ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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プランの理想。

        な か よ し

ベネトナシュ→(*´ω`)人(´ω`*)←ルファス。




ルファスとベネトナシュの“キャットファイト”!

 

ベネトナシュの灰色の人生において“美味”と感じた事は殆どなかった。

彼女は甘味が好きではあるが、あくまでもそれは娯楽か己の空虚さを慰める為の嗜好品でしかない。

人間が煙管を吸う様なものなのだ、彼女にとっての甘味とは。

 

 

 

偽竜を殺して吸血したときもつまらなかった。

己の何十倍も巨大な魔物を殺してマナを収奪したときだって満たされなかった。

何ならレベル700にもなる巨竜を撃ち滅ぼしその血肉を貪った時も心の何処かに冷たい空虚があった。

 

 

 

 

だがしかし、今の彼女は満たされていた。

本当に不愉快で認めるのも癪なほどに苦痛な事実だが、アリストテレスに挑むことに彼女は微かな楽しみを見出し始めていた。

こいつは、こいつらは家族を殺したおぞましい怨敵なのは変わらない。

 

 

 

だが、それはそれとして現実の話としてアリストテレスは強かった。

想像を絶する程に強く、不殺と言うハンデがなければベネトナシュは4回も殺されていた。

そんな存在に全身全霊をかけて挑みかかり、幾度もあしらわれようと足掻き続けて遂にその首に牙を届かせたのだ。

 

 

家族の仇を認めるというのも奇妙な話だが、ベネトナシュもまた魔物に限りなく近い存在だという前提がそれを説明してくれる。

 

 

 

 

 

“達成感”

 

 

 

吸血姫が感じている衝動はそれであった。

人間だれしも成功を経験すれば幸福な気持ちになれる。

そんな当然の理屈であるがベネトナシュは産まれてから一度だってそんな経験をしたことはない。

 

 

 

今日までは。

無理難題ともいえる目標に向かって突き進み、やっとの思いで牙が届き、血を啜る。

人生において始めての目標達成にベネトナシュの頭はかつてない程の幸福状態に陥っていた。

 

 

 

 

ジュル、ジュルルという犬畜生の如き音を立てて一心不乱に吸血する。

これまで積み上げてきたマナーやらミョルニル/吸血鬼の王に相応しい立ち振る舞いの事など頭から吹き飛んでいた。

ただこれを吸いたい、奪いたい、わが物にしたいという欲望だけが彼女を満たしている。

 

 

 

 

引き剥がそうとどれだけ力を込めようとベネトナシュは決してプランから離れない。

喉が大きく動き、ベネトナシュはその人生で初めて人間の血を吸血していた。

最初で最後の吸血行為を少女は堪能し、眼を細める。

 

 

 

きっとこれ以降はないだろうと彼女は確信していた。

この私が人間の血液を欲するなど。

眼を細め、彼女は獲物を味わい尽くす。

 

 

 

─────。

 

 

 

 

力技で引き剥がせないと判断したのかプランは脱力し蒼い瞳でベネトナシュを観ている。

平時の彼女ならばそこに奇妙な違和を抱けたかもしれないが今の吸血姫は血に酔っているせいで気が付けない。

まるで研究者が実験の経過を見ているかの様な瞳に。

 

 

 

(この味、こいつの属性は「月」か)

 

 

 

ワインを品定めするように吸血姫は血を堪能し評価する。

宿るマナは薄いが、悪くはない。

眷属にした後は定期的にワイン代わりに呑んでやると決めた。

 

 

 

同じ属性だというのもありプランの血はベネトナシュにとても馴染む。

血を吸う分だけ彼女は己の血液をプランに送り続けていた。

もう少しすればソレは体内を循環し人間の男を吸血鬼という魔物に近しい存在へと変異させるはずであった。

 

 

 

だがしかしベネトナシュは幾つか知らない事がある。

確かにプランの属性は「月」であったが、彼の体内を循環しているマナ/意思は彼だけのモノではないことを。

 

 

 

 

※ あーあ。

 

 

 

※ ブラッド王が行ったとされる眷属作成。なるほど興味深い。

 

 

 

※ 無知とは恐ろしいものです。

 

 

 

※ 俺としちゃ吸血鬼として永遠に生きるってのも悪くはねーんだがな。

 

