ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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こいつ達ならば……アレを滅ぼしてくれるか?




───“竜王(勇者)” 虫けらの様に弄ばれながら。


“アリストテレス兵器群”

 

空間が歪む。

かつては秘術中の秘術と伝説に語られた【エクスゲート】は今や無機質なゴーレムが酷薄な演算の下に用いる技術へと貶められている。

竜の群れの中央に叩き込まれる純粋なる「火」の属性は小型の太陽を形成し周囲数キロの大気を丸ごと燃焼させた。

 

 

 

発生する巨大なキノコ雲と熱波。

ピカッと光れば次に来るのは轟音だと学習した兵士たちは兜のバイザーを降ろして閃光対策を行い戦いを続けている。

 

 

 

しかし竜たちもただやられている訳ではない。

無機質な技術に対して彼らは超越種としての矜持をもって進化/適応を開始していた。

表皮を融解させて真っ赤に染め上げ、蒸気を噴き出しながらも生きている竜たちが歓喜の声をあげている。

 

 

 

結果から言えば全体の2割も落とせなかった。

真なる竜はともかく偽竜たちでさえ殆どが太陽の爆発に耐えてしまっている。

 

 

 

 

それはまるで嘲っているかの様だった。

人類が必死に考えて作ってきた兵器を克服してやったという見下しだ。

甲殻に生えそろった棘から熱がとてつもない速度で放出されれば竜たちは瞬く間に燃焼からの回復を遂げてしまう。

 

 

 

彼らがこの太陽を受けたのは初めてではない。

一度目は殆どが死んだ。

しかし何とか生き延びた個体は這う這うの体で逃げ延び、傷を癒した上でその血を竜王に還元したのだ。

 

 

 

 

二度目は半壊であった。

半分は生き残り、戦わずに逃げ帰った。

生き延びた上で竜王に血を還元し、それを軍団全員に拡散させる。

 

 

 

何度も何度も同じことを繰り返す。

その度に太陽の炎を浴びて全身に大やけどを負い、地獄の苦しみを竜たちは味わい続ける事になった。

しかし竜としてのプライドがそれを耐えさせた。

 

 

 

ちっぽけな人類の兵器などに竜が屈するなど在ってはいけない。

淘汰圧に彼らは耐えて耐えて、適応した。

「火」に対する絶対耐性、数多くの犠牲とそれなりの時間を経て彼らはそれを獲得したのである。

 

 

 

 

人類を有利にした【エクスゲート・フレア】はもはや竜たちに対して有効打にはなりえない。

だというのにまた空間が歪み【エクスゲート】が展開されようとしている。

学習能力がない奴らだとぎゃぎゃぎゃと笑う彼らの首に黒い孔の中から飛び込んできた巨大な剣が深々と突き刺さる。

 

 

 

刃渡り10メートルにも及ぶ超巨大な剣は武骨で真っ黒だった。

つぅっと刀身に血が滴っていく。

無機質な外観だというのにソレからは確かな殺意が迸っている。

 

 

 

 

必ず殺す。

絶対に滅ぼす。

生かしてはおかない。

 

 

 

死ね。

 

 

剣は言葉こそ話さないが確殺/絶滅の意思が確かに宿っていた。

 

 

 

「が……?」

 

 

 

1億にも匹敵する熱に耐えた外殻を容易く突き破った巨剣を竜は信じられないと言った顔で見つめる。

熱への耐性はともかく素の状態で竜の鱗とは伝説の武具に匹敵する強度を誇っているのに。

ダイアモンドよりも硬く、ゴムの様に柔軟で、それでいて太陽の直撃から宇宙空間の極低温にさえ問題なく耐える無敵の装甲だ。

 

 

 

それが何の抵抗もなく貫かれている。

拮抗さえなかった。

 

 

 

 

ありえない、ありえない、人間は何を作ったのだ?

