ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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ノーガードについての設定は独自解釈です。
そもそも都市につける名前ではないなと思ったので。


野生のエルフ王が現れた!

 

 

“状況観察レポート”

 

 

 

■■の月■■の日。

 

 

植物人の亜人が大地から多量に養分を摂取し森の一角を枯らせるという事件が発生。

混翼部隊によって適切に処理済み。

植物人は当初抵抗を見せたため鎮圧された。

 

 

 

また該当する植物人は外部より持ち込んでいた苗をエルフの許可/認証を経ずに植林したことが判明。

 

 

 

0.047 km²の面積に甚大な土壌汚染を確認。

外来種の持ち込みによる生態系への影響が苦慮される。

周囲を隔離し除染作業を実行するが、根の完全除去は困難と思われる。

 

 

対策としてアリストテレス卿より強力な除草剤を提供される予定。

 

 

植物人への監視レベルを一段階向上させる事がロードス王により決定される。

エルフは気が長い種ではあるが、己の故郷が関わればその行動は迅速なのだ。

 

 

 

■■の月●●の日。

 

 

 

蟲人(蜘蛛)による亜人集落におけるカニバリズム事案が発生。

容疑者である蟲人と被害者であるラミア種は恋仲であったとされる。

ラミア種の女性で見つかった部位は尻尾の先端部位だけであり、残りの部位は恐らく捕食されたと思われる。

 

 

 

容疑者の蟲人は容疑を認めている。

彼らの種にとって己の伴侶を食するというのは当たり前であるとのことだ。

説得を行ったが彼らはどうやらそういった常識のすり合わせを行う気はないと判断。

 

 

隔離処置実行済み。

 

 

 

また集落の蟲人全員にアンケートを実施。

食人を平然と思う種の者達の隔離処置を準備……。

 

 

 

 

 

■●の月△の日。

 

 

魚人を中心とした亜人たちが大規模なデモを開催。

自分たちとエルフの婚約を認めろという内容であり、デモの主催者は以前にも他種族の女性との暴力問題を起こしていた。

“我々は不当な扱いを受けている”とデモは過激化し、やがては森の一部への放火未遂まで発展。

 

 

 

混翼の部隊によって鎮圧。

デモの中核とされた魚人らは“処理”済み。

また参加者は全員追放処理……魔神族領土に。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

まだまだ、こんなものはほんの一部だと言わんばかりに分厚い紙の束をプランは捲っていく。

ほんの半年程度しか経っていない亜人の受け入れではあるが問題は文字通り山積みだ。

プランの隣に座り資料に目を通しているルファスもまた顔を強張らせていた。

 

 

 

木の実や山菜などを中心とした食事を終えた後、二人はウッドハウスの中で書類の束に眼を通していた。

混翼たちに頼んで持ってきてもらったソレは亜人たちの行動を記録した書類だ。

断じて犯罪のまとめではないが、やはり圧倒的にやらかしの記録が多い。

 

 

 

食人やら土壌汚染やら、何なら集団で先住民であるエルフたちを脅したやら、出てくる報告はどれも碌でもない事ばかりだ。

彼らは自分たちを誰にも受け入れて貰えない被害者かのように振舞っていたがこんなことを何処でもやっていたらそれは当たり前だろうと思う程に。

端的に言ってまだ追い出されていないのが奇跡と言えた。

 

 

 

今回のサジタリウスの件もプランはあえて大ごとにしなかったが普通に考えれば要人暗殺だ。

 

 

 

「何でこうなんだ」

 

 

 

ルファスは頭を抱えそうになりながら呟いた。

世界が綺麗な物だけではない事は判っていたが、これを読めばもっとどうにかならないのかと思ってしまう。

簡単な事だ。何も翼をもたない存在に空を飛べと言ってるわけじゃない。

 

 

国に入ったのならば法を守れと言ってるだけだ。

 

 

 

ルファスの質問にアリストテレスは朗らかに答えた。

全部判っていた事だ。

ロードス王も当然、全て知っていてあえて受け入れた。

 

 

彼と彼に近しい指導者たちは判っていた。

最初からこうなるなど。

だが殆どのエルフは知らなかった。

 

 

だから教訓を与える為にあえて規制を緩めたのだ。

結果として強い反感が産まれる事を期待して。

後の世で亜人たちとエルフが距離をとると宣言しても誰もが賛同するために。

 

 

何百年に一度、亜人について知らないエルフなどが良く現れるのだ。

そんな者達への教育もこれは兼ねていた。

 

