ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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吸血姫ベネトナシュ


産まれながらの超越種でありルファスと非常に似通った単独種。
しかし既に解析は殆ど完了しており見るべき点はもうない。
彼女を再現する技術化(グリッチ)も完成済みである。



ルファスと同じ時間を生き、ほぼ同族とも言える彼女ならばきっとルファスの友になれることだろう。



───プラン・アリストテレス、ベネトナシュについてのレポートにて。


ベネトナシュの“スカウト”!

 

「ベネトナシュ陛下。

 此度は歓迎の用意も出来ておらず申し訳ございません。全ては自分の……」

 

 

 

辺境の一領主として由緒正しき国の王に礼儀を示そうとすればベネトナシュは無表情で手を振った。

まるで飛び交うハエを遠ざけるような動作であり、そこには隠し切れない嫌悪がありありと宿っている。

ルファスに似た深紅の瞳を歪めながら彼女はうんざりしたような口調で言った。

 

 

 

「相変わらず中身のない言葉だ。張りぼての敬意など要らん」

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

微笑みながら礼をすればベネトナシュは諦めの混じったため息を吐く。

ミョルニルでの騒動の時と何一つ変わらないアリストテレスに判っていた事だと己を納得させる。

家族を失い、己の国を滅茶苦茶にされた後であったミョルニルの時と違い今の彼女は冷静であった。

 

 

 

苦々しい敗北を二度味わう事によって彼女は変わった。

感情を爆発させ、敵意と共に連撃を叩き込めば勝てた時代とはもう違うのだ。

 

 

 

「ここに来たのはロードスの奴との交渉ついでだ」

 

 

 

「相変わらずだったよ、あの老人は」

 

 

 

実際はプランにも要件はある。

だがそこまで彼女は語らなかった。

まずは己のミョルニルを復興させる為、王として彼女は動いていた。

 

 

 

後は己の腹心であるロイの話題によく出てくるロードスの顔を観ておきたかったというのもある。

戦おうとした時は幾度も逃げ続けられたのも今となってはつまらない思い出だ。

 

 

 

「左様で」

 

 

 

「そうだ」

 

 

 

 

ベネトナシュ鼻を鳴らすと今度は頬を吊り上げて嫌味を込めたように笑う。

腕を組み下から見下ろしながら彼女は口を開く。

 

 

 

「リュケイオンの67代目当主、プラン・アリストテレス」

 

 

 

「先代タスク・アリストテレスの八番目の実子であり、母は出産後しばらくしてから死亡」

 

 

 

淡々と調べ上げた男の情報を口に出していく。

鎖国していたミョルニルだけではここまで精確な情報収集は難しかったが、ロイという男は主の願いに完璧に答えてくれていた。

1万年を生きた男の交友関係と情報網はミズガルズでも屈指のモノがあるのだ。

 

 

 

 

「父親も20代を迎えてから直ぐに魔神族に襲われて死亡」

 

 

 

「その後正式にアリストテレスを引き継いだ……ふんっ」

 

 

 

 

鼻で笑う。

私は知っているんだぞと態度で示す。

理屈ではなく、プランという男と似た者同士でもある彼女は手に取る様に彼が何をしたか読めていた。

 

 

 

「殺したのだろう? 実の父を」

 

 

 

「…………」

 

 

 

ぐにゃっとプランの顔がプランのモノではない笑みを浮かべる。

絶対に彼が浮かべない野性味のある粗暴で残酷な笑顔を。

それが回答であった。

 

 

 

ベネトナシュは顔色一つ変えない。

既にプランの中に何が居るかを知っている彼女からすれば気持ち悪い奴らだ程度である。

 

 

 

「まぁいい。お前たちの様な気狂いの事など私には関係ない」

 

 

 

 

「少し歩くぞ。供回りしろ」

 

 

 

それだけを言い放つとベネトナシュはプランの答えを聞きもせず踵を返す。

マントを翻し小さな歩幅でドンドン進んでいく歩き方は他者の事など気にも留めない彼女らしい。

プランはベネトナシュの2歩ほど後ろで付き従うように同伴する事にした。

 

 

 

 

「フェニックス討伐に勇者との共闘。あれからまた方々を引っ掻き回しているようだな」

 

