ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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祝! 漫画版9巻発売!!
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今回は世界最強の魔物とはというお話。


「女神さまってさいこうだよね!」

 

 

『あぁ~~~あっついぃぃぃ~~♪』

 

 

 

101本あった首の半分を切り落とされた竜王は無邪気に痛みを味わいつつ笑っていた。

切断面には【デネブ・アルゲティ】が纏わりつきラードゥンの異次元としか言いようがない再生能力を阻害している。

その結果、彼は徐々に首を落とされ気づけば守勢に回り始めていた。

 

 

 

 

四方八方から無限に【月】属性の魔法である【カタストロフィ】が飛んでくる。

一撃一撃が数千キロの衛星を木っ端みじんにしかねないソレを縦横無尽に飛翔し回避しつつよけ切れないと判断したモノはブレスで迎撃。

複合属性のブレスと魔法が激突した結果、何千キロという単位で空間が歪んだ。

 

 

余波に巻き込まれた小惑星帯が散り散りに吹き飛んでいく。

今のなんて事もない攻防をミズガルズで行ったらその瞬間に星は砕け、龍たちが動き出したかもしれない。

 

 

 

しかし一撃を相殺したとしても次から次へと後続は尽きる事はない。

【デネブ・アルゲティ】というこの世のあらゆる構築要素を蝕む魔王の炎はラードゥンであっても当たれば無効化は不可能だ。

ほんの少しでも黒炎がその身に付着すればそこに内包された「何としても殺す」という意思が竜王の肉体を容赦なく焼いていく。

 

 

 

しかしそれでも“竜王”は変わらない。

 

彼はその柔軟な思考/頭でかつて一蹴してゴミの様に扱ったアイゴケロスが己を本気で殺そうとしているのを理解し───笑った。

 

 

 

『ははははははハハハ!! なぁぁぁんだ!! やればできる子だったんだね!!』

 

 

 

『ざこって言ってごめんね!』

 

 

 

『ぎゃははははははははは!!』

 

 

 

 

身体の至る所から煙を上げた竜王は一瞬で10万キロほど移動し、自分を狙う“軍団”を眺める。

闇黒の宙には来るべき魔の時代を喝采する様に膨大な数の【魔】が空間を狂気的なまでの密度で埋め尽くしていた。

【魔王アイゴケロス】はこの戦いの為にあらゆる全てを総動員し無限に、永遠に分身を作り続ける。

 

 

更にその分身が分身を製作し、その分身が更に分身を……。

ネズミ算式に魔王は増える、増え続ける。

もはや万と言う単位を通り越し、億の領域にまで彼は達そうとしていた。

 

 

 

その全てがレベル1000。1000。1000。1000。

 

 

もちろん彼一人ではこのような事は出来ない。

全ては邪神という比翼の友がいたからこそだ。

女神の世界を邪神の法が浸食するたびに奪い取ったリソースを供給してもらっているのだ。

 

 

 

もちろん魔王の強さは分身だけにあらず。

彼本体もまた慢心を捨て、この戦いに全てを懸けている。

殺意と憎悪はあるが、それでも彼は竜王を本物だと認めていた。

 

 

 

 

“竜王”こそ単体としては最強の魔物だ。

自分だけでは勝てない、と。

しかし彼には兄弟ともいえる程に近しい仲間───邪神トゥールーがいる。

 

 

 

深海と地底。

人智の及ばない魔境で産まれた存在は共鳴し合い、その結果としてアロヴィナス神の定めた法を崩すに至る。

ベネトナシュでさえ同時には相手できないほどに彼らは強大化を続けていく。

 

 

 

 

【魔王アイゴケロス】 

 

 

レベル1400。

 

 

1410……1420……1450……。

 

 

【邪神トゥールー】  

 

 

レベル1700。

 

 

17……70……80……。

 

 

 

