ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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“娯楽施設”

ゾディアック11番区画 
建設申請 ◎◎月~××月まで建築予定。


許可。


───とある一枚の書類。ルファスの認可済み。






ここはゾディアック。いちどはおいで。

 

 

多くの横やりやイレギュラーはあったがアリストテレス兵器群の当初の目標は果たされた。

制圧した地域を維持し開拓するための部隊を残して本隊は次々とアルゴー船に格納されクラウン帝国へと帰還を開始している。

その中でも最も大きく人類共同体のシンボルを掲げた司令船の中にメリディアナはいた。

 

 

 

 

老婆はしきりに己の首を撫でやり、それがいまだに繋がっているかを幾度も確認している。

結論から言えばルファスは彼女を殺さなかった。

振り落された剣はメリディアナの額に当たる寸前で停止された後、王が騎士に下賜するように渡された。

 

 

 

 

腰の曲がった老婆と黄金に輝く王の絵面は芸術的で、あらゆる意味で対照的な二人の関係を浮き彫りにしていた。

誘いに掛からなかったかと内心で思う魔女にルファスは平然と述べた。

次いで彼女はこう言い放ったのだ。

 

 

 

ルファス・マファールは決して力だけの暴君ではなく、むしろ腹芸なども平然とこなす役者だと感じさせる言葉を。

 

 

 

 

“大陸解放の任、大義であった”

 

 

 

“其方と余は意見こそ異なるが、それでも互いに人々の安寧を望む同志でもある”

 

 

 

 

“獅子王は余に任せておけ。何、悪いようにはせんさ”

 

 

 

 

まるで最初からそういう取り決めだったかのようにルファスは場を支配し魔女が何かを語る前に全てを取り仕切ってしまう。

言外にそういことにしておけと彼女は言っていた。

 

 

 

吸血姫再現体を破壊された魔女たちにルファスを止める術はない。

同時に先の意味不明な処理で心臓を停止させられたルファスも警戒心を向上させた故の落としどころがコレだった。

 

 

 

 

ルファスと兵器群の第一戦は痛み分けという結果に終着した。

覇王は一度殺されかけ、兵器群は現状の最高戦力を喪失しその上でルファスを倒しきれなかった。

互いはこう思った事だろう「手強い」と。

 

 

 

首を撫でる手を止めて老人は深く椅子に身を委ねた。

世の中そう上手くはいかないものだと彼女は思った。

想いながら彼女は独り言の様でいて、そう思えない程に滑らかに誰かに向けて声をかけた。

 

 

もちろんこの部屋には彼女しかいない。

 

 

 

「はい。誠に残念ではありますが」

 

 

 

「勝負に勝って試合に負けた、という所ですな」

 

 

 

本当に吸血姫再現体を破壊されたのは大損害だった。

あれにはまだまだ利用価値があったというのに。

早く次を仕上げなくては。

 

 

 

「既に我が身など惜しくはありませぬ。

 最終的な勝利に役立つというのであれば、と思ってはおりましたが……」

 

 

 

 

計画を明かしてしまえば彼女は死ぬつもりだった。

あそこでルファスが己を殺すところを兵器群に撮影させ、それを全世界にばら撒くつもりだったのだ。

そうなれば世界は決定的にアリストテレス優位になる手筈だった。

 

 

 

この世界には存在しない“写真”という概念を用いた情報攻撃であった。

在る世界におけるネガティブ・キャンペーンである。

 

 

 

ルファスが王であろうと……否、王だからこそ通さなければならない道理というものがあるのだ。

王たるものはあらゆる行動に大義名分を要求される。

既にメリディアナとルファスの対立は確定的だが、だからといって直ぐに殺せばいいという話ではない。

 

 

獅子王や竜王ならばそれでいいだろうが、生憎人類の作り上げた社会構造は複雑怪奇なのだ。

 

 

 

 

覇王ルファス・マファール、任務中のアリストテレス兵器群代表を奇襲し殺害!

 

 

 

こんな報が世界中にばら撒かれたらどうなるか?

