ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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「人類の守護者として命ずる」


「魔神族の徹底した根絶を行う。一匹も逃がすな。塵殺せよ」




───ルファス・マファール 大規模な魔神族の駆除を命ずる祭。



ユグドラシル級の“ギガドレイン”!

 

ミズガルズ歴 2798年

 

 

 

魔王アイゴケロスは今でも思い返すときがある。

250年以上前に完全敗北した苦々しい記憶を。

己こそがヘルヘイムの支配者にして至高の魔物であるという自負を粉々にしてきたおぞましい化け物の瞳。

 

 

断じてアレは人ではない。

あんな化け物を人と認める事は決して出来ない。

 

 

 

蒼く輝いたソレは昆虫の様に無機質で、ゴーレムよりも冷たい。

あの瞳はずっとこう言ってるのだ。

“お前の全ては我々が作った”と。

 

 

 

 

魔王アイゴケロスはアリストテレスの作品の一つである。

彼の野心と悪意も、今までの戦いに魔物として抱いていた矜持も何もかも人間の掌の上だった。

そのどうしようもない事実が魔王を蝕み狂わせ続ける。

 

 

 

───我々を父と呼んでいいのだよ?

 

 

 

 

殺すと決めた。

しかし魔王がヘルヘイムで復活を果たした時には当たり前の話だが人である奴らはもういなかった。

 

 

 

 

そしてその後に起きた竜王との戦い。

下賤で下劣。

魔王をして行き過ぎた悪意の持ち主であるソレが放った嘲りは未だに彼を蝕む。

 

 

 

───ぎゃはははははははハハハハ!! ざぁこ!! ザァァァァコ!!!

 

 

 

あれほどの悪意があるというのに女神などという不出来な存在を信奉している軟弱者。

彼からすれば女神こそが究極の魔物だというが、それも今は過去の話。

その座はいずれ偉大なる主、ルファス・マファールに取って代わられるのだ。

 

 

 

 

……………。

 

 

 

 

竜王とアリストテレス。

共に魔王をして怪物としか言いようのない埒外の存在達。

しかしもう奴らはいない。悠久の時の流れの中に消えて行ってしまった。

 

 

 

つまり永遠にアイゴケロスは彼らを超える事は出来なくなってしまった。

彼は惨めな三番手であり、真の強者が消えた世界でおこぼれに預かる弱者という事実は消えない。

 

 

 

ラードゥンに完全敗北を喫し、長い年月の果てに肉体を再構築し復活を果たした魔王が最初に抱いた感情は疑問だった。

即ちどうして未だに世界は存続しているのだ? という疑問である。

己と邪神を討ち果たした以上ラードゥンにもう敵はいないはず。

 

 

 

で、あればあの後は彼が宣言していた通りに世界が丸ごと滅んでいても何もおかしくはないというのに。

どれだけ頭を捻ろうと答えは出ず、ヘルヘイムの深淵で魔王は力を貯め完全復活を目指していた。

地上がどうなっているかは気になるが、もしも竜王が居たらと考えると万全な状態でなければならないと彼は考えていた。

 

 

 

 

そんな時である。

彼の元に一人の女が訪れてきたのは。

女は地獄の様な光景の広がるヘルヘイムの中だというのに優美なドレスを身にまとい、社交界から抜け出てきたような風貌をしていた。

 

 

 

その姿が余りに美しく、人間の美醜など判らなかった筈のアイゴケロスは思わず見惚れてしまった。

性別など関係なかった。

仮に女──ルファスが男性であったとしても彼は同じ感情を抱いた筈だ。

 

 

 

輝く黄金の髪とその先端を彩る朱色。

万象を見下ろす圧倒的な意思を讃えた深紅の瞳。

そして──女を彩る暗黒色の翼。

 

 

 

何もかも全てが絶対的だった。

そう、かつて竜王との問答の中であった意味のない仮定が現実になってしまったのだ。

己より高次の魔物が目の前に来れば喜んで膝をつく……今がその時だ。

 

 

 

 

