ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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女にはアルケミストとしての素養があり、何とか息子を育てる事が出来た。
彼女の周りの人々も幼子を女手一つで育てる彼女に助力を惜しまなかったのもあり息子はすくすくと成長していく。



物心ついてから直ぐに家事などを手伝い始めてくれた我が子を女は心から愛し、助けてくれた全ての人々にいつか報いる為にも彼女は必死に修練を重ね続けた。



───とある女の肖像3




ミザールの“火の粉&ワープ”!

 

竜王と人類共同体の戦争は意外な事に人類が優勢となって進んでいた。

ベネトナシュは変わらず倦怠の海に沈んだ様な有様ではあったがプルートから次々と供給される兵器群は想像を絶するとしか言いようがない戦果をあげている。

 

 

 

そして何より。

人類にはルファスとその仲間たちがいた。

 

 

 

 

【剣の冬】

 

 

数百もの剣が瞬間的に生成され空に浮かぶ。

一つ一つが家屋にも匹敵するサイズを誇るソレを産み出したのはルファスであった。

同時に【サイコキネシス】を発動させ念力でそれらの柄をしっかりと握る。

 

 

 

「切り刻め」

 

 

 

号令を発すると同時に全ての剣がそれぞれ別々の剣筋、別々の剣速、別々のタイミングで空を埋める偽竜の群れに切りかかった。

剣線だけが縦横無尽に空を埋め尽くし、剣の通った後にはバラバラに切り刻まれた蜥蜴の残骸だけがある。

姿の見えない剣士たちが剣を振っているとしか思えない程に剣筋は正確だ。

 

 

 

 

正に舞踏。

ただ打ち出すだけ等と言う誰にでも出来るつまらない事を彼女はしない。

剣を投げるだけなど子供にも出来る。

 

 

どれだけ彼女が強かろうと広範囲かつ複数の敵を同時に攻撃するのは面倒だ。

周囲を吹き飛ばしてはいけないという縛りがなければやりようは幾らでもあるが、それではただ暴れ回る魔物と同じ。

故に作り出した全ての剣を彼女は念力で振り回す事にした。

 

 

 

一人で数十人、数百人の剣士と同じ働きをする。

そんなこと普通は不可能だと誰もが言う。

しかしルファス・マファールにその理屈は通じない。

 

 

 

普通の者ならば不可能でも彼女にとっては少し面倒程度にしかならない。

 

 

 

 

そしてそれは彼女の仲間たちにも同じことがいえた。

 

 

 

 

たった一本の、それこそそこらへんで売っているような長剣一本を振り回す男がいた。

30エルでも払えば買えそうな安物の剣だ。

しかしその刃に刃こぼれはなく、良く整備されていた。

 

 

 

 

銀色の光が走るたびに竜たちが解体されていく。

丁寧に翼を根元から切断してから首を落としている。

ソレを成した男は返り血ひとつ浴びない。

 

 

 

 

彼の名はアリオト。

人間種の男で最強の剣士と言う頂きへと挑む求道者である。

 

 

 

レベル450程度の彼はレベル600の竜たちを容赦なく一方的に切り刻んでいた。

放つ太刀筋の全てがクリティカル、クリティカル、クリティカル。

何なら【ソードマスター】のスキルさえ使わない。

 

 

 

ただ断ち切るという事に特化した剣の鬼である彼の瞳には竜たちの何処を切ればいいか映っていた。

甲羅と甲羅の間、骨や筋肉の脆い場所、神経と繊維の薄い個所。

生物であるならば必ず出来てしまう薄い個所に剣を差し込み、適切な速度で振りぬくだけで竜は切断され、剣への負担は最小に抑えられる。

 

 

 

 

“切る”という概念は突きつければ加工に近くなってしまうなとアリオトは竜たちを解体しながら内心で苦笑した。

今の彼は過去に存在したとある剣士の真似をしているに過ぎない。

剣技をスキルとは別の複数の型に分けて編纂した流派の開祖もまたアリストテレス卿という。

 

 

 

これは剣士として極まりたいと夢を語った彼に参考としてルファスが渡した情報であった。

取り入れるかどうかは彼次第と彼女は述べていた。

 

 

 

 

正直言って苦々しいものはある。

最強の剣士になると言っておきながらやっている事は先人の猿真似なのだから。

しかし直ぐに思考を切り替える。

 

 

 

まだまだ道半ばだ。

そんな贅沢な事に拘る余裕などない。

良いモノは何であろうと吸収しそれらを練り上げて最高/最強の剣士になればいいだけだ。

 

 

 

 

 

 

