ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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ついに最後の四強である獅子王の登場まで来れました。
そして来週は私事がありますので更新をお休みします。


野生の獅子王が現れた!

 

 

(……あ?)

 

 

 

空気がざわめく感覚を覚えてレオンは顔を上げた。

よく判らないが、何かが起きている。

己の支配する領土、王国に誰か、はたまたナニカが入り込んできたのは間違いない。

 

 

 

“獅子王”レオンは目まぐるしく変動していくミズガルズの流転の中でも殆ど外界との交流を絶っていた四強である。

吸血姫ベネトナシュが責任ある立場に就き、竜王ラードゥンが野望の果てに滅び、魔神王が沈黙を続ける中、彼は常に変わらない。

己こそが最強にして至上、その他は有象無象の雑魚。それが彼の全てだ。

 

 

 

深海を統べていたかつてのトリトン王と同種の傲慢さを彼もまた帯びている。

しかし誤解してはならない。

彼のソレは慢心ではなく純然たる実力に裏打ちされた現実味のある自負なのだ。

 

 

 

優に100メートルを超える超巨大な獅子の姿をした獅子王レオンは今までの生涯において当然ながら負けたことなど一度もない。

それどころか苦戦の経験さえなかった。

当たり前だ、だって彼は超越種なのだから。

 

 

 

レオンは誕生したその瞬間からレベル1000である。

余りに窮屈だったから母胎を内側から食い破って世界に産声を上げ、美味そうだったから近くにいた有象無象を食べ漁り生誕したのが彼だ。

素質だけで語るのならば彼は吸血姫を超えていた。

 

 

それどころかかつての竜王にも比肩する事だろう。

人類の価値観では野蛮と思われる思考だろうが彼は魔物であり、強者が弱者を蹂躙し貪るのは常識という世界で生きている。

 

 

 

彼の掲げる法はただ一つ。

 

 

弱肉強食である。

弱者は死ね。強者だけが有ればいい。

そして俺こそが永遠に最強。

 

 

そんな理論はいつも通りの答えを導き出した。

 

 

(何だろうと問題ねぇな。どうせ俺の前じゃ雑魚だ)

 

 

ラードゥン程に積極的な邪悪さはないが彼もまた傲慢な暴君である。

殆ど己の縄張りから出る事はないが、それでも気まぐれにミズガルズを散歩して人類の集落を潰した事もある。

最も本人は人を殺したという自覚さえないだろうが。

 

 

だがしかし。

本当に久しぶり……いや、初めて起きた異変に微かな期待を抱く程度には彼は人間味がある。

どうせ最後に勝つのは自分だが、その過程は中々に楽しい筈だと。

 

 

 

「少しは楽しませてくれるんだろうなァ?」

 

 

 

彼は常に退屈に苛まれていた。

余りに強すぎる力をもって産まれたせいで全てが上手くいき、何かをやろうという気概さえもてないのがつまらなくて仕方ない。

だから己の縄張りでもある広大な大陸に侵入者が大挙してやってきた時もいい暇つぶしになると思ったくらいだ。

 

 

 

そう、思っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央大陸の“開拓”は順調に進んでいた。

当初予定していた計画は問題なく進行し、その効率と進捗は354%ほど上方修正をかけられるほどだ。

まるで冗談の様な話であるがそれほどまでに兵器たちの進行速度は凄まじいのだ。

 

 

立ちふさがるあらゆる魔物や自然の環境など諸々を飲み込み進んでいく様はさながら大津波の様だ。

 

 

 

巨大な“箱”の形をしたゴーレムがあった。

およそ20メートルの完璧な正方形のソレは黒塗りで、装甲に切れ目一つない美しい陶芸品の様だった。

これはアリストテレス兵器群が新しい理論を以て製造した新型のゴーレムでありながらゴーレムではない特殊なユニットである。

 

 

もったいぶらずに言ってしまうとこの箱には魔神族が組み込まれており、無機質でありながら有機的な存在であるとミズガルズから判断されているのだ。

 

 

つまり魔神族とゴーレムの融合体だ。

わざわざなぜそんな面倒な事をしたかというと、このユニットは今までに前例のない特殊かつ極めて挑戦的な機能を盛り込まれていたからだ。

しっかりとそれが機能するかどうか、そして仮にこの試運転が成功すれば兵器たちは更なる飛躍を望めるのである。

 

 

 