間違いなくゾディアックは全世界から糾弾される。

ルファスがどれだけ強かろうとそれはもう徹底的に。

 

 

 

大陸を開放し今なお大勢の人類を守り続けている兵器たちの要人を罪もないのに殺したとなればどれだけルファスが強かろうと世界中の彼女への不満は一気に高まる。

ただでさえ苛烈な政策が多い彼女に叛意を燻ぶらせる者も大勢いるのだから。

しかし今となってはそれは過去の話、ルファスは見事に老婆の策を潜り抜けて見せた。

 

 

 

ならば次だ。

覇王は次々とミズガルズに散乱していた特異な個体を配下に加えて厄介な勢力を築き上げつつある。

いつの間にか十二の星は半数が既に埋まり、更に勢いを増していた。

 

 

 

知りえるだけで獅子王にヘルヘイムの魔王、虹色羊に毒蠍、女神の端末、後は人を知る亜人……正にミズガルズのオールスターというべき面々である。

と、なればルファスが次に狙うのは誰かは大体あたりが付く。

この世界で有名な強者なのは間違いないのだから。

 

 

メリディアナは手元に置かれた書類に目を通す。

覇王が集めると予想されているミズガルズの特別な者らだ。

 

 

 

 

 

女神の聖域に座す聖女と天秤。

海を統べる賢王。

そして魔神王と対を成すと言われていた妖精姫。

 

 

 

これらがルファスの配下に加わる可能性とその厄介さを纏めたレポートだ。

結果は、かなり厄介としか言いようがないが……もう少し時間と情報が入手できればそれもどうにかなるという試算が出ていた。

ルファスさえどうにか出来る手立てが整えば十二の星など問題ではないと。

 

 

 

根拠の一つとして既に吸血姫の量産方法が確立されているのがあげられる。

安定した速度でレベル1500相当のユニットが生産され続け、獅子王を叩きのめした大型戦闘ユニットも問題なく増え続けていた。

あれらを動員すれば十二星天が如何に強大であろうと問題なく勝利は可能だ。

 

 

 

それだけではない。

吸血姫以外にも兵器群は更に変異と進化を繰り返し続けている。

此度の敗北を淘汰圧と受け取ったアリストテレス兵器群はかつてない勢いで新兵器の増産を急いでいた。

 

 

 

吸血姫という今ある者の再現ではなく全く新しい、常識にとらわれないアプローチで作られた兵器たちだ。

これらの仮想敵は龍と覇王であり完成すれば兵器群の戦力は数段階次元を上げる事だろう。

とある魔法を組み合わせることで魔神族の素材としての性能は何十倍にも跳ね上がることは既に明らかにされている。

 

 

 

究極ともいえる「月」の属性を持つ魔王と吸血姫の因子。

そして此度手に入れたルファス・マファールの“力”の情報。

これらを解析し次世代型の戦闘ユニットの設計と構築は既に開始されている。

 

 

 

覇王は置いといて龍に対抗する兵器など本当に出来るのか、という疑問に意味はない。

現状で既にミズガルズ最大規模の軍勢を揃えているのだ、その先に進めない道理はない。

いや、兵器群はいまだ惑星一つ程度の規模しかない事を考えるにこれからなのだ。

 

 

文明で言えばまだ産声を上げた初期段階でしかない。

技術的特異点は間もなくであり、後は無限に加速し進化し続けるだけである。

 

 

 

「えぇ、貴方様がそう仰るのでしたら私めに異論はございませぬ」

 

 

 

虚空に向けて魔女は話しかけ続ける。

これは彼女が耄碌したわけではなく、本当に会話をしているためだ。

相手は言語ではなく“意思”を送り込み、ソレに対して彼女が返事をしているのだ。

 

 

 

兵器群は進化を続ける。

覇王に対抗する為に。

 

 

しかしこれらは覇王を殺す為ではなく捕獲するためだとメリディアナは説かれる。

どうやらアリストテレスはルファス・マファールを保護しなくてはならないと考えているらしい。

歪みに歪んではいるが造物主の意思が残っているのかもしれないが魔女はソレを知る事はない。

 

 

 

もしくは彼女の持つ力と【ジ・アークエネミー】さえも兵器体系に組み込む気なのかもしれない。

さすがのメリディアナも創造主であるプランが兵器群にルファスを守る様にと命じている所までは知らないのだ。

 

