ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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全力投球しました。お楽しみください。



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ラードゥン襲撃より六日が経過してもリュケイオンは変わらない。

多くの働き手が居なくなってしまったが、その穴をルファスが埋めた事によりむしろ全体の生産性は高まっていた。

 

 

 

 

例えば新しい家屋や家具を作るのに必要な資材として森を開拓する作業は本当ならば十人以上の面々が一日がかりで行う仕事だ。

木を一本切り倒すのだって時間がかかる上に危険性だってある。

 

 

しかしそれはレベル10どころか5にも満たない一般人の話だ。

レベル1000がやればそこらへんの剣を一振りするだけで終わってしまう。

ルファスは右手にもった鉄製の剣を軽く横薙ぎにする。

 

 

微かに天法でバフをかけてやったソレは何の抵抗もなく分厚い表皮を切り裂き、樹齢数十年はある大木を真っ二つにしてしまった。

メキメキという音を上げて自分の方に倒れ込んでくるソレを避けもせずルファスは見つめている。

 

 

そっと片手を掲げる。

何トンもあるであろう大樹を軽々と彼女は受け止めてしまった。

少しばかり地面に足がめり込んだがルファスは全く重いとは思わない。

 

 

ただ歩くのに面倒だったから翼から浮力を生成して微かに浮かべば問題は解決だ。

 

 

 

「おおおお!」や「すごい!」という無邪気な声援が飛んでくれば彼女はそっちを向いて微笑んだ。

 

 

 

遠巻きに自分を見ているのは木材を加工する仕事についている青年たちだ。

父や祖父がラードゥン撃退に参加した彼らの仕事をルファスは手伝っていた。

ふふん、と鼻を鳴らして得意げな顔を見せてやれば彼らの声援は益々大きくなる。

 

 

 

「さすがッス!」や「すげぇ……」という感嘆の声を上げる面々の中にはルファスが知っている顔も多く居る。

少し昔にはカルキノスが同伴して近場の湖で泳いでいた少年やローラーボードで遊んでいた子らだった。

ほんの数年で彼らは成長し立派な大人の仲間入りを果たそうとしていた。

 

 

 

 

「あと何本ほど必要だ?」

 

 

 

「あ……あと5本くらい、ですね」

 

 

 

じっと紅い目で見つめられた男はどもりながら答えた。

レベル1000の発する無意識の圧に当てられた、というのもあるが……。

 

 

 

「任せておけ」

 

 

 

【エスパー】のスキルで大木を念力で浮かばせ、そのままリュケイオンの木材加工所に送る。

後は担当の者らが枝を削いだり乾燥させたりして早速加工作業に入る事だろう。

本当ならば数人がかりで多大な時間をかける工程を彼女は一瞬で終えてしまう。

 

 

 

「選定を頼んだ」

 

 

 

堂々とした足取りで彼女は森に向き合い、腕を組んで言い放った。

さすがに林業の知識はもってないルファスは伐採する樹木をどれにするかは彼らに任せているのだ。

小走りで草むらの中に駆け込んだ彼らが新しい木を選ぶまでルファスは空を見上げて待つ。

 

 

 

 

今日もいい天気だった。

あの一件以来何も異変などない。

平和な世界がここにはある。

 

 

 

しかしこの平和の裏で何が行われているかルファスは知っている。

もう使われる事はないと思われていた貴族としての能力をフル活用しアウラはリュケイオンの治安を維持していた。

 

 

 

かつての夫には及ばないとはいえ彼女もまた元大貴族。

一通りの教育は受けており非常時の代理としては問題ない能力がある。

 

 

 

……母がこうしている間にも色々と政治的な行動を行っている事をルファスは知っている。

何せ彼女は【エクスゲート】を用いてアウラの手伝いをしたのだから。

昨日から時折書類と手紙を様々な国に運んでは戻るを繰り返している。

 

 

 

中身を見てはいないが、おおよそアレらに何と書いてあるかは想像がつく。

 

 

リュケイオンを統治/運営する領主がいなくなった。

これが何を意味するか判らない程にルファスは幼くはない。

そろそろ彼も帰ってくる筈だとはいえ、今この地域は一時的に権力の空白状態だ。

 

 

 

ノーガードに座して周囲への抑止をしていた魔竜も今はなく、何処かの小国がユーダリルとリュケイオンを狙って妙な動きをするかもしれない。

故にルファスとカルキノスはリュケイオンから表立って動く事は出来ない。

そしてどう言いつくろっても魔物であるカルキノスも余り目立つことはできないのだ。

 

