ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
特に少女時代のルファスの声が聞けたのが予想外で嬉しかったです。
これを機に第一部をもう一回見てみると面白いかもしれません。
ともあれ今年の10月が今からとても楽しみです。
人が人を忘れる時、まず最初にその人の声から忘れていくとされる。
この言葉が正しいという事をルファスはあの日からずっと味わい続けてきた。
あれだけ己を導いてくれた人の声、決して失うまい、消すまいと抱きしめていたソレを思い返せなくなった日の絶望を彼女は知っている。
『ルファス』
こんな声だったか。
こんな声だった。
いつもこんな風に名前を呼ばれていた。
ありえない邂逅と声に彼女は動けない。
どういうことだと思う事さえ考えられなかった。
「────────」
瞬きさえない。
魔神族の凄惨な光景を見せられても眉一つ動かなかった頑強な心が軋んでいる。
壁に埋め込まれたマナ・ダイアモンドが薄く発光し本来ならば決して再生されるはずのないメッセージを流し続けていた。
ルファスのマナに反応し再生される隠しボイス。
いま彼女が聞いているのはソレだった。
彼からすればあってはいけない事なのだ。
こんな地獄の底にルファスがいることなど。
まずありえない前提で吹き込んだ録音が機能するなどもしかしたらプランでさえ想像もしていなかったかもしれない。
彼は告げる。
カルキノスが、オオカミたちがルファスに言っていたことを改めて。
『ここに来ては駄目だ。帰りなさい』
『この施設はとても危険だ。関わってはいけない』
このメッセージを作成したのはルファスが母と共にプルート観光を行っていた時だ。
故にまだこの時のプランはルファスの潜在能力が非常に祭壇と相性が良いことを知らない。
彼の中におけるルファスはいまだ憎悪に囚われていた子供なのだ。
『家に帰りなさい。お母さんも心配しているはずだよ』
その言葉にギシっと何かが軋んだ。
数百年前の男はいつかと同じ調子で少女を心配し続けている。
自分が生きている間に祭壇の存在をルファスに明かす事はないという前提で彼は話を続ける。
即ちきっとこれを聞いている時には自分はもう死んでいるという前提だ。
それの原因が寿命かはたまたルファスの宣言通り彼女に殺されたかはともかくとして。
『……もしも、ここに来た理由が自分の考えている物と違ったのなら』
『マナについて学びたい等の理由でこの祭壇を訪れたのならば、少しだけ話そうと思う』
それはありえない仮定。
己の死後に世界が平和になり、ルファスも戦いとは無縁の人生を送っていて、観光や見識を深める為にこの祭壇を訪れたらという妄想。
彼は説明を始める。
先に流れていた無機質で淡々とした乾いたモノではなく教え子に知識を享受しようとする師として。
『説明はもう聞いたかい?』
『ミズガルズにはマナが溢れている。しかし実際はもっと大きなスケールでマナは循環しているんだ』
その事実は既に知っている事であったがルファスは黙って話を聞いている。
この宇宙そのものが女神の力で運営されており、実際はマナよりも更に根源的な力で構築されていることはもう判っていた。
『宇宙全てにマナは満ちており、循環している』
『この祭壇はその力を引き込み生物でも摂取可能な形に加工するために在るんだ』
ルファスの持つ果実製作能力を技術として確立させ、更には大量生産を可能にしたのが祭壇の機能である。
幾らルファスが強くてもわざわざ一つずつ果実を作り人類に配布するとなれば気が遠くなるほどの時間が掛かり現実的ではない。
更に言うと王としての責務がある彼女はもはや戦場に立つことは許されなくなりつつある。
戦うのならば戦士だって出来る。
しかしゾディアックの王としての仕事は彼女しか果たせないのだから。
だが果実も必要、そんな相反する状態を解決してくれるのがこの祭壇だ。
いちいち魔物や魔神族を殺害し拡散するマナを凝縮などしなくともコレならばスイッチ一つで無尽蔵に黄金の実を作ってくれる。
つまりルファスの願いである人類の自立、そしてアリストテレス兵器群や女神からの独立には必要不可欠な存在なのだ。
彼女は弱者を駆逐する。
これだけ聞けば暴君の理不尽な粛清と弾圧に聞こえるが覇王はその逆を考えていた。
