ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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己の技術を過信することはない。
基本的にあの祭壇は自分たちアリストテレスにしか動かせないがそれは今現在の話だ。
何十年か何百年か先の未来、誰かがアレを自分では思いもよらない方法で稼働させる可能性は捨てがたい。



そうなった場合の世界においてはルファスが如何にレベル1000であろうと彼女を殺傷しえる力が生まれる事だろう。
何か対策を残しておくべきだ。



───プラン・アリストテレスの微かな心配。



今回は善意100%の置き土産ガバが炸裂するお話です。





『プランよりまごころを込めて』

 

 

遊戯場に盛大な歓声が響く。

誰もが一人の女の活躍に目を奪われ夢中になっていた。

 

 

 

「だずげっ、でぇっ!!」

 

 

涙を流して無様に逃げ惑う青い肌の女。

それに対して黒髪の女性は無機質に手にもった槌を振り下ろす。

一つ、魔神族の頭が潰れた。

 

 

 

『おぉっと! ゴエティア選手! またポイントを獲得ぅぅ!!』

 

 

実況が高らかにルファスの活躍を讃えた。

ちなみにゴエティアというのはルファスの数多くある偽名の一つだ。

 

 

己を讃える声を何処か遠くに感じながらルファスは動く。

一度やると決めたらやる彼女である。

例えそれが悪趣味なゲームだろうとやるからにはトップを狙うのは当たり前だ。

 

 

 

ルールは単純。

ハンターと呼ばれる複数人で制限時間内により多くの魔神族を殺せたものが一位となり賞金などが手に入る。

そして観客はどの人物が一位になるか賭けることによって儲けられるのだ。

 

 

 

公平を期すために武器は全て支給品。

ハンターに求められるのは純粋な腕だ。

一通りの武器を扱えるルファスが選んだのはハンマーだった。

 

 

 

しかも会場は岩や柵などの障害物が点々としており、ただ真っすぐに追い掛け回せばいいという訳でもない。

更には時間経過と共にアルケミストがランダムにオブジェクトを構築してくるのもありそれが中々の乱数となって逆転の芽などを決して絶やさせない。

 

 

悪趣味極まりない点や鬱陶しい悲鳴やら何やらを置いといて実際、ゲームとして見れば中々に面白い。

魔神族は助かるために必死に逃げ惑い、それを追うのは自分だけではない。

今はルファスを含めて3人のハンターが複数の魔神族を追いかけまわしている。

 

 

 

全方位から飛んでくる歓声は正しく熱狂的であり、誰もが心からこの遊戯を楽しんでいた。

ゴエティアと何度もコールされ、会場は新星の如く現れた凄腕に酔いしれている。

 

 

 

 

既にルファスは3匹の魔神族を倒しており、このままいけば勝利は手堅い。

しかし絶対ではない。

彼女の競争相手もまたかなりの強豪らしく2体は倒しており逆転も十二分に在り得る。

 

 

 

ニカっと大柄な男が手にした大剣を掲げてルファスに笑う。

彼は好敵手に対して密かな対抗心を燃やしているようだ。

こんな事をしているが彼もまた悪人ではないというのがその笑顔からは見て取れた。

 

 

 

「…………」

 

 

無心でルファスはハンマーを振り回していた。

50キロほどあるソレだが彼女からしてみれば綿くらいにしか感じない。

うっかり周囲を壊さない様に手加減しつつまた違う魔神族の頭部にそれを叩きつければグシャっという嫌な手ごたえがした。

 

 

 

同時に響くのはピコンという甲高い音。

何を狂ったかこのハンマーは相手を潰すときにこういう音がなる一品らしい。

 

 

条件付けとしては便利かもしれない。

何せ音が鳴ればポイントが増えるという判りやすい認識が出来るのだから。

 

 

 

(…………………)

 

 

 

己の心を客観視し努めて彼女は冷静であるように意識した。

 

 

