ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
「何故ですか? 何故そのような」
───プラン・アリストテレス、父より
最北の地、真っ赤な大地と空の熱世界において歴史の転換点となる戦いが起きていた。
膨大な数の竜と人がぶつかり合う。
本来ならば一方的に竜が弱小種族を殲滅するだけの話になるが、ルファスの力によってレベリングされた彼らは真正面から竜と戦う事が可能だった。
人の剣が、魔法が、鍛え上げられた拳が。
今まで一部の英雄しか倒せなかった竜の命を的確に奪っていく。
天法を扱える者は全員に支給されていた「水」の結晶を開放し周囲に全自動で稼働する流体の鎧を着こみ前衛の援護を行う。
アリオトの剣が竜を切り裂き、ミザールはその腕力で頭を叩き潰す。
アリエスの炎が竜のブレスを飲み込み火への耐性など無視して焼き尽くす。
こいつらのせいで、こいつらが奪ったと胸の中の火種が強くなればなるほど彼の炎は勢いを増していく。
水の魔法で作った鳥で竜を吹き飛ばしながらメグレズは叫んだ。
地響きを鳴らしながらに動き出そうとしている怪物と相対しているルファスに対して彼は喉が枯れるほどに叫ぶ。
「ルファス、行くんだ!! 僕達は大丈夫!!!」
ルファスが一瞬だけメグレズを見る。
いや、ここにいる人々を見た。
竜と凌ぎ合ってはいるが、決して勝てるとは断言できないのを彼女は判っていた。
仮にあの怪物を倒しても仲間が死んでしまっては敗北と同じだ。
で、あるのならばここで竜を掃討してからにするべきでは……。
「行ってください!!」
アリエスの声が彼女に届く。
流れる様に竜を打ち倒していく彼の姿はいつか届かせると夢想したレベル1000の強者である。
琥珀色の瞳には混沌とした感情が渦巻いていた。
ルファスへの信頼は前提としてそれ以外のモノ───憎悪や憤怒といった決して綺麗ではないものが。
主には言わないが竜王は彼にとってプラン達の仇でもあるが、それよりももっと前、母の仇でもあるのだ。
信頼する最初の仲間の言葉にルファスは答えた。
彼らは皆が己の役目を必死に果たしている。
ならば自分はこの無駄に高いレベルを振るうだけだ。
「頼んだ」
返事は聞かない。
タンっと大地を軽く蹴り跳躍。
翼を開いて圧倒的な浮力を支配しルファスは矢のように竜王へと向かった。
見る見る距離が迫るが中々接敵しない。
少なくとも数十キロは跳んでいるのにまだまだ。
余りに巨大すぎて遠近感が狂っていたらしい。
視界を埋め尽くす顔は黒光りする甲殻に包まれており、小さいと思われた額の骸さえ下手な街より巨大だ。
“竜王”
この存在に名前はない。
彼は“竜王”である。それだけだ。
全長は龍には劣るだろうがそれでも比較対象として存在出来てしまうほどである。
名乗る名前さえないソレは過去の遺物であり、現代に追いついてきた悪意だ。
どれだけ見て見ぬふりをしようとミズガルズが積み上げてきたツケが形になったような存在である。
だからこそルファスはこれを倒さなければいけないし、個人的に聞きたいこともある。
接敵まであと少し。
やる事は変わらない。
拳を握りしめ、彼女は月さえ穿つ拳圧を放った。
ミズガルズを壊さない様に普段は抑えている力を開放しての一撃。
それほどまでにこの竜王は今までの竜とは桁が違う。
対して竜王が動く。
山脈にも匹敵する蛇身をその巨躯からは想像も出来ない程の速さで身を竦めると軽々とルファスの一撃を回避。
チチチと掠めた圧が装甲を軋ませたのを把握し竜王はこの自分からすれば砂粒にも劣る存在は己を殺しうると判断。