更に言えば兵器だけではない。

人類という概念を再定義することさえ可能になるかもしれない。

生物を肉体という檻から解き放つことさえ。

 

 

 

“箱”の面の内の一つに孔が開き、そこからどす黒い光が漏れた。

光の正体はそれまた超小型のゴーレムたちである。

基本的に巨大で武装に満ちたゴーレムしか興味がもたれないミズガルズにおいて兵器たちは逆に超小型のゴーレムを作り出したのだ。

 

 

 

目視が叶わない程に小さなソレはたった一つの命題を与えられている。

 

 

 

即ち収穫である。

ナノ・ゴーレム達は周囲にある有機物を片っ端から回収し箱へと戻っていく。

草木に昆虫、細菌にバクテリアにウィルスに……とにかく何でもだ。

 

 

まるで働きアリが巣に獲物を持ち去る様にそこには一切の容赦も慈悲も躊躇いもない。

全ては人類の為に。未来の為に。少女の為に。

究極の大義名分が彼らを突き動かす。

 

 

 

 

残るのは生命一つない荒れ地だけ。

これは無駄な破壊を一切行わず人類が入植するにあたって開発しやすいための下地であるソレだけを残すクリーンな兵器なのだ。

更には空間に存在するマナと熱量さえ回収し母機である箱に戻ればこのゴーレムの真髄が開帳された。

 

 

 

 

【錬成】

 

 

 

【クリエイト・エネミー】

 

 

 

魔神族をパーツとして利用している故にスキルの行使が可能だった。

 

 

 

そして魔神族の概念的な脳を形成するマナが演算装置として利用され、それは取り込んだ全ての有機物を分析し理解。

その後に前もって入力されていた設計図をスクリプト処理しマナと有機物を燃料/資源として構築。

魔神族を生成し、それを分解処理しゴーレムと混ぜ合わせた上で実行。

 

 

結果、魔神族というオブジェクトをめり込ませた状態でゴーレムが作られる。

 

 

瞬く間に箱の前にもう一つの新しい箱が現れる。

この中にも魔神族は埋め込まれており問題なく親と同じことが出来るだろう。

同じ手順で箱は己を複製し続け始めた。

 

 

 

一つが二つに。

二つが四つに。

四つが八つに。

 

 

この存在に補給も修理も必要ない。

全て現地調達で賄えるのだ。

 

 

 

四度目の増産を行った時点で周辺の生命とマナは根こそぎ奪われ、寒々とした空間だけが残る。

あらゆる生命を燃料に倍々に増える。

完璧に設計されたゴーレムは完璧にその機能を実行してくれた。

 

 

 

もしも仮に制御から離れた場合、三カ月でミズガルズという惑星を丸ごと飲み込むことが可能だという計算結果が出ていた。

 

 

 

そして何より大事な事として。

パーツとして接続された魔神族は生きている。

人形に生きているという表現は適切ではないが、生命の模倣活動そのものは問題なく続いている事が大事だった。

 

 

 

人の模倣存在である魔神族はゴーレムの一部にしても自我は残せるし生体活動は行える。

この一点のみが重要なのだ。

 

 

 

生物/人類はゴーレムと融合しても生存できる。

その証明の第一歩が果たされたのだから。

まだ完全ではないが取っ掛かりは得られた、後はそれを元に分析と改善を続けていけばよい。

 

 

 

空中では無数の竜や巨大極まりない蜂が飛翔し次々と逃げ惑う魔物たちを撃ち滅ぼしていく。

特に蜂の尻尾からはどんな原理なのかは判らないが何本もの針が射出され、魔物達を的確に孔だらけの残骸へと変えてしまう。

惨殺された屍にナノ・ゴーレムが纏わりつき更に箱は増殖した。

 

 

 

ゴァアアアアアアアアア!!!