魔物としての彼女は血が滾るのを感じてしまう。

どれだけ目を背けようと彼女は戦いが好きで、こういった競争も嫌いではない。

そして何より獅子王や竜王に通ずる残虐性を彼女もまた持ち合わせていると自覚している。

 

 

しかし湧き上がる嗜虐を彼女は努めて制御した。

 

 

 

人としてのルファスは嫌悪を堪えていた。

如何に魔神族を害獣として認識していても、これは違うと誰かが叫んでいる。

人類に仇なす魔神族など滅んでしまえばいいと思う彼女だが、無駄に苦しめたい訳ではない。

 

 

いずれこの対象が魔神族から敵対する者、気に入らない者と広がっていく恐れがあったから。

 

 

 

王としてのルファスは意外な事に感心していた。

擁護が出来ない程に悪趣味ではあるが、同時に民たちの熱狂っぷりを見るに規制はするべきではないと合理的に考えてしまう。

この世界には理不尽が多く、うっ憤を抱えた人もまたそれに比例しているのだからガス抜きの場は必要だと。

 

 

兵士の訓練にも有効かもしれない。

最も基礎的な訓練である殺人への嫌悪感を薄めさせるのに魔神族刈りはうってつけだ。

 

 

 

 

そんなことを考えながら手の中で器用にハンマーを手繰り魔神族の頭を横合いから殴りつける。

一瞬でまた一匹の魔神族が絶命した。

 

 

また一つポイントが加算された。

気付けば他の選手は足を止めてルファスを観ている。

彼らも弱くはないのだが、ルファスが規格外すぎるのだ。

 

 

 

『インフィニティ』で全ての能力に枷をつけようと彼女はなお圧倒的な力を誇る。

それだけではない。

彼女の一挙手一動作、その全てが洗練されており何物も並びえない“華”があり誰もが眼を奪われる。

 

 

 

誰もが見上げる星。

それがルファスなのだ。

 

 

 

闘技場の様な殺風景な場所でルファスは無心で魔神族を追いかけては潰す。

その度にピコンという間抜けな効果音が響くが、飛び散るのは魔神族の血肉だ。

 

 

 

黙々と魔神族を潰していく。

既にこれらは野獣と認識した彼女ではあるが、それでも感じるモノはあった。

結果は堂々の一位、二位以下に倍以上の点差をつけての大勝利だ。

 

 

 

 

 

ゴエティア! ゴエティア!! ゴエティア!!!

 

 

 

 

会場を埋めるのは万雷の喝采。

地鳴と間違う程の狂乱だった。

ルファスに敗れた二位の男は今まで不動のチャンピオンだったらしく、新王者の誕生に誰もが酔いしれていた。

 

 

 

花吹雪が舞う。

際限なく高まる人々の士気はまるでかつての勇者の凱旋の如く。

しかし決してルファスは内心の嫌悪を表には出さなかった。

 

 

 

瞬時に彼女は仮面を被る。

息をするように容易く彼女は“ゴエティア”になった。

 

 

 

元より人気の高い競技であり、これで動くエルの数も馬鹿にはならない。

ルファスが頭の中にある帳簿を開けば……ゾディアックの収入においてもこの手の施設は多大な貢献をしていると言えるだけの額があった。

どれだけ彼女が強かろうと経済活動はまた別種の話だ。

 

 

 

大歓声を受けながらルファスは佇む。

ただ大きくハンマーを掲げ、私こそが次の王だと示してやれば、期待通りの王の振る舞いに客たちは全員が立ち上がり拳を突き上げた。

 

 

無限の喝采に包まれながら、ふと周りを見る。

気付けば周囲は粉砕された魔神族たちの血肉で真っ赤に染まっている。

これはあくまでも人の身体を模した魔法であり、少し時間が経てば直ぐに消えてなくなる。

 

 

しかし……血だ。今の彼女は血染めだ。

ルファスの身体にも返り血が幾つも付着し……きっと落ちないだろう。

彼女はもうコレから逃げられない。

 

