ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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「どうしてお前は俺から大切な人を奪うんだ」



───ジスモア・エノク。とある場面における胸中。


ルファスはさ迷っている

 

美しい女がいた。

朱と白を基調とし、所々に金で刺繍が施された優美なドレスを着こなす女性だ。

金色の髪は黄金よりも眩く輝き、深紅の瞳には途方もなく強い意思が宿っていた。

 

 

 

薄く化粧を施した顔は想像を絶する程に美しい。

整いすぎたソレはもはや万人を魅了する“魔”の領域に至っていた。

スキルの【威圧】を使うまでもない、目線一つ、指先一つで男女問わず魂を支配し屈服させてしまう程の華が彼女にはある。

 

 

 

 

彼女こそミズガルズ統一目前にまで至った大帝国ゾディアックを統治する絶対の支配者である。

何百万もの配下に傅かれる独裁者たる彼女は珍しく一人で行動していた。

常に傍に控えさせている十二の星から選りすぐった護衛も今はいない。

 

 

 

そんな女帝はつい最近配下に加えた部下のスキルを発動させる。

とある方法によりこの世界の限界を超え、支配する力を手に入れた彼女は部下の力を己のモノとして行使できる。

彼女は最後に己の身なりを隈なくチェックしてからほんの微かな希望を抱いて能力を発動させた。

 

 

言い訳などというあり得ない行為を何度も胸中で繰り返す。

 

 

教えは既に捨てた。

しかし必要だから呼ぶのだ。

いま世界を蝕むモノらは全て彼が創造した物。

 

 

あの魔女も己が信奉する神が目の前に現れれば牙を納めるだろう。

そうだ、成功すれば全て丸く収まるからだ。

 

 

 

……もしも、もしも出会えたら。

何を話そうかと火種の様な願望であった。

ヘルヘイムで残影を見てしまったせいで燃え殻に火がついてしまっていた。

 

 

 

【アルゴナウタイ】

 

 

これは光の妖精姫と称されるポルクスのスキルだった。

ミズガルズにおいて永遠に茶番の片輪を担ぐ者がどんな性悪か気になってはいたが、実際は運命に翻弄された女でしかなかったのが印象的であった。

もちろん女帝はポルクスに怒りを抱いてはいない。

 

 

 

遥か昔に対峙した不死鳥は散々に彼女を毛嫌いしていて、その理由も判るが彼女はポルクスを許していた。

 

 

 

かつての友の死因でもあるポルクスではあるが、もう十分に罰は受けている。

誰が思うだろうか、何千万年も生きる超存在の精神がただの人間のソレ等と。

あんな酷い有様を見てしまってなお糾弾できるほどに女は無情ではなかった。

 

 

 

 

プラン・アリストテレス

 

 

 

誰を呼び出すか問う【アルゴナウタイ】に対してたった一つの名前を胸中で告げる。

幾年経とうと忘れる事が出来ず、どれだけレベルを上げても常に己の先を征く者の名前を。

もう250年以上前の人物だというのにかの者が残した技術はゾディアックの発展/拡大を支える基盤となっていた。

 

 

 

 

魔神族を事実上無力化するどころか人類の資源へと変えた。

人類に奉仕する無尽蔵の魔物たちを残した。

【エクスゲート】をこれ以上ない程に凶悪に使いこなすゴーレムの絵図があった。

プルートの地下で拡張された空間は通常の10倍の速度で時間が流れる時間の断層であり、想像を絶する速度で資源の生産が可能となった。

 

 

自らの判断ミスで消え去る筈だった村を守ってくれた。

 

 

まだまだ。

列挙しきれない程に彼の功績は多い。

途方もない年月が経ったというのに彼の技術は未だに人々を助け続けている。

 

 

 

レベルを上げれば上げる程に彼女の瞳に未だに焼き付いた背中は遠くなっていくような気さえした。

 

 

レベル4200。

今や単体で宇宙さえ揺るがす彼女をしてもかつての■の発想には及びもつかない。

彼女が拳を振い一部の民を守っている間に彼はミズガルズ全土と言う規模で人類を守護しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

