ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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また仕事が忙しくなってきてストックが減り始めたので再来週の更新はお休みする予定です。
とりあえず来週は更新できそうです。


今回はディーナが地雷を踏むお話。
公式で彼女はどれだけ気を付けてもポンをやらかす性質があるらしいので……。



ベネトナシュ(偽)の“浮き上がる”!

 

 

吸血姫を模した人形が軋みながら動く。

身体の至る所から真っ赤な煙を噴き上げ、絶えず細胞が活性化と自壊を繰り返すがさすがは吸血姫。

想像を絶する速度で自己修復が行われ続けているお蔭で直ぐに死ぬことはない。

 

 

 

アンタレスと吸血姫の組み合わせはとてつもないシナジーがある。

ほぼ不死身の彼女と無尽蔵の力を齎す代わりに自壊を与える薬品は互いに強みと弱みを相殺しあってくれる。

簡単に言えば膨大な力をばら撒きながらもコレは長持ちする。

 

 

 

 

少なくともこの戦いが終わるまでは問題なくコレは使える事だろう。

その様が酷く不快で、不快で、余りに虫唾が走る故にルファスは無表情であった。

【ジ・アークエネミー】という宙を穿つ力の初解放の高揚さえ吹き飛ぶほどに彼女は怒っている。

 

 

 

 

【アンタレス】

プラン・アリストテレスが残してしまった負の遺産の一つ。

用いればどのような者──例えレベル1の子供であろうと理屈の上ではレベル1000を上回る力を得る事が可能な狂気の一品。

 

 

 

レベル221の彼が用いた時はレベル1000の暴走状態であったルファスを止める程の活力を与えたソレを吸血姫が使えばどうなるか?

その答えがルファスの前で開示される。

 

 

 

元より血という概念に非常に敏感な吸血鬼族。

血液に溶け込んだアンタレスの効能は非常に馴染んだ。

ステータスが上がっていく。上がり続けていく。

 

 

絶えず【錬成】が重ね続けられ肉体の変異は制御された暴走状態を維持。

 

 

 

際限なく、限界知らずに。

レベル自体はルファスの半分にも満たないというのに既に速力では越えつつあった。

更にもう一つ、ダメ押しとばかりにバフ/デバフが吸血姫に与えられた。

 

 

 

 

【狂化】

 

 

 

殆どのステータスを倍にする代わりにスキルの発動が不可能になる状態異常だ。

厳密に言えばこれに掛かった者は自我が吹っ飛んでしまいスキルを行使する知能がなくなるというべきか。

しかし吸血姫再現体には元より自我はなく、動かしているのは【一致団結】経由で送られてくる兵器群の意思だ。

 

 

そしてこのステータスを倍にする処理は最後に行われる。

故に【アンタレス】の速度は単純に倍に跳ねあがった。

 

 

 

 

で、あれば。

デメリットなくただ単純に倍のステータスを知的に振るい、外部入力でスキルの発動も可能という理想的な状態が完成する。

レベル限界の突破とアンタレス、そして狂化を重ね合わされた吸血姫は真っ赤な瞳で保護対象を認めた。

 

 

 

明らかに過剰極まりない戦力であるが、ルファス・マファールを打ちのめすにはこれでもまだ控えめだと魔女は思っている。

ルファスがメリディアナの事を個人としては高く評価しているのと同じく、魔女もまた覇王を頂点に君臨する至高の怪物だと見上げているのだ。

 

 

 

ぐっと足を一歩踏み出す。

同時に【ブースト】も重ねて発動すれば吸血姫は一瞬で物理法則の限界を超えた。

余りに活性化したマナが相対性理論を破綻させ吸血姫の人形は超光速の領域でルファスに飛びかかった。

 

 

現時点で実に光の数倍の速度だ。

1秒もかからずに月と何往復も可能かつ、2,3分で太陽まで飛翔可能な意味不明な速力である。

 

 

 

無限に上がり続けるソレは既に本物のベネトナシュさえ超える程だ。

しかしルファスはそんな埒外としか言いようがない速力を以ても問題なく対応する。

彼女は意識を切り替え、圧縮時間をさらに圧縮する。

 

 

 

 

ナノ。

ピコ。

スベドベリ。

フェムト。

 

 