 

 

 

「ふむ……」

 

 

 

 

次に魔女は兵器たちが送り込んできた観察情報を前に声を漏らす。

女神の端末が居るという事はコレも予想できた事である故に驚きはなかった。

率直に言えば全世界に分布するマナ/天力のバランスが乱れ始めている。

 

 

 

 

特にミズガルズ全土を覆う天力が僅かにではあるが密度を上昇し始めている。

コレが何を意味するかはよく知っている───女神が世界に直接的な干渉を始めたに他ならない。

今はまだ微量ではあるがやがては人々の意思はまたもや女神の意思に掌握され突き動かされる事だろう。

 

 

それを向けられる対象はルファス・マファールかはたまた己たちか。

どちらにせよ世界はまたもや神の意思で発展を抑え込まれ、その在り方を捻じられる。

どれほど努力しようが、どれほど未来への展望を抱こうが全て無駄な理由がコレだった。

 

 

 

運よく文明を滅ぼす蠍をやり過ごしたとしても最終的には女神の思考操作によって世界は強制的に歩みを止めさせられるのだ。

ミズガルズ歴が始まる前、人類が協和の時代を歩んでいた時もこれと似たような事が起きたと文献には記されている。

 

 

 

世界を良くしようと努力しても無駄なのがミズガルズだ。

この地こそあらゆる者全てに絶望と失敗が約束された世界である。

 

 

 

その現実を前にメリディアナは、魔女は、老人は───。

 

 

 

「き、ひひひ……ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」

 

 

 

堪えきれなかった。

我慢など出来る筈もなく老婆は狂乱する。

来たか、遂に来たか、来てしまったかと。

 

 

 

ニタァと魔女は獰猛に笑う。

そう来ると思った。

何かの一つ覚えの様な事しかしない愚鈍な女め。

 

 

何も用意していないと思っていたのか?

いずれその椅子ごと粉砕してやるとミズガルズにおいて本来は名前さえ残せなかった筈の一般人はほくそ笑むのだった。

 

 

 

その手にはディーナ(女神)の血を収めた小瓶があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリストテレス兵器群と一戦を交えるなど多くをこなした後、ゾディアックに帰国したルファスは玉座に腰かけ眼前に佇む巨漢の男を見つめている。

いや、見下ろしているというべきか。

ルビーを思わせる深紅の瞳の中に熱はなく、新しく手に入れた宝石を見定めるような、かつての師にも通ずる何処か無機質な輝きがある。

 

 

 

覇王ルファス・マファールは傲慢に絶対的強者として当然の如く己の決定を他者───レオンに明示した。

これはお願いや要求ではなく命令、即ち確定事項であると。

 

 

 

「今日は多くの事が目まぐるしく駆け巡った日であった。

 故に其方にかけた余の言葉も有耶無耶になっていないかと不安になってな」

 

 

 

「改めて正式に勅を出す。獅子王レオン───余の配下となれ」

 

 

 

ソレが逆鱗であると知りつつあえてルファスは踏み抜く。

アリストテレスに叩きのめされ、アリエスに鎮圧され、プライドを木っ端みじんにされたレオンのソレをあえて踏む。

 

 

 

「ふざけんじゃねえッ!!」

 

 

よりにもよって女如きに見下ろされ、挙句には僕になれなどとほざかれたレオンは怒り狂いルファスへと拳を振りかざす。

柱の陰からルファスとレオンの様子を見守っていたアリエスが咄嗟に動こうとするが、直ぐに従者としての繋がりを通じてルファスは抑えた。

既にアリエスは十二分に役目を果たしてくれた、次は自分の番だ。

 

 

 

獅子王レオンはレベル1000という次元においても極めて高水準のステータスを持つ最強の魔物である。

単純なスペックだけを見れば続々と席が埋まりつつある十二星天の中でも飛びぬけていると評せる程だろう。

魔王の誕生にはアリストテレスの関与があり、後に加入することになるエロスは女神が手ずからに拵えた龍の試作品という前提があることを考えるに天然物では紛れもなく逸材だ。