 

 

今、この街の命運は自分たちの肩に乗っかっている。

その使命がルファスを突き動かしていた。

留守を立派にやり遂げて帰ってきた彼らを出迎えるのだという希望に彼女は縋っていた。

 

 

 

「ルファスさん!」

 

 

「よしっ、それだな」

 

 

 

 

木こり達が選んだ立派な木を見やりルファスはにやりと笑う。

レベル1000の力がこうやって誰かの役に立っている間だけは胸に空いた穴から逃げる事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リュケイオン襲撃から8日目。

アウラはプランの使っていた執務室で椅子に座り、黙々と書類を整理しつつ帝国やエルフ達から戻ってきた手紙を開封していた。

今のミズガルズにおいて最も重要な情報がびっしりとそこには書かれていた。

 

 

 

“北部において大規模な魔物の活性化を確認”

 

 

 

“されど“竜王”は見当たらず”

 

 

 

“【ゴシップ・ギャザー】で収集した情報によればラードゥンは帰還していないようだ”

 

 

 

“状況から考えるにアリストテレス卿と竜王は相打ちとなった可能性が高し”

 

 

“残存する魔物達についてはベネトナシュ王が対処予定”

 

 

 

アウラは瞑目した。

彼女もまた大人である。

今の状況がどれほど危ういか誰よりも知っている故に必死に足掻いていた。

 

 

竜王が消えたとしても彼の作り上げた国家と軍団は無傷のままだ。

 

 

 

更に二枚目の手紙を開く。

こちらにはもっと酷い話が書かれていた。

 

 

 

 

“当代の勇者の死を確認。竜王に敗北したようだ”

 

 

“その一件において、天翼族白翼主義者の関与が疑われる”

 

 

 

疑いという聞こえのいいどっちともとれる言葉で誤魔化しているが実際は確定情報だ。

ひたすらラードゥンとは対決しないように戦っていた奈々子の正確な居場所を知っていたのは伝令の役目を担っていた天翼族たちなのだから。

ルファスと手紙のやり取りをする際に仲介していた天翼族であるのならば、逆にラードゥンに勇者の位置を売る事も容易いだろう。

 

 

 

そもそもラードゥンがリュケイオンを襲った理由はアリストテレスではなくルファスを狙った為だ。

表向きはプランの弟子であり目立つことを避けていた娘を竜王は狙ってきた。

その意味がアウラには判ってしまった。

 

 

 

つまりルファスの事を知っていて、それでいて彼女の死を願う者が竜王に彼女を売ったということだ。

アウラの知る限りそんな人物は一人しかいない。

 

 

 

……もう誰もが確信を抱いている。

 

 

更にもう一枚。

小さな手紙だ。

 

 

 

“白翼主義者たちの活動が活発化している”

 

 

 

“近々リュケイオンにてアリストテレス卿の葬儀を行いたい”

 

 

“ヴァナヘイムへの報復について密談予定”

 

 

“及び人類共同体のこれからについても討議を行う”

 

 

 

竜王という強大な存在を前に結成された人類共同体であるが、ラードゥンが居なくなったとしても解散することは出来ない程に計画は巨大なものへと成っていた。

まだ魔神族/魔神王という難敵が存在しているからだ。

プラン・アリストテレスが作り上げた超巨大な経済圏と防御機構は順当に発達を重ねればやがてミズガルズ全土に長い平和を齎す事が出来るだろう。

 

 

とてつもない利権さえ産み出すこれは新時代における経済の基盤へと変わる事だろう。

特にプルートとクラウン帝国の技術的協力関係はどんどん深まっている。

 

 

平和で儲けられる。

誰だってそんな時代が好きに決まっている。

いずれ腐り落ちるとしても少なくとも暫くは安定した時代が訪れるだろう。

 

 

 

アウラは一息つくと書類の整理へと戻る。

間違ってもこの手紙をルファスに見せる事は出来ない為、机の奥深くに隠す様にしまった。

既に各国はプランを死んだものとして扱い始めている。

 

 

 

いずれルファスもこの現実と向き合わなくてはならない。

しかし、出来るだけ彼女はソレを引き延ばそうとしていた。

 

 

一種の逃避であるが誰が彼女を責められる?

