ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
“アルナスル”“エクスゲート”
目標点到達完了。
外部星系自動化工場稼働を開始。
時間断層 加速レベル300倍に設定。
“四強”最後の一つ獅子王と兵器群のユニット87ギガ級の戦闘は続いていた。
斬撃。
竜人の鋭利な爪がレオンの腹部を深くえぐった。
飛び散る血と肉、そして発生する激痛。
激怒などという言葉が生ぬるく聞こえる程に切れたレオンの渾身のブレスを竜人は瞬間的に開いた【エクスゲート】でいなす。
膨大なエネルギーの濁流といえど宇宙空間に飛ばされてしまえば意味はない。
殴打。
怒り狂った獅子王の攻撃を腕を交差させて容易く防いだ竜人は膝で思い切りレオンの顎を蹴り上げた。
突き抜ける衝撃が雲を吹き飛ばし、巨大な獅子は頭を大きく後ろに逸らし胴を無防備に晒してしまう。
そこに叩き込まれる連打。
右、左、右、左と拳を撃ち込まれる度にレオンは己の内臓が潰れ、骨格が軋む音を聞く事になった。
駄目押しと言わんばかりに回し蹴りが獅子王の延髄にさく裂し、思わずレオンはよろめいた。
そのまま倒れそうになった所をそうはさせまいと首根っこを掴まれそのままレオンは大地に叩きつけられ、起き上がろうとした所を踏みにじられる。
何度も何度も体重を乗せてプレスされ顔面が大地に深々とめり込んでいく。
「クソォォォォォっッ!!」
余りの意味不明さにレオンは怒りのままに叫ぶ。
誰がどう見ても自分は敗北しそうになっている事などとうに彼は気づいていた。
しかし高すぎるプライドはそれを許さない。
俺は獅子王レオン。
俺こそ最強だ。
それ以外は全部雑魚。
本当に原始的で単純なソレは今までは真実だった。
だからこそ彼は認める事など出来ない。
己の落日が今日であるなど。
着実に命が削れていくのを実感しながらもレオンはプライドを捨てられない。
こんな意味不明で気持ち悪い気配を出している屑に己が本気を出すなどあり得ないと。
その結果は嬲り殺し。
片腕は潰され、牙は折られ、尻尾は切断され、視界も霞む。
それでも“獅子王”は倒れない。
流石は最強の魔物だったというだけはある。
しかしそれだけだった。
苦痛と憎悪により彼は狂ってしまっていた。
怒りによって冷静な判断が出来ず、己の力を思う様に発揮させられないままレオンは追い詰められていく。
もしも最初から本気でやっていれば結果は違ったかもしれない。
後続が控えているとは言えこのユニットだけならば撃退できた可能性は十二分にあった。
慢心。
彼がこのザマの理由はそれに尽きた。
誕生した瞬間から他者を圧倒する生命体だったのは間違いないが、そのせいでレオンは本気の出し方を知らないのだ。
ベネトナシュやエロスにも言える事だがなまじ強大な力を持って産まれてしまうとそういった陥穽に陥りやすくなるのかもしれない。
「殺してやるッ……ころしてやるぅぅッ……!!」
荒い息と共に血が噴き出る。
周囲には彼の出血により真っ赤な湖が出来ていた。
既に残りのHPは3割を切っており、大してユニット87は殆ど損壊がない。
戦闘が長引けば長引く程にユニットの動きは洗練を繰り返し、今ではほとんどの攻撃を回避される有様だ。
がむしゃらに暴れ回った際にたまたま掠ったせいで肩の装甲の一部に傷がついているがそれ以外は無傷だ。
竜人は無機質に佇みじっとレオンを観察している。
まるで子供が籠の中の虫を見る様に。
ブクブクと泡を立てて装甲が回復していく。
生物としての代謝の様に彼は自己再生さえ出来るのだ。
プライドを削られながらもレオンは何も出来ない。
かつてベネトナシュも掲げていた理念、強者こそが正義が帰ってきただけなのだ。