更に数本の巨剣に全身を串刺しにされながら竜は意味不明の現実を噛み締めながら落ちていった。

彼が最期に見たのは仲間の竜たちが次々と剣に刺し貫かれる地獄の様な絵面だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒヒヒヒヒ。驚いておりますかな? ルファス殿」

 

 

 

しわがれた声でメリディアナはルファスに声をかける。

ワシの様に尖った鼻にしわくちゃの皮膚、黒いローブを着こなす彼女は正しく魔女といった風貌だ。

目だけがぎらついてルファスという次なる神を見ている。

 

 

嫌な視線だった。

力と執着に満ちた何処か外れた人間の瞳だ。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

返事はない。

ルファスは腕を組み戦場をじっと見つめている。

彼女の周囲にはアリオトやメグレズといった仲間たちが同じように武器を手に持ち周囲への警戒を怠らずに臨戦態勢で待機。

 

 

 

彼女たちは予備戦力として扱われていた。

竜たちの相手は基本的に帝国が保持する兵器で行いデータを蒐集、もしもがあった場合にかけつける保険としてルファス達はここにいる。

結果、ルファス一行は人類の底なしの悪意を観客席で見る事になってしまった。

 

 

 

 

“アリストテレス兵器群”

 

 

 

いつからかそう呼ばれ始めた兵器の幕がまた一つ外された。

次々と【エクスゲート】から飛び出した巨剣は竜を追いかけまわし、軽々と刺し貫いては自爆を繰り返して高貴なる空の貴種を地の底へと叩き落している。

戦って勝つのではなく、最初から特攻を前提とした犠牲ありきの兵器。

 

 

 

 

254年前、とある男が残した兵器の概要/設計図。

余りに危険で、あまりに便利で、あまりに容易く全てを壊せてしまうそれら。

本当ならば文明の終わりまで日の目を見ない筈だった物達は復活したラードゥンと竜たちを追い立て回し、殺し続けている。

 

 

 

その中の一つ【クレイモア級自滅攻撃ゴーレム】

単分子サイズの切っ先と「日」属性の結晶を搭載することで全身に天力を纏わせることが出来るこれは面白い特徴を持っている。

つまり、切っ先に集中させた天力は相手のマナ/魔力に反応し一瞬だけ表皮を【エクスゲート】に変換することができる。

 

 

本当に一瞬だけだ。

しかしその刹那の間さえあればこれは肉を穿つことが出来る。

 

 

どれだけ強靭な肉体を持っていようと肉体の一部を【エクスゲート】に変えられてしまえば刃先はそのまま突き刺す事が可能だ。

これらの仮想相手はキングクラブと呼ばれる超頑丈な魔物であり、竜さえ圧倒する強靭さを持つそれらを殺せる事も証明済みだ。

 

 

ラードゥンとの戦争が一段落したら今度はこれらは獅子王に向けられる予定であった。

 

 

 

串刺しにした後は自爆し敵諸共吹き飛べば後は何も残らない。

一機一殺を実現させれば数さえ揃えればどんな敵にも理屈の上では勝てる等という与太話を現実にしてしまったゴーレムであった。

 

 

 

 

今まではミズガルズにおいての戦争とは一種の英雄譚であった。

名高き英雄たちが輝かしい武具や魔法を振りかざし、戦場を駆け巡る一種のおとぎ話の一節といえた。

だがアリストテレス兵器群はそんな理想を悪意と殺意という現実で染め上げる。

 

 

 

あらゆる殺害方法を創意工夫の下に作り出して実行。

その為にはどんな外法であろうと問題なく実行。

考え抜かれた最高効率の虐殺を行い続ける冷たく無慈悲な悪意。

 

 

 

戦争は変わった。

最低限の犠牲と最大の被害を求める作業の場へと。

ルファスは無表情で、己の武技や魔法に誇りを抱いている人とエルフは苦い顔をしている。

 

 

 

ミザールだけが熱心に食い入るようにクレイモア級を見ていた。

気に入らないコンセプトの気に入らないゴーレムではあるが、あの無駄を削ぎ落した効率の権化とも言えるフォルムは素晴らしいと素直に称賛しているのだろうか。

ちなみにメラクはここにはいない。

 

 

彼は天翼族の部隊と協力してけが人の治療を行っている。

そんなルファス達に対しメリディアナは構わず解説を続ける。

 

 

 

「竜共が火への耐性を持つことは判っておりました」

 

 

 

「しかし此度はあえてフレアを続行したのです」

 

 

 

 

理由は一つ。

竜たちは何回攻撃を受けたら学習/適応するのかを調べる為だ。

一匹、二匹はたまたま生き残るかもしれないが、その耐性が全体に配分されるまでの時間を調査していたのである。

 

 

 

そして結果は出た。

もう良いよと言わんばかりに必死に火を克服した竜たちに無機質な殺意が突き刺さり続ける。

甲高い恐怖の悲鳴と共に竜たちが死んでいく。

 

 

 

