ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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『竜王からフレンド申請が届いています』……拒否しました。   

 

「さて」

 

 

 

ロードスは眼前に集まった面々にいつもより僅かばかり熱のこもった声で語り掛けた。

彼の背後の机の上に置かれているのは品の価値を見抜けるものが見たら卒倒する程の一品たちだ。

7000年を生きてきた彼をしてこれほどの宝が集まったのを見た事はないほどである。

 

 

 

 

虹色羊の毛。

 

 

 

神話の時代より伝わる至宝であり天力を幾倍にも増幅させるこの世で二つとないブースターだ。

更にそれに加えて羊毛に宿るアリエスの意思はプランを助けるのにあたり限界を超えた性能を引き出してくれることだろう。

 

 

 

竜王の血。

 

 

 

“竜王”ラードゥンの全身を駆け巡るおぞましき呪と想像を絶する力を宿した赤い液体。

ロードスがエリクシルと称するのも無理はない権能を帯びているが、同時に悪竜の意思も宿っている。

 

 

 

更には復活を果たしたウルズの水。

カストールから譲り受けた木龍の欠片の一部を更に砕いた粉末。

そしてプランの所持する不死鳥の宝玉。

 

 

 

駄目押しとして彼のとっておきの薬草も幾つか国庫から持ち出されており、そのどれもが金では買えない程の品々である。

 

 

 

 

「ここまで錚々たる物品が並ぶとはな」

 

 

 

腕を組み頷く。

倦怠と停滞に満ちた男であった筈のロードスだが、ここまでお膳立てされればやる気も湧くというものだ。

何より、これでしっかりとプランを治さないと後々厄介な事になるという予感もあった。

 

 

 

ルファスという少女を彼は心から警戒している。

内包した感情の巨大さ、身に秘めた可能性は彼からみても計測できずどう転ぶかも判らない。

下手をすれば竜王や魔神王を超える災禍になりうるとロードスはルファスを警戒している。

 

 

 

たかが16歳の少女に何をと思うかもしれないが彼ほど生存欲求の強い男はおらず、その優れた本能が囁いているのだから仕方ない。

アラニアからの報告と天翼族の悪癖、更にはルファスの翼の色を考えるに彼女の半生に何があったかは想像に容易い。

プランの腹部もそうだ。アリストテレスがこんな負傷を普通は受ける筈がない。

 

 

 

誰がコレをやったかという問いをあえて彼は投げなかったが予測はついている。

仮定ではあるがコレをしたのはルファスだと。

彼女のプランに向ける感情の中に執着とは別の慙愧が宿っている事も彼は既に見抜いている。

 

 

 

 

とすればロードスのやる事は一つ。

とりあえずプランを延命させる。

ルファスという不安定極まりない少女が情緒を育むまで彼には責任をしっかり果たしてもらおう。

 

 

そうやって上手く立ち回れれば彼女を新しいエルフ主導の国に取り込むことだって不可能ではないだろう。

王としての彼はこの先どうあっても長い付き合いになるであろうルファスをどう利用するか冷静に打算を重ねている。

 

 

 

なに、寿命が延びると言っても長くても70年かそこらだ。

そのくらいであればロードスはゆっくり待てる。

エルフという長命種の持つ最大の武器である時間を彼ほど使いこなす男はいない。

 

 

 

エルフ王はプランが血さえ残さなければ何をしてもかまわない。

彼の父の所業を想えば逆説的に子供を作らせない技術もあることだろうと下世話な事さえ考えていた。

 

 

 

「まずは下ごしらえからだ。段取り通りやるぞ」

 

 

 

アリストテレスと一声かければプランが一歩進み出る。

右腕を何度か触り調子を確かめて問題ないことを確認。

 

 

 

腕も体調もすこぶる良好だ。

不死鳥の意思は既に存在しない筈なのだが、どうにもあの天秤を粉々にしてから宝玉の機嫌は常に良い。

 

