ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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皆様お待たせしました。
トラブルがありましたが何とか更新できました。

平時のカルキノスはこういうことをする奴というお話。


カルキノスはハイポーションを調合した!

 

ルファスは上機嫌であった。

16歳を迎え、レベルが900になったというのもあるが最近はとんとん拍子で話が進んでいるからだ。

23枚の画図を元にプランと何度も協議を重ねた結果、治療に必要な具体的な工程やどんな効能のポーションが必要なのかを割り出すことに成功したからだ。

 

 

 

 

一つは現状ミズガルズでは類を見ない程に強力な肉体的な損傷を修復させる程の治癒能力のあるポーション。

クラウン帝国の後方支援部隊でも【ヒール】の上の天法を使える者は少ないが、求められるのはそれらと次元が違う程に強力な天力を宿したポーションだ。

これには【アンタレス】という身体の中に宿り続ける異物を排除する能力も求められる。

 

 

二つ目に必要なのは呪詛を解呪するための聖水としての性質だ。

かつて“子隠し”騒動の際にピオスはリュケイオン中に聖水を配っていたが、実を言うとミズガルズにおいて聖水というのは知名度はあまり高くはない。

亡霊だの呪だのを気にするよりも現実的で物理的な脅威の多いミズガルズでは圧倒的にポーションの方が需要があるのだから。

 

 

 

 

腕を組む。

目の前に置かれた【ハイ・ポーション】を見つめて頷く。

前に作っていた奴よりも何段階か上の品だ。

 

 

 

 

肉体の欠損は無理でも骨折くらいならば数秒で治せるほどの効能をこれは秘めている。

ミズガルズ中でも上位に位置する程に優れたポーションだ。

試しにユーダリルにプランが持って行った所、一つあたり5000エルの値さえついたものである。

 

 

16歳を迎えて一週間。

完全に新しい自分の肉体に慣れたルファスはまたポーション作成を繰り返していた。

“熟練度”を順調に上げる作業はともすれば退屈ともいえたがこの小さな積み重ねが大事だと判っている故に彼女は文句を言う筈もなかった。

 

 

 

それに幾つか売却したり、リュケイオンに配布したソレが巡り巡って誰かを助ける事になるかもしれないと思えば満足感さえ湧いてくるものだ。

 

 

 

黙々と彼女は作業を続ける。

天地を砕く力を所持する存在とは思えない程の勤勉さで。

 

 

薬草を潰す。

壺に清水を満たす。

決められた割合でソレを混ぜ合わせた後に沸騰させ、成分を抽出後に【錬成】をかける。

 

 

そうすればまた一つ【ハイ・ポーション】の完成だ。

これで都合5個目となる。

その完成をもってルファスの熟練度はまた一つ上昇する。

 

 

 

単なるポーションを作っていた時よりもその上昇幅は大きいとルファスは本能で悟る。

難しいモノを作ればそれだけ経験値も多く貰えるということは誰でも納得できる当然の理屈だ。

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

窓の外を見る。

陽光の強さから見てもうそろそろ昼時も近い。

朝食を取ってから直ぐに始めた行為に夢中になりすぎていたようだ。

 

 

 

とりあえず今日はこれくらいにしておくかとルファスはぐっと背伸びをすると、窓にハトが止まる。

首元に書簡を巻き付けた伝書鳩だ。

白い身体をプルルと震わせた後、ルファスに向けて何かを訴えるようにクルクルと鳴きだす。

 

 

 

【モンスターテイマー】によって制御されたハトは普通の伝書鳩よりも知能/体力が高くミズガルズにおいても重宝される交信手段なのだ。

ちなみにこのサービスを提供しているのは天翼族である。

 

 

 

 

「ご苦労様」

 

 

 

遠路はるばるお仕事を果たした働き者に少女は労いの言葉をかけてやる。

そろそろ来るかなと思っていたルファスはしっかりとご褒美を用意していた。

ポケットに忍ばせていたパンくずをハトに与えてから書簡を受け取る。

 

 

 

 

広げて確認すればこれは手紙だった。

差出人はもちろん、彼女の友達である北星奈々子だ。

慣れないながらも必死に覚えようとした努力の跡がうかがえるミズガルズの共用言語で手紙は書かれていた。

 

 

 

中身は何てことは無い冒険の記憶だ。

どこどこの村に寄ったや、どこの景色が綺麗だったや、イイひとに出会ったし、悪い人にも出会ったという内容だ。

どうやら彼女はしっかりと勇者の役目を果たしているらしく、もうしばらくしたら光の妖精姫にも話を聞きに行くらしい。

 

