ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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来週の更新はお休みします。





ルファスの“せいけんづき”!

 

 

神話に名だたる番の剣をルファスは最高の精度で巧みに扱い次々と飛翔してくる人間サイズの長剣を迎撃し続けていた。

竜を容易く串刺しにしていたクレイモア級自滅攻撃ゴーレムを対人用に小型化されたソレは単分子の切っ先を覇王へと突きつけ、己の事など厭わずに突っ込んでくる。

確かに速度だけ見れば光速程度でしかないがこれらの軌道は巧妙なのだ。

 

 

ただがむしゃらに体当たりを敢行しているのではない。

直前で軌道を変えるのは当たり前、一本目の影に二本目が隠れて追撃を行う等と言った高度な戦術さえ行ってくる。

しかも中には【ブラキウム】を搭載したものまでおり、下手に近づかれた瞬間に信管が作動し周囲の空間諸共自爆まで行うといういたれりつくせりだ。

 

 

 

常に意識の外やほんの一瞬だけ途切れる意識の狭間をついてルファスに幾つもの傷を与えてくる。

少なくとも3回、ルファスはコレに傷をつけられた。

右腕、左腹、そして右翼。

 

 

 

今はもう治っているが、もしも対処が遅れていたら欠損していたかもしれないほどだ。

いまだ完成に至らない星天たちと比較し兵器群は遥か先を往っているのは疑いようがない。

 

 

 

 

星々の彼方で行われる兵器群と覇王の戦いは佳境を迎えていた。

星団を切断する程の剣圧で振るわれる二振りの姉妹剣【リーヴ/スラシル】は正に神剣の名を冠するに相応しい圧を持ち飛翔するクレイモア級自滅攻撃ゴーレムを次々とへし折った。

かのゴーレム達の有する【エクスゲート】を応用した貫通攻撃はルファスでさえ油断できない故にそこに容赦はない。

 

 

 

ベネトナシュの一撃さえ受け止めて見せた黒翼に容易く穴を開けられるのだ、これらは。

魔力に天力をぶつけて概念的な孔を開ける裏道はむしろルファスの様な膨大な魔力を持つ存在に対しては特攻染みた効果があった。

しかし増援として空間に幾つもの孔が開き次々とクレイモア級が飛び出してくる。

 

 

単分子の刃は鈍く輝きを放ち一人の女を狙っている。

あらゆる無駄を排した結果、一本の剣の形状を取ったゴーレムはミザールの考えるソレとは正に対極。

そこにはかつてドワーフ達が愛したロマンも、芸術性も何もない。

 

 

 

効率/適応/進化を突き詰めた結果、無駄は全て無くなってしまったのだ。

 

 

 

 

宙を満たす程に全方位から敵意を向けられるが、ルファス・マファールは動じない。

あらゆる場所から飛翔してくる敵意を読み取り剣を振るって迎撃し続け……肉体の適応が完了した。

至ったと判断した瞬間にルファスは一度全ての動作を止めて佇む。

 

 

 

すかさず飛来する何十もの剣、剣、剣。

天力を帯びたソレはルファスの宿すマナ/魔力と反応し微かに【エクスゲート】を展開し……二層目の魔力の流れに受け止められた。

超高密度の魔力によって【エクスゲート】が空間ごとひしゃげて霧散する。

 

 

 

ルファスのやった事は簡単だ。

純粋な魔力という“衣服”を着込んでいた。

勿論これがゴーレム達と反応して【エクスゲート】に変換されてしまうのは承知の話だ。

 

 

しかし“衣服”として展開した魔力とルファスの肉体に宿る魔力の波長は微妙にずらされていた。

クレイモア級たちは一層目の魔力の波長と量を基準として門を開通しようとするが叶う筈もなく爆散したのだ。

もとよりかの術は高度な計算を必要とされる技術であり、ほんの僅かでも計算がズレればこうなるのは当然と言えよう。

 

 

 