ボトボトと堕ちてくるかつての空の王たちを見やり老婆はせせら笑った。

彼女は煽りでも何でもなく心から面白い茶番を見て楽しんでいる。

人の技術が、叡智が、そして殺意が竜を殺しているという現実が愉快でたまらない。

 

 

きっとあのゴーレムを遠隔操作で動かしている者も、作った者も同じことを考えているに違いない。

 

 

 

「何と無様でありましょうかね。奴らの時代はもう間もなく終わりさ」

 

 

 

「次に来るは人の時代だと私めは考えております。そしてそれを先導するのは……」

 

 

 

 

ルファスが微かに目を細める。

この老婆はレベル的に見れば遥かに格下で彼女とその仲間たちに危害は加えられない。

しかし本質的な部分で、レベルとは違う側面で危険だと判断したのである。

 

 

 

 

メリディアナは深く深く腰を折った。

まるで家臣の様に。

遠くで周囲の警戒を行っているアリエスがそれを見て眉を顰めた。

 

 

 

 

虹色羊という弱者が持つ危機察知能力が警鐘を鳴らしている。

あいつは今はまだ敵ではないようだが、何かやらかすかもしれないと。

あいつは危険だと脳内にメモをしておく。

 

 

 

 

「おや。これはまた面白い展開になりそうだねぇ」

 

 

 

魔女が囀りルファスは彼方から感じた膨大なマナの気配に腕組みを解いた。

アリオトが剣を構え、メグレズは魔法を唱え、ミザールは巨大な斧の柄に手を伸ばす。

これから来るナニカは洒落にならないと誰もが理解してしまった。

 

 

 

 

 

地平の彼方から絶叫が響く。

一瞬だけ彼方が輝いたかと思えば放たれた閃光が周囲一帯を飲み込む。

それは竜たち諸共ゴーレム類を消し飛ばし、光は雲を千切り取りながら宇宙へと消えていった。

 

 

 

 

圧が強まる。

余りのマナの濃度に空間がひび割れていくようだった。

アリストテレス兵器群の圧倒的な力によって勝利を確信していた兵士たちでさえ冷や水を浴びせられたように固まった。

 

 

 

ルファスとメリディアナを除く誰もが身を竦め、ソレへと目を向けた。

何処にいるかなど考えるまでもなかった。

常識外に巨大な存在が常識を超える速度で近づいてきたのだから。

 

 

 

太陽を背にソレは飛翔してきた。

音速を超えた結果として雲の軌跡を空に描き出しながら。

 

 

 

 

ギィィイアアアァァァァァ!!

 

 

断末魔の悲鳴を思わせる咆哮がミズガルズを揺らす。

 

 

 

1本目。

 

 

全ての人間を憎み切った瞳で全てを見下ろしている。

 

 

2本目。

 

 

あらゆる存在を殺すと決意した眼で小さな人間たちを一人一人しっかりと見ている。

 

 

3本目。

 

 

使えない己の同胞たちに苛立ちの混じった視線を向けていた。

 

 

4本目。

 

 

 

遠くに設置されたゴーレムたちを竜の超直感で探る様に首をあちらこちらに動かしている。

 

 

 

5本目。

 

 

 

最も強大な気配──ルファスを見つけた彼は恐ろしい唸りを上げて彼女だけを警戒と憎悪の瞳で見ている。

 

 

5本の首を携えたソレはまるで半分になったラードゥンであった。

白濁した瞳には憎悪だけが煮えており、視界に映る全てを憎んでいるのが見て取れる。

言葉は話さない、そんな無駄な機構は彼/彼らにはついていないし再生もできていない。

 

 

あえてミズガルズの法則に当てはめて述べるならば彼らは『狂化』していた。

全ステータスに大幅な補正が入る代わりにスキルは使えなくなるという状態である。

 

 

 

彼らはもう壊れている。

かつて末弟に精神をズタズタに引き裂かれ飲み込まれた兄たちの意思は肉体が幾ら変わろうと戻る事はない。

白蛇が必死に命乞いする兄たちを順番に一人ずつ踊り食いしたのも今や昔の話だが。

 

 

 

白蛇はもう居ない。

ミズガルズという世界そのものにアリストテレス諸共否定されて流されて失せた。

で、あるのならば残るのは何か。

 

 

 

無限大の悪意で全てを支配していた11番目はなく、兄たちの精神も復活は不可能。

では何が残ったか?

