ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
プルートの者らは快く新たな同胞を迎え入れた。
彼女はそこで復讐の愉悦を味わい尽くしたが……ほんの数年で飽きてしまった。
一通りの憎悪を発散し終えた後に彼女が抱いたのは疑問であった。
そもそも魔神族とは何であるのかと。
───とある女の肖像6
本作では魔神族を何処まで使い潰せるかにチャレンジしております。
【マナ結晶(日)】
超高濃度の「日」属性の力を圧縮して生成された結晶体。
“マナ”と銘打っているが実態は天力を凝縮した触媒である。
これの優れた点は術者の天法の効能を増幅させるだけにとどまらない点だ。
特殊な加工を施され装備品として使用された場合の結晶は何と装備者が致命的なダメージを受けた場合、肩代わりしてくれる機能もついている。
もしもの時の保険である。
これの便利な所は量産体制が整っており誰でもその保険の加護を受けられるというところだ。
かつての竜王の戦いにおいても少数がその効果を発揮し命を救っていた事もある。
そしてこのような素晴らしい品がどう作られているかは誰もが気になる事だろう。
複数の魔神族が何の表情も浮かべずベッドで横になっている。
彼らの周りの地面には複雑怪奇な陣が刻まれておりそれらは薄く発光していた。
【錬成】の神髄である“理解できるものを理解しているモノへと変換”させる効能の“理解”をコレは殆ど省略してくれる。
多くの知識を蓄えたルファスをして今まで見た事のない文字列であった。
それもそのはず、これはアリストテレスが作り上げた独自の言語であり、一文字一文字は意味を持たないが繋げる事で千差万別の効果を産み出す。
その名を【スクリプト言語】という。
誰かが書いたコレに魔力を流し込めばそれだけで複雑な【錬成】の工程を省略可能な優れモノだ。
もちろん最低限の知識は必要であるがそれでもマナの構成やら比率やら、魔神族の体内構造やらといった面倒な部位の解析は全て陣が代わりにやってくれる。
極端な話、この施設を用いれば参考書を少し読んだ子供が【錬成】を発動させればそれだけで魔神族の構造を作り替える事ができるのだ。
特異な術やアイテムの製造を誰でも可能にした上で量産の目途をつける。
それこそがアリストテレスのやり方だ。
本として纏め上げられた医学もそうだが彼らは新たな境地を作り上げた後は後学の者らがそこを通れるように道を作ってやることが多かった。
所行は紛れもなく悪鬼羅刹、外道としか評せないアリストテレスを人類が排斥できなかった理由がそれだ。
人としての倫理を無視すれば完成させられると誰もが判ってはいたが誰もやろうとしなかった一人目にアリストテレスは成ってくれたからだ。
ほんの少しだけ眼を瞑るだけで後は全自動で利益をばら撒いてくれるのだ、多少はおめこぼしもあるというものだ。
その最たるモノが今、ルファスの眼前で披露されている。
魔力を注がれた【スクリプト言語】を通して【錬成】が発動し魔神族たちの身体が光の粒子となり散っていく。
作業の邪魔にならない程度に離れた位置で見ていたルファスには彼らの身体が解かれていく様がしっかりと映っていた。
これは【錬成】によって物質を別の物質に変換する時とはまた少し違う。
岩を金属に変えたり、岩の形を変えてゴーレムにするのとは次元が異なる。
これは魔神族を構築するマナへの根源的な干渉だ。
属性という要素を最大限に生かす為に資源に対して下ごしらえを行っていく。
まずは天力として純化させるために邪魔な個体としての自我や記憶などを削ぎ落す。
次に残った「日」属性のマナを丁寧に天力へと変換していき純度100%の天力へと純化させる。
最後に概念的な力でしかない天力を結晶体という物質へと凝固/固定して完成。
白い布の上にクリスタルの様な結晶が生成され、それをスタッフが手に取って確認した後にルファスへと恭しく差し出す。
参考までに言うと彼のレベルは330。
