ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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作者はディーナも好きです。
このお話を始めた時からこの展開を書きたかったので気合が入りました。


ディーナは目の前がまっしろになった!

 

 

アリストテレス兵器群、吸血姫再現体と覇王の戦いは結果だけ見れば相打ちであった。

ベネトナシュを再現した傑作の端末は全損しルファス・マファールはその命を停止させた。

これは戦術的な意味では兵器たちの敗北だった。

 

 

 

 

吸血姫再現体は本当に希少な使()()()ベネトナシュであり様々な任務に応用できたはずだというのに。

こんな本来ならばしなくてもよい戦闘を行い失うなど大損でしかない。

アレは既に量産体制に入っているとはいえ安定供給にはもう少しかかるのだ。

 

 

 

 

しかし戦略的な意味ではアリストテレスの大勝利だった。

過程はどうあれルファス・マファールを葬れたのは本当に大きな収穫で───。

砂嵐/ノイズが兵器たちの意識全体にかかる。

 

 

 

根底の部分で取り決められていた必須事項を破ったせいなのか兵器たちの思考回路は不安定になる。

 

 

 

 

不許可。

不許可。

 

 

ルファス・マファールの殺害は不許可。

 

 

 

 

極めて甚大なエラーを放出しながら吸血姫が動いていた。

【バルドル】は割れ、身体の至る所に亀裂が入ったソレはもはや機能停止寸前であった。

しかし辛うじてまだ動いている。

 

 

 

規格外という言葉を幾ら重ねても足りない程に優れた再生能力が辛うじてコレの完全停止を免れさせている。

しかし修理してももう使えないだろう。

だが問題はない。

 

 

 

既に量産は開始されているのだから。

此度得られた情報を元に更に強化/改良されて。

極小サイズのゴーレムという新技術と組み合わせればもう本物はいらなくなる。

 

 

 

「…………」

 

 

魔力を放出させながら力なく漂うルファスへと近づく。

覇王の死体を回収し彼女の魂もまた保護しなくてはならない。

そうすれば彼女はもう戦わなくて済む、誰かを傷つけたり自分が傷つく必要はない。

 

 

 

 

ゾディアックに残った軍団や彼女の私兵集団は厄介だが、ルファスさえ押さえればどうとでもなる。

更に彼女の因子を回収できれば計画の成就に大きく近づけることだろう。

 

 

 

 

だが。

吸血姫の指がルファスを掴む直前に覇王の黒翼が形状を変化させ巨人の手の如く兵器を捕捉した。

 

 

 

 

「まずは詫びよう」

 

 

 

あり得ない事が起きている。

確かに死んだ筈だ。

肉体的な欠損こそないが“死亡”というステートを上書き処理し、それは完全に決まったはずだ。

 

 

 

 

如何にルファス・マファールが規格外であろうと女神の法を超えかけていようと、HPが0になれば死ぬのはこの世界の絶対的な真理だ。

なのに、だというのに。

ルファス・マファールは動いている。

 

 

 

ゆっくりと頭を動かし吸血姫再現体を観ている。

真っ赤な瞳の中にある底知れない程に強靭な意思は健在。

0だった筈のHPが瞬間的に最大まで復元していく。

 

 

上書きで張り付けられた敗北/死という概念が剥げた。

何であれ他者から押し付けられたソレを彼女は拒絶する。

 

 

 

再び彼女が纏う純粋な“力”はそれだけで宙を軋ませる。

そも彼女は女神アロヴィナスの域に指先程度とはいえ入りかかっているのだ、道理など意味をなさない。

 

 

 

 

【ジ・アークエネミー】はこの世界の管理者権限さえ練り込まれて完成したクラスだ。

常識など何の意味もなく、どのような法に従うか決めるのは彼女だけだ。

この世でルファス・マファールを縛れる法を定められるのはルファス・マファールだけなのだ。

 

 

もう彼女を縛る鎖はないのだから。

彼女が死ぬ気はないと思えばそれで終わりだ。

余りに強靭で巨大な意思が“力”を媒介に全てを書き換えてしまっている。

 

 

ルファスは既に死という概念を超えていた。

HPが0になろうと彼女は死ぬことはない。

彼女を殺すには肉体と魂を消滅と言える程に粉々にするしかない。

 

 

 

果たしてそんな事が誰に出来るかはともかくとして、それしかないのだ。

 

 

ならばそれを実行するだけだ。

 