即ち、人類そのものをレベリングし全ての人が自衛を可能にする世界を。
アリストテレス兵器群に頼らず、大切なモノは自分で守れというのが彼女の考えであった。
しかし誰もが力を振るう時代はとんでもない混沌になることくらいルファスにも判る。
今まであった諍いはその規模と凄惨さを何十倍にも拡大するかもしれない。
ほんの少し間違えただけでミズガルズが吹き飛びかねない事をやっているとルファスは判っている。
その為にも自分は誰よりも輝き続けなければならない事も。
誰もが仰ぎ見る星として全てを圧し、その威光によって秩序を維持しなければいけない。
きっとそれは過酷な事なのだろう。ともすれば人としての楽しみ/喜びも何もかも捨て去る事になるかもしれない。
そんなもの、とうの昔に失くしている。
だがそれでも───“勇者”はもう必要なくなる。
ミズガルズの問題に異世界から心優しい人たちを招き入れて使い潰す事などしなくてよくなる。
この世界の問題はこの世界の者で解決するべきだ。
無関係な誰かに犠牲を強いてそれが当然と思う世界など間違っている。
しかしそんなルファスの心に255年前の亡霊は否を叩きつけてくる。
ミズガルズはこれでいい。変わる必要などない、どうせ何も変わらないと諦めた男が続ける。
『繰り返しになるけど、祭壇を果実作成の目的で使っては駄目だ』
『眠らせておくべきだと自分は考えている。人は誰もがルファスの様に強くなく、頑張れる人ばかりじゃない』
それは思考実験の結果だった。
レベルという概念の前に諦観した人々にいきなりお手軽なレベリングアイテムを渡したらどうなるか? というお題だ。
多くの人は諦めている、それでいて発散できないうっ憤を貯めていると言っていい。
荒んだ心に力を与えたらどうなるかは……判り切っていることだ。
ラードゥンが亜人たちに力を与えた結果、ミョルニルでは大虐殺が起きた。
プランの声音が変わる。
まるで言い聞かせるようなものに。
欲しいモノをねだる子供を優しく諭すような口調になった。
『どうしても気になるというのであれば、プラネタリウムとして使うといい』
『マナを観測することで星々の運行をリアルタイムで投影できる。すごく綺麗な光景が見れるんだ』
14歳までの彼女しか知らない当時のプランは必死にルファスを説得する話題を探しているようだった。
当時の彼の中では15歳でルファスが様変わりするなど知らず、予想も出来ていないのだ。
この時のプランはまさかルファスが己に好意を抱く未来があるなど考えもしていない。
だから何処までも彼は女と距離を取り冷淡とも思える言葉を連ねる。
『見終わったら帰りなさい。そして二度と来てはいけない』
『ここで見た全てを忘れてルファスはルファスの居るべき所に戻りなさい』
『アリストテレスに関わっては不幸になるだけだ』
プランはこういうが果たしてどちらが不幸だったか。
散々に罵倒して暴力をぶつけ、挙句には八つ当たりの延長で呪詛と癌まで植え付けた。
一言も彼は恨み言など言わなかったが普通ならば殺されても仕方ない所行だ。
どれだけの奇跡を掴んでいるか全く当時のルファスは判っていなかった。
いや、判っていたのに目を背け続けていた。
挙句には最後は己のせいでやってきた竜王と相打ち。
プラン・アリストテレス達の人生を無茶苦茶に狂わせて死に追いやったのはあの日突きつけられた通りルファスなのだ。
覇王は瞬きさえせず男の言葉に耳を傾けている。
全神経、全細胞が一言一句聞き逃すまいと最適化されていた。
しかし決して会話は出来ない。
最後に何を話したかさえ覚えていないままあの日々は終わった。
遠い昔の残影はここで自分が何を言おうと答えてはくれない。
ただ延々と遠い昔に録音されたメッセージを流すだけ。
『……ルファスがここに居るという事は自分はもう死んでいる筈だ。
生きていたなら決してここには近づけないのだから』
少しの間をおいてプランは何の意味もない確認の後に口調を優しく変えて語り出す。
彼は絶対に自分の口からはルファスには言わないであろう胸中をここに置いてきたのだ。
聞かれる事などないと思い少しだけ油断していたのかもしれない。
つまりこれは遺言だ。
