ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
ここまで応援して下さりまことにありがとうございました。
屋敷の庭に張ったテントの中で少女は夢中になって仕事に打ち込んでいる。
葬儀も一段落し、あれだけ街に募っていた各国の貴族や王族、またはその遣いなどがユーダリルに移動したり帰国する中の話だ。
彼らはきっと祖国に戻り各々が人類共同体の中でどのように振舞うべきかを考えだす事だろう。
ちなみに大前提として竜王への対抗策として結成された人類共同体は竜王が居なくなろうと解散はしない。
まだまだ魔神族や恐竜など人類への脅威は多く、何よりこれによって齎される利益は想像以上であったからだ。
更に言うと人類最強の存在であるベネトナシュの保護下に入れるというのも非常に大きい。
レベル300程度の魔神族がほんの少し気まぐれを起こすだけで国というものが揺れる程に人類は弱いのだ。
少なくとも今の所は。
世界はここから変わり出す。
ラードゥンと彼の率いていた第四帝国は滅び去り、残ったのは団結した人類と少しばかり箍が外れた男の残した数々の狂気的な技術たち。
直ぐにとはいかないだろうが、世界がアリストテレスの遺産を紐解けばミズガルズはかつてない様相を見せる事だろう。
しかし今や世界でも有数の力を得た少女にとってはそれらは今やどうでもいい事であった。
ルファスは黙々と運び込んだ黒曜石に名前を刻んでいた。
流れ作業には決してさせず、一人一人の顔を思い出しながら。
ダン。
ずっと自分たちを気にかけてくれた肉屋の人。
初対面の時にはとんでもなく失礼な態度を取ってしまった事をルファスは覚えている。
彼がプレゼントしてくれたハーブを投げ捨てたことを今更思い出してしまい少女は奥歯を噛み締めた。
イーラ。
野菜やミルクをこれでもかと贈ってくれた人だった。
アリエスが夢中になるくらいに美味なトウモロコシの製作者であるが、もう食べられない。
快活ではっきりと物を口にするが、確かな隣人への思いやりと優しさを兼ね合わせた女性だった。
ブレン
新鮮な魚をよく持ってきてくれた素朴な漁師の男性だった。
口数こそ少ないが確かな技量をもっていて、ルファスも何度か彼から水の流れの読み方や、魚の動きを知る方法を教えてもらった事がある。
これから過ごす事になる長い人生の中、釣りという娯楽はきっと自分の癒しになると言ってくれた。
名前を刻んでいく。
岩肌にそれを彫るごとにルファスは自分の心に彼らの存在を刻んでいるのだ。
断じてどうでもいい存在などではないのだと証明するために。
決して、絶対に忘れない。
何百年経とうと、自分がどのように成長しようと。
コレを忘れるくらいならば死んだ方が遥かにい。
最後の名前を彫ろうとして指がとまる。
どれだけ願おうと最後はこの人に行き着いてしまう。
これを行ったら最後、もう会えないという事を心から認める事になる。
数秒の逡巡を経てからルファスは瞬き一つせずその名を彫った。
自分の中で何かが終るのを感じながらも彼女は止まらない。
プラン・アリストテレス。
最後にそれを彫り終えるとルファスは数秒の黙とうを捧げた。
置いて行かれた事への悲しみと怒り、己の愚かさ弱さへの嫌悪と殺意が胸中で渦巻く。
7年も時間があったのに、その価値に気付いて過ごせたのはたった2年だけ。
どれだけの奇跡を掴んでいるか己は全く判っていなかった。
何も知らない愚かな少女から脱却したいと願ったのに、自分は何も変われていなかった。
結局は自分がどれだけの奇跡を掴んでいるか全く理解できていないガキのままだった。
あげく最も大事な時には寝ていたというのだから笑えない。
……誰が何と言おうと彼らを殺したのは自分だ。
少なくとも竜王がここを襲撃してきた原因は自分だとルファスは知っているし、そう思っている。
しかしてその先の“何故”を彼女は無意識に省いていた。
きっとそれを知ったら、今のルファスは魔物に堕ちてしまうから。
プランとリュケイオンの皆が作ってくれた己の人間性を守るための無意識の思考/行動であった。
どうしてプランが自分を置いて行ったか。
なぜ私を起こさなかったか。
理由は明らかだ。
弱かったからだ。
ラードゥンとプラン、そしてベネトナシュの領域は想像を絶するとしか言いようがない。
つい最近一枚その壁を撃ち抜いたルファスだからこそ今までの自分がどれほど狭い世界で生きていたか判る。
拳を握りしめる。
力を込めすぎたソレは血を滴らせていた。