仮に兵器たちが対抗策を講じようとルファスは重ね着すればよいだけだ。

今回は魔力だけだったが天力も使いこなせる彼女であれば地層の様にそれらを交互に重ね合わせた防御領域を作り出す事も容易いだろう。

魔力と天力を極めたという領域で使いこなせる彼女だからこそ可能な防御法である。

 

 

 

つまり───ルファスにはエクスゲートの応用技ともいえる【ブラキウム】も通用しないということだ。

事実試射されたトルピードーはさく裂前に天力と魔力の混成を弄られて不発に終わってしまっている。

 

 

 

 

数本が犠牲になったと確認された瞬間、ゴーレムたちが波を引くように一斉に退避。

無駄と判断された時点で効果の期待できないゴーレム達は撤退判断が下された。

元より“獅子王”にぶつける予定だった在庫の処理が終わっただけで損害という点では無傷だ。

 

 

 

なので兵器たちは出力を上げた。

大前提としてあったルファスを殺してはならないという縛りはそのままに一部脚色を付け加える。

【エリクサー】を確保している彼らならば仮に彼女が四肢を失おうと問題はなく修復できる故に。

 

 

 

仮死状態、もしくは瀕死状態にまで追い込むことを許可。

大陸開拓の為にミズガルズに展開していた軍団の活動を一時的に縮小し、最低限の自衛行動と哨戒のみに。

演算などのリソースを全て吸血姫たちに回し“一致団結”を深化させる。

 

 

 

また代表者メリディアナにも演算リソースを供給。

敵対者の迎撃を開始。

 

 

 

ずらっと並んだ吸血姫たちがじっと蒼く瞬いた瞳でルファスを凝視する。

本物の持つ覇気も何もない空っぽの人形たちに対して覇王は手招きした。

何かがあるのはもう判っている。

 

 

 

単純に数だけ増やした訳がない。

アリストテレスはそんな生ぬるい事はしない。

しかし何があるかは判らない。

 

 

だから。

 

 

 

「来い。木偶ども」

 

 

 

何が来ようと受けて立つ。

そう宣戦した覇王に人形たちが【フローティング】と【ブースト】を行使し閃光となって殺到した。

先の戦闘時では影さえ追えなかった超光速戦術だったが……。

 

 

 

「そこだな」

 

 

 

ルファスは容易く吸血姫たちの内の一体を捕捉し剣を突き刺す。

こう幾度も見せられれば慣れてくる。

それに視界で追跡できないであれば別の感覚を使えばいい。

 

 

 

空間をかき混ぜる時の震動やマナの密やかな囁きを観測すれば超光速など問題ではない。

 

 

 

心臓という人体の真芯を的確に捉えたソレに対して吸血姫は何の反応も回避行動も見せず───切っ先は背へと突き抜けた。

しかし飛び散る筈の血液も骨片も何もなく、まるで霧でも叩いたような感触しかない。

反撃で振るわれる吸血姫の持つ【銀の矢放つ乙女】が咄嗟に回避したルファスの金糸を散らせる。

 

 

 

覇王の剣筋は確かに敵を捉えた筈だ。

しかし当たった事にならず、向こうの攻撃はこちらに当たる。

回避という意味では彼女の配下に居る水瓶とは全く違う。

 

 

 

避けたではなく、そもそも当たった事になっていない。

どれほどルファスが強い力を持っていようと当たったと世界が認識しなければソレは意味がない。

世界の枠組みを超えたルファスに対する別方面からの対策アプローチだった。

 

 

どんな防御でも撃ち抜く力を相手にするというのならば、守るのでも避けるのでもない。

そもそもいなくなればいいという意味の判らない理屈だ。

 

 

 

 

「────」

 

 

 

 

あり得ない手応えに沈黙しながらもルファスは対応を変えた。

迎撃ではなく回避を優先した立ち回りで全方位より超光速で飛んでくるあらゆる種類の攻撃を回避する。

重心の移動や力の流れを効率よくするために足元に【エクスゲート】を設置し、その上で覇王は優雅に踊った。

 

 