 

 

「生きる事に飽いている癖に随分と活動的なものだ」

 

 

 

チラリともプランを見ずにベネトナシュの独白は続く。

人類共同体というとんでもない重荷を背負わされた少女は己と同じである男に対して容赦というものがない。

 

 

 

 

「少しでも陛下の負担を減らしたかったのです。陛下の背負った使命を軽減できれば、と」

 

 

 

 

「その“陛下”というのをやめろ。

 そういった場ならともかく、ここでは目くじらを立てる者など居ない」

 

 

 

 

プランの態度は慇懃無礼という訳ではないがどうにもベネトナシュの逆鱗を逆撫でするらしく少女は顔を顰める。

彼が嘘をついていないのもベネトナシュには判る。

勇者等と言う者と自分が出会えば問題は起きていただろうし、不死鳥と遭遇などしたら周囲の被害など気にも留めずに殴り合っていたという自覚が彼女にはある。

 

 

 

 

あらゆる物事を基本的に強いか弱いかでしか見れないベネトナシュにとって正義や悪など興味のない概念であった。

勇者? 強い? ならば私と戦えという傍から見たら意味不明な思考回路で動いた事だろう。

ラードゥンやレオンに比べればかなりマシとはいえそれでも“四強”に列挙されるほどに彼女の思考は魔物に近いのだ。

 

 

 

 

強い、勝利、つまり正義。

弱い、敗北、それは悪。

おおよそ人の世界では通じない価値観だが、誰よりも強い故にそれを押し通せてしまったのがベネトナシュの幸福なのだろう。

 

 

 

 

全てに勝利し、正義であり続けたベネトナシュだが今はもう違う。

二度負けた上にやりたくもない罰ゲームを押し付けられた彼女にはもう自由はない。

 

 

 

共同体の象徴などベネトナシュからすれば興味の欠片もない地位だ。

しかし負けた以上は敗者として勝者の言う事を聞くのは当然であり、この不愉快な男の言葉であっても従うのは当然だと彼女は考えていた。

それはそうといずれ下剋上を果たしてやるという決意は揺らがないが。

 

 

 

 

「ではベネトナシュ様……と」

 

 

 

「貴様に名前を呼ばれるのは怖気が走るが……陛下よりはマシだ」

 

 

 

自分で言い出した手前もあるのか渋々と言った様子でベネトナシュはプランの提案に了承を示した。

 

 

 

その後は無言だ。

無駄口を開けばベネトナシュの機嫌を損ねると知っているプランは何も言わず、ベネトナシュも今は話すつもりはないのか黙々と進んでいく。

足取りも軽く吸血姫は『ヴェルンド』の市街地を抜け、森の中に歩を向けた。

 

 

 

 

数分後。

完全に市街地から離れてしまい鬱蒼と茂る木々の光に周囲が包まれ出してからようやくベネトナシュは口を開いた。

 

 

 

「ミョルニルの復興は問題なく進んでいる。

 何処かの親切な奴が必要な物資を揃えてくれていたからな」

 

 

 

「それに笑える話もある」

 

 

少女は眼を空に向けた。

夜空には膨大な数の星が瞬いており、それらは堕ちてきそうな程に近い。

 

 

 

 

「……ラードゥンが攻めてきた時に役に立てなかったのが悔しい等と宣ってる奴らが、何を狂ったか今になって鍛錬を始めた」

 

 

最強の少女は喉を鳴らす。

何を今さらと。

どうあっても自分より弱い癖に何をやってるんだか、と。

 

 

 

 

ベネトナシュは鍛錬を始めた己の民を笑う。

しかし決して嘲笑ではない笑い方で。

あり得ない事だと重々承知してはいるが、いずれあの中から己に並ぶ者が出るのだろうかというつまらない考えさえ彼女は抱きそうになっていた。

 

 

まだまだ彼女は世界に一人だ。

だが、遥か遠くに自分を追いかけて来る人が確かに産まれたのだ。

先を征く者である彼女が拓いた道を必死に走る者達が。

 

 

 

ミョルニルの戦いは良くも悪くもミズガルズに巨大な波を引き起こした。

人類共同体の発足を確定させた世紀の一戦であり、ベネトナシュさえ一度は死した激戦である。

そして吸血鬼たちはあの戦いにおいて己の無力を突き付けられた。

 

