ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
「ようこそ光の森へ! 我々はお二人の来訪を心より歓迎いたします」
金髪の優男───もちろんエルフ族である───がニコニコと笑いながらプランとルファスを出迎えていた。
トレミーと名乗るエルフの男は光の森の守護兵の一人らしく、本来ならば無断で森に侵入を試みる者へと無慈悲な矢と魔法を降らすのが仕事だ。
だが正規の手続きをしっかりと踏んだアリストテレスに対しては当然、穏和な出迎えとなっていた。
元よりエルフは今、問題を抱えているのだ。
それを解決してくれるかもしれない助っ人に友好的に接するのは当然であった。
「此方こそ丁寧な応対に感謝します。トレミー殿」
ニコニコとプランもまた貴族としての笑顔で答える。
ルファスは横目でソレを見つつ、やはり足元に意識が向いてしまっていた。
何せ自分の足元には途方もなく巨大な魔物が眠っているのだ。
動かないという事は判っていても気になるのは仕方がないだろう。
なまじレベル900という規格外の力を保持している故に、更なる規格外の正確な凄さが判ってしまい気が気じゃなかった。
“龍”という存在を書物や伝承では知っていても、実物を見れば如何にルファスは己がちっぽけな存在なのか判らされてしまったのだ。
しかも彼女が打倒を願う“竜王”はともすればそんな龍さえ超えうるという。
無意識に冷や汗をかき、拳を握りしめてた彼女を誰が笑えるか。
トレミーと一言、二言他愛ない雑談を行っていたプランだったが、やがてルファスの異変に気が付く。
木龍を見せたのは失敗だったかもしれないと反省しつつ、彼は腰のポーチに手を伸ばした。
顔を青白くさせている少女の肩を小さく叩けば、少女はゆっくりとプランを見る。
そんな彼女にプランは紙に包まれた焼き菓子を差し出した。
毎回恒例の甘いモノ大作戦だ。
「ほ」
プランが言い終わる前に彼の手の上から菓子は消え去っていた。
「貰う」
シュッという目にも止まらぬ速さでルファスは菓子をつかみ取った。
最近は余り食べてなかった焼き菓子を口の中に放り込むと、甘味が口内を満たす。
ゆっくりと、意識して普段より多く咀嚼しながら食べればざわついていた心に静寂が戻り出した。
そんな二人を見ていたトレミーはうんうんと頷きながら口を開く。
外見はただの若者であるが、その実プランとルファスの年齢を足した数値の倍以上は生きている彼はこの二人の間にある機微をそれなりに感じ取ったようだ。
「お弟子さんも実は我々の中ではかなり噂になっているんですよ」
「私が?」
トレミーの話にぴくっと翼が震える。
ありえないと思いつつも彼女の心は防壁を降ろしだした。
また何らかの罵倒を受けるのではないか、という恐怖は中々消えない心の傷であった。
しかし勿論トレミーは黒い翼など気にもしない。
むしろ彼らエルフにとって新しく受け入れだした混翼達は、好意に値するものへと変わりつつあった。
「メグレズ王子が仰ってたのです。
かの不死鳥討伐において勇者様と肩を並べて勇敢にも戦ったと」
「私だけの功績じゃない。誰か一人欠けてもフェニックスは倒せなかったさ」
「本当に貴女は噂通りの方だ。天翼族らしくないというか……」
次いで「あ」とトレミーは気が付く。
天翼族の白翼信仰を思い出した彼は失言したと顔を顰めたが、ルファスは苦笑しながら手を軽く振った。
「気にしないでいい」
はははと全く気にせず笑う。
むしろこのように気を遣われる方がやりづらいと続ければトレミーはほっと胸を撫でおろしたようだ。
「それはそうと……この森でも天翼族は引き受けたのか?」
その後に「天翼族とはライバル関係なんだろ?」と言いそうになったが、ぐっと理性がそれを押しとどめた。
プランを見れば彼は薄く笑っている。どうやらエルフはそんな事は気にしないようだった。
「勿論です。
最初は天翼族を森に入れる事に抵抗があるという意見もありましたが、今では立派な同胞ですよ」
ここでも混翼たちは必死に働いていた。
普通の天翼族であれば天地がひっくり返ってもありえないと断言できる行為を彼らは行っていた。
即ちエルフに頭を下げる事を躊躇わず行い、皆の為に必死に働くという事を。
人として生きていられる事、雨風しのげる家があるだけで涙を流す者達を嫌う者などエルフにはいなかった。
「彼らも自分の居場所を見つけられたんだな……」
ルファスは何回か小さく頷く。
心から良かったと思いながら。
かつては考えることも出来なかった、同じ様な翼の者達の事を気に掛ける心が彼女の中には宿りつつあった。
次に気になるのは天翼族とエルフの関係であった。
「聞けば貴方達と天翼族は良くライバル関係にあると言われてるが
そもそもの発端は何だったんだ?」
「それなんですが、詳細は判っていないんですよ。
気が付いたらこういう関係になっていたというか……」
少なくともトレミーの知る限りでは決定的な事件などはなかったと断言する。
よく火種になりがちなその昔に戦争をしただの、領土拡張で揉めたやら、そういった事はエルフと天翼族の間にはない。
気付けばこういう関係になっていたとしか語れないのだ。
「天翼族からすれば自分たちと似通った要素を持つエルフが怖いのかもしれないね」
天翼族からすればエルフとは“進化の隣人”だとプランは己の説を語る。
他の種など言い方は悪いが天翼族からすればサルのようなものにしか映っていない。
しかしエルフは、エルフだけは翼の民からすれば己に近い存在だ。
近い存在は怖いのだ。
もしも人並みに喋り、行動するサルが居たら人は一緒に生活できるか?