 

 

 

同じく消え失せた筈のかつての聖人、それが最期に抱いた怨嗟という残骸を更に残骸にしつくしたモノだけであった。

即ち純粋な破壊衝動/憤怒だ。

どれだけ摩耗しようと決してミズガルズとそこに住まう全てを許さないという最後の祈りはまだ動いていた。

 

 

 

この存在もそうだが、現時点で竜王を名乗っている存在も同じようなモノだ。

誰も彼もが憎悪に取りつかれひたすらにミズガルズの終わりを追い求めている。

欲望と悪意に塗れてさえいない。

 

 

 

これこそかつての竜王の遺産にしてベネトナシュの食い残しの一つ。

ベネトナシュは竜王軍の99%以上を殺害し勢力として崩壊に追いやったが完全に絶滅させたわけではなかった。

彼らのルーツは彼女が狩り残した【アイガイオン】かはたまた当時は卵だった何かか。

 

 

 

ごくわずかに残ったラードゥンの複製たちは250年以上かけて成長し、己を更に複製して軍団を立て直したのだ。

全てはかつての本体が行おうとした計画を完遂するために。

 

 

 

 

竜を抹殺せんと無数のゴーレム、人形などが殺到するが翼を最大まで開いてから放たれる膨大なエネルギーの波によってソレらは消し飛んでしまう。

これこそが真なる竜、竜王の複製にしてかつての彼に近づきつつあるイミテーションの力だ。

レベル1000でありながらこの怪物もまたその域を超えかけていた。

 

 

 

アリストテレス兵器群は確かに強大であるがまだレベル1000の存在を相手するには足りていない。

 

 

 

まだ。

 

 

 

 

 

唸りを上げて全ての首が一点を向く。

薄っすらとしか覚えていない記憶の残照がとあるマナの気配を感じて強く脈動していた。

あれさえなければ、あそこに行きさえしなければミズガルズは終わっていたというのに。

 

 

 

 

 

 

ル……ス

 

 

…ファ……ス。

 

 

ルファ……。

 

 

 

 

 

ミズガルズの終焉。

そしてあらゆる世界へ絶望と破壊を振りまく。

妄執と言っても過言ではないソレが竜たちを突き動かしているのだ。

 

 

 

しかし……もうそれは古かった。

余りに古すぎる事に彼らは気づけていない。

254年前に阻止された時点でもうラードゥンの夢は終わっているのだ。

 

 

 

ここにいるのは残骸を更に壊した残りカスだけ。

【エクスゲート】を用いてルファスは竜の前に移動する。

アリストテレスをして最新の魔物と称された娘は眼前の巨竜を感情の宿らない瞳で見上げる。

 

 

 

10の瞳がそれを見返す。

どの首もルファスを侮りはしなかった。

本能で判ったのだ、こいつは敵だと。

 

 

 

ァァァァァァアアア!!

 

 

 

3本の頭が無言でブレスを吐きかける。

マナを存分に宿したソレは恒星フレアに匹敵する熱量を孕んでおり、あらゆる物質を溶解させるだけの威力がある。

ちっぽけな女を蒸発させ、その後方で待機している彼女の仲間たちをまとめて吹き飛ばすだけの破壊力がこのブレスには込められていた。

 

 

被害はそれだけに収まらないだろう。

そのまま大陸を抉り、惑星の形を変えてしまうかもしれない。

もしも月に当たりなどしたら貫通することだってありえる。

 

 

 

ルファスはソレに対して人差し指を一本向ける。

パキン、パキンとガラス細工にヒビが走るような音と共に彼女が枷を外していく。

余りに巨大すぎて押さえつけていたルファスの力が鎌首をもたげている。

 

 

 

 

1000。

 

1500。

 

1800。

 

2000。

 

 

 

小手調べとして僅かに力を開放。

彼女が相対するのは眼前のちっぽけな火の粉ではなく己の中で荒れ狂う無尽蔵の力だ。

うっかりミズガルズを壊さない様に限界まで力を収束させ、抑えこんだ上で魔法を発動。

 

 

 

【ソルブレット】

 

 

 

「日」属性の最下級魔法が一発だけ放たれる。

子供が遊ぶボール程度の大きさしかないソレは仄かに輝いており豆のようだった。

濁流の如き勢いで迫るブレスの前に何とも儚いソレは……ブレスを突き破りながら進む。

 

 

 

バラバラに引き裂かれたブレスが四方八方に吹き散らされ霧散していく。

 

 

 

竜だけではない。

それを見ていた誰もが眼を剥いた。

【ソルブレット】だぞ、あんなもの誰もが知っている最下級の魔法だ。

 

 

 

 

