ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
“獅子王” 戦闘力評価。
【取るに足りない】 【サンプル確保の優先度 低】
────アリストテレス兵器群。
絶叫が大陸に響く。
プライドを傷つけられた男の悲痛な叫びだった。
己こそが最強と信じて居たモノが日に二度も侮られ、踏みにじられればこうもなろう。
轟音を立てながら巨大な腕がおちてくる。
如何に瀕死の状態とはいえ彼は“四強”に名を連ねる最強の魔物。
最底辺のアリエスとは天と地ほどの差がある。
単純なステータスだけ見ても両者には数倍どころか部分的には10倍近い差がある。
特にHPなど笑ってしまうほどだ。
何が狂ったかレオンのHPは100万を超えており、こんなものどうやって削るのだと思ってしまうくらいだ。
しかし今の彼は瀕死であり、HPも20万と少しくらいしか残っていない。
それでもアリエスの3倍はある量だが、レオンからすれば残りカスもいい所だ。
「落ち着いて! 僕は敵じゃないってば!」
剛腕を横に飛んで躱す。
一瞬あとに落ちてきたソレは大地に深い亀裂を作り、深さ10メートルほどのクレーターを形成した。
もしもあの場に居たらちっぽけな羊などぺしゃんこだっただろう。
獅子王レオンは王座を追われたとはいえそれでも最高位の魔物である。
それこそ彼が本気になれば十二の星が総動員しなければならない程に彼は強い。
しかし今の彼は瀕死であり、コンディションは最悪そのもの。
仲間を呼ぶか?
それともルファス様に指示と助力を求める?
彼の任務はレオンを守る事であり、暴れた場合はどうすればいいかは何も言われていない。
羊は己の中にある繋がりを通してルファスの状態を探る。
……どうやら彼女は、本当に信じられない事ではあるが苦戦しているらしい。
ルファス・マファールが苦戦しているという俄には信じられないソレを感知し、アリエスは今は彼女に余計な負荷をかけるべきではないと判断する。
決めるのだ、今ここで。
暴れるレオンを前に退避するか、それとも彼を無力化するか。
そしてアリエスは決めた。
「何があったか想像はつくけどさ」
次いで迫る二撃目を避けると同時にアリエスは駆けだす。
トン、トンと引き上げられる腕を足場に手早く巨大な体を駆け上がり獅子王の眼前まで登り、白濁した瞳を覗き込んだ。
獅子王の血走ったソレに理性はなくアリエスを見てさえいない。
レオンからすればアリエスは鬱陶しい虫だ。
それも耳障りな音を立てる害虫である。
「僕を相手にこんな事している場合じゃないでしょ!」
周囲から向けられる視線は先よりも多い。
兵器たちが何を考えているかは判らないが、下手をすれば漁夫の利を狙っている可能性もある。
アリエスとレオンが消耗したら一気に仕掛けてくるかもしれないのだ。
あの大型戦闘ユニットも恐ろしいが、巨大な昆虫に群がられるのは絶対にごめんだった。
しかし今のレオンはまともではない。
ただ溢れる憎悪と憤怒に任せて彼は咆哮を上げた。
おおおおおオ゛オ゛オオ゛オオオオオオオっッ!
ぶっ殺してやるッッ!! 出て来い、殺してやる───ッ!!