何がレベル1000だ。
何がスキルだ、何がクラスだ。
そんなもの、全ては女神の定めた狭いおもちゃ箱の中の設定でしかない。
憤怒と否定と憎悪がルファスを焦がす。
アリストテレスがかつて世界に抱いていたモノと同種の感情。
決してプランがルファスに抱いてほしくはなく、絶対に受け継いでほしくなかったモノ。
皮肉な話である。
プランの見立ては当たってはいた。
ルファスならば立ち直れる、ルファスならば己がいなくとも自分の足で歩いて行けるという見立て。
しかしその軸に怒りが来るとプランは予測できていたかは定かではない。
弱い自分に彼女は怒りを燃やし出し……ふと我に返った。
己の指に生暖かい何かが当たっている。
目線を落とせばそこにいたのはアリエスだった。
「メぇ!」
小さな羊はルファスが怪我を負ったと思っているらしく必死に主の手──出血個所を──舐めていた。
ルファスは毒気を抜かれた様な気分になった。
少しでも気を抜けばこういう方向に感情が動いていくのはやはりそういうサガなのだろう。
プランを失ってから彼女は無意識に「敵」を探そうとしている。
こんな状況を招いた誰か、この際自分でもいい。
このような事を起こした悪者を。
既に竜王はいないというのにその代わりを探そうとする自分がいることに彼女は気が付いてはいるが、中々にこれがやめられない。
少なくとも一人では。
ルファスは脱力し、本当に久しぶりに微笑んだ。
天法で傷を治しアリエスに見せてやる。
もう大丈夫だと言ってから頭を撫でた。
「ありがとう。また変な方向に考えが行ってしまう所だった」
強くなりたいだとか、己は弱いとか、そういうのは今はいい。
少なくともプランの葬式が終るまではその手の感情は不要でさえある。
ルファスは小さく偉大な仲間を抱き上げると己が作った石碑を見せた。
上から名前を読む様にアリエスの目線が移動しイーラの所で止まった。
彼女からトウモロコシをよく貰っていたアリエスは可愛がられもしたのだ。
瞳が潤みそうになったが子羊は気合でそれを引っ込めた。
「良い人たちばかりだった」
「メェ!」
少女は独白を続ける。
背後にもう一人の仲間の気配を感じてはいるが、だからこそ取り繕いのない自分の心を聞いてほしかった。
既にプランには明かしてはいたが、この二人にはまだだったから。
きっと長い付き合いになるとルファスは悟っていた。
数百年か数千か、はたまた万にも届くかもしれない。
だからこそ今の自分を知ってほしいと思った。
「……最初の出会いはお世辞にも良いとは言えなかったんだ」
アリエスの知らない彼との出会いを話して聞かせる。
そういえばこの子は知らなかったなと思い至った故に。
同時に言葉にしながら今までを振り返る。
命を助けられておきながら自分が何をしたか、何を言ったか。
それを振り返ってからルファスは自嘲が大いに籠った笑みを浮かべる。
「訂正する。最悪だった」
「あの時の私は右も左も知らない上に、この世の全てが敵だと思っていた」
「今だから明かすが……当時の私は実は母さえも見下してたんだ」
母さえ“子隠し”の誘惑に負けて切り捨てようとしたのは彼女の一生の恥だった。
あんなに母を愛しているルファスの思わぬ言葉にアリエスがか細く鳴いた。
その後に出会った哀れな亡霊の話を聞かせれば子羊は俯いてしまう。
ルファスのあり得た可能性の存在にアリエスはもしかしたら哀れみを抱いたのかもしれない。
「その直ぐ後だったな。お前と出会ったのは」
「メエェッ!」
思っていたよりも早い自分の登場にアリエスは喜びの声を上げた。
カルキノスには負けるが、それでも自分こそルファスの最初の仲間だという自負が彼にはあるのかもしれない。
キラキラ光る子羊の瞳にはとてつもなく強い意思が宿っていた。
もう彼は泣かない。
もう彼は弱音を吐かない。
今弱いのならば強くなればいい。
それでも足りないのであれば勉強して知識を蓄え、経験を積めばいい。
だって約束したのだから。
信じてくれた人たちの為にもアリエスは決意を固めていた。
「ふふっ……」
燃えるような覇気を発するアリエスを見てルファスは微笑んだ。
さすがにこうも露骨であればこの子羊がプランの居なくなった分も頑張ろうと奮起しているのは判る。
だからこそ言わないといけない言葉があった。
もう彼は忘れているかもしれないがこれはケジメだった。
「アリエス。私は一つお前に謝らなくてはならない」
「……メ?」
何のことか判らずアリエスは頭を捻った。
大好きな主であるルファスが自分に謝る?