 

 

自信に満ちた笑顔を張り付け、ぐるっと周囲を見る。

皆が笑顔だった。

こんな場ではあるが大勢の人々が満たされていた。

 

 

 

 

ルファスの夢は叶いつつある。

誰もが理不尽に屈し涙を流さない世界を作るという夢は。

ゾディアックの民は幸せなのは間違いない。

 

 

 

(……)

 

 

 

無限に高まる歓声。

二位の男が笑顔で己の敗北を認めて素直にルファスの勝利を讃えてくる。

悪意を感じ取れないという事はきっとこの男も平時はいい奴なのだろう。

 

 

 

 

ゴエティア 

ゴエティア 

ゴエティア 

ゴエティア

 

 

 

 

(──────)

 

 

 

 

全てが遠くなっていく。

薄く微笑み新チャンピオンとして振舞う自分を彼女は客観的に見つめている。

正体を明かす事は論外であり、楽しみの場に水を差す事もしない自分。

 

 

 

ただひたすら続く称賛の声。

もはやゴエティアというのが誰の事かもわからなくなりそうだ。

 

 

 

 

煩い。

 

 

 

それはほんの微かな感情だった。

ルファス本人でさえ意識出来てはいない無意識の念。

しかし彼女はそう願ってしまった。

 

 

 

本来ならば彼女がそう思った処で何の問題もなかった。

しかしここはゾディアック。

客の大半は何色かは置いといてルファスの配布した果実を食べている。

 

 

 

あの祭壇の所有者はルファスであり、あれから作られた果実の主もまたルファスである。

更に付け加えるならばルファス程にマナという概念を理解し支配している存在はいない。

【ジ・アークエネミー】という世界の管理者の力さえ取り込んだクラスを保持しているのもその一助となった。

 

 

 

ルファスは己の中にある奇妙な“繋がり”を認識し、無意識にそれを手繰った。

すると喧騒が小さくなっていく。

あれだけ天を割る程の勢いだった人々の熱狂が瞬く間に過ぎ去っていく。

 

 

 

もしもここにディーナが居たらこの現象の正体に当たりをつけ───絶句するかもしれない。

だってそれはつまるところ……。

 

 

 

 

見れば民たちもまた不思議そうに顔を見合わせ合っている。

どうしてこんなに叫んでいたのだろうかと心から疑問に思っているらしい。

 

 

 

 

(何だ?)

 

 

 

余りに不自然かつ唐突な皆の変貌にルファスは違和を覚える。

そして周りを見て、見返された。

この場にいる全員が呼吸さえ忘れたようにじっとルファスを凝視している。

 

 

 

瞬きさえせずに。

呼吸は最低限。

その顔に表情はなくさながら人形の如く。

 

 

 

ただ主の操演を待つだけの傀儡だ。

 

 

 

ルファスの顔が固まる。

この様子を彼女は見た事がある。

プルートで生産/加工されていた魔神族たちと同じだ。

 

 

 

もとの自我を取り払われ本当の意味での人形に貶められた者らと己の民の姿が重なる。

 

 

 

「まさか」

 

 

 

そんな馬鹿なと胸中で続け転がす。

王としての振る舞いを常に意識する彼女でさえ、その仮面が弛むほどの衝撃だった。

 

 

 

瞬きを一回し最適化する。

いつの間にか己の中に産まれていた感覚を手繰り、改めて周囲を見れば──細い糸が見えた。

周囲の人々全てにソレはあり、その全てはルファスに接続されている。

 

 

 

かつてプランに“一致団結”を繋げられた時に見たのと似ているようで何処か違うソレ。

彼との繋がりは双方向に意識のやり取りをしていたが、これは一方的であるとルファスは気づく。

宙の彼方、極点から伸びていたソレは今や……ルファスが握っている。

 

 

 

「─────」

 

 

 