光の粒子を彼女は見る。

欠伸がするほどに遅くなった光の線がゆっくりと伸びていくのを観察する。

そんな中であっても吸血姫は平時よりも早く動いていた。

 

 

世界が遅くなるに比例して思考が加速していく。

レベル4200の領域においては単純な戦闘能力ばかりが注目されがちだが、ルファスの真骨頂はそこではない。

強いだけではなく無限とも言える応用性があるのが彼女の身体なのだ。

 

 

 

ルファスはあらゆる環境で活動可能だ。

宇宙の真空はもちろん。

深海の超水圧、ヘルヘイムの高濃度のマナ領域、いずれは【エクスゲート】の外側にある無の領域でさえ生存可能領域になることだろう。

 

 

 

彼らが何処にいても迎えに行けるために彼女はあらゆる地で活動を可能にしていく。

 

 

 

余りにルファスの持つ力は巨大すぎる。

ミズガルズは頑丈な星であるが、それでも今のルファスからすれば脆い砂の城でしかない。

だから彼女はこの人形との戦いをここではない所で行う事にし、それは兵器も同じ結論だった。

 

 

 

覇王は突き出された手刀を難なく片手で弾くと、軽やかな動作で吸血姫を蹴り上げた。

本物のベネトナシュよりも数段頑丈に強化され続ける彼女の内臓を幾つか粉砕し、内臓がぐちゃぐちゃになる。

しかし息絶える事はなく上空へと吸血姫は退避。

 

 

 

腹部が泡立ち既に治癒は完了していた。

これ以上ない程に活性化した細胞は吸血姫の持つ再生能力を限界以上にまで引き出している。

その結果、本来ならば不可能な心臓や頭部の復元さえ可能になっていた。

 

 

 

この人形を完全に機能停止させたければそれこそ一瞬で全身の細胞を消滅させるしかない。

それが出来るかどうか、兵器たちはルファスを吟味していた。

 

 

 

 

ミズガルズと月の間にある38万キロほどの闇黒空間。

金と銀の女が向かい合う。

一人はこの世の何者よりも強い意思を宿した瞳で人形を見据え、人形はレンズの様な瞳でルファスを観察している。

 

 

 

 

「ここならば遠慮はいらん。其方らの全霊を魅せてみよ」

 

 

 

「その上で粉砕してやろう。ソレを以てお前たちの不要を証明してやる」

 

 

 

 

傲慢に、上から目線で。

正に試してやるといった口調でルファスは端末を通して己を観察している誰か、はたまた誰か達に伝えた。

悪意に敏感な彼女は既にこの端末の向こう側にいるのが一人ではない事に気が付いている。

 

 

 

 

アリストテレス兵器群の切り札たる吸血姫再現体。

更にそこに度重なる強化の末に【アンタレス】まで放り込まれたコレは龍さえ滅殺可能な程だろう。

しかしその程度だ。龍程度など、今のルファスであれば片手でねじ伏せられる。

 

 

 

 

かつてプランに見せられ、どうしようもない畏怖を感じたソレも今では覇王の前では蟻程度でしかない。

 

 

 

吸血姫の瞳の内側で蒼い光が渦を巻いている。

超々光速で戦術/戦略が組み立てられ、複数のルートを構築し──準備は完了。

宇宙というのもありミズガルズへの影響は最低限で済む。

 

 

 

吸血姫が手を翳し一つの装備を取り出す。

螺旋のように捻じれた長槍を担ぎその切っ先をルファスに向けた。

これの名を【月の馬上槍】という。

 

 

 

単純な破壊力は低いこの装備には面白い効果が付属している。

“装備者の移動速度によってダメージが増大する”といったものだ。

そして何より特筆すべきなのはこの槍の効果によって発生したダメージは限界を超える事が可能という点である。

 

 

 

 

普通に音速や雷速程度で殴ったくらいではレベル1000の世界では通じない微々たる量しかダメージは与えられず、女神も特に縛りなどは設けなかったのだろう。

それほどまでに超高速で動ける存在も稀である上に、そういった存在はもっと良い武具を揃えているだろうと思っていたのかもしれない。

 

 

準備は進む。

 

あの時と同じでありながら、更に一歩進んだことを兵器たちは行う。

アリストテレスが魔神族20体を素材に作り出した「水」の魔法結晶を解放する。

同時に発動された【錬成】は世界の根底に干渉し付近一帯の判定を書き換えた。

 