いったい何を?
ルファスはバツが悪そうな顔をしながら口を開く。
「最初に出会った時、私はお前を見下して嘲笑っただろう?」
アリエスの涙を無価値の一言で切って捨てた事。
力だけしか縋るものがなかった頃のルファスは落涙という行為を弱者の慰めとしか思っていなかった。
しかし今のルファスはそれが間違いだと知っている。
この世にはどうしようもなく涙を流したくなる時があるのだと。
強者など何処にもいなかったのだと身を以て彼女は理解してしまった。
泣かない事が強い事なのではない。
泣いてもその後に諦めず立ち上がれる人が強いのだとルファスは知った。
「ごめんなさい」
主の言葉に羊は固まった。
アリエスにとってルファスは強くて優しい王様だ。
厳しい所もあるがそれは必要な事であり、決して理不尽ではない最高の主である。
そんなルファスが自分に謝った。
既にレベル1000でミズガルズにおいて最強の位階に位置する彼女が。
それに何よりアリエスにはその理由も判らなかった。
きょとんとした顔のアリエスにルファスは理由を聞かせる。
「きっとお前にも何か理由があったのだろう。
あの時の私は虹色羊がどれほど価値ある存在なのか全く判ってなかったんだ」
アリエス──虹色羊の有用性をここ数年で見せつけられたルファスは当時のプランの言葉を本当の意味で理解できていた。
誰もが求める至高の素材にして生きる伝説、その評価に間違いはなく過少でさえある。
何せアリエスがいなければ母は助からなかった可能性が高かったのだから。
数年前の彼女には存在しなかった視野。
弱者の立場にたって物事を考える事を今のルファスは出来る。
いや、そもそも自分は強くないと彼女は思っているのだ。
「だから……済まなかった」
ルファスの言葉にアリエスは当時を思い返す。
確かに怒りはあった。
しかし、しかしだ。
アリエスは知っている。
どれだけルファスが頑張っていたか。
どれだけ仲間や家族を愛しているか。
今だって絶望や悲しみと戦い続けている。
だから……アリエスはもうとっくにルファスを許しているし、そもそも恨んでなどいない。
アリエスが怒っているのは竜王に対してだった。
きっと今頃はプランがボコボコにしている筈だと信じているアリエスではあるが、それでもラードゥンを許す事はない。
だってそうだろう?