理性どころか半ば自我さえ蒸発した怪物であるが故に無駄なプライドも何もなく黙々と竜王は最適解を行える。
先ずは動きづらい今の状態を解消するために彼は動く。
その瞬間、ルファスは眼のまえに“壁”を見た。
大陸が揺れる。
いや、ミズガルズという惑星全土が震えた。
超々大規模な質量がマントルの中で轟き活動している結果だ。
最北の大陸が割れていく。
何千キロも大地に谷が産まれ、幾つもの火山が火を噴き上げる。
メキメキという本来ならば聞く筈のない星が裂ける地鳴りを誰もが聞いた。
「デカいな」
ルファスがそうつぶやくのも無理はない。
彼女の頭脳はこの怪物が概算でどれだけの大きさになるかおおよその数値を計算していた。
6666キロ。
竜王の全長は簡単に言えばおおよそでそれくらいになる。
何てことはない、この大陸そのものが彼の身体だったのだ。
道理で竜の生産が尽きない訳だ。
大陸を丸ごと改造し地の底で竜を養殖していたのだろう。
その為のマナは既にアリストテレスが地脈を整えてるのもあったかもしれない。
宇宙から無限に降り注ぐマナで肥大化/成長しすぎた怪物。
それが竜王の真実だ。
それでいていまだ成長半ば。
あともう少し時間が経てばこれは真実龍に匹敵する体躯を得ただろう。
そしてレベルは限界を超え『1300』にも至る。
「……」
余りに巨大な化け物を前にルファスは佇むだけ。
ただ翼だけが軋むような音を立てた。
怪物が口を開く。
全身が淡く発光し膨大なマナが収束していく。
比喩でも何でもなく恒星に匹敵するエネルギーが集い──。
竜はその視線をルファスではなく真下、つまり大地に向けた。
瞬間、放たれる閃光。
彼は初手でミズガルズを破壊しようとしているのだ。
竜の望みは一切合切の破滅。
全て死んでしまえと心から願っている。
で、あるのならばいちいち打倒が面倒なルファスの相手をする必要などない。
ミズガルズを一瞬で滅ぼせるのにどうして回りくどいことをする必要がある?
戦いも何もあったものではないつまらないやり方であるが実に効果的で、こんなことをされたら人類は成すすべなく滅ぶ事だろう。
ルファス・マファールがいなければ。
「そう焦るな。私はお前に話がある」
ぞっとするほどに寒々しい声が竜に届く。
戦いを楽しむ事も多い彼女にしては珍しくその顔には一切の表情というものがない。
ただ真っ赤な瞳だけが熟した様に輝いている。
片手だ。
ルファスは【サイコキネシス】で展開した念力を右手に纏い、片手で惑星を木っ端みじんにするエネルギーを押さえつけていた。
埃でも払うように軽く振り払えば停止していたブレスは遥か彼方に軌道を逸らされて飛んで行ってしまう。
今の彼女は太陽程度の天体ならば念力でどうとでも出来るのだ。
一歩踏み込む。竜は反応さえ出来ない。
かつては目視さえ出来なかったベネトナシュのソレも今となっては遅いと言えるレベルだ。
一瞬でルファスは怪物の眼前に現れると数十キロもある眼球を覗き込んで言い聞かせるように言う。
まるで飼い主がしつけのなってない犬を咎めるような態度だった。
「ここでは何だ。落ち着いて話せる所に行くぞ?」
胸中で悶える感情は既に抑えが利かなくなりつつある。
これから起こる事を他のモノ、特にアリエスには見せたくなかった。
二度と“小賢しい”事が出来ない場所にな、と女が壮絶に笑いながら告げる。
まずは手ごろな突起を掴む。
翼を広げて浮力を発生させ、足元には【エクスゲート】を展開し足場とした。
そして彼女は跳んだ。
もちろん突起を握りしめたまま。
するとどうなるか?