声も出なかった。そんな余裕はない。

呆然と彼女は自分と人々を見比べた。

何度見ようと“糸”は彼女から伸びており、これを用いれば何が出来るかも判ってしまう。

 

 

 

そうだ。全てが思うがままだ。

メリディアナに奪われつつある民心を取り戻し、自分とは意見を異にする者らを黙らせる事だって簡単だ。

 

 

 

かつての彼女は操られる側だった。

竜王の無尽蔵の悪意に囚われ、危うかった時もある。

しかし今や彼女はラードゥンと同じ場所に座っている。

 

 

竜王を葬った覇王は彼と同じ存在になりかけていた。

いや、それよりも上だ。

何せ彼女は女神の持つ純粋な“力”を手に入れたのだから。

 

 

 

つまるところルファスは小さな女神なのだ。

彼女に出来ることはルファスにも出来る。

 

 

 

竜王が惑星中の魔物に収集をかけたのと同じ方法でルファスは己の民を完全に掌握できる。

女神が脚本を動かす為に行うのと同じようにルファスは人々を演じさせられる監督である。

超大な力と尽きる事のない意思を持つルファスならば有象無象の支配など容易い。

 

 

 

やろうと思えばこの繋がりを経由して全ての者の思考を掌握し支配することだって簡単だろう。

 

 

 

 

───ディーナがこの事実を知れば彼女はゆっくりと頭を横に振り言うだろう。

 

 

 

「ルファス様。貴女は限りなく女神さまに近づいています」

 

 

 

「彼女がそうするように、ルファス様も人々を操る事が出来るのです」

 

 

 

間違っていると糾弾すると決めた相手と同種に彼女はなりかけている。

かつて心から否定した実父と同じことをしていた時の様に。

 

 

 

この現実を前にルファスの頭は高速で回り続ける。

どうしてこんなことになっている? と。

前提としてルファスはこんな事を願った事などない。

 

 

 

王として君臨する事に悩みや迷いがないと言えば嘘になるが、断じてこんな事は願う筈もなかった。

そもそも今の今までこんなことが出来るとは知らなかったし、きっと出来なかった。

 

 

 

 

で、あるのならば【ジ・アークエネミー】か?

あれはルファスをして全貌を把握しきれない未知のクラスでありディーナの保持する管理者としての格さえも内包している。

もちろん彼女が持つ精神操作の力もアレには入っているが……。

 

 

 

 

いや、と頭を振るう。

どうにも思考が上手く纏まらない。

余りに判明した事実が衝撃的過ぎて上手く考えを巡らせることが出来ていない。

 

 

 

先まで場を満たしていた歓声もなく、無言の世界に一人だけ佇みながら順序立てて考えを整理していく。

そんな彼女を誰も邪魔せず、ただ直立し見つめていた。

次の命令が入力されるまで彼らはきっと何時間でもこのままだろう。

 

 

 

 

違う。

自分が強くなったのもそうだが、現状は民たちにも何かがあると彼女は直感した。

 

 

 

 

【観察眼】

 

 

 

戦闘系のスキルよりも何段も鍛え上げた能力を発動する。

すると“繋がり”にも強弱があるのを彼女は見て取った。

強く接続された存在はハッキリと感じる事が出来、逆に弱いモノは気配も朧気だ。

 

 

 

この強弱というのはきっとレベルの事だろう。

しかし何故精神力をはじめとした各種ステータスの高い方が操りやすいのか判らなかった。

さしものルファスもまさかアリストテレスが祭壇の果実に小細工をしかけていたなど独力では気付けない。

 

 

 

アリストテレスの真髄はここでも発揮されていた。

女神が創世記より行ってきた人類全てへの思考誘導。

神の偉大なる御業としか言いようがないそれを彼は技術へと落とし込んだのだ。

 

 

 

マナという根幹的要素に手を加える事によりそれを摂取した者の思考を掌握する。

黄金の果実は途方もない力を与えてくれる代わりにそれを食べたら最後、アリストテレスと契約を結ぶことになる。

かつての竜王も行ったソレはより悪辣さを増してルファスの前に在った。

 

