ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
【光の妖精姫】とも称される世界最古の妖精。
数多くの勇者に武器と助言を授けて送り出したとされる。
不愉快な詐欺師め
「メメメメ!!
ぴょん、ぴょんっとアリエスは跳ねまわりながら喜びを表現している。
真新しいベッドの上で彼は主であるルファスの新しい門出を祝う様に踊り狂っている。
さすがにこれ以上跳ねられたら用意してもらったベッドに傷がついてしまうかもしれないのでルファスはアリエスを宥める。
バサッと翼を大きく羽ばたかせてからアリエスに苦笑交じりに言い聞かせる。
「こらっ。折角の新しいベッドなんだぞ?」
「メメメッ! めぇメっ!」
一瞬だけピタッと停止したアリエスだが、直ぐに活動を再開し始めた。
さすがに今度は飛び跳ねたりはしなかったが、柔らかさを堪能する様にシーツの上で仰向けになると四本の足をピーンと天井に向けて伸ばす。
そのままじっと見ているルファスの前でアリエスはうつらうつらと頭を揺らし始めた。
更に見ていればとうとうアリエスは完全に寝入ってしまった。
記念すべきルファスのベッドの初めての使用者はアリエスであった。
「全く。仕方ないな」
はははと笑うと、毛布をかけてやる。
もぞもぞとアリエスはソレを器用に抱き込むとゴロンと寝返りを打ち、本当に熟睡を開始。
「私の部屋……」
ルファスはぐるっと室内を見渡して感慨深く呟いた。
ふかふかのベッドには新品のシーツがしっかりと敷かれている。
更にはプランが用意してくれた天翼族用の、翼を通すための切れ込みが入っている特性の安楽椅子だってある。
しっかりした作りの勉強机と幾つかの椅子。
ルファスの背丈よりも大きな本棚にはびっしりとポーション/天法/医学などの参考書が詰め込まれている。
寒い時に使うために設置された薪ストーブも新品でピカピカに輝いていた。
当然、女性には必須の鏡面台もしっかりと部屋に配置されている。
その他、生活用品などが完備されたこの部屋はルファスだけの部屋だ。
日当たりも良いこの洒落た部屋はルファスの16歳の誕生日に際して彼が企画していた贈り物であった。
今までは母と部屋を共同で使っていたルファスであったが、このたび晴れて自分の部屋を手に入れたのだ。
この彼女の部屋はルファスの精神の変化/自立の象徴ともいえた。
ようやく彼女は母から眼を離しても安心できるようになったのだ。
これまではヴァナヘイムの経験もあって自分が片時も離れず母を守らなくてはならないと強迫観念を抱いていたルファスだったが、もうその必要はないと一種の卒業をしたのだ。
……まぁ、ちょっと前のカルキノスみたいに【ゲロ】を飲ませようとするやつがいたらぶん殴るだろうが。
もう母は悲しまない。
もう母を苦しめる存在はいない。
そして今の私達には多くの味方がいる。
もしも誰かが悪意をもって接してこようと皆で立ち向かえる。
リュケイオンを自分の故郷であると定義した彼女は、今まで自分に課していた重荷をようやく降ろす決意が出来たのだ。
誰しもが通る道である親離れ、その第一段階にようやく彼女は足をかけ始めた。
「たった6年でこうも変わるとはな」
椅子に座り、鏡面台を開く。
鏡の中に映る自分の顔は自分でも驚くほどに落ち着いていて、穏やかだった。
何も言わず微笑んでみれば母と瓜二つの少女がそこにはいた。
外見は母に似た。
そして中身は……苦々しいが父に似た。
間違いなく自分はアウラとジスモアの娘であるとルファスは認めている。
ぐにぐにと自分の頬を弄る。
当然鏡の中の少女の顔も面白おかしく歪んだ。
くすくすとその様を見てルファスが笑えば、少女も笑う。
「本当に色々あったな」
鏡の中の自分に話しかける。
もちろんこんなのは独り言の延長線上で、返事など帰ってこない。