 

 

身の毛もよだつ唸りを上げて全長30メートルはある熊の魔物が箱へと飛びかかる。

咄嗟に迎撃に入った蜂の放つ針を右に左に躱し、竜のブレスさえも避けてその獰猛な牙を突き立てんと猛った。

何とそのレベルは530。周囲一帯を縄張りにしていた土地の主がこの魔物だ。

 

 

獅子王には遠く及ばないまでも一昔前であれば人類の国家を壊滅させることなど容易い怪物だった。

しかし今の兵器群にとっては敵でさえない。

新型の武装を試す相手にはちょうどいいとしか思われていなかった。

 

 

 

 

対応するために箱の一部が展開。

一瞬だけ表面に青い光のラインが走ったかと思えば直ぐに箱が持つ唯一にして最大の武装がばら撒かれた。

 

 

 

箱から幾つも放り出されたのは淡い光の塊だった。

これはマナ結晶を加工した実弾兵器であり、中には天力と魔力を凝縮した結晶が入っている。

対となる力の総量は適切に計算されており兵器群が意思を送り込めば天と魔の力は混ざり合い極小規模で反応/対消滅を引き起こす。

 

 

 

適切に処置された天力と魔力はエクスゲートを形成する。

意図的に暴走させさく裂させればブラキウムとなる。

ならば、適切に暴走させた場合は?

 

 

その結果がこれだ。

 

 

パァンという呆気ない音と共にクマの頭が消えた。

血さえ噴き出ない程に見事に。

更に風船が割れるような軽い音が木霊し右足、左腕、胴体と空間ごと抉られたように虫食いに覆われて魔物は消えていく。

 

 

 

新兵器は問題なく稼働し兵器群と情報を受け取った魔女はコレの量産を即座に決定した。

いま効果を発揮した新兵器の名は【ブラキウム・トルーピードー】といった。

またの名を【エクス・トルピードー】という。

 

 

 

神話に名高い【ブラキウム】は【エクスゲート】をあえて不安定な状態でさく裂させ世界の構造を乱す一撃を放つことであらゆる防御と回避を無効にする破壊兵器である。

しかしこれの問題は取り回しが悪いことに尽きた。

一発の破壊力は見事であるが、オリジナルである女神の天秤でさえ連射は叶わないという効率の悪さだ。

 

 

 

しかもこの技は一瞬で99999ダメージを与えるわけではなく爆裂的な波動を相手に浴びせ続ける事によって段階を経てダメージを与えるのだ。

簡単に言えば物凄い速度のスリップダメージである。

 

 

 

しかし一撃でダメージ限界の数値を与えられないのは非効率ではないかと当時のアリストテレス卿は考えていた。

彼からすればいちいち周囲を気にして隔離領域を展開するのは無駄だし、24時間に一発しか撃てない事も見逃せない欠点だ。

故に基本的に当代──プラン・アリストテレス卿と似通った思考回路と設計思想をもった兵器群の意思はそれらを修正したのである。

 

 

 

第一段階として開発されたのはエクスゲート弾道ゴーレム。

これは小型化には拘らずとにかく【ブラキウム】を迅速に発動させることだけを目標に作られた使い捨ての兵器だ。

【エクスゲート】と併用することにより迎撃はおろか捕捉さえ困難であり、それでいて何処にでも大規模な【ブラキウム】を叩き込める画期的な兵器だ。

 

 

 

そこから得られた情報を元に兵器は更に進化する。

何千何万発もの弾道が製造された果てにブラキウムへの理解が進み、より効率よく、より小規模で発動させることが可能になるほどに。

つまり実弾に天力と魔力の結晶を込め、仕掛けを施す事でごく小規模のブラキウムを発動させるのだ。

 

 

 

 

対人から家屋程度の大きさの魔物を相手に的確に狙える程に兵器は小型化された。

ゆくゆくは兵隊級のゴーレムたちがブラキウムを発射する銃を所持するかもしれない。

 

 

 

文字通り空間ごと抉る攻撃を受けた熊の部位で残ったのは左足だけだ。

それが風に煽られてパタンと倒れればすぐに真っ黒な光が覆い尽くし次の箱が産み落とされる。

 

 

 

遠くから見守っていた一回り小さな熊の魔物達───恐らく子供だろう───が容赦なく蜂の針にめった刺しにされて肉片へと変わった。

 

 

 

 

兵器たちは侵攻する。

あらゆる人類以外の命を踏みにじり糧にしながら。

逃げようと戦おうと、命乞いしようと何も変わらない。

 

 

 

地点を確保したと判断され、アルゴー船から何本もの“塔”がまるで錨の様に落とされる。

例の如くこれも【エクスゲート】を応用した兵器であった。

一方通行の回廊を開く機能を与えられたソレは直ぐに起動を開始し開かれた黒い孔の中からうじゃうじゃと巨大な魔物達が送り込まれてくる。

 

 

 