 

 

 

「確かに其方らは強い。言い訳はせんよ」

 

 

 

「余の心臓は鼓動を止めた」

 

 

 

しかし今は動いている。

それだけが全てだ。

 

 

 

圧倒的なレベルに胡坐をかいていた。

【ジ・アークエネミー】を使いこなしていなかった。

言い訳は多々あるが、それらをルファスは決して口にしない。

 

 

 

一度、何らかの方法で己の心臓を停止させられた。

その結果こそが真理だ。

だからこそ認めざるを得ない。

 

 

今までの認識では甘かった。

確かに警戒していたが、それでもまだ己の方が上だという自負は常に見え隠れしていた。

しかしそれは間違っていた。

 

 

 

アリストテレス兵器群は女神に匹敵する程に厄介で強大な敵だとルファスは認識を更新した。

“魔女”メリディアナは只人の身でありながら覇王の道を阻む巨大な壁である。

極点に座し人を人形としか思っていない女神とは違い、人としての強かさと執念を兼ね備えた小さな巨人だ。

 

 

 

咄嗟に離れようとする吸血姫再現体の首を掴み上げ、その瞳を覗き込む。

蒼い瞳は鮮やかで、綺麗で、虫唾が走る程に似ている。

この奥に何かがいる事をルファスは知っており、ソレに向かって話しかけた。

 

 

 

正体は依然として不明だが確かに居る何か。

ルファスをして……否、マナに誰よりも愛されたルファスだからこそ怖気を感じるソレ。

プラン・アリストテレスの遺した忌むべき怪物。

 

 

戦うべき相手も創造主も居なくなってしまった哀れな落とし子。

ある意味でコレはルファスの“きょうだい”だった。

 

 

 

「プルートを訪れた時から余は其方を感じていた」

 

 

 

世界を乱す怪物を前に世界の改革を望む覇王は圧をぶつける。

吸血姫は微動だにしなかったが、末端から灰となって崩れ出した。

【アンタレス】を使った代償が遂にやってきたのだ。

 

 

 

既に再生よりも崩れる速度の方が早い。

存在するだけでベネトナシュを侮辱する怪物の最期だ。

 

 

 

「其方が何であろうと余の邪魔はさせん」

 

 

 

ルファスの言葉を前に吸血姫は小さく瞬きをする。

全くの無表情なソレが初めて口を開く。

ベネトナシュと同じ声でありながらあらゆる要素が抜け落ちた人形の如き声が発せられた。

 

 

 

 

《貴女の力は大きすぎる》

 

 

 

ソレは吸血姫再現体を以てしても排除できない異物/イレギュラーへの警戒心の発露。

既に計画は動き出しており、台無しにされるのは問題だ。

だから兵器群はルファスに手を差し伸べた。

 

 

メリディアナを通しての勧誘は失敗している。

だからこれは最後の確認だった。

棒読みで何処か文脈さえおかしい言葉で吸血姫は喋る。

 

 

 

≪力を我々に委ねて下さい。肉体を捨てて下さい≫

 

 

 

≪素晴らしい世界が貴女を待っている≫

 

 

 

≪貴女を護らせてください。全ての苦難からの解放はすぐそこに≫

 

 

 

ルファスを案じているようで何処かがズレている無機質な勧誘。

おおよそ人の心というものに対して何の興味もない応答。

対してルファスの返事はただ一つだった。

 

 

 

「断る」

 

 

 

拳を握り、彼女は醜悪な人形の顔面にソレを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少しだけ巻き戻る。

宙の向こう側でルファスと吸血姫再現体がこの世の法則を歪める戦いを行っていた最中。

ディーナとメリディアナもまた火花を散らしていた。

 

 

 

 

十二星天の隠されし十三番目の星を司るディーナはかつては女神の端末として在ったが紆余曲折あった末にルファスに仕える身だ。

彼女には人の母とエルフの父がいる。

母は既に死んでしまっているが、それでも父は、父だけは生きている。

 

 

 

己を女神と同一視し生きてきた彼女はルファスと出会う事により初めて人として、ディーナという個人として産まれる事が出来たのだ。

女神アロヴィナスの記憶と記録を数多く与えられた彼女は女神の所業がどれほど人の恨みを買うかも判っていた。

そう、判っていた筈なのに。

 

 

 

結局のところ彼女にとっては他人事だったのかもしれない。

女神と自分は違う。

故に女神のやった事は己とは関係がないと思うのは仕方ない事かもしれないが。

 