 

 

コレはアリストテレスが少女に残した贈り物の一つ。

王として君臨する彼女の治世を完璧かつ無敵にする技術。

どれだけルファスが強く魅力的であろうと必ずや異を唱える者は出てくる。

 

 

 

で、あるのならば思考を掌握してしまえばいい。

アリエスはルファスの国を“群れ”と認識しているが、それは当たらずとも遠からずだった。

ゾディアック……いや、ルファスが祭壇で製作した果実を食した者は一人残らずルファスの兵隊アリの様なモノだ。

 

 

 

人の強さの一つは多様性ではあるが、それは時として負の側面も齎す。

だからそういった面は修正してしまおうとプランは考えていた。

 

 

 

ルファスは無数の奉仕者たちを従える女王である。

ミズガルズの全人類に果実を配布すると宣言した以上、遠からず全人類は彼女の奴隷になる。

どれだけ彼女が嫌がろうと、拒絶しようとその現実だけがあった。

 

 

 

 

プラン・アリストテレスが人類に対して抱いていた諦め。

その深さを彼女は測り間違えた。

プランが彼女の自身への想いの強さを間違えたように、彼女もまた師の絶望を本当の意味では知らなかったのだ。

 

 

 

 

しかし彼女はまだそこまではたどり着けない。

無意識にその事実を拒絶している故に。

だからこの事実がどれほどの痛みを齎すかも知らなかった。

 

 

 

どれだけ頭を捻ってもあと一つパズルのピースが足りない。

ルファスは考え抜いた結果、助言を求める事にした。

一瞬だけどちらを呼ぶか考えた結果、彼女はその名前を口にする。

 

 

 

「アイゴケロス」

 

 

 

「お呼びでございますか、我が主」

 

 

 

 

ブクブクとルファスの影が泡立ち、その中から現れたのは紳士服を身にまとい年季のあるモノクルを装備した老紳士だった。

彼の名はアイゴケロス。かつてはヘルヘイムを支配し地上征服の夢を抱いた事もある魔王。

250年以上前にその夢はとん挫したが、今はルファスの圧倒的な素質に魅了され彼女の配下となっていた。

 

 

 

 

ルファスは呼び出した配下に現状を伝えた後に問う。

 

 

 

 

「其方のマナへの理解は余をも超える。意見を聞きたい」

 

 

 

 

「……むぅ」

 

 

 

難しい問いを受けたアイゴケロスはモノクルを指で触った後、瞳に映るマナとルファスを見比べる。

幾度か額に皺を寄せて考えていたが……彼は震え出した。

 

 

 

 

「───素晴らしい」

 

 

 

 

ゾワリと聞く者全てが背筋を凍り付かせるような声だった。

魔王は喜びに打ち震えていた。

同時にさすがは我が主だと心から感嘆し心服し尽くしている。

 

 

 

成程。

確かにこうすれば誰もが主に全てを捧げるようになる。

全人類、全存在がルファスの為に存在する世界は魔王にとっては正しくユートピアである故に。

 

 

 

 

跪き彼は嬉々として己が見抜いた事実を口にしていく。

少しでも気を抜けば叫び出してしまいそうなくらいに彼は高揚していた。

なるほど、こんな手があったのかと膝を打つ想いである。

 

 

 

「ルファス様。彼らは皆、貴女様がお創りになった果実を食した者達です」

 

 

 

それはルファスも気づいている。

今だ人類の全てに行き渡ったとは言い難いが、無限に祭壇によって作られる果実は急速に広まり続けている。

そしてゾディアックに住まう民たちは優先的にソレが配布され差はあれど殆どの者がレベリングを開始しているのだ。

 

 

 

ソレが何を意味するか彼女は知る事になる。

少女は魔王より黒い真実を語られる事になった。

魔王は求められた通り、1から10まで完璧に説明を始める。

 