ルファス・マファールは直接的で圧倒的な破壊力ばかりが注目されがちだ。

実際それは正しいし、余りに強くなりすぎた結果として戦術や戦略もない力押しが最高効率になったのだから仕方ない側面もある。

拳を振るうだけで勝利できるのに面倒な戦術やら回りくどい工作などするのは時間の無駄だと言われれば誰も否定できない。

 

 

 

だがしかし。

決して彼女はそれしか出来ない訳ではない。

 

 

 

金糸が流星の様に残滓を残しながらふわふわと無重量の世界で舞う。

宇宙の全てが彼女を彩る舞台でしかない。

 

 

 

吸血姫が膨大な魔力を宿した槍を振るう。

それら全てを紙一重でルファスは避けた。

タン、タタンと優雅な社交ダンスを踊る様に。

 

 

 

 

無機質な動きしか出来ない兵器では生の人間の優雅さは理解できない。

無作法者たちは女帝の舞踏においては彼女の影さえ踏めなかった。

余りに常軌を逸脱しているのだから。

 

 

 

吸血姫が接近し爪を振るう。

ルファスはまるで示し合わせていたかの様にステップを刻み回避し二振りの剣の内の短剣リーヴで吸血鬼を袈裟懸けに切った。

しかしやはりというべきか切れていない。

 

 

 

そもそも何か物質を切ったという手応えさえなかった。

しかし向こうの攻撃はこちらに当たるという一方的な状況は変わらない。

 

 

 

ルファスはその光景を流し目で見やり検証していく。

相手は全てが未知。

ならば順繰りに戦いながら分析するしかない。

 

 

 

 

 

先ずは一つ。

魔力ではない。少なくとも魔神族の様な活動する魔法では。

魔剣リーヴはあらゆる魔力的接続を切断できるのにこれは切れない。

 

 

 

 

【フローティング】と【ブースト】を練り合わせた超光速移動で背後から迫ってくる吸血姫がいた。

ルファスはそちらに視線を向けることさえなく右足を軸にターンを行い、翼で浮力を生成、波が引くように身を引かせて回避。

失礼な男を拒絶する貴人の如き動作だった。

 

 

 

「余の相手に其方は相応しくない」

 

 

 

冷徹にそれだけを述べる。

王に即位して以来、彼女には数えきれないほどにそういった誘いがかかっているが全て断っている。

悪意を感じ取れるルファスには言い寄ってくる者らの欲望が手に取る様にわかっているのだ。

 

 

 

 

3体の吸血姫が【銀の矢放つ乙女】を投擲し彼女を足場ごと吹き飛ばそうとする。

しかし流麗な剣捌きで振るわれるのは神話に名だたる至宝の双剣。

天力と魔力に直接的な干渉/切断が可能なソレをルファスは巧みに扱い、飛来する魔法を軽々と絡めとる。

 

 

 

【サイコスルー】と【サイコキネシス】

更には【サイコ・コンプレッション】というエスパーのスキルを容易く総動員して彼女は舞った。

これらは一般的には念力で岩を持ち上げたり物質を圧縮する能力と思われがちだが彼女はこの力の本質をプランから教わっている。

 

 

 

念力、つまり意思の力で不可視の力場を生成するこれは言わば概念的な“手”である。

それも物質以外にも魔力や天力にさえ干渉できるほどに高次元の。

 

 

理屈は完成した。

で、あれば後は出来ると自分を信じる事だけが大事だ。

そして彼女は実行する。

 

 

 

子供が水あめを棒でかき混ぜる様にルファスは超高濃度の魔力で生成された魔法を外部から干渉し弄りまわす。

切断でも破壊でもない。

複数のスキルを組み併せて生成した念力で包んだ剣ならば魔法を切断することなく魔法の支配権にさえ干渉できた。

 

 

 

 

クルクルと剣を振り回し器用に絡めとった【銀の矢放つ乙女】の形状を整えていく。

するとあっという間に三本の矢は一つの巨大な魔力塊へと変わってしまった。

既に吸血姫は支配権を喪失しておりコレは本当にその場にあるだけの、属性という要素さえ取り除かれた純粋な魔力/マナでしかない。

 

 

 