 

しかしてこれは一種の“チャンス”だったのだ。

歴史上類を見ない、亜人を人類が大々的に受け入れる為の。

しかしどうやらこのテストに彼らは合格しそうにはないなと彼は冷徹に思っていた。

 

 

 

「“亜人”と一言で纏めても、実際のところ彼らはそれぞれ別種の存在だ」

 

 

「魚人に植物人、ラミアに蟲人……蟲人の中でも蜘蛛や蜂、カマキリなど更に細分化される」

 

 

「それら一つ一つに独自の価値観と文化があり、歴史がある」

 

 

 

アリストテレスはサァァァァと紙束をとてつもない速度で捲り出す。

目だけが忙しなく動き回りそれらに書かれていた中身を全て読み取った。

やっぱりか、という程度しか彼は思わない。

 

 

 

ロードス王が何をしたいか彼は理解した。

根本的な所では排他的な部分がある彼は亜人を完全にエルフから締め出すつもりだ。

それも一応は手を差し伸べたという大義名分まで作って。

 

 

エルフたちが警戒心を強め、特に女性が亜人たちの集落に近づく事を禁止する法を制定したことも当たり前としか。

竜王の問題が片付いた後、亜人たちはきっとまた冷遇されるなというつまらない未来の予測がある。

と、なると今度は“獅子王”でも頼るのかなとアリストテレスの一人は小さく嘲った。

 

 

 

“人類”共同体は亜人を受け入れない。

一見すれば人当たりの良いアルカス帝でさえそこは曲げないだろう。

クラウン帝国は全ての人類の為にある。

 

 

 

しかしそれは帝国の法を守るという大前提の下だ。

法を守る気もない者らに対して帝国は容赦しないだろう。

 

 

 

 

彼は考える。

とある今は廃墟となってしまった街の由来を語るかどうか。

これはあまり耳障りのよい話ではないからだ。

 

 

数秒だけ考えた後、語る事にした。

リュケイオンでルファスが過ごすことを選んだのならば、いずれ知る事になる話になるだろうから。

 

 

 

「“ノーガード”の事は覚えてるかい?」

 

 

 

「ユーダリルを襲ってきた竜のこと?」

 

 

 

記憶力の良いルファスは当然その名前を忘れる筈もない。

プランとかの竜の戦を見る事こそ叶わなかったが、丘と見紛うほどの亡骸が横たわっている様はとてつもない衝撃だった。

 

 

 

「魔竜ノーガードの由来は言うまでもないけど廃都ノーガードから来ている」

 

 

 

「……貴方たちがあそこにおびき寄せた」

 

 

 

アリストテレスの記憶を除いた時にノーガードの真相も同時に知ったルファスは低い声でアリストテレスに言う。

ユーダリルの事を考えるに必要な事ではあったが、決して少なくない犠牲者を魔竜は出している。

それに対して曖昧な笑みを男は浮かべた後に会話を続ける。

 

 

 

「初代は違う」

 

 

 

「そもそも“ノーガード”という名前は何処から来たか、について少し話そうか」

 

 

 

無防備、防御しない。

明らかに都市につけられる名前としては不可解なソレは当然かつて隆盛を誇った都市国家の真の名前ではない。

伝承ではその滅亡の経緯から後世への戒めとして与えられたという。

 

 

 

それはユーダリルが出来るよりも遥か昔の話。

最初のアリストテレスがリュケイオンに拠点を築き始めた時には既に廃墟と化していた国の伝承だ。

 

 

 

「我々も最初は気になったものさ。あれだけの規模の都市国家がどうして滅んでしまったかね」

 

 

 

口調が変わる。

プランではなくアリストテレスのそれに。

ルファスには存在がバレているのだからいちいち隠す必要もなかった。

 

 

 

「ユーダリルがそうであるようにあの場所は交易上において非常に重要な立地だ」

 

 

 

「かつてのノーガードが交易を中心として栄えたのはあの大きさの廃墟から見て間違いない」

 

 

 

しかし滅んだ。

それは何故? とアリストテレスが考えるのは当然だった。

もしも未知の病原体やら地質的な何かがあったのならば対策を考えなくてはいけないのだから。

 

 

 

「調べた所、戦いの痕がノーガードの各所にはあった。

 しかし面白い事に外壁は全くの無傷ときたものだ」

 

 

 