このままだと間髪入れず幾つもの絶望がルファスへと迫る事になる。

 

 

 

 

リュケイオンが襲われたのはルファスのせいだ。

友誼を深めた勇者が死んだのは実父の仕業だ。

プラン・アリストテレス達がこんなことになったのは彼女が無力だったからだ。

 

 

 

唐突に全てを奪われるなどミズガルズでは珍しくもなんともない。

己の命と町が助かっただけルファスは恵まれてさえいた。

 

 

 

何てことはない。

ただ今まで彼女が得ていた平穏と幸福の揺り返しが来ただけだ。

 

 

 

“仕方なかった”

 

 

 

 

この一言で全てを流してしまうのが最も賢くて皆やってることなのだ。

だってミズガルズではこんなのは当たり前なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一通りリュケイオンにおける仕事を片付けた頃。

もう少しで夕方に差し掛かる時間帯。

ルファスは日課となりつつある捜索を行っていた。

 

 

背負ったバッグに大量のポーションとエリクサーを詰め込み、上空からリュケイオン近郊を見回っているのだ。

高度10キロから地上に置かれた本を読めるルファスの視力ならば地上に残った痕跡を見逃がす事はない。

更には全感覚を総動員して少女はプランを探していた。

 

 

 

 

“繋がり”はなくなってしまったがそれでも周囲に残留したマナの気配を頼りにルファスは足取りを追う。

 

 

 

「……」

 

 

 

リュケイオン近郊、森の中の開けた地にルファスは降り立つ。

ここはずっと前に発見した手がかりの地であった。

 

 

 

 

大地の一部が焼け焦げている。

膨大な熱量が叩きつけられた後で、そこからは凄まじいマナを感じる事が出来た。

光の森で竜王の意思と対話した時にも感じたこれはラードゥンの残滓だろう。

 

 

 

 

(……ここに奴がいた)

 

 

 

周辺の木々がなぎ倒されている。

まるでとてつもない怪物が根こそぎ踏みつぶしたようだ。

竜王の体躯は100メートルを超えるのを考えるに当然だろう。

 

 

 

 

黒焦げた場所に近寄り、屈みこんで地面を吟味。

攻撃する様にブレスを吐いたという事はラードゥンにとっての敵──プラン──がいたということだ。

ここに彼がいたと考えても問題ないだろう。

 

 

 

……彼?

彼らではない?

プラン以外の者は何処に?

 

 

ふと沸いた疑問をルファスはとりあえず脇に追いやった。

 

 

 

ここまではいい。

しかし……ここからが判らなかった。

ぱったりと気配と争いの痕が失せているからだ。

 

 

 

戦いが起きた?

それともやり合う前に場所を移した?

プランがソレを提案したとしてもラードゥンが従う訳がない。

 

 

 

ミョルニルの戦いにおいてもミズガルズへの損壊など気にも留めなかった竜王が律義にそんなことをするとは思えない。

むしろ嬉々としてリュケイオンを戦火に巻き込もうとするだろう。

 

 

 

 

(…………)

 

 

 

何があったのか全く判らなかった。

しかしここで諦める事は絶対にない。

プラン達を諦める等ありえないのだ。

 

 

 

まだ何も返せていない。

多くを貰ったのに何一つ。

 

 

地面に座り込み胡坐をかく。

余り礼儀が良いとは言えない格好だったが状況が状況だった。

己の全てを動員して糸口を掴むべく意識を集中する。

 

 

 

得た情報の断片を纏めていく。

まるでパズルのピースの様なそれを当て嵌めて推察を作るのだ。

 

 

 

(一つ)

 

 

 

ここで竜王とプランは対面した。

 

 

 

 

(二つ)

 

 

竜王はブレスを吐きかけた。

しかしそれで殺せなかったのだろう。

人が焼けた時の匂いは直ぐには消えない筈だが、ここにはそれがない。

 

 

(三つ)

 

 

 

彼らは消えた。

しかし竜王は戦いの場を選ぶ性質ではないし周囲への被害も考えない。

 

 

 

(四つ)

 

 

 

と、なるとプランが竜王を何処かに追いやったと考えるべきだ。

ちょうど彼にはそういう技術がある。

【エクスゲート】とはまた違う、瞬時に座標を移動させる埒外の力が。

 

 

あれを用いれば竜王が抵抗しようと何処にだって連れていけるはずだ。

 

 

 

 

(五つ)

 

 

 

では何処にいった?