 

 

竜王の血で満たされたフラスコをロードスはプランに翳す。

真っ赤に透き通ったソレは言われなければ良質なワインにも見える。

キラキラと表面は宿す力によって輝いており、不気味な神秘さえも感じさせられた。

 

 

 

腕を翳し【観察眼】も並行して発動。

マナを観る能力を行使し、血に宿る竜王の意思を探す。

原理としては“子隠し”が世界にしがみついていたのと似通っている。

 

 

 

高濃度のマナには意識を保存/記録できる作用があることを彼は知っている。

で、あれば竜の血にラードゥンの意思が残っているのは当然だ。

 

 

 

そして見る事が出来るのならば聴く事も出来る。

プランが自分に干渉してきたと悟った竜王の残留思念はいつも通りの調子でちっぽけな人間と彼から見ても見所のある魔物に声をかけた。

 

 

 

───ごきげんよう! ぼくを飲めばすっごくつよくなれるよ!

 

 

 

───そっちのおねえちゃんもすごいね! なんでおねえちゃんみたいな凄いまものがこんなところにいるのかな?

 

 

 

 

甲高い子供の様な声をプランとルファスは聞いた。

ルファスが一瞬でプランを守る様に踏み出し、黒い翼がささくれ立つ。

たかが血液に何かできるとは思えないが、もしも何かするようだったら即座に反応できるように身構えている。

 

 

ロードスとメグレズは聞こえていないようだが、プランはともかくルファスの纏う気配が変わった事で色々と察したようであった。

 

 

 

【観察眼】でじっとアリストテレスは竜王の血とそこに宿る意思を観測している。

なるほど竜王はこうやって魔物を支配してるのだなとレポートを刻みながら。

話には聞いていたが、この血液を飲んだ者にはラードゥンの意思が植えつけられるのは間違いない。

 

 

 

最初は無意識に。

やがては意識さえも乗っ取られ竜王の人形に成り下がるだろう。

自分の意思と思っているそれさえも徐々に浸食されるのは間違いない。

 

 

 

 

粗削りではあるが理に適っている。

竜王は言動こそ幼稚であるがその技量と発想には目を見張るものがあるとアリストテレスはラードゥンへの評価を数段階上げた。

 

 

 

 

「こんにちは。これから貴方を消す予定なのですが、その前に少しお話をしませんか?」

 

 

アリストテレスはまるで友人に話しかけるかのように竜王に声をかける。

本体相手ではこうもいかない故に安全な状況でラードゥンと話ができるのは貴重な機会といえた。

ルファスが一瞬信じられないモノを見る目でプランを見たが、直ぐに警戒心に満ちた瞳でフラスコを睨みつける。

 

 

 

【一致団結】がロードスとメグレズにも接続され、会話を閲覧できるようにしておく。

 

 

 

───いいよ! わーい!! ぼく、おはなしするの大好き!

 

 

 

 

快く竜王の意思はアリストテレスの提案に乗る。

元より刹那的な側面がある竜王の一部だ、相手に生殺与奪を握られている状況であっても「まあいいか」で済ませてしまうのだろう。

 

 

 

「貴方の目的は何ですか?」

 

 

 

 

───それはもちろん! 女神さま(ママ)によろこんでもらうことさ。

 

 

 

───女神さま(ママ)はね、絶望がだいすきなんだ。みんなが苦しむところを見て、すっごくお喜びになられてる!

 

 

 

考えるそぶりもなくラードゥンは即答した。

彼からすれば常識レベルの事である故にうきうきとした様子で己が得た真理を彼は語り出す。

ルファスの顔から一切の表情が消え去るが、ラードゥンの意思は知ってか知らずか、はたまた気にも留めずに続ける。

 

 

 

───ミズガルズはね、女神さまがつくりだしたおっきな舞台なの。

 

 

───ここにいる人たちはみんながみーんな女神さまのおもちゃ!!