彼は自分を良く知っており、決して何が有ろうとルファスとアウラに一歩を踏み出せる男ではないと判っている。
当時のプランも4年間の日々を気持ち悪い家族ごっこの一言で切り捨てようとして、己の変化から眼を逸らし続けていたのだ。
『もしも自分がルファスに殺されていたとしたら』
「──────」
無造作に放たれた言葉にルファスの身体が微かに動く。
頭のてっぺんからつま先まで電流が流れたように痙攣し僅かに跳ねた。
顔に変化はないが心臓の鼓動が早まり背筋が冷えていく。
きっとこれを作成した時はまだ自分は彼の殺害を企てていた頃なのだろう。
だからプランの言葉は何もおかしくはない。
カルキノスがいなければプランはルファスに殺される事を受け入れたのだろうから。
『自分は殺されて当たり前の男だったのだから仕方ないと思う。
もう一度言うけど、貴女の怒りは正当なものであり、受けた仕打ちは到底許されない事なのだから』
『そして自分の自己満足に付き合わせてしまって済まなかった』
「この偽善者。貴方の自己満足に巻き込まないで」
ふと脳裏をよぎったのは最初の日、自分が吐いた最初の暴言だ。
どうやっても決して取り消せない言葉の刃。
その言葉を女が聞き終えると同時にミシっと何かが軋む音がした。
精神的成熟を経て滅多に変形しなくなった黒翼が無茶苦茶な形状に変わりつつあった。
鋭利かつ攻撃的、無数の剣を生やした様な姿に。
そしてその切っ先は全て自分自身へと向けられている。
彼女が最も憎んでいる相手に。
もしも翼を閉じればその瞬間にルファスは己の翼に串刺しにされることだろう。
『……ルファス。貴女は自分で思っているよりずっと強くて優しい人だ』
『いつか必ず憎悪を乗り越えられる日が来ると自分は思っている』
滔々とプランの言葉は続く。
一言一言で女を八つ裂きにしながら。
言葉はどんな武器や魔法よりも鋭い凶器になる時があり、それは今だ。
滅多に内心を見せない男は誰にも見られないという前提を経て少しだけ縛りを緩めていた。
本当なら絶対にルファスが此処に来る筈などなく、仮に来たとしても自分は死んだあと。
それならば決して彼女に直接言う事は出来ない懺悔をここに刻んでおこうと考えたのかもしれない。
『もう一つ謝りたい。自分は貴女に対して幾つもの間違った対応をしてしまった』
『きっとルファスから見た自分は距離感も弁えない無礼者に映っていた筈だ』
ひたすらプランは謝罪を続ける。
ほんの一年後、右腕を失い癌と呪詛を植え付けられる事になる男はそれを成した少女に怒りを抱くどころか己の足りなさを懺悔し続ける。
……まだ怒り狂った呪詛を叩きつけられた方が遥かに良かった。
呼吸さえせず女は聞き続ける。
裁判で罪状を読み上げられる咎人の様な心境で。
『上手くやれている自信は正直なかった。
いつもこれで本当にいいのかと手探りになってしまい、ルファスを怒らせてばかりだ』
『……一緒に生活したのは間違いだったかもしれない。
エノク婦人の容態が安定したらプルートか光の森に移しておけばルファスももっと早く立ち直れたかもしれなかったのに』
『自分は間違えた。ルファスを助ける等と言いながら結局は貴女を更に傷つけただけだ』
『アリエスに偉そうに語っておきながら自分こそルファスの才能だけを見て利用できるかもしれないと傍においていた』
あの日々は全て間違いでアリストテレスとしての打算だったと彼は定義している。
家族ごっこは何処まで行っても猿真似でしかなく本物には絶対になれない。
そして彼は止めを刺す様に言葉という最強の武器を女に突き刺す。
ルファスのオリハルコンさえ超える強固な心を一瞬で粉々にしかねない槌を振り下ろしたのだ。
────本当に済まなかった。ルファスが自分を殺したとしたら、それは正しい応報だ。
────自分たちは出会うべきではなかったかもしれない。
それは赦し乞う声だった。
もう何十回も何百回もリュケイオンの人々が残されたルファスに対して放った優しく思いやりに満ちた最強の剣だ。
それはどんな伝説の剣よりも容易く女の心を穿っていく。
どんな悪意や理不尽にも負けない彼女の弱点は善意/思いやりから齎される痛撃だった。
ルファス・マファールはプラン・アリストテレスを殺した。
その事実だけが彼女には残っている。
決して直接手を下したわけではないが、死の要因を作ったのは彼女だった。
