ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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アニメの一部が解禁されましたね!
遂に本格的に動くルファス様を見るとたまらないものがあります。

今から10月が待ち遠しい限りです。



今回は最後の四強としてオルムの活躍を描きました。
ちょっと加筆を繰り返していたら遅くなってしまった。






セト級の“ブラックホール”!

 

 

 

魔神王オルム。

全ての魔神族を統べる王であり、最も動きを見せない四強である。

しかしその存在そのものは誰もが知っている。

 

 

 

 

ミズガルズを覆う厄災の元凶。

魔神族を支配し数百年に渡り人々を苦しめる不倶戴天の敵。

歴史上幾度も現れた人類の敵にして和解不可能な怪物。

 

 

 

 

全ての魔神族は彼の命令で動いている。

つまり数多くの犠牲は全て彼の仕業だと人々は考えていた。

ミズガルズの各地でいまなお増え続ける犠牲者は全てこの者のせいだと。

 

 

 

 

ミシミシと木龍の素材で作られた杖が軋みを上げる。

オリハルコンに匹敵する強度のソレが悲鳴を叫ぶ。

しかし魔女はいつも通りの余裕に満ちた顔で水晶越しに魔神王を見つめながら指示を下す。

 

 

 

「いずれ出てくるのは判っておった」

 

 

 

 

魔神族に対して今までやったこと、これからやる事を思えば魔神王が動くのは当たり前といえた。

女神が世界に対して大規模な干渉を行うと決めた時点で動かせる手駒でもあるのだから。

だがしかし、だから何だという?

 

 

如何に女神の建てた代理人でしかない人形であっても、アレが今まで勇者と繰り返してきた茶番で犠牲になった数は軍団を作れるほどだ。

決して魔神王は綺麗な存在ではない。

只の代理人とはいえ何万年もミズガルズに不幸をばら撒き続けている存在だ。

 

 

 

あの山の様に積み上げられた白骨の山。

人殺しを重罪だとするのならば魔神王のソレはどれほどの重さになることか。

故に口角を吊り上げながら魔女は思わず来たチャンスに乗る事にした。

 

 

 

 

「ナンバー18とセト級を出しなされ」

 

 

 

 

「エル級と併せて三体でかかれ」

 

 

 

 

 

それはルファスに粉砕された吸血姫再現体に変わる最新型の兵器。

アリストテレス兵器群はもとより龍を仮想敵として見ている節もあり、その果てに形になった新天地に到達した怪物たちだ。

レベル限界を超えた存在を蹂躙する、そんなふざけたコンセプトだ。

 

 

いや、生ぬるい。

これらが衝突することを予定していたのはルファスである。

ルファス・マファールと真っ向から戦闘を成立させる、その為に用意したお楽しみ達。

 

 

 

アリストテレス兵器群の“代表”として魔女は宣言した。

 

 

 

 

「奴を殺せ」

 

 

 

魔神王を殺す予定はもう少し先ではあったが、今来られても大して問題はない。

あくまでもルファスに比べれば優先順位が低いだけの話なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔神王が腕を振るう。

レベル1000にしてその域を超えた力を持つ彼がそうするだけで大災害染みた破壊が巻き起こされる。

勇猛果敢に飛びかかった黄金色の蜘蛛やアリが一瞬でバラバラに砕け散り、その残骸が何百と空に舞い散らされた。

 

 

 

 

 

王の瞳は変わらず虚無としかいいようがなく、彼は淡々とここにきた己の役目を果たすべく動き続ける。

アリストテレス兵器群の破壊、特にあの木龍を再現した様なモノと水晶の恐竜は確実に滅ぼさなくてはならない。

世界における調停者として彼はあの二つの存在を決して看過できない。

 

 

 

思いあがった者に絶望を。

アリストテレスはやり過ぎた。

その為の報いを与えなくてはならない。

 

 

 

人類は希望を抱きすぎてはいけない。

魔神族は人類にとって永遠の天敵であり病だ。

決して根治しない不治の病であると教え込まなくてはいけない。

 

 

 

形を持ち動く神罰。

それが今の魔神王オルムであった。

 

 

 

 

オルムが拳を振るうごとにミズガルズが揺れる。

数字にしてマッハ40万から50万ほどの速さで魔神王は拳を振るう事が出来るのだ、それが標的を粉砕するたびにどれだけのエネルギーが撒き散らされるかは想像がつく。

 