【アルケミスト】を100程とってはいるが、それでも今のルファスからしたら有象無象としか言いようがない程に矮小な存在だ。
間違っても彼女の理解を超える程の品を量産できるだけの力を彼は持っていない筈なのに。
「マファール陛下。此方をどうぞお収めくださいませ」
受け取り瞳の前で翳す……見事な出来としか言いようがない。
少なくともスクリプト処理による補佐がなければルファスであってもここまでの物は容易く作れない。
何時間も準備をして丁寧かつ慎重に【錬成】を用いなければならない。
マナへの干渉とはそれほどに高度な技術なのだ。
レベル4200の彼女は【アルケミスト】のクラスも勿論200ほど取っている。
そんな彼女をして数時間の全力が必要になる物を誰でも作れるようにする、その意味は想像を絶する程に重い。
つまりは並の術者が一生涯をかけて会得するであろう秘術が呆気なく成功してしまった、ということだ。
「これぞ純粋なる天力の結晶。
単に天法を用いる時のブースターとして使うだけにはとどまらない用途を秘めた品と相成りまする」
ルファスの隣で天力結晶を見つめながらメリディアナは説明を開始。
覇王は視線で続けるように促す。
余りに埒外の技術を魅せられたルファスは警戒と同時に純粋な好奇心を抱いていた。
彼女は決してお飾りの【アルケミスト】ではない。
自分で武具やアイテムを作った事も多々あり、その品質は一つ一つが国宝と称される程だったのだが……。
そんなもの、ただのお遊びでしかなかった。
目の前にあるコレに比べればただの剣や槍など無価値だ。
淡く輝く天力を具現化させた結晶には無限の可能性が秘められている。
何だこれは。
こんな事が可能なのか。
そして同時に裏でまた囁くのは敗北感。
己が魔神族を殺すと気勢を上げていた時には既に何十歩も先にいかれていたという現実が彼女を焼く。
その程度がお前の限界だと突きつけられているようだった。
殺すのではなく利用する。
人々に害しか為せないと思っていた魔神族をプランは既に一転して利益ある存在へと作り替えていた。
どれだけ走っても走っても常にその背には届かない。
だが彼女は王だ。
むやみやたらに表情を変える事は許されない立場である。
だから奥歯を噛み締めながらも表情は変えない。
魔女は更に追加で製造された結晶を指先で弄びながら燃える様に笑って言う。
「ここまでは共同体の者らも把握している一般流通を許された品でありまする」
結晶をルファスに差し出し、次に己の指輪を撫でる。
余りに派手な宝石の埋め込まれたソレは見る者が見れば悪趣味ともとれるほどに絢爛であったが……。
「ここからです」
鷲鼻かつしわくちゃの顔を歪める。
眼光はギラギラと輝いており善悪はともかくメリディアナという魔女の心には途方もない意思が渦巻いているのが見て取れた。
アリストテレスという偉大なる神を讃える感情と、それの齎す力に酔いしれた怪物の顔だ。
そして更にその奥には───。
「穴倉の底に貴女様をご案内いたしましょう」
プルート 最重要区画 “生産/加工所”
魔神族を単純に加工していた施設の地下改装には表層が可愛く思える地獄が広がっている。
この施設では特殊な装備を量産していた。
いまだ実験段階で一部にしか支給されていないが、世界を根底からひっくり返す品々を。
大前提として装備品という概念がミズガルズには存在する。
これは読んで字の通り剣や防具の事だ。
剣を装備すれば攻撃力が上がり、防具を纏えば守備力が上がる。
他にも指輪や髪飾り、靴といった多種多様な装備を纏えば様々な能力の恩寵を得られるのはミズガルズにおける常識だ。
移動速度の向上、状態異常への耐性、他には一部のステータスを下げる代わりに他の値を上げるなどなど。
その上で当時のアリストテレスは考えた。
魔神族を順調に資源に加工する技術を磨き上げながらプラン・アリストテレスは無情に思考を回し一つの発想を得ていた。
即ち魔神族を装備出来ないか? と。
基本的に魔神族は人類よりも優れた戦闘力を持っている。