 

※ んーん-んーぅ? まだお気づきではないようで。

 

 

 

口々にアリストテレス達は所感を述べていく。

誰もベネトナシュの行為を問題とは思ってはいない。

仮に吸血鬼にされたとしてもそれはそれで活動時間が大幅に延長されるので構わないと考える者さえいた。

 

 

 

※ あの子、すごく怒ってるわ。

 

 

※ こわいこわい、黒翼の子のおでまし。

 

 

 

女性のアリストテレスが歌うように告げる。

同じ女としてルファスが当代に向ける感情を熟知している彼女はそれを奪おうとするベネトナシュをせせら笑う。

女同士の争い、それも男を巡るモノともなればソレは想像を絶するものになると彼女は知っている。

 

 

彼女は全く当代にも困ったものだとため息を吐いた。

 

 

 

腹部がじくりと痛む。

外部の意思を確認した呪詛が活性化を開始した。

この呪の大本はルファスである故に彼女は己の獲物を横取りしようとする存在を決して許さない。

 

 

 

プランを殺すという意思は言い換えれば彼の命が欲しいという欲望なのだ。

15年の人生において最も欲した男の命への執着が呪詛の根源だ。

それを見ず知らずの、それも何処の馬の骨とも知らぬ愚者に最高の獲物を渡すはずなどなかった。

 

 

 

 

これは私のものだ。

 

 

私が殺すんだ。

 

 

 

 

 

焼けるような熱さを舌先に感じたベネトナシュは眼を見開く。

血を飲んでいる最中にいきなり属性が切り替わるというありえない現象が起きている。

何者かが己の首を掴んでいるのを彼女は感じ───目の前に憎悪に狂った少女の顔があった。

 

 

 

15歳の夜のまま完全に停止した魔物の顔を晒すルファスの顔が。

黒く反転した白目の中には縦に裂けた猛禽類の瞳孔があり、それは燃え盛りながら己の所有物を狙う女をねめつけていた。

本来ならば右腕の義手に宿った不死鳥の力と輸血したルファスの血によって抑え込まれていた呪詛は今だけは自由となっている。

 

 

 

本体であるルファスの血がこの時だけ呪詛に力を貸している。

別たれたとはいえ同じ存在である二人のルファスはアプローチこそ違えどプランを欲しているのに変わりはないのだ。

そんな所に部外者の、それも女が割り込んでくれば排斥の為に一時的な共闘を行うのは当然かもしれない。

 

 

 

しかしベネトナシュもまた女傑である。

ここで圧倒されるような精神など持っていない。

女神を嘲笑し追い払えるだけの意思の頑強さを以て魔物に告げた。

 

 

 

 

「貴様が先約か」

 

 

 

「失せろ。これはもう私のモノになる。お前の様なシミなど要らん」

 

 

 

ニタアと邪悪に彼女は笑った。

如何に整った顔立ちをしていようと擁護出来ない程に歪んだ笑顔であった。

優越感と征服欲に突き動かされるままベネトナシュは魔物に言う。

 

 

 

 

「これからは私がこいつの飼い主だ」

 

 

 

「もう遅い。こいつはほどなく吸血鬼に……」

 

 

 

吸血鬼になる筈だ。

しかし不思議な事にベネトナシュどうにも手ごたえを感じなかった。

血は間違いなく送り込んだというのに、どうにも変異が始まらない。

 

 

 

 

今度は魔物が笑った。

ケタケタと子供の様に。

義手に埋め込まれた宝玉が微かに発光し続けている。

 

 

 

 

不死鳥の炎は“燃やしたいモノだけを燃やす”炎だ。

認識さえしていればそれは概念であろうと何であろうと着火できる。

で、あるのならば体内に侵入してきた異物だけを狙い撃ちにし焼く事も理屈上では可能である。

 

 

 

「貴様っ!!」

 

 

ベネトナシュの顔色が初めて変わった。

恥も外聞もプライドも全てを投げ捨てて行った吸血を無駄にされた恥辱で彼女は魔物を睨みつけるがルファスはどこ吹く風だ。

にたにた笑いながらベネトナシュを彼女は指さした。

 

 

 

 