 

 

 

アリたちが溶解液を吹き付ける。

ミスリルさえ瞬時に溶かしてしまうソレは魔神王の皮膚に何の影響も与えられない。

 

 

オルムが軽く腕を払う。

その動作で発生した大規模な衝撃波が何百と言うアリを消し飛ばした。

 

 

 

 

黄金の蜘蛛たちが次々と糸を放った。

触れるだけですさまじいスリップダメージを与えるソレは確かに効果を発揮している。

しかし余りに膨大な魔神王のHPを削るにはこれでも足りない。

 

 

 

 

参考までに言うと彼のHPは1000万を超える。

フルパワーのルファスが340万と考えるといかにこれがとんでもない数値か判るだろう。

その上、オルムは世界から絶えずバックアップを受けている故にHPは減った瞬間から回復し続けていた。

 

 

 

歴代の勇者たち相手に茶番ができるほどに彼は強いのだ。

 

 

 

進む。

竜さえからめとった糸の濁流を物ともせずにオルムは歩みを止めない。

レベル1000でありながらその実、その域を超えている彼にとってはこの程度問題ではない。

 

 

 

魔神王は障害とさえ認識せずにジャブを軽く放つ。

それだけで巨大な女王個体はバラバラに吹き飛んでしまい一瞬で絶命。

余波で何十という蜘蛛が甲高い悲鳴を上げて砕け散っていく。

 

 

 

 

あれだけ魔神族を蹂躙した巨大昆虫の軍団はものの数秒、それも拳を数回振るっただけで壊滅へと追い込まれていた。

魔神王は獅子王とは明らかに役者が違う。

厳密には魔物ではない彼はこの世で最も完璧に近い存在である。

 

 

 

倒される事など想定されていない完全生物。

この世で女神を除けば最も優れた存在であると定義されたのが彼なのだ。

寿命などもちろん存在しない彼らは完璧な存在と言えよう。

 

 

 

 

“完璧”

 

 

 

何ともつまらない言葉だとかつての誰かが嘲笑った。

ミズガルズが誕生して数千万、いやもっとか?

下手をすれば億にも届く年月の間、彼は最強の存在だった。

 

 

 

 

今までは。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

瞬間的に眼前に現れたエル級を前にしてもオルムは欠片も感情を見せない。

爬虫類の様に冷たく、昆虫の如く感情のない瞳で蒼い恐竜を見上げるだけだ。

2メートル程度しかない彼を踏みにじる様にエル級が足を上げてもソレは変わらない。

 

 

 

 

150メートルの獅子王さえ超える巨躯を誇る恐竜がちっぽけな人を踏みにじろうとして───足が落ち切らない。

右腕一本でオルムは何万トンもあるエル級を支えて冷ややかに言い放った。

 

 

 

「この程度ではないのだろう?」

 

 

 

少し力を込めて押し返せばエル級が丸ごと持ち上げられ、背中から倒れ込む。

ドォンという音と衝撃が響き、土砂が舞い上がった。

魔神王が跳躍し倒れ込んだエル級を見下ろす。

 

 

 

 

そして彼は拳を振るった。

幾度も幾度も。

マッハ40万から50万、時速にして6億キロという意味不明な数字だ。

 

 

 

一撃一撃が隕石の衝突に匹敵する大破壊を秘めた一撃。

そんなものが正に雨あられ。

たった2つしかない筈の腕は余りの速力にさながら千手の如く多々に見えた。

 

 

 

 

本来ならばこれで壊せない/殺せない存在などいない。

魔神王が本気で拳を振るえば例えそれがレベル1000の勇者であろうと必ず死んでいた。

彼は相手がどれだけの想いを抱いていようと、どれだけ崇高な理念を掲げていようと圧倒的な力を以て殴殺してきた。

 

 

 

 

 

 

ギギギギギギギギ

 

 

不気味な音だった。

金属が無理やり引き延ばされるような、何百年も経過した建造物が軋みを上げているようなそんな音であった。

 

 

 

 

それはまるで、宇宙そのものが軋むかのような音だった。

数百年風雨に晒された廃都市の天蓋が、最後の力で崩れ落ちようとしているかのような──そんな不協和な悲鳴。

 