……出来るわけがない。
いつ己の座を簒奪しにくるか怖くてたまらないだろう。
そんな喋るサルこそがエルフなのだ。
「天力に長けた自分たちと相反する様に魔力の扱いに特化し
同じ程の寿命を持つエルフは彼らからすれば自分たちの立ち位置を脅かす存在に見えているのかも」
プランが捕捉するように一言だけ説明を入れておく。
要は天翼族の恐れ/臆病さの表れだと纏めればルファスは納得したようだった。
結局、もしかしたら彼らは怖いのかもしれないというのは今まで嫌いで憎いだけだったヴァナヘイムの者たちに対する新しい仮説だった。
(怖いのか。あんなに皆を苦しめておいて、自分たちは誰かに害されるのが嫌だと?)
(……いや、私も人の事は言えないか)
“誰かに傷つけられるのが怖いからその可能性があるモノ全てを排除する”
誰が聞いても呆れる程に何とも馬鹿馬鹿しい話ではあるが、ルファスは笑えなかった。
だってそれは、かつての自分がプランたちにしていた事だったのだから。
間違っても自分には関係のない愚かさとは言えなかった。
(気を付けないとな。私だっていつ昔みたいな事をするか判ったモノじゃない)
自分はルファス・マファールで、ジスモアの血を引いていると自戒する。
変異しているとはいえ元が天翼族であり、何より彼らのやり方を誰よりも知っている故に知らず知らずの内にあいつらの同類に戻らない様にと深く彼女は決意した。
「暫くここでお待ちください。ロードス陛下には既に報告は伝わっております故」
トレミーに案内されたのは森の中にある小さな集落だった。
こじんまりとした村の様なこの地には十数名の武装したエルフが見回りをするように歩き回っている。
要は此処は詰め所だ。森の番人たちが一時的に生活する砦と言っていい。
訪問者たちにとってもここはまだ待合所の様なモノであり、本来の意味でのエルフの集落ではない。
彼らの集落に行くためにはまだいくつかの術を解除した上で、専門のエルフの同行者が道案内をする必要がある。
この場合の同行者はトレミーと言う事になるが、そんな彼でも守護者としての任期が終わるまでは里に戻る事は出来ない。
広大な光の森は天然の大迷宮ではある。
地の底に眠る龍の影響で磁場は狂いコンパスは役立たずと化し、正確な方角を測る事を邪魔する。
その上……この森の木は何と動くのだ。
普通ではありえない事だが、何せ森の大本はあの「木龍」である。
そこから生え茂ったモノが普通なわけがない。
ポルクスのアルフヘイムでは妖精という化身を産み出していたが、ここの木々はもっと活発なのだ。
故に光の森で迷った時、樹木に目印を付ける事はお勧めしない。
その樹が数時間後も同じところにいるとは限らないのだから。
ほんの数時間経過するだけで景観が様変わりするなどここでは珍しくない。
更にそこにエルフたちの様々な術が加わる事によってこの地は万軍を阻む要害となっている。
下手に突っ込んだら迷いに迷ってめでたく森の養分になれることだろう。
「よく言われる事なのですが、どうやら我々エルフは他種族に比べて気が長いようなので……」
「貴方達の感覚だと“それなり”にお待たせするかと」
人の噂も七十五日という諺があるが、エルフの場合はあれが七十五年になるというジョークがミズガルズには存在する。
つまり、エルフの時間感覚はただの人間種のソレに比べて大きくズレているという事を風刺したジョークだ。
実際はジョークではない事をプランは知っている故に冷静に脳内では「明日の昼くらいだな」と考えていた。
こういう場合は一日も待つのか、ではなくたった一日で済むのかと考えるべきである。
「ゆっくり待つさ」