 

 

此処が問題だ。

少なくともリュケイオン周辺ではないし、人口密集地の近くでもないだろう。

あんな化け物とやり合うならば周囲に誰もおらず、どれだけ破壊力のある攻撃を乱打しても大丈夫な場所を探すだろう。

 

 

 

で、あれば今まで行脚した国々は候補から外れる。

 

 

 

意識を深く深く落としていく。

無意識の域までルファスは精神を研ぎ澄まして集中する。

己の中にあるマナ蒐集能力を発動させた上で更に改良を施した。

 

 

ソレは言わば“選択”する機能。

無差別に集めるのではなく、自分の望むマナだけを選抜する能力。

薄っすらと瞼を開ければ周囲の色彩が変わっていた。

 

 

 

プランは見つからない。

ならば竜王を探そうとルファスは発想を変えていた。

 

 

 

リュケイオン近郊というのもありマナは濃く、元々この地に存在していたマナは蒼く映る。

しかしラードゥンが放ったブレスの残照には真っ赤なマナがこびり付いていた。

ブレスというのは体内のマナを練り込まれた高濃度の魔力の塊でもあり、ラードゥン程の規格外の存在が放ったソレは8日経過しても中々に薄まらない。

 

 

 

 

掌を翳して竜王のマナだけを集める。

黒翼が広がり奇妙な文様が全身に走っていく。

【バルドル】を装備していないというのに彼女はあの装備の能力を身一つで完全に再現できていた。

 

 

 

 

手の中に形成されるのは血の様に真っ赤なリンゴ。

目を奪われる程に透き通った深紅で、表皮では何かが胎動していた。

純粋な竜王のマナだけを集めた結果できたのはこの世の全ての血を濃縮したような朱い果実だった。

 

 

 

 

 

【観察眼】

 

 

 

前提条件を達成したルファスは更に思いついた通りに動く。

彼女はマナが宿した記録を読み取ろうとしていた。

“子隠し”の例を見るにマナには感情や記憶を保存しておく力があるのは確かだ。

 

 

 

留めておけるのならば読み解く事も可能な筈だ。

いや、可能にしてみせる。

プラン達を見つけ出すためならばルファスは限界の一つや二つ簡単に超えて見せる気概がある。

 

 

 

絶対に見つけてやる。

そして助けるのだ。

そして既に勝っていたなら疲れた皆に肩を貸したり癒してあげたい。

 

 

 

いや違う───それもあるがルファスはプランに会いたかった。

たった8日離れただけなのに、息苦しくてたまらない。

魚が水がないと生きていけない様に、鳥が空を飛ぶように、彼女には彼が必要だった。

 

 

 

仮に別れる時が来たとしても、それはもっとずっと先。

両者が納得できる命の終わりを見届ける時の筈だった。

 

 

 

マナを読み取ったルファスの脳内で何時かの会話が再生される。

エルフ達が用いる【ゴシップ・ギャザー】に近い言霊の再生だ。

 

 

 

 

ざぁぁぁんねんでしたぁっ! きみのやったことはぜーんぶ無駄なのさ!!

 

 

 

竜王が誰かに向けて悪意も露わに嘲っている。

相変わらず不愉快な声だった。

しかしラードゥンが誰に向けてこんな事を言っているかルファスには判らなかった。

 

 

 

 

こんばんわ。貴方が“竜王”で間違いありませんか?

 

 

 

ごきげんよう!!  うん! ぼくラードゥン! ちょっとはやいけど来てくれてうれしいよ!

 

 

 

 

二人の会話が始まる。

 

 

 

 

ああああああああああ! ミョルニルの!!

 

 

はい。その節は失礼しました。

 

 

ほんとうだよ! あのあと、すっごおぉおおおく大変だったんだからね!!

 

 

 

ラードゥンが喚きたてていた。

ミョルニルの戦いでプランに煮え湯を飲まされた彼がこういう反応をするのも無理はない。

何せ必勝を約束されていた虐殺がまさかの大敗北で終わるという結果に書き換えられたのだから。

 

 

 

その後に何が起きたかはいまさらだ。

ルファスは聞き耳を立てて全神経を集中している。

一言一句逃さず暗記する勢いだった。

 

 

 

 

 

だ、け、ど、ぉぉ~?

