「それでは次行きましょう。仮面ライダー龍騎の世界です」
ずいぶんノリノリだな天使。好きを仕事に、ってのは羨ましいもんだ。
「龍騎に登場するのは、ミラーモンスターです!」
ストレートな名前だな。モンスターとは。いきなり剣と魔法の異世界ファンタジーか。
「ちなみに世界観はクウガやアギトの時と同様に貴方の元の世界と同じです」
今の所、異世界転生って感じの転生先は無いようだな。っつうか考えてみりゃ特撮番組なんだから、元の世界と同じ世界観にしたほうが経費的に楽なんだろうな。
「というわけでやってきましたミラーモンスター。危険度は中の上です」
また分かりにくい評価基準を。そもそもクウガやアギトの時にはその評価尺度使ってなかったよな。
「で、どのくらい危険なんだ?」
「街中にライオンやクマが放たれた、みたいな感じです」
いや、たしかに怖いよ。だけどグロンギと何が違うんだ? 説明が雑になってないか?
「分かっていないようですが、ライオンやクマに喰い殺されるのって苦しいですよ。辛いですよ」
「え? そりゃまぁそうだが、でもどのみち殺されるってんなら」
「甘いですね。三毛別羆事件というのをご存じない? 獣害事件の目撃情報でも語られているように、動物に喰われている人はこう言うそうです。『早く殺してくれ』と」
天使の悪魔のような一睨みに、俺は背筋にゾクゾクと嫌な寒気を覚えた。
「それと比べればグロンギの殺し方なんて優しいものです。殺すのが目的であって、なぶり殺しにするパターンも多くは無いですから。もちろん残虐性に関して言えばアンノウンのほうが怖いですけど」
また知らない単語が出て来た。
「にしてもだ、何で怪物に襲われる前提で説明されてるんだ? 悪い奴らから人間を守ってくれるのが警察だろ? 仮面ライダーだろ?」
俺の正論に天使は『分かってないなぁ』と肩をすくめた。
「ミラーモンスターは文字通り鏡の怪物。襲ってくるとき以外は鏡の中の世界にいるので、普通の警察じゃ認識することもできないんです」
鏡に中の世界なんてありませんよ。ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから。
「もちろんそれは一般人の貴方も同じ。気付いた時には襲われて終わりです。野生の猛獣のようなものなので見境もないです。まぁ数を殺そうとしないで、食糧になる分しか犠牲にならないので運次第で、遭遇して助かる確率はグロンギよりかは高めかもしれませんね。少しだけ」
少しだけなのか。なるほどこれは転生拒否案件だな。
「というか、ずっとさっきから聞いているが、仮面ライダーは何をしているんだ? やっぱこの龍騎も助けが間に合わないのか?」
俺が問い詰めると天使は頬に指を当てて悩まし気に視線を上にやった。
「そうですね~。龍騎に出てくる仮面ライダーたちはミラーモンスター出現に対して感知能力を持っていますが、それでも間に合わないパターンはありますね」
「そうか。一応は助けに来てくれるのか。しかも“たち”って言ったよな。それなら」
わずかに希望を持つと叩き潰される。そんな予感が今回はした。
「龍騎に出てくる仮面ライダーって、基本的にライダー同士で殺し合いしていますから」
は?
あのさ、俺の勝手なイメージだけど。人類の自由と平和を守るのが仮面ライダー。じゃないの?
「中には人を守るためにライダーになった人もいます。ですけど基本的には自分のために戦っているライダーが多いです。一般人をあえて殺しに来るライダーもいます。この世界ではライダーに守ってもらおうなんてことは幻想だと思って覚悟しておいたほうがいいですよ」
いいですよ、じゃない。考え方を改めないといけないのか。怪人の危険度だけじゃなく、仮面ライダーの正義執行具合まで。いや気のせいか? 仮面ライダーがあえて人を殺すとか聞こえたような気もするが。気のせいか。
「何ですかその残念そうな顔。第一、仮面ライダーの手を煩わせる前提で考えないでください。自分の身は自分で守りましょう」
「はぁ? どうやって? 運に任せるしかねぇってアンタが言ったばかりだろ!」
馬鹿天使に呆れるしかない俺。この時点で運がないとしか言いようがない。
「鏡の中から襲ってくるモンスターだって言いましたよね? 襲われないように注意すればいいんですよ。鏡に近づかないようにしたり、鏡になるようなものに布やらを被せておいたり」
なるほど。たしかに“襲われた時には終わり”なら、スタートさえさせなければ安全というわけか。完璧な作戦だ。
「まぁ鏡とはいっても、金属の光沢の反射からでも出てきちゃいますけどね。ピカピカに磨かれた車のボディとか、自分の姿が写り込むガラスとか」
前言撤回。不可能だという点に目をつぶられていた。
「それでは石森さん。貴方が転生するのは、龍騎の世界でよろしいですか?」
笑顔で尋ねる天使に、俺は笑顔で答えた。
「いいえ。俺は仮面ライダー龍騎の世界に転生しません!」
するわけねぇだろこのトンチキがァーーッ!