龍でさえ手が付けられない域に上り詰めたというのに両名は更に強くなり続ける。

魔王の肉体は既に全長1万キロに達そうかというほどに巨大化し、月程度ならば文字通り掴んでキャッチボールでも出来そうな程だ。

 

 

邪神もまたアイゴケロスと同規模に巨大化し、その全身から生える触手の数を増やし続けている。

もはや何処が身体で何処が触手なのか判らない“毛玉”のようだ。

ギョロリと竜王の瞳が回転し「ひー」「ふー」「みー」と数えてみた所、なんと現時点で1300万本ほどあるようだった。

 

 

その全てが機敏に動くのを見ると、邪神は1ターンに1300万回行動できると考えていいだろう。

まぁ、今の所は真っ黒な蠢く惑星としか言えない姿だが。

全長100メートルを超える巨人の竜王でさえ今の両者から見れば砂粒程度でしかない。

 

 

 

竜王の角は13本。自慢の竜の象徴だ。

多ければいいってもんじゃないよねぇ、と彼は己の王冠の如きかっこいい角を誇る。

 

 

 

『ふーん……へぇぇぇ?』

 

 

 

魔王はともかく初めて相対した邪神を竜王は興味深そうにしげしげと眺めて喉を鳴らす。

イイ感じの圧力だ、背中がチリチリして……本能が疼く。

滅多に機能しない危機察知能力がミョルニルの時と同じく動いている。

 

 

 

竜王の瞳には全てが映っている。

レベル限界を超え続ける悪い子たちの力が全て。

しかし彼のやる事は何も変わらない。

 

 

 

むしろかつてない程に彼はやる気に満ちていた。

こういった存在を倒すのが勇者である己の使命なのだから。

女神さまの世界を歪ませる悪い子は全て滅ぼすと既に決めているのだ。

 

 

 

ミズガルズの誰にも気づかれることなく世界の命運をかけた戦いが始まりどれくらいの時間が経っただろうか?

少なくとも隔離されたこの宙における時間経過は外界とは大きくズレているのは間違いない。

ここでの1年の戦いは外からすれば1秒かもしれないし、逆に100年にもなるかもしれない。

 

 

邪神の力によって形成され魔王によって拡大するこの宙は外宇宙と同じ空間的な面積を誇る故にどれほどの力を行使しようとミズガルズには影響は出ない。

これこそは処刑場。

魔の時代を阻害する唯一にして最大の存在である“竜王”を完膚なきまでに滅ぼすための殺戮場なのだ。

 

 

 

 

【死ね! 死ね!! 死ねぇぇ!!】

 

 

 

山羊の頭部、人間の上半身、渦を描いた下半身のアイゴケロスがありったけの憎悪と殺意を込めて吠えた。

アリストテレスにラードゥン。

この世界には己をも手玉に取ろうとする不快な存在が闊歩するという事実を認めた上でそれら全てを消し去ってみせると彼は決意している。

 

 

 

全てはここからだ。

この怪物を殺し、アリストテレスを殺し、ミズガルズを闇に包むのが彼の本能であり願いだ。

マナが実像を帯びていく。

 

 

不定形だった下半身が人のソレに変わり、魔王は悪魔として完成した姿へと至る。

 

 

 

【我が覇道を阻んだことを後悔させてやるッ!!】

 

 

 

【お前の次は“奴”だ!! 決して許さんぞぉぉぉ!!!】

 

 

 

我こそは魔王アイゴケロス。

我こそは新たな時代の王。

唯一の同胞たる邪神と共に暗黒の世界を築く者だという自負が彼を突き動かしている。

 

 

 

惑星サイズの巨躯を誇る彼の周囲に展開された夥しい数の分身たちが呼応して喝采を上げた。

闇黒の宙を満たすのは魔王の戦気と殺意。

それら全てがたった一頭の竜に向けられている。

 

 

 

ヘルヘイムの魔王は億にも届く己たちと共に竜王を殺すべく猛るのだ。

 

 

 

 

『■■■』

 

 

 

 