 

 

 

 

ジスモアの苦悩。

アウラの諦観。

プランの無気力。

そしてルファスの絶望。

 

 

 

更には強者に奪われて嘆くだけの多くの人々。

それら全部を纏めて竜王はおもちゃの一言で表した。

よわいよわいゴミなどいっぱい殺されて当たり前だと。

 

 

 

───ないて、わめいて、悲しんで、そしてぜつぼうしながら死んでいくのを女神さまは天からながめてるのさ!

 

───でもでも、さいきんはちょっとマンネリがすぎるからさ、ぼくがもっとおもしろいことをしてあげようってね!!

 

 

 

ミョルニルを破壊し、アトランティスに戦火を撒き散らしながらもまだ足りないと彼は嘯く。

その上でそれら全ては女神の意思であり神が望まれたのだからそれを行うのは当たり前だと彼は断言した。

ミシという音を聞いたルファスが微かに感じた痛みに右手を見れば握りすぎた拳から血が微かに滲んでいた。

 

 

不死鳥もそうだったが、竜王のソレは度を越している。

フェニックスは悠久の年月を生きてきた覇者として弱者など眼中にもない傲慢さの象徴として吐いた言葉だったが、竜王は明らかに楽しんでいる。

 

 

 

絶大な力を思うがままに振い、弱者を嬲り苦しめる事に明らかな喜びを見出していた。

途方もない悪意にソレを満たせるだけの力を与えられた怪物、それがラードゥンだ。

 

 

 

「こいつっ……!」

 

 

 

口から洩れたのは怒りだった。

彼女とて力に溺れる気持ちは判る。

手に入れた力で相手を叩きのめす事が嫌いとは言えない程に魔物としての側面もある。

 

 

 

だがしかし、ラードゥンは度を超えている。

良いことをしろとは言わない。魔物なのだから。

だがしかし、こいつのソレは自分たちが住まうミズガルズそのものを破壊しかねない。

 

 

 

付き従う者も敵対する者も、何もかもをこいつは殺す気だとルファスは悟った。

ラードゥンの世界には本当の意味で味方などいない。

こいつにあるのは自分と女神だけだ。

 

 

 

 

ルファスの怒りを感じ取ったのかラードゥンの声の調子が微かに変わる。

もちろん労わりや気遣いなどではない。

彼にあるのは純粋な悪意と嗜虐心だけだ。

 

 

 

───うん? どうしておねえちゃんは怒ってるの?

 

 

 

───ぼくには判るよ! おねえちゃんもこっちがわの存在のはずさ。

 

 

 

───いい子ぶるのはやめなよ。ほんとうはそこらへんの奴らをぜーんぶ見下してるくせにさ!

 

 

 

───しょせんはルファスちゃんにはかんけいないゴミみたいな雑魚たちだよ?

 

 

 

ケタケタと竜王の囀りは続く。

聞いているだけでルファスの血管に負荷がかかるほどに不愉快な言葉を不愉快な声音で彼は吐き連ねる。

 

 

 

 

 

───そこらへんのモブなんて生きていてもなんのかちもないゴミさ! なーんにもできないうまれてきてもなにも成せないわき役さんたち!

 

 

 

───だけどね、あいつらはひとつだけやくにたつんだ。

 

 

 

───いっぱい殺せば殺すだけぼくがどれだけ“悪役”としてすごい箔がつくんだ!!

 

 

 

 

ラードゥンにとっては世界に生きる人々は尊ぶべき命などではない。

彼にとってはそう……ただの“ポイント”だ。

的当てゲームの時の様に、殺せば殺す程どれほど自分が凄い存在なのかを示せるバロメーターでしかない。

 

 

 

───みんないっつもおなじことを言うんだ! どうしてこんなことをするのって!