 

 

至高の種たる吸血姫さえ存在すればミョルニルの繁栄は永遠だと誰もが無意識に思い込んでいたのだ。

彼女の実父である先王も含めた誰もがベネトナシュが負ける事などあり得ないという常識の中で生きていた。

 

 

 

だが彼女は負けた。

ベネトナシュは完膚なきまでにラードゥンに砕かれた。

プランが居なければ復活は叶わず、ミョルニルは滅亡し吸血鬼という種は彼の宣言通り根絶やしにされていただろう。

 

 

 

どれほどの衝撃だっただろうか。

ベネトナシュはミョルニルの者達にとっては“神”と言っても過言ではない。

そんな彼女の死は吸血鬼たちの心に小さくない変化を齎していた。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

“今は及ばずとも、必ずや御身の力になってみせます”

 

 

 

“申し訳ございません。我々は貴女様ではなく、貴女様の力に仕えておりました”

 

 

 

“いつか必ず、陛下の孤独を払拭してみせましょう”

 

 

 

弱くて薄い者達の言葉を思い返しベネトナシュの顔から笑顔が消える。

余りに身の程知らずな言葉は笑えさえしない。

 

 

 

「バカな奴らだ。

 どれだけ時間をかけようと産まれた時の私に並べるかさえ怪しいというのに……」

 

 

 

悪態を吐くが悪意は籠っていない。

呆れはあるが侮蔑はない。

彼女は絶対的な強者であり弱者の思考など判らない魔物だ。

 

 

 

しかし努力する者を嘲る程には堕ちてはいなかった。

100年間止まっていた時間であるが、僅かに動き出している。

“吸血姫”という幻想を見ていた吸血鬼たちは此処にいるベネトナシュを確かに見るようになった。

 

 

 

であれば、王である彼女がやる事は一つだ。

灰色の世界なのは変わらず、押し付けられたモノでもあるが……逃げる事は彼女のプライドが許さない。

 

 

 

 

「国を立て直す。それが今の私の目標だ」

 

 

 

断言する。

戴冠の時から100年、王として君臨こそすれど統治などしてこなかった彼女はミョルニルという己の国に向き合う事にしたのだ。

 

 

 

最初は誰もが信じれられないという顔をしたものだ。

あのベネトナシュが政務の勉強をするなど。

己の部下であるロイに彼女は師事を乞い、王として必要な事柄を学び始めたのだ。

 

 

 

それでもまだまだ付け焼刃。

多くの人材を失ったミョルニルを立て直すには多くが足りない。

 

 

 

振り返る。

初めてベネトナシュはプランを見た。

真っ赤な瞳の中で何かが蠢いている。

 

 

 

産まれてきてから一度も考えた事もなかった“己の役割”というものを彼女は自覚していた。

その為に何が必要かも。

100年間、王としての執務などは全てロイに丸投げしておりお世辞にも彼女の統治能力は高いと言えない。

 

 

 

彼女にあるのは圧倒的な力と産まれもったカリスマだけだ。

政治家としての駆け引きのやり方や、国家を運営するために何処に資金を回せばいいかが判らない。

更には国家運営の為に必要な長期的な計画の作り方を知らない。

 

 

 

ロイという心強い腹心が居るために表面化してないが、これはミョルニルという国家の最大の弱点である。

1万年を生きる彼はロードスさえ超えるミズガルズ最高齢の人類種であり、未だ衰える気配など見せないが、それでも万が一というのがある。

仮にロイが死ぬか、もしくは政務が出来なくなればミョルニルは破綻する可能性が高い。

 

 

 

確かに国家を運営するのに圧倒的な力は必要だ。

だが、それだけではダメなのも事実。

アリストテレスに敗れ、人類共同体という超巨大な枠組みの中にミョルニルが収まった以上は今までの様にはいかない。

 

 

 

 

彼女は誇り高い。

それはもうヴァナヘイムなど遥か通り越して宇宙に届く程に。

面倒ごとではあるが、一度やると決めた以上は中途半端は絶対に許せない求道者の様な側面がある。

 

 

 

 