真っ黒な毛玉としか表現できない惑星が小さく何かを呟く。

それはこの世においては魔王しか理解できない言語に近いものであり、決して文字には出来ない“意思”であった。

その“意思”はこれを認識するだけであらゆる生物を発狂させるだけの情報量/排他心が込められている。

 

 

 

邪神の願いは簡単で、誰でも判る程にちっぽけなモノであった。

彼は産まれもった力の巨大さと相反し野心の類は一切もっていない。

 

 

ただ眠っていたい。

誰にも干渉されたくない。

ただ、永遠に微睡み続けたい。

 

 

 

誰も関わらないで欲しい。

誰も干渉しないでほしい。

それだけなのだ、邪神の望みは。

 

 

 

邪神は竜王を見た。

彼には魔物の美醜など判らぬが、コレが自分を害する存在だと理解はしている。

彼は怠惰な神ではあるが黙って害されるのを見過ごす程に動かないわけではない。

 

 

 

とにかく己の平穏を妨害する敵を排除する。

支配やら何やらは同胞が勝手にやればいい。

これが終ったら彼は深海の奥底で今度こそ数万年単位で眠るつもりだった。

 

 

 

『■■■■■───』

 

 

真っ黒な惑星に切れ目が走り、蕾が花開くように展開していく。

巨大な“傘”と“幹”を有するその姿は深海に生息するクラゲとイカを入り混ぜたような姿であった。

恐ろしい速度で細胞が変異を繰り返し邪神はその身体を戦闘に特化した姿へと作り替えていく。

 

 

 

彼のステータス欄が歪んでいく。

既に壊れ果てた女神の法ではあるが、この存在のクラス/スキルに名前を付ける事だけは成功したようだった。

 

 

 

【シュ■ニ■■ス】

 

 

 

“邪神”等と言うのはこの存在を過小評価した名称だ。

全く、全然足りていない。

彼にその気は殆ど存在しないが、実際のところ彼は正真正銘の“資格”を有している。

 

 

 

勝てるかどうかはともかくとして、彼は女神の座に挑む権利をもっていた。

 

 

 

 

大小あわせて1000万本あった触手はその数を更に倍へと増やし、巨大な傘の中では濁った翡翠色のマナが不気味に発光した。

明らかにミズガルズという惑星よりも巨大な深海生物、それがトゥールーの本気の姿だ。

彼がやる気を見せた瞬間、数百万キロ四方に異常な干渉波が吹き荒れる。

 

 

 

 

まるで高周波の様なソレはキィィィィィィィンという甲高い叫びの後、まるで子守歌の様に魔王と竜王の脳を揺らした。

同じ魔の極みである魔王は更にソレによって力を増幅させ、口元に壮絶な笑みを浮かべ肩を震わせる。

あふれ出る歓喜は遂に復讐が叶う喜びだ。

 

 

 

この極上の音を聞いているだけで無限に力が高まる。

今まで己を押さえつけていた“壁”が脆くも崩れ去っていくのを彼は感じた。

 

 

 

 

【素晴らしいぞ同志よ! これこそ新たな時代の到来を祝う讃美歌に相応しい!!】

 

 

 

ミズガルズで解放などしたらその瞬間全生命体が発狂し世界が滅ぶ邪神の狂気の波長を魔王はさすがというべきか心からこの歓喜の歌を堪能する。

 

 

 

 

そしてラードゥンは────。

在ろうことか彼は踊り出していた。

目の前に自分を殺そうと猛る億の魔王と惑星サイズの邪神がいる事さえ気にせずに。

 

 

 

そこらへんの若者が音楽にノる様に彼は手足を突き出し軽快なダンスをしている。

かつて捕食したアリエスの母の能力を応用して全身からサイケデリックな光を放出しつつノリノリで彼はダンスを楽しんでいた。

表情などない仮面の顔だというのに眼窩の光は心から楽しそうに細められ笑顔を形作っている。

 

 

 

『いぇ~~イ!! いいねこれっ!! すっっっごくいいよ!!』

 

 

 

イェイ、イェイと調子よく叫びながら彼は踊り狂う。

邪神の波動を宴会芸の音楽か何か程度にしか彼は認識していない。

元より正気など欠片も存在しない悪夢の怪物であるラードゥンにこんなもの何の意味もない。

 

 

狂気の波動?