【ソルブレット】───火の粉が竜に直撃する寸前に膨れ上がる。

小さな豆粒でしかなかったソレは急速に膨張し数キロにもなる小型の太陽になった。

あれだけ巨大と思われた竜が虫に見える程に肥大化した魔法は竜を押しつぶさんと猛る。

 

 

 

竜の身体が大地にめり込んでいく。

惨めに翼や手足を動かしてもがく様は人間が巨大な鉄球に押しつぶされる光景の様だった。

 

 

 

一つ、また一つと頭が焼け落ちていく激痛と絶望の中で竜が吠える。

最後の一本が渾身の力を込めてブレスを放ち、何とかといった様相ではあったが魔法を跳ねのけた。

全身が炭化しながらも何とか生存した彼が見たのは目の前まで迫っていたルファスの姿だ。

 

 

 

 

「……」

 

 

無言/無表情。

ルファス・マファールは竜に何の価値も見出していない。

夜よりも深く昏い翼を背に携え、金糸を揺らしながら歩いてくる彼女の瞳は獰猛に燃えていた。

 

 

 

正しく“憤怒”としか形容できないソレは奇妙な事に竜に対して向けられたものではない。

彼女は竜の向こう側に誰かを見ていて、その存在に対して世界が割れる程の怒りを抱いていた。

激情を制御する術を得ている彼女であったがそれでも漏れ出るモノはあった。

 

 

 

ルファスは竜を見て一言。

 

 

 

「お前じゃない」

 

 

 

それだけを呟くと右手で拳を握りしめ───竜はそこに己の死を見た。

一瞬先に必ず訪れるソレを何としても回避しようとして、何も出来なかった。

 

 

 

 

拳が振りぬかれる。

何てこともない正拳突きだ。

スキルもバフも乗せていないただのパンチ。

 

 

 

それによって発生した拳圧は竜の肉体を一瞬で粉砕した。

砕けるという言葉を通り越して粉砕されたとしか言いようがない。

断末魔を上げる暇さえなく竜は消し飛び、余剰威力が雲を真っ二つに割った。

 

 

 

 

カーテンを開くようにミズガルズの大気がかき混ぜられ、さながら伝承の如く雲海がルファスを起点に割れていく。

そして最後はミズガルズの裏側に突風が一瞬だけ吹き付けるに至る。

比喩でも何でもなくルファスが地面をその気になって殴れば世界は終わるのだ。

 

 

 

 

ルファスは消えた竜には目もくれない。

圧倒的という言葉でさえ陳腐に思う程の格差に逃げ出す敵のこともだ。

 

 

 

彼女は後ろを向く。

怪我をした兵士たちを天翼族、混翼の者達が治療をしている。

どうやったかは判らないが精製された「日」属性の結晶から天力を取り出し、それによって天法を増幅させて怪我を瞬く間に治癒している。

 

 

色とりどりの翼の中でもメラクの純白の翼は一際目立っていた。

きっと有史以来はじめてだろう、王族が混翼の者らと力を合わせるなど。

 

 

 

彼らはルファスの視線にも気づかない程に熱心に治療をしていた。

長い年月を経て混翼たちは気づけば帝国内で一つの特殊な部隊を結成したことをルファスは知っている。

種族として天法が得意というのを活かし、更にはその上に医術を学んだ特殊な軍医たちの部隊だ。

 

 

 

平時においては街医者としても活動している混翼たちは今やクラウン帝国においてなくてはならない存在だ。

 

 

 

そして彼らの存在とアリストテレスの兵器により死亡率は著しく低下し、竜との戦いにおいても人類は余裕を持つことさえ出来た。

彼らは立派に己の立ち位置、居場所を作り上げていた。

そんな同胞をルファスは眩しそうに見てから、踵を返す。

 

 

 

 

 

ルファスのやる事は決まっている。

彼女はそれを果たす為にここに来たのだから。

 

 

 

 

 

“竜王”を倒し250年以上続いてしまった悪意を今度こそ終わらせる。

 

 

 

 

そして……その果てに【人類共同体】をベネトナシュから奪い取る。

腐敗し基礎構造から歪み始めたコレを完全に掌握し作り直す。

 

 

 

 

 

世界を本当の意味で一つにし、その果てに女神に問いを投げかける。

ルファス・マファールは野心を抱いてミズガルズの表舞台に立つ覚悟を決めていたのだった。

 

 

 







申し訳ありません。
仕事が激化したため、次回より暫く隔週更新となります。
次の更新は14日を予定しております。
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