もやはいちいち巨大な魔物を船の限られたスペースに収納しておく時代は終わった。

エクスゲートの始点を本国に用意し、アルゴー船から終点を落とすだけでいい。

兵站という概念など既に兵器群は超越している。

 

 

 

押し寄せる兵器によって平等に全てが消されていく。

ほんの数時間で幾万の魔物が食い荒らされ兵器たちが通った後は全てが平らかだ。

正に理不尽の権化としか言いようがない所行であったが誰も気にもしない。

 

 

 

 

 

何せここにいるのは兵器たちだけだ。

此度の遠征に参加した生身の人類は本当に数える程度で、それらが前線に出る事はない。

予想外の事があった場合に判断を下す為の最低限の人員しかこの戦争には動員されていない。

 

 

 

司令船で任務についていたある男が肩を震わせていた。

ゴーレムたちから送られてくる映像を水晶玉越しに見ていた彼は眼下で巻き起こる大惨事に言葉を失っている。

こんな事が、こんな事があるなんて。

 

 

右手の人差し指を何度も何度も摩る。

まるでそこにこびり付いた汚れを落とそうとするかのように。

 

 

 

彼らの平時の任務は簡単だ。

兵器たちが大規模な武器や能力を行使する際に出てくる承認ボタンを押せばいい。

 

 

 

 

それだけだ。

人がやるのはそれだけでいい。

たったそれだけで万を超える命を奪い、大陸の自然を破壊し、全てを蹂躙することが可能だ。

 

 

わざわざ生身の人類が汗水たらして血を撒き散らし命の危険を冒すなど馬鹿らしい。

そんな時代はもう終わったのだ。

戦争などさっさと終わらせるに限るのだから。

 

 

 

人類はアリストテレス兵器群におおまかな戦略目標を伝えるだけでいい。

そうすれば後は全て勝手にやってくれる。

兵員の招集と武装の準備も。

兵器の装填も、戦術の立案も、戦後の計画まで完璧にやってくれる。

 

 

 

人は全てを委ねるだけでいい。

兵器たちはどこまでも人類に忠実なのだ。

故に人は変わらなくてはいけない。

 

 

 

兵器たちに全てを委ねるのは大前提として、今のバリオン物質で作られた脆弱な有機生命体のままでは余りに弱すぎる。

もっと進化し変わらなくてはいけないのだ。

アリストテレスが人類を護るために、永遠に安全と平和、秩序を確保するためにも。

 

 

もっと守るのに適し、管理されやすい形態への進化を行うのは当たり前の話だ。

 

 

 

“人類の再定義”の日は近い。

 

 

 

 

 

 

一週間で中央大陸の半分は兵器群に掌握され、大規模な環境の改造が行われていた。

まずは邪魔な樹木などは丸ごと収奪し、その後に人類にとって益のある苗や栄養価のある土を敷いていくのだ。

この作業は巨大なアリたちが行う事となり、その速度は正に常軌を逸しているとしか言いようがなかった。

 

 

普通ならば何万もの人員が何カ月もかけて行う作業をほんの数時間で終えるのは驚異的としか形容できない。

 

 

 

地質の改善や土壌そのものの入れ替え、新しい植物の植え付けなど蟻たちにとっては呼吸にも等しい。

瞬く間に大陸は作り替えられていく。

栄養豊富でどのような作物であろうと問題なく育つ理想的な土とそれを十二分に生かせる川の建造。

 

 

 

獅子王が作り上げ放置されていた土地はさながら誰も手を加えていない粘土の塊であった。

であるのならばアリストテレスと言う芸術家がそれを整えるのは道理だ。

ある神話において神は世界を七日で作ったという、ならば今まさに世界を作り替えようとするこれらは一体何なのだろうか。

 

 

 

魔女は頷き、顔を歪めた。

勿論、アロヴィナスなどという紛い物とは違う本物の神である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チッと舌打ちをしレオンは眼前の空間を見つめた。

ここ数日風の流れがおかしい。

血と油の気持ち悪くなる臭いばかりが漂ってくる。

 

 

 

それに妙な気配がありとあらゆる方向からする上に、じっと自分を見定めている不快な視線を感じる。

 

 

 

これは監視というよりは品定めというべきか。

まるで高みから下々を見下ろしているようだった。

その事実を前に“獅子王”は黒い唸りを上げ牙をむき出しにする。

 

 

 

 

気に入らねぇ。

見下すのは俺だ。

この世の全ては俺の下で、俺だけが上だ。

 