そんなもの、このミズガルズの構造に比べれば可愛らしいものだ。

女神の作り出した狂気と絶望のおもちゃ箱に比較すればただの音楽でしかない。

 

 

 

 

『あははははは!! 女神さま最高っ!! 女神さまばんざぁぁぁい!!』

 

 

 

『女神最高! 女神最高!!』

 

 

 

『女神万歳! 女神万歳っ!!』

 

 

 

心からの信仰を込めて無邪気に女神を讃える。

余りに場違いな姿に殺意に燃えていた魔王さえ動きを止めて呆然と狂気としか言いようがない竜王の行動を見つめていた。

何だこいつは、何をしているのだ? 長い年月を生きてきた彼であっても竜王の行動を理解できない。

 

 

邪神だけが気怠そうに、しかし先よりも鬱陶しそうな気配を放つ。

あぁうるさい。本当に喧しい。何なんだこいつは、と。

彼は既にラードゥンを嫌悪しだしている。

 

 

 

自分の平穏を害するかもしれない、ではなく……こいつは有害だと確信を抱いたのだ。

 

 

 

 

【……貴様ほどの存在が何故そこまでして女神を信仰する?】

 

 

 

魔王は最後の激突を前に一つだけ質問をラードゥンへと投げかけた。

これだけの力を持ち、これだけの狂気を振りまく“竜王”はしがらみ抜きで言えば魔物として尊敬さえ抱ける存在だ。

属する側こそ違うがラードゥンの根底は自分と似通っているのも事実。

 

 

 

覇を競う相手ではあるが、もしかしたら手を結べたかもしれないほどに彼の悪性は同類だ。

 

 

 

他者を苦しませる事に喜びを見出し、絶望に突き落とす事に優越感を抱く。

屍山血河を嬉々として積み上げ数えきれないほどの命を奪い取る。

そこだけ見れば魔王と竜王は非常に似通っている。

 

 

 

ラードゥンとアイゴケロスは根本的に在り方が“魔物”なのだ。

だというのに、どうして女神をそこまで信仰するのか彼は全く判らなかった。

 

 

ピタッと拳を振り上げたまま停止したラードゥンはアイゴケロスに視線を移して言う。

 

 

 

『そんなのかんたんさ』

 

 

 

『ぼくたちってさ、基本てきに“つよいのが正義”っておもってるよね?』

 

 

 

弱肉強食。

弱者は黙って強者に殺されていればいい。

強い者は何をしても許される、それが強者だというのが魔物の世界における絶対の法だ。

 

 

【…………】

 

 

 

アイゴケロスはラードゥンの言いたいことを朧に悟り顔を歪めた。

魔王は魔王だからこそ竜王の言葉を否定することはできない。

仮にだが──まぁあり得ない事ではあるが──己を魅了するほどの高次の魔物が現れれば彼は喜んで膝をつくことだろう。

 

 

 

 

女神さま(ママ)はこのよでもっとも強いからね! だからいちばん正しいの!!』

 

 

 

『ちょっとかんがえてみてよ! 女神さま(ママ)のやりたいことってさ、ぼくたちの目的とおなじじゃない?』

 

 

 

 

魔王アイゴケロスは魔の時代の到来を望んでいる。

即ち己がミズガルズの玉座に座り、あらゆる魔物/生物を支配する世界を。

その世界においては弱者は全てが玩具だ。

 

 

強者の手によって全てを弄ばれる消耗品としてだけ弱者は存在を許されるだろう。

あらゆる苦痛と絶望を世界にばら撒き、全人類を己たちの奴隷へと貶めるのが彼の願いである。

 