 

 

 

 

かつて存在したアリストテレス卿もまた獅子王に素材としての価値を見出し捕獲の為に『インフィニティ』という拘束具を考案する程である。

正しく食物連鎖、弱肉強食という概念が作り上げた最強の魔物なのが獅子王だ。

 

 

 

 

弱肉強食。

強い奴こそ常に正しく弱者は黙って従え。

それがレオンの掲げる真理であり、かつてのベネトナシュも信奉していた道理だ。

 

 

 

だからこそ、コレは当然の結果だった。

 

 

 

 

「跪け」

 

 

 

 

覇王は不遜な輩に一瞥し【威圧】を放つ。

玉座から動く気配さえ見せない。

可愛らしい子猫がじゃれついてきてるだけなのに本気で防御する飼い主などいない。

 

 

 

子猫。

ルファスから見たレオンはその程度だ。

しかし同時に素晴らしい原石でもある。

 

 

 

素養だけならば自分と同等以上があると彼女は見抜いている。

後は本人がソレに気付けるかどうか。

しかし誰にでもチャンスはあるべきだ。

 

 

 

 

かつて自分がそうであったように。

故にまずルファスは下ごしらえを始める。

無駄に肥大化した余計なプライドを砕く。

 

 

 

「───っっッ!!」

 

 

 

レオンはまるで小動物がそうするように咄嗟に跳ねて後方へと跳ぶ。

さながら猫が天敵から逃げる様に。

完全に無意識の行動だったらしくその顔には驚愕があった。

 

 

 

しかしそれも一瞬。

脊髄反射の後に来るのは根源的な感情、恐怖だ。

 

 

 

「はっ、ハッ、ハッ、ハッッ……!!」

 

 

 

ズゥンと重い音を立てて片膝をつく。

 

 

脂汗が止まらない。

歯がかみ合わない。

背筋が凍り付いた様だ。

 

 

諦めずに拳を握る? 

とんでもない。

理屈ではない、本能が圧倒的な格差を理解し敗北を認めていた。

 

 

 

紅い瞳と視線が交叉し、その中にレオンは己の死を認めた。

彼女が戯れに思案したレオンの殺害方法を彼は読み取ってしまった。

もしも自分が──気は進まないが──これを殺すとしたら。

 

 

 

斬殺。

圧殺。

焼死。

 

 

あらゆる死に方をレオンは見てしまった。

その全てが在り得ると悟ってしまう。

 

 

ルファスがその気になればレオンなど容易く殺せる。

彼は何か勘違いしているようだが、いまこの場で彼が生きているのはルファスがそうしてないからだ。

仮に彼がここから逃げてもアリストテレス兵器群に捕捉され、今度こそ抹殺されるのがオチだ。

 

 

 

いや、一思いに殺されるのは最高の場合だ。

普通ならば彼はアリストテレス兵器群が保持するサンプルの一つとして寸刻みにされて臓器の一つ一つを丁寧に瓶詰にされるだろう。

“獅子王レオン サンプル”等と言う悪趣味極まりないラベルを張られて、無様を永遠に保存されるのは間違いない。

 

 

 

つまるところレオンはもう詰んでいるのだ。

 

 

 

 

獅子王はやがて膝をついた姿勢さえ維持できず無様に地面に這いつくばる。

何も重りなど乗っていない筈なのに立ち上がれない。

圧倒的な格差という無慈悲な現実が彼を踏みつぶしていた。

 

 

 

見上げる。

そこに在る女は何処までも恐ろしく、何処までも強かった。

レオンをして化け物と思ってしまう怪物だ。

 

 

 

彼女こそ覇王ルファス・マファール。

かつて存在した“四強”という括りを過去のモノとして君臨する唯一無二の最強。

覇王は黒い翼を広げ、ゆっくりと玉座から立ち上がる。

 

 

カツン、カツンと一歩を踏み出す度にヒールが甲高い音を立てた。

ルファスはひれ伏すレオンの前まで来るとゆっくりと微笑んだ。

 

 

 

「この話は其方にとっても有益である」

 

 

 