発せられる膨大な覇気はさすがの獅子王と言えた。
瀕死だというのに、否、瀕死であるからこそ今の彼は普段よりもその圧を増していた。
本気だった。
圧倒的な強者として怠惰に玉座に座っていた彼は初めて誰かに本気の憎悪を抱いている。
その瞳は虚空を睨みつけ、目の前で必死に宥めようとするアリエスなど眼中にもない。
暴力としか形容できない圧を前にアリエスは───憐憫さえ宿った瞳を獅子に向ける。
時代に追いつかれ、己の栄光が終った事を理解できない哀れな過去の遺物を見る様に。
確かに獅子王レオンはかつては圧倒的な正に無敵の存在だったのかもしれない。
ルファスがただの少女だった時から既にミズガルズに君臨していたレオンは産まれもった素養という点では彼女を越えているかもしれない。
しかしそれだけだ。どれだけ優れた原石であろうと磨かねばただのクズ石である。
努力や鍛錬や勉強などといった言葉を彼は弱者の小細工と嘲笑うだろうが、現実として彼はもう追い抜かれてしまっているのだから。
つまるところ現状は簡単に説明できる。
己の才覚に胡坐をかいていた猫が現実を認められずに駄々を捏ねているだけだ。
そんな様を晒すレオンを目の当たりにしてアリエスは憐れみと苛立ちの混ざった目線を向けた。
(獅子王レオン……僕とは違う、本当の意味での強者)
狂気に染まり乱雑に繰り出される攻撃の全てを紙一重で躱す。
確かにとんでもない速さと破壊力ではあるが、全てが大振りで技巧も何もあったもんじゃない。
戦術やら戦法やら、そういった事を考えた事もない獅子王の動作は言ってしまえば子供の喧嘩と同じだった。
(…………どうして獅子王は)
相変わらず無駄な動作の多い“がむしゃら”としか言えないソレを先より容易く回避しながらアリエスは【観察眼】を発動させ続ける。
瞳に意識を集中させて観るのだという意思を強く持てばアリエスの視界は変わっていく。
獅子王の体内を循環する血液や、所々が折れた骨の数々。
筋肉に走る電気信号さえも今のアリエスには見える。
もはやこうなってしまえばどうしようもない。
考えることもなく暴れるだけの獣の動きは既に完全に見切られてしまっていた。
(こんなに凄い才能があるのに)
ミザールに作ってもらった小さなリボルバーをホルスターから取り出す。
手にしっかりと馴染むソレでアリエスはこの全長100メートルを超える巨大な獅子の怪物と戦うつもりだった。
彼は小柄という己のアドバンテージを活かす振る舞いをする。
紫色の体毛を掴みぐいっと己の身体を引き上げて飛翔する。
そのまま彼は小人として巨大な獅子の身体のあちらこちらを走り回る。
よっ、ほっと声を上げながら逃げ回る姿はレオンからしたらさしづめダニか。
そんなダニが、最弱の魔物が、こんなゴミが自分を愚弄している現実に獅子王は更に血管を数本切れさせ吠えた。
クソガアアアアアアアアアアア!!
狂っている故に獅子王は全力で己の身体に爪を立てて血が噴き出る。
三割しかないHPが更に減っていくがそんなことはレオンにとってはどうでもいいのだろう。
しかしレオンはそうでもアリエスは違う。
間違っても獅子王を死なせるわけにはいかない彼は荒治療を行う事にした。
「ルファス様がこっちに来られる前にちょっと落ち着いてもらうよ!」
先ずは一発。
右腕の骨と筋肉の間、誰も気づいた事のない構造上の弱点個所に麻痺弾を撃ち込む。
さすがは獅子王というべきか、如何に脆い個所と言えど皮膚に銃弾がめり込むだけだ。
神経には到達していない。
これでは麻痺させられない。
それを差し引いても獅子王の状態異常への耐性は極めて高かった。
しかし……めり込みさえすれば後はどうとでもなる。
アリエスの真骨頂が披露される。
「よっと」
大きく跳ねればアリエスの視界は上下が逆になった。
足元が空で、頭上が大地───獅子王レオンである。
まるで妖精の如く彼は重力を無視して空高く宙返りをしたのだ。
如何に十二星天最弱候補といえどそれでもレベルは1000。
ちょっとやる気になれば純粋な脚力だけで数十メートルも飛ぶのは簡単である。