 

 

理由などない。

彼はヘルヘイムの中でも突出した悪意と嗜虐心の持ち主でありそういう迫害や虐殺が大好きなのだ。

魔王が地上侵攻を望む理由は新鮮な悲鳴が聞きたいからというのが最も大きな理由である。

 

 

アイゴケロスは人を苦しめるのが大好きなのだ。

愛していると言っていい。

その点だけはラードゥンと殆ど同質の存在だ。

 

 

 

『ぼくたち魔物ってさ、きほんてきには女神さまの“マナ”をとりこんでへんいした存在なのはしってるでしょ?』

 

 

 

『つまるところ、ぼくたちはみーんな女神さまの子どもなんだ! だから“ママ”ってよんでるの』

 

 

 

竜王の言葉は真実であった。

レベルを向上させたり生物を魔物に変異させるマナは全て女神アロヴィナスの力の切れ端だ。

それを取り込んで変異し、レベルの上昇を果たした魔物は全て女神の子と表現しても問題はない。

 

 

つまり魔神族も魔物も本質は女神の走狗というのはどうしようもない事実なのだ。

 

 

否定できない真理を叩きつけられたアイゴケロスは顔を歪めた。

魔物は全てが女神のマナを取り込んで産まれたというのは事実。

彼ほどマナ/魔力に詳しい存在はいない故にこの事実を見て見ぬフリは出来ない。

 

 

 

竜王の声が大きくなっていく。

何万キロ離れても聞こえる程に彼は己の持論を吐き散らすのだ。

だれだって己の得た真理を他者に説くのは楽しい事である。

 

 

『でねでね! ぼくは考えてね、わかっちゃったの!』

 

 

 

『どうしてぼくたちみたいなのが産まれたか、わかっちゃったの!!』

 

 

 

 

巨大な力を持って産まれた“竜王”こと11本目は産まれたその瞬間に【勇者】を飲み込んだ。

世界に霧散する筈だった全てを丸のみにし継承した蛇は彼の末期の憎悪と絶望を味わい己の使命を悟ったのだ。

 

 

 

だって、だって───【勇者】の惨めで無価値な最期をあんなにも感動して女神さまは見ていたではないか!

 

 

女神さまは、己たちの母は、この世全ての絶望を望んでいると確信するほどに!!

 

 

 

 

あぁ───貴方を勇者にしてよかった!!

 

 

 

 

 

本当に、本当にありがとうございました!!

 

 

 

 

ラードゥンは女神アロヴィナスの在り方に心から感銘を受け、己の使命を理解した。

ミズガルズの全ての希望を背負う程の聖人の尊厳を徹底的に踏みにじり、その最期に感動する様は正しく至高の魔物だ。

いつか自分もああなりたいと思う程に、心から憧れてしまうほどにアロヴィナスの在り方は究極の魔物だ。

 

 

 

『ママがね!! かんどうしてたんだ!!!』  

 

 

 

『人がぜつぼうする所をみて、嬉しくてたまらないって涙をながしてたの!!!!』  

 

 

 

『だからぼくは女神さまをよろこばせるんだ!! それに、ぼくも楽しいからね!!』 

 

 

 

 

ハハハハハハとラードゥンは笑う。

女神アロヴィナスの真理を己は理解しているのだと確信し優越感に顔を歪めながら。

だから彼は女神に祈る人類を嘲笑う。自分たちを苦しめている存在に祈るなんてバカだよねと。

 

 

 

だからラードゥンは女神アロヴィナスを哀れむ。

誰よりも強く邪悪で独りぼっちの彼女を。

 

 

 

女神はかわいそうだ。

だって自分の手で直接みんなを殺したりできないんだもの。

強すぎて「ちょん」と触るだけでミズガルズを破壊してしまう彼女はきっと永遠に血肉を裂く感触を楽しめない。

 

 

 