 

「お創りになった果実にはルファス様のマナも微量宿っていると我は考えます」

 

 

「貴女様のマナは彼らの中に残留し、微かな“繋がり”を構築したのでしょう」

 

 

 

アイゴケロスはそのスキルの名前を知っている。

人間種であるのならば誰でも扱える『一致団結』だ。

かつて忌々しい男にそのおぞましさを教え込まれた忌むべき力。

 

 

 

 

祭壇起動時に捧げられたルファスのマナ。

かの施設はルファスを主として認定し機能している。

そしてその“主”というのは単純に祭壇の所有者という意味だけではない。

 

 

 

果実を摂取した者の概念的な“主”が誰か、という意味も含むのだ。

アイゴケロスは悪魔である。

故に彼はなじみ深い概念を持ち出してきてルファスに説明していく。

 

 

 

 

「これは契約の一種と言えるかもしれません。

 果実を食し力を得る代わりに己の全てをルファス様に捧げるといった内容の!」

 

 

 

かつてのラードゥンの所業が女の脳裏をよぎる。

同時に彼が囁いた自分と同じという単語も。

 

 

 

魔王の言葉に興奮が乗る。

何と素晴らしいのだと彼は心からルファス・マファールの手腕に感動していた。

人の強さを求める心をここまで完璧に利用し全人類を気づかぬ間に支配下に納めていたなど。

 

 

 

 

「素晴らしい! 彼らは皆、ルファス様の下僕でございます!!!」

 

 

 

「血の一滴、魂の一欠けらまで永劫貴方様の奴隷なのです!!!」

 

 

 

 

 

ハハハハハハハと魔王は高笑う。

この素晴らしい事実を前にすればこれでも足りない位だった。

ルファスが許可してくれれば手ごろな人間を数十人ほど殺して血のシャワーでこの舞台を彩りたいくらいだ。

 

 

 

 

「あぁぁ……ルファス様!! ミズガルズを統べる偉大なる神よ!!」

 

 

 

「我々は貴女の忠実なる信徒!!!! どうぞ我らを永遠に支配してくださいませ!!!!」

 

 

 

「我らが力を合わせればアリストテレス兵器群など敵ではなくなる!!!」

 

 

 

 

 

悪魔は己などとは比べ物にならない覇王を讃え続ける。

皮肉な事だ。

あらゆる存在に悪意を向けていた魔王が心からの敬意と感動を露わにしているというのに────。

 

 

 

主の意識はここにはなかったのだから。

 

 

 

「────────」

 

 

 

 

覇王ルファス・マファールは何も答えない。

ただ彼女はいつの間にか用意されていた“玉座”を前に動けなくなっていた。

 

 

 

 

ルファスはアリストテレスに多くを貰った。

 

 

 

母と己の命を助けて貰った。

多くの知識や技術を教授された。

生きていくのに不自由しない金銭や家、土地を貰った。

 

 

 

人と人のつながりの大切さを説かれた。

混翼たちという大きな協力者も用意されていた。

 

 

彼は認めないだろうが、彼女が欲しくてたまらなかった人の心の暖かさを教えてもらった。

彼らの献身のお蔭で250年以上にも渡る平和で豊かな時代を母や仲間と共に過ごせた。

 

 

 

そして今、ルファス・マファールはプラン・アリストテレスに世界の玉座をも下賜されていた。

ただの少女であろうと世界を支配する覇王であろうと何も変わらない。

 

 

 

彼女はアリストテレスの作った鳥かごの中で飼育されている小鳥でしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 





『いざとなったら自分か自分が選んだ存在が全てを握れるような仕込みを作ったのだ』




───“アリストテレスはほくそ笑んでいる”より。











  \ _ /
  _ (m) _
     目   ピコーン
  / `′ \

   ( ˙꒳˙)و グッ ヒラメイタッ!  ←名案を閃くプラン。   

    
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