魔王は本当の神に出会ったとさえ思った。

アロヴィナスなどではなく、この存在が、この御方こそが真なる神なのだと直感した。

故に彼は一も二もなく頭を垂れた。

 

 

 

膝をつき、五体投地し心からの敬意と感動に満ちた声で宣言した。

 

 

 

 

『あ、貴女様こそ……我が王だ……』

 

 

 

そして彼の新しい生が始まる。

ルファス・マファールの率いる軍団の一員となり彼女の覇道を助力することこそが己の使命だとアイゴケロスは自身の在り方を定義したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふんっ……」

 

 

青い月が照らす夜。

闇夜でも問題なくアイゴケロスは標的を認識し攻撃する。

 

 

 

魔王は鼻を鳴らす。

コレは余りに簡単すぎる。

今日も彼は偉大なる主であるルファスの為に働き続けていた。

 

 

 

今の彼が就いている任務は魔神族の駆除だ。

ともすればルファスよりもマナや魔法と言う概念に天性の理解がある彼にとってこれはイージーすぎる話である。

たとえその対象が魔神族の国家の内の一つを丸ごと滅ぼせという内容であってもだ。

 

 

 

先ずはアイゴケロスが。

その次に順次必要と判断された十二星天が率いる軍が参戦する予定であった。

今頃はスキップしながらスコルピウスが今か今かと出待ちしている頃だろう。

 

 

 

 

さて、これほどの戦力を差し向けられたのは魔神王直下の巨大国家、その名を『ソドム』といった。

兵器群のせいで慢性的な飢えに直面する彼らは軍備を整え、人類への大規模な攻勢を行おうとしているという情報を共同体は入手したのだ。

故に共同体の主であるルファス・マファールは魔神族への抜本的な対策を行うと決定した。

 

 

 

即ち根絶である。

覇王の行動は迅速であった。

人類に仇する存在を彼女は決して許さない。

 

 

 

今はその前段階。

橋頭保の確保と周辺の魔神族の捕獲を行っている。

捕獲した魔神族は速やかに素直に改造され、全ての情報を搾り取られる事だろう。

 

 

 

 

【ルナ・ショット】

 

 

 

 

指先に「月」の魔力を収束させて暗黒色の魔法を放つ。

最も基本的な攻撃魔法であるソレは寸分たがわずに逃げ惑う魔神族たちの足を吹き飛ばした。

それでも魔神族は這って逃げようとする。

 

 

 

時折アイゴケロスを涙の滲んだ瞳で振り返ってみてくるが彼は何とも思わない。

人類のこういう姿を見るのは好きだが魔神族は彼からしてみても人形でしかないからだ。

お人形遊びをする趣味は彼にはないのだ。

 

 

 

 

それにほら、直ぐに巨大な“手”が彼らを掴み上げて持って行ってしまう。

ズシンと歩くたびに地響きを引き起こすユニットはかつて獅子王を追い込んだ深紅の竜人である。

それが最低でも10体はこの任務に派遣されている。

 

 

 

どうやら兵器群は本格的に魔神族への対処を開始したようだった。

1年間に700回以上も小競り合いをしている現実を考えれば当たり前だが。

 

 

 

 

「ありがとうございます。貴方の協力に深い感謝を」

 

 

 

 

“朗らかな”声がアイゴケロスに投げかけられる。

魔王は鋭い目線をそちらに向けた。

いつ聞いても不愉快な声だと苦々しく思いながら。

 

 

ルファスの命令でなければ一瞬たりともこんな奴らには関わりたくはない。

何なら全力で敵対していた。

いつか必ずこいつらをルファスが倒してくれると彼は信じている。

 

 

 

 

鳥の骸を思わせる頭部を持つ人型のゴーレムだった。

何を元にしてこんなデザインになったかは言うまでもないだろう。

 

 

 

「貴様の為ではない。不愉快な人形め」

 

 

 

「私はゴーレムです。人形ではありません」

 

 

 

ふざけた返しに青筋が浮かぶがアイゴケロスは偉大なる主の顔を思い浮かべて何とか堪えた。

 

 

 