【アクア・スナイプ】

 

 

エルフの青年が魔法を放つ。

得意とする「水」の魔法を最低限の水分で最大の効果を発揮する様に操作する。

超々高圧をかけて放たれた鉄砲水は竜の鱗を軽々と貫通し、それどころか標的の背後にいた別の竜さえも貫いてしまう。

 

 

 

SP消費も低く連射や威力の調整も可能なコレはメグレズの十八番であった。

真なる竜たちが大口を開けてブレスを放つ。

縦横無尽に剣を振り回すアリオトや見ているだけで不気味な感覚のするルファスよりも先ずはこの細くて弱そうなエルフから殺そうと考えたのだ。

 

 

 

 

威力にして1メガトン。

周囲一帯を吹き飛ばしかねない爆撃がエルフに迫る。

 

 

 

メグレズは……何も反応しない。

防ぐことも回避することも、それどころか見ようとさえしなかった。

ルファスやアリオト、ミザールも同じく助けようと動かない。

 

 

 

何故ならば何の危険もないからだ。

メグレズが懐にしまっていた青い結晶体が輝く。

幾度かの実戦運用を経て改良されたソレは実装された新機能を披露。

 

 

 

瞬間的にメグレズを守る様に「水」が展開される。

それもただの水ではなく超高濃度のマナを含んだ意思のある水だ。

飛来した竜のブレスをまるで丸のみにでもするかのように覆い尽くすと次の瞬間ブレスが爆発。

 

 

 

 

ドォンという重低音を響かせて水は大きく膨らむが、直ぐに周囲の大気からマナと水分を補充し再生し圧縮。

体積を圧縮することにより以前の様に周囲一帯を覆い尽くすこともなく、メグレズに蛇の様に纏わりついて待機。

 

 

 

 

新機能、それは全自動で術者を守る機能だ。

メグレズの様な後衛職は基本的に接近されれば脆い。

もちろん彼はその為の戦闘方法も熟知しているが、そもそも近づかれるという状況が良くない。

 

 

 

しかし戦場とは何が起こるか判らないモノだ。

後衛の魔法使いを潰すなど定石中の定石である。

で、あるのならば攻撃されることを前提にした防護をかつてのアリストテレスは用意していた。

 

 

 

 

その為の意志ある水による全自動防御。

流体である故にどのような形にも変化可能で、高速かつ正確無比。

術者が意識を失おうと守ってくれる上にその場合は仲間の元まで輸送さえしてくれるというおまけつき。

 

 

 

これを帝国が配備したことにより劇的に後衛職の死亡率は下がり、後衛につける護衛の数も減った事により各地の戦線は大きく変動した。

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

メグレズは胸中から溢れる感情を必死に処理した。

少しでも気を抜けば高らかに笑ってしまいそうだ。

震える右腕を左腕で抑え込む。

 

 

 

意思を持つ水?

ゴーレムの様であってゴーレムではなく、魔法の様でいて魔法とも違う。

朧に描いていた理想の存在の完成図をぽんっと無造作に出された様なモノだった。

 

 

 

まずは屈辱があった。

妬みとも違う、いつか作りたかったモノを先んじて創造されたクリエイターとしての屈辱だ。

 

 

次に己への怒りがあった。

254年前の人間に未だに届かない不甲斐なさである。

これはどうあっても届かない天才に対する嫉妬と敗北感が混ぜ合わされていた。

 

 

 

そして最も大きな感情、それは喜悦だった。

 

 

とてつもない“力”はそれが己の努力によって得たかどうかは関係なく絶大なる高揚を齎してくれる。

メリディアナという女がどうしてああなったかメグレズは判ってしまう。

彼は彼女を軽蔑など出来ない。

 

 

 

一歩間違えれば同じになってしまっているかもしれないのだから。

 

 

 

エルフはルファスの背を見た。

本当の意味での規格外、アリストテレスの最高にして最後の作品とも言える女を。

彼女は念力で剣を振り回して竜を次々と解体している。

 

 

 

今やその力の全てを惜しみなく使いミズガルズに激動を齎そうとしている古い友の行き先を彼は見てみたいと思った。

 

 

 

 

 

一人の天翼族の男がいた。

何の因果かルファス一行に加わった彼の名はメラクと言った。

ヴァナヘイムの次代の王となることを期待され、その為に試練の旅に出た彼は紆余曲折あって今やここにいる。

 

 

彼は臆病ではあるが卑怯者ではなかった。

押し寄せる竜の大軍を前に恐怖を感じてはいるがそれでも己の役目を投げ出す事はしない。

 

 

 

【オーラバースト】

 