 

 

 

 

やめて、助けて。

痛い、苦しい。

お願い。

助けて女神さま、アロヴィナス様。

 

 

 

助けて勇者様。

 

 

ありがとう勇者様。

 

 

 

 

あぁ───貴方を勇者にしてよかった!!

 

 

 

無価値で無力で流されるだけの命。

彼らは己に降りかかる理不尽に対して涙を流して祈るだけだ。

 

 

 

そんな奴らを踏みにじるのがラードゥンは心から好きだった。

ミズガルズが無茶苦茶に壊れていくのを見ると心から彼は満たされるし、快楽に近いモノを感じることさえ出来た。

竜王の本質はヴァナヘイムでルファスを虐めていた者たちにとてつもない力を付与し、その対象をミズガルズに変えた存在といえよう。

 

 

 

 

子供染みた悪意といえば可愛らしいが、彼のそれは比類なく真っ黒で更生の余地などない。

胸の中にある“誰か”も同じだ。

女神の世界とそこに住まう命を踏みにじることに使命に近いものを見出している。

 

 

ミョルニルが燃え盛る様はラードゥンからすれば絶景だったことだろう。

何せ無価値なゴミが唯一役に立った上にアロヴィナス神を喜ばせる事も出来たのだから。

 

 

 

「お前はっ!」

 

 

毛先が文字通り燃え上がる。

怒りが彼女を満たす。

何より腹が立つのは、この忌々しい怪物の言葉を理解できる自分がいるということだった。

 

 

 

判ってしまうのだ、ルファスには。

レベルというつまらない数字でしか他人を見ていなかった時期がある彼女にはラードゥンの言い分が理解できてしまう。

リュケイオンや色々な街に足を運んだが、その時に外を歩く人たちを見て「こいつらは自分よりも弱い」と歪んだ優越感に酔った事もあるのだから。

 

 

「ルファス」

 

 

苛立ちすぎてそのままフラスコを叩き割りかねないルファスを抑えるようにプランが彼女の肩を優しく叩く。

怒り狂いそうだった頭がそれだけで急速に冷えていく。

 

 

 

人としてのルファスの面が強くなる。

彼女は客観的に己を見た結果少しばかり恥じ入る様に顔を俯かせた。

ロードスやメグレズもいる手前でここまで熱くなったのは失敗だと悟ったのだ。

 

 

 

ただ一つはっきりわかった事がある。

それはラードゥンは放っておいてはいけないということだった。

この世には存在するだけで他者を害する怪物がいるのをルファスは理解した。

 

 

 

 

「教え子と話をしてくださりありがとうございます。自分からもよろしいでしょうか」

 

 

 

 

なーにー? とラードゥンが返事するとプランは単刀直入に聞く。

竜王の性格を考えるに下手な腹の探り合いは意味がないと彼は判断した。

 

 

 

「貴方はミズガルズをどうしたいのですか?」

 

 

 

 

───そんなのきまってるよ!

 

 

 

ここだけ明らかに口調が変わった。

子供の様な声はそのままであるのに、込められた感情の重さと質が違う。

 

 

 

皆殺しさ
 

 

 

 

 

 

ドス黒い悪意ともう一つのナニカがそこには籠っていた。

ルファスだけが後者をはっきりと認識する。

彼女も昔はこれに縋っていたからだ。

 

 

 

ラードゥンの声には決してハッタリでも何でもない本気の色があった。

彼は本気で、全身全霊でミズガルズの全生命体を殺しつくすつもりだ。

一気に大技で壊すなどせず、一人一人、しっかりと、几帳面に念入りに徹底的に殺すのだ。

 

 

人類の全て、魔物、魔神族、妖精に龍も何もかもを。

 

 

 

残るのは女神を讃える者だけと彼は考えているが、実際はそれさえも怪しい。

確かにラードゥンは女神を支持する良い子を残そうとするだろう。

だがしかし彼はそれさえ許さないかもしれない。

 

 

 