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お探しの人物は存在しません。

 

 

 

 

 

 

世界から無慈悲な通達が帰ってくる。

指定した人物は存在しないという内容であった。

死よりも深い女神世界からの拒絶だ。

 

 

 

つまり彼は死後の世界にさえいないのだ。

そして生きている訳もない。

求める人は完全に消滅したという無感動な証明だけが果たされた。

 

 

 

案の定の結果に女帝は表面上は眉一つ動かさなかった。

ぴくっと背に携えた翼の先端が微細に震えただけだ。

 

 

 

「…………」

 

 

 

落胆はなかった。

むしろ安堵さえある。

どれだけ化粧をし香水を用いても消せない血の匂いが彼女にはこびりついているのだから。

 

 

仮にこの場で出会えたとしたら彼は必ず気が付くだろう。

誤魔化しなど出来るわけがない。

そうなったとき、彼がどんな顔をするかを想像すると……。

 

 

 

彼女は絶対の王である。

全てを圧する強さを以て君臨する覇王だ。

その力を見せつける為に行使したことだって一度や二度ではない。

 

 

女というだけで侮る者も大勢いるのだからこれは当然の行為だった。

 

 

そうだ。

彼女はもう立派な人殺しの仲間だ。

戦争で敵国の兵士を殺し、己に歯向かってきた賊を殺し、私腹を肥やし民を顧みない者らも殺した。

 

 

列に並んでしまったのだ彼女は。

いつかは順番が来る事だろう。

 

 

最初は嫌悪があった。

吐き気さえ覚えていたのがいつの間にか何も感じなくなってしまっていた。

他者を傷つけても「仕方ない」の一言で流せるように女は変わってしまっている。

 

 

 

女は踵を返す。

無理なものは無理だという事を確認した以上はもう良いという諦めがある。

エリクサーをベースに発展させた究極のポーションである【アムリタ】や水の天法を用いても復活が叶わないのだから。

 

 

 

まだまだやるべきことは多い。

数日後には大海を統べる賢王エロスとの会談があり、それが終れば女神の聖域への遠征も控えている。

 

 

ゾディアックでは誰もが笑顔になっていた。

魔神族と言うかつての強者だった今の家畜を弄び楽しんでいる。

彼の残した秘術の数々が生活の次元を跳ね上げさせ、国民はあらゆる不安や外敵への恐怖を取り除かれている。

 

 

 

まるで巨大な鳥かごの様だった。

守りたいのであって管理したかったわけではないのに。

 

 

 

それを歪だと知りつつ王は進む。

彼女は止まらない。

己の国の基礎に重大な障害が発生している事を知りつつ、いまさら止まる事など出来ないのだ。

 

 

 

 

 

────ルファスの行動を察知したある老婆が黙とうを捧げる様に頭を垂らしていた。

 

 

 

 

必ずや神の遺した計画を実行させると魔女は誓っている。

そう、人類は全てを委ねていいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“竜王”襲撃より13日後。

リュケイオンは平常に戻りつつあった。

領主を始めとした貴重な人材を多々なくした街ではあったがどんな傷でも塞がるものだ。

 

 

 

ミズガルズにおいて唐突な死は珍しくはない。

だから殆どの者は遺書などを常に用意している。

今回は1時間も余裕があったのだから更に問題はない。

 

 

 

しっかりと仕事の引継ぎを行った者が大半だったため、街の運営は少しだけ効率が落ちたものの問題なく回っている。

どうしても人手が足りない個所はルファスという規格外の存在が力技で埋めたのもあるか。

そして領主の代理としてアウラが受け入れられたというのもある。

 

 

 

プランの政的な助手として振舞う彼女を大勢の領民が見ていた事もあり「そういう立ち位置」だと思われていたのだ。

 

 

 

13日でリュケイオンはラードゥンの事を忘れようとしていた。

“子隠し”とは違い全員が納得の上で別れを済ませていたのだから問題など起こりはしなかった。

四強に襲われ街ごと吹き飛ばされるところを生き延びれたのだ、これ以上は贅沢だと。

 