虹色に輝く髪をたなびかせ、アリエスは微かに乾いた唇を舐めた。
(僕なら出来る)
まずは自分を信じる事。
それが大事だと彼は知っている。
狙いは一点。
己を見失いこれまた不気味な唸りを上げている獅子王のある部位だ。
子供の様な彼でも使いこなせるリボルバー銃は本当に小口径であり、本来ならば威力など期待できないものである。
パンっと乾いた音が響いた。
宴会道具のクラッカーでも割ったような軽い音だった。
音は一つ、しかし放たれた銃弾は三発だ。
余りに素早い連射は音さえ重ね合わせる程の絶技であった。
勿論ただ早いだけではない。
肝心の狙いは速度など置き去りにするほどに隔絶したものである。
一発目が的確に先にめり込んだ麻痺弾の尻を叩いて更に奥へと潜らせる。
しかしそれでも足りなかった。
獅子王の規格外に頑強で分厚い皮膚はそれだけでは突破できない。
────二発目、三発目が全く同じ個所に撃ち込まれる。
寸分の狂いもなく、完全に力が伝わる様に。
奥へ、奥へと弾丸は押し込まれて遂に神経へと到達。
強靭な肉体を操作するための糸が傷つけられた上に麻痺毒がさく裂した。
スコルピウス特製のとびっきりに強力な一品をアリエスが加工した対獅子王用の品の一つである。
獅子王は確かにすさまじい耐性を持っている。
しかし無効化は出来ないだろうとアリエスは予測していた。
彼の様な強者が状態異常への対策など行う筈もないと考えたのだ。
それは大当たりだった。
瞬間、レオンは右腕の感覚を喪失した。
どれだけ力を込めてもピクリともしない。
腕の存在そのものが感じ取れないのはまるで切断されたかの様だった。
「っ!!!??」
憤怒さえ忘れて彼が己の右腕を見てしまったのを誰が責められるだろうか。
一瞬だけ彼は目を瞬かせた。
何がどうしてこうなったかを考えているのだ。
視界の端っこをちょこまかと動き回るハエが見えた。
微かに虹色に発光するのも含めて何もかもが鬱陶しくて、うざくて、不愉快だった。
獅子王はこの時に初めてアリエスという存在を認識したのだった。
眼中にもない虫の如き羊を敵として認識する。
その事実そのものがレオンのプライドを更に削った。
「テメェ……弱っちいクソ雑魚がッッ!!」
「野郎っぶっ殺してやらぁァァァァァ!!!」
目の血管が破れたのか血涙を流しながら獅子王は殺意で吠えた。
憎悪と苦痛に狂って暴れる有様は正しく魔物の中の魔物と言った姿だ。
そんな様を見てアリエスは恐怖を感じるよりも、何かが己の中で冷えていくのを感じた。
先に想っていた問いかけの続きが意識せずに漏れた。
どうして獅子王は。
こんなに凄い才能があるのに。
────それを磨こうとしないんだろう?
どれだけ優れていようと産まれた時から何もせずその場から進歩しなければいずれは追い越される。
そんなことは当たり前なのに、いざその日が来たら喚き散らすのは見苦しいとアリエスは思った。
皆が無敵だと持て囃しているルファス様だって今でもなお鍛錬や勉学は欠かしていないというのに。
くるくると回りながら両手を上げてピタッとアリエスは着地する。
そこは涎と血を吐き散らす獅子王の眼前、本来であれば処刑台の如き個所だ。
だが白濁した瞳を見上げるアリエスの顔に怯えはなかった。
ゆっくりとレオンがアリエスを見下ろす。
真っ赤な泡を零しながら彼は不快なゴミを見て嘲笑う。
最悪な一日の中で初めて見つけた何時もの日常──つまりは弱弱しい雑魚であるアリエスを見て彼は自分が既に勝ったつもりでいた。
ちっぽけな羊を敵と思ってしまった時点で彼は負けているが、その事実から全力で目を逸らす。
ラードゥン程ではないが彼もまた暴虐の王、己の都合の良い方向に物事を認知する業があった。
「いいぜぇ……ちょうど血が足りねえんだ……」
レオンは虹色羊の事など知らないが、それでも美味そうな餌ということは判ったらしい。
魔物としての本能がアリエスの食材としての価値を見抜いたのかもしれない。
餌。雑魚敵。モブ。
俺の強さを飾り立てるやられ役。