母を殺したのもあいつで、プランたちを奪ったのもラードゥン。
いまこうしてルファスを悲しませているのもあのいかれた蜥蜴野郎だ。
何かの間違いで帰ってきたら絶対にぶっ潰してやるとアリエスは決意していた。
母の仇の上にルファス様を泣かせたのだから。
アリエスは瞬時にラードゥンの事を頭から消し去った。
あんな奴のことは一秒だって考えたくない。
「メメメ!」
ぽんっとルファスの肩に手をやって後ろ足で立ち上がる。
そして頬を舐めればルファスの顔は綻んだ。
多くを失ったがまだ全てを無くした訳ではないのだということを少女は実感し、決意を口にする。
「私達は弱い。アリエス……お前は私を凄いと思ってくれているかもしれないが、実際はコレだ」
現状を見れば見る程にルファスは惨めな気持ちになる。
あれだけ守りたいと思っていた人たちは逆に自分を守ってくれた。
肝心な時には何もできず、ただ嘆く事しか出来ない。
哀しみに負け、ミズガルズの理不尽に屈して涙を流すだけ。
しかし。
「それでも」
最初の出会いに何を言ったか彼女は覚えている。
アリエスを勧誘した時と似てはいるが、意味合いは全く違う願いを彼女は抱いている。
こんな世界、私は嫌いだ。
「私はこの世界が好きだ」
奪われた彼女はそれでもミズガルズという世界全てを嫌う事はもう出来ない。
だって知ってしまったのだから。
多くの国を行脚しそこに生きる人々を見て回った。
いい人ばかりというわけでもなかったがそれでも多くの人生や考え方があった。
エリクサーを作れたのだってそういった繋がりがあったからだ。
人は一人では生きられない、陳腐に聞こえる言葉だがその真髄をルファスは体感することが出来た。
だからこそ彼女は断じて認められない事がある。
「こんな悲しいことが当たり前であってたまるか」
“仕方ない”という言葉にルファスは真っ向から食らいつき否定する。
プラン達を失ったことで心が壊れる直前まで追い詰められた少女は理不尽に大切な者を失う痛さと怖さを知った。
しかしふと思い返せばそんな出来事はミズガルズにはあり触れていると気が付いてしまったのだ。
今の彼女なら判る。
ジスモアが何に負けたか。
そしてソレがどれだけ強い相手なのか。
あの男を許す日は来ないが、それでも彼もかつては戦ったのだという事をルファスは受け入れた。
天翼族の狂気じみた白翼信仰、亜人たちの独善、魔神族の脅威。
それらは意味不明の理屈で人々から大切な誰かを奪い去っていく。
そんなことがミズガルズではありふれているし、誰も変えられないと諦められてさえいる。
これまではそうだった。
きっとこれからも……否、そうはさせない。
人類は変わろうとしている。
人類共同体という大同盟はこれからも世界を結び付けて多くの脅威から人々を守り続けるだろう。
しかしそれでは足りないとルファスは思っていた。
だってこの世界の悲劇の元凶は他ならぬ女神アロヴィナスなのだから。
このままでは数百年の平和は出来るかもしれないがかつて何処かの文明が蠍によって滅ぼされたように強制的に壊されることだろう。
「だとしたら……そんなモノ、私が全て壊してやる」
滲むのは憎悪ではない。
しかし怒りだ。
心から彼女は怒っていた。
こんなこと誰かが止めなくてはいけない。
もう自分と同じ悲しみを誰かに味わってほしくないという願い/決意だった。
「いつまでも奪い奪われるだけの世界など認めない」
「───女神は間違っている」
堂々と、ふてぶてしく彼女は断言する。神は間違っていると。
今まで誰も出来なかった事をやってみせるという決意だった。
内面で渦巻く理不尽への義憤と、それでもなお世界を愛すると決めた覚悟がその顔には宿っている。
そんな主をまるで物語の主人公のようだとアリエスは思った。
ルファスはアリエスを見た。
透徹した瞳には彼女らしくない迷いがあった。
この先何百年かかるかは判らないがこれからの自分の人生はきっと平穏とは程遠くなる。
そんな激流にアリエスを巻き込んでいいのだろうかという迷いだった。
しかしとっくの昔に子羊の心は決まっている。
約束したのだ。
自分にしか出来ない事があると言ってくれた。
「メッ」
ぷにっと口づけするように鼻をルファスの掌に押し当てる。
まるで騎士が主にするように。
どんな時でもカルキノスと並んでルファスの仲間でいるという誓いだ。
「───ありがとう」
ほら、もう助けてくれたとルファスは内心で思う。
少女は優しく笑い感謝を述べるのだった。
……いつの間にかカルキノスが居なくなっていた事にルファスは気が付けなかった。