 

 

 

 

そしてルファスは────変わらず多くの手伝いを引き受けていた。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうねぇ……」

 

 

 

老婆が深く頭を下げる。

そろそろ老朽化してきた家をルファスが修繕したからだった。

天井の雨漏りや虫食いの多い壁の老朽化、その他さまざまな問題を【錬成】で見事に解決してもらった彼女は何度も何度も感謝を述べる。

 

 

少ないながらも礼として給金を払おうとする彼女にルファスは微笑んで言った。

 

 

 

「エルはいい。……代わりに茶葉を貰いたいんだ」

 

 

 

母が好きだからと言えば老婆は一瞬だけ驚いた様子だったが、直ぐに頷いて戸棚を開け始めた。

 

 

 

腰が深く曲がった老婆は茶葉の栽培を生業としていた。

さすがに老人になってからはかなり規模を縮小させていたが、今でも趣味の一環としてやっていることをルファスは知っている。

そして彼女には長年連れ添った夫がいたことも知っている。

 

 

 

しかし今はもういない事も。

老婆の夫もまた13日前にプランが連れて行った面々の一人だった。

戦いの役に立つ筈などないのに何故かプランは招集をかけたのだ。

 

 

 

 

「はい、これだよ」

 

 

 

「ありがとう。母も喜ぶ」

 

 

 

袋に詰め込まれた茶葉をルファスはじっと見つめた。

母も好きだがこれはプランも好んでいた茶葉だったのだ。

そして今も彼女は茶を淹れ続けている。

 

 

そうすれば母もカルキノスも喜んでくれるから。

 

 

 

「……あまり自分を責めちゃだめよ」

 

 

 

「領主様もそんなことは望んでいない筈さね」

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

ルファスは老婆の言葉を黙って聞き頷く。

もう何度目になるだろうかこのように慰めの言葉をかけてもらうのは。

その度に彼女は打ちのめされかけていた。

 

 

 

彼女はどんな悪意にでも立ち向かえる。

しかしコレは無理だった。

優しさが、善意が、かけてくれる言葉の温かさが、ルファスの心を削り落としていく。

 

 

既に決定的な折れ目がついた心にそれは劇毒だった。

 

 

 

どんな魔物のどんな必殺技よりも重いパンチを受けた様な気分になる。

HPが減っているわけでもないのによろめきそうになるのを彼女は何とか堪えた。

老婆の夫は少なくとも50年以上は連れ添ったという。

 

 

 

50年だ。

天翼族からすれば大したことはない年月かもしれないが、人間のソレは途方もない長さだということはルファスもよく判る。

それを失ったというのに老婆はルファスを責める事はせず案じてくれている。

 

 

 

悪意を感知できるルファスだから判ってしまう。

これが心の底から出た言葉だと。

内心では憎々しく思っていて取り繕っている訳ではないことを。

 

 

 

「……そろそろ失礼する」

 

 

 

 

ルファスは頭を下げて逃げるように……否、老婆から逃げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽が沈み、リュケイオンに夜が訪れるとルファスは夕食の前に決まって教会を訪れていた。

ピオス司祭はいまだ戻らず、主のいない教会は寒々しかった。

ルファスは何段も並べられている列の端に座りじっと月光で輝くステンドグラスを見上げる。

 

 

美しい青髪の女性が描かれていた。

女神アロヴィナス、この世界を作り上げた造物主。

愛と美を司る神様は世界を愛しているらしい。

 

 

 

このグラスを作った人はきっと腕がいいのだろう。

慈愛に溢れる神様の姿をよく描けている。

 

 

 

 

───ピオス司祭もそういっていた。アロヴィナス神は善き神様だって。

 

 

 

 

 

……本当はルファスも気が付いていた。

もうピオスが帰ってくる事はないのだと。

だってこんなにもこの部屋には血の匂いがこびりついている。

 

 

プランを探す為に鋭敏に最適化した感覚が仇となっていた。

既に6日以上寝ていないのも合わさって彼女の感覚は研ぎ澄まされている。

 