これは彼女なりの気持ちの整理であった。
ここでの暮らしでは常に隣に誰かが居た。
そう、いつだって誰かが気に掛けてくれた。
こうやって完全に一人になるのは珍しい事であり、少しばかり落ち着かない。
「ここに来れて良かった」
「ね?」 と扉に向けて続けると、ゆっくりドアが開いていく。
遠慮がちに顔を覗かせたのはアウラであった。
どうやら彼女も久しぶりの一人に少しばかり落ち着かない様子で、こうやって娘の様子を見るという名目で顔を出したようだ。
「……」
「ごめんなさい……失礼したわ」
ルファスの顔を見て安心したのか覗かせていた顔をすーっと扉の影に戻して立ち去ろうとする。
だがルファスは目にもとまらぬ速度で母に駆け寄ると、がっしりとその腕を掴む。
ぐいぐいと部屋の中に母を引っ張り込もうとすると、意外にもアウラは無駄だと判りつつも抵抗するような仕草を見せた。
「遠慮しなくていいのに!」
「……お邪魔しても?」
見れば彼女の視線はきょろきょろとあちらこちらをさ迷っていた。
初めて娘の部屋に入る事によってどうやら緊張しているようだ。
アウラにとっても娘の部屋に初めて入るというのは一大イベントであり、どうやらまだ心の準備が出来ていないらしい。
「まって……まだ、準備が出来て……」
パタパタと白い翼を震わせてアウラは己の身なりを気にしだす。
彼女も女。こういう記念日には衣服を整えたいと思うのは当然だ。
こんな何時も着ている質素なローブで大丈夫かしら?
化粧だって出来ていない。
新しい門出を祝うプレゼントだって……。
しかしルファスはそんなことを気にする気質ではない。
母の葛藤を知った上で蹴っ飛ばす。
「いいの! ほら!!」
「あぁぁ……」
哀れ、レベル900の娘に腕力で勝てる筈もなくアウラは部屋の中に引き込まれてしまう。
ばたんと無情に扉が閉まり、アウラは目を白黒させながらカチカチに固まった状態でルファスの勧めた椅子に腰かけた。
バサバサバサバサと白い翼だけが婦人の動揺をこれ以上ない程に表現している。
今まで決して見た事のない母の姿にルファスは笑みを浮かべながら手際よく茶を淹れる。
母と交代でプランに淹れている甲斐もあってか中々のモノだと彼女は自負していた。
「ちょっとだけゆっくりしようよ」
娘の言葉をアウラが断る筈もなく、茶菓子をつまみながら親子は雑談に興じるのだった。
この後は特に語る事もない。
今までの6年間の思い出を母子は語り合い、遠くから聞き耳を立てていたカルキノスだけが微笑んでいた。
「エルフの森に行かれるのですね。
なるほど、確かに貴女の目的を考えるにそれが一番かと」
翌日、朝早くからルファスは質素な教会へと足を運び、ピオスと会話していた。
エルフの森への出立が決まった事をルファスは天法と医術の師でもあるピオスに報告したのだ。
……これは報告でもあり同時に相談でもあった。
女神の教えなど全く、これっぽっちも信じてはいないルファスだが、ピオス司祭の事は信じている。
プランとは別種の頼りになる大人に彼女は己の胸中にある不安を打ち明ける為に教会を訪れていた。
そして今更の話ではあるがルファスはピオスにもおおむねの事情を話している。
その上でこの老いた司祭は若き天翼族に協力しているのだ。
自分は無理だと断言した。しかしこの少女ならばできるかもしれない、と。
「予感がするんだ。今回の旅で私がどれだけ成長できるかどうかで未来が変わるかもしれないって」
ぐっと拳を握りしめ、ルファスは言う。
緊張と高揚と微かな不安を宿らせた翼がざわめいている。
しかしピオスはいつも通りであった。
カルキノスとも違う泰然自若っぷりで彼は椅子に座ると不安に駆られた若き天翼族に微笑む。
「貴女は努力を重ね、心から彼を救いたいと願って行動しています」