 

 

ジジジジとノイズが走り、世界が微かにズレる。

 

 

 

■参照memory 020043c■ 

 

 

完全に魔法が発動し───ルファスは宙の上にいながら“チャポン”という水面に飛び込んだ様な音を確かに聞いた。

途端に発生する全身にかかる圧力。

膨大な水の重圧を受けた時の様なソレをルファスは知っている。

 

 

呼吸は必要でない故に何も思わないが、コレは……。

 

 

不死鳥フェニックス討伐の際にプランが行った何らかの秘術。

原理や詳しい効果は全く判らないが周辺をまるで深海の様な状態に変えた術だ。

当時は味方だったアリストテレスのソレに心強さを感じたが、今や全て敵である。

 

 

ルファス・マファールはプランの行使していた技と戦わなくてはいけない。

そして最悪のコンボの締めとしてもう一つの魔法が発動された。

 

 

 

【フローティング】

 

 

 

ここは水中である。

そう定義された状態で使える魔法であった。

効果は【使用者を水面まで加速させながらうかびあがらせる】というものだ。

 

 

本当ならばただの緊急脱出用の魔法だ。

水中でしか使えないどちらかといえば戦闘というよりは民間用の海難防止の術でしかない。

殆どの者はコレを使う程に潜る事はなく、本当にただあるだけの誰も見向きしないスキル。

 

 

 

しかも水圧の事を考えるに低レベルの者がうっかり深い場所で使ったら身体が破裂するかもしれない危険性さえある。

簡単に言えば【マネーゲッター】などと同じく使えない能力だ。

 

 

 

しかしこの術にもまた面白い見所がある。

“加速させながら”という部分の通り、これによる水面までの加速は永遠に続く。

先の馬上槍と同じくこの術によって得られる速度は女神の世界において上限はない。

 

 

 

相対性理論さえこれには例外処理をされており、本当の意味で無限に加速することになる。

そして今の周囲一帯は“水中”と定義されている。

もちろんそう定義されているだけで実際は水中ではないし、もちろんそんな訳だから水面と言う出口もない。

 

 

 

更に運の悪いことにここは宇宙空間であり遮蔽物など何もない。

そんな彼女が手にしているのは移動者の速度によりダメージを際限なく上昇させる【月の馬上槍】だ。

 

 

 

 

【ブースト】

 

 

 

加速と言う概念を置き去りにするスキルが発動された。

それは【フローティング】と効果が合わさり一瞬で本来のベネトナシュと同じ超光速に到達したかと思えばそれを起点に加速し続ける。

直線の速度ではもはや誰も彼女を捉えられない。

 

 

 

 

ルファスのフェムトの世界でさえ吸血姫は殆ど閃光だ。

余りの速力にミズガルズが悲鳴を上げながら彼女の処理方法を変えた。

フレーム移動方式で吸血姫は処理される。

 

 

即ち一瞬ごとに別の場所に存在していると再定義されるような方法である。

つまり一拍の裏の瞬間だけ彼女はミズガルズからも消えている。

こうしなければ物理法則が彼女に絡みつき、無限の速さを得た存在が無限の質量/エネルギーを放ち宇宙を突き崩しかねないからだ。

 

 

 

真実、吸血姫が振るう槍は宙の法則を崩す壊れたモノだ。

本物の竜王の無尽蔵の命を一瞬で複数消し飛ばす為に作られたソレは覇王の命にさえ届きうる可能性がある。

 

 

 

ぞわりとルファスの羽根が脅威を感知しささくれ立った。

来る、と思った瞬間に彼女は拳を本気で突き出す。

瞬間、感じたのはとてつもない激痛。

 

 

 

 

ベネトナシュの作り出した特異点さえ砕いた拳と【月の馬上槍】は拮抗していた。

宇宙さえ突き抜ける一撃というのは比喩でも何でもない。

発生した真空の衝撃が星々を揺らし、世界の一部を捲った。

 

 

「っ」

 

 

レベル4200の身で初めて感じた痛苦。

一撃で10億ものダメージを叩きだす最強の拳が血を流している。

砕けこそしなかったが明らかに力負けしていた。

 

 

 