魔神族は不快な人形だが、それでもこいつらに比べれば遥かにマシだった。

アリストテレス兵器群の戦闘ユニットは多かれ少なかれこのデザインだというのが魔王には信じられなかった。

幾らなんでも悪趣味すぎる。

 

 

 

 

ピクリとゴーレムが一瞬だけ震える。

捕獲した魔神族から搾り取ったデータを“一致団結”経由で受け取ったようだ。

マナによって量子もつれを再現した彼らはどれほど距離が離れていようと一瞬で情報をやり取りできるのだ。

 

 

 

 

 

「高位の魔神族を確認。ソドム第一防衛拠点……レベル1000相当が21体」

 

 

 

一昔前ならば絶対にありえない情報を口にする。

レベル1000が21体など絶対にありえなかったというのに。

 

 

 

「その他、レベル800オーバーの戦闘タイプ魔神族を複数確認」

 

 

レベル800。

本領を発揮していない十二星天の面々と同レベルの個体が複数いると続けるが魔王は眉一つ動かさない。

 

 

 

ルファス・マファールが全人類に果実を配布し着々と人類は強くなり続けている。

一人、また一人とレベル1000に到達し本来ならば一時代に一人だったソレは着々と数を増していた。

このままいけば遠からず全人類はその域に達するかもしれない。

 

 

しかしそれにあわせて魔神族もまた強くなり続けている。

魔神王が寝る間も惜しんで創造しているかどうかは定かではないが、レベル1000の個体も多く見かけられるようになっていた。

お蔭で兵器群の人類防衛線における衝突の規模は日に日に激しくなり続けており……兵器たちは強化を繰り返され続けている。

 

 

 

 

人類を守る。

その為に彼らは縦横無尽に進化を繰り返すのだ。

人類への脅威はそっくりそのまま彼らへの淘汰圧となり、脅威を遠ざける為に必要な事は何でも行うのが彼らだ。

 

 

 

 

「そうか」

 

 

 

モノクルを指で弄りながらアイゴケロスはつまらなさそうに返す。

レベル1000。それがどうした?

確かに今のレベルは800だが、魔王は主ほどではないが世界の法を越えているのだ。

 

 

 

 

最近加入してきた獅子王こそが十二星天最強と人々は口にするが実際は違う。

真に最強なのは彼──魔王アイゴケロスだ。

今でこそルファスに絶対服従しているが、一昔前は邪神と手を組み竜王と驚天動地の戦いを繰り広げた事を忘れてはいけない。

 

 

 

 

その上で彼はマナや魔法/魔力への理解だけならばルファスをも上回るものがある。

何百年もの間ヘルヘイムで蟲毒を繰り返されて生まれた彼は正に限りなく至高に近い魔物なのだ。

本人は決して認めないしその話題そのものを忌避するが魔王もまたアリストテレスの作品である故に。

 

 

 

「ソドムの防衛基地4地点を同時攻撃いたします。アイゴケロス様は遊撃を」

 

 

 

まずは第一攻撃地点への強襲を開始すると続ける。

 

 

第一地点はここから約10キロ先にある城塞都市の事である。

3万体ほどの魔神族で犇めきあうそこには高位の魔神族もいるらしく、防備もまた頑強だ。

兵器群への警戒を強めた彼らは最近では群れる上にこのように国家の真似事までするようになった。

 

 

魔神王がそういう指示を出しているという情報もあるがこれは正確性に欠けている。

 

 

 

「…………」

 

 

 

魔王は答えない。

元より彼はそのつもりだった。

彼に命令できるのはルファスだけであり、こいつらが何と言おうと従う気などない。

 

 

 

譲歩して同胞たる十二星天の提案ならば思案しただろう。

しかしアリストテレスの名を冠するこいつらの言葉など聞くつもりは一切ない。

 

 

 

 

彼は魔王。

悪意に満ちている故に戦況の推移も息をするように読める。

つまるところ彼は敵の嫌なことをするのが得意なのだ。

 

 

 

「現時刻を以て、アリストテレス兵器群はソドムの殲滅作戦を実行します」

 

 

 

全四カ所の要所とその中央に位置する本国。

アリストテレスはその全てを一晩で駆除するつもりだった。

彼らの中では何十万もの魔神族が消え去る事が確定している。

 