親を殺され泣きわめく子供を鑑賞できない。

子を奪われ慟哭する親を観れない。

最高の見世物だというのに。

 

 

竜王に良心など一欠けらも存在しない。

ただ何処までも暗黒色の悪意だけが彼にはある。

彼は純粋な絶対悪なのだ。

 

 

 

女神はかわいそうだ。

一方的に願われ、答えなければ裏切られたなんて吠えられるんだから。

玩具は主人に遊ばれるために存在するのであって、神に逆らう権利などない。

 

 

 

だから自分が代わりにやってあげるとラードゥンは決めた。

殺して殺して壊して壊しつくして、何もかもド派手に終わらせてあげようと。

蛇の中の■■もミズガルズの破壊を望んだことがそれを後押しした。

 

 

 

もはやかつての気高さは此処にはなく残骸と化したある人間は世界の破滅を願っている。

悪意と絶望は互いに増幅し合い女神の法に定められていたレベル限界という壁を貫くに至る。

故に彼のレベルは2000を超えるのだ。

 

 

 

 

『わかった? 女神さまこそぼくたち魔物のかみさまなのさ』

 

 

 

『つよい魔物にしたがうのはあたりまえでしょ?』

 

 

 

壮大な演説を終え、すっきりした心持でラードゥンは天高く宣言する。

 

 

 

『女神アロヴィナスさま。ぼくたちをお産みくださった偉大なるかみさま』

 

 

 

『ぼくは貴女さまの信徒でございます。貴女さまにぜつぼうをお捧げします』

 

 

 

さすれば全て大団円。

永遠の孤独に苛まれる女神への憐れみと、そんな彼女をどうすれば楽しませられるかという祈りの果てに彼は世界を絶望で終わらせてあげるのだ。

女神さまはもっと違う舞台を見るべきだ、ミズガルズがお気に入りなのは判るがそろそろ違う世界を作ってみてはどうかと彼は考えた。

 

 

 

 

 

【………違う】

 

 

 

魔王は呟いていた。

喚き散らす様に発散させていた敵意は鳴りを潜め、彼が本来もっている冷静さを内包した呟きだ。

 

 

 

確かに竜王の話には筋が通っている。

魔王をしてミズガルズは悪趣味極まりない絶望の庭園だ。

生ぬるいと思う事もあるが、それでも基本的には死と苦痛と絶望が渦を巻く世界だ。

 

 

 

魔物が女神の子というのも受け入れよう。

実際マナによって変異したのは事実なのだから。

あのおぞましいアリストテレスの息子扱いされるよりは遥かにマシだ。

 

 

 

 

だがしかし、一つだけ断固として魔王は受け入れない。

 

 

 

 

【我の悪意は!! 我の意思は!! 我だけのモノだ!!!】

 

 

 

 

邪悪な魔物は吠えた。

自分の覇道も、悪意と破壊衝動も、全て己の帳から湧いてきたのだと。

女神だの信仰心だの、ましてや女神の願いだの彼は決して受け入れない。

 

 

 

【我は我の望むがまま、思うがままの魔王だ!! 断じて女神の走狗などではない!!】

 

 

 

 

【侮辱するな竜王!! 神に縋らねば生きていけぬ軟弱者めが!!】

 

 

 

同種の邪悪でありながら決して迎合できない理由がコレであった。

魔王は女神が嫌いなのだ。

 

 

 

火が燃え上がる様に怒りが加速し魔王の軍勢はその手を竜王へと向けた。

【カタストロフィ】はおろか【銀の矢放つ乙女】さえその掌に形成される。

かの魔法は吸血姫の専用技だと思われがちだが、実際は「月」属性の魔法でしかなくアイゴケロスも使えるのだ。

 

 

 

 

数億にも及ぶ最上級破壊魔法の乱舞は星系規模での大爆発を引き起こすだろう。

惑星が幾つも砕ける衝撃が発生するが、それくらいでは邪神と魔王が作った隔絶宇宙は壊れない。

 