この加速ではルファスを倒す事は出来ないと悟った吸血姫の姿がまた消えた。

アリストテレス兵器群は更なる加速を得る為に一度彼女を回遊させることにしたようだ。

FTL航行を生身で実現させた吸血姫は悠々と星々の海を飛翔しスイングバイさえ利用して更に更に早くなっていく。

 

 

 

 

させるものかとルファスが指先を閃光にしか見えない人形に向けて無数の魔法を放つ。

あれがベネトナシュを模したものであるのならば「日」か「火」属性が弱点の筈だ。

 

 

 

【ソーラーフレア】

 

 

一つ一つが大陸を焼き払いミズガルズを焦げたパンへと変えてしまうほどの大爆発が乱射される。

星系全体を丸ごと火葬場に変えてしまうほどの大攻勢だった。

 

 

 

太陽面の大爆発を再現する破壊魔法をルファスは雨あられと吸血鬼に放つ。

数万キロ単位で空間が焦げつくレベルの熱量が何千と放たれるが───当たらない。

それどころか影さえつかめない。

 

 

 

何をどうやっても躱される。

【サイコスルー】により力場のベクトル操作を巧みに機動に盛り込むことで吸血姫は常識外の速さを全く落とさずに全てを悠々と回避する。

たった一筋の蒼銀の閃光は直角な軌道を描きながら覇王の熾烈な猛攻を嘲笑う様に自由気ままに君臨する。

 

 

 

物理法則に囚われた哀れな“光”を嘲笑いつつ蒼銀の閃光はタキオンと化して突き進む。

 

 

火星───2億2794万3800キロメートル。

ルファスが“竜王”を叩きつけた跡のある真っ赤な星まで2秒たらずで到着した人形はさらにその先へと消えた。

 

 

 

木星───6億2900万キロメートル。

星系最大の惑星であるガスの塊まで更に速度を増大させた吸血姫再現体は1秒もかからずに到着し更に更に加速。

木星の放つ巨大な重力を利用してスイングバイを実行し、そのまま星系の端まで飛んで行った。

 

 

 

 

土星、天王星、冥王星まで順繰りに飛び去ったかと思えばぐるっと星系の端をなぞるように吸血姫はルファスの元へと戻ってくる。

まるで公園で遊ぶ子供の様に超光速の世界を楽しんでいるかの如き経路だった。

超光速を更に累乗させた意味の判らない数値は下手をすれば銀河の外にまで吹き飛んでいきそうな領域にあった。

 

 

 

「借りるぞ。アリエス」

 

 

 

 

ここには居ないが常に己に尽くしてくれる忠臣の名を出しルファスは彼に与え、彼が鍛え上げた虹色の炎を掌に産み出す。

アリストテレスがばら撒いた“水中”判定など無視してアリエスの真骨頂である【メサルティム】は猛々しく燃え続ける。

それをルファスは強く握り込んだ。

更にもう一つ、振動を支配する能力も彼から譲ってもらうのを忘れない。

 

 

 

虹色の炎はまるでアリエスの意思を具現化したかのようにルファスに対しては何の影響も与えない。

 

 

 

一瞬で迫るは吸血姫の人形。

【バルドル】を模して造られたマスクには何の表情もなく、恐らくその下にある素顔も同じだろう。

しっかりと胸部に切っ先を向けた槍、もしもアレが当たれば今の400万以上あるルファスのHPといえど瞬間的に吹き飛ぶだろう。

 

 

 

普通ならば回避を優先するだろう。

もしくは防御か。

何が何でもあの一撃を受けない様に立ち回るのが“普通”だ。

 

 

 

しかし彼女はルファス・マファールである。

当たり前の話だが彼女は普通ではない。

 

 

 

「良い。受けて立つ」

 

 

 

 

大きく腕を振りかぶり───本気の拳圧を放つ。

同時に炎を纏った【シャインブロウ】を発射。

目視も叶わない速度で放たれたソレを【月の馬上槍】は軽々と突き破った。

 

 

 

覇王の一撃を撃ち抜くという異常をもしも誰かが見たら目を剥くだろう。

たかがスキル一つと言えど、ルファス・マファールの本気を相殺どころか圧勝してるのだ、これを異常と言わず何とする。

10億ダメージを叩き込んで余りある破壊力を宿したソレが破れたのを見てもルファスは動じない。

 

 

 

だろうなと冷静に判断しつつルファスは次の手を打つ。

とはいっても何も難しいことをするのではない。

ただ、全力で迎撃するのだ。

 