余りにあり得ない光景に吸血姫たちはいったん距離を置くように遠ざかっていく。

彼女たちはただ闇雲に殴りかかるだけではダメだと理解したようだ。

戦況はいまだ硬直状態。

 

 

 

双方ともに相手にダメージを与えられない。

どれほど奇を衒った攻撃をしようと剛と柔を併せ持った動きで回避してしまうルファス。

彼女の体力は本当の意味で無限に近しいため、どれだけ戦闘を継続しても無意味だろう。

 

 

そしてどれほど剣を当てようと、拳を振おうと全てがすり抜ける吸血姫たち。

決め手に欠ける。現状はその一言に尽きる。

 

 

しかし吸血姫は【アンタレス】を用いているためにどれだけ調整を行おうといずれ自壊する。

時間が経てばたつほどにルファスは有利になっていく。

 

 

 

勝敗の天秤はいまだ微妙に揺れ動くが、そこにルファスが一石を投じる。

元より彼女は攻めるのが好きだ。

守り回避する動作も大事だと重々承知しているが、彼女の基本的な思考は勝利とはつかみ取るものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

魔力の塊はさながら芸術家が手を加える前の石、もしくはキャンパスだ。

ルファスはソレに対して【錬成】を行使する。

ヴァナヘイムの麓で一目見た芸術を想起し、あの高みに至って見せると決意した彼女の執着が形になる。

 

 

 

 

【狼の冬】

 

 

 

堂々たる白狼が顕現する。

技量こそかつてのアリストテレスに遠く及ばないまでも無限とも言える出力で構築されたソレは10メートルにもなる大狼だ。

真っ赤な瞳を煌々と輝かせたソレには確かな知性がありじっとルファスの敵たる吸血姫たちを見ている。

 

 

 

しかし大狼は身体の至る所から光の粒子が零れていた。

今のルファスではどうやってもプランの様な永続的な活動は不可能だ。

しかし此度の一戦のみ持てばいいとルファスも割り切っている。

 

 

 

「食い千切れ」

 

 

 

王が己の猟犬に命じる。

すると白狼は獰猛な唸りを伴わせながら吸血姫に向けて駆けた。

飛びかかりながら大きく腕を振りかざし叩きつける。

 

 

 

 

しかし案の定、吸血姫の身体をすり抜けてしまい攻撃は何の意味ももたない。

反撃として振るわれた収奪者の爪が狼を削り取り保持するマナが奪われ白狼は目に見えてその輝きを弱めた。

更に四方八方から残る7体の吸血姫が殺到し次々と爪と魔法を振るい狼をズタズタにしていく。

 

 

 

 

余りに惨い惨殺劇だった。

こんなもの戦いでさえない。

無力な家畜を解体する様なものだ。

 

 

 

 

ガアアアアアアアアアアア!!!

 

 

 

 

収奪され、解体され、バラバラに存在を砕かれていくせいで大量のマナをばら撒きながらも狼は戦意を弱める事などしない。

がむしゃらに爪と牙を振り回し、その内の一発がたまたま吸血姫に直撃し吹き飛ばした。

【バルドル】のマスクが割れ、何の感情も宿っていない蒼い瞳を晒しながら人形がぐるぐる回りながら吹き飛んでいく。

 

 

当たった。

今まで霧を掴むような存在だったのに。

 

 

 

最後に大きく遠吠えを残して白狼は消滅した。

まるで主に何かを訴える様に。

そしてその訴えは間違いなく届いた。

 

 

ほんの数秒の命だった。

しかしそこにあった意思は紛れもなく本物。

 

 

 

ルファスは観ていた。

あらゆる全要素を駆使し、いま何が起きたかを。

何故今まで通じなかった攻撃が通ったかを彼女の脳は全力で回転し考えていた。

 

 

 

全てを総動員する。

今まで培ってきた知識と技術と経験。

先と今までで何が違う?