 

そして魔神族はもっと人類のタメになる姿に生まれ変われるだろう。

 

 

 

「この任務は人類共同体からの正式な任であり、ゾディアック国の支援の下に行われます」

 

 

 

 

中央大陸の解放後に行われる新たな作戦が始まる。

主目的は二つ。

魔神族の駆除/捕獲とこれだけの規模の彼らを維持していた“食料”の救出だ。

 

 

 

アリストテレス兵器群はルファスとの一戦を通し更に進化/変異を果たしており、その力が開帳される時が来た。

 

 

 

作戦の開始をゴーレムが宣言すると同時に周囲に展開していた兵器たちが一斉に動き出す。

すると首筋にちりちりとした嫌な感触をアイゴケロスは覚える。

強者たる彼には殆ど馴染みのないモノ───危機感だ。

 

 

 

 

我が警戒を抱いている?

この魔王たる我が?

 

 

 

 

下らんと一笑に付す……事が出来ればどれだけ良かったか。

彼は傲慢な魔王ではあるがバカではない。

此度一時的とはいえ手を組むことになったアリストテレス兵器群にも対して当然として情報を収集している。

 

 

いや、もっと昔から彼は兵器たちについて個人的に調べて回っていた。

気の合う同胞たるアリエスの助力もあり多くの知見を得られたものだ。

 

 

 

ルファスに従い地上に出てその名を聞いた時はハッキリ言って笑いそうになったのも懐かしい話だ。

奴らが跋扈していたのはもう250年以上も昔。

どれだけ強かろうと人類、それも短命種である人間である限りは生きている筈もなく。

 

 

 

 

当初はただの騙りだと思っていた。

よくある話だ。

大昔の偉人の名を引っ張ってきてその権威を利用しよう等と言う話は。

 

 

 

 

しかし現実はこれだ。

魔神族などという紛い物の不出来な人形とは違う、真の芸術を彼は見た。

もちろん至高の主であるルファスには及ばないが。

 

 

 

ハッキリ言おう。

アリストテレスと関わってさえいなければアイゴケロスは兵器群の性能と無慈悲さに対して非常に好感がもてている。

マナを深く観測できる彼からすればあれらは正しく芸術品に映っているのだ。

 

 

 

 

殺戮に特化した造形。

あらゆる慈悲を踏みつぶす冷酷さ。

完璧に設計されたマナの配列。

そして無尽蔵の物量と繰り返される凶悪なまでの強化アップデート。

 

 

 

今はまだ足りないだろうが、やがてはベネトナシュや龍さえも追い抜いてしまう未来が彼には見えていた。

もしもこれらがルファスに従っていればその時点でミズガルズを支配したも同然だ。

 

 

 

 

しかしそんな全てが上手くいく話などそうそうあるはずもなく。

ルファスと兵器群は表面上こそ此度の様な共闘関係を結んで入るが、その実は覇権を競い合う敵だ。

アイゴケロスは魔王である故に敵は滅ぼすという単純明快な思考の持ち主ではあるが……今は情報が足りない。

 

 

 

 

彼は考えた。

今回の任務、ルファス様がどうして我を選んだのかと。

魔神族という魔法に対しての知見が深い自信はある。

 

 

 

 

同胞たる十二星天の中でも彼ほど魔神族を効率よく駆除できる存在はいないだろう。

しかし、敵はそれだけではない。

彼は細い瞳で去っていくゴーレムの背を見た。

 

 

 

彼は言葉にこそされなかったがルファスが自分に何を求めているかを察していた。

 

 

 

獅子王を巡る騒動で一戦を交えた際より、ルファスは表面的には穏和な態度をメリディアナに取る様になっていた。

協力的になったと言ってもいい。

兵器群の解散を撤回こそしないが共同体の主として命令を下し続けている。

 

 

 

人類の安寧の為ならば使える物は何でも使うという姿勢だ。

 

 

その全てにアリストテレスは完璧に答えてみせた。

魔物の駆除に災害の復興、区画整備に街道の安全確保。

食料の安定した供給に辺境への支援。

 