 

 

魔神族による虐殺と悲劇、蠍による文明滅亡、更には数多く配備された強大な魔物による蹂躙がどれほど人を怒らせたか。

一方的に押し付けられた愛に多くの人が迷惑をし、多くの命が散った。

それらがどれだけの負の感情を産むか、本当の意味でディーナは判っていなかった。

 

 

 

魔女と蛇使いは対峙している。

美しい正に女神然とした蒼い美少女と黒い老婆は正しく神と悪魔の対比のようだ。

 

 

 

「ヒヒヒヒ……よもやマファール陛下がねぇ?」

 

 

 

「そうかい、そうかい……ひひひひ!」

 

 

 

無傷のメリディアナは杖を撫でながら喉を鳴らす。

どうやったかは判らないがこの老婆はディーナを一目見て多くを理解したようだ。

即ち、女神の端末が本体を裏切りルファスの下についたことを。

 

 

明らかに知っている反応であった。

だってこの老婆は明らかにディーナを見ながらディーナではない誰かを観ているのだから。

 

 

 

影に隠れて行動するのが本業の彼女にとってこれはとてつもない失点である。

よりによって目下最大の敵に己の存在がばれてしまったのだから。

つまり、もう生かしておくことは出来ない。

 

 

既に現時点で主であるルファスの意から反したことを行っているのだ。

これ以上の失敗は許されない。

故に洗脳だの何だのと生ぬるい事を言うべきではないと少女は判断した。

 

 

 

「手荒なことはしたくなかったのですが」

 

 

 

【エリクサー】を取り出し一気に飲み干す。

ルファスの傑作の効能で瞬時に頭痛が消え去り体調は万全に戻った。

 

 

 

 

精神操作は意味がない。

あれだけの数のノイズを掻い潜るのは如何にディーナと言えど不可能だ。

だから彼女は初手で油断せず最大の必滅技を発動。

 

 

相手が老婆であるのならばコレはきっと効果覿面だろう。

 

 

「さようなら。魔女(モブ)さん」

 

 

魔女を指さし無慈悲に終わりを宣言する。

たとえ何人であろうとこれには耐えられないのだ。

この世で最も強い破壊効果、それは時間経過である。

 

 

 

【イェド・プリオル】

 

 

 

世界の管理権限を持つ者のみが扱える能力が発動。

たった一人の人間を殺すには余りに過ぎた力だ。

神の化身として扱える時間操作能力、その一つが開帳される。

 

 

メリディアナを取り囲む空間が隔離され、それは加速を開始。

 

 

対象の時間を周囲から切り離し、無限に加速させ続ける力だ。

どんなものであろうと老い/劣化からは逃げられない。

事実メリディアナは観念したのかじっと自分の手を見つめて動かない。

 

 

 

(終わりですね)

 

 

 

無感情に自分の勝利を確信し蒼い乙女は次を考える。

この場合の勝利とはこの場におけるメリディアナの死ではなく兵器たち全てに対しての勝利だ。

 

 

ルファスが負ける事などあり得ないが、それでもアリストテレス兵器群をここで無力化出来たのは大きい。

次の代表が選出されるだろうが、それまでに猶予がある事を思えば後は簡単だ。

 

 

 

一定の権力や発言力の在る者を片っ端から精神操作していけばいい。

それを繰り返し世論をひっくり返すのだ。

アリストテレス兵器群への反発を煽っていけばやがて民衆からアリストテレスは排斥されるだろう。

 

 

そうすればミズガルズは主の元に統合される。

それでようやく第一段階だ。

 

 

 

時間は余りないのだ。

アロヴィナスと同じことをやるというのはディーナにとっては筆舌に尽くしがたいものがある。

しかし既に女神はルファスの排斥を始めようとしている事実が彼女を急がせる。

 

 

彼女には判るのだ。

ルファス・マファールを元より危険視していたアロヴィナスが手段を選ばなくなりつつあると。

 

 

 

 

繰り返すが時間は余りない。

もう間もなく女神はこの世界全土に対して調整を行い始める筈だ。

誰もが微かに持っているルファスへの反発や嫉妬を増大させ、反乱を引き起こそうとするだろう。

 

 

 

特に彼女に最も近いあの七人、彼らが危ないとディーナは思っていた。

ベネトナシュはともかく残りの者らは各々がルファスに対し一筋縄ではいかない感情を抱いているのを彼女は知っている。

そういう者ほど女神の思考誘導にかかりやすいのだ。

 