彼の言葉には上っ面だけじゃない、本当の意味で心が宿っていた。
ピオスはもう60も間近な人間の男だ。
ミズガルズにおいては殆ど老人と言っていい。
ロイやらベネトナシュ、ポルクスといった永遠の命を持つ存在を見ていると感覚がズレてしまうが、人間は60を超えればもう老人なのだ。
その年でも未だにピオスは司祭だ。
彼は多くの人を助け、かのミョルニルにさえ幾度も足を運ぶほどの勇気があるというのにだ。
明らかにピオスは女神を崇める教団の中でも鼻つまみ者として扱われている。
彼の独特ともいえる女神への捉え方/解釈は女神を絶対とするミズガルズにおいては異端児としか言いようがないからだ。
アリストテレス等と言った問題児の統治する街に派遣されたのも一種の島流しの様なものだった。
最も、ピオスはそんなこと気にした事もなく、出世など全く考えた事もないが。
彼は同僚たちよりも多くの経験を積んでいるとむしろ今の扱われ方に感謝さえしていた。
「人は誰しも昨日より良い自分になりたい、明日はもっと素晴らしい一日にしたいと考えるものです」
「しかし、多くの方はその第一歩を踏み出す事が中々できないものなのですよ」
それはレベルという判りやすすぎる程の強さの指標がある世界だから発生した問題。
つまるところ、この世界の人間はレベルを上げる事以外の自分磨きを余りしようとしないのだ。
例えば誰かが明日を良くするために何か行動を起こそうと思い立ったとする。
本を読んで新しい知識を蓄えるでもよし、気晴らしに絵を描く事を始めるでもいい。
頭の中に思い浮かんだ魅力的なフレーズを箇条書きにして、詩を作ってもいいか。
だが次に彼が考えるのはこういうことだ。
失敗したらどうしよう?
無駄だったらどうしよう?
そもそもレベルが上がらなければ意味がない。
全てとは言わないが、ピオスの見てきた限りは8割ほどはそんな考えに支配されている。
故にミズガルズの文化と文明の発展は歪なのだ。
リュケイオンに派遣される前から、それこそ若き頃よりミズガルズを見てきた男はこの世界の人々に対しての意見を解いていく。
この、まるで何者かに思想/思考/文化を縛り付けられているような不便で歪な世界を。
そして“何者”かの正体にピオスは既に感づいていた。
動かない人が多い中、自分の罪と向き合い必死に贖罪しようとしているルファスを彼は司祭として丁寧に導いていく。
「物事を始めるチャンスを貴女は逃さなかった。
今は果物の種の様に小さく実感できないかもしれませんが、きっとそれは芽を出す事でしょう」
ピオスから見たルファスは必死に行動している。
レベル900という本来ならばもう満足してもいい程の力を持ちながらも、レベル以外の所に眼を向け、こんな老いぼれの所まで来ている。
ミズガルズ中をがむしゃらに飛びまわった経験とその過程で蓄えた蘊蓄でよければ喜んで彼はルファスに提供するだろう。
「……少し残酷な話になりますが、人の想いは言葉にしなければまず相手には通じません」
どれだけ相手を思っていても言葉にしなくては伝わらない。
胸の中で秘めるだけの愛を判ってほしいなど、ただの我儘だ。
うん、とルファスは素直に頷く。
心って難しいという真理を知った彼女にとってそれは当たり前の話だった。
人と人は、皆が思っている以上に相互理解が難しい生き物なのだ。
「そして言葉だけでは無駄になる事も多いのです。
亡くなる瞬間に判り合えた所で、それでは意味がないのだから」
多くをピオスは見てきた。
本心を伝え合う事が出来ずに死に別れした人々など、それこそ海の砂ほどに。
ミズガルズとはそういう世界なのだ。
「…………」
ルファスはぐっと唇を噛み締めた。
恐ろしい程にストンと彼の言葉が胸に落ちてきたからだ。
怖い程に理に適っている。
もしも、15歳の夜にジスモアが来なかったら?