ベネトナシュはプランに対して吸血を行った。

そしてプランの中には輸血されたルファスの血がある。

吸血姫を外敵として認識したルファスの血が。

 

 

 

 

つまり、彼女は知らず知らずの内に劇物を口にしたことになる。

 

 

 

 

「が、はっぁ!!」

 

 

 

夥しい量の血を吐く。

口元を抑えようが無駄であった。

スポンジ状に溶けた臓物があふれ出てくる。

 

 

 

吐血を思い切り彼女はプランにぶちまけてしまう。

真っ赤に染まった男はそれでも感情の揺らぎ一つなくベネトナシュを観察していた。

属性の反発等と言う珍しい光景を見れるなど滅多にないのだ、アリストテレスは余さず情報の収集を行っている。

 

 

 

「おのれっ!! こうなると知っていたな!!」

 

 

 

「いえ。本当に偶然ですよ」

 

 

 

怨嗟を込めて吠えるベネトナシュにプランは無感情かつ正直に答える。

本当に吸血姫は運が悪いとしかいいようがないのだから。

もしもルファスの属性が「日」でなければこうはならなかっただろう。

 

 

もしくは義手製作時に輸血などしなければと次から次へと要因は出てくるが今更どうにもならない。

 

 

 

体内からベネトナシュは焼かれていた。

「月」と「日」の属性による相克が始まったのだ。

ただの血液だというのにルファスのソレは己の意思を感じさせるほどに苛烈にベネトナシュを責め立てている。

 

 

 

失せろという強い敵対心だけがある。

己の宝を決して渡さない強欲な竜の如き排他心だ。

たかだかミョルニルで一戦を共に過ごした程度のコウモリになど断じて譲らないのだ。

 

 

 

しかし、それでもベネトナシュはプランから腕を離さない。

血反吐をぶちまけ、手足を震わせながらも力だけは決して抜かない。

 

 

もはや意地である。

何度も敗北し辛酸を舐めさせられてまで到達したこの場所を失う事だけは何としても避けようとして───。

 

 

 

 

「おい」

 

 

 

───怖気が走る程に低い声であった。

噴火直前の火山の如く怒りが煮えたぎった声である。

 

 

 

「彼から離れろ」

 

 

 

いきなり肩を掴まれたベネトナシュが振り返るよりも早く、彼女の顔面に拳がめり込んだ。

バキンと頭蓋骨が陥没する音を響かせながら少女はきりもみ回転しつつ吹き飛んでいく。

十代前半程度の外見である吸血姫に対して何の躊躇もなく殺意を乗せた拳を叩き込んだのは───【バルドル】を着込んだルファスだ。

 

 

 

カルキノスを凌駕する程の頑強さを持つベネトナシュを殴ったせいで彼女の拳にも青あざが出来ているが、痛みなど欠片も感じさせずにルファスはプランを見た。

左手に握りしめていた【アルナスル】の矢が崩れ散っていく。

コレを掴んで瞬間移動したことにより彼女はベネトナシュの警戒網を突破することが出来たのだ。

 

 

 

 

「助けに来た。……その傷、後で絶対に治すから」

 

 

 

ベネトナシュとの戦いにおいてプランが受けた損傷は首元の吸血痕だけだ。

あとは多量の血液を吸われた為、貧血気味くらいか。

少なくとも跳ねたり跳んだりはしない方がいいだろう。

 

 

 

どちらによせ命に別状はない。

しかしルファスはそれがとてつもなく気に入らないようだった。

最悪【エリクサー】を振りかけてでも消し去ってやろうとする圧がある。

 

 

 

女の内心を表す様に【バルドル】の全身には夥しい数の文様が浮かび上がっていた。

翼からはミシ、ミシと骨格レベルで戦闘の為に変異を繰り返す音が鳴り渡っている。

今までにない程にルファスは戦意を滾らせ、吸血姫との対決に臨もうとしていた。

 

 

 

自分の倍のレベルである吸血姫のステータスを彼女は観測できない。

本能は未だにベネトナシュを格上と判断している。

普通に戦えば瞬殺されるだけの戦力差がある。

 

 

 

だがしかし、ここで退くつもりは断じてない。

これは勝ち目がどうとか、魔物としての格がどうとかそういう話ではない。

あいつはよりにもよって一番やってはいけない事をやろうとした、断じて許せないし認められないというどす黒い感情だけがある。

 