ルファスと同じかそれ以上にベネトナシュは負けず嫌いなのだ。

そんな彼女が「確かに強いが、王としては二流だな」等と言った陰口をたたかれるのは我慢ならなかった。

 

 

 

 

「お前は私に役目を課した。……その点は納得してる」

 

 

 

腕組みを止め、ベネトナシュはプランを見上げつつ言う。

遠回りな言葉回しなどせず、己の心をあるがままにぶちまけていく。

 

 

 

「全ては負けた私が悪い。

 それにあの戦いで仮に勝っていてもやってやるつもりだったさ」

 

 

 

だが、と大きく区切る。

 

 

 

「現状は貴様らの言葉を借りるとすれば“非効率”でしかない」

 

 

 

「お前たちの様な化け物が何故そんな辺境で燻ぶっている?」

 

 

 

ベネトナシュはアリストテレスの歴史を徹底的に調べ上げていた。

いずれ下剋上を果たすべき敵であるのだから情報を集めるのは当然だ。

勿論、この奇妙な一家が元は女神の聖域出身であることや、クラウン帝国の拡大にどれほどの協力を行ったかまで。

 

 

 

そしてベネトナシュは知った。

アリストテレスと言う一族がどれほどの気狂いなのかを。

特にクラウン帝国を拡大させ、その基盤を作り上げた際にやったことは多くの命を奪ってきた彼女でさえ顔を顰める所行だった。

 

 

 

 

理解はできる。

人間爆弾の様なあらゆる意味で敵国にプレッシャーを与える術などがあればソレは立派な抑止力となるのだから。

かなり眼を引く“爆弾”であるが、それ以上の何かをしたなとベネトナシュは睨んでいた。

 

 

 

だって明らかにおかしいだろう。

それまでは農作物も満足に育たない土地だったのに、ある時を境に毎年毎年豊作続きなど。

 

 

 

目的の為に手段を択ばない。

大義の為ならばどのような事でも行う。

そして、効率を上げるためならば命や倫理など全く気にも留めない。

 

 

ベネトナシュはアリストテレスの行動理念を身を以て味わった故に彼らの根底を理解していた。

正しく強者や弱者という概念を通り越した生きた災害の様な思想であると。

 

 

 

 

「前にも言ったが貴様は怪物だ。貴様たちは一転すれば災いにもなりうる存在だ」

 

 

 

プランを指さす。彼だけではなく、その中に宿る彼らをも。

ラードゥンとプラン。

両方と事を交えた事のある彼女だからこそ断言できる。

 

 

 

 

「この私が断言してやる。貴様らは“竜王”を超える災禍だ」

 

 

 

 

もしもアリストテレスとラードゥン、どちらかの勢力と戦わなくてはいけない事になったらベネトナシュは迷うことなくラードゥンを選ぶだろう。

まだラードゥンの方が理解できる。

同じ魔物という括りでもあるが、あれは想像を絶する程の嗜虐性と悪意で動いていると理解できるし一種の共感だって出来た。

 

 

戦い方だってそうだ。

次元違いという前置きがつくが竜王の行使する力は全てがミズガルズという世界の中に存在しているスキルたちだ。

 

 

 

 

しかしアリストテレスは違う。

スキルとは断じて言えないナニカを操り、気が付けばあのザマだ。

正直に言うとベネトナシュは己が何をされて負けたかさえ未だによく判っていない。

 

 

 

プランが“濃い”果実を砕いた所までは覚えている。

そのすぐ後に恐ろしい痒さと息苦しさを感じ、更には胴体を空っぽにされたのだ。

勿論プランが馬鹿正直に【ナグルファル】やらを説明するわけもなく吸血姫は己がナノよりも微細な刃で全身を切り刻まれた等は知らない。

 

 

 

当然【ラグスイッチ】で何度も時間を戻されたこともだ。

 

 

 

 

彼女の考えていた強いスキルというのはどれもがド派手で判りやすい破壊力を齎してくれるモノばかりだ。

必殺技である【銀の矢放つ乙女】を代表に【スマッシュ】などの破壊に特化した強スキルだけを彼女は愛用し、それ以外は弱者の小細工だと見下してさえいた。

 

 

 