 

お題はもちろん竜王だ。

竜殺しの武器の話や、できれば彼女の保持するとされる軍勢の力を借りれないかと相談してみるつもりだと書かれていた。

 

 

 

(……違う、ナナコはまだ間に合う……絶対に間に合わせて見せる)

 

 

 

脳裏をよぎるのは萎びた冴えない男の顔。

アリストテレスの始まりの怒りの一つであり、何処にでもいるただの善良な人。

空回りが多く、報われない事も多々あったがそれでも誰かの為に動けた紛れもない勇者。

 

 

彼を本当の意味で勇者だと知っているのはアリストテレスとルファスだけだ。

ポルクスと出会う事もなく死んだ彼はきっと英霊の軍勢にも登録されていない。

そんな男の無駄ともいえる死とそれを当然とのたまう世界への怒りがアリストテレスの怒りの種火だった。

 

 

彼らの願いは知った事じゃないが、その怒りだけはルファスも共感できた。

 

 

 

そして……ポルクス。

光の妖精姫。

多くの勇者を送り出した者。

 

 

 

ルファスの顔が微かに歪む。

彼女はアリストテレスより全て茶番だと種明かしを受けている故に微かに胸騒ぎがした。

もちろん奈々子が直接竜王とぶつかり合う事はない……筈だ。

 

 

出発の前、彼女はプランやアルカスに言いつけられていたのだ。

まだ竜王そのものには手を出すな、と。

 

 

 

彼女の目的は時間稼ぎだ。

最強ともいえる勇者の力を使って徹底的にゲリラ戦に徹する。

人類が竜王への反抗作戦を行うための準備時間を作り出すのが彼女の役割である。

 

 

 

気に入らないがベネトナシュ。

勇者。

プラン。

そして自分。

 

 

 

真っ赤な瞳が鋭くなる。

直接であったことはないが、ただ存在するだけで自分の望みを邪魔してくる竜王への嫌悪を彼女は湧き上がらせている。

イカれたクソトカゲめ。そんなに絶望が好きならば自分のを味わっていろと。

 

 

全ての準備を終えた後、改めてかの怪物と雌雄を決するのだとルファスは思っていた。

その為にも力と知識は必要であり、プランの治療は必須条件でもある。

 

 

泣こうと笑おうと勝負はあと3年の内に決まる。

ならば最後は大団円、全員で悪党を倒して平和な世界の門出を笑顔で迎えたかった。

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

ひたすら集中を続けていた頭をリラックスさせるように軽い物思いに耽りながら窓の外を見ていたルファスだったが、奇妙な物を発見して声を上げた。

あれは恐らく……カルキノスだ。何やら黒いローブを纏い、頭には馬を模した被り物をしているが。

その様を見守るギャラリーには母とその膝の上に乗ったアリエスがいた。

 

 

後は何処から持ってきたのか知らないが植木鉢に入ったバロメッツが数体。

 

 

 

「んんんん?」

 

 

 

何だ、と身を乗り出してみる。

彼は屋敷の庭にテーブルを持ち出し何か作業をしているようだった。

ルファスの12.0の視力は彼が用いているのが様々な薬草であることを見抜いた。

 

 

 

屋敷にあった薬草事典の中身を暗記している故にルファスは更に混乱を抱く。

色とりどりなどというレベルではない。

傷薬の原材料から滋養回復、果てには性的な活力を奮起させるものまで、本当に手あたり次第としかいいようがない。

 

 

 

グツグツと火にかけられた鍋を前に馬の被り物をしたカルキノスは腕を組んでいる。

黒いローブと併せてまるで何かのカルト教団の構成員染みた雰囲気であった。

そんな彼を母とアリエスはワクワクを隠せない顔で見つめていた。

 

 

あらゆる全てが意味不明だった。

 

 

 

 

「何やってるの……?」

 

 

 

「え? え??」

 

 

 

完全な素の女性口調が出てしまう程にルファスは困惑している。

え? まさか、それ全部使うの? と呟く。

 

 

「…………!」

 

 

 

いやいや、まさか、と思う。

全力で飛び出していきたい気持ちを必死に抑え込みつつ彼女は冷静に状況の分析に努めた。

耳を澄ませばいつも通りテンションの高い彼の声を彼女は聞き取れた。

 

 

 

『YES!! 昨今はレディがポーションのcreateに熱中しておりまして! 