それどころか【クラス】さえ持っており中には固有のスキルを保持するものさえいる。
人類からすればこれは絶望としか言いようがない事実だが、アリストテレスにとっては実に興味深い素材としか映っていない。
魔神族を運営する法則の解析は終わっているのだからもはやあれらは単なる家畜の延長線上にしかない。
まだ何かある筈だとプランは考え───魔神族の力をそのまま人類に上乗せ出来ないかと思い至ってしまった。
既にアイテムとして使用できるのだから、もう一段階上の領域に技術を進める時が来たのだ。
「貴方様は私めに問われた。どうやってレベル1000のゴーレムを操っているのかと」
今のメリディアナのレベルは500。
以前より更に強くなっているがそれでも【アルケミスト】のクラスを200取った彼女では最高でもレベル450のゴーレムしか作れないし操れない。
明らかにミズガルズでは【モンスターテイマー】に比べてゴーレムは冷遇されていた。
理由は特にないだろう。
女神からすれば冷遇しているという考えさえない。
単純に錬成で色々作れるからゴーレムに対しては縛りを強めておこうくらいにしか思っていない。
全体として【モンスターテイマー】の下位互換。
戦闘力に劣るモノ好きの集団というのが今までの彼らの評価だった。
しかしそれも過去の話。
今や高位の【アルケミスト】は何物にも代えがたい価値を得つつある。
武器で戦うなど誰でも出来る、しかし知識と技術を納めた学者は簡単には生み出せないのだから。
「これが答えとなります」
メリディアナが手を叩けばルファス達に近寄ってきたのは二名の術者。
明らかに纏う気配が先に魔神族たちを虐待していたものらとは違う。
彼らはしっかりと長い時間をかけて学問を納め、復讐とはまた違った感情──探究心で──魔神族を取り扱う専門家たちだ。
そして何よりその顔は【バルドル】と似通ったマスクで覆われていた。
まるで己たちはアリストテレスの学徒であると主張する様に。
実際彼らはアリストテレスの僕を名乗っている。
もう既に死んだ人物の配下というのも変な話ではあるが。
しかしルファスはそんな彼らを見て眉一つ動かさなかった。
メリディアナの態度から察するに自分と彼の関係をこいつらも知っているだろうが、知った事じゃない。
こいつらが何を被り、何と名乗ろうと自由だ。
勝手にすればいい。
その名前を汚しさえしなければ彼女は何も言うつもりはない。
一人が虚空に手を翳す。
魔力を充填させるだけで魔法はまだ使わない。
代わりに壁や床に描かれた【スクリプト言語】が魔力に反応して発光し代わりに魔法を発動させる。
人類を対象に常に発動され続けている魔法の一部が上書きされ乗っ取られた上で起動。
女神でさえ予想していなかった事が起こってしまう。
魔神族が乗っ取られる。
既に十分数の魔神族にはヤドリギが植えつけられているのでシステムへの干渉方法は確立されている。
一体一体は小さな接続でもソレを束ねてやれば強固な回線になる。
【クリエイト・エネミー】
魔神族/悪魔/魔獣/異形。
ミズガルズの歴史においてたびたび現れていた人類の敵たち。
それらは元を辿れば全ては同じモノだ。
これは女神が常に発動させ続けている法則であり、彼女はこれを更新した事はない。
そんな発想は彼女にはない。
産まれた時から完成していた彼女にはアップデートという概念は殆どないのだ。
もちろん誰かが己の術に干渉してくるなど想像外だからコードは常に剥きだした。
故に乗っ取った後は支配権を奪い返されない為にロックすることも容易かった。
魔神族を運営する根底的な方程式は複雑に暗号化され魔神王と女神がどれだけ足掻こうと取り戻せない様に作り替えられてしまっていた。
一瞬だけ閃光が部屋を満たし、それが収まった後にはルファスの眼前には魔神族たちがいた。
その数は1体。
感じるマナの気配は濃厚でレベル800級のかなり強い個体だ。
魔神王が行うとされる魔神族の創造を人類は技術としてモノにした。
ルファスは腕を組み万が一に備えて肉体に力を充填させていく。