 

 

 

竜王は笑顔を深めた。

わぁお、あれは凄い。

全身を焼かれる感覚もいいものだ。

 

 

 

ミズガルズという狭い舞台では決して出来ない超々大規模破壊、それを魔王は容赦なく行使する。

星の数ほどに存在する分身たちが一斉に魔法を発射。

一発一発が最上級、魔王という規格外が放つそれは惑星を抉り、月を公転軌道から叩き落す破壊力が宿っている。

 

 

メガトン等と言う規模ではない。

何百ギガトン単位の爆弾が一斉にさく裂するようなものだ。

衝撃波が何千キロも拡散し、小規模なアステロイドは瞬時に蒸発するだろう。

 

 

 

 

光の濁流がラードゥンに放たれ、大爆発を引き起こす。

竜王は【エクスゲート】を展開して逃げる事も、それどころか竜の頭を使って防御もせずに受けた。

血肉が霧散し、101本ある頭が一瞬で残り数本まで吹き飛び……仮面の様な顔が消し飛んだ。

 

 

 

 

死んだのだ、竜王は。

だがしかし魔王も邪神もこれで終わるなど欠片も思っていない。

あの程度でラードゥンが終る筈がないという歪な信頼があった。

 

 

 

それは正しい。

 

 

 

受け継がれる魂(ソウル・サクセッション) 

 

 

ライフ・ストック(66665の命)

 

 

 

かつてベネトナシュが味わった絶望が降臨する。

星系規模で勇者の結界が展開され、その内側に存在するあらゆる敵の弱体化を図る。

ベネトナシュではどうしようもなかった最悪のコンボの第一段階が始まったのだ。

 

 

 

 

『■■■■■』

 

 

 

しかし邪神が不気味に発光すれば世界の法が軋みを上げ、勇者の結界は崩れ落ちていく。

天然物としては史上類を見ない外れた存在である彼ならば勇者スキルの一部を無効化することもできる。

 

 

 

だがしかし、そんな事、この後に顕れる絶望を前に何の意味があろうか。

 

 

 

マナから物質へと再生が行われ続ける。

木っ端みじんに吹き飛んだというのに竜王は何一つ気にしていない。

見る見る復活した101本の竜頭、それらがギュルギュルと渦を巻きながら編み込まれていく。

 

 

竜王の身体から絶え間なく炎と清らかな天力が放出されている。

おぞましい竜たちの集合体だというのに発する気配は何処までも神聖なものだった。

まるで、まるで──“勇者”のように。

 

 

 

 

竜王の本気の戦闘形態が披露されようとしている。

全ての龍、英霊、魔神族をまとめて絶滅させる時に用いる筈だった形態ではあったが、少しばかり早いお披露目だった。

邪神と魔王、となれば【勇者】である自分はそれに相応しい姿をしなくちゃねと考えた結果だ。

 

 

 

 

巨人形態と基本は同じだが、形成される四肢は洗練されており細くしなやか。

石膏像の様な顔が内側から噴き出る熱によって鋳造され整えられていく。

眼窩が燃え上がる“のっぺらぼう”の顔が完成した。

 

 

 

頭部から生えた角は先端が竜の顔へと変貌し、当然それにも独立した判定/【クラス】とレベルが存在する。

彼の角の竜……そのレベルは【2000】である。

 

 

 

何処か雑多で纏まりのなかった巨人とは打って変わって、無駄を削ぎ落され二回りほど小さくなった戦士としての人型。

それがフルパワー/全力を出したラードゥンの姿であった。

胸部から絶えず超新星にも匹敵する熱量を噴き出し続ける様は彼の底なしの生命力を表しているようだった。

 

 

 

 

『じゃじゃぁぁぁぁん! かっこいいでしょ?』

 

 

 

現状、宇宙最強の怪物がその産声を上げた。

無邪気に、何処までも悪辣に、己こそが絶対的な存在だと欠片も疑ってはいない。

 