 これはミーも負けてはいられないと思いました!!』

 

 

足元まですっぽりと覆うローブと馬の被り物のせいで動きづらいのか何時もの大仰なリアクションの代わりにクネクネと身体を揺すりながら彼の演説は続く。

 

 

 

『レディとは違ったtypeのポーションをミーはcreateいたしましょう!!

 そう、今宵YOU達は新たなhistory誕生の目撃者となるのです!!』

 

 

 

わー、ぱちぱちという小さな拍手。

見ればバロメッツ達が自分の葉を叩き合わせて器用に人の拍手の真似をしている。

ちなみにアウラは普通に彼の演説に感銘を受けたのか熱心に手を叩いていた。

 

 

「メェェェ……」

 

 

アリエスだけがぷるぷる震えながらカルキノスを見ていた。

机の上に大量に置かれた薬草といつになくハイテンションのカルキノスを見た結果、彼は嫌な予感がしているようだった。

自分の友達は基本的にはいい奴だが、こうなるととんでもない空回りをすることを彼は知っているのだから。

 

 

 

 

「気持ちは嬉しいけど……」

 

 

ルファスもまたアリエスと同じ気持ちで呟く。

この暴走癖さえ何とかなればカルキノスは文句なしの完璧超人になれるのにとさえ思った。

それはそうと、実の所カルキノスの作るポーションとやらにも僅かに興味があるのも事実だった。

 

 

参考書に書かれていないという事は大抵の人が「思いついたけど止めておいた」ことであり失敗が前提の話である。

だがしかし、中には本物の新発見が混ざっている事もあるかも……しれない。

 

 

 

とりあえずルファスは窓の淵に肘をつき、カルキノスの挑戦とやらを見守る事にした。

母に何かが起きそうな場合は飛んで行ってどつくかもしれないが。

 

 

 

そして地獄が始まる。

 

 

 

 

『まずはこの薬草たちをshoot!!』

 

 

むんずと手に取った薬草の束をカルキノスはレベル800相当の握力で高密度に圧縮した後、お湯を張った鍋に投下。

合計12種類の薬草たちは市場で買いそろえれば40エル位にはなる中々に高価な出だしであった。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

表情こそ変わらないがバサバサバサバサバサと翼が狂ったように左右に暴れ回る。

いま、自分はとんでもないモノを見てるのかもしれないと別の意味での期待をルファスは抱き始めた。

ジュワァァァと鍋から怪しい煙が噴き出し始める。

 

 

まだ液体の色は薄い緑色。

まだ飲める。まだ。

かぐわしい香にテンションが上がり始めたカルキノスが両腕を大きく広げて喝采を叫びながら次の犠牲者を選び出した。

 

 

 

『いいですよ!! 実にCOOLです!!』

 

 

 

布袋に包まれていた丸薬を取り出す。

ユーダリルで有名な滋養強壮薬であるランケルとかいう薬品で、お値段はしめて60エル。

そろそろ加齢が気になってきた男性が飲むと一日休まず働けるという触れ込みの逸品である。

 

 

『これを適量入れましょう!! YEEEEEEEEEEEES!!!』

 

 

 

「適量っていっただろ! 何をやってるんだ!!」

 

 

 

合計100エルの価値ある品をぶち込まれた鍋をカルキノスはかき回していく。

 

 

 

ここからでは届かないと知りつつルファスは頭を抱えて叫んだ。

平時ならともかく、今の熱狂してるカルキノスは外部の声をイイ感じに遮断しているのだ。

ああなってしまったらもう止まらない。少なくともプランあたりにどつかれるまでは。

 

 

 

我慢できねぇと言わんばかりにカルキノスは布袋の中身を全部、ひとつ残らずぶち込んでしまった。

一粒で成人男性が一日ハッスルできる丸薬を最低でも20個以上だ。

グツグツと煮込まれる鍋の色が微かに淀む。

 

 

 

アリエスがぷるぷるを通り越してガタガタ震え出した。

バロメッツ達がひそひそと囁きだす。

間違ってもあんなのかけられたら俺たちは終わりだと言っている。

 

 

 

しかしアウラだけは微笑みながら事の成り行きを見守っている。

どうやら本心から彼女は今の異常を異常だと判っていないようだった。

大切な恩人が心から楽しみながら新しいことに挑戦しているのならば応援するのがアウラという女性なのだ。

 

 

 

「そこは逃げてよ……」

 

 

 

窓枠にしがみつきながらルファスは母の純粋さに愚痴を零す。

確かにカルキノスは信頼できる最高の仲間の一人ではあるが、それはそれだ。

 

 

 

 

 

『まだまだ行きますよ!!』

 

 

 

 