プランの言葉はもう少しだけ続く。
懺悔の後に来たのは本当に日常会話の様な幾つかの注意だった。
当時はルファスよりも年上だったプランは4年間ルファスを見てきて判った事をアドバイスしていく。
『お酒には気を付けなさい。
ルファスは覚えていなかったけど、結構貴女は悪酔いするタイプだから』
知っている。
何度も何度も彼はルファスに酒の楽しさと同時に危うさを説き続けていたのだから。
現在は完全に意識を失うまで飲むなどはしないが、どうにも酔いが回ると気が大きくなり無駄な散財をしてしまう時があった。
その度にアリエスに説教をされていたのはルファスの数少ない弱みだった。
『何かに夢中になるのは素晴らしい事だけど、しっかり睡眠を取るのも忘れない様に』
『睡眠時間に限っては質で量をカバーできないんだ』
ルファスは天翼族としてはあり得ない程に短時間しか眠らない。
それでいて寝ている間も常に神経の何処かは起きており絶えず警戒をし続けてしまう癖がついてしまっていた。
また自分が寝ている間に誰かが居なくなるのではないかと無意識に恐れているのかもしれない。
本当に偶に深く眠る時があってもその時でも彼女の翼は起き続けている。
本体の彼女よりも無慈悲で容赦のない全自動の迎撃機構として稼働を続け、少し先の未来では蠍の女と山羊の魔王がその餌食となっていた。
あと少しルファスが目覚めるのが遅ければアイゴケロスとスコルピウスの両名は死んでいたかもしれない。
如何に十二星天というルファス直属の重臣と言えど主の、それも女の寝室に無遠慮に足を運べばどうなるかは考えるまでもないのだ。
更にプランの言葉は幾つも続いていく。
決して踏み出すまいと決めていた彼の内心は此処にあった。
曰く高レベル存在としての自覚をもって行動しろ。
曰く食事はしっかりバランスよく食べる事。
曰く実はルファスはリュケイオンでは人気者だ。
曰く正直に話すが今もアリエスにおやつのトウモロコシを隠れて上げている。
女は何も言わず、動かず、瞬きはおろか鼓動さえ止まったような状態でじっと耳を傾けていた。
その表情に変化は何もない。
既に彼女はプランの教えを捨てた身、いまさらだ。
そして最後に彼は言った。
『お母さんや皆と幸せになりなさい。自分の事は忘れて自由に生きるんだ』
『改めて言う。自分のわがままで振り回してしまって申し訳なかった』
『罪滅ぼしという訳ではないけど、大丈夫。ルファスが戦わなくて済む様に準備はしておいたから』
『しっかり稼働すればずっとルファス達を守ってくれる頼もしい奴らさ』
『───さようなら。どうか元気で』
それを締めとしてマナ・ダイアモンドが光を失う。
しかしもう一度マナを送り込めば同じようにプランの声が聴けるだろう。
ルファスは足音を立てながら大股で壁に近づき結晶を取り出す。
そして……躊躇うことなく握りつぶした。
彼女は王であるのだから死者の声に惑わされてはいけないのだ。
ルファスは始める事にした。
やめろというプランの言葉を完全に無視し己の道を歩みだす。
翼を広げ己の中にある血の記憶を呼び起こす。
ウラヌスと同じ力を彼を超える領域で展開し周囲のマナを支配し、物質を掌握し概念をねじ伏せる。
今の彼女は正しく特異点であり不可能などない。
長い眠りから目覚め始めた祭壇が歓喜するかの如く震えながら起動しルファスと接続を開始。
床、天井、壁、あらゆる処から青い光の線が走りだしそれらはルファスへと伸びていく。
これは“腕”だ。
己に足りない最後にして最大のパーツを求める祭壇の意思の具現だった。
アリストテレスによって作られたコレはアリストテレスの計画を進めよとルファスに囁く。
彼女こそ正当なる後継者。
68番目のアリストテレスの素質を持つ者としてルファスを取り込もうとさえしていた。
そうすれば兵器群は至高の領域に至ることだろう。
かの“兵器”と併せれば女神の抹消さえ視野に入る。
そして光がルファスの身体に接触した瞬間、爆発的な逆流が起こる。
青が真っ赤な赤に塗りつぶされ、ソレはルファスの身体から祭壇のあらゆる個所へと物凄い速さで伸びていく。
天を覆う様にマナの流動、この宇宙の星々の星図が描き出されては消えてを繰り返し点滅し続ける。
やがて