あの出来事が起きなかったら?
母に本心を暴かれこそしたが、己の心を受け入れるのに更に無駄に時間がかかったことは想像に容易い。
(……!!)
少し想像するだけでソレは恐怖だった。
何も知らないまま全てが終ってしまい、自分だけ取り残されるという最悪の可能性だ。
そうなったらプランは怪我こそ負わなかったかもしれないが、その分竜王への対策に本腰を入れるのは想像に容易い。
そして自分はそんな彼の事を逆恨みしつつ、うじうじと悩みながらプルート留学の話を受けてしまっていただろう。
司祭は滔々と己の人生で得た答えを惜しむことなく少女に説く。
彼は何処までも司祭であり、女神に使える者であり、世界に平和と安寧を望む男なのだから。
「思いだけではダメなのです。
言葉を尽くしても足りない事は多々あります。
勿論この二つも大事ではありますが、最も重要なのは行動することなのですよ」
老人は微笑んだ。
既に言うまでもなくコレを実行している少女に対しては今更だと理解している故に。
「そうすれば成功にせよ、失敗にせよ“結果”を得る事ができるのだから」
「命がある限り貴女の人生は続きます。
行動して得た結果は必ず何処かで役に立つことでしょう」
老人の教えに若き天翼族は眩しいモノを見るように目を細める。
本当にこの人がヴァナヘイムの教会に居たらよかったのに、と今まで何度も思っていたことを改めて考える。
「胸を張って貴女の人生を生きて下さい。
人生とは女神からの素晴らしい贈り物に他なりません」
「遅くなってしまいましたが、誕生日おめでとうございます。
これからも貴女の人生に女神アロヴィナスの祝福があらんことを」
それはルファスが産まれてきた事への祝福であった。
純粋に心からの祝福を捧げられたルファスは嬉しさと同時に僅かばかりの寂しさ、罪悪感に胸を刺される
(この人は知らない……女神がどんな存在なのかを)
アリストテレスの怒りを見せられたルファスは女神の所業の一端を知っている。
多くの善き人々を勇者などという生贄に捧げ、世界を舞台劇か何かとしか見ていない傲慢な在り様を。
アロヴィナス神は確かに世界を愛してはいるが、それはお気に入りの物語を愛でるような感覚に近いものだ。
断じてピオスが説くような無償の愛ではない。
こんなに素晴らしい人を産み出した教えだというのに、その根源の事を思うとルファスは何とも言えない感情に襲われるのだった。
だがしかしルファスはそんな事を決して顔には出すまいと決めた。
今日、彼が教えてくれた事を胸にしっかりと刻みつけておく。
想いは口にする。願いを叶えたければ行動する。
どれも今まで自分がやってきていた事ではあるが、こうやって肯定されるのは素直に嬉しかった。
「ありがとう。私、頑張るね」
何はともあれ少女はまた一つ大きくなったのだ。
【エクスゲート】が展開され、その中からルファスは顔を出す。
念の為の警戒としてきょろきょろと周囲を見渡し、敵や危険がないことを確認。
今回も彼女が門を開き、エルフ達の国へと足を運ぶことになったのだ。
プルート。マルクト。ユーダリル。ヴァナヘイム。光の森。
気が付けばルファスはミズガルズの主要都市の位置情報を得ており、やろうと思えば数分でこれらの都市を行き来できるようになっていた。
あらゆる旅の工程を一瞬で省略してしまう【エクスゲート】は風情と言う言葉を置き去りにするが、ルファスにはこちらの方がずっと都合がいい。
そういうことは世界が平和になったあと、彼や母と共にたっぷりとすればいいのだから。
エルフの本拠地たる森林同盟、または光の森とも称される地は光の妖精姫ポルクスの統治するアルフヘイム近郊に存在する。