ちょっとばかり大人の仕事が彼には出来た、それだけだ。
各国の王たちに(表面上は)暖かく迎えられ談笑を行ってから宿に戻ったメラクが見たのは異常な光景だった。
あれだけ意気揚々と他種族の悪口を言いふらし、更にはルファスとその母へ危害を加えると宣言していた取り巻き達が部屋の隅で寄り添い小さくなっている。
彼らはブルブル震えている。まるで親に叱られた幼子の様に。
「……どうしたんだい?」
「!!」
そっと近づいて声をかけると彼らは恐怖に満ちた目でメラクを見上げた。
声にならない悲鳴を上げ、部屋の隅の壁に身体を押し込んで逃げようとしている。
何時もは堂々と広げて誇示している自慢の翼さえも小さく折りたたまれており、これ以上やると折れてしまいそうな小ささに変わっていた。
「何処か怪我でも……」
ブンブンと全力で頭を振り違うとアピールする。
しかしそれ以上は決して言葉にしないし言えない。
ただ一刻も早くこの街から去りたいと態度で表現するしかない。
怪我一つない。
しかし心はぽっきりと折られていた。
彼らは知らなかっただけなのだ。
まさかあんなのがいるなど。
どうなっているのだこの街は、アリストテレスは心底狂人だ。
ちょっとばかりアウラを傷つけようと屋敷に忍び込もうとした彼らは……お引き取り願われただけだ。
ほんの僅かばかり強めに。
ありえないだろう。
【モンスターテイマー】のクラスも持たずに高レベルの魔物を傍に置くなど。
首輪のついていない猛獣と過ごす方がまだ理解できる。
ちょっと数時間経っただけでこの代わりよう。
メラクは意味が判らないと頭を捻る事しか出来なかった。
(ミズガルズ歴2542年 クラウン帝国によって全国に配布された速報)
当代の勇者によって“竜王”ラードゥン打倒を確認。
アリストテレス卿の領地であるリュケイオンを襲撃した竜王は領主プラン・アリストテレス卿と勇者キタボシ・ナナコが共闘することにより撃破された。
しかし激戦の末、竜王と二名は相打ちとなり帰らぬものとなってしまった。
人類共同体創設の立役者であるプラン卿と心優しい勇者の死に対しアルカス帝はリュケイオンを訪問し直々に哀悼の意を示す。
ありがとう勇者。
ありがとうアリストテレス卿。
我々は決して貴方達を忘れはしない。
極点で一人の女が上機嫌に歌っている。
優しくてきれいな女神様は言いました。
蒼く輝く女神様は世界に願いをかけました。
幸せになってください。
満たされてください。
世界が愛と美しいモノに満たされて輝きますように。
そして。
汚いモノはいらない。
不快なモノはいらない。
捨ててしまいましょう。
目に見えない所に送ってしまいましょう。
蓋をして、目を逸らして、そんなモノは存在しないと断じてしまいましょう。
そう、竜王とあの異物の様に。
良かった良かったと女神さまは胸を撫でおろす。
竜王は彼女からしても厄介な化け物だった。
彼女は世界を絶望で満たしたいだけで滅ぼしたいわけではないのだから。
しかしもういない。
異物は意味不明な存在だった。
存在するだけで世界に負荷をかける竜王さえも超えた厄介者だった。
しかしもういない。
この素晴らしい結果の為ならば悪くない線を行っていた勇者を使い潰した甲斐もあるというものだ。
これからミズガルズは暫くの安定期に入るがそれも悪くはないとアロヴィナス様は考えていた。
欠けて割れた駒が二つ、盤からはじき出されて白い世界を転がっていた。
しかし発展させすぎも良くありません。
なので彼女はびびっと思念を送り、世界に組み込んでいた安全装置のスイッチを入れます。
地中の奥深くに隠された卵……200年か300年ほどすればまた文明を殺す蠍が完成することだろう。
まぁ、蠍は全生命体の半分も殺せば止まることだろう。
そして残った半分は己が生きている事への感謝と女神さまの偉大なる愛に感涙し崩壊した文明を立て直す為に頑張ってくれることでしょう。
勇者も竜王もアリストテレスも全てが消え、人類は団結し未来へと進む。
これこそ女神アロヴィナスの求めた最上の結果だ。
ほんの微かに欠けた爪先に気付かず女神はほくそ笑む。
故にこの言葉で一度幕を下ろそう。
そうです。
世界は女神の愛に包まれているのです。
だから……人よ、絶望してください。
今後の予定。
来週から数話だけ口直しに吸血姫ルート(お試し版)を投稿します。
そのあとは3週ほどお休みを頂き、次章を開始いたします。
アニメ化も控える原作をもっと盛り上げる為に頑張っていきます。
そして多くの誤字脱字の報告、まことにありがとうございました。