多国や魔物などといった外部の誰かに攻められたというのならば城壁が破損してなくてはおかしい。

しかし城壁は経年劣化こそしていたものの傷一つなかった。

つまり、ノーガードを滅ぼした何か達は何らかの方法で都市の中に潜り込み、一斉に攻撃を開始したということだ。

 

 

 

「つまり……反乱があったの?」

 

 

 

外からではなく中から攻め落とされたという話になれば自ずと答えは見えてくる。

王が横暴で圧政を敷いたからその反作用としての革命が起きたというのが普通の考えだ。

ルファスの頭に浮かんだのはヴァナヘイムの今の在り様だった。

 

 

もしも混翼達が白翼の者らに隠れて力を付けたとしたら、というもしもが瞼の裏に浮かんだ。

 

 

 

「半分正解。実際はもっと……哀れな話さ」

 

 

 

 

アリストテレスはため息を吐いた。

深く深く、呆れ切ったため息を。

世の中には想像を絶する愚か者がいるという事実は彼をうんざりさせることだ。

 

 

あれから1000年以上、ノーガードの滅亡の時期のことを考えるに更に数百年を足してもいいというのに何も変わらない者達に彼は心底うんざりしている。

 

 

 

「記録が見つかったんだ。

 著者は不明だったけど詳細な歴史を記録していた人がいたらしい」

 

 

淡々と自分たちの国に起った出来事を記録ではあったが、そこには確かな憤りが宿っていた。

それと同時に自分たちの失敗を後世の者達が繰り返さない様にという願いもあった。

同じような歴史を著した記録が複数見つかった事もあり、アリストテレスは何故ノーガードが滅んだかを解き明かすに至る。

 

 

 

 

「記録によると、ノーガードを滅ぼしたのは亜人たちだ」

 

 

 

「……!」

 

 

 

ルファスは息を呑む。

薄々わかってはいたがこうして断言されると衝撃があった。

発端ともとれる仮説は複数あるがその中でも最も現実的な理由を彼は口にした。

 

 

「都市が大きくなるにつれ、下水やゴミの処理などといった大変な肉体労働の量はどんどん増えていく」

 

 

汚い。キツイ。危険。

そんな嫌な三拍子そろった仕事はどうしても必要なのだ。

 

 

当然だ。

排泄はどうあっても避けられない。

大勢が生活をする以上はどうあってもそういったモノは出てしまう。

 

 

 

「当然そういった職は余り人気がなかった。

 必要ではあるけど、給与は安く不衛生な環境での活動はそれだけでリスクがあるからね」

 

 

 

糞便やゴミ、下水の処理など誰だって出来ればやりたくはないだろう。

しかも千年以上も昔の話だ。

アリストテレスが医学を纏め上げるよりもずっと前である故に下手を打ったら感染症のリスクさえもある。

 

 

 

そして奴隷だってタダじゃない。

あれだけの規模の国家ならいたかもしれないが、いてももっと大事な仕事に回されていただろう。

 

 

 

「だから当時の人は考えたのだろう。

 亜人を呼び込んでそういった仕事を任せようって」

 

 

 

一息吐く。

アリストテレスは虚空を見つめつつ端的にまとめる事にした。

こんなもの余り長々と語っても後味のよくない話だからだ。

 

 

 

「利用しようと思っていた亜人達はいつの間にか仲間を呼び込み

 数を増やして国を乗っ取りにかかったのだと自分は思っている」

 

 

 

「そうして元居た人たちを追い出すか滅ぼすかなりした後に彼らは気が付いたのだろう」

 

 

 

 

“自分たちには国を運営する能力がない”ということに。

交易のやり方など判らない。国をどうすれば維持できるかも判らない。

革命の後に残ったのは船頭のいない船だった。

 

 

 

革命は成功した後の方が面倒なのだ。

 

 

 

更に打算ありきとはいえ自分たちを受け入れてくれた者を裏切るような奴らを商人が信用できるはずもない。

よく商人は金儲けこそが至上の命題だと思われがちで実際そういった部分も多々あるが、それでもやはり根本には取引相手との信頼関係があるのだ。

 

 

金を払ったら品が出てくる。

貸りた金はしっかり返す。

詐欺をしない。

そういった概念に疎い亜人たちはきっと商人たちにも暴力を振って財産を奪おうとしたのかもしれない。

 

 

 

更には共通の敵だったノーガードの原住民を駆逐した後は亜人同士で争いを始め、結果としてノーガードは滅び去った。

もしくは争いの気配に惹かれてやってきた初代の魔竜にまとめて捕食されたか。

どちらにせよミズガルズでも有数だった都市の歴史はそうやって終わったのだ。

 