……ルファスは己の何万倍もの巨体を誇る竜を掴んだまま飛翔を続けるというありえない結果が現実になった。
全ての者がその光景を見た。
余りに巨大でどうやって倒せばいいか見当もつかない怪物がもがきながら宙へと吊り上げられていく様を。
さながら宙に星を覗き込むほどの巨人が居て、その巨人に釣られたようだった。
轟音と共に竜の身体が大地から引き抜かれていく。
6666キロにもなる体躯は相応の質量があるというのに。
平たく言えば月の半分はあるというのに、まるで紐の様にミズガルズから引っこ抜かれていく。
完全に尻尾の先まで抜けたのを確認してからルファスは更にもう一個足場代わりに【エクスゲート】を展開。
跳ねる。
彼女は片手に竜王を掴んだまま暗黒の宇宙を征く。
行き過ぎない様に加減しながらの跳躍では1億キロ程度しか跳べず、ルファスは面倒だなと思いながらも続行。
彼女は光さえ置き去りにしながら考えている。
さて、こいつを何処にもっていこうか。
月は駄目だ。
衛星の公転はミズガルズに多大な影響を与える上に降り注ぐマナの量も変わってしまう。
250年前はそのせいで面倒な事になったのを彼女は覚えている。
と、なれば手近かつそこそこの大きさのある火星にしようとルファスは結論し即座に実行。
太陽に叩き込んでやってもよかったがそれはまたの機会にするべきだろう。
トン、トンとワルツでも踊る様に足場を踏んで跳ねて少しずつ減速。
真っ赤な球体──大地──火星が見る見る迫り、ルファスは竜王をその大地に思い切り叩きつけた。
大気が殆どないせいで音はしなかったが衛星に匹敵する質量を光速でぶつけられた星が揺れる。
数万キロまで土砂が舞い上がり、星に幾つもの断裂が走る。
惑星の形状が変わるほどに巨大なクレーターの中心でルファスは大きく背伸びをした。
一つ、また一つと彼女は自分に課していた枷を外していく。
ミズガルズを壊してはいけない。
ミズガルズの運行を乱してはいけない。
余りに強すぎる気配を発してはいけない。
ここは火星である。
故にその必要はない。
ルファス・マファールという存在は力という概念そのものになりつつある。
彼女にその気がなかったとしても少しでも気迫を発すればそれだけで惑星の全生命が気絶/昇天しかねない危うさがある。
翼が震える。
重力が弱いせいか身体が軽い。
ちょっとだけ肌寒いが宇宙空間で活動するのは彼女にとって散歩の様なモノなので問題ない。
呼吸?
そんなもの必要ない。
マナが常に活性化しつづけているせいでルファスが生存するにあたって酸素はいらない。
余りに振り切りすぎた感情の奥底で誰かの囁きが再生された。
本当ならばあの朝に言ってもらえたはずの言葉が。
ルファス。誕生日おめでとう。
竜王を見る度に身体の中でナニカが狂いそうな程に肥大化していく。
ぷつんと彼女の中で糸が切れ、更に二枚も壁を突き崩した。
2999
3999
4000
4200
ルファス・マファール。
そのレベルたるや───旅立ちの時より更に増し続けて今や4200。
雑多な【クラス】構成のせいかその力はまだ研ぎ澄まされているとは言えないが、それでももはや規格外中の規格外だ。
それでいてまだまだ彼女は強くなる。
これほどの力を保持してなお彼女は成長途中なのである。
そんな怪物が竜を見て口角を吊り上げた。
あぁ、ようやく聞きたい事が聞ける。
それにここならば多少の手荒い真似や粗相も許されるだろう。
何せ誰も見ていないのだから。
火星に深々とめり込んだ竜王を上空から見下ろす。
遥か彼方にある太陽を背に女は口を開く。
「私が知りたいのは一つだけだ竜王」
254年経とうと消えないどころか宇宙の様に膨張し続ける感情を込めてようやくルファスはそれを口にした。
「プラン・アリストテレスとその仲間たちの行方を教えろ」
「お前が竜王であるのならば、知らない筈がない」
どんな返答でもいい。
これが竜王であるのならば、答えてもらわなくてはいけない。
仮に死んだというのであっても彼女は受け入れるだろう。
もう白骨化しているだろうが、それでも迎えに行ける。
昂り続ける。
翼が一回りも二回りも大きくなる。
もはや剣さえ使う気にならずルファスは細い指を開閉しながら問う。
「もしも素直に答えたのならば───楽に殺してやる」
竜王の返事は尻尾による薙ぎ払いだった。
300キロほどあるソレが光速の8割程度の速度でルファスに叩きつけられた。
黒光りする鱗はオリハルコン以上に頑強で、硬く柔軟な至高の鎧であった。
竜王の外殻はどのような剣でも切断は不可能で、どのような槌でも割る事も叶わない。