もしもこの魔神族が暴れたら一瞬でバラバラにするつもりだった。
「ふぅむ……」
メリディアナが眼を輝かさせ【観察眼】を発動する。
ステータスではなく彼女が見ているのは彼らが保持する【クラス】だ。
更に言うならばこの魔神族たちはミズガルズの処理の中では術者たちのアイテムとして扱われているため、許可さえあればレベルが下の彼女でも問題なく精査できた。
「グラップラーが100に……レンジャーも100……。
ほぅ! アルケミストが200、これは当たりじゃな」
何が当たりなのかは判らないがひとしきり魔神族を読み取った彼女は満足げに笑う。
ルファスに向き直り恭しく頭を下げてから魔神族に声をかけた。
「お前の主人は誰じゃ?」
「貴女様たち、人類でございますメリディアナ様」
演技でも何でもなく魔神族は即答する。
魔神族としての根底のコードを変更された結果、彼らの忠誠は人類へと向けられている。
もっと言えば彼らを作った学徒たち、その上司であるメリディアナ、そしてそれらを統べるルファスに彼らは従う。
「マファール陛下に自己紹介をおし」
「お初にお目にかかります。何なりとご命令を。人類に使われる事こそが我々の喜びで……」
言い終わる前にルファスの手が伸びる。
魔神族の首をがっちりと掴み力を込めていく。
魔神族の言葉などすべてが鳴き声であり嘘だと知っている彼女からすればこれの言葉など茶番でしかない。
脳裏をよぎるのはあの狼たちの瞳。
彼らがいなければ小さな村が幾つも己の判断ミスで滅びる所だった。
「陛下。ソレは完全に我々の支配下にありまする。壊すのは勿体なくございます」
「コレの言葉を信じろと?」
「いえ。信じるのはアリストテレスの技術でございます」
魔女と王は暫し見つめ合う。
まるで視線で剣戟を行う様な激しさがそこにはある。
どちらも決して視線を外しはしない。
「陛下。見せたいものはこの先にあります。どうか」
先に折れたのはメリディアナであった。
魔女は懇願する様に頭を垂れる。
ルファスは魔神族を見た。
握力がどうのだのといった次元を超えたレベル4200の怪物に首を掴まれるという事は確実に死ぬという事だ。
今まで殺傷してきた魔物や魔神族はルファスに触れられるのはおろか目線を向けられるだけで発狂したものもいた。
しかし、この個体は顔色一つ変えていない。
ただ無機質なガラス細工の如き目玉でルファスを見ているだけだ。
これは明らかに魔神族としてはありえない。
彼らは基本的に生き汚くどんな嘘を並べ立ててでも生き残ろうと足掻く。
お母さんだの、病気の家族がいるだの、友達の為に死ねないだの。
まぁどこからそういった語彙を得て来たのか気になる程に嘘を次々と並べたてるのをルファスは知っている。
しかしコレは明らかに違う。
ただじっとルファスに殺されるのを待っていた。
呼吸する機能は会話を行う時以外には使用しないので息苦しいという感情はない。
主であるルファスが殺すというのならばその意は絶対だという前提がある故に抵抗も何もしないし、そんな発想さえ沸かない。
完全に人類の支配下にあるというのは間違いないようだった。
手を離しメリディアナに鋭い目線を向けて無言で「見せろ」と促す。
老婆は王の意を組んで余計な事は何も言わず最短の動作で【錬成】を発動させた。
部屋中に刻まれた【スクリプト言語】が複数の任意コードを順番に発動させ、魔神族を魔神族のまま作り直していく。
分解/圧縮/構築。
大前提として法の中において魔神族は魔神族のままだ。
力を過剰に送り込んで形を失う様なこともさせず、かといって余計な要素を過剰にそぎ落としたりもしない。
ただ脳を司る部位のマナに宿る無駄な意思と記憶を消すだけで、彼を構築するマナは欠片も減少させない。
世界の処理ではこの魔神族は死亡した訳でもダメージを受けたわけでもない。
状態異常になってもいない。
何の変化も起こっていない、というよりはコレを処理する状態が見つからない故にそのままとして判断されているのだ。