 

それがあの遺跡の真実だ。

 

 

“ノーガード”の由来。

それはどれだけ国家が瀕しても法を守らない者達を受け入れてはならないという戒めだ。

 

 

 

「………………」

 

 

 

これ以上ない渋面をルファスは見せた。

今の話が事実としたら、彼らはノーガード時代から何も進歩してないということだ。

 

 

 

────天翼族の様に。

 

 

 

彼らの言い分だけを聞けば人類は彼らを弾圧し、追いやった悪者に映るだろう。

しかし人類にも言い分がある。そしてこの問題の落としどころはルファスには判らなかった。

 

 

 

いや、たった一つだけ思い浮かんだやり方があったがソレは問題の先送りでしかない。

力で無理やり抑え込む方法では必ず未来に災禍が訪れるだろう。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

亜人と人類。

両者の落としどころが何処にあるのかルファスには判らなかった。

判らなかったから彼女は用意されていたベッドに飛び込んだ。

 

 

バサッと翼が大きく羽ばたき羽根を撒き散らす。

 

 

仮に魔物がいなくても。

魔神族がいなくても。

竜王が存在しなくても、亜人と人類の関係は変わらなかったと思うと気が滅入った。

 

 

 

面白くない話だった。

自分たちの嫌な事を押し付けようとしたかつてのノーガードの者らも、後先考えず国を滅ぼした上に仲間割れまでした亜人も。

何もかもが気に入らない。

 

 

 

「つまらない話……」

 

 

もう良いとルファスは呻くように言った。

何も面白くない。

折角エルフの故郷に来たというのに、そんな鬱々とした話題よりも新しい天力やポーションの話がしたかった。

 

 

 

「そうだ」

 

 

 

初心に立ち返ったルファスはのっそりと起き上がる。

亜人云々など権力者になるつもりもない自分にはどうでもいい話だ。

知っておいて損はないが、そういう面倒な事を考えるのは自分の性分ではない。

 

 

 

そんなことよりもポーションだ。

頭の片隅でカルキノスが凄くいい笑顔を浮かべて『ゲロ』を掲げていたが消し去ってやった。

もしもアレを母やアリエスに飲ませようとしたら彼を成層圏まで連れて行って投げ捨てるかもしれない。

 

 

そこまでやってもきっと数日もあればリュケイオンに帰ってくるだろうが。

 

 

「エルフのポーションは凄いって聞くけど、実際はどうなの?」

 

 

 

同じポーションであってもエルフが作ったものとそれ以外の人類が作ったものでは値段にそれなりの差がつくことをルファスは知っている。

実際性能もかなり違っている。

ランクが同じはずなのに回復量が倍違うこともざらだ。

 

 

 

 

「凄いものさ。

 彼らは長生きで、その人生の大半をポーション作成に捧げている人だって珍しくはないからね」

 

 

 

幾度も幾度も同じ作業をしていれば効率化されるのは当たり前だ。

前よりも少ない素材で前と同じかそれ以上の効能をあげることだって可能になる。

エルフの場合はそれを何百年も繰り返しているのだ、どうりで高性能なわけである。

 

 

 

「となると……熟練度が溜まる訳か」

 

 

 

「それもあるけど……実はもう一つ、素材にも理由があるんだ」

 

 

 

ちらちらと窓の外に視線をやり、誰もいない事を確認。

さすがにエルフの極秘事項を話そうとしている自覚はあるのか、プランは周りに誰もおらず、聞き耳を立ててもいない事をチェックしているようだ。

部屋の一角を数秒みつめたあと、彼は会話を続けることにした。

 

 

 

 

(……!!)

 

 

 

ピンっと翼が反応を示す。

何を隠そうこの話題をずっとルファスは待っていたのだ。

エルフたちの秘術に関する話題、高性能な薬を作り彼を助けるための大きな要因。

 

 

 

“来たな”とルファスは胸を高鳴らせつつ表面上は平静を装った。

どれだけ高難易度の技術か知識であっても絶対に身につけてやると燃え上がる心を彼女は抑え込んだ。

 

 

 

 

「“ウルズの泉”という高濃度のマナを宿した湖が首都の地下にあるんだ。

 湖の水は天力とも非常に馴染みやすく、高性能のポーションを作りたいのならば必須の材料になる」

 

 

 

 

「それだ……!!」

 

 

 

ルファスは思わず叫びそうになった。

彼女の頭の中で素晴らしい可能性が花のように開こうとしていた。

バサバサバサバサバサバサと興奮のあまり翼が荒れ狂う。

 