 

 

ディーナは思考を切り替える。

今回はまたとない機会だったからリスクを冒して表に出たが、その甲斐はあった。

魔女の排除も終わり、ルファスの方も兵器群の作った端末を破壊していることだろう。

 

 

 

彼女の弱点。

それは女神から受け継いだ詰めの甘さである。

どれだけ計画を練ろうと発生するイレギュラーに彼女は弱い。

 

 

 

 

(さて、向こうももう終わった───)

 

 

 

 

そしてもう一つ。

彼女は生まれながらに神の視点を持ち、己を長い間女神と同一視して生きてきた。

紆余曲折あった末に自分は女神ではないという結論を出した彼女だがその残照はまだ残っている。

 

 

 

 

つまり──ディーナは特別ではない存在を侮る癖があった。

本来ならばこの程度の慢心は問題にならない程に圧倒的な力を持つ彼女だったが……。

 

 

 

 

 

(───え?)

 

 

 

 

腹部に何か熱いモノを感じたディーナは視線を落とす。

次に産まれて初めて感じるソレは痛みだった。

皺だらけながらも血管が浮かび上がる程にしっかりと握られた拳が深々と腹部にめり込んでいる。

 

 

放り投げられた杖が空中でクルクル回っている。

 

 

臓器がひっくり返る様な衝撃を受け、口からこひゅっと空気が押し出されて零れた。

誰がやったかなど考えるまでもない──メリディアナだ。

この腰の曲がった常に杖をつかないと歩けない様な老婆はいつの間にかディーナに接近し拳を叩き込んでいたのだ。

 

 

老人のモノとは思えないほどに研ぎ澄まされた一撃を受けたディーナは身体を「く」の字に曲げてたたらを踏みながら後ずさる。

更に一歩、大地に亀裂を刻みながら魔女が距離を詰めて顎に裏拳を叩き込み彼女の脳を揺らした。

 

 

 

 

「な……ぁ?」

 

 

 

意味が判らない。

確かに時間加速は発動したはずだ。

アレを防げる存在など居る筈がない。

 

 

 

 

「どう、して……?」

 

 

 

 

「答える必要があるとお思いかの?」

 

 

 

老婆の装備する指輪の一つが怪しく輝くがディーナはそれに気が付ける余裕はなかった。

対を成すカイロスが量産されているのだ、幾ら高コストな品とはいえクロノスの製造が始まっていない訳がない。

 

 

 

周囲の時間に大幅なデバフをかけて進みを何処までも遅くするクロノスの指輪。

その効能を以てメリディアナは時間加速を相殺したのだがディーナには知る由もない。

 

 

 

 

呆然とした顔を晒すディーナに魔女は冷たく返す。

外付けした魔神族の【クラス】を用いて複数のスキルを容赦なく発動。

一連の動作は決して付け焼刃ではなく確かな実戦経験に裏打ちされた迷いの無さがあった。

 

 

ディーナの持つスキルの数々は極悪の一言。

しかしそのせいで彼女は致命的に経験がなく判断力も低い。

で、あれば冷静さを取り戻す前に、パニックに陥っている今のまま片をつけてしまうのが最適解だ。

 

 

 

 

【瞬歩】

 

 

 

一瞬でディーナに接近し更にもう一発、今度は胸部に一撃を。

普通の人間ならば死んでしまうが、女神の端末ならば問題ないと慈悲はない。

ただし苦痛は据え置きだが、それはむしろ喜ばしい事である。

 

 

 

 

【剛・川掌】

 

 

 

両の掌を重ね合わせて純粋な衝撃を容赦なく体内に叩き込む。

肋骨が砕け散り破片が肺に突き刺さった。

後衛職にとって詠唱が出来なくなるというのはとんでもない痛手だ。

 

 

 

 

ディーナであればそんなものは必要ないだろうが、さすがに呼吸器官がダメになれば彼女でも術を発動させるための集中力を維持できないだろう。

 

 

 

「カ、ぁ、ハ……ぁぁ!!」

 

 

 

満足に呼吸が出来なくなった青い少女は必死に回復の術を唱えようとして口を開閉させるが声が出ない。

むしろ息をしなくてはと焦れば焦る程に肺が大きく動き突き刺さった肋骨による傷を大きくしていく。

たまらず膝をつき四つん這いになった彼女を魔女が極寒を思わせる瞳で見下ろしていた。

 