 

 

 

 

そして───閃く。

【狼の冬】が攻撃を通したのは吸血姫がアレを構築するマナを収奪してからだ。

決してこれが偶然とは思えなかった。

 

 

 

瞬きを一回。

視界を切り替える。

何を見るかを選択。

 

 

 

マナを観る事に特化させた瞳が写し取ったものに彼女は驚愕を抱かざるを得なかった。

そんな馬鹿な、あり得るのか? こんなことが。

 

 

 

「……!」

 

 

 

ルファスはそんな馬鹿なと思う自分がいたがそれを黙らせた。

相手はアリストテレスの置き土産、何があろうとおかしくはない。

 

 

 

答えは余りに簡単で、かつ意味不明なものだ。

攻撃が当たらない理由は、あの人形たちは存在する軸が“ズレ”ている。

ミズガルズにおりながら半ば別次元の軸に存在を置いているというべきか。

 

 

 

吸血姫たちはここに居る様で、ここにはいない。

いまルファスが見ている姿は高次から落ちてきてる影のようなものだ。

己の所有するマナの塊であった白狼を彼女たちが取り込み、それを起点にルファスはようやく本質を観測するに至る。

 

 

もしもここに空間に対する豊富な知識を持つディーナがいればもう少し早く分析が終っただろうが、それは意味のない話だ。

敵は三次元では認識できない四か五か、そこにある新しい概念/軸に存在を置く事で一切の干渉を無効にしているのだ。

つまり此方からは相手に攻撃できず、向こうはひたすら好き放題に殴れるということだ。

 

 

 

先に白狼の攻撃が当たったのは相手が攻撃と言う干渉を行うために降りてきていたからか、はたまた取り込んでしまったマナを経由して存在を此方の次元に引っ張られたかだろう。

 

 

 

……何というズルか。

ルファス・マファールの力は正に驚天動地であるが兵器たちはそれとは別種の方向に狂った能力を会得している。

しかしそれも種が割れつつある。

 

 

 

 

───何よりルファスはこれを見た事がある。

 

 

 

一度取っ掛かりを掴んでしまえば後は猛烈な速度で彼女はソレをモノにしていく。

彼が普段余りに呆気なく利用していた為、これほどの術だとは思わなかった。

何時も守ってくれた人の技術と力は今やルファスの敵になった。

 

 

何もしなくていいという言葉に彼女は心から否定を叩きつける。

そうやって何もかも全部勝手に決めて、勝手にやって、挙句にはいきなり居なくなった。

 

 

 

レベル4200。

元より彼女は女神世界の最大のイレギュラー。

次元の一つや二つの違いなどどうとでもなる力がある。

 

 

彼女が目指すのはそれら全てを超越した所に座する女神なのだから。

 

 

 

世界を一つにし、悲劇を駆逐し、女神を弾劾する。

永劫、ふざけた茶番を繰り返すミズガルズを変えるのが彼女の願いだ。

その為にルファスは多くを捨てた。

 

 

 

母も。

平穏も、

そして彼らの願いにさえ背を向けた。

 

 

 

だから───この程度の相手に手間取っている場合ではないのだ。

持て余していた【ジ・アークエネミー】の力が想起していく。

何が出来て、何が出来ないかいまだ未確定だった新天地の力がその形を整えられていく。

 

 

 

ルファスの纏う力が巨大化していく。

それもただ大きくなるのではなく統合され研ぎ澄まされる。

天と魔の力は混ざり合い、反発し合い、そして支配された。

 

 

 

【エクスゲート】でも【ブラキウム】でもない。

言語化不可能な純粋な“力”に戻っていく。

これはマナに似ているが似て非なるものだ。

 

 

 

「結論から言うと、魔力と天力は実は元は一つの力なんだ」

 

 

 

彼女は知っている。

この二つは元々一つだったことを。

女神が己の余りに巨大な力を扱いやすくするために矮小化させたのが天力と魔力だ。

 

 

「女神アロヴィナスが世界を作り出した時」

 

 

「彼女は己の余りに巨大な力を二つに分けたのさ」

 

 

 

ならばその二つを究極と言う域で学び【エクスゲート】さえ手足の様に扱う彼女であれば、ルファスであれば。

二つの力をあるべき姿に再統合し、支配さえ可能だ。

それはまさしく神の領域に至る行為。

 