ベッドの硬さを手で確認しながらルファスは「んっ」と言いつつ伸びをしてリラックスの体勢に入る。
客人をもてなす様に整えられたウッドハウスは落ち着いた内装で、どうやらルファスも気に入ったようだった。
「これをお渡しします。滞在許可証の様なモノだと思ってくだされば」
「それがあればこの集落と周辺を出歩く事ができます」
トレミーが差し出したのは木製のネックレスだった。
しっかりと磨き抜かれた表面は光沢があり、キラキラと輝いている。
特に魔力も何も籠っていないお守りであった。
手に取り、ルファスはそれをしげしげと眺める。
宝石や貴金属が好きな彼女であるが、これも悪くないと本心から思った。
「ありがとう」と礼を言ってから彼女はソレを首からかけた。
「集落の近くには避難してきた亜人たちもいますので
もし興味があったら時間つぶしに覗いていくのもいいかもしれません」
“竜王”の招集命令に従わなかった亜人たちの一派ではあるが、今現在ミズガルズにおいて亜人全体の印象は悪化の一途をたどっている。
如何に箝口令を施行してもミョルニルの戦いにおける彼らの粗暴さ、残忍さは徐々に認知され始めていた。
人類の殆どが今や亜人を潜在的な敵として見ている。
こいつらは機会さえあれば竜王の命令に従い、俺たちを殺すんじゃないか? と。
今の所は何も起きていないが、そういった敵意を察知してとある亜人の種族は光の森へと避難してきたという。
「森と言えば、やはりケンタウロス族など?」
「はい。森の賢者たちを主に我々は保護しております。
他はドライアドや蟲人なども多少は……」
プランの言葉にトレミーは深く頷いた。
上半身が人間、下半身が馬の種族であるケンタウロスもまた森と親和性の高い亜人である。
気性は臆病かつ穏やかで、様々な点でエルフと相性が良い種族なのだ。
とある致命的な認識の齟齬さえなければ獣人の一種として人類になれたかもしれないのがケンタウロスだ。
排他的な所もあるエルフが己の森を間借りすることを許す亜人といえば、ケンタウロスだろうとプランは考え、実際それは当たっていた。
一瞬だけルファスを横目で見る。
思えば彼女は“亜人”を見た事がなかったなと思い出す。
これは丁度いい機会かもしれなかった。
亜人という種の特性や、どうして彼らが人類として数えられないのかなど、そういった物事をルファスに教えるのも悪くはない。
「それともう一つ。我々はボウガンで射的ゲームなどもやっておりまして……」
“ボウガン”という言葉にルファスがぴくっと反応を示した。
具体的には左の翼が微かに跳ねた。
基本的に剣やナイフといった接近戦の武器を愛用する彼女であるが、遠距離攻撃武器に興味がないわけではないのだ。
プランの類まれなる射撃の腕前を知っている彼女は、いつか自分もあんな風に銃器を使ってみたいという密かな思いがあった。
「聞けばアリストテレス卿は類まれなるガンマンとも聞きます。
是非、ふるってご参加下さい」
トレミーのナニカを期待するような顔にプランは曖昧に笑ってとりあえず頷いておくのだった。
酷い。
大惨事。
誰がここまでやれといった。
様々な表現があるが、コレを表すにはどれも全く足りていない。
ルファスは光を失った瞳でプランの動向を見つめている。
確かに言い出したのは自分だ。少しばかり挑発的な言い方になったのも認めよう。
だが、これは余りに大人気がない。
“ボウガン、使った事は?”
“試しにやってみたら”
彼は頭を横に振った。
「いや、自分は……」と逃げの一手を打つ彼にルファスは鼻を鳴らしながら言った。
挑発する様に頬を上げ、目を光らせる。
“ふーん……使えないんだ?”