 

そして魔神族や魔物への徹底した対応。

無茶としかいいようのない覇王の要望を悉く現実へと変え続けている。

 

 

 

はた目から見ればゾディアックに君臨する覇王が兵器群を利用しているように見えるだろう。

実際はどうあれ、自分たちの生活が良くなるのであれば彼らはどうでもいいと思っていた。

しかし少し学のある者が見れば一目瞭然であった。

 

 

 

アリストテレス兵器群と覇王ルファスは武力以外の衝突を行っているのだと彼らは把握し身震いした。

兵器たちとルファス。どちらもミズガルズを掌握出来うる戦力の持ち主だ。

いつ直接的な───全面戦争になるか判ったものじゃない。

 

 

 

 

彼女をして未知の方法で心臓を停止させられたのがよほど警戒を高める理由になったのかもしれない。

純粋なる力を操るルファスだったからこそ凌げたのであって、本来ならばアレは防ぎようのない即死なのだ。

 

 

 

アイゴケロスは今回の任務における真の目標を木霊させる。

 

 

 

(こ奴らの情報を収集し、ルファス様にお捧げする)

 

 

 

聞けばソドム殲滅にはいくつかの新兵器も投入されるらしい。

どのようなモノなのかは機密故にはぐらかされたがきっと碌なモノではないだろう。

それら全てをあますことなく記憶しルファス様に報告すると彼は決めた。

 

 

 

地面を強く蹴り跳躍する。彼の身体はそれだけで数百メートルほど上空に跳ねた。

蒼く輝く月を背に悪魔の翼を生やしたアイゴケロスは眼下にあるソドムを守護する要塞の一つを見下ろした。

うじゃうじゃと魔神族がたむろしているのが遠くからでも見て取れて彼は顔を顰める。

 

 

 

相も変わらず醜い。

彼らは偽りの魔。

ただ人を襲う様に刻まれた人形たちを彼は好いていない。

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

食料として囚われている人類を救助するために隠密行動に特化した兵士たち───ユニットが駆けていくのを魔王は見下ろす。

小柄な彼らは『ステルス』や『イリュージョン』で姿を隠した上で気配を極限まで消し、恐ろしい速さで動いている。

アイゴケロスとて事前に彼らがいるということを知らされてなければ判らなかっただろう。

 

 

 

彼らから感じるのは濃厚な魔の気配。

魔王は知る由もないが彼、いや、彼女たちは量産された吸血姫たちだ。

もっというとならばベネトナシュを再現できなかったモノらである。

 

 

レベル限界を超えた個体を厳選する際に誕生した不良品たちではあるが、基礎能力そのものは中々のモノがあった故にこういう風に再利用されているのだ。

優れた再生能力は据え置きであるから修復の手間も省け、もしかしたらこういった戦闘の経験から壁を超える可能性もある事を鑑みるにこれは最適解と言えよう。

 

 

 

ベネトナシュという存在/概念はもはや完全に兵器群の系統樹に組み込まれて遺伝子の一欠けらに至るまで消費され尽くされる事は確定している。

仮に彼女がこの事実を前に激怒しようともはやこれは止まらず、吸血姫が牙をむこうと問題なく鎮圧できる根拠をアリストテレスは保持していた。

 

 

 

 

その一つが開帳される。

高みから戦況の推移を注意深く観察する魔王はナニカの到来を予兆し空に視線を向けた。

 

 

 

 

「度し難い奴らめ……っ」

 

 

 

背筋が泡立つ感覚を覚え、彼は鋭い視線でソレを睨む。

天の先、宇宙と大気の中間に開かれた巨大な【エクスゲート】から零れ出る気配は彼をして命の脅威を覚えるモノだ。

 

 

 

 

 

ゆっくりと何かが空から降りてくる。

枝葉が軋むようなパチ、パチという音を伴って。

 

 

 

 

 

魔神族が空を見上げる。

彼らは何処か自分たちの主にも似た気配のソレに反応してしまい……目を見開く。

そして悟った。自分たちは此処で死ぬ、誰一人逃げられないのだと。

 

 

 

そしてゾディアックから派遣された兵士たちは絶句しながらソレを見上げた。

仲間であると知らされているというのに、鳥肌が止まらず、背筋を冷や汗が伝う。

王であるルファスの強さを疑う事などないが、それでもアレは一体なんだ?