彼は産まれた時から最強で、最強のままだった。
何かを学んだ事などない。
つまり言ってしまえば赤子の頃から何も進歩していなかった。
ベネトナシュと同じくレオンもまた先を征く者だったかもしれないが追いつかれた、それだけの話だ。
(こいつ、俺を……何だと思っていやがる)
ユニットの目は冷たく無感情だった。
見られているというよりは観られていると言った方が適切かもしれない。
家畜を値踏みする業者のようだ。
その奥に数えきれないほどの“目”があることをレオンは悟ってしまう。
こいつはただの指先で自分がいま戦っているのはとてつもない数の軍勢を細胞とした巨人であることをレオンは判ってしまった。
仮にこれを倒しても次がやってくるのは彼でも判る。
戦闘能力評価 下方修正。
対してユニット87───アリストテレス兵器群はレオンに対する興味を失いつつある。
最後の“四強”としてメリディアナは念入りに情報を収集し対策を練ってきたのだが、そのほとんどは使われずに終わりそうだ。
人の感情で言えば“拍子抜け”に近いものを兵器は覚えたのかもしれない。
“獅子王”は弱い。
少なくとも他の三者に比べて明確に劣っている。
そうアリストテレス兵器群と魔女は判断した。
ギガ級が負けそうな場合はエクスゲート弾道ゴーレムを30発ほど叩き込む準備もあったのだが無駄に終わりそうだ。
ラードゥンの様に【クラス】を所持し勇者/女神の力を振るう訳でもない。
ベネトナシュの様にレベル上限を突破し吸血鬼としての能力を使いこなす事も出来ない。
魔神王とは……言うまでもないだろう。如何にレオンが最強の魔物と言えどあれは存在の格が違う。
ではルファス・マファールと比較して?
そんなの時間の無駄だ。
何はともかくこのつまらない存在の抹殺を以て此度の任務は終了だと判断した兵器たちは増援を送る事を決定。
【エクスゲート】が幾つか開かれ、レオンの前に更に深紅の装甲に覆われた竜人が2ユニットほど現れる。
合計3体の怪物がもう用はないと言わんばかりの視線を向け、獅子王は背筋によく判らない感触を覚える。
こいつらは俺を殺す気だ。
その事実だけが彼に追いついてきた。
永遠に続くと思った栄華の日々は今日で終わり。
己に明日は来ない事を悟ったレオンは唇を戦慄かせた。
“やめろ。俺を殺すな”
“死にたくない!”
そんな言葉が口をついて出そうになるが彼は“獅子王”レオンだった。
命乞いなど彼の在り方ではない。
産まれた時から信奉していた理念に彼は従う。
「かかってきやがれ雑魚共がァっ! 俺が負けるかァッっ!!」
俺が最強。
俺が頂点。
絶対に、絶対にだ。
文字通り死んでも彼は敗北など認めない。
こんな意味の分からない気色わるい奴らになど猶更だ。
一匹でも多く道連れにしてやると決めたレオンの身体に活力が満ちる。
全身に宿ったマナが激しい感情によって活性化し、それは彼にステータスでは表せない力を齎した。
多くの血を失い、身体の所々も欠損しているというのに身体が軽くなる。
ユニット達が緩慢に、しかし確実に動き出す。
あの金属が無理やり引き延ばされるような不快な音と共に。
そこに満ちる殺意は濃厚で、今度こそ容赦なくレオンを殺す為に。
しかし獅子王もまた王。
彼は目前にある死を直視しながらも逃げず、むしろ食い尽くしてやると折れた牙をむき出しに唸る。
そして────兵器たちの動きが停止した。
確実にレオンを殺せるだけの戦力があるというのに。
このまま戦えば勝利は絶対なのは間違い無い筈なのに。
(何だ……?)
極限まで本能を活性化させたレオンは目ざとく気づいた。
ユニット達の注意/視線が自分から離れたのを。
幾ら瀕死とはいえ目の前の敵から眼を背けざるを得ないナニカがあったのか?
(何を見てやがる?)