それが今までの常識であった。
バキン。
そんな呆気ない音で常識は割れた。
ルファスは叩きつけられた尾を片手で受け止めていた。
そのまま指先に力を込めれば子供がクッキーでも割る様に指がめり込んでいく。
「そうか。よくわかった」
ため息交じりにルファスは告げる。
ちょっとした諦めと確信がないまぜになった声だった。
「お前は“竜王”ではない」
そしてもう一つ。
彼女は素直な所感を口にする。
「弱すぎる」
彼女の中にあるのはこんな弱い奴に彼らが負ける訳がないという確信だった。
竜と人類の戦いは混迷を極めていた。
いや、人類は窮地に立たされていたというべきか。
ルファスによってレベリングされた彼らではあるが、急速に上げられたレベルに身体がお世辞にも馴染んではいない状態だったことの反動が来ていた。
一番大きかったのは体力だ。
幾ら桁違いとはいえ無限ではないソレを多くの者は過信した。
無理もないだろう、湧き上がる活力は殆ど無尽蔵といっても過言ではなかったのだから。
しかし無限ではない。
数百、数千と押し寄せる竜たちを相手に命のやり取りを続けていれば精神/肉体ともに疲弊していく。
そして集中力が途切れ始め、ミスを起こし、一人、また一人と竜の一撃を受けて負傷の連鎖が始まる。
咄嗟に後衛のメラクを始めとする術者たちが天法でサポートをしたおかげで死者こそ出なかったが、それも時間の問題だった。
対して竜たちは狂っていた。
己の命のことなど最初から考えずただひたすらに命を奪う事だけを目的に動き続けている。
痛みもない。
翼がもがれようと、手足を失おうと、何なら頭部が吹き飛ぼうと動き続ける。
まるでゾンビのようだ。
短時間で竜は進化し、体内にブレスのエネルギーを蓄えた状態で人間への突貫さえ行い始める。
人に近づいた瞬間に自爆するのだ。
一匹一殺などという狂気の沙汰を彼らは平然と行う。
彼らはただ一心、全ての命の根絶だけを願っている。
全てはラードゥンがやり残したことを終わらせる為に。
ミズガルズを絶望と破壊で終了させ、その後は存在するあらゆる世界を壊し続ける為に。
死と絶望をあらゆる世界にばら撒くために。
全ての生命を不幸にするために。
皆殺しにするために。
その物量もまた圧倒的だった。
竜王が引き抜かれてぽっかりと空いた大穴からうじゃうじゃと湧き上がってくる。
無理もない話だ、何せ大陸を丸ごと竜の養殖場に作り替えていたのだから。
最低でも数十万。
放っておけば更に増える彼らはもはや竜というよりは昆虫染みた繁殖能力を持っている。
孔から竜たちが何万と飛翔する。
平均レベル、900オーバーの化け物たちだ。
しかも狂化しているせいで能力値だけ見れば1000の世界でも通じるほどだ。
彼らは戦い続ける勇士たちには目もくれず、ただ南へと向かおうとする。
クラウン帝国を始めとした各国に彼らは直接攻撃を行おうとしていた。
帰還の事など考えていないペース配分で飛べばものの数時間で人類全域の国家が焼き払われるだろう。
アリオトが通算246匹目の竜の首を刎ね、手足を刻んで完全に殺しながら叫ぶ。
「マズイぞ! あいつら俺たちの事なんか眼中にない!!」
「メグレズ! 魔法で何とか出来ないか!?」
レベル1000の領域で剣を振おうと狂気に落ちた竜を完全に殺しきるのは手間取るものがある。
更にはこれは戦争である故に、降り注ぐブレスの雨の中、アリオトは周囲の仲間の救援も同時に行っており飛び去ろうとする竜を阻止するのは不可能だ。
幾ら剣を振り払い落ちてくるブレスを叩き切ってもキリがないと彼は舌打ちをした。
「駄目だ! こっちも手いっぱいなんだ!!」
叫んで答えるメグレズの様相はアリオトの数倍酷い。
小賢しいサポートを続ける天法及び魔法使いを先に殺すべく数千にも届く竜に彼は纏わりつかれていた。
片っ端から「水」の鎧から超々高水圧の刃を射出して迎撃しているがやはり数が多すぎる。
更には特攻/自爆によって着実に鎧は削られ続けていた。
竜たちの命の事など欠片も考慮していない狂気の戦法は人類を圧倒している。
メグレズ一人だけならば何とでもなる。
何なら撤退しても構わない。
しかし彼の周りにはSPを使い切って倒れた人々と、竜に重傷を負わされてここまで退避してきた負傷兵たちがいる。
ここで彼が逃げたら彼らは死ぬだろう。
それもただ死ぬのではなく生きたまま貪られて。
それだけは決して避けなくては。
「クソッ!」
アリオトは舌打ちしながら唸る。
俺たちはルファスがいなければ何も出来ないのか?