カランと床に転がったのは先の天力結晶によく似ているが決定的に違う結晶体。
ルファスはそれを見て“先と何も変わらない”と感じてしまう。
先の魔神族から感じていた気配と何も変わらない。
試しに眼を閉じてマナを感知してもここにあるのは魔神族だと感じてしまう。
つまり姿かたちは変われど本質は何も変化していないのだ。
魔神族のまま魔神族を加工する、言葉にしてもよく意味が判らないだろうがそうとしか言えない。
魔女は結晶を拾い上げると小さく【錬成】を行使し指輪に宝石の如くはめ込んだ。
そしてソレをゴツゴツした指にはめる。
他の指輪は何故か全て外した上で彼女は言った。
「陛下。私めを【観察眼】でご覧になってください」
ルファスの瞳が輝き【観察眼】を発動し……彼女は意味の判らないモノを見た。
メリディアナ
レベル 500
種族 人間
クラスレベル
【アルケミスト】 400
【ソーサラー】 200
【メイジ】 100
【グラップラー】 100
【レンジャー】 100
【ウォーリアー】 100
【チャンピオン】 200
【アーチャー】 100
HP 12000+55000
SP 9800+14000
STR(攻撃力) 1200+7500
DEX(器用度) 3300+5000
VIT(生命力) 1100+6100
INT(知力) 3500+2000
AGI(素早さ) 3300+4000
MND(精神力) 2600+2000
LUK(幸運) 4000+1300
全ての数値が狂っていた。
ミズガルズにおける前提としてレベルは【クラス】の値の合計値のはずなのにレベルは500のままに【クラス】の合計が明らかにソレを上回っている。
分母を超えられない筈の分子が突出しているという意味が判らない状態だ。
更にステータスも意味が判らない。
メリディアナのソレに何かが足し算されている。
いや、それそのものはおかしくはないのだ。
例えば剣を装備すればSTRの値に+100や200といった風に剣の秘めた攻撃力分が足されるのだから。
しかし、今のメリディアナは剣など持っていない。
指輪をつけただけで全ステータスに理不尽なまでの加算処理が行われている。
メリディアナは老婆だ。
【アルケミスト】を起点としたクラス構成は後衛職ばかりであり、決して直接的な戦闘能力は高くない筈だった。
しかし今の彼女の値は常軌を逸しておりレベル1000の世界であっても通ずるほどに強化されている。
「かつてアリストテレス卿はレベル限界の壁をどう打ち壊すか思案しておりました」
「女神の法則を撃ち抜くのには強き意思が必要。しかし万人がその境地に至るのは不可能です」
竜王/勇者は悪意と憎悪。
ベネトナシュは元来の素養と併せてそういうものとして作られた上で悲嘆を抱いた。
そしてルファスは絶望と憤怒を以て世界のルールを超えた。
しかしだ。
誰もがそうはなれない。
今はまだ。
強い意思など良く言われるが所詮は脳内物質のバランスである。
それを調整さえすれば誰であってもいずれは限界を超えられる方法は着実に編み上げられつつある。
言わばそれまでのコレは繋ぎだった。
「故にかの御方はもっと容易く強くなる方法を作り上げたのです」
一つは果実。
かつてのウラヌスの再現であり、食せば誰もがそれだけで超効率的なレベリングが可能となる奇跡の御業。
そしてもう一つがこの……。
「魔神族を装備すればよい。そうアリストテレス卿はお考えになられた」
「そのお顔も最も。何を言っているか判らないといった感想など百も承知ですぞ」
メリディアナは指輪を見せつける。
先の魔神族を変換させた装備品を。
「このような姿になろうとミズガルズは今だにこの者を魔神族の個体として認識しておりまする」
「しかして同時に装備品としても扱われておるのです」
魔神族でありながら装備アイテム。
世界は混乱しているだろうが、女神の法則から外れた状態である故に訂正も出来ない。
そういうものとして認識するしかなくなっている。
そしてソレを人が装備したらどうなるか?