膨れ上がる悪意と破壊衝動に限界などなく、彼の作る世界の行きつく先は“無”だ。

女神が数億年かけて作り上げた生態系と全生命のバランスなど考えもしない。

 

 

 

 

あらゆる全てと共存不可能な魔物。

未来を作れない/作る気もない行き詰まりの権化。

それがラードゥンである。

 

 

 

 

「ありがとうございました。それでは」

 

 

 

話は終わりだと右腕を翳す。

これ以上対話しても有益な情報は出てこないと判断。

宝玉が怪しく輝き熱を感じさせない不死鳥の炎が噴き出す。

 

 

 

燃やしたいモノだけを燃やす炎とプランの【観察眼】の合わせ技は概念的な意思さえも捕捉し焼く事ができる。

 

 

 

「まって」

 

 

……ルファスがプランの右腕を掴んだ。

ぎゅぅっと握られた彼女の両手は痛みこそないが縋るような様子で。

思わずプランは彼女の顔に視線をやる。

 

 

彼女の瞳には決意が宿っていた。

この世には決して許してはいけない存在がいると理解し、絶対に自分の大切な人たちを奪わせないと覚悟を決めた顔だった。

 

 

 

ルファスの心に反応するように不死鳥の炎がその出力を増していく。

ただでさえ真っ赤な炎が彼女の瞳の様に透き通り始めた。

最古の魔物と最新の魔物の力が混ざり合い、最悪の魔物の意思を焼くために猛っていく。

 

 

 

「私もやる。ううん……やらせて」

 

 

 

フラスコに満たされた血。

それが内包する竜王の意思を睨みつつルファスは言った。

 

 

 

 

今まで何処かでルファスは迫りくる竜王の脅威というのを甘く見ていた節があった。

ミョルニルを焼き払う光景などを見て最大限に警戒こそしていたが、プランたちと自分が未来を手に入れる上のただの通過点でしかないと。

しかしその認識は既に破棄されている。

 

 

そんな認識は甘すぎた。

あれは、あの存在は文字通り全てを終わらせかねない。

 

 

 

どうしてあれだけプランが自分から竜王の話題を遠ざけていたか今の彼女にはよく判る。

自分より上位の魔物だというのもあるが余りにあの悪意は強すぎる。

心の弱い存在では魅入られてしまうかもしれないほどに。

 

 

 

人類の大半は誰を殺したり、何かを壊すことを悪い事だと認識している。

それは人という種が国家という共同体を作る上で必要なモラルだ。

だがしかし、ラードゥンの悪意はそれを蕩けさせてくる。

 

 

多くの者は思っているだろう。

ミズガルズで虐げられてきた人たち、弱者は上を見つめながら「自分もあっち側に立ちたい」と。

そんな弱い心に竜王の悪意はとてつもない親和性を示す。

 

 

被害者を加害者に作り替える事が竜王には可能だ。

そしてその手を取ったが最後、彼の操り人形へと変えられてしまう。

 

 

竜王は、ラードゥンは、何としても排さなくてはいけない存在だ。

 

 

 

 

───ぎゃはははは!! いっちょまえに人のふりをしてる!!

 

 

 

───はやく素直になりなよ!! きみはさ!! ぼくとおなじなのにっ!!

 

 

 

 

───ぼくはいつも北にいるよ! いつでもあいにきてくれていいからね?