 

【エクスヒール】

 

 

 

その他様々な天法によって彼は仲間を支援し続ける。

チラリと目線を一瞬だけ向ければ黒い翼を翻したルファスの背中を彼は見上げる事になった。

そこにはヴァナヘイムで這いずっていた姿の面影などなく、新時代を切り開かんと猛る女傑の姿がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場より少しだけ離れた場所にミザールはいた。

彼の周囲には同族であるドワーフ達の部隊が何十人もおり、それぞれが忙しなく短い脚で走り回っている。

手早く真っ赤な結晶を金属で出来た球体の真ん中にセットしていく。

 

 

 

球体は幾つもあった。

それこそずらっと何十個も。

それら全てに結晶が埋め込まれた。

 

 

 

「マナ結晶装填完了!」

 

 

 

「魔力、天力、充填開始!」

 

 

 

ドワーフたちが一目散に離れていくと次に現れたのは人間のメイジと天翼族(混翼)たちだ。

彼らは魔力と天力を放出するとそれを金属に流し込んでいく。

ミスリルで構築された球体は青白く発光すると適切に二つの力を演算/処理を開始。

 

 

球体の真上に幾つもの輪っかが浮かび、その中央に真っ黒な孔が空いていく。

この球体はゴーレムである。

たった一つの目的の為にアリストテレスが設計し運用が開始された一品だ。

 

 

 

 

「座標指定完了!」

 

 

 

「エネルギー解放、転移開始!!」

 

 

 

真っ赤な結晶が文字通り燃え上がり小型の太陽を形成したかと思えば暗黒色の孔の中に吸い込まれて消えた。

 

 

 

 

 

数瞬後、増援として向かってきていた数千にも及ぶ偽竜の群れの中央に何の前触れもなく巨大な太陽が顕現し次いでさく裂した。

大地が轟音と共に揺れ発生した衝撃波がミズガルズを揺らす。

囂々と立ち上がるキノコ雲は数百キロ離れた地点からでさえ観測できるほど。

 

 

 

 

偽とはいえ竜に分類されるワイバーンたちは当然の如く火には耐性がある。

自分のブレスで火傷などしていては話にならないからだ。

下級のメイジでは幾ら炎をぶつけても怯むこともないほどに彼らは炎に強い。

 

 

 

 

しかし───蒸発である。

 

 

 

異なる世界において核融合と呼ばれる現象を魔法で再現され、顕現した太陽。

瞬間的に1億度にも達したソレ。

その爆心地にいた偽竜のみならず真なる竜さえも熱波に触れた瞬間に全ての肉が消し飛んで一瞬で骨組みだけとなり、その骨さえも粉になって消えた。

 

 

 

 

「あー、威力が高すぎんな」

 

 

 

フラッシュ対策を施された望遠鏡を使って戦果を確認したミザールは冷たく評価を下す。

確かに素晴らしい威力だ。用途も理に適っている。

今はまだ座標入力の問題やら空間の安定性の都合などで余り遠くまでは跳ばせないが、いずれそれも解決することだろう。

 

 

 

 

【エクスゲート・フレア】

 

 

 

単刀直入の名を与えられたのがこのゴーレムと攻撃方法の正体だ。

これは「火」のマナを超圧縮した結晶から力を引き出した上で【エクスゲート】を生成して敵の目の前までその熱エネルギーを直接送り込む攻撃である。

 

 

この攻撃に弾道はない。

熱が直接送り込まれるのだから。

 

この攻撃に回避手段はない。

唐突に目の前に現れるのだから。

 

 

 

 

高難易度の術とされた【エクスゲート】発動の為の天力と魔力の運用さえゴーレムが人の代わりに演算して行ってくれる。

これを運用する人間は攻撃座標を入力するのと「火」の結晶を補充するだけだ。

後は指示を一つ飛ばすだけで地平の彼方に太陽を送り込める。

 

 

 

訓練を受ければ誰であっても扱えるのは正しく兵器と呼ぶにふさわしい。

何なら説明書を読みながらであれば子供であっても扱える。

 

 

 

 

 

しかしミザールはこのゴーレムが嫌いだった。

何ならアリストテレスが設計した全ての兵器が好きではない。

プルートが変わってしまった原因の一つだからだ。

 

 

 

かつてのプルートは正しくドワーフの理想郷であった。

各々が好きに作品を作り、批評し合い、切磋琢磨していく地だった。

しかしいつの間にかプルートでは誰もが同じモノを作り出していた。

 

 

 