 

 

如何に吸血姫の速度が規格外/無限大であろうと何かに衝突すればその分だけエネルギーは消費してしまう。

ならば力尽きるまで打撃をぶつけ続けるのみ。

そして【メサルティム】は吸血姫ではなく吸血鬼の宿す運動エネルギーを焼くように設定。

 

 

 

【シャインブロウ】の乱打が宙を埋め尽くす。

フルパワーの彼女は一秒間に数億、数十億とスキルを連打できる。

SPが切れる心配も勿論ない。余りに膨大なルファスの力はそれくらいでは決して枯渇しないのだ。

 

 

 

彼女を象徴する黒翼が誰にも束縛されることなく大きく広がり、宇宙を循環するマナを絶えず取り込み続けている。

宇宙という全ての生物を拒絶する空間はむしろ覇王ルファス・マファールにとって居心地の良いリゾートの様なものだ。

 

 

 

 

 

蒼銀の閃光は覇王の拳圧、その悉くを突き破る。

1メートル進むのに十万を超える【シャインブロウ】を砕き、抉り、穿ち、前進し続ける。

しかし誰が見ても明らかにその速力は低下し始めていた。

 

 

 

“水中”を【フローティング】で加速するよりもルファスの攻撃を相殺し消耗するエネルギーの方が多いのだ。

あと少しで覇王の胸を穿てるほどの距離まで接近した時には既に光速の8割程度にまで彼女の速度は削られてしまっていた。

 

 

 

機は熟したと判断しルファスが一歩だけ踏み込み───覇王が振るった拳で槍が砕けた。

パラパラと槍の欠片が宙を舞う。

無理もない話だった。

 

 

 

如何に【錬成】で絶えず補強し続けようと、如何に乱数を調整して壊れない様に立ち回ろうと、限度というものがある。

しかしそれで終わる吸血姫ではない。

瞬時に使い物にならなくなった槍を放り捨てて十指に宿る『収奪者の爪』をぎらつかせた。

 

 

 

【サイコスルー】による力場のベクトル操作によって直角に機動を曲げ、ルファスの側面から飛びかかる。

が、覇王はそれを一瞥もせずに片腕で弾いた。

オリハルコンさえ凌駕する爪は微かにルファスの表皮を傷つけるに至ったがそれだけだ。

 

 

 

彼女の持つ無尽蔵のマナ/天力が傷口を一瞬で塞いでしまう。

ベネトナシュ程ではないがルファスもまた生態として常軌を逸脱した再生力をもっているのだ。

 

 

まるで試す様に吸血姫は様々なスキルをルファスに叩き込み始める。

 

 

 

【アイアン・フィスト】

【弱所突き】

【ダブルブロウ】

【ソニックフィスト】

【スマッシュ】

 

 

 

 

本物の彼女がかつてやっていたような息もつかせない超光速のラッシュ。

SPの消耗だの戦闘の推移だのを無視し己の叩き込みたい技だけを相手に一方的に打ち込み続ける濁流の如き猛攻。

無尽蔵に上がり続けるステータスに物を言わせて放つソレはもしかしたら本物のベネトナシュでさえ危ういかもしれない領域にあった。

 

 

だがルファスはそれら全てを力の差を見せつける様に左腕だけで払いのけ続けた。

武器も使わず、素手ではたき落とし続ける。

 

 

 

数百万の攻防が一瞬で決着を迎える。

どの様な角度、速度、タイミングで襲い掛かろうルファスは片手で難なくあしらってしまうというつまらない結論が出た。

如何に【狂化】と【アンタレス】を重ねようと、覇王はその上を征く。

 

 

 

身体の各所から過負荷のせいで血の霧を吹き上げる吸血姫は一時停止しルファスを見つめれば、覇王は無表情で淡々と言った。

左手の指先からほんの微かな量の血を滴らせているが、逆を言えばその程度しか彼女は傷を負っていない。

 

 

 

「手品はもう終いか?」

 

 

 

「これで種切れならば───何とつまらぬ事か」

 

 

 

見下しが大いに籠った声だった。

彼女にしては珍しい単純極まりない挑発と嗜虐の発露。

 

 

 

否。

ベネトナシュを嘲弄するような人形を作り、プランの劣化としか言いようがない技術を用いている存在に対する対応としては優しいまであるか。

ルファス・マファールは決してアリストテレス兵器群を受け入れる事はないのだ。

 