 

 

 

 

ルファス・マファールは何と戦っているのだ?

 

 

 

 

ソレは二対の巨大な翼を生やしていた。

翼幅は概算で大体4キロほどあり【アイガイオン】に匹敵凌駕する程に巨大だ。

何よりの特徴としてその翼は樹木で形成されている。

 

 

 

いや、翼だけではない。

それは全身が樹木で構築されている。

魚類に二対の翼を生やした、生命の進化の形から外れ切った姿をしていた。

 

 

 

ピシ、ピシッという音はこれを形作る木々が軋む音だったのだ。

 

 

 

【ユグドラシル級・侵略型環境育生林床植物ユニット】

 

 

 

 

当然というべきかこれのレベルは1000。

しかし発せられる波動は明らかに限界を逸脱するほどに強大だ。

単体で惑星を壊滅させるなど容易い怪物を形容する言葉などありはしない。

 

 

 

 

かつてカストールがプランに渡した小さな木龍の切れ端。

その果てがコレだった。

もしもここに彼がいれば心の底からアレを渡した事を後悔しただろう。

 

 

 

アリストテレス兵器群は進化を続けた末に龍の再現を目指し始めたのだ。

つい最近、ルファスとの交戦によって純粋な“力”を観測し、更にはとある魔法と魔神族を組みわせる事でその性能を爆発的に高める事が出来る事も判明した。

そうしてレベル限界を超えた力というものを創造する術に指をかけたアリストテレスは新しい作品を作り上げ始めたのだ。

 

 

 

もはやレベル限界という概念は古いモノだ。

精神にどれだけの刺激を与えればマナが活性化しそれを撃ち抜けるかの実験も順調に進んでいる。

限界とかつて思われた法則の果ては押し広げられ続けている。

 

 

 

それがどれほど女神の世界に負担をかけることになるか全て判って上で、むしろ望むことだと言わんばかりに。

そして稼働を開始したのがこの人工木龍ユグドラシル級である。

木龍という光の森を構築する存在を技術に落とし込み動かす、正に神をも恐れない所行といえよう。

 

 

 

魔女は頭を振った。

違う、間違っている。

何度も言っているではないか。

 

 

 

神をも恐れない?

いいや、幾度だって繰り返そう。

アリストテレスこそが真なる神なのだ。

 

 

 

 

ユグドラシル級がゆっくりと降りてくる。

正に天が落ちてくるという形容詞が相応しい。

対して決して逃げられない死を前に魔神族は叫びをあげた。

 

 

 

来るな! 来るなっ!! 来るなッ!!! 

 

 

 

化物と悲鳴を上げながら半狂乱になりながら魔法を発動させる。

凄まじい恐怖によってマナが活性化し魔法の威力は跳ねあがっていく。

 

 

 

 

地上から次々と魔法が放たれる。

さすがはレベル1000から800相当の魔神族たちというべきか、威力だけ見ればすさまじいものがある。

「木」属性の弱点である「火」の魔法が重点的に木龍へと撃ち込まれ続け、大気を揺らす大爆発が幾度も起きた。

 

 

 

一瞬、夜は駆逐され世界に青空が戻った。

魔王でさえ腕で顔を覆い、発生した閃光と爆風をやり過ごす程の猛烈な砲火である。

まともにコレを喰らえばレベル800まで力を抑えている状態の十二星天でも無傷では済まないだろう。

 

 

 

 

光と爆炎が収まり────ユグドラシル級は無傷だった。

表皮に焦げ目一つなくダメージは全くない。

元より頑強だった木龍の欠片は品種改良を施されることにより更に戦闘に特化し頑強に強化されている。

 

 

 

仮想敵として想定されているルファスの拳を最低でも数発は耐えられるほどにこの存在は頑強だ。

その上で恐ろしいまでの再生能力をも備えたコレは欠片でも残っていれば再生してしまう。

完全に滅するにはそれこそ力を開放したルファスを連れてこなくてはならないほどにしぶとい。

 