 

 

獅子王は苛立ちも露わに怒声を飛ばす。

それだけで重爆撃に匹敵する衝撃が発生し大地に亀裂が入り雲が吹き飛ぶほどだった。

 

 

 

「出てきやがれッ! そうすれば一瞬でぶっ殺してやる!!」

 

 

 

レオンに満ちるのは怒りだった。

産まれてから今までここまで舐められた事などない彼は前代未聞の侮辱に心底切れていた。

どこの誰がこんなことをしているかは判らないが必ずぶっ殺してやると決めていた。

 

 

 

一瞬の間の後にジジジとレオンの前で空間が解れていく。

扉が開くように大規模な【エクスゲート】が展開し淀みない動作で巨大な怪物が一体現れる。

兵器群が作り出した超大型の魔物を殺すための大型戦闘ユニットだ。

 

 

獅子王相手に何処まで通じるかの実戦テストだった。

 

 

それは深紅の鱗、装甲に覆われた二足歩行する怪物だった。

しかし断じて人型であっても人ではない。

竜の顔と尻尾を持ったソレは何処かかつてのラードゥンに似ている。

 

 

 

 

全身を覆い尽くす深紅の殻はまるでゴーレムの装甲の様だ。

生物的にしっかりと歩いている様子とはうって変わってその姿は無機質な機械にしか見えない。

全長はレオンには数段劣るとは言えそれでも70メートルはある。

 

 

そして一際目につくのは左右の腰から生えた三日月状の刃だ。

何故そんなところに付けたのかは不明だが鋭利なソレは触れでもしたらただじゃすまないだろう。

 

 

 

 

大型戦闘ユニット87。

 

 

“ギガ級”

 

 

 

個体名などないコレはナンバーで呼ばれている。

ほぼ無尽蔵の資源を活用するアリストテレス兵器群でも個体数の少ない、つまりかなりのリソースを投入して作られた怪物だ。

蒐集した竜王の因子と無数のゴーレムの戦闘データ等を複合し、一から設計された正真正銘の人工生命体だ。

 

 

 

竜と人の要素の良い所だけを抽出し混ぜたような外見はさながら伝承に存在する竜人の様だ。

 

 

高濃度のマナによって生物が魔物に変異するのをただ待つだけなど無駄でしかない。

進化という概念は既にアリストテレスの掌中にあり、命とは設計されるものなのだ。

 

 

 

ギギギギギ……。

 

 

 

金属が引き延ばされるような不気味な音を立てて怪物は獅子王の前に堂々と佇む。

その様が気に入らずレオンは顔を歪めてしまう。

今まで自分の前に出てきた奴は例外なく誰であろうと恐怖し命乞いをしていたというのに。

 

 

ムカつく。

だから一瞬で殺すことにした。

いつも通りだ、何故ならば獅子王とは最強なのだから。

 

 

 

 

ガァァアァ!!

 

 

 

無駄な問答などせずに大口を開けて膨大なエネルギーの奔流を発射。

竜のブレスにも近いソレは“獅子王”の持つ膨大な魔力の照射である。

 

 

技術など何もない。

ただ無尽蔵のエネルギーに指向性を与えて放つだけでレオンのソレは大陸に消えない疵をつけるだけの威力がある。

いつもこれで終わりだ。そして今回も。

 

 

 

数秒にも及ぶ暴虐の後に光が収まれば先の怪物がいた個所には何も残っていない。

溶解した大地と焦げた大気に残留するプラズマだけだ。

 

 

 

ニヤリとレオンは口角を上げる。

ほんの僅かだが気が晴れ────。

 

 

 

「グォォォッ!!??」

 

 

 

突如として脳天に何かが衝突した衝撃が走りレオンは反射的に呻きを上げる。

ありえない事に彼の思考は混乱に満ちてしまった。

攻撃を受けたのは判ったが、誰に何をされたのかが判らない。

 

 

 

だって、あのクズは跡形もなく殺してやったはずだ。

そして誰に攻撃を受けたにせよ、自分がこんな脳天を揺らされる程のダメージを受けたという事も理解できない。

 

 

 

 

───ギギギギギ

 

 

 

またあの音だ。

金属が軋んで歪んでいくような不気味で不快な音だ。

それが頭上から聞こえ、レオンは眼球だけを動かしてソレを見た───いま殺した筈の竜の顔を。

 

