ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
高位の魔物の出現が予知される。
パターン分析……該当アリ。
“エンペラーバーサクスコーピオン”の可能性甚大。
───アリストテレス兵器群。
皆様お待たせいたしました。
pcの調子が悪くて四苦八苦してたら更新が遅くなってしまいました。
戴冠式前夜。
かつては魔神族や魔物が蔓延っていた地に一つの国が産声を上げようとしていた。
その名は【ゾディアック】という。
規格外の力を持つルファスの【錬成】によって土地ごと弄られた結果、ほんの数カ月で王城と都が形作られ、今はぞくぞくと入植者が集まり出していた。
空を行きかうのは何隻ものアルゴー船。
四桁の人数を乗せたソレは超音速で飛び回り次々と物資や人をゾディアックに降ろしては戻りを繰り返している。
夥しい数の魔物を駆除し大陸を一つ平定した人類共同体は新しい国家を建国し、その初代国王にルファス・マファールを截てる事になったのだ。
同時にクラウン帝国はゾディアックと同盟を結び、そのまま新興国は人類共同体の一部へと組み込まれる手はずとなっている。
時代が変わりつつあると誰もが直感し、我先にとゾディアックの民になるべく城下に集まり続けていた。
魔物を掃討し征服した土地に国を建てる。
これ以上ない程に判りやすい力の誇示であった。
そうなれば誰もがそんな力の持ち主の庇護に入りたいと思うのは当然だった。
人は力に惹かれる生き物なのだ。
そしてその力の持ち主が絶世という言葉さえ陳腐に思えるくらいに美しければ猶更だ。
いまミズガルズの全人類はたった一人の女に注目していた。
新しい太陽が世界を照らし始めるのだと。
ルファス・マファール。
突如として世界に現れた超新星。
仲間たちと共に硬直状態だった竜王との戦いに飛び込み、瞬く間にかの怪物を打ち倒した英雄。
多くの人々は口々に噂する。
ルファス・マファールと吸血姫ベネトナシュ、どっちが強いのだろう? と。
強大な存在が同時に在れば強さを比べたくなるのは人類のサガであった。
ハッキリ言って人類の中でベネトナシュの人気は余り高くない。
吸血鬼以外はどうでもいいと振る舞う彼女の態度は目に余る点が多く眉を顰める者も少なくはない。
今回の竜王騒動だって本当ならば彼女が動くべきだったというのに魔神王を警戒しているというお題目を掲げて決して自分では動かなかった。
しかし結果としてそれは悪くない方向に転がった。
アリストテレス兵器群は経験を積み飛躍的に強化され、何よりルファスという超新星が現れたのだから。
そんな誰もが噂をし、明日には王へと上り詰める英雄ルファスは自室でロードスと向き合っていた。
いきなり話を切り出すこともなく二人は黙々と茶を嗜んでいた。
やろうと思えばもっと贅を凝らした絢爛豪華な部屋を作れる彼女であるが今の自室は意外なほどに質素で何処か寂しい。
奇妙な緊張のある空間であったが、その均衡を破ったのはロードスだった。
既に彼はルファスが何を聞きたいか知っている。
「先ずは礼と賛辞を。遂に成し遂げたな」
気付けば長い付き合いとなったエルフ王は変わらない眠たげな眼と抑揚のない声でルファスに切り出した。
プルートのモリア、帝国のアルカスなどは既に没したが彼は変わらない。
かつてのプランと結んだ契約を完璧に守り続けルファス母子の後見人の役目をずっと果たし続けている。
「これは始まりに過ぎん。全てはここからだ」
王になるにあたって口調も変え始めた彼女の言葉をロードスはガラス玉のような瞳で聞いていた。
これが“始まり”であるのならば“終わり”は何処なのかと彼は問わない。
250年以上見ていたのだからソコがどの様な場所なのかは朧に勘づいている。
「単刀直入に問おう。“アリストテレス兵器群”についてどう感じた?」
アリストテレスの名前が彼女にとって何を意味しどれほどに重みがあるか全て知っていても彼は問う。
現状ミズガルズ最強の力の持ち主であるルファス・マファールはあの……おぞましいとしか言いようのない者らをどう評するか知りたかったのだ。