 

 

黒い魔力。

白い天力。

二つの力は回帰した結果、蒼みのある無色になった。

 

 

これこそ女神アロヴィナスの保持する本来の意味の“力”であり、色彩などこれには存在しない。

瞬間、ルファスの全ての能力が跳ね上がっていく。

ステータス上の表示は変わらないが、明らかに彼女は乗数的に強くなり続ける。

 

 

ステータス/数字などというつまらない概念を彼女は超えかけていた。

そも、女神を否定する彼女が女神の法に従う理由などない。

 

 

 

今のルファスは言わば小さなアロヴィナスだった。

かつての彼女がそうしたようにルファスもまた果ての域の支配者になる資質をもっている。

あり得ない等と言う事はあり得ない、それを最も体現しているのがルファスだ。

 

 

 

 

「捉えたぞ」

 

 

 

 

次元位相のズレを瞳は正確に観測する。

拳に宿った“力”が意思という燃料を注がれて活性化を開始。

無尽蔵の力はただ一つを己の支配者に問う。

 

 

 

貴女はこの力で何がしたい?

天を突き地を割り、星さえ容易く破壊できる力はその方向性を求めていた。

 

 

 

 

だから彼女は願う。

ただ一つ、撃ち抜くと。

深く腰を落とし、拳を構える。

 

 

そこにはスキルの付与も何もない。

最後にモノをいうのは己の肉体だと彼女は知っている。

ルファスの纏う力に速攻で片をつけるべきと判断した複数の吸血姫が迫る。

 

 

 

 

【フローティング】と【ブースト】を併用した事による速度は未だに異常極まりない。

しかし……もう意味がない。

ルファスには全てが見えている。

 

 

 

終わりだ。

瞬間、ガラスが割れるような音が宙を満たした。

余りの威力に次元境界面が吹き飛んでしまったのだ。

 

 

 

そして振るわれた一撃が次元だの空間だの位相だのといった要素を全て貫通し吸血姫たちを飲み込んだ。

圧倒的な暴力によって端末たちは何の抵抗も出来ずに砕けていく。

しかし────兵器群もただでは終わらない。

 

 

 

 

吸収した【狼の冬】のマナを媒介に最後の抵抗を開始。

アレは彼女が作った存在であり、言わば彼女のヘルパーだ。

それの権限の一部を取り込み、悪さを行う。

 

 

 

“ステート製作完了”

 

 

 

“ヘルパーの破壊を確認”

 

 

 

“一致団結接続”

 

 

 

それはこの世界における最も凶悪なバグの一つ。

モンスターテイマーやアルケミストが己の配下であるゴーレムやモンスターとの間に持っている接続を悪用した凶悪な技。

感じた予兆にルファスの翼が警戒するように逆毛立つ。

 

 

 

 

 

 

hitdef

 

p1stateno

 

 

1changeanim2

 

p1stateno

 

 

 

判定変更完了。

 

 

 

ルファスと吸血姫と白狼。

それら全てが“一致団結”で混ざり合った結果、ミズガルズはそれら全ての判定を混線してしまった。

そして世界の法則の中において既に用意されていた“結果”がルファスへと上書き処理される。

 

 

 

かつて“子隠し”からルファスを護るために使われた技がこの瞬間、彼女に牙を剥いた。

彼女が原初たる女神の力を振るう存在ならば、兵器群はそんな女神を拒絶した一族の作品。

神殺しの方法などアリストテレスからすれば常に想い続けている題材だ。

 

 

 

その一端がルファスを襲う。

攻撃でもダメージでも状態異常でもない。

これは純粋な処理の上書きという概念さえ超えた極点の動作不良だ。

 

 

 

即死ステート上書き処理。

 

完了。

 

 

 

覇王の身体が揺れる。

あれだけ放たれていた圧が薄まり始めた。

 

 

 

 

「────」

 

 

 

 

ルファス・マファール。

 

 

HP 0

 

 

 

そして彼女の生命活動は止まり死を迎えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0,9

 

 

 

 

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