「続きましては仮面ライダーカブトの世界です」
カブト、かぶと、甲。
「カブトムシ的な?」
ニコリと天使が「正解」と言ったのを見て、『ネーミングが安直じゃね?』と思った言葉を俺は飲み込んだ。ブレイドの時も思ったけど。
「カブトも石森さんの元の世界みたいな社会です。ですが、巨大な隕石がシブヤに落下して周辺地域が壊滅した世界ではあります」
「渋谷に巨大隕石!? チョイ待って、それって人類死滅してるんじゃね!?」
「石森さんの元の世界と同じような文明ですよ。巨大で人間の生態系に影響があったけれども、文明は今までの生活を維持できている。そんな程度の隕石です」
なんて都合のいい隕石なんだ。
「でも人間の生態系に影響があったんだろ? 巻き上げられた粉塵で太陽が隠れて、地表の気温が凍り付くぐらいに冷え込んで」
「花は枯れて、鳥は空を捨てて」
「人は微笑み無くす・・・どころの騒ぎじゃねぇ」
天使が両腕を広げたところで俺はツッコんだ。この天使の年齢が気になる。
「隕石そのものが、ではなくて。隕石にくっついてきたものが影響を与えたんです」
「それって、まさか今回の怪人って宇宙人なのか!?」
「その通り! 今回の怪人は宇宙生命体ワームです」
うわぁ、ついにきたかエイリアン系。俺、苦手なんだよなぁ。
「ワームかぁ、ビジュアルきつそうだな」
「そうですね。人によっては苦手かもしれないですね。虫ですし。でも仮面ライダーだって虫がモチーフですよ?」
虫かぁ。俺、虫とか触れないんだよな。セミとかカブトムシとか素手で捕まえてた友達の気が知れなかった。
「でもそうかぁ。仮面ライダーってバッタだったな。そこんとこ忘れてた・・・・。でもあれ? 今回のってカブトムシじゃなかった?」
「仮面ライダーはバッタばかりがモチーフではありません。今回はカブトムシですし、ブレイドもカブトムシです。それに虫以外がモチーフの仮面ライダーも多いんですよ」
そうか。それなら虫じゃない仮面ライダーがいいな。いや、そんなに虫っぽくないから大丈夫か。
「でも怪人が虫っぽいのも嫌だな」
「そうですね。たしかにワームはサナギ体も成虫体もゴリゴリに虫感があります。ですがその点は半分はご安心を」
半分?
「ワームは人間に擬態します。普段は人間の姿で、人間社会で生活しているんです」
「そういう漫画とかあるな。そういえば555もそうだな」
「オルフェノクとは少し違いますよ。ワームは人間をコピーして、元の人間と入れ替わってしまうんです」
怖い方のパターンの奴だな。
「人間と入れ替わって、元の人間殺しちまうのか?」
「そうですね。たまに殺さないこともありますが、その姿で悪事を働くので元の人間がその罪を被ってしまいます」
何その最悪の冤罪。
「たしかに石森さんの転生ではドラマチックな展開が起きませんが、それでもワームが擬態しまくりの世の中なので石森さんがもしワームを撃退できたとしても、他の所で擬態発動されて冤罪に巻き込まれてしまいます。そういう案件がそこら中で起きる世界なので」
「え? ワームを撃退?」
ちょっと俺の耳変? 怪人、一般人が撃退できるの?
「ワームはサナギ体と成虫体があり、サナギ体は一般人が武器を持って頑張れば撃退できるくらいの強さなんです」
「へぇ。それはありがたい」
「もちろん人を殺傷する力は十分に持っているので気を付けてくださいね」
たしかに、そりゃ怪人だもんな。あと成虫体には絶対に勝てないってのも理解した。
「もちろん成虫体に襲われる可能性もありますが、そこまで展開している時にはZECTや仮面ライダーが到着してくれていることが多いので、他の世界と比べればまだ安全かもしれないですね」
「ZECT? あぁ、なんとなく察した」
前回の響鬼の世界の猛士んときの話で匂わせてたもんな。ちゃんとしてない仮面ライダー組織。
「おっ、勘が鋭いですね。ZECTはワームと戦う組織で仮面ライダーを有しています。が、基本方針が人類を守ることよりも組織を守ること。そして既にワームが潜伏しています」
思ってたよりダメだった。
「ZECTの存在は石森さんに何かしら不都合にはならないので、気にしなければ大丈夫です。それよりも擬態したワームの悪行をどうにかしないと、下手すれば転生後のステータスが『囚人』になってしまいます」
それ。駄目。絶対。
「そうならない方法ってのはないのか?」
「そこが転生者の良い所。原作の設定を知っているからこそアドバンテージを取れるのです」
ほぉ。ここに来て初めて聞いたな。やっぱ転生ものは原作知識で有利にチートしねぇと。
「で、どういう知識を教えてくれるんだ? 俺はどうすればいい?」
「常時アリバイを確保して、いつでも自分の潔白を証明できるようにすればいいんですよ。ワームが石森さんをコピーしても、石森さんがワームじゃないと判別できればいいんです」
なんか急にミステリー作品になってきたな。
「でもそれって厳しくないか?」
「そうですね。警察にはそれで通用しますね。ちなみにワームの擬態は完璧ではないので本物とは匂いや肌質、体温に違いがあります。なのでそのあたりを根拠に親しい人に確実なアリバイを確保しておけば、変なトラブルに巻き込まれた時に少しでも困らずに済むでしょう」
匂いや肌質、体温ね。
「あとは笑いのツボが違います」
それ、どう判定するんだよ。なんて顔を俺がしていると、天使は親指を伸ばしながら俺の背後に回った。
「笑いのツボ!」
「ゲフン」
首を指で突いてきた。痛ぇ! というより、呼吸が一瞬止まりかけた!
「なにしやがんでぇ!」
「笑いのツボを押すと、普通の人間を強制的に笑わせることができるんですが、ワームのこのツボを押すと強制的に泣かせることができるんです。なので石森さんの笑いのツボを押そうと思ったんですが・・・ん、まちがったかな?」
経絡秘孔を突く話!? どこの世紀末だよ!
「とにかくこのツボを習得して押してもらえる友人さえ作れば、いつでもワームではない証明ができるようになります」
そういうものなのか? いや、それって人間の証拠になるのか?
「それでは石森さん。貴方が転生するのは、カブトの世界でよろしいですか?」
笑顔で尋ねる天使に、俺は笑顔で答えた。
「いいえ。俺は仮面ライダーカブトの世界に転生なんかしません!」
色々教えてもらったけど、やっぱ虫の怪人の世界は嫌。