 

 

懐から何とか取り出したエリクサーの瓶であったが、指ごと踏み砕かれディーナは無様な悲鳴を上げた。

何で、どうして、どうすればいいとどれだけ思考を回そうと答えは出ない。

父の身はともかく明確に己を害された事などない彼女ではどうしようもなかった。

 

 

かつてのベネトナシュやレオンと同じく、生まれながらの強者だった彼女は不利に陥った場合の対応の仕方が判らないのだ。

彼女の持つ力は確かに神の如きものだ。

しかし、それを扱うディーナ個人の精神は本当にただの少女のようなもの。

 

 

 

 

だからこうやって本当の意味で予想外の危機に陥ってしまうと途端にパニックを引き起こし、少し考えれば解決できることさえどうしようもなくなってしまう。

 

 

 

 

「あああああぁぁっッ!!」

 

 

 

「安心おし。殺したりなんかせんよ」

 

 

 

ニタァと口を歪めて笑う。

満願成就を前にしたような、燃え上がるが如き笑みだった。

 

 

 

魔女は神の子を前に高らかに宣言する。

冒涜の極みとしか思えない無感動な未来をディーナに言い聞かせるのだ。

 

 

 

「お前という存在は我々が貰う」

 

 

 

「お前さんは取るに足りないサンプルの一つとして列挙されるのさ」

 

 

 

輝く瞳の色は蒼。

恐ろしい程に澄んでいて底なしの深海の如き冷たさと暗さが同伴した色彩。

 

 

 

 

「全てはアリストテレスの計画の為に、大いに役立ってもらおうかのォ」

 

 

 

だがその前に。女の顔から笑みが消えた。

微かにメリディアナ個人としての欲求が疼いた。

落ちてきた杖をつかみ取ると、その先端でディーナの右頬を勢いよく叩く。

 

 

 

「ぐッ!!」

 

 

 

「あぁぁっッ!」

 

 

 

「なん、で、こんなっ!!」

 

 

 

一撃一撃ごとに悲鳴が上がるが魔女は何も言わない。

嘲笑も侮蔑も。

 

 

 

次に左をもう一発。

更に右をもう一発。

 

 

 

見る見る美しかった顔に紫色の痣が作られ、砕けた奥歯を吐き出す。

古今東西神の端末にこんなことをした者はいないし、これからも居ないだろう。

 

 

 

しかし魔女の顔に喜悦はなかった。

少なくとも彼女はこの暴虐を楽しんでいる訳ではない。

ではなぜ、と問われてもその答えは本人しか判らない上に決して誰かに明かす事もないだろう。

 

 

ただ一つ、彼女は全くこれを楽しんでいなかった。

いや、思っていたよりも全然面白くなかったというべきか。

 

 

まぁ……多少は愉快ではあったが。

 

 

 

殴打は続く。

顔だけではなく体の各部を容赦なく滅多打ちにする。

神の娘に出来たのは胎児の様に身体を丸め、幼子が虐待という嵐を過ぎ去るのを待つように耐える事だけだった。

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

煤けた感情も露わにメリディアナは終いの一撃をディーナに叩き込むために杖を大きく振り上げた。

血と少女の髪が纏わりついたソレを振り下ろせば如何にレベル1000とはいえ少女の頭蓋にヒビが入るかもしれない。

しかし構わない。死んでさえいなければコレは有効活用できる。

 

 

大事なのはこれが神の端末という点だけなのだから。

バンという重い音がし、杖は受け止められていた。

既に抵抗の意思さえ削がれていたディーナは痣だらけの顔で黒い翼を見上げた。

 

 

 

 

魔女は“なるようになるもんだ”と肩を落とす。

そして一切の表情を消したルファス・マファールはディーナを護る様に仁王立ちし、メリディアナを深紅の瞳で射殺さんとばかりに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ジ・アークエネミーを使いこなし始めたルファスにとってすでに数値という概念は無意味なものになりつつあります。


あのまま攻撃を続けてもHPは0.9やら0.89999という風に刻み始めます。
彼女を倒したければ想像を絶する力で肉体と魂を跡形もなく消し去るか、もしくは彼女に負けを認めさせるしかありません。



ちなみに第一部の時みたいにプランとアウラにサンドされた場合は膝から崩れ落ちて戦闘不能になります。


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