“………………”
ここでも彼女はプランに前提となる“縛り”を与える事を忘れていた。
その結果が大惨事である。
遠くから見つめていたエルフたちは皆がみんな、あんぐりと顎が外れる程に口を開いている。
弓の腕前に自信があった者もいたのだろうが、そういった者たちほど崩れ落ちていた。
何だこれは、どうすればいいのだ、と。
88888888888888888888888888888!!!
エルフが用意した射的の的である案山子が狂ったように痙攣し、前後に震えている。
ガクガク、ガクガクと動き回っているというのに光の矢はただ一点だけを無慈悲かつ正確に撃ち抜き続けており、孔があく寸前といったところだ。
案山子に出来るのは己の頭上に「8」という数字を浮かび上がらせる事だけだった。
様々な個所に「◎」と書かれた的が現れ、それを打ち抜いてポイントを得ていく事がこのゲームのルールである。
魔法を用いて的を用意するのは従業員であるエルフなのだが、彼は今や真っ白に燃え尽きていた。
どれだけの数の的を出現させても直ぐにど真ん中を撃ち抜かれてしまい、明らかに供給が間に合わない。
文字通り死ぬほど魔力を絞り出した所、SPが切れてしまいダウンしていた。
結果、的の生成が止まった事もありプランはとりあえず延々と案山子を打ち抜き続けている。
もしも案山子に表情があれば叫んでいただろうか、もしくは全ての思考を停止していただろうかは誰にも判らない。
気付けば休暇中だったエルフたちが複数人がかりで的を生成し、次から次へとプランの周囲に配置し始める。
しかしそれでも全く速度が足りていない。
10個、20個、30個同時に出現させてもその瞬間にはど真ん中に大穴を開けられてしまっていた。
ポイント計算係のエルフはもう数分間瞬き一つせず、プランが案山子を撃ち抜く度に発生する「8」という数字を彼のスコアに計上させ続けていた。
今現在のプランのスコアは40万を超えていた。
本来ならば1ゲームで3つのラウンドを行い、それでようやく3万といった所なのに、プランは1ラウンド目で既に3ラウンドの合計数値の10倍以上の値を叩きだしている。
淡々と的と案山子を撃ち抜く彼の顔には一切の表情がない。
ゲームを楽しんでいるというよりは的を処理していると言った方がいい。
まだゴーレムの方が人間味があるかもしれない雰囲気であった。
ルファスは自分の頭を翼で包んだ。
とりあえず今は何も見たくない。
終わったら教えてと。
狂った様な速度で魔力を収束させる機能が付与されたボウガンは周囲に漂うマナを凝固させた矢を乱射している。
マナの濃度が濃い光の森だからこそ可能な無限の矢の生成であった。
此処まではいい。無限に矢を放てるというのはこの遊びの大前提の条件だから。
ただしその精度/連射速度がおかしい。
闇雲に乱射すれば、速度だけなら今のプランと同じことも出来るかもしれないが……。
その速さを維持しつつ数百の的のど真ん中を正確に撃ちぬくなどというのはおかしいとしか言えない。
彼はゲーム開始地点から一歩も動かず、ゴーレムの様に全自動で腕だけを動かしボウガンを巧みに扱っている。
16歳の誕生日の時はいきなり走ろうとした結果咳き込んでしまったが、それならば一歩も動かなければいいという発想のもと彼はこのゲームを蹂躙していた。
建物の影に隠れる様に配置された的には矢と矢を空中で衝突させ、軌道を捻じ曲げて直撃させるという離れ業で対処している。
一人、また一人と魔力を使い果たしたエルフたちが倒れていく。
ボロボロと涙を流しながらスコア計算係のエルフは遂に項垂れた。
1ラウンドで100万オーバーのスコアというあり得ない結果に遂に彼の心は折れたのだ。
見れば何名かのエルフは光のない瞳でプランを縋る様に見ている。
エルフと言えば弓と魔法であったが、そんな自負を木っ端みじんにされればこうもなろう。
「あの……もう、勘弁してください……」
104万6220ポイント。
これでもかなりの数え漏れがあることを考えるに、きっとこの先何百年経とうと更新されない記録だろう。
“殿堂入り”としてなかった事にされる可能性もあるか。
「……済まなかった。ほんとーに、悪いと思っている」
“2ラウンド目はいつ始まるんだ?”と問いそうな顔をしているプランに変わってルファスは深々とエルフ達に頭を下げた。
「つい出来心だったんだ」
「こんな事になるなんて思わなかった」