とりあえず鞭はここまで。

彼女は武力だけで配下を従えているわけではない。

もちろん圧倒的な力という後ろ盾は必須ではあるが、王としての彼女は巧みに飴と鞭を使いこなす事も出来た。

 

 

 

獅子王の血走った瞳を見ればどれほどの屈辱と挫折を味わっているかは一目瞭然。

この中でどんな感情が蠢いているかは彼女はよく知っている。

 

 

 

 

「アリストテレス兵器群。それが奴らの名だ」

 

 

 

その名称を聞いた瞬間にピクリとレオンの身体が震える。

ルファスよりも直接的に悪意と嘲笑をぶつけてきた老婆の嗜虐に満ちた笑みが脳裏をよぎった。

 

 

 

 

───負け犬の王。

 

 

 

この世の絶望と地獄を知り尽くした人間の魔女は最強の魔物を取るに足らぬ物として扱い、更には侮蔑という汚濁さえ吐きつけた。

それに比べればこの眼前の女はムカつくが、まだマシだった。

強者が自由に振舞うのは当たり前の話なのだから。

 

 

 

 

ジリジリと内心を憎悪で焼かれながらレオンは低い声でルファスに問う。

 

 

 

 

「……てめぇはあの気色わりい奴らとやりあってんのか?」

 

 

 

「そうだ」

 

 

 

 

レオンはこれ以上ない程に考え込み、どっちがムカつくかを冷静に比較しだした。

最終的には両名ともぶっ殺すのは確定しているが、同時に殺す事は出来ないのならば優先順位が必要だ。

 

 

 

ルファスかアリストテレスか。

かなりの接戦ではあったが答えは決まる。

 

 

 

 

「チッ」

 

 

 

 

わざとらしく大きな舌打ちを一つ。

ひとまずこいつは後回しと決定した。

ムカつきが限度に達したら叛逆するかもしれないが、それはともかく今は抑える。

 

 

 

 

「俺を殺さなかった事を後悔するんじゃねえぞ! 

 俺は必ず気に入らねえ奴らを皆殺しにするっッ!!」

 

 

 

 

「テメェも!! あのクソババアも!!! 

 テメェの仲間も全部俺がぶっ殺してやるっッッ!!!」

 

 

 

 

それは意地だった。

本能が受け入れた敗北を絶対に彼は認めない。

獅子王は何処まで言っても傲岸な魔物で、残忍な魔物である。

 

 

 

憎悪と憤怒は正に噴火の如く。

しかしそれを向けられたルファスはまるで懐かしいモノを見るような瞳でレオンの敵意をどこ吹く風と受け流していた。

彼女は一しきりレオンが吠えるのを待った後、彼に手を翳す。

 

 

 

 

【キャプチャー】

 

 

 

十二の星の中でも最大の問題児はこうしてゾディアックの一角に据えられるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新興国の王にして人類最強のルファスはとてつもなく多忙な身ではあるが、それでも息抜きを行う事もある。

休みなく働き続ける事も可能な彼女ではあるが、出来る事とやりたいことは別なのだ。

彼女の密かな楽しみ……それは【イリュージョン】で姿を変え、全くの別人としてぶらりと己の城下を散策することだった。

 

 

 

更には無意識に噴き出る力を抑える為に『インフィニティ』を装備するという徹底っぷりだ。

 

 

 

自分の作った平和をこの目で確認し、何処かに不備がないかを確認する目的もそこにはあった。

彼女が見たいのはあるがままの民たちの姿なのだ。

ルファスとして訪れた場合、誰であろうと背筋を正し恐れ敬ってくるのは目に見えている。

 

 

 

 

もちろん万が一を考え遠くにアリエスを護衛として置いておくのも忘れない。

そもそも一国の王が護衛もつけず身分を偽って出歩くというのは皆が思うよりも遥かにリスクのある行為なのだから。

彼女は自分が最強とは思っているが無敵ではないと知っている。

 

 

 

 

ゾディアック。

 

 

ルファスがクラウン帝国より禅譲された土地で作り上げた国家は恐ろしいまでの速度で発展と拡大を続けている。

首都の人口は間もなく20万人をこえることだろう。

更に恐ろしい事実としてその内の半数はレベル1000の領域に達している。

 