魔女が笑った。
眼を残忍に輝かさせ、次の段階に到達した兵器たちに号令を下す。
アリストテレスの力をとくと見よ。
本当にちらりと諦めの感情が英雄たちの心の底に湧いた瞬間───地平が真っ黒に染まった。
とてつもなく巨大な【エクスゲート】が一瞬だけ展開され、竜たちを塗りつぶして消し去る。
轟音やド派手な閃光も何もなく竜の群れに大穴がぽっかりと空いた。
“孔”だ。
大気が燃焼したとか、空間が歪んだとかそういう次元の話ではない。
文字通り世界の一部が欠落していた。
ジジジと耳障りな音を立てながら世界が修正されていく。
欠落した個所を埋める様に景色が拡張され世界が補正される。
漂う力の残滓を正確に読み取れたのはメグレズだけだった。
「エクスゲート……?」
あの暗闇に似たモノを知っているメグレズがぽつりと呟く。
あれは不死鳥との戦いでルファスが手足のように使いこなした秘伝の術だったはずだ。
だがしかしどうにも違う。
勇者の召喚にも用いられるエクスゲートは転移の術で、断じてあんな破壊の技ではなかった。
更にもう二回、三回と黒染めが起こり竜たちが消えた。
次は謎の攻撃の正体がはっきりと見え、メグレズはそんな馬鹿なと胸中で繰り返した。
「そんな馬鹿な!! あっちゃいけない!!」
なまじ魔法と歴史に精通しているから判ってしまった。
アレが何であるか、何をしているか。
馬鹿な、バカな、ばかな。
幾ら何でもそれはないだろう。
出来るからと言ってそんなものまであの人は作っていたのか。
エクスゲート弾道ゴーレム
攻撃の正体は筒の様なゴーレムの特攻攻撃だ。
しかし当然ながらただのゴーレムではない。
そのレベルは堂々たる1000。
どうあってもアルケミストのゴーレムでは到達できない数値に何故か達している。
天力と魔力を物質化した宝石を埋め込まれたソレは体内でエクスゲートを生成し、単独でワープが出来る。
そして最たるにして唯一の武装は【ブラキウム】だ。
どのような防御も回避も無視して確実に99999ダメージを与える必殺の兵器。
かつては女神の天秤が装備していたものをアリストテレスは解析/量産/技術化したのだ。
元より何万年も昔の骨とう品。
一度たりとアップデートも行われなかった化石の模倣など容易い。
そして【ブラキウム】もまたエクスゲートを崩壊させた際の波動であると既に解明されている。
で、あるのならば技術に出来る。
解き明かされた技術ならば量産も可能だ。
それだけの話だった。
そんなこと出来るわけがない?