 

 

戦闘があったわけではない。

建物は何処も崩れていないし、何かが暴れた様子もない。

ただ隠し切れない死臭が残っている。

 

 

 

質素な祭壇の近く。

よく彼が教典を置いていた場所。

恐らくあそこでピオスは息絶えた。

 

 

 

 

何故かは判らない。

誰もが口を閉ざし、カルキノスでさえ何も言わない所を見るに何かの事情があるのだろう。

もしくはプランの件で精神がおかしくなりつつある自分に負荷をかけまいとしているのかもしれない。

 

 

 

それがまたルファスの心にやすりをかけていく。

何も出来なかったのに、どうしてこんなに皆は……。

 

 

少しずつ心臓の脈が落ちていく。

己の事を否定する度に身体の中のマナがその意思に反応し生命活動を弱めていく。

肉体を想うがままに最適化できるという事は、裏を返せば生きる意思を無くしてしまえば死ぬことも可能ということなのだ。

 

 

ヴァナヘイムで壮絶な悪意に晒され、どれほどの仕打ちを受けても決して命だけは諦めなかったルファスは無意識下にソレを望んでしまっていた。

既に一度彼女の心臓は鼓動を停止した事さえある。

その時は無意識下の生存本能が自動で蘇生を行っているが。

 

 

今はまだ生きる事への欲求が上回っている。

しかしいずれそれも逆転し、彼女は死に至る事だろう。

 

 

少女は何の光も希望もない瞳で女神のグラスを見ている。

胸中で渦巻くのは己への否定ばかりだった。

 

 

 

何も出来なかった。

あれだけ助けると豪語しておきながら。

 

 

 

何も。

 

 

そればかりか悲しみの涙さえ出ない。

反吐が出る程に恩知らずで薄情だ。

 

 

 

かつてのルファスは信じていた。

今にして思えば世界の何も知らない愚図の理屈を。

ひとりさ迷うアリエスに彼女は何と思った?

 

 

 

“涙に価値などない”

 

 

“己を哀れんで嘆いて、不幸な自分に酔っているだけ”

 

 

“そんなことをする暇があるのなら私は理不尽に立ち向かって見せる”

 

 

“奪われたならば奪い返して見せる”

 

 

 

 

 

………………。

 

 

 

 

 

何かがこう囁いた。

 

 

 

『どうした? ほら、立ち上がって見なよ』

 

 

 

 

何も知らなかった愚者は頭を振った。

無理だと彼女は諦めた。

 

 

知らなかった。知らなかったんだ。

この世にこんな苦しい事があるなんて。

知っていたらあんなことを想わなかった。

 

 

 

 

“子隠し”に子供を奪われた親たちが割り切れずプランに当たり散らしている光景を見て怒りを抱いていたこともあったが、とんでもない。

 

 

 

彼らは自分なんかよりずっとずっと強い。

だって、こんな苦しみに耐えきったのだから。

 

 

 

 

(……)

 

 

 

椅子の上で膝を抱える。

翼が身体を包み込み外界を拒む殻となった。

もうとっくに限界なのを誤魔化しているだけなのが今のルファスだった。

 

 

 

薄目でグラスの下を見れば古ぼけた椅子に座るピオスが見えたような気がした。

しかしそれも一瞬。瞬きをしたら消えてしまう。

 

 

 

代わりに顔のない天翼族の残骸が祭壇に腰を下ろして自分をじっと見ていた。

早くこっちに落ちてこいと手招きしている。

ルファスはそれから目を背けた。

 

 

 

致命的な挫折を受けたあの時からずっとこの亡霊はついてくる。

昼夜問わず、少しでも気を抜いたら視界の端でニタニタと不幸を嘲笑っているのだ。

 

 

コレをかつて倒したプランはもういない。

コレを払える頼りになる司祭も居ない。

ルファスは一人でコレと戦わなくてはいけないのだ。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

胸に巨大な孔が空いたような気持ちだった。

虚しくてたまらないのにルファスは泣けない。

既に胸中では現実を認めているのに、涙が出てこない。

 