 

 

 

木龍が動く。

体躯こそ本物には及ばなくとも発せられる圧は正しく龍の如く。

大きく、巨きく翼が開かれる。

 

 

 

そして、翼が解けた。

傘を開くように月夜が巨大な影に覆われた。

巨翼を構築していた何万もの枝が触手の如く蠢く。

 

 

限りなく光速で空間を掻きむしるそれに魔王はかつての友たる邪神の手繰ったソレを想起した。

 

 

 

容赦も慈悲も躊躇いもない。

兵器は与えられた役目を果たす。

魔神族を駆除しソドムを落とす。

 

 

 

そして始まる大虐殺。

真摯に、丹念に、偏屈といえるほどに執拗な攻撃が行われる。

 

 

 

「何がっ……!」

 

 

 

とある魔神族、レベル830の胸に枝が突き刺さった。

さすがは高レベルの個体というべきか胸を刺された程度では即死はしなかった。

 

 

 

だが。

 

 

 

「ぁ……」

 

 

 

最初に感じたのは冷たさだった。

魔神族としてそういった五感、特に痛覚などは鈍い筈なのに、はっきりと凍える程の寒さを彼は感じた。

 

 

 

呆然とした様子で突き刺さった枝を掴むがビクともしない。

そこから何が漏れていくのか判りつつ彼には何も出来なかった。

 

 

 

熱が、吸われる。

音などという下世話なモノはなかったが、確かに彼を構築していたマナが熱量ごと恐ろしい速度で吸引されていく。

刹那にも満たない時間のあと彼は消えた。

 

 

 

装備していた剣だけがカランと音を立てて転がった。

ソレが始まりの合図であった。

 

 

 

 

逃げようと隠れようと攻撃しようと無駄であった。

ユグドラシルの枝は誰一人逃がしはしない。

一人、また一人と悲鳴も上げられずに捕食されていく。

 

 

 

中には人を盾にして逃げようとしたものもいたが触手は器用に人質だけを避けて魔神族のみを的確に狙う。

元より魔神族が人質を取る事は判っていた故に、このような精確な攻撃が可能なユグドラシル級が此度の任務に派遣されたのだから。

呆然とした顔で魔神族は消え、解放された者はただ空を仰ぐ。

 

 

 

そこに浮かぶ巨大な大樹の怪物を見上げて───彼は祈りを捧げた。

あれだけ憎い殺してやりたいと思っていた魔神族をいま殺してくれた存在に恐れはあれどそれ以上に彼が思ったのは一つだった。

切り落とされ、かけた指のある手で合唱する。

 

 

 

 

 

……かみさま。

 

 

 

 

絶望に塗れた世界でまた一人アリストテレスを狂信する者が生まれた。

 

 

植物が養分を吸い取る様に魔神族を捕食するたびにユグドラシル級は薄く発光しその力を増していく。

レベル800だろうと900だろうと、本来ならば並び立つ者なき1000であろうと何も変わらない。

 

 

 

3分と11秒。

ソドムの前哨基地に存在していた魔神族はたったそれだけの時間で全滅し、全ての人類は救助されたのだった。

 

 

 

対して被害は0。

初戦はアリストテレス兵器群/ゾディアック連合の完勝である。

 

 

 

 

 






アリストテレス兵器群 次世代型戦闘端末 ユグドラシル級


木龍の人工的な再現を目指して創造された怪物。
巨大な魚類に翼を生やしたような異形の姿をしている。
極めて頑強な上に枝を手繰ることにより精密な攻撃も行える為に今回は派遣された。


枝を突き刺し相手を構築するマナを丸ごと啜るため魔神族の天敵ともいえる。
もちろん同種ともいえるアルゴナウタイにも絶大な効果を発揮するだろう。


つまりポルクス絶対ぶち殺しマンである


此度のソドム殲滅戦にはこれと更に二種類、もっと強力な新兵器が投入される予定。



そして次回の更新は私事が入ってしまったのでお休みします。
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