鬱蒼という表現さえ陳腐に思える程に巨大極まりない木々が乱雑に立ち並ぶさまはマルクトとはまた違った威容を誇っている。
マルクトが人類の叡智と集団としての強さによって築かれた超巨大都市ならば、こちらは正しく自然の驚異である。
引き締まった大樹はどれもがマルクトの超高層建築物に匹敵する程の高さがあり、張り巡らされた枝葉は複雑に絡み合い、互い違いに強固に結びついている。
たとえ最大規模の地震が直撃しようともこの大樹たちは平然と耐え抜くことだろう。
そして何より、これらの木々はとてつもないマナを宿していた。
リュケイオンもマナが濃い地ではあるが、ここはそれよりも上だ。
さすがにヘルヘイム程ではないにせよ、エルフという高度な魔力を操る種族を育むだけの土壌ではあった。
(眩しいな)
マナを可視化できるルファスは大樹たちの宿すマナの輝きに眉を顰めた。
余りに眩しい。もはや光が木の形をしていると言っていい。
ルファスでなくとも見える程に微かに発光している木々は夜になれば灯りなどいらぬほどに猛烈な閃光を放つことだろう。
きっと上空から見ればマルクトに負けず劣らずの眠らぬ国が見えるはずだ。
それこそこの地が【光の森】と呼ばれる所以である。
バサッと翼が森より流れてきた空気に触れて震える。
真っ黒な翼の中にマナが吸収され出す。
リュケイオンのそれよりもかなり濃いソレを吸収すればルファスの肉体は軽くなった。
レベルが上がるほどではないが、全能力が少しだけ増強されるような感覚である。
とりあえず脅威はないと判断したルファスは【エクスゲート】から全身を現した。
次いでプランが門を潜ってくる。
「今までで一番マナの気配が濃い気がする。
……これって人は大丈夫なのか?」
何回か深呼吸を繰り返しながら率直な感想をルファスは述べた。
規格外の魔物と言えるルファスでさえ“濃い”と感じてしまう程のマナの中で人は生きて行けるのかと。
何せ魔物/生物問わず必要とされる水や酸素でさえ過ぎれば毒になるのだ、マナという超常の力の濃度が高過ぎたらどうなるのか不安になるのは当たり前といえた。
ルファスの最もな疑問にプランは答えた。
「エルフたちは産まれた時からマナに順応して生活しているんだ。
ここだけの話、彼らの肉体も半分は魔物と言えるかもしれない」
ミズガルズにおいての“魔物”とはマナの影響を受けていない“生物”がマナを取り込んだことにより変異した存在の事を言う。
この定義に当てはめれば産まれた時から高濃度のマナに晒されているエルフもまた然りであった。
しーっとプランは指を立てて間違っても他言しないように念を押してからルファスに説明を始めた。
人類として認めてもらえない亜人の件もある故にミズガルズにおいて「貴方は魔物だ」というのはとんでもない侮辱になるのだから。
一応【観察眼】で周囲にエルフの探知網がないことも確認しておく。
「魔物か。確かにそう考えると出生率の低さや、寿命の長さにも説明がつくか」
「これはあくまでも仮説にすぎないけどね。
七つの人類はそれぞれがミズガルズの環境に適応した別の種族ともいえる」
例えばドワーフ。
伝承において彼らの祖は女神の怒りを山の中に孔を掘って逃げ込むことで逃れたらしい。
恐らく最初は今ほど小柄でもなかったのだろう。
だがしかし、環境に応じるのが生命というものだ。
その中でも人間/人類はしぶとさに定評がある。
彼らの短足や太い腕っぷしなどは山などを掘り進むときに非常に便利だ。
坑道はせまく、彼らの小柄さとパワーはきっと発掘作業において素晴らしいアドバンテージになるだろう。
更に地下世界に逃げ込んだ者たちは強大なマナの坩堝にぶちあたり、そこに順応した結果吸血鬼という種になったらしいがこれも仮説にすぎない。
では、エルフは?