 

 

故に彼女もまたなりふり構わず使える手を全て用いてベネトナシュにぶつけることにした。

その第一歩としてルファスはプランに声をかける。

 

 

 

「私だけじゃ勝てない」

 

 

 

「“一致団結”で私を使って」

 

 

 

最後にもう一度だけプランの首筋を壮絶な目つきで睨んだ後、ルファスは吹き飛んで行ったベネトナシュに視線を戻す。

今のルファスには問答無用な圧があった。

何故かは判らないがとても彼女が怒っている事を察したプランは余計な事は言わずに【一致団結】を発動。

 

 

 

ルファスを巻き込んでしまった以上、彼は速攻で片を付ける事にした。

不死身にして恐ろしい程に心身共々タフなベネトナシュを無力化する方法を考案し……一つ面白いモノがあることに思い至った。

 

 

 

 

途端に跳ねあがるステータス。

流れ込む感情の濁流にプランはますます頭を傾げる。

緊張やら疑問やら色々あるが、まず第一に感じたのは怒りだった。

 

 

 

尽きる事のない怒りをルファスはベネトナシュに向けている。

あまりに生々しいソレが何処からくるか判らずにプランは頭を傾げてしまいそうになった。

良くも悪くも彼は自分に向けられるそういった感情の機微に無関心という欠点がある。

 

 

 

彼女がかつて紡いだ“好き”という言葉の重さを彼はまだ理解しきれていない。

 

 

 

 

「“吸血姫”と獲物の間に割り込むとは」

 

 

 

木々をなぎ倒しながら吹き飛んで行ったベネトナシュが戻ってくる。

未だに拒絶反応が続き、全身から血を噴き出しながらも彼女は歩を進め続ける。

ルファスに負けない程に美しく鮮やかな瞳をギラギラと燃やしながら小さな人類最強は乱入者に壮絶な視線を向けた。

 

 

 

 

「貴様……死にたいらしいな」

 

 

 

 

血まみれで犬歯をむき出しにした姿は正しく吸血鬼としか言いようがない。

余りの敵意と殺意に物理的に空間が軋み、パキパキと木々が悲鳴を上げた。

光の森で生活する全てのエルフが身震いし、今日は冷えるなと口々に呟いた。

 

 

 

遠く玉座に座すロードスが顔を顰めて「余の国で何をやっているのだ」と恨み言を述べた。

早く帰ってくれ、それしか彼にはない。

 

 

 

だが残念ながら現実は無慈悲だ。

ベネトナシュとルファスは出会ってしまった。

もう少しどちらかが経験を積んで大人になっていればまだマシだっただろう。

 

 

あと200年か300年もすればベネトナシュはともかくルファスも精神的に成熟し理性ある対応を覚えたかもしれない。

今となっては全ては無駄な仮定でしかない。

 

 

 

己の所有物を奪われかけかつてない憤怒を湛えたルファス。

あと一歩で手に入る筈だった獲物をお預けにされたベネトナシュ。

今の両者には和解やら話し合い等と言った選択肢は微塵もない。

 

 

ただ邪魔で気に入らないこいつを排除してやるという闘争心しか。

 

 

 

「それは此方のセリフだ、吸血姫」

 

 

 

「失せろ。死にたくなければな」

 

 

 

レベル差など知った事ではないとルファスも負けじと憤怒を叩きつける。

そんな彼女の様子にベネトナシュは眉を微かに動かした。

ここまで己に歯向かう事を選んだ存在など今まで殆どいなかった。

 

 

 

【観察眼】で見ればレベルは900と出る。

ステータスもまぁ、そこそこだ。

今の自分と比べれば遥かに雑魚だが、それでもかつてであれば互角だった。

 

 

 

「成程」と内心で頷く。

方々の国に出向いたアリストテレスの傍には必ずと言っていい程に教え子が付いて回っていた事を彼女は知っている。

こいつがそうか、と頭の何処か冷静な部分で分析した。

 

 

 

「ふざけるなよ貴様……」

 

 

 

ギチと奥歯にヒビが入る。

先まであった挑戦者としての爽やかな気分が急速に曇っていく。

 

 

 

憎悪と羨望にも似た感情で少女はプランを睨みつける。

言語化できないナニカが止まらない。

 

 

 

苛立ちが沸騰しだす。

男を守る様に立ちふさがる小娘の姿が無性に気に入らない。

何が弟子だ、何が教え子だ、何が何が────。

 

 

 

私からは奪っておいて、自分はそういうことをするのか?