 

 

涙を零したら最後、もう皆が帰ってこないという現実を受け入れる事になるという強迫観念が彼女からソレを奪っていた。

 

 

 

 

「レディ」

 

 

 

聞きなれた声を捉えたルファスは一瞬で体裁を整える。

亡霊がすっと影の中に引っ込んで消えた。

 

 

少女はルファス・マファールの様な自信あふれる勝気な笑みを顔に張り付けた。

少女はルファス・マファールの様な覇気を意識して放出する。

少女はルファス・マファールの様な態度を意識して再現した。

 

 

 

カルキノスと母、アリエスが自分を気にかけてくれているのは痛い程に理解しているルファスだ。

ただでさえ肝心な時に役立たずだった自分がこれ以上二人に迷惑をかけるわけにはいかないと考えていた。

 

 

 

 

「dinnerがもうすぐなのでお呼びに参りました!」

 

 

 

カルキノスは変わらず快活な笑顔でルファスの近くまで歩くとニカっと歯を見せた。

ルファスも微笑んで返す。

自分はうまく笑えているだろうか不安だったがカルキノスは気にしなかった。

 

 

 

「いきなりですが少し昔話をしましょう!」

 

 

 

「本当にいきなりだな……」

 

 

HAHAHAと笑いながらカルキノスは渾身の滑らない話を唐突に披露しだした。

完全なノンフィクションコメディのストーリーのモチーフは自分自身。

意気揚々と地上に上がってきた巨大なカニが日照りで動けなくなってしまい街道で死にかけた所を近場の領主に拾われるという話だ。

 

 

 

「なんだそれ……計画とかなかったの?」

 

 

 

「迸るpassionに身を委ねたのです!」

 

 

 

以前に触りだけ聞いていたカルキノスが地上に上がった話の詳細を聞いてルファスはクスクスと笑う。

何とも滑稽な笑い話だがカルキノスらしい。

本当に数日ぶりに本物の笑みを浮かべ……直ぐにそれは消える。

 

 

 

誰かが囁いた。

“お前はこんないい奴の友を奪ったんだ”

ルファスの心がその事実を前に軋んだ。

 

 

ニコニコ笑う男の顔を直視できずに目線を逸らす。

ありえないとは思っているが、もしも……。

 

 

カルキノスはプランの友だ。

親友と言っていい。

彼の為に命をかけるのも厭わないほどに強い友誼がある。

 

 

 

付き合いの長さだって自分より長い。

母と自分がプランと出会った時にはもうカルキノスは立派にリュケイオンの一員として過ごしていた。

 

 

ルファスは知っている。

カルキノスが多くの人たちと友好を築いていたことを。

子供たちを水遊びの際に預けて貰える程に彼は信頼されていた。

 

 

 

 

─────。

 

 

 

 

「そろそろ帰ろう」

 

 

 

ルファスは逃げるように席を立つ。

顔にはかつての彼の様に薄っぺらな微笑みを張り付けて。

カルキノスはそんなルファスを見ても変わらず見守る様な目線を向けていた。

 

 

 

足早に教会の扉を開ける。

誰にも会わず屋敷に戻るつもりだった。

しかし扉のすぐ近く、つまり目の前に誰かがいることを見やったルファスは足を止め、それが誰かをしっかりと認識すると驚愕した。

 

 

 

「忙しいな。もう少し落ち着け」

 

 

 

女性であるルファスの半分よりちょっと高い程度の背丈。

地面についてしまう程に長い金髪。

そして誰が見ても一目瞭然な種族としての特徴である長い耳。

 

 

 

身の丈よりも巨大な杖をしっかりと握りしめた彼こそはエルフ達の王、ロードスである。

背後に人間状態の、しっかりと上下とも衣服を着込んだサジタリウスを控えさせたロードスは相変わらず眠そうな瞳でルファスを見上げていた。

 

 

 

 

王の瞳の中には燃え尽き、今にも砕け割れそうな星が映り込んでいる。

娘の内側で蠢くおぞましいものを見たエルフ王は一度だけ瞬きをした。

 

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