地鳴りにも似たその音を中心に、粉塵が舞い上がる。

瓦礫のような地層を押し広げながら、“それ”は立ち上がっていた。

 

 

 

 

 

────エル級は健在。

 

 

しかも、無傷。

損傷なし。

覇王の拳に比べればそよ風だ。

 

 

 

魔神王オルムが放った拳の嵐──暴力の極致──を真正面から受け止めながら、エル級は微動だにしない。

その全身を包むアロヴィタイト装甲には、ひとつの傷すら刻まれていない。

金剛石をも圧し砕く神の一撃を前にしてなお、その機体は冷たく沈黙していた。

 

 

いや、正確には──音もなく、“観測していた”。

 

 

エル級の頭部がゆっくりと動き、打ち据えられ続ける中で首を持ち上げ、オルムを見上げる。

顎のヒンジが音を立てて軋むたび、異様な気配がその背面から滲み出す。

その瞳孔のない光学センサーは、まるで魂を持つかのようにオルムを“理解”していた。

 

 

 

内側に宿る意思がオルムを見る。

 

 

 

《敵性対象、確認。最上位個体:魔神王 根絶決定》

 

 

 

静寂の中で、小さくノイズ混じりの内部信号が跳ねる。

本来、感情を持たないはずの存在が、まるで呟くように発した内部の言葉。

 

 

全身に打ち付けられる拳の豪雨を気にもせず立ち上がった。

恐ろしい事に損傷はやはり皆無。

金剛石であろうと砂に変わる暴力の中、何の痛打も感じていない動作でゆっくりと顔を上げてオルムを見上げる。

 

 

 

当然そんな動作をすれば頭部を滅多打ちにされるが、それさえも気にも留めていない。

時々ガァンという金属音を立てて首が曲がるが、ゆっくりと元に戻る。

そして小首を傾げながらエル級は魔神王を見つめる。

 

 

 

ゴーレムに近しい存在であるはずなのにそこには一種の意思のようなものさえ見て取れた。

もしもこれに自我があったのならばこう思ったかもしれない。

 

 

 

“アレがわたしの敵”

 

 

 

 

元よりアリストテレス兵器群の次世代戦闘ユニットであるエル級などは龍を仮想敵とした存在だ。

本来ならばもっと先の話だったのだが、こうやってチャンスが巡ってきた。

 

 

やって来たのだ。来てしまった。

その存在を証明する戦場が。

“殺す”ことによって、存在価値を確立する唯一の舞台が。

 

 

 

己の存在を証明せんとアロヴィタイトが輝きを発する。

役目を果たせない部品に意味はない。

故にエル級にとってこれは存在価値の証明だ。

 

 

 

 

マナは元より強い意思に反応してその効能を増す性質がある。

そのマナを更に純化させたアロヴィタイトはその特性を更に顕著なものへと変えていた。

まだ本性を出してもいないソレに圧されるなど在ってはいけない事である故にエル級は暖機運転を終わらせた。

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

魔神王オルムが拳を強く握りしめる。

そのままトドメと言わんばかりに本気の一撃を放った。

エル級が一段出力を上げた事を彼は察し、今までの茶番で勇者を殺す際の時と同じ威力を撃ち込んでみる。

 

 

 

ドンとエル級は地面に深くめり込んだが、やはり水晶の身体は恐ろしいまでに頑強だった。

アロヴィナス神の力を三次元に落とし込んだ上でアリストテレスの秘術を用いて加工された装甲はキングクラブさえも凌駕する。

ルファスの拳を想定したソレは生半可な攻撃ではダメージになりえない。

 

 

 

 

口が大きく開く。本物の肉食恐竜の如く。

魔神族を駆逐していた時は用いる必要のなかった武装が解禁される。

アロヴィタイトは青白く発光し、喉の奥から虹色の光が込みあがってくる。

 

 

 

純粋な“力”に破壊の意思が乗せられる。

 

 

 

《起動率、100%。制限解除》

 

 

 

内部で走る数千の演算がすべて戦闘特化に振り分けられ、戦闘回路の全てが開放される。

同時に、アロヴィタイトが喉奥で高密度に収束し──虹は色彩を統合され“蒼”が生まれた。

 

 

 

青白く、透明で、しかし確かに“破壊の意思”を帯びた閃光。

光が結集する。

龍でも魔神でも、人でもない何かの咆哮が、大地を震わせる。

 