 

 

つまりルファスの国家は10万人のレベル1000を保持し、その頂点に君臨する彼女はレベル4200だ。

もちろんレベルだけ上げても意味がないという覇王の信条の元に学問や武芸にも多大な出資がされ、未来を担う人材の育成に余念はない。

 

 

 

 

次元違いのマルクトと比較すれば少数に見えるだろうが、建国して1年たらずでこの規模なのははっきり言って異常だった。

元々肥沃な土地だったというのもあるがそれを考慮しても尋常ではない早さだ。

本当ならばこういった急速な発展は文官への負担増大の原因となり政務の遅れにつながるのだが、ルファスには心強い味方がいる。

 

 

 

そう、世界各国に散らばり多くの経験を積んだ混翼たちだ。

彼らは培った影響力や事務処理能力を惜しむことなくゾディアックに投入した。

 

 

 

空には常に何隻ものアルゴーが物資や人を輸送するために飛び交い、国土はしっかりと計算された区画ごとに整備されている。

立ち並ぶ建築物はどれもが鉄筋を基軸として作られた天力コンクリート製だ。

ちなみにこの天力コンクリートとはアリストテレス兵器群が開発した次世代の建築資材である。

 

 

 

 

詳細は省くが“存在するものを補強する”効力のある天力を原材料として混ぜ込んだことにより最低500年は品質保証がされる画期的な資材だ。

コストも安くアルケミストが少し講義を受けるだけで直ぐに【錬成】で作れるほどにレシピもシンプルである。

圧倒的な軍事力にばかり目が行きがちだが、彼らはそれ以外にも多種多様な技術を開発しそれらを民間に配布しているのだ。

 

 

 

 

たとえどれほど突拍子のないモノであっても解析/技術化させ人々に配布するのはアリストテレスの十八番だ。

彼らはコンクリート以外にもアルゴー船を小型化したものをさすがに高額ではあるが民間人の富裕層に売買したりもしており、着実にそうやって影響力を増し続けているのだ。

このゾディアックにもその恩恵は数多く存在し、こうやって街を歩くだけでそこかしこにアリストテレスの用意した技術の数々が見受けられる。

 

 

 

 

マナを用いた灯りはミズガルズに循環するマナを大気から取り入れ無限に輝き続ける。

「水」と「火」の結晶を用いたアイテムは室内の温度を上げる事も下げる事も自由自在だ。

空を見上げればそこには夥しい数の兵器群が展開されており、一瞬たりとも休むことなく民たちを監視/保護している。

 

 

 

兵器群に対して敵対的なルファスではあるがゾディアックが共同体に加盟している以上、彼らは文句ひとつ言うことなく矛盾なくルファスの民を守ってくれる。

 

 

 

ハッキリ言おう。

人類は既にアリストテレスに掌握されかけている。

生活基盤にインフラに経済活動に思想さえも牛耳られているのだ。

 

 

 

 

ルファスのやっている事はもう負けているのをまだ負けていないと駄々を捏ねているだけなのかもしれない。

 

 

 

 

改めて己が敵対しているものの強大さを噛み締めつつルファスは街中を歩き続ける。

輝くような金糸は黒に変わり、紅い瞳もソレを反転させたような青いソレに誤魔化した彼女は行きかう人々を気づかれない様に横目で見ながらぶらぶらと歩く。

 

 

 

 

彼女の見た限りではゾディアックに住まう誰も彼もが笑顔だった。

明日の食料に困る事もなく、魔神族や魔物と言う害悪に命を脅かされる心配もない。

自分たちには無敵の覇王とアリストテレス兵器群がついているという安心が彼らの生活を穏やかなものにしている。

 

 

 

 

 

ルファスの活躍、竜王との戦いを絵画として仕上げようとする画家がいた。

子供たちは覇王ごっこ、ルファスの物まねをして遊びまわり、紙で作った黒い翼の張りぼてを背中にくっつけて遊んでいる幼子もいた。

吟遊詩人が歌うのは彼女の活躍を讃える詩だった。

ある焼き菓子の職人はどうやったのかは判らないが、菓子の表面にデフォルメされたアリエスの顔を作り上げて売っている。

 