 

 

そして。

吸血姫の耐久限界までもう少し猶予がある故に兵器群の中枢に位置するモノはもう少しだけ自重を捨てた。

星系を刹那で往復するほどに加速しておいて何を今さらという話でもあるが。

 

 

 

 

ジジジジジ

 

 

 

世界が歪むのをルファスは感じ取った。

かつてプランとつながった時の様に法則を可視化することは彼女であっても不可能だが、それでも数式が撓み世界が変動する予兆は判る。

つまりこいつらはまた何かをやらかすということだ。

 

 

 

そうはさせるかと拳圧を放つ。

軽く放った様に見えるが実際は木星のガスを霧散させるほどの威力が宿ったソレを吸血姫は腹部に受けてしまい───霧散した。

まるで幻の様にきれいさっぱり。

 

 

ルファスの眉が上がる。

もちろんこれで片が付いたなどとは思っていない。

次から次へと兵器たちはルファス相手に実験を繰り返しているようだ。

 

 

 

「次の演目を見せてもらおうか」

 

 

 

 

「最も───次で最期だがな」

 

 

 

 

これ以上茶番に付き合う気はないと断言する。

そんな彼女の前で霧が収束し吸血姫が姿を見せた。

相変わらず【バルドル】に似た鎧とマスクをつけた彼女を見ているだけでルファスは不機嫌になる。

 

 

 

【ファントムソード】

 

 

 

同時に恐ろしい速度で世界に任意コードが入力/実行処理が走る。

撒き散らされた血を媒介に周囲のマナをかき集め、それを用いてちょっとした助っ人の作成を開始。

 

 

 

Summon=Helper

 

 

 

発動されるのは【ソードマスター】のスキル。

当たり判定のない幻影を生成し戦闘に参加させることで相手の混乱を誘う能力だ。

確かに便利ではあるが、決め手にかけるとアリオトが評した能力である。

 

 

 

しかし。

 

 

 

二人目の吸血姫が一人目の背後から現れたのを見てルファスの顔は固まった。

更に三人目、四人目と全く同じ姿をした吸血姫たちがぞろぞろと出てくる。

単純な分身とも何かが違うソレは幻影の筈なのに確かにそこにいる。

 

 

 

まるで本当の意味でのファントム。

全てが同じ顔、同じ姿、同じ気配。

間違いなくそこにいるというのにそこに居ない。

 

 

彼女たちは存在する“軸”がずれているのだ。

 

 

吸血姫の背後に黒い孔が開き、その奥底から無数の兵器たちがこっちを見ている。

更には都合8人に増えた吸血姫たちが一斉に【銀の矢放つ乙女】を生成し構えたのを見てルファスもまた【エクスゲート】より二振りの剣を取り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、とある場面においても状況は進展している。

魔女と十二星天の十三番目の少女の戦いはルファスでさえ驚く結末を見せていた。

ディーナが、隠されし最後の星たるオフューカスが、たった一人の魔女を相手取り敗北しかけているのだから。

 

 

人の心を操り、スキルを支配し、時間さえ自由自在に動かせるディーナが。

特殊な生まれや血筋、使命や女神の後押しもない存在を相手に返り討ちにされていた。

 

 

 

「っ、ぉ、ぁぁ……!!」

 

 

 

ガンガンと頭が割れそうな程に痛い。

流し込まれたおぞましい声が未だに反芻していて止まらない。

蒼い瞳の中に苦痛と微かな恐怖を宿してかつてはアロヴィナス神の端末でさえあった少女は余命いくばくもない老婆を見上げている。

 

 

 

こひゅ、こひゅっと荒い息を吐き脂汗をかきながらディーナは膝を屈していた。

精神がぐちゃぐちゃにかき混ぜられたようで、うまくスキルを発動さえ出来ない。

少なくともこの状態ではまだ【エクスゲート】を展開することも叶わないだろう。

 

 

 

 

「何なんですか、貴女……!」

 

 

 

心の底から理解できない物の怪をみた彼女は込み上げる嘔吐を抑える為に口元を手で覆いながら怨嗟の声を上げた。

それもそのはず。

 

 

 

【ケバルライ】でメリディアナの精神を掌握するために一時的に彼女の思考と自分の思考を繋げた彼女に流れ込んできたのは。

 

 

 

 

 

痛い痛い痛い痛いぃぃいぃ!! 