 

 

 

「!」

 

 

 

瞬間、オルムは両腕で防御の態勢を取っていた。

黄金色のアリや蜘蛛のソレに対しては避けもしなかった彼がだ。

 

 

 

 

「っっ………!」

 

 

 

放たれる蒼の閃光。

アロヴィナス神の力の一端を攻撃に利用したソレはブラキウムとはまた違った種類の必殺攻撃だ。

ブレスの様に放たれる性質上回避こそ可能ではあるが威力はブラキウムさえ超えている。

 

 

蒼が世界を侵す。

光は広がるのではない。膨張する。

この宇宙の法則にとって存在してはならない波長が空間を蹂躙し、貫通していく。

 

 

一瞬にして“重力”と“時間”の感覚が崩壊した。

蒼白の奔流は、見る者すべてに“焼き尽くされる未来”を見せつける。

ただ光るだけではない。

 

 

 

 

これは──この世にあるものすべての存在証明を焼却する意思だった。

マナは強い意思に反応して化合する。

故に“死ね”という原初の排他を練りこまれたソレの威力を推して知るべし。

 

 

 

光がオルムを包み込み、その余波が星系全体を明るく照らした。

一瞬で数十万のHPが消し飛ぶ。

更に魔神王のHPは減り続ける。

 

 

 

 

当たり前の話だ。

これは純粋たる女神の力そのものである故にミズガルズの制約の外にあるのだ。

世界の上限に設定されていた99999というダメージ限界の壁を明らかに超えた一撃を受けてオルムは小さく苦悶を零した。

 

 

 

だがしかし彼は魔神王である。

獅子王とは役者が違った。

瞬時に己の中にあった侮りを消し、意識を戦闘へと切り替える。

 

 

 

オルムの唸りが、閃光の中で響く。

全身の体毛が逆立ち、皮膚は裂け、骨の奥まで震える熱量が突き刺さる。

その肉体に、確かに“死”の感触が触れた。

 

 

 

 

これはなんだ?

この首筋がチリチリする感覚は。

オルムはソレを知らない。

 

 

寿命も病も敵も存在しない彼はソレを知らない。

 

 

 

……彼は崩れない。

 

 

拳を握る。

歯を食いしばる。

初めて彼は相手の攻撃を堪えていた。

 

 

 

この存在との戦いは茶番ではないと彼は理解したのだ。

完全に勝利が決まっていた勇者たちとのソレとは全く違う。

殺すか殺されるかという。

 

 

 

人類は遂にたどり着いたのかもしれない。

勇者という人柱を利用せず魔神王の命に指がとどく領域に。

 

 

 

「なるほど。一筋縄ではいかないようだ」

 

 

 

 

女神が警戒と排除を命じる理由に得心が行ったと胸中で続ける。

既にルファス・マファールとアリストテレス兵器群、どっちも女神にとっては厄介極まりない存在だと判断されていた。

 

 

 

「オオオオオオォォォオオッッ!!!!!」

 

 

爆発するような雄叫。

魔神王は破壊の“月”属性を凝縮した魔力を全身から放出。

蒼の閃光を捻じ曲げ、耐え切ったその肉体が、一歩、二歩、エル級へと踏み込む。

 

 

眼前に迫る水晶の巨躯。

空中に浮かぶブレスの残滓を振り払うように、

オルムは全力で飛翔し、弾丸のように殴りかかった。

 

 

 

──激突。

 

 

エル級の頭部に、凄絶な打撃が叩き込まれる。

かつて勇者の頭蓋を潰したあの一撃。

それ以上の速度、質量、破壊力を纏った“殺意”の拳だった。

 

 

 

瞬間的に放たれる莫大な魔力の放出。

「月」属性をふんだんに宿したソレは暗黒色の光となりオルムを包み込みエル級のブレスを弾き飛ばす。

そのまま今度はバフをかけてエル級に向けて加速をつけて落下し、頭上から地面に叩き込む様に殴りかかる。

 

 

 

今まで放っていた無造作な、虫を払う様な攻撃とは違う。

魔神王の本気の敵意が乗った一撃がエル級の頭頂部に直撃した。

 

 

今までとは違うベキンという音と確かな手応えが発生する。

蒼き恐竜の肉体が轟音を上げて大地に沈む。

見る見るクレーターが形成されその中心で水晶の怪物が深く深く沈んでいく。

 