 

 

アリエス、十二星天の中で最も友好的かつ穏和な彼は休暇などを利用して積極的に民たちと交流し支持を集めているのだ。

彼にとってはこのゾディアックそのものが羊でいうところの群れであり、自分の振る舞いによって人々のルファスを見る目が変わると自覚していた。

 

 

 

 

それら一つ一つをルファスはじっくりと楽しむ。

時には自分の正体を知らない民らと談笑し、時には子羊時代の彼を思い出しながら菓子を頬張ればその甘味に目を細めた。

 

 

 

 

「もっと面白い事があるんだ!」

 

 

 

ふと誰かがそう言った。

何処にでもいそうな平凡な顔の男だった。

無邪気にゾディアックを楽しむ彼女を観光客とでも思ったのかもしれない。

 

 

 

 

彼の行動や言葉に対してルファスのどんな悪意でも敏感に感じ取れる能力は全く反応しなかった。

つまり彼は心から善意でルファスに面白いことを紹介したのだ。

 

 

 

 

「今日は活きが良いモノが入ったから、結構楽しめると思いますよ!」

 

 

 

 

男は笑顔で街の多くの人で賑わう一角を指さす。

ルファスが指の示した個所を見て、そこに在ったものを認識して顔を固める。

 

 

そこは一種の遊技場だった。

ミョルニルにもあった闘技場と同種の娯楽施設である。

問題はそこの看板に書かれた内容だ。

 

 

 

こういう施設があるのを知ってはいた。

それなりの面積をとる施設の建造に当たって許可申請が上がってきており、最終的な決済をしたのは彼女なのだから。

しかし王として膨大な書類を捌く彼女に露見しない様に書面上では“娯楽施設”と書かれていたのだ。

 

 

 

実態はこれだ。

 

 

 

『魔神族叩き』

 

 

魔神族をハンマーや鈍器で叩き潰し、その数を競う遊びだ。

お好みであれば刀剣の使用も可能。

追加料金を払えば痛覚の数値の変更も可能。

 

 

(注意)感度3000倍はお勧めしません。

防音にも限度はあります。

 

 

 

『魔神族闘戯』

 

 

飼いならした魔神族同士を殺し合わせ、どちらの玩具が強いかを自慢し合う。

ここでは敗死した魔神族をアクセサリーに加工するサービスが人気だった。

 

 

 

 

 

『魔神族ダーツ&射的』

 

 

捕まえた魔神族を的にして部位ごとに点数を設定し、ダーツで突き刺す遊びだ。

楽しむために痛覚の数値を設定可能。

また銃の扱いに自信のある者は射的も楽しめる。

 

 

(注意)感度3000倍はお勧めしません。

近隣の方から以前苦情が入っています。

 

 

 

『魔神族売買場』

 

 

プルートから卸された素材としての価値の薄い魔神族がここでは100エル程度で売買されている。

またいらなくなった魔神族のリサイクルも積極的に行われており、資源は無駄にはならない。

ショーケースの中には何個かの商品が整列させられていた。

 

 

 

『簡易加工所』

 

 

 

魔神族を武器やアクセサリーに加工する施設だ。

特に「日」属性の魔神族が人気の素材である。

 

 

 

『魔神族××』

 

 

 

色とりどりの雌個体を揃えております。

妊娠しない魔神族相手に一夜のお楽しみ是非。

既婚の方も魔神族ならば浮気になりません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処かから魔女のせせら笑いが響く。

彼女は弱い人類の“代表”であり、人々をどうすれば動かせるか知り尽くしている。

 

 

 

ルファスは強く気高い。

激情家であると自覚しそれを抑える為に訓練は欠かさなかった。

そんな彼女では考えもしなかった欲望の発散施設。

 

 

アリストテレスのソレとはまた違う、純粋な人の悪意を前にルファスは暫し佇むしかなかった。

 

 

 

しかし逃げる事だけはしなかった。

これもまた己の国の一部なのだから。

 

 

 




ちなみに人々の中ではゾディアックの観光名所扱いされてるそうな。


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