答えは魔神族の持つ【クラス】とステータスが装備者に加算されるだ。
さすがにステータスの加算は一人分しか出来ないが【クラス】ならば幾つだって継ぎ足せる。
極端な話、そこらへんのレベル1の子どもがレベル1000相当の魔神族を装備すればそれだけで即戦力になる。
ではレベル1000の者がレベル1000を装備した場合は……単純に2000とはいかないまでもあのベネトナシュと戦闘を成立させられる程度には強くなれるだろう。
もちろん勝てるかどうかはまた別の話だが。
これの利便性は限界突破よりも高い。
高レベルになれば誰もがぶち当たるクラスの取捨選択がなくなるのだから。
しかし克服すべき問題も一つある。
ルファスは既にそれを見破っており、魔女に対して指摘した。
「生成される魔神族のステータスとクラスの指定は出来ないようだな?」
もしもそれが出来るならばもっと極端な事──最強のクラス、例えば勇者のクラスを取らせてソレを装備するなども出来る筈なのにメリディアナはやっていない。
そして先の「当たり」という言葉。
この二つからルファスはこの技術の未熟な部分を見抜いていた。
「えぇ。恥ずかしながらまだ大まかな方向性を与える事しか出来ませぬ」
簡単に言えばガチャである。
使える魔神族は装備品に、外れの個体は別の素材に採用されるため無駄にはならないが。
つまりそれは誰もが望んだクラスを装備できるとは限らないということだ。
何なら弱い個体と強い個体の差も激しい。
ちなみに今回のモノはそこそこの当たりである。
「さすがは陛下、そこを見抜かれるとは」
「お一つ、如何でございましょう?」
魔女がそこそこの逸材で作った指輪をルファスに差し出すも、覇王は凍り付くような目線でソレを見やるだけだ。
必要ない、さっさと下げろと言外に述べている。
頭を垂れながら魔女は見上げる目線をルファスから離さない。
こんな小細工などせずとも圧倒的な力を持つ彼女は正しく太陽としか言いようがない。
産まれながらに何物をも凌駕する才を与えられ、そしてそれらを完璧に花開かす事が出来る師と出会う。
ルファス・マファールという天に全てを与えられたとしか言いようがない幸福の持ち主をメリディアナは見上げている。
まるでねめつける様に。
そして、ここからが真の地獄であると魔女は嘲笑う。
次に彼女が小娘を誘うのは命の価値やら倫理観やら人としての在り方等と言った全てのつまらない要素から解放されたアリストテレスの思想の権化である区画。
“オーク繁殖工場”
魔神族とオークを掛け合わせて安定したHP増加アイテムを量産する悪夢の施設であった。
『廃品回収』
不要になった魔神族の回収を承っております。
特に「日」と「水」属性の魔神族は買い取り価格など優遇いたします!
また加工所見学にお越しの際は、是非魔神族加工体験へどうぞ。
今なら自分で加工した魔神族で作られたアクセサリーのお持ち帰りも可能です。