 

 

歪む金属音。

高密度結晶が削れる音。

手足をばたつかせて悶える様にエル級が抵抗するがオルムは止まらない。

 

 

 

「オオオオオオォォオッ!!!!!!」

 

 

 

歯を食いしばり、覇気に満ちた表情で叫びをあげて拳を本気で振り下ろす。

必ず殺す。必ず滅ぼす。

今までの生涯においてほんの数える程度しか抱いた事のない感情を乗せて右の拳を叩きつければそれでようやくアロヴィタイトに小さなヒビが走った。

 

 

しかしその代償は大きい。

周辺の大地は深々と陥没し、放たれた衝撃の余波で森の木々は根こそぎ吹き飛び、時空の構造体にさえ微かな異常が発生するほどだ。

 

 

 

ミシミシミシ……

 

 

ようやく、“ヒビ”が入った。

無機質な光を纏ったアロヴィタイトに、小さくも確かなクラックが走る。

 

 

 

──だが、それだけで終わらなかった。

 

 

圧倒的な衝撃の反響。

その余波は周囲数十キロに及び、地層がめくれ上がる。

森は一瞬で更地と化し、空間には時空構造体の裂け目が生じた。

 

 

時間が震える。

空間が軋む。

その中で、沈み込んだエル級の両目が赤く発光し──次の攻撃の準備に入る。

 

 

 

近づいてきてくれたのだ。

歓迎しなくてはならない。

 

 

 

全身にまとう蒼の発光が、さらに強くなる。

先ほどのブレスとは桁が違う。

全身から無作為なエネルギーの放出をエル級は行おうとしていた。

 

 

それはもはや“攻撃”ではない。

崩壊する光そのものだ。

 

 

ミシミシ……パキ……パキキ……。

 

 

 

ヒビが広がっていく。

如何に常識はずれな強度の装甲といえど魔神王の本気の一撃はさすがに耐え切れないのかもしれない。

そもそもこの存在の本質は龍の巨躯や文明という超広範囲&超巨大な存在を殺す為の範囲攻撃に特化している。

 

 

そのため今のオルムの様な人類程度の大きさを相手どるには小回りが利かないのだ。

 

 

このままいけばエル級を破壊できるかもしれない。

そう、オルムが思った瞬間……彼の本能が警鐘を鳴らした。

反射的にそれの正体を考える前にオルムはエル級にトドメを刺すのを中断し飛んでいた。

 

 

 

瞬間、今まで彼がいた場所に真っ黒な球体が出現し内側に収束する様に消えていく。

ゴウッと空気が黒い孔に流れ込みミズガルズの質量は微かに減少した。

 

 

 

「…………」

 

 

 

オルムはじっと一点を見つめる。

エル級の頭部の右隣、そこに微かな空間の異常が発生していく。

真っ黒な一切の光を通さない【エクスゲート】が生成され、ゆっくりと深淵から這い出る様にソレが出てくる。

10メートルほどの大きさしかないソレはエル級に比べれば遥かに小さいが感じる圧はずっと上であった。

 

 

 

身の毛もよだつとはこのことか。

魔神王は明らかにこの世の法を歪める存在に対しての敵意も隠さずそれを睨みつけた。

人類はいったい何を作ったのだ?

 

 

 

 

銀色の鎧の如きボディはアロヴィタイトを更に深く加工した新種の素材で出来ている。

足はなく腰から下はスカートの様に展開されている。

両腕はとてつもなく巨大で肩から肥大化しており、指はまるで大砲の様に太い。

 

 

 

周囲には5つの球体が飛び回っており、それらは眼球が動くようにきょろきょろと回転を続けていた。

 

 

 

 

これこそアリストテレス兵器群の次世代型戦闘ユニットの究極の一つ。

コンセプトこそエル級に似通っているがさらに強い。

アリストテレス兵器群をして量産は困難極まる傑作の中の傑作。

 

 

 

 

“セト級土龍再現体”

 

 

 

これなるは暗黒色の深淵から這い出た者。

単純な破壊力だけならばルファスにも届きうる可能性のある文句なしに最高峰の怪物だ。

 

 

 

神話において御使いの一柱たる土龍は星々の持つ根源的な力───即ち重力を支配したとされる。

そしてアリストテレス兵器群は重力という概念を観測し理解していた。

何処にでもあるのだから、観測は容易なのは当然だった。

 