 

 

 

不死鳥の炎に炙られ焼き尽くされながらもラードゥンは嘲笑を止めない。

ここにいる意思はもはや本体との接続も途切れた残留思念でしかないが、彼は確信しているのだろう。

 

 

 

いずれ自分が全てを終わらせると。

女神さまの舞台に最高の大団円を与えるのだと。

最初の魔物に完全に燃焼させられる最後の瞬間まで竜王はルファスを嘲笑いながら消えていくのだった。

 

 

 

後に残るのは真っ赤な液体だけ。

ほんのりと冷たいソレは巣食う悪意を除去され、至高の素材へと生まれ変わったのだ。

 

 

喜ぶべきなのだろう。

だがしかしルファスの心にはそれとは別種の感情が微かに疼きを上げていた。

 

 

 

「…………」

 

 

 

更にプランの右腕を掴む力が強くなる。

力加減は完璧だが、それでも義手が微かに軋むくらいには。

 

 

 

 

“こっちがわ”

 

 

 

“ぼくとおなじ”

 

 

 

ラードゥンの言葉が胸の中で木霊する。

何度も何度も。

竜王の悪意はなんてこともない侮蔑にさえ強力な言霊を宿らせてしまう。

 

 

 

幾ら私は違うと拒絶しても不信という種をばら撒くほどに。

ほんの微かに触れただけで汚染される程に彼の存在感/狂気は強い。

 

 

 

彼女一人であったのならば引きずり込まれてしまったかもしれない。

如何にレベル900とはいえ、たかが900程度ではラードゥンの本気の勧誘を跳ねのけるのは難しいだろう。

彼は既に世界の法則を超えており、その影響力は想像を絶するとしか評せない。

 

 

 

だが。

 

 

 

男が少女に眼を向ける。

言葉は無かったが、彼はラードゥンと会話を終えたルファスの身を案じていた。

ユーダリルを訪れた時、ルファスは竜王の支配力に呑まれかけた事がある事を彼は覚えている。

 

 

 

女は笑った。

何だ、簡単な事じゃないかと。

波が引くように竜王の声が頭の中から消え去っていく。

 

 

 

自分を讃える人形に囲まれた哀れなトカゲ。

きっと親しい友もいないのだろうと思うと怒る気力さえ無駄に思えた。

 

 

 

「人のことを魔物呼ばわりする失礼な奴だったな」

 

 

 

「あぁ、そうだ……“お呼びじゃない。失せろ”っていうのを忘れてしまった」

 

 

 

くすくす笑えばプランは呆気にとられた様な顔をし心から微笑んだ。

そういえばそんな事もあったなと思い出したのだろう。

 

 

 

 

「ふむ」

 

 

 

ロードスが和気藹々とした様子を見せている二人を尻目に足早にフラスコに近寄り覗き込む。

真っ赤な血は外見上は何一つ変わっていないが、それでもこの中にあった悪意はもう無いことを彼もまた確認。

 

 

 

「見事な出来栄えだ。ここまで上手くいくとはな」

 

 

 

エルフ王はパンっと手を叩き「やるぞ」という気合を入れる。

7000年の生涯においても殆どない超がつくほどの困難への挑戦である。

 

 

 

目指すは至高のポーション。

どれほどの疫病を患っていようと、どれほどの呪を受けていようと、必ずや治して見せる究極の薬品だ。

 

 

 

「よしっ……ここに全ての前提は果たされた」

 

 

 

 

「それでは新薬開発を始めようではないか」

 

 

 

【錬成】で黒板を作り上げた彼はチョークでそこに新作ポーションの名前を書き連ねていく。

彼はラードゥンの血を“エリクシル”と名付けた時点でこう名付けるつもりだった。

 

 

 

 

即ち“万能の霊薬エリクサー”と。

 

 





『エリクサー』


竜王の血やアリエスの羊毛を筆頭にコスト度外視で作られたポーション。
名前こそエリクサーではあるが実際はアムリタに匹敵する性能を秘めている。
全てはもう一度やり直す為に。



竜王の夢


どの様な手を使ったかは不明であるが彼は勇者の故郷世界を把握している。
ミズガルズを終わらせた後は80億の命を嬉々として虐殺するために動く事だろう。

その後は別の世界を、ソレを滅ぼしたらまた違う世界を。
存在する全ての世界に女神の名前を唱えながら絶望を振りまく事が彼の行動指針である。


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