出来たからこうやって戦線に投入しているのだ。
何せ時間は10倍もあるのだから。
元より天秤に対してはブラキウム以外は骨董品としか思っていなかったプランである。
そんな彼がブラキウムだけを発動させるゴーレムの設計図を描いたのは当然の帰結か。
弾道ゴーレムには本当に必殺の機能しか搭載されていない。
エクスゲートを用いて一瞬で座標まで飛翔し、ただブラキウムを己ごと発動させることしか。
これには天秤に搭載されていた周囲への被害を抑える為の隔離領域展開機能も、自分を巻き添えにしない為のセーフティーもない。
遠い世界の言語でミサイルと呼ばれる兵器のミズガルズ版だ。
爆発物の様に一瞬で自分ごとブラキウムを発動させ使い捨てられる。
それがこの弾道ゴーレムだ。
かつてドワーフがゴーレムに抱いた芸術性もロマンも愛着さえ完全にない、ただ効率と殺傷だけを求めた兵器の極みといえよう。
空中に展開されたエクスゲートより真っ黒で武骨な弾道ゴーレムが雨の様に竜の巣へと降り注ぐ。
途端、地底でさく裂する何十、何百ものブラキウム。
破壊の波は相互に干渉し合いその威力を何倍にも高めていく。
たったそれだけで竜たちが悲鳴さえ上げずに消し飛んだ。
剣技? 魔法? 武術? そんなもの何の意味もないとせせら笑う声が聞こえる様だった。
更にもう一つ新兵器が披露される。
再び巨大なエクスゲートが天を埋め尽くせば、次々とそこから飛影が飛び出してくる。
それも乱雑にではなく、鳥の群れの様に一糸乱れぬ調和の取れた軌道で。
「なっ……竜!?」
果たしてそれは誰の言葉だったかは判らない。
だが間違いなくこの場の全員の心境を代弁するものだった。
アルゴー船をタウルスと共に防衛していたアリエスが【観察眼】を使い、表示された数値に顔を険しくした。
900。
912。
933。
899。
エクスゲートから送り込まれてきたのはどれもこれも天地を揺らす程のレベルの竜たちだ。
しかしその瞳には何の意思も──敵意/殺意──さえなくまるで人形の様だ。
そして更にその背には人影、これも自我のない瞳をした魔神族が騎乗している。
魔神族は器用にスキルを用いて竜を援護し続け、竜たちは一つの意思に統率されたかのように縦横無尽に動き回る。
まるで彼らは一致団結したかのような一糸乱れぬ動きで連携を取り、次々と竜王の配下を撃墜していく。
さながらこれはミョルニルの戦いの焼きまわしの様であった。
あの時とは立場が逆転はしているが。
最後にルファス達が乗ってきたアルゴー船よりも更に二回りほど巨大な空中船が何隻もエクスゲートから現れ、アリオト達に陰を落とした。
舟の腹が展開し次々に巨大な蜘蛛が落ちてくる。
竜王との戦いを経て進化/成長を続けたそれらの体表は鎧の様な光沢を帯びて輝いており、感じる力は相当なものだ。
屈強になった体躯は見掛け倒しではなく、次々と彼らは孔に飛び込むと先の飽和爆撃でも殺しきれなかった竜たちを相手に一方的な虐殺を開始。
むしゃむしゃと肉を咀嚼する音、悲鳴、うめき声がひっきりなしに底より響いてくる光景はまるで地獄絵図だ。
英雄たちは空を見上げた。
己たちこそが次代であると歌い上げた彼らはアリストテレスという巨大な天蓋を見上げざるを得なかった。
効率/革新/機能性。
単一で突出した英雄の存在を否定しあらゆるものを淡々と管理するシステムの一端は余りに大きい。
あれに身を委ねるのも人類の選択肢の一つなのかもしれない。
“剣など時代遅れだ”
アリオトは剣の柄を強く握る。
その指は屈辱で震えていた。
“あれを学びたい。何としても”
メグレズは瞬き一つせずアリストテレスの置き土産を凝視する。
その唇は好奇心で戦慄いていた。
“気に入らねぇ。だが……すげぇ”
ミザールは何もかもを忘れたような顔で先のゴーレムを思い起こしていた。
その瞳孔は敗北感で揺れていた。
“何と恐ろしい”
根源的な恐怖にメラクは襲われていた。
幼少の頃、少しだけ会話した時に感じた感覚は間違っていなかったのだと。
“…………”
アリエスはじっと彼の残してくれたモノらを見つめている。
その胸中は凪いでいた。
何が来ようと関係ない、ルファス様は僕がお守りするのだという決意だけがある。
英雄と兵器。
この相反する要素はやがてルファスを軸に激しくぶつかり合う事になる。
2024年最後の更新となります。
思えば今年は原作のアニメ化決定など色々な事がありました。
今は隔週更新となってしまっていますが、おいおい週一更新に戻したいですね。
一年間ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
次回更新は再び一週お休みをいただいて、11日を予定しております。
それでは皆様、よい年末/年始を。