これほどのマナを宿した森に本拠を構えた彼らはどのように進化した?
長い耳。
エルフの代名詞といえる尖っていて長い耳だが、これは飾りではない。
実際エルフは聴力が素晴らしい事でも有名だ。
長寿。
魔物は総じて生物よりも寿命は長い。まるでエルフの様に。
最も、生存競争に負けて死んでしまう事も含めると死亡率そのものは高いが。
そして魔法/魔力への理解力の高さ。
エルフは誰もが優れた魔法の使い手とされる。
産まれた時からすぐ傍にあるものを、人とは比べ物にならないほどに接し続ければ上手になるのは当たり前の話だ。
プランのあくまでも仮説にすぎない話にルファスは大きく納得したようだった。
と、なるとそもそもの話が気になりだす。
「じゃあ、このマナは何処から来てるの?」
とんでもないマナの濃さに頭を傾げる。
話に聞き、実際にその片鱗を感じたヘルヘイムならともかく、どうしてこんな森が、と。
「……」
プランは思案するような顔を浮かべた後、決めた。
そろそろルファスも知っておくべきだと。
この世界には想像を絶する怪物がいることを。
これから先、彼女が今よりも強くなっても絶対に手を出してはいけない存在の事を教える事にしたのだ。
【観察眼】【一致団結】
この二つのスキルを同時に行使し、ルファスと視界を同調。
数式と法則が回る世界が少女を満たす。
更にそこにルファスのマナを可視化させる能力が加わり、彼女はマナだけを透視できるようになった。
今の彼女の眼にはマナは純白の光として見えていた。
「え……何を」
いきなりの行為に眼を瞬かせる彼女に指示を出した。
木々の根、それらの伸びてきている更に下を見てごらん、と。
言われた通り、ルファスは視線を降ろしていく。
マナを透視できる瞳は地面の底に埋もれた木々の根をはっきりと捉える事が出来た。
視線を下げて、下げて……そして見つけた。
最初、ルファスはソレが何か判らなかった。
一種のレントゲン写真の如く真っ白な木の根を視線で追っていたら、いきなり視界が全て白く染まってしまったのだから。
何だこれは? と頭を傾げ……思い出す。
自分はこれに似たものを見た事があることを。
かの“不死鳥”が幾度も蘇生を繰り返してきた時、膨大なマナの流れを彼女は感知していた。
あの時は無我夢中で気が付かなかった。
どこから死を乗り越える程のマナを引っ張り出したかなど。
気が付き、総毛立つ。
余りに巨大すぎて、気が付くのに時間が掛かった。
気が付いたとしても「そんなまさか」という常識が彼女の足を引っ張ったのだ。
このミズガルズにおいて、常識など何の役にも立たないというのに。
羽根がささくれ立ち、何枚も抜け落ちる。
「……っ!!」
息を呑む。
これは……このもはや大地そのものとしか言いようがない何かは“一部”だと。
とんでもなく巨大で、想像を絶するソレは───魔物だ。
いや、その実この存在は魔物よりも遥かに高次元の存在である。
怯えるルファスに対しアリストテレスは淡々と説明を続けた。
惑星規模の巨躯を誇る怪物に道具でも見るかのような視線を向けながら。
「“木龍”と呼ばれる存在。
この光の森の大本であり、かつて女神が遣わしたとされる御使いの一柱さ」
そして小さく続ける。
ルファスには聞こえないように彼は嫌悪を吐いた。
何とも馬鹿らしい茶番を続けている女の大本だ。
アレは今回もまた勇者に
彼らはポルクスが嫌いなのだ。
唐突ですがポルクスって可愛いと思います。
拙作でも彼女の出番を早く書いてあげたいですね。
そして来週も何とか更新できそうです。
暫くは二週更新からの一周休みという形でやっていこうかなと思っています。