自分ではない。
この気持ち悪い奴らの目線の先は。
獅子王の視線がゆっくりと相手のソレを追うように動く。
黒い点……いや、翼をレオンは見た。
誰かが己を庇うように空に浮かんでいる。
黒い翼と金髪の、線の細さから恐らく女であろう誰かが。
「邪魔すんじゃっ───ぐッッッ!!??」
己の闘争に水を差されたレオンが怒りのままにちっぽけな女を潰そうと前足を上げるが、身体が硬直してしまう。
深紅の瞳で一瞥されただけでレオンは理解してしまった。
己が下で、この女が上だと。
女は言っていた。
死にたくなければ何もするなと。
「ちくしょうがぁぁァァァ……!!」
噛み締めた歯の隙間からおぞましい唸りと悲鳴を漏らしながらもレオンは動けない。
そして何よりも彼が許せなかったのはこの化け物たちの所業よりも、いきなり入って来た女のムカつく傲慢さでもなかった。
ほんの少しだけ、命が助かってよかったと思ってしまった己の不甲斐なさだった。
数秒間兵器群と女が睨み合う。
高まる緊張は空間を震わせてしまうほどだった。
どれほどの逡巡があったかは判らないが兵器群は次の動作を選択。
ユニット87が掌を広げるとその上に【エクスゲート】が展開し此度の計画の責任者たるメリディアナが現れる。
老婆は本当に意外な展開を前に笑顔で女───ルファスを迎えた。
「これはこれは。まさか貴女様が来られるとは思いませんなんだ」
満面の、たとえそれが見せかけだとしても魅力的な笑顔のメリディアナに対しルファスは無表情だ。
翼は常にささくれており一瞬も油断せずこのレベル的には遥か格下の老人を注視している。
「見ての通り獅子王の排除はもう間近。この大陸も我々人類の新天地となりましょう」
魔女が杖でレオンを示す。
既に血液などをはじめとした因子の回収は終わっており、後は殺すだけだ。
こんな奴、生きていても意味などないと心からメリディアナは思っていた。
竜王や魔神族に比べればマシとはいえ獅子王レオンは間違いなく人類の敵だ。
殺した人の数だって決して少なくはない。
ならば殺せるときに殺しておくべきだ。
そうすれば少なくともこの世界から人類の脅威が一つ減るのだから。
「後はほんの少しの詰めを終わらせるのみ。ささ、どうかソレをお渡し下さいませ」
「断る。コレは余が奪う」
満身創痍のレオンを翼の先端で示せば魔女は数秒固まった。
そしてメリディアナの表情が初めて微かに変わる。
決して不快ではないが、なるほどそう来たかと。
メリディアナはルファスが私兵集団を作り出している事を知っている。
確か覇道十二星天といったか。
名目の上ではゾディアックの軍備を整えると言っていたが、実態はアリストテレス兵器群への対抗だということくらい判る。
「ふむ、ふむぅ……十二星天の名は私めも存じておりますとも。その一角に?」
「そうだ。“獅子王”の力があれば余のゾディアックは更なる輝きを得られるだろう」
ククっ。
老婆は喉仏を大きく動かして深く笑った。
そんなものに何が出来るのやら。
「困りますな。此度の遠征計画においてソレの死は必須事項である故」
「如何にマファール陛下と言えど、共同体より正式な勅を受けた我々の邪魔は問題ですぞ」
「共同体は既に余の掌中にあるのは知っている筈だ。余の言葉は共同体の意思である」
メリディアナの牽制するような言葉の刃にもルファスは臆さず堂々と返す。
薄く嗤う覇王の姿は正しく独裁者であり、己の意に全てが従うのは当然と言わんばかりの振る舞いだった。
「そも、其方らの解体は確定事項。遠からず消え去る者らが余の邪魔をするつもりか?」
「まだ正式には決まっておりませんなんだ。えぇ、粘り強さには自信がありますじゃ」
アリストテレス兵器群の解散を決定したルファスであるが、当然ながら反発はすさまじいものがあった。
純粋に強いだけではなくあらゆる意味で理想の軍隊である兵器たちを失うなどあり得ないと考える者も大勢いたのだ。
結果、凄まじい反論が湧き上がり共同体は今やルファス派とメリディアナ派に割れてしまっている。
世界は色分けされつつある。