助けてぇぇぇ!!

メディ、この子の為にもっと俺も頑張るから。

苦しい!!どうしてこんなことをするの! 

貴方、そんな嘘……。

おねがいします助けて下さい、助けて下さい!! 

おかあさん、いつもありがとう。

やめてぇぇぇぇェェェ!!!

こんどは俺たちが母さんを助けるから! 

殺して殺して殺して!! 腕、腕がぁ、俺の腕をかえしてくれ!!

一人で背負い込んじゃダメだよ。

ああああああああああ!!!! 熱い熱いいいいッ!!!

帰ってきた時には孫の顔を見せられるかな? 

お母さん!! おかあさん!! おかああああさああああああん!!

こんなところに捨てられて……寒かっただろう。

 

 

 

 

 

いまなおプルートの深淵で拷問され解体処理されている無数の魔神族の怨嗟と絶望。

本来ならばただの雑音として処理されるはずのソレが逆流しディーナの脳を焼いたのだ。

しかしメリディアナにとっては心地の良い演奏である。

 

 

 

“一致団結”のちょっとした応用で魔女はプルートから送られてくる情報を常に受け取り続けていた。

常人ならばたとえ魔神族のモノであっても何万と言う断末魔を常に聞き続けるなど正気の沙汰ではないが、彼女は違う。

魔神族の苦しむ声を聴くと心から彼女はリラックスできるのだ。

 

 

 

勿論当然の話として彼女は人の苦しむところを見るのは好きではない。

もしも人類の断末魔などがコレに混ざったら直ぐに接続を切断しその人物を助ける様に手配するだろう。

当たり前の事としてメリディアナは人類の悲鳴と魔神族の鳴き声を聞き分ける事が出来るのだ。

 

 

 

中にはこれに飽きる者もいるらしいが、彼女は全くそんなことはない。

ディーナの能力に対する対策として情報を飽和させる必要があったのは事実だが、それでも半分はメリディアナの趣味だった。

彼女は魔神族が苦しみ絶望するときの鳴き声が好きであるから。

 

 

 

 

「お前さんだね? 最近ちょこまかと探りを入れて来ていたのは」

 

 

 

「……………」

 

 

 

ズキズキと脳幹が痛むのを堪えながらディーナは魔女を睨みながら思考を回す。

確かに思わぬ不意打ちであったがまだ戦えない訳ではない。

懐にはエリクサーを隠し持っているのもあり、ここから仕切り直す事は可能だ。

 

 

 

精神操作が効かないのであれば直接殺すしかない。

確かに直接的な戦闘能力は他の者に比べれば低いが、それでもディーナには途方もない力がある。

何なら星を落とす事さえ彼女は可能なのだ。

 

 

 

そんな少女の内心を知りつつメリディアナは続ける。

無駄話など己の利にならないと知りつつも。

この問いを投げる為に彼女は今まで生きてきたと言っていい。

 

 

 

「あたしはずっと昔からお前さんに聞きたい事があってのぉ。

 もしも魔法の火で人を焼き殺したら悪いのは魔法という概念か? 

 それとも魔法を発動させた術者かえ?」

 

 

 

 

「……そんなの決まってるじゃないですか」

 

 

 

メリディアナの意味の判らない問いかけにディーナは簡単に返す。

 

 

 

「魔法で人を殺したのなら、悪いのはソレを発動させた人に決まってるじゃないですか」

 

 

 

 

至極単純な答えをディーナ(女神の端末)は返すのだった。

ミシっと答えを得た老婆の杖が軋んだ理由は歓喜か、はたまた憤怒か。

ソレは誰にも判らない。

 

 

 




ディーナは原作を読むと結構素で人の地雷を踏むところがあると思っています。
女神様にそっくりでかわいいですよね。



本日のバグ技解説。

浮上&馬上槍による超火力バグ。


元ネタはテラリアにある浮き輪&ランスの無限加速超火力バグとなります。
水面まで無限加速しながら上昇する浮き輪と速度をそのまま=で攻撃力に変換するランスの組み合わせによりどんなボスでも瞬殺可能な火力が出せることでしょう。
ちなみに一番速度が出せる液体はハチミツだったり。

  1. 目次
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