 

 

 

 

勇者ラードゥン

 

 

レベル 2999(フルパワー)

 

 

 

種族 竜王

 

 

クラスレベル

 

 

【勇者】       1000

 

 

 

【≒勇者】  999

 

 

 

【ウォーリア】    200

 

 

【ヘビィウォーリア】 200

 

 

【ライトウォーリア】 200

 

 

【ソードマスター】  200

 

 

【アコライト】    200

 

 

 

 

ありえない数値とありえない現象が発生している。

クラスを持っている事がそもそもあり得ないというのに、更に追い打ちをかけるように彼は【勇者】の二乗というバグを引き起こしていた。

 

 

 

一つは丸のみにしたとある勇者のクラス。

女神に選ばれた正統なる聖戦士の証明。

 

 

 

そしてもう一つはミズガルズにおいて隠されていたクラスとしての勇者。

後の時代において剣王と謡われる者が手にした紛い物の勇者の力をも彼はモノにしている。

つまりラードゥンは【勇者】の能力上昇補正を2つ重ねた状態で2999回レベルアップし続けたことになる。

 

 

もはや彼の力がどれほどの域にいるかは魔王にさえ見渡せない。

勿論全ての頭はこれとは別に独自の【クラス】とレベルを持っており、それらも全てが2000レベルに近く、前の時と同じく天法の乱射も可能だ。

 

 

 

更に追い打ちが始まる。

おもむろにラードゥンは己の胸部に腕を差し入れると、中から何かをズルっと引き抜いた。

眩いばかりに清浄な光を放ちながら現れたのは巨大な剣。

 

 

 

根源的な敵の出現に魔王は一歩だけ後ずさり、邪神は更に敵意を深めた。

アレは、己たちを消し去る天敵だと理解してしまった。

 

 

 

『ははははははははは!! ぎゃはははははははハハハハハ!!!』

 

 

 

抜き放った剣の輝きに狂喜乱舞する竜王は下品に笑う。

 

 

 

【聖剣バルムンク】

 

 

 

かつて光の妖精姫ポルクスが当代の勇者に与えたとされる魔と竜を打ち払う聖なる剣。

それが今や史上最悪の怪物の手にあるのは何という皮肉か。

 

そして持ち主にしか使いこなせない剣の力を彼は完全に引き出せている。

つまりは、そういうことだ。

 

 

 

勇者が聖剣を高く翳す。

眩い輝きが宙を染め上げ、その光を浴びた魔なる者達───魔王の分身たちはのたうち回り出す。

呼吸が出来ていないかのように喉に手をやり悶え転がりながら消えていく。

 

 

 

攻撃でさえない。

ただ勇者の威光を放っただけ。

それだけで魔王の分身たちは消去されていく。

 

 

 

忌々しそうに魔王は唸る。

何だこいつは、何だ勇者とは、こんな勇者がいてたまるか。

だがしかし現実は変わらない。

 

 

 

『ぼくが“しゅじんこう”! ぼくが“勇者”!!』

 

 

 

己こそが世界の中心だと勇者は叫んだ。

アイアム・ア・ヒーロー、己は主人公、その他全ては引き立て役、やられやく、モブ、かませであると彼は心から信じている。

ミズガルズの“あくやく”も悪くはないが、同時に自分は主人公でもあると彼は思っていた。

 

 

 

 

『やられやくの皆さん、せいぜいぼくの引き立てやくになってね!!』

 

 

 

 

“竜王”あらため“勇者”ラードゥンは確かな技量を感じさせる動きで聖剣を構え、邪悪なる者たちを前にその野望を挫く勇者として立ちはだかるのであった。

 

 

 

 

 

 






女神「凄い誤解されてる……」



これが竜王の女神への解釈&全開の力です。
勇者スキル&女神パワーを使いまくることによってだいたい全盛期ルファスの8から9割くらいを想定しています。

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