 

 

 

 

竜王が何かを言おうとしていた。

話が切り替わる事を察したルファスは次の彼の言葉に意識を傾ける。

 

 

 

ルファスちゃんは?

 

 

 

連れてこいっていったよねぇ?

 

 

 

「────え?」

 

 

 

 

竜王が唐突に己の名前を呼んだことでルファスの思考は停止した。

訳が判らない。

だって、おかしい。

 

 

 

おかしいじゃないか。

何で私を?

どうして? 

 

 

竜王は己の邪魔をするアリストテレスを狙ったのではなかったのか?

 

 

 

竜王がリュケイオンを襲撃した事は知っていても、何故そんなことをしたのか誰もルファスには教えていなかった。

アウラが箝口令を敷くまでもなくリュケイオンの人々は誰も言わなかったのだ。

 

 

 

理由は簡単だ。

「意味がない」からだ。

既に竜王の襲撃は終わった出来事であり、誰のせいだ等と責任を押し付けても時間の無駄でしかない。

 

 

 

多少はルファスを案じる気持ちもあったかもしれないが大半はソレだ。

ミズガルズにおいて理不尽に親族を奪われる事は珍しくもない。

村ごと焼かれる事も多々あるのを考えるにむしろこの程度で済んでいるのは幸運といえる。

 

 

死にかけた事や失いかけた事はあっても本当の意味で失ったことのないルファスには判らない理由だった。

良くも悪くも彼らはプランと同じく諦めている。

自分たちの様な者達が強者に踏みにじられるのは仕方ないことだと。

 

 

 

 

「なんで? なんで……? な、んで───」

 

 

 

 

翼がざわざわと羽根を擦り合わせて耳障りな音を立てていた。

殴られたように頭がガンガンなっていた。

精神がかき混ぜられながらも身体は血に刻まれた力を発動させ続け、再生を続ける。

 

 

 

 

竜王が何かを喚きたてたと思ったら、いきなり絶句しだす。

ルファスはソレを遠くの喧騒の様に聞いていた。

未だに頭は竜王がこの街を襲った理由について考えて、考えて、おかしくなりそうだった。

 

 

 

 

だって、それはつまり、皆がいなくなったのは。

心から一緒に居たいと思った人も、自分を受け入れて見守ってくれた人たちも、消えてしまったのは───。

 

 

 

わ た し の せ い ?

 

 

 

 

「っぉ、ぇぇ……!!」

 

 

 

その真実にたどり着いてしまったルファスはまるで命乞いするように四つん這いに崩れ落ち、思わず嘔吐していた。

膝に力が入らない。視界が回る。胸の奥が焼けそうだった。

そんな状況でも聴覚を始めとした感覚器は竜王とプランの再生された会話を聞き取り続けている。

 

 

 

どうやらここで決戦みたいだねぇ?

 

 

殺してあげる!!

 

 

 

竜王の声音には隠し切れない歓喜が宿っていた。

魔物として弱者を嬲る快楽に溺れた声だ。

ルファスは光を失いつつある瞳で周囲を見渡す。

 

 

 

絶対に何としてもプランを見つけ出す。

そして謝らなくてはいけない。

こんな事態を招いてしまったことを。

 

 

 

彼を助けたい等と口にしておきながらこんな事しか出来ていない。

変わりたい等と言っても結局は甘え続けた己の愚かさを懺悔したくて狂いそうだった。

 

 

 

会いたい。

ただそれだけが今のルファスの全てだ。

皮肉な事に肉体は最適化を続けて彼女の願いを叶えてくれた。

 

 

翼が縦横無尽の枝の如き形状に変化し、最大出力でプランを探す探知機として機能した。

その結果、空間に残る微かな異常……100メートルを超える物体を遥か彼方に転移させた本当に小さな解れを可視化してくれた。

小さな亀裂とマナの変動が残っているのだ。

 

 

 

その先から微かに彼の気配を感じ取れた。

 

 

 

「……」

 

 

 

震える指先でその座標に対して【エクスゲート】を開き、何も考えずに飛び込もうとして───翼が震えあがった。

全力で跳ねた脚力と、それを相殺するように発生させられた浮力が反発しあい森の一角が大きく揺れる。

 

 

 

全身を背中に引っ張られる「く」の字に変えて空中で急停止したルファスは憤怒も露わに叫んだ。

 

 

 

「どうして!!」

 

 

 

翼に怒鳴る。

いい加減にしてほしかった。

自分の一部だというのにいう事を聞かないのが不愉快でたまらない。

 

 

 

当然翼が答える訳もない。

そもそもこれはルファスの一部で独立などしていないのだから。

結局のところこの寸劇はただの一人遊びだった。

 

 

 

 

 

今にも引きちぎりそうな壮絶な目つきで翼を睨みつけてからルファスは【エクスゲート】を改めて見た。

あの中にプランが居るはずだ。

そして竜王も。

 

 

 

もう戦いは終わったのだろうか?

