ・・・」と付け加え始めた。嫌な予感。
「ただ?」
「先ほど説明したように、天使はアギトになる素質のある人間を襲います。その天使というのが、言ってしまえば人間以外の生物のための天使なのです。神さまは人間を我が子のように愛しているので、天使は手出しできないわけです」
嫌な前振りの割には別に大した情報じゃないよな。
「ですがアギトになる素質のある人間は神さまから抹殺許可が下りていますので、天使たちはここぞとばかりに“恨み”を晴らしたくてウズウズしています」
「恨み?」
話の前後があまり繋がらない。こういうところがこの天使の悪い所だ。
「恨みですよ。考えた事ありませんか? 貴方が食べてきた肉や魚、殺してきた虫やらを思い出してください。人間が人間以外の生物を蹂躙してきた全てを、その生き物を司る天使たちは見てきているんです」
なるほど。俺の察しが悪かっただけだ。たしかに考えてみたら恨みえげつないな。食用の人間とか、奴隷よりも酷い扱いの人間とか。考えただけで背筋が凍る。しかも有史から数えれば何億何兆・・・いや恒河沙、阿僧祇、那由他?
「でも、その恨みが俺に向くことはないよな?」
「そうですね。ですが貴方は画面の端の一般人。天使たちの恨みのこもった殺害方法もしくは死体の目撃者になってしまいます」
「そ、そうか。たしかにグロいのを見てしまうのはキツイかも。精神的に」
正直言えば、俺はスプラッター系の映画にはある程度耐性がある。ある程度なら我慢できそうだ。
そんな俺の少しだけ引きつった顔に、天使は首を傾げた。
「う~ん、まだまだ認識が甘いようですね。ちょっとだけネタバレしますが、耳を貸してください」
ごにょごにょごにょ。
うん。後悔。
そりゃそうなるな。
生きたまま・・・うん。
見た日にゃトラウマ確定。一生メシが喉を通らない状態になるな。
「子供向けの番組として仮面ライダーは、マイルドな表現になるようにフィルターがかけられていると思ってください。視聴者への配慮ですね」
なるほどな。俺も一瞬ドン引きした。もし今天使が言ったような殺害方法がテレビ放送されていたら確実に放送事故だ。
「実際、アギトの物語にはギルスとアナザーアギトという別の姿の仮面ライダーが出てくるんですけど、それはあくまで視聴者が別個体だと認識できる姿で撮影しているだけ。物語の中では人々から全く同じ姿に見えているんです」
そうか。玩具会社の販売戦略的なものとかじゃないよな。
「にしてもアギトって凄いな。天使と戦うのか。恐れ多いとかならないのか?」
まぁ俺の目の前にいる天使にも恐れ多いとかいう感情は湧き上がらないが。
「いえ。天使という存在だと主人公たちは気付かずに戦っていましたから。天使たちも自分たちのことを天使だとは名乗っていませんでした。ロード怪人というのが番組としての正式名称ですが、作中で彼らは自分たちの事をどうこう名乗ったりしませんでした。なので私もそのあたりを尊重して、石森さんへの説明にはその辺りの用語は使いませんでした」
なるほどこの天使なりに作品には敬意をもって用語を使い分けているんだな。別に俺にも分かるように専門用語を乱発しないようにしているわけじゃなくて。
「それでは石森さん。貴方が転生するのは、アギトの世界でよろしいですか?」
笑顔で尋ねる天使に、俺は笑顔で答えた。
「いいえ。俺は仮面ライダーアギトの世界に転生しません!」
ちょっと俺では耐性不足だわ。