私のことは何もかも踏みにじっておいて、自分は手に入れたのか?

お前は私と同じ筈だ、何にも興味を持てない生きた屍の筈だ。

 

 

 

だというのに、自分は───。

 

 

 

そんな不平等は決して許されない。

如何にアリストテレスが自分より強く何をしても許される権利があるといってもそれだけは絶対に。

 

 

 

 

だから彼女は決めた。

この惨めな世間知らずを殺してやると。

そうすればアリストテレスは自分と同じに戻る。

 

 

 

何ならあの無関心な男が自分に対して復讐心を抱くのも悪くはない。

少なくとも無価値な石ころと同じように見られるよりはずっと。

 

 

 

こいつを殺せば、奴は私を見るしかない。

そう考えた吸血姫の行動は早かった。

 

 

 

無言で彼女はルファスへと飛びかかった。

オリハルコンと同等以上の切れ味を誇る爪を振り翳す。

アリストテレスならばいざ知らず、腰ぎんちゃくに後れを取るつもりは微塵もない。

 

 

 

思った通りルファスは何の反応も出来ていない。

間抜けにも先ほどまで自分がいた場所を睨みつけているだけで、己の動きについてくるどころか目視さえ出来ていないようだった。

確かにレベル900はミズガルズにおいて最上級の力であるが、ベネトナシュはその枠組みを超えさせられているのだからこれは当然の結果である。

 

 

 

狙い違わず首元に『収奪者の爪』は叩き込まれ───展開された極小の【エクスゲート】によって阻まれた。

蒼く輝く瞳のルファスが視線だけを彼女に向けた。

ベネトナシュの顔の険が深くなる。

 

 

この瞳の色が何を意味するか彼女は良く判っている。

何せ自分もそうだったのだから。

だからこそ吐き捨てた。

 

 

 

「節操なしめ。使えれば何でもいいのか!」

 

 

 

あれだけ人の身体で好き勝手してくれた男が今度は別の奴を動かしている。

本当に次から次へと不快な要素が出てくる奴だとベネトナシュはイラつきつつも冷静に動く。

足裏から魔力を噴出し後退しながら牽制として「月」属性の攻撃魔法を発動。

 

 

 

【ルナ・シューター】

 

 

 

怒れる吸血姫の魔力をたっぷりと練り込まれた複数の魔力弾がルファスへと迫る。

街を吹き飛ばす程に力を注がれたソレは下手に回避でもしたらエルフの森に多大な被害を齎しかねない。

だからといって正直に防御したとしても大けがを負う事間違いなしの攻撃に対してルファスはどうすればいいか判らなかった。

 

 

 

 

ルファスは判らなかったがアリストテレスは問題なく対応できる。

【一致団結】を通してルファスを動かしたプランは懐からポーションを入れる為に持ち歩いている空き瓶を取り出す。

ソレを見て「しまった」とベネトナシュが眼を見開き、ルファスはこんなものでどうするのだと小さな疑問を抱く。

 

 

 

答えは直ぐに出た。

 

 

カァンという心地のよい音が響いた。

全力で空き瓶を振りぬき、魔法を撃ち返した音だ。

街一つ粉々にしかねない魔法が、何の変哲もない空き瓶で撃ち返されたのである。

 

 

自分でやった事だというのにルファスは呆然と口を開けて言葉を漏らしていた。

 

 

 

「は?」

 

 

 

何が起きたのか判らないままに身体だけが勝手に動く。

カァン、カァンと連続で魔法を撃ち返せばベネトナシュは舌打ちをし腕を振るって魔法を空の彼方に弾きとばす。

理不尽極まりない行為に吸血姫の目線だけが更に鋭くなっていく。

 

 

 

掌に形成しようとしていた【銀の矢放つ乙女】をキャンセルし霧散させる。

大陸どころか惑星を割る彼女の必殺技だが、きっと無駄だと判断したのだ。

 

 

 