獅子王にとってのアリエスはそれだ。
結論から言おうか。
獅子王レオンは再び敗北することになる。
最強の魔物にして素養だけならばルファスやベネトナシュに匹敵するかもしれない彼はちっぽけな羊に負けるのだ。
敗因は幾つもあった。
右腕が使えない。
兵器たちとの連戦で体力を消耗していた。
全体的に絶不調だった。
しかし一番大きい要因は───彼がアリエスを舐めていた事だろう。
「僕はアリエス。ゾディアックを統べるルファス様にお仕えする者の一人」
「獅子王レオン、君を僕たちの同胞として迎えたいんだ」
ようやく話が出来ると判断したアリエスが声を張ってレオンに言う。
意外な事に獅子王はアリエスの話を───聞いていなかった。
彼の頭にあったのは自分を見下してきた二人の女の事だけだった。
翼の生えた雑魚。
杖をついた雑魚。
あれだけ自分に舐めた事をしてくれた奴らに復讐を行う。
それが今の彼の全てである。
「ルファス。やっぱりそれがあの女の名前かァ」
いいことを聞いたと獅子王はニタァと口角を吊り上げて粗野な笑みを形作る。
どうやって殺してやるかと嗤うのだ。
アリエスは小さくため息を吐いた。
こいつが何を考えているのか手に取る様に判る。
ここまでやられて未だに考えを改めないのは逆に尊敬さえ出来た。
レオンは己の栄光を夢想しているのか酷く笑った。
出来るかどうかはともかくとして今後の予定を彼は声高らかに宣言する。
「テメェを喰って! その次はあの女どもだッ!!!」
お前など片腕で十分だと言わんばかりに大きく左腕が翳され、それが落下する。
隕石の直撃とも称されるソレに対して今度は避けなかった。
琥珀の瞳の中では黒い炎が燃え盛っていた。
憤怒という名の炎が。
アリエスは怒っていた。
今の獅子王の振る舞いを見るとどうにもアイツを思い出すのだ。
彼を殺しルファス様に深い悲しみを与えた憎々しい竜王を。
それだけじゃない。
アリエスも彼の事が大好きだった。
(イライラする)
苛立ちの理由は自分が馬鹿にされているからではない。
獅子王が持つ強者の慢心が何処まで言っても竜王を思いだすからだ。
アリエスは落ちてくる獅子王の強靭で巨大な手を迎え撃つために腰を落とし、思い切り拳を突き上げた。
片腕だけで何十メートルもあるレオンのソレに対してアリエスの拳は少女か幼子としか思えないほどに小さくて細い。
どちらが勝つかなど誰が見ても明らかで無謀ともいえない自殺行為にしか映らないだろう。
爆音。
負けたのは獅子だった。
獅子王が大きく仰け反り、左腕にとてつもない衝撃を感じた。
同時に覚えたのはとてつもない熱さ。
【アースクエイク】
本来ならば地震を誘発させる「土」属性のスキル。
ルファスが与えたソレをアリエスは独自に解釈し、今やそれは指向性を持った地震を放つモノへと変わっている。
その本質は震動/振動であり、言わば揺れるという概念である。
貧弱な腕力と油断した相手を襲うのは大地の地殻変動のエネルギーそのものだ。
マグニチュード7の全エネルギーを拳に圧縮し打ち出せばそれは獅子王の巨体さえ弾く程の威力を持つのは現状を見れば明らかである。
そしてもう一つ。
アリエスの所持するスキルの中で最も彼が愛用し極めた力。
虹色の炎【メサルティム】である。
彼の左腕は燃えていた。
虹色の炎が蛇の様に纏わりつき延々と果てないダメージを彼に与え続ける。
膨大なHPを持つ獅子王にとって最大HPの割合ダメージを与える【メサルティム】は正しく天敵としか言いようがない。
「!?」
目を見開く。
馬鹿な、ありえないと内心で何度も繰り返しながら。
己のHPが急速に消えていく。
一瞬、レオンの頭は真っ白になった。
自分がまたもや負けそうになっているという事実を彼は優れた本能で判ってしまった。
あの女ならまだ判る。
アレが女の皮を被った化物なのは明らかだ。
アリストテレス兵器群ならば憎々しいが納得はしただろう。
狂いきった機構はレオンからしても怪物に映っている。
しかし、現実は違う。
こんなちっぽけな雑魚に。