アリストテレスの残した兵器たちだ。

このゴーレムもそうであるし、今開発されているらしい更に【エクスゲート】を悪用した凶悪極まりない兵器だってそうだ。

 

 

 

ドワーフはいつの間にか多様性を失っていた。

効率と均一性が全てを染め上げてしまった。

 

 

 

己の作品こそが一番であると誇らしげに叫んでいた芸術家たちはもういない。

何もかもがアリストテレスに塗りつぶされてしまった。

それが嫌でミザールはプルートを飛び出し、ルファスと出会い今に至る。

 

 

 

 

しかし結局は戦争に介入することとなりこうやってまたアリストテレスの兵器を扱う事になってしまったが。

 

 

 

 

 

「……出来がすげえのは確かなんだがな」

 

 

 

痒いところに手が届くゴーレムの調整機能を用いて【エクスゲート】の形状を弄る。

完璧な円形から少しずつ潰していき細長い楕円に。

その状態でもう一度攻撃を放つ。

 

 

 

 

窄められた放出口から吐き出されたエネルギーは竜のソレが可愛く見える程の熱の濁流となって偽竜の群れを吹き飛ばす。

それだけに留まらず大気圏を突き抜けた人工のブレスは宇宙の彼方にまで飛翔していった。

 

 

 

「このど派手さだけは好きだぜ」

 

 

 

個人の好き嫌いはともかく便利な兵器であるのは間違いなく、コレが活躍することで人命が助かるのならばとミザールは割り切るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜が多い。

余りに多すぎる。

 

 

どれだけ切り捨てようと、蹴散らそうと、無尽蔵に湧いてくるラードゥンの軍団を前にルファスは訝しんでいた。

思考しながらも身体は勝手に動き、己に噛みついて来ようとした竜を裏拳で粉砕する。

 

 

 

コツンと叩いた様な動作で竜の頭蓋骨が粉々に砕け、そのまま衝撃は肉体を吹き飛ばしながら尻尾の先までを粉に変えた。

残りの数は……まだまだいっぱいいる。

 

 

 

 

何処からこれだけの数の竜を揃えたのか気になるが、それよりも彼女の意識はメグレズの扱う水の防護壁や、ミザールの放つ【エクスゲート・フレア】に向いていた。

 

 

 

 

正直に言おう。

この戦いを彼女は今すぐにでも終わらせることが出来る。

今はレベル1000という枠の中に収めているが、真の力を発揮した上で【威圧】を使えば殆どの竜を無力化できる。

 

 

 

 

それをしない理由は一つ。

彼女はアリストテレスの兵器の性能の調査をしていた。

これはロードスからの依頼であり、ルファス個人としても気になる事だったから。

 

 

 

250年を経てプルートとクラウン帝国は密接な関係を築いている。

兵器の生産者と利用者という判りやすい構図があり更にはおあつらえ向きの敵として竜さえ現れているのだ。

共同体という組織の巨大さ故に、今までは大きな戦争もなく最低限に収められていた兵器の生産速度はここに来て劇的に増大し続けていた。

 

 

 

そして使われれば使われる程にデータは揃い、それを元にアップデートが繰り返される。

そんな中エルフとしては一歩遅れた形となる。

ロードスという庇護者がいる故にそこまで大きな軍事力を持たない彼らがここに来て警戒を抱くのはおかしな話ではない。

 

 

 

間違いなく味方ではある。

しかし詳細の判らない兵器をそのままにしておくほどロードスは愚かではなかった。

だからこそ世間に打って出る事を決めたルファスに「ついで」として調査を依頼したのだった。

 

 

 

 

プラン・アリストテレスの遺物。

それらの実態はルファス・マファールをして寒気の走るモノだった。

人と言う種の底知れない悪意を覗き込んだ気さえした。

 

 

 

 

また一つ【エクスゲート】が開かれ空間に太陽が送り込まれる。

数キロ先にキノコ雲が発生し竜たちが薙ぎ払われた。

 

 

 

(エクスゲートをああいう風に使うとは)

 

 

 

かの術は“生物”は同意がなければ通れない。

しかしそれ以外は何でも構わないという陥穽をあのゴーレムはこれ以上ない程に悪用している。

世界の法則を彼ほどよく知っていた人はおらず、その知識を殺戮へと回せばこうなるのは当然といえる。

 

 

 

(……)

 

 

 

幾つか戦場を転々とし、アリストテレスの設計した兵器を複数みたルファスの感想は「相手したくない」の一言に尽きた。

特にあの明らかに何かがおかしい糸を使う蜘蛛の軍団など少しでも攻撃に触れたらレベル1000の状態ではかなり危ういだろう。

 

 