だがそれも過去の話。

今の彼女は弱者であり、アリストテレスという前代未聞の怪物を前に“自分なら勝てる”や“あの敗北は何かの間違いだ”といった楽観的な考えなど出来る訳もない。

何をされたかは判らないが、それでも突破口を見つける為にあらゆるスキルを見直すのは当然だった。

 

 

同じことをしても同じ結果が待っているだけなのは誰だって判る。

 

 

レベル1500の状態で、しかも己の本拠地であるミョルニルで負けた。

この事実は想像よりもずっと重い。

そしてそれらを踏まえた上で彼女はプランの前に現れたということは……。

 

 

 

 

「貴様らの様な怪物を野放しにするつもりはない」

 

 

 

「竜王の脅威に対抗するために人類の団結が必要と言ったのは他ならぬ貴様だ、アリストテレス」

 

 

 

瞳が輝く。

少女が言葉に力を込めればそれだけで重圧が発生しヴェルンドはおろか光の森全体がざわめいた。

ステータス欄が歪む。レベル限界という壁に孔が穿たれ吸血姫の力は少しずつ増加を開始。

 

 

 

 

1010……1030……。

 

 

 

「私にこんな力を押し付けておきながら、何の責任も取らないつもりか?」

 

 

 

レベル1500。

1000で限界の筈の世界においての明らかなイレギュラー。

本来ならば壁を超えるのに必要なのはとてつもない感情の爆発であるが彼女は特別製だ。

 

 

最初から壁を越えられるように撤去された存在がベネトナシュである。

二枚目はともかく一枚目の壁を破るのは彼女の材料の意思を用いればそう難しくはなかった。

アウストラリス先王とその妻、更にはきょうだい達の強い愛がレベル限界を超えるのに役立ったのだ。

 

 

人類を維持するために龍と並ぶか超えうる力を付与されたベネトナシュは己の創造主を弾劾する。

こいつは、この男は、私にこんなことをしておいて、無責任にも逃げようとしているのだと。

 

 

 

 

「ベネトナシュ様は並ぶ者なき力を得られました。自分の助力など……」

 

 

 

謙遜を織り交ぜたプランの言葉であったが、生憎これは彼女の逆鱗であった。

少女の瞳に凶悪なまでの攻撃性が浮かび、吸血姫は犬歯をむき出しにする。

可憐な少女の風貌には似つかわしくない鋭利な吸血の為の器官が鈍く輝く。

 

 

 

 

「面白くない冗談だな……自分の、何だって?」

 

 

 

 

「失言でした」

 

 

 

 

素直にプランは頭を下げた。

彼にとってはベネトナシュを撃退したなどというのは単なる過去の記録でしかないのだが、どうにも彼女にとっては違うらしい。

あの戦いはプランにとっては作業であったが、ベネトナシュからすれば生涯の屈辱なのだ。

 

 

 

数秒考えた後、思い切ってプランは問う事にした。

この少女を相手にする時は遠回りな言葉遊びをすれば却って不興を買うだけだ。

 

 

 

 

「自分に何を求めるのですか?」

 

 

 

 

「私を蘇らせた責任を取ってもらう」

 

 

 

ベネトナシュは考える間もなく即答した。

彼女は男の言葉を待っていた節さえある。

 

 

 

小さくて細い腕を男へと伸ばす。

ルファスのソレよりもずっと幼い手を。

植え付けられた屈辱と執着を彼女は燃える様な意思を込めて言葉にした。

 

 

 

 

 

吸血鬼(私のモノ)になれ。アリストテレス」

 

 

 

ベネトナシュとプランはある時期までは似た者同士であり、故に彼女はプランが何を望んでいるかも把握している。

だからそれ()を彼から奪う事に決めたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………!!」

 

 

 

 

寝静まっていた筈のルファスの翼がざわめき、まるで戦闘時の様な気迫を以て動き出したのを今はまだ誰も知らない。

鋭利に、刺々しく、決して認めない/渡さないという意思が形になったような形状に変わっていく。

 

 

 

 

己の()()に誰かが手を伸ばしている。

理屈ではなく、女としての本能が彼女を眠りから急速に引き上げ始めた。

 

 

 




主人公がいる間はルファスとベネトナシュは仲良くなれません(ネタバレ)
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