もしくはまだ戦っている?

 

 

 

【エリクサー】の瓶をしっかりと握りしめてからルファスはゲートの中に頭だけを入れて向こうの様子を伺い───。

 

 

 

 

 

 

 

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お探しの人物は存在しません。

 

 

 

 

 

 

 

“無”であった。(404 not found)

 

 

 

 

何もない暗黒色だけが永遠に続いている。

空と空の狭間にある奈落の底へと回廊は繋がっていたのだ。

 

かつてはここにも何かがあったのかもしれない。

誰かがいたのかもしれない。

しかし想像を絶するナニカが起きて、ここは消え去ってしまった。

 

 

 

少なくともこの中には誰もいないし、生存する事も出来ない。

もしも飛び込んでいたらルファスは死んでいただろう。

生き残る事ができたとしても無限の闇黒をさ迷う事になる。

 

 

 

翼がピクリと反応する。

この永遠の狭間の世界でプランの気配は途絶えていた。

 

 

 

目を背けていた現実が少しずつ迫ってくる。

もう彼は帰ってこないのだという絶望が絡みついてくるのをルファスは必死に振り払おうとした。

 

 

 

そんなわけがない。

彼は今までずっと帰ってきた。

今度だって少し遅れてるだけだ。

 

 

 

 

 

「ぁぁ……あああ……」

 

 

 

掠れた絶望がもれ出る。

 

 

間違えた。

ここじゃない。

此処である筈がない。

 

 

 

では、どこだ?

そんなものルファスに判る筈がない。

もう誰も迷える彼女を導いてくれない。

 

 

 

 

───あーあ。皆死んじゃった。良い人たちだったのにね。

 

 

 

誰かが呟く。

ずっと先だと思っていたチャンスがこんなにも早くに転がり込んで来てくれたのだから。

かつてない程に不安定になったルファスを後ろから崖の底に蹴り落すべく彼女は囁き続ける。

 

 

こっちにこい。

お前も私と同じだ、同じになったのだ。

 

 

 

本当に小さな声であったがルファスの素晴らしい聴力は聞き逃さない。

まるで直ぐ後ろに立っているかのように彼女は悪意を流し込んでいく。

 

 

 

───どうして自分が狙われているかって言ってたよね?

 

 

 

───二年前を思い出しなよ。

 

 

 

 

ルファスは意識して無視しようとしたが彼女は構わず続ける。

本当に楽しそうに失った少女の傷を嬉々として抉り続ける。

今までずっと自分が手に入らなかった幸福を見せつけられてきたのだ、彼女の中には想像を絶する嫉妬と羨望が育まれていた。

 

 

 

 

───“私はここにいるぞ”って感じで全力で【威圧】を使ってたよね? あんなことしたら目を付けられるに決まってるじゃん。

 

 

 

 

はぁと深いため息を少女は吐いた。

かつてルファスがプランにやったわざとらしく相手を傷つける為の動作。

あれが如何に人を傷つけるかルファスは今更になって知る事になる。

 

 

 

 

───せっかく皆で未来に行けそうだったのに、死んじゃったね。

 

 

 

───全部ルファスのせいだよ。あ~あ。

 

 

 

 

悪霊はルファスの罪を一言で表した。

この世で最も重く許されない罪科、それは。

 

 

 

 

この人殺し。

 

 

 

 

その言葉が限界だった。

ちっぽけな少女の心は遂に折れた。

密かに自慢に思っていた金糸を無惨に掻きむしり、声として成立しない絶叫を上げる。

 

 

 

「う ぁ……」 「あぁぁぁ」

 

 

 

 

「ぃゃ……ぁっぁぁああああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

その日、少女は失う事の痛みと絶望を知った。

 

 

 

 

 

 





“幸せすぎると人は腐るんですよ”



───美と愛の神アロヴィナス。
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