ごそごそごと丸薬、薬品、ポーション、薬草をカルキノスは次々と鍋の中に放り込んでいく。

 

 

 

 

 

“男の矜持” 40エル。

 

 

乾燥させた薬草からエキスを抽出し凝縮させた薬品。

 

 

【男ならば我が道を征け。昨日の俺より今日の俺は強い】

 

 

 

“カリスマ・スティック”80エル。

 

 

これまた強力な滋養強壮薬だ。

多分に興奮剤が含まれているのが特徴である。

かつての夫の部屋にも同じモノが置いてあったことを知っていたアウラは苦笑した。

 

 

【生涯現役。働く貴方に。奥さんと末永くお幸せに!】

 

 

 

 

 

“ザ・キング”お値段は堂々の100エル。

 

 

あらゆる興奮剤などをブレンドしてぶち込まれた混沌とした一品。

聞けばその名の通り王族は「ここだ」という日にこれを服用し一族の発展に努めるのだとか。

 

 

【王に不可能は無い。王たるもの、誰もが路を切り開く開拓者だ】

 

 

 

 

“スッポン・パワー”80エル。

 

 

誰もが知っている有名な亀の体液を濃縮した丸薬だ。

ミズガルズにおいてもスッポンは色々な意味で有名な存在である。

もちろんカルキノスはこれを瓶一本丸ごとぶち込んだ。

 

 

 

さすがはスッポン。

コレが投下された瞬間から鍋の色が明らかに変化した。

年季あるレンガを溶かし込んだ様な色に。

 

 

 

ブクブクブクブクと表面が泡立つ。

遠目から見ているルファスでさえソレを見て想起したのはかつてプルートで気配を感じたヘルヘイムだ。

きっとヘルヘイムにはこんな沼があるのだろうと彼女は思った。

 

 

かの魔王が聞けば全力で否定しそうな話ではあるが、実際これは見る地獄だ。

数多くの参考書を読み漁り、常人より遥かに優れた頭脳を持つルファスや、もしかしたらアリストテレスでさえこんなものは予測できないだろう。

 

 

 

「メェェェェエエエ……」

 

 

 

顎を外れそうな程にあんぐりと開けてアリエスは交互にアウラと鍋を見比べている。

やはりというべきか彼が敬愛する女性はワクワクした顔をしていた。

「うそでしょ? え……?」と彼は絶望した。

 

 

 

『YES……いい感じですねぇ……新しいpowerを感じます……。

 新しいworldへの扉をミーはいま、開こうとしているのです……』

 

 

 

合計400エルをぶち込まれた鍋をカルキノスは鼻歌交じりにかき回す。

お前が開こうとしているのは地獄の扉だとルファスは歯ぎしりしながら呻く。

 

 

 

『おっと、ミーとしたことが!』

 

 

 

まだ続くのか! 眼を見開くルファスの前でカルキノスが取り出したのは鷹の爪、にんにく、生姜だ。

普通に使えば寒い夜を乗り切る心強い味方になりそうなそれらを何を狂ったのかカルキノスは手早く切り刻んで鍋に投入。

 

 

 

『これで身体の芯からHOTになれます!』

 

 

 

 

「……うぇ」

 

 

 

込みあがってくる胃液を押し込むために口元をルファスは押さえた。

ヴァナヘイムにいた時、地面にぶちまけられたパンなどを食べた事もあったが、それでもまだあれらは食べ物として成立していた。

もしもこれが出てきたら当時のルファスは泣いていたかもしれない。

 

 

 

 

【観察眼】

 

 

 

試しに【レンジャー】のクラスを得た事により手に入れた能力を使ってカルキノスの作ったポーションを見てみる。

ザザザザザとノイズが走り、何度も何度も名前が書き変わっていた。

何せミズガルズに初めて誕生したであろう【アルケミスト】の助力なしで完成したポーションである。

 

 

 

初めて産み落とされた品をどう表現すればいいか女神の理が熟考しているのかもしれない。

もしも(まずありえないだろうが)同じ品が再び作られた場合に効率よく処理するために。

 

 

【ハイ・ポーション】

 

 

 

「アレがポーションなものか!」

 

 

ルファスは宙に向けて声を上げた。

聞いているかどうかは判らないが、ポーション製作者として断じて認められないと。

 

 

世界が軋む。

女神の法がこの……【検閲】をどう表現すればいいか回り続けていく。

 

 

 

 

【HIGHポーしょん】

 

 

「……表記がおかしくなってきたな」

 

 

 

“カルキノスのお手製ポーション。飲むとHPを1000回復させる”