一日で飽きる程に抱いたその感情が爆発するよりも早くアリエスは動いていた。
「雑魚」という言葉。
自分は十二星天の中でも最弱候補だというのは良く判っているが、何度も聞いて気持ちの良い言葉ではない。
リボルバー銃を地面に勢いよく放ち、その時の爆発で彼は跳ねた。
レオンの目と鼻の先にアリエスが飛ぶ。
獅子王は未だに現実を見れていなかった。
彼に出来たのは呆然とポカンとした顔を晒すだけだ。
「ねぇ……パンチの打ち方を君は知ってる?」
空中で器用に身を捻り全身を使って拳を突き出す。
彼の仲間の一人であるタウルス───真の名はアステリオスは徒手空拳の達人でありそんな彼からアリエスは拳の打ちだし方を教わっていた。
更に言うならば彼はルファスからも教えを受けた事もある。
攻め方はルファスとタウルスに。
そして防御の仕方はカルキノスに。
彼ほど師に恵まれた者はいない。
この世で最も強い戦士たちから彼は教えを受けており、その成果が開帳される。
膨大な振動/震動───【アースクエイク】を宿したソレが獅子王の鼻っ面に叩き込まれた。
震動が振動を増幅しアリエスの拳に宿るエネルギー総量はマグニチュード7.5にも及ぶ。
もしもこれが地殻の底で放たれたらそれだけで都市が幾つも吹き飛びかねない破壊力だ。
その全てのエネルギーが獅子王の内部へと撃ち込まれた。
ズン、と一瞬だけ大気が歪んだ。
大陸を揺らす程の大地震。
それがたった一匹の魔物の中で発生すればどうなるか。
あまりに荒唐無稽な疑問であるがここはミズガルズだ。
ありえない事など殆どなく、唯一の制約は人々の想像力と発想しかない。
大抵の事は出来ると思えば出来るのだ。
「ガッ……ァッっ────」
メキ、メキと不気味な音を立てて鼻が潰れる。
頭蓋骨が軋み撃ち込まれた震動が体内で乱反射を繰り返す。
内臓が跳ね、牙が何本か折れていく。
ああああああああああああァァァァァァ!!!
絶叫を上げて獅子王は彼方へと吹き飛んだ。
100メートルを優に超える巨体が何度もバウンドし大地に血と毛とあらゆる種類の体液を撒き散らしながら跳ねる。
それでも体内で発生した振動は相互に波が干渉し合い中々に止まらなかった。
やがて数キロ吹き飛んだ所でレオンは山の中腹に突き刺さる様な形で受け止められて停止。
一瞬遅れて全身から夥しい量の出血を放ち、遂に彼は意識を手放すに至る。
HPも1割どころか2%を切り本当の意味で虫の息だ。
右腕が使えなかった。
満身創痍だった。
アリエスを侮っていた。
戦いの最中に別の事ばかりを考えていた。
レオンの敗因は上げればキリがない。
しかし戦闘においては結果は全てに優先する。
獅子王が常日頃から口にしていた弱肉強食という概念を当て嵌めて見れば現状は一言だ。
レオンはアリエスに負けたのだ。
そして勝利者であるアリエスは何も変わらず佇む。
彼の振る舞いには全くと言っていい程に油断や隙はない。
子羊の時代から持ち続けてきた警戒心を常に絶やさず周囲に意識をやり続けている。
向けられる視線は変わらず。
相も変わらず人を観察し値踏みする様な嫌な気配だった。
今も弱者であると自覚する彼は一つの勝利にいちいち喜んだりなどしない。
相手が獅子王であろうと、そこらへんのゴブリンだろうと戦場にいる以上は次がいつ来るかなど誰にも判らないのだから。
そんな彼だからこそ微かに周辺の空気の流れが変わった事を察した。
アリエスは跪く。
半秒後に彼の眼前に【エクスゲート】が開きそこから現れたのはルファスだった。
黒い翼を携え赤色を基調としたドレスで着飾った偉大なる女王は彼方で倒れ伏したレオンに一瞥をし、多くを察したようだった。
「大義であった」
「ありがとうございます」
多くは語らない。
最低限のやり取りだけで王と従者は多くをやり取り出来る。
この一人と一匹は今までも、これからもそうだろう。
これが覇道十二星天【牡羊座】のアリエスの今の姿だった。
彼はこれからもずっと約束を抱え、それを守り続けて生きるのだ。
意識が朦朧としていたのと自己防衛本能によってレオンはこの戦いを覚えていません。