 

 

真っ赤な装甲には傷一つないのを見て取ったレオンは一瞬だけ驚愕したが直ぐにその理由を察する。

怪物の後ろの空間に孔が空いているのをレオンは見た。

アレが何なのかは判らないが、きっとこいつはあそこから出てきたのだろうと当たらずとも遠からずな答えにたどり着く。

 

 

 

「───てめェ」

 

 

地獄の悪鬼でさえ出せないであろう殺意に満ちた声で呟いた。

激痛が怒りの火種となり獅子王の全身を炙る。

更に追撃などを加えようとする屑にそうはさせまいと身を捻り強靭な尻尾で竜を薙いだ。

 

 

 

発生した衝撃波が遠くの山を真っ二つにするほどのソレに対して竜人の反応は驚くものだ。

何と掌で迫りくる尻尾を軽くはたいて直撃の軌道を曲げた後につかみ取り、そのまま引っ張る。

すると獅子王の数十万トンはある巨体がいとも簡単に引っ張られる。

 

 

 

そのまま竜人は大地にしっかりと両足を固定し、腕だけではなく腰まで使ってレオンを超高速でぶん回してしまう。

全ての負荷が集中した尻尾の付け根から嫌な音がしようとお構いなくだ。

 

 

 

「アアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 

 

その結果、レオンは産まれて初めて空を舞う事になった。

竜人は兵器の一種である故に躊躇いや慈悲などない。

十分に加速したと判断し、手を離せば獅子王の100メートルを超える巨体は超音速で地平の果てにあった山脈に向けて叩きつけられる。

 

 

 

いや、叩きつけられる前に兵器は追撃を行った。

胸部が展開すればその内側にあったのは巨大なマナ・クリスタルだ。

深紅色のソレは「火」属性のマナを超高密度に圧縮した逸品でありコレ一つを作るのに高レベル魔神族30匹が必要な希少品である。

 

 

 

閃光が満ちる。

超強力な火のマナが胸部より濁流となって放たれ、ソレは途中で複数に枝分かれした後に【エクスゲート】の中に消えた。

かつてはゴーレムを用いて運用していた【エクスゲート・フレア】をこの兵器は単体で何度でも使える。

 

 

威力の調整や連射速度、命中精度といったあらゆる要素が前世代とは比べ物にならない。

アリストテレスの兵器は更新される度に以前の課題を全て克服するのは常識である。

 

 

 

全てが光速で過ぎていく景色の中であってもレオンは見た。

虚空に幾つも開いた孔から膨大な量の業火が押し寄せてくるのを。

 

 

 

一瞬で周囲一帯が炎に抱かれ、その中心でレオンは生きたまま火葬されてしまう。

 

 

 

「クソがぁああああああああ!!!」

 

 

 

絶叫。

しかしそれも直ぐに消え去る。

着弾と同時に大陸を揺らす程の怒声が響いた。

 

 

 

数秒後、発生した超大な衝撃が炎を吹き飛ばす。

 

 

 

「舐めやがって、このクズがァ……!!!」

 

 

 

全身を炙られた獅子王がそれでも衰えをみせずに踏み出す。

王の偉大さの象徴とも言えた紫色の体毛は所々が焦げてしまっているがそれでもレオンの生命力はまだまだ底なしだ。

 

 

キュィンと竜人の瞳に当たる部位にあるカメラが細まった。

つまり、もっと多くの事を試せるという事だと兵器たちは判断した。

 

 

 

判断してしまったのだ。

 

 




アリストテレス兵器群 ユニットデータ


大型戦闘ユニット ギガ級 
分類 第二世代型戦闘端末。
仮想敵 レベル900から1000。


全長70メートル前後。
完全なる二足歩行を可能とした深紅色の竜人のような姿をしている。
今まで兵器群に属する魔物は全てが生物から変異した存在であったが
コレは細胞から完全にデザインされ組み立てられた過去に類似する者のないオリジナルだ。


最大の特徴は単体で瞬時に【エクスゲート】を展開し短距離ならばワープ移動できることであり、胸部から放つフレアと併せて【エクスゲート・フレア】の行使も可能。

今はまだ高コストだが量産体制が整うにつれてそれもこなれてくることだろう。
中央大陸遠征には30ユニットほど参戦している。


余談であるがレオンが最初から侮らずに本気でかかれば一体か二体は倒せた筈だった。






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