 

彼女のHPは30万以上あるがそれでも瞬間的に消し飛ぶ可能性は十分にある。

更にはメリディアナと言う老婆が好んで使う携帯スライムも厄介極まりない性質だ。

何せ流体であるから殆どの物理攻撃は意味をなさない上に全自動で水分とマナを取り込んで肥大化するアレを殺しきるのは非常に面倒である。

 

 

 

そして、そして何より───。

 

 

 

 

戦場の空気が微かに淀む。

【エクスゲート】が開かれ、その中からゾロゾロと人が投下されてくる。

いや、人の姿をしているがあれは人ではない。

 

 

 

 

青い肌に金色の瞳。

そう、あれらは魔神族だ。

戦場で戦う者達の間に一瞬だけ緊張が走る。

 

 

 

ルファスでさえあれらがどう行動しようと対応できる様に身構えた。

その隙に背後から襲って来ようとした竜を右翼がはたけばソレは複雑に乱回転しながら吹き飛んでしまう。

しかしそんな心配など興味もないらしい魔神族は戦闘行動を開始。

 

 

 

 

竜たちに襲い掛かるのは平均レベル700の魔神族たちだ。

誰もが無言で、瞳は虚ろ。

何も思わず、何も考えず彼らは打ち込まれた命令に従い動き続けるだけ。

 

 

 

スキル、魔法を淡々と行使し反撃でどれだけ傷つこうとうめき声一つ上げずに戦闘を続行し続ける。

さすがは竜と言うべきか高位の魔神族を引き裂き、食いちぎるが彼らは仲間の屍を踏みにじり前進を続けるだけだ。

 

 

 

ありえない光景であった。

人を殺す事が存在意義の魔神族が人の為に戦うなど。

紀元前から見ても絶対にあってはいけない事が起きている。

 

 

 

 

魔神族は人類を害して殺すもの。

女神が定義したソレが歪み壊れている。

しかしどれだけ目を擦ろうと現実は変わらない。

 

 

 

いつの間にか現れたメリディアナが酷薄な笑みを浮かべて彼らを支配している。

いや、操演しているというべきか。

彼女が何か指示を送るたびに魔神族は行動を変えているのだから。

 

 

 

数が減ったのならば補充すればいい。

魔神族など幾らでも用意できる。

 

 

 

痛覚はないが四肢を失い使い物にならなくなったものは速やかに処分すればいい。

こんなものに価値はないのだから。

補充は容易い。

 

 

彼らこそクラウン帝国所属の謎多き部隊。

誰もが正体を知っているのに誰もそこに口を挟むことはできない謎の者ら。

アリストテレスの探究を専門とするメリディアナが統率する独立部隊だ。

 

 

 

余りに虚ろで感情を見せないこれらを帝国の者たちはいつしか【人形兵】と呼び始めていた。

人と同じ外見をして同じ言語を喋る者に対してこれほどの仕打ちを行うのかという声さえあった。

同時に無様な魔神族をせせら笑う声もある。

 

 

 

ルファスの視線に気が付いたメリディアナは恭しく頭を垂れた。

決して見せかけではない心からの敬意の籠った動作である。

アリストテレスの正統なる後継者は彼女からすれば次世代の神だ。

 

 

 

魔神族の鹵獲と支配。そして加工。

更には解析によって人類に隷属する魔神族の生成を人類は可能にしていた、してしまった。

ロードスの心配は現実のものになりつつある。

 

 

 

 

人類は余りに大きな力を与えられてしまったのだ。

使いこなせれば何も問題はないが誰がそんなことを保障できる?

 

 

 

プラン・アリストテレスが人類に残した遺産にルファス・マファールは険しい視線を向け続けていた。

人形や兵器の力もあり竜たちの駆除は半ば終わり、戦闘そのものは人類の勝利。

 

 

 

 

けが人こそ多数あれど死者は無し。

損害は0だ。

「日」属性の結晶は天法の効能を爆発的に増幅させることが可能であり、それを用いてけが人たちは瞬く間に全快していく。

 

 

 

ルファス達だけならばこうはならなかった。

どれだけ彼女たちが力を振おうと必ず死者は出てしまう。

しかし「彼」の知識と技術ならば可能である。

 

 

 

254年経とうと未だに背中しか見えない人物を思いルファスは瞑目する。

己が強くなっているのは間違いない。

 

 

 

しかし、しかし……。

 

 

 

彼女がアリストテレスの闇と向き合う時は近い。

 

 

 

 

 




仕事が忙しくなってきましたので来週の更新の後は暫くは隔週更新になるかもしれません。
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