 

ポーションを作るのに必須の材料である水。

あまりに基礎すぎて眼中にもなかった。

そうだ、大前提の素材が優れていれば全体の質が高くなるのも当然の話だ。

 

 

ウルズの泉、ウルズの水……ウルズ……。

 

 

はっきりと目に見えた希望を何度も少女は胸中で唱えた。

アリエスの羊毛、ウルズの水、フェニックスの素材に竜王の血……そしてプランの知識と自分のレベルをかけ合わせれば必ずや彼の命に手が届くという希望が。

 

 

 

「どうやれば手に入るの───?」

 

 

 

瞳を希望と欲望でぎらつかせながらルファスは問う。

もしもここにプランがいなければそのまま湖を探して飛び立っていってしまいそうな程の迫力があった。

 

 

 

「それは……」

 

 

続けようとして言葉を区切る。

数秒の沈黙のあと、無感情な声変わりもしていない中性的な声がその後を引き継いだ。

 

 

 

「欲すれば与えよう。しかし今は問題がある」

 

 

 

「誰だっ!」

 

 

 

ベッドから飛び起き、拳を構える。

一瞬で臨戦態勢にまで意識が覚醒し、今しがた声がした方向に全神経を集中。

すると先ほどまでは何も感じなかった空間に何かがいることを彼女は読み取った。

 

 

如何にリラックスしていたとはいえルファスに全く感づかれない隠密能力は驚異的としか言いようがない。

部屋の一角の風景が剥がれていく。

何時からそこにいたかは定かではないが、少なくともルファスは全く気が付かなかった。

 

 

 

 

これは【ステルス】の魔法だ。

アリエスの着ているシャツに宿っている魔法で、ルファスからすれば見慣れたモノである。

が、しかし……これの精度はアリエスを覆っているモノとは次元が違う程に精密だった。

 

 

 

そしてただ見えなくなるだけというシンプルな能力ではあるが、ソレは【アサシン】のクラスと組み合わせることで凶悪なシナジーを発揮する。

風景が剥がれ落ちるように消え去ると、その裏に隠れていた人物の姿が明らかになる。

 

 

 

 

 

ルファスと似た黄金色の髪は腰を通り越して膝裏に達する程に長い。

翡翠色の瞳は無機質でガラス細工のようだった。

メグレズと同じエルフの象徴である尖った耳は彼のソレよりも更に長い。

 

 

「子供……?」

 

 

思わず呟く。

どんな奴が出てくるかと思ったらまだ年端もいかない少年か少女かの区別さえ曖昧になる童が姿を見せたのだから。

 

 

 

ルファスが驚いたのはこのエルフがとても小さい事だった。

女性の平均身長よりも低い。

何なら十代前半の子供と同じか、それよりも小さい。

手に持つ木製の杖は己の身長よりも大きくまるで丸太の様だ。

 

 

 

しかしその余裕に満ちた態度、更には知性と経験に満ちた声音は枯れ果てた老人の様である。

 

 

 

「楽にしてくれていい……此度は非公式の訪問となる」

 

 

 

感じるマナの気配はアルカスよりも強いが、カルキノス程ではない。

レベルにして600から700と言った所か。

前衛/後衛という役割の違いはあれど、見かけに反してこの子供は竜を狩る前のベネトナシュと同等の力をもった人類最高峰の実力者だ。

 

 

 

そんな存在がいきなり現れた。

しかも明らかに自分が上位者と自覚した立ち振る舞いで。

 

 

 

「っ……そう、いうことか」

 

 

ルファスは息を呑む。

彼女の発達した超感覚は瞬時に答えをはじき出していた。

既に名前は幾度か耳にしていたことを思い出す。

 

 

 

 

吸血鬼の女王ベネトナシュ。

プルートのモリア。

クラウン帝国のアルカス帝。

そして、現存する最高齢のエルフでもある森の王ロードス。

 

 

ミズガルズにおいて人類を運営/統治する王たち。

その中でも最高齢たる現状ミズガルズ最高の魔法使い。

数千年を生きるエルフ達の王、ロードスとは目の前の童の事であるとルファスは悟ったのだ。

 

 

 

 

「如何にも。余がエルフの王、ロードスである」

 

 

 

何の感慨もなく少年───ロードスは己の名を宣言するのだった。

 

 

 

 

 

 




来週は普通に更新できそうです。
何とかこのまま週一更新に戻したいですね。
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