数秒の逡巡の後にルファスは相応しい言葉で兵器群を言い表す。
特攻を敢行し諸共敵を滅ぼす巨剣。
数値の狂った糸をばら撒く巨大蜘蛛。
竜の因子を取り込んだ結果、敵対していた竜に近づいた怪物ら。
まだまだ兵器は進化する。
無限の戦争と因子を飲み込みながら。
ルファスをして未知数としか言いようがない。
「アレらは毒だ。
確かに人類を守護するという役目に忠実であるのだろうが肝心の人類はあれらを使いこなせん」
正に人類には早すぎた。
縦横無尽に進化を続ける兵器たちは既に人類共同体の骨子に組み込まれ始めている。
従順で文句も言わず徹底的に人類を守り続けてくれる理想の保護者達。
これらの最も素晴らしい所はコストが極めて低い事だろう。
兵士たちに払う給金や遺族への補償。
正規兵を育てる為の教育費に時間。
装備の更新や配布、更には食料やら何やら。
軍隊とは金食い虫なのだ。
しかし彼らを運用する時はそれら全てを気にしなくていい。
正にあらゆる国家の君主や文官たちが夢見た最高の軍隊だ。
プルートさえあれば兵器は全自動で勝手に進化し増え続ける。
独自に建造された秘密工場の数も爆発的に増え続けている。
何なら独立して増殖さえ開始を始めており遠からずその総数は億にも達するだろう。
更には戦闘経験値は共有されておりゴーレム一つとっても並の戦士の人生数百回分の経験を学習可能と来たものだ。
いや、経験を積むのに実際に戦う必要さえない。
一致団結を応用し重ね合わせて作られた仮想世界で無限にシミュレーションを繰り返す事で1分もあれば数百万回分の戦闘データが重ねられるのだ。
剣に全てを捧げて生きてきたアリオトでさえ接近戦用ゴーレム一つを倒すのに全霊が必須である。
スキルだのどうだのの前に純粋に技巧が違いすぎて彼でさえあしらわれる程に兵器たちは強くなり続けている。
そんなものが無限に増えていく。
姿や能力、用途を変えて無尽蔵に。
剣と魔法の世界に殴り込みをかけてきたロマンなど押しつぶす無機質な殺戮機構といえよう。
人類共同体に加入するということはこれらの庇護を受けられるということだ。
気まぐれで気難しいベネトナシュよりもずっと忠実で広範囲をカバーする軍団が自分たちを守ってくれる。
その安心感は今や強者となってしまったルファスには想像することしか出来ない。
考える事も鍛える事も必要ない。
ただ全てを委ねればいいと兵器たちは言っている。
兵器の助力を借りる方法は簡単だ。
ただ「助けてくれ」と呼べばいい。
そうすれば上空から的確に堕ちてくることだろう。
「この国の共同体への加入は既に決定されている。
当然、ゾディアックの上にもあれらは展開されることだろう」
兵器群は広範囲をカバーする方法としてミズガルズの成層圏を覆い尽くし始めている。
宇宙から降り注ぐマナを原動力に増殖/進化を開始する段階まで来ている。
クラウン帝国と光の森には展開が完了されており、少しでも視力の良い人物が上空を見上げればそこには夥しい数の魔物やゴーレムが飛び回ってるのが見えることだ。
それを檻と見るか心強い番人と見るかは判断が判れるだろうが少なくともルファスは良いとは思っていないらしい。
敵意を隠そうともせずに彼女はロードスに告げた。
「当面は受け入れる。先ずは奴らをもっと知らなくてはならんからな」
「……キミの物言いは、まるで」
そこから先は黙して何も言わない。
ジジジとルファスの中にある巨大な闇黒の星が揺れた様な気がしたから。
これを見ているだけでロードスは気分が悪くなる。
どう転ぶか判らない超特級の危険物など出来れば近寄りたくもないがそうもいかない。
眼を離せばその分どんな変異を起こすか判ったものじゃないから。
そして彼女はルファス・マファールだ。
自分で思っているよりも遥かに思慮深い彼女ではあるが義理も重要視している。
だから彼女は250年間自分たちを見守ってくれた礼としてロードスには己の真意を口にする。
「そうだ。───手始めに余は人類共同体を手に入れる」
彼女の語るソレはつまりベネトナシュとも敵対するということだ。