その中央に立った覇者は燃えるような眼差しで祭壇に視線をやった。
竜王と同じく残骸になり果てた妄執を彼女は切り捨てる。
「お前たちの計画など知った事ではない」
私の怒りは余だけのもの。
かつてアリストテレスが抱いたソレに共感は出来るが、それだけだ。
最高傑作と称されたアリストテレスが消えた今、この祭壇は本来の計画を達成などできない。
「お前が余に従え」
掌を翳し認識したマナを引き寄せる。
膨大な、途方もなく膨大なマナがルファスに引き寄せられ出した。
龍の身体を導管として惑星規模で覇王はマナを操作し祭壇へと湯水の如き勢いで叩き込んでいく。
稼働率70、80,90,100……。
限界を超え、更に更にマナを宇宙から収奪していく。
軽い試運転の筈だというのにルファスのマナ吸収能力は常軌を逸脱しており、複数の星系に匹敵するマナが女神から奪い取られた。
収束されたマナは黄金の果実へと変換される。
それも一つや二つではなく、何十、何百、千を超える数に。
飽和したソレが床に散乱し転がり回る中でルファスは先ほどからずっと握りしめていた指を開く。
砂にまで変化したダイアモンドがサァァと床に落ちる。
ルファスはそれに対して一度も目線を向けない。
既に女は次にやるべきことを考えていた。
時は来た。
竜王の打倒という誰も文句を挟めない偉業を果たした今、彼女は人類共同体の代表───即ち人類の守護者の座を奪い取るつもりだ。
もはや彼女は守護者としての体裁さえ取り繕えてはいない。
ただ玉座に座り君臨しているフリをする生きた屍になりつつある。
その結果、僻地では共同体の威だけを振りかざす腐敗した権力者が大勢出現してしまっている。
中身のない空っぽのお飾り。
今のベネトナシュは文字通り人形へと変わりつつある。
それがルファスには許せなかった。
人類を纏める為という大義名分もあるが何より今のベネトナシュは気に入らない。
どれほど嫌だと思っていても自分で一度はやると決断してその椅子に座ったのだ。
だというのにその責務を正当な理由もなく投げ出すなど決してルファスは許さない。
ベネトナシュをぶん殴って目を覚まさせる。
嫌だと言ってもその椅子を奪い取ってやると彼女は決めていた。
素晴らしい状況です。“祭壇”が稼働を開始いたしました。
マファール陛下はやはり後継者に相応しい御方でありましたのぉ。
本当に惜しいモノですな。彼女が協力さえすれば目的は直ぐにでも果たせるというのに。
魔女が暗闇の中、何かに話かけ続けている。
返事はないというのにまるで会話しているかの様だった。
彼女にしか聞こえない幻聴か、はたまたあるいは本当に高次元の存在と波長が合わさってしまったのかは誰にもわからない。
どちらにせよ魔女───メリディアナは平時と変わらない酷薄な笑みを浮かべたまましゃがれた声で続ける。
“完成”にこれで大きく近づいた事でしょう。
……それともう一つ。施設に侵入の形跡がございました。
高度な精神操作の術と【エクスゲート】の残影から見るに女神の端末の可能性は非常に高いかと。
魔女は計画を回し続ける。
アロヴィナスの端末が来たという事はそろそろ蠍の出現も近いと彼女は文献から知っている。
その前に兵器群をもう一段階強化する腹積もりであった。
ルファス・マファールは竜王を葬り近く吸血姫と雌雄を決する。
魔神王はともかく魔神族の資源化は順調。
近い内にあの蛇も始末するつもりだが、それはまだ先の話。
はっきり言えるのはかつてミズガルズに君臨した“四強”という括りはもはや意味をなさなくなりつつある。
ならば最後の一つを自分たちが貰ってしまっても構わないだろうと魔女は思っていた。
ちょうど兵器群の仮想敵/実験対象として丁度いいのがいるのだから使わなくては。
“獅子王排除計画”
兵器群は次の標的を定めつつある。
ルファスに戦わないでほしいと願ったとしてもミズガルズには脅威が多々存在している。
ただ止めろというのは無責任な話だ。
だから彼女の代わりに戦う機構を用意しよう。
アリストテレス兵器群の生まれた根幹の一つはルファス達の未来の為である。
彼女は賢い。だから彼らに全てを任せれば大丈夫だときっと判ってくれるだろう。
( ˙꒳˙ )و ̑̑ グッ イイデキダッ
↑
兵器群の出来栄えに自信を見せるプラン。