未来を都合の良い管理者に委ねるか、ルファスと共に人の業と戦い続けるか。
この戦いの勝利者こそが女神へ弾劾を叩きつける権利を得る。
しかしこの戦いにおいてルファスは苦戦していた。
まず第一に兵器たちは汚職しない。
力を笠に着て横暴に振る舞いもしないし、休憩もしない。
一分一秒も休まず人々を護り続けているのは確かな実績だ。
メリディアナは巧妙であった。
この細く小さな老婆はあらゆる情報媒体でひたすら兵器たちは人類の守護者であると発信し続けたのである。
求められるままに治安を維持し、空から国民を見守る彼らこそ最高の隣人であるのだと。
更には教育にまで手を入れ、如何にアリストテレスが素晴らしいのかを説き続けている。
各国の有力な位置にまで上り詰めた混翼たちもコレを排することは出来ずされるがままだ。
彼らにとってアリストテレス卿を否定することは今の己の否定に等しいのだ。
実際これは中々に効果を発揮していた。
兵器たちの人類への献身と働きぶりは凄まじいものがあったからだ。
街道から賊は消え去り、どんな辺境の村であろうと魔物に襲われる事も殆どなくなった。
完全とはまだ言えないが世界は良くなりつつある。
しかし裏を返せば共同体に参加していない国は野放しでやられ放題ということでもある。
残るは自然災害だけだが、これも何かが起きても兵器群は迅速に行動し被害を最低限に抑えてくれる。
地震が起きれば建物の撤去や隆起した大地の慣らしを。
大雨による洪水ならば増水した水とスライムを同化させて移動させ。
嵐が来たとしても雲を吹き飛ばすなど今の彼らからすれば容易い事だ。
何が来ようと彼らは全てやってくれる。
運悪く魔神族に遭遇したとしても悲鳴一つ上げれば瞬間的に兵器たちは駆けつけてくれる上に、どれだけ破壊されようと人を護るために戦ってくれる。
戦争なども一般の人々には遠くなり、戦が起きる度に行われていた徴兵も撤廃された。
多くの人がこう思った事だろう。
全てではないが世界は変わりつつある。
少なくとも共同体の内側においては。
“良い世界になった”
“豊かになったなぁ”
“もう戦わなくていいんだ”
“彼らに全部やってもらえばいい”
例え力があろうと誰でも戦えるわけではない。
誰でも頑張れるわけではないのだからこれは当然と言えた。
ミズガルズから理不尽を消し去るという意味ではメリディアナのやり方は本当に効率的だ。
実の所を言えばルファスは彼女の功績は認めていた。
個人の好悪という基準で言えば彼女は意外な事にメリディアナを非常に高く評価していた。
己たちと比較しレベルは確かに低く、寿命間近の人間種の女ではある。
しかし言葉では表現できない強さを持っている事を彼女は知っている。
女神という高みばかり見ていた節のある彼女に改めて人の手強さを思い知らせてくれたのだから。
だがしかしルファスはアリストテレスの遺産を認める訳にはいかない。絶対に。
今はまだいい。
しかし本能が絶対に気を許すなと叫び続けているのだ。
何せこの者達の製作者はあのプランだ。
そう、プラン・アリストテレスが作ったというだけでナニカ裏があるとルファスは判ってしまう。
世界に諦観し人類を信じて居ない人が作った兵器が果たしてどうなるか。
効率の名のもとにきっと碌でもない事をするとルファスは確信している。
メリディアナは杖を両手で握りしめ、ルファスの背後で屈辱に震えるレオンに嘲笑を向けながら言った。
「此度の結果を垣間見れば、人々には我々が必要であると明確なのは疑いようがないかと」
「それを決めるのは余だ。其方ではない」
余の世界に其方らは必要ない。
ルファスは一切の誤解が生まれないほどにはっきりと断言した。
とりつくしまもない徹底したルファスの拒絶に老婆はため息を吐いた。
次にまるで聞き分けの悪い子供を諭すような口調で言う。
「貴女様は人類に果実を配ると申しましたが、レベルだけ上げたとしても戦いに向かない者は大勢いるのです」
「私めは簡単な話をしております。こういった行為は我々暴力装置にお任せくださいというだけの話です」