吸血姫の座る人類の守護者、その椅子を奪うつもりなのだ。
そして今度は仲介してくれるアリストテレスはいない。
どっちかが勝利し、どちらかが負けるまでルファスはやるつもりだった。
あの時とはもう違うのだ。
「ミズガルズを統一し、その果てに女神と相対し余は問わねばならない」
ルファスの目的はその一つに尽きる。
例えどのような答えが返ってくると判り切っていてもやらずにはいられない。
本当にこれで良いと思っているのか? と彼女はアロヴィナスに疑問を投げかけたくて仕方なかった。
そして答え次第では───アロヴィナスを殺す。
ほんの微かだけ覗いてしまった本音はロードスの心胆を凍り付かせるほどの害意に満ちていた。
余りに暴力的で躊躇の欠片もない殺意の渦だった。
厳重に封印を施されたある女の本心はこうだった。
殺してやる。
良くもプラン達を奪ったな。
ナナコを殺したな。
絶対に許さない。
かつて一人の男に対する執着と情念で燃え上がり続けた恒星は既になかった。
その代わりにルファス・マファールの胸の中には暗黒天体がある。
冷え切っていながら超高熱に加熱しているという矛盾した孔が。
きっとこれはもう塞がらないのだろう。
かつてある男は数年もすれば乗り越えると分析していたがとんでもない話だ。
女王は話を戻す。
アリストテレス兵器群への方針に。
「余はアレらを認めん。人の世の平和は人が守り維持するべきだ。
都合のいい存在に全てを委ねた果てに待つのは緩やかな滅亡でしかない」
「いずれはアレらと相対する時がやってくる。しかし所詮は未来の話。今は余の役割をこなすまでだ」
そう言いながらもルファスの頭の中には既に草案が出来始めていた。
兵器群に頼らない武力/軍事力を作る為にはまずは組織が必要だと彼女は考えている。
アリストテレスを超え、やがては女神に牙を届かせる為に動く彼女だけの私兵たちが。
その軍団の中核を担う将たちがこの計画には必須だ。
そして実の所何人集めるかは決めていた。
かつて読んだ本にあった黄道という概念になぞらえて十二の星を彼女は集めるつもりだ。
既に三つの席は埋まっているが、まだまだ先は長い。
ちなみにリュケイオンでアウラを護衛しているカルキノスにはこの話はしていないが彼は強制参加確定である。
まぁ断られる事こそないだろうが。
「…………………」
ロードスは王として歩む気概を見せるかつての少女に対して思案し一つの事実を彼女に明かす事にした。
つい最近彼も気が付いた重要な事がある。
「これは未確定な話である。しかし良く覚えておくべきだ」
杖の表面を指でなぞりながらエルフ王は己の膝元にいつの間にか現れていた存在に思いを馳せた。
まぁ、そろそろ来るだろうなとは思っていたが。
元より彼は木龍に近しい身である故に彼女がかけていた精神誘導の効力が薄いというのもあった。
「女神の端末がエルフの血を以て受肉したやもしれん」
父はエルフ。
母は人間。
ハーフエルフの身でありながら明らかに顔立ちが父母に似ても似ていない娘が一人いたことをつい最近ロードスは思い出した。
我が子の顔と名前の全てを覚えている彼が忘れていた。
それの意味するところをロードスは良く知っている。
かつてもそうだった。
己が産まれる要因になった大絶滅、女神をしてやり過ぎたと思ってしまった頃の話。
あれが産まれる理由をエルフ王は知っている。
世界が安定の兆しを見せる時、つまり女神の手を離れて急速に発達を開始しようとした時代に出てくるのだ。
決してアロヴィナスは己の手から人類が離れる事を許さない。
裏切られた記憶、理想郷の崩壊がよほどトラウマになっているに違いない。
「蠍の目覚めは近い。疫病の皇帝が遠からず現れることだろう」
ロードスの言葉にルファスは一瞬だけ過去を思い返す様に瞑目してから頷いた。
そして最後に一つ、彼女は疑問を投げかけて───思った通りの返答が来る。
「ジスモア・エノクを殺したのは貴方か?」
考えればおかしな点はいくつもあった。
ヴァナヘイムに乗り込んだ魔神族がわざわざ魔物をばら撒くなどと言う遠回しな行為をするだろうか?