“ぱしゅっ”

 

 

 

吸血姫はルファスに全神経を集中させていた為、己の身体に銃弾が命中したことなど意識さえしない。

皮膚をほんのちょっとだけ抉ったソレは麻痺弾である。

 

 

3ダメージ。

 

 

 

余りに微量なダメージしかないせいでベネトナシュはソレに気付けなかった。

刹那にも満たない瞬間、身体の筋肉が緊張し仰け反っただけだ。

ルファスが【チャンピオン】のスキルである【灼光拳】を発動させ何もない空間に「日」属性のマナを宿した掌を翳す。

 

 

「日」属性の者のみが会得できるこれは“掴み技”であり本来ならば鷲掴みにした相手を「日」のマナで焼き尽くす技である。

 

 

 

 

次の瞬間、ルファスの右腕はベネトナシュを掴み上げていた。

十歩以上の距離が開いていたというのに何の前触れもなく。

 

 

 

 

 

両者とも何が起きたか判らずに硬直する。

プランに動かされていたルファスでさえどうしてこうなったか理解できなかった。

そんな中でアリストテレスだけが無情にも動き続ける。

 

 

 

 

ベネトナシュは心身を切り刻まれようと、全身を爆破されようと、それこそ身体を摩り下ろしても止まらない精神力の持ち主だ。

彼女を止めたければ殺すしかないがそれは出来ない相談である以上は違う手を使うしかない。

だからプランは違う手を使う事にした。

 

 

これ以上刺激を与え続けたらまた一枚殻を破りかねない危うさが彼女にはある。

そうなってしまったらルファスが無事では済まなくなるのだから。

 

 

 

彼もまたアリストテレスだ。

これをやった結果、ベネトナシュの味覚やら何やらが死んだとしても「必要な処置だった」としか考えない。

 

 

 

ルファスの左腕が【エクスゲート】に潜り込み何かを掴んでから引き抜かれる。

自分が掴んだモノを見たルファスはこれからベネトナシュが何をされるか理解し心の底から同情を抱いてしまう。

確かにこいつは気に入らない奴だが、これは酷い。

 

 

 

ヘドロの様な【ゲロ】に満たされた瓶であった。

カルキノスが製作し飲み切れないからと保存されていた女神の法の外側にある外薬だ。

ルファスをして「飲んだら死ぬ」とまで言わせた品がまさかの開帳だ。

 

 

 

飲むとしっかりHPが回復するのが信じられない程の一品である。

 

 

 

「うわっ……」

 

 

 

「なんだ、それ……は……なんだそれは!!」

 

 

 

見ただけで判る危険物にベネトナシュは悲鳴を上げる。

まさか、アレをどうするつもりだ? と考えて彼女はルファスの後ろに控えるプランを見た。

 

 

 

彼は小さく一礼しただけだ。

まるで死地に向かう兵士を弔う様な雰囲気で。

高速の抜き打ちで更にもう一発ベネトナシュに麻痺弾を撃ち込めば、彼女の肉体はほんの数秒間だけ動けなくなってしまった。

 

 

キュポンとコルクを抜けば漂ってくるのは刺激臭。

ルファスは息を止めて対応したがその臭気にあてられた翼が狂ったように震える。

彼女の知る限り最もタフな男であるカルキノスを三日間ダウンさせた凶悪な品であるが、人類最強ならばまぁ大丈夫の筈だ。

 

 

きっと、恐らく。

 

 

 

「これで手打ちだ」

 

 

 

 

「ゃ」

 

 

 

拒絶の声を言い終わる前に幼い吸血姫の口の中に【ゲロ】が流し込まれた。

 

 

  

 

結果、10秒間だけ耐えたベネトナシュであったがやがては想像を絶する味覚と嗅覚の暴力に意識を飛ばしてしまったとだけ述べておこう。

 

 

 

 

 




長く続いたエルフ編もそろそろおしまいとなります。
そして来週は私事がありますので更新はお休みいたします。



バグ技解説



掴み技バグ。


元ネタはテイルズオブデスティニーにおける灼光拳バグとなります。
遠距離攻撃をヒットさせて判定を出現させると同時に灼光拳を用いると
何故か手元に敵が出現するいう内容です。


詳しくは動画などをどうぞ。


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