 

 

フレーバーテキストが用意される。

一応ポーションとしての効能もあるようだ。

HPは回復するだろうが、きっとアレを飲んだら私でも死ぬな、とルファスは冷や汗を流しながら思った。

 

 

もしも使う時があるとするならば、自分で飲むのではなく強敵に飲ませる方向で考えるだろう。

 

 

【マッド・エキス】

 

 

 

変わる。

まだ足りない。

こんな文字列では表現出来ていない。

 

 

 

【不純物OF不純物】

 

 

 

それはただの不純物だ。

少なくとも飲み物ではない。

 

 

 

 

【ゲロ】

 

 

 

 

「諦めたな……」

 

 

身もふたもない表現にルファスは初めて女神に同情を覚えた。

アロヴィナス神は美と愛を司る神というらしいが、そんな彼女も絶対にこの表現は使いたくなかったに違いない。

 

 

 

 

「うっ……」

 

 

 

改めて完成しつつある品を見てしまいルファスは再び口元を手で押さえた。

鍋に満たされているのは茶黒色の泥としか言いようがない。

あれは正しく“ゲロ”かもしくは排水溝に溜まったドロだ。

 

 

妙にべたべたしていて、更にはトロついているのが最高に気持ち悪い。

 

 

ここまで匂いは来ない筈なのに何故か鼻の奥が痛くなった。

見ればアリエスが白目を剥いて虚空をぼーっと見つめている。

あぁ、ここで僕は死ぬんだなと諦めきった顔だった。

 

 

しかし母は変わらずだった。

ニコニコとカルキノスの傑作を笑いながら見つめている。

ヴァナヘイムで死線を潜り抜け、更には去年の事もあり並大抵のことではよくも悪くも彼女は動じない精神を得ていた。

 

 

 

 

『ここまでくればCompleteはもう間近です!』

 

 

 

ルファスは無言で窓枠に足をかけた。

もはや言葉は何も出てこない。

ここまで来たら一応は完成まで見逃してやるつもりではあるが、あれを母に飲まそうというのならばカルキノスには少し反省してもらう必要が出てくる。

 

 

 

 

『YES!! これこそ正にNEWなハイ・ポーションです!!』

 

 

 

『ふっ……ついに出来てしましましたね。

 このNEW GENERATIONはもう誰にも止められません!!』

 

 

 

手際よく不純物を取り除き、コップにトロォと注ぐとカルキノスは傑作の誕生に喝采を上げた。

バロメッツ達が死んだ顔で拍手をし、アリエスは全身の体毛を危険色に変化させた。

アウラはやはり相変わらず無邪気にアリエスを撫でながら喜んでいる。

 

 

『今こそミーは新たなworldへ向けて第一歩を踏み出しましょう!!』

 

 

 

「……いい奴だった」

 

 

 

ルファスが瞑目し空を仰ぐ。

さすがの彼女もこれから起こるであろう大惨事を直視したくはない。

 

 

 

ポーションで満たされたコップを太陽に翳す。

中身は全く輝かずどす黒いままであった。

そんな物をカルキノスは疑うことなく一気に傾けて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴ゛ォ゛ェッ゛

 

 

 

 

 

そして彼は旅立ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、プランの元に一通の手紙が届いた。

アラニアのサインが刻まれたソレはエルフ達からの招待状である。

ポーションを始めとしたあらゆる薬品の製造を受け持つ彼らは今、一つの危機に直面しており、その解決の為にアリストテレスの助力を願いたいというものだ。

 

 

 

 

高位のポーションや薬を作るには必須となる【ウルズの泉】が枯れ始めている。

このまま事態が悪化すれば、人類はあらゆる薬品を失う事になるというものだった。

 

 

 

 

そしてもう一つ、暗号化された文にはこうも書かれていた。

 

 

 

 

 

───ミョルニルの戦いで採取できた竜王の血の分析が部分的に完了した。

 

 

───竜王の血にはとてつもない天力/魔力の増幅効果が見受けられ、ともすれば全く新しい薬の製造の可能性がある、と。

 

 

 

 

執務の手伝いを行いながら、チラリとその文を読み、解読に成功したルファスは燃えるような笑みを浮かべていた。

 

 




カルキノス

三日ほど寝込むことになった。


【ゲロ】


何を狂ったか残りは廃棄されず保管されているとか。
飲めば一応しっかり回復はする。





やっぱり来週の更新は難しそうです。
申し訳ありません。
仕事が安定するまでこんな感じになってしまいそうですがご容赦ください。

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