基本的に人類より強い魔神族であれば直接殺しまわる方が効率がよいというのに。
「そうだ。余が混翼達に命じて行わせた」
目の前のエルフに父を殺されたというのにやはり何も彼女は思わなかった。
むしろ当時の自分を気遣ってくれた事に感謝さえ抱く始末である。
翌日、新たな国、新たな王がミズガルズに産まれた。
その名を【ゾディアック】という国は人類共同体が結成されて初めて建国された国家である。
頂点には女王ルファス・マファールを戴くかの国は今後数年で急速に拡大しやがてミズガルズを飲み込むことになる。
ゾディアック建国から暫くの後、リュケイオンから北東の地に巨大な塔の建造が開始される。
数多のドワーフが動員され天を衝く程の威容を見せるソレの名はマファール塔と名付けられた。
誰もが見上げるソレは空を通り越し宙に届く程で……。
そして王になったら凄い塔を建てるんだ!
ミズガルズの何よりも高く、巨大で、かっこいい塔をな!!
かつての少女は夢を叶えたのだ。
数えきれないほどの調度品や装備、芸術品を納められたソレは正しく覇王の権威の象徴だ。
伝説の武器や神話に伝わるアイテム。
数えきれないほどの貴重な品々を収納した塔の一角には小さな本棚があった。
金で買う事など不可能なくらいに価値ある書物や芸術品に紛れ込んで明らかに場違いな本がそこには収められている。
タイトルは「十二の星座と宙の運行によるマナへの影響」といった。
そして。
ルファス・マファールは王に至った事で世界の裏側を知る権利を得た。
アリストテレスというかつて思いを寄せた人物の闇を覗き込む時が来た、来てしまった。
ゾディアックの王としてルファスはアリストテレス兵器群についての情報を要求し、それは通った。
自国の防衛を委ねるのだ、詳細を知りたいというのは当然の話である。
兵器群の代表たる魔女メリディアナは快くルファスの申し出を受け入れ冥府の底に誘う。
プルート。
冥府の名を冠する地下王国でルファスを出迎えたのはメリディアナであった。
老婆は心からの敬意を込めてこれ以上ない位にルファスに対して腰を折った。
この世で誰よりもアリストテレスという名前と力に執着している女は皺だらけの顔を歪めて笑った。
かつては何の力もなかった無力な自分が今やあのルファス・マファールとこうやって並んでいるという事実に喜悦を燃やしている。
「ようこそおいでくださいました。マファール陛下」
「此度は私めがご案内いたしまする」
「大義である。任せた」
答えながらもルファスは徹頭徹尾無表情であった。
この危険な女もそうだが、本能が先ほどからざわめいて仕方がない。
レベル限界を超えた結果、極限とも言える程にマナへの理解と適応を得た彼女はこの地に夥しい数の魔神族が存在することを理解してしまった。
便利極まりないアイテムの数々。
そして人形と化した魔神族。
答えの全てが此処にある。
「偉大なりしアリストテレスの御業をとくとご覧あれ」
魔女が分厚い扉に手をやり“加工所”へと覇王を誘い───。
助けてぇぇぇ!!
痛い痛い痛い痛い!!!
殺して、殺さないで、やめて、やめてぇぇぇぇ!!
魔神王様、魔神王様!! どうか!!
肉が裂ける音。
何かが焼ける音。
骨が折れる軽い音。
そして数えきれない命乞い。
夥しい量の悲鳴をルファスは聞いた。
咄嗟に身体が動こうとしたのを誰が責められるだろうか。
どす黒い嗜虐に満ちた嘲笑が木霊する。
余りにソレが記憶の中にある不快な存在と似通っており覇王は眉を顰める。
ルファスには好戦的な側面があるが、それでもこれは行き過ぎている。
この先で何が行われているかある程度は判るがこれは余りにも……。
「おぉぉ……今日も元気ですのぉ。善きことですわい」
ニコニコとメリディアナは笑う。
漁師が大漁を前に綻んでいるような調子で。
お世話になった古巣の空気はいつみても素晴らしいと。
ローブを大きく広げ、杖で扉の先を示す。
正しくソレは地獄の底。
人の業とアリストテレスの技術がかみ合って作られた悪夢の世界。
覇王をして精神を軋ませるであろう狂気の園だ。
「退屈はさせませぬぞ」
裂けた笑みで魔女はサバトへとルファスを誘うのだった。
pcの調子が本格的に悪いです。
ストックと外部保存はしっかりありますから大丈夫ですがちょっと怖いですね。