魔女の述べるそれは気質の話だ。
力があるから戦えるというわけではない。
中には血を見るのも嫌だという者や、そもそも他者に暴力を振うのを嫌悪する人だっているだろう。
仮に全人類のレベルを1000に揃えたとしてもそこでも“差”は産まれる。
ステータスとクラスを全く同じにしても違う人である以上は優劣は必ず出来るとメリディアナは知っているし、ルファスもそれは判っている。
しかしだ。
ルファスの願いはその向こう側にあるのだ。
「余の願う未来はその先にある。その為に全ての人類に仇なす者を消し去る事こそが我が使命だ」
ルファスはメリディアナを指さした。
そして真っ赤な瞳を輝かせて言う。
星の自転に異常が起きる程に凄まじい敵意を魔女へと放つ。
背後で獅子王が思わず身を小さくしてしまう程の害意だった。
しかしピシっと杖にヒビが入ったがメリディアナは透徹した瞳で覇王を見返していた。
彼女には失うモノなど何もないからだ。
「其方たちもその一つだ」
これは宣戦布告だった。
余はお前のやり方を認めないという意思を叩きつける。
女神を弾劾するために避けては通れない大きな障害であるとルファスが認めた証である。
人という種の歩みを止め、全てを飲み込もうとする兵器群は既にルファスの中で敵と認識されている。
今は大義名分などがなく手を出しづらいが、いつか必ず排除しなくてはいけない存在であると。
「ヒヒヒ……恐ろしいですな。なぁ、お前もそう思わんかの?」
溢れる程の侮蔑を込めてメリディアナは女の後ろで血に塗れた野良犬に声をかけた。
もしもうまくいけば面白い展開になるという計算の下で。
あわよくばアレの戦闘データを取りたいものだ。
「負け犬の王よ」
その瞬間、何かが完全に切れた。
人生最大最悪の罵倒を受けたレオンは眼前のルファスの事さえ意識から消え失せ、叫んでいた。
────ァァァアアアッッッッッッ!!!!
屈辱に塗れた絶叫と共に生涯最高の一撃をメリディアナに叩き込む。
本当に一瞬だけ世界の限界さえ突き破ったソレに対してルファスの反応が微かに遅れてしまった。
ここでメリディアナが死ねば色々と解決できるという思惑もあったのかもしれないが。
だが。
現実は無情だった。
レオンの全身全霊の一撃はメリディアナに届くことはない。
老婆の前には小さな人が立っており、その者は容易く獅子王の一撃を片手で受け止めていた。
ヒヒヒヒヒヒと魔女が不気味に笑う。
余りに簡単すぎて折角用意したコレを使えないかもしれなかったのは問題だったからこれは嬉しい展開だった。
「………」
ソレを見たルファスは今度こそ顔を不快で歪めた。
魔神族が加工される場面を見てさえ顔色一つ変えなかったルファスがだ。
何て度し難い。
何とおぞましいことを。
生命というものを何処までも侮辱している。
敬愛してはいるが、それでもと思わざるを得ない彼のアリストテレスとしての側面。
レオンの一撃を止めた人物は子供の様に小柄であった。
かつてのプランと同じく【バルドル】に非常に似通った鎧で全身を覆っており素顔は見えない。
頭をすっぽりと覆ったマスクの眼窩から蒼い光が零れており、じっと獅子王を見つめている。
そして何よりの特徴として、マスクの後頭部から流された長髪だ。
ソレは光の反射によって紫にも銀にも見えた。
理論は既に確立されており血液などのサンプルは十二分にあった。
更には専門の大規模な設備と高度な演算能力を保持する組織もある。
実物が動き回っているのもあり情報には事欠かないとなれば後は簡単な話だ。
これこそアリストテレス兵器群の次世代戦闘ユニット。
世界の枠から外れた存在を更に大きな枠で囲い込み、理論と技術に落とし込む力の真骨頂。
すなわち
アリストテレスは既にベネトナシュの量産方法を完成させた。
彼女が働かないのであれば、働くベネトナシュを作ればいいと考えた結果である。
そのレベルは“1400”である。
そして量産予定でもある。
“吸血姫再現体”
「完全複製は不可能でしょうが
戦闘に特化させた使い捨ての駒なら作成できるでしょう」
───プラン・アリストテレス。