「私からよく言っておくから」等と言った謝罪の言葉が絶えず続く。
プランはそんなルファスを一瞥したのち、何かを探る様に視線を別の方向に向けていた。
【観察眼】が鮮やかな蒼を放ち、写し取った数式には微かな乱れが発生。
言葉として伝えるにはあまりに短い猶予を彼は認識し、行動する。
躊躇うことなくボウガンを大地に向けて発射した。
光の矢が大地に深々と突き刺さり、土砂を巻き上げる。
分割された緩やかに時間の流れる世界では状況の変化についていけてないエルフ達は固まったままだ。
唯一超速戦闘の世界に入門しているルファスが眼を見開き驚愕を浮かべるが、そこはさすがと言った所か直ぐに意識が切り替わった。
プランは意味不明な動きをすることは多々あっても、意味のないことはしないと彼女は知っている。
限界まで目を見開く。
瞬き一つせずプランの意図を考えつつ状況を観察することに全神経を費やす。
巻き上がった土砂の中でも一際大きな礫。
それに対してナニカが唐突に突き刺さったのをルファスは見た。
ルファスの視力をして見えなかったナニカ、というよりは唐突に現れた一撃としか言えない。
光の矢だ。
先にプランが乱射していたのと同列のマナを練り固めた一矢である。
しかし密度が非常に濃く、もしも人に刺さったら貫通していただろう。
(高濃度の魔力を練り固めた矢で……。
“早い”というよりは、指定した個所に“跳ぶ”と言った方が正しいな)
青紫色に輝く瞳でルファスは冷静に脳内に流れ込む情報を処理し分析を行う。
レベル900でも見えない速度の一撃と言えば【シャインブロウ】の様な超光速の一撃などが代表的であるが、違うと彼女は判断していた。
元より彼女もまた距離という概念を無意味にする能力を持つ身である。
この世にはそういった空間跳躍系の攻撃があることを誰よりも理解している。
そこまで思考を回せば、チリリと毛先の朱色が燃え上がった。
腹の奥底で怒りに燃料がくべられる。
ルファスは敵対者には決して容赦はしない。
誰が何の目的でやったかは判らないが、プランへの攻撃は私への攻撃に等しいのだから。
左右の翼に天力/魔力が循環し瞬間的に【エクスゲート】が開かれる。
【一致団結】を通して流れ込んできた座標に躊躇わず彼女は跳んだ。
「!!」
二射目を弓に番えていたのはケンタウロスであった。
非常に若い個体のようだが、感じるマナはそこそこのものがあり、恐らくレベル200オーバーだろう。
彼はいきなり己の眼前に出現したルファスに眼を見開いているが、彼女はそんなこと気にも留めない。
「おい」
自分でも驚くほどに低い声が出ていた。
魔物だったら声もかけずに潰していた事を考えるにこれでも寛大な方である。
そして自分の行動には常にプランの面子が掛かっているということも彼女を冷静に動かした。
手刀で弓を真っ二つに叩き折ってやる。
発射されようとしていた矢を掴んで握りつぶす。
馬の四本足で逃げようとするが、その前にケンタウロスの首を彼女の細い手が掴んだ。
ルファスはその場に滞空しつつ、ケンタウロスの首を掴んで離さない。
馬の脚が全力でもがくがルファスの肉体は微動だにしない。
窒息しないように、というよりは怒りに任せて握りつぶさない様に彼女は心を砕く事になった。
そのまま片腕で易々と彼女はケンタウロスを持ち上げる。
暴れ回られても鬱陶しいので【威圧】をかければこの愚か者は指一本動かせなくなり、恐怖を宿した瞳で少女を見つめる事しかできなくなった。
瞳の中に映る自分の顔は恐ろしい程に無表情で、この命を仮に奪ったとしても眉一つ動かさないだろうとルファスは思った。
「ぎっ……!」
明らかに怯えている様子にルファスの心には黒い喜びが灯る。
魔物が弱者を嬲る時に感じる悦楽を彼女は努めて制御した。
「3つ数える。その間に降伏するならよし……しないのであれば」
ちょっとだけ力を込めれば、何とも呆気なく首の骨が軋む。
言葉にしなくてものその先は判るだろう。
2秒後、ケンタウロスの少年は己の敗北を認めるのだった。
元ネタ紹介
ボウガンチャレンジ。
元ネタは「TASさんのボウガントレーニング」という動画となります。
機関銃の如き速度で矢を乱射するリンクやら踊り狂う案山子などは衝撃の一言です。
そして来週の更新はお休みとなります。
暫くは二週更新してお休みを挟むという感じでやっていきたいと思います。