 

 

本来ならば質量を狂気的なまでに圧縮しなければ重力を狂わせる事など不可能であるが……。

 

 

 

 

しかしミズガルズは狂気の園だ。

物理学においてはそうかもしれないがこの世界にはマナという概念と属性という色があり、スキルというスイッチもある。

その中の一つである「土」属性は主に重力に関わる権能を司っていた。

 

 

パーツは全て揃っている。

要は組み立て方の問題であった。

そんな馬鹿なと誰もが思うだろうが、アリストテレスは常に前進を続ける。

 

 

 

話は簡単だ。

「土」属性のレベル限界突破魔神族を複数生産し、更にそれらをエル級とは比べ物にならない程に圧縮し超高濃度のアロヴィタイトを製造。

それらを加工しセト級を組み立てたのだ。

 

 

 

ちなみにセト級を一機作るのに消費した魔神族の数は10万4500匹ほどだ。

余りの高コストっぷりに現時点では兵器群でさえ量産は不可能と判断されている。

しかしいずれはコレらを揃えなくてはならないとアリストテレスは考えていた。

 

 

 

 

蒼い星の世界に蔓延る人類もどきを滅ぼす為に。

何処かにいるかもしれないミズガルズ人類を害する存在を全て消し去るために。

兵器群は人類以外のあらゆる存在を認めはしない。

 

 

 

 

 

 

それだけの資源を惜しみなく注がれ、原子レベルで属性を極めさせられたセト級は10メートルの土龍とも言える性能を与えられるに至る。

更には【エクスゲート】から得た時空間に関する知見さえも応用しセト級はくみ上げられた。

セト級を動かすのは【エクスゲート反応炉】ともう一つ、とある世界においては空想の中でしか存在していなかったモノ──即ち縮退炉だ。

 

 

 

この炉は常に世界に存在するあらゆる物質やマナ等を取り込み続けて無尽蔵の出力をこの怪物に与えている。

アリストテレスが導き出したレベル限界突破存在への対応策の最適解、その一つがこのセト級である。

 

 

 

計算では龍を問題なく屠れると判断されるほどの力を与えられた兵器が動き出す。

アリストテレス兵器群の意思が完全に定着し、マニュアル操作を実行。

まずは指先────大砲の様に巨大なソレがオルムに向けられる。

 

 

 

虚空に──影が咲いた。

それは闇の結晶であり、重力の核であり、世界を飲み込む点。

 

 

『ブラックホールバレット』

 

 

 

放たれた暗黒の点は、寸分の狂いもなくオルムの未来位置を射抜く軌道で疾走する。

重力すら先導され、光の速度をも凌駕する一手。

それはもはや砲撃ではない。蹂躙だった。

 

 

極限にまで「土」属性を与えられたアロヴィタイトが物理法則を破綻させ、瞬時に暗黒天体を生成。

まずは小手調べとしてそれを一発オルムに発射。

真っ黒で一次元的な“点”が光速で魔神王に迫る。

 

 

 

さしもの魔神王も危機を覚え、全力で回避。

暗黒色の弾丸は宙の向こうに消え、真っ黒な力場を産み出す。

闇黒のなかで内側に潰れる様に重力がさく裂し空間がえぐり取られた。

 

 

極小規模で完全に制御された重力崩壊の結果だった。

 

 

 

余波は周囲の空間が重力の力によって撓むがそれだけだ。

セト級の周囲を飛び回る5基のサポートユニットがそれぞれ『サイコキネシス』を生成し重力のベクトルを操作してるのだ。

念力というあらゆるものに触れられるスキルを以て重力を整えることによりセト級はミズガルズを消し去って余りある破壊力を完全に制御し惑星への被害を最低限に抑える事が可能だった。

 

 

 

全てを飲み込む闇の核は、エネルギーの一滴すらこぼさずに終息した。

……だがそれで終わりではない。

 

 

セト級は無音で浮遊していた。

身体を覆う結晶装甲が音もなく輝き、5基のサポートユニットが周囲を高速で巡航する。

それらが織りなす念力制御網『サイコキネシス・グリッド』は、攻撃の余波を完全に中和し、周囲の惑星生態系に一切の干渉を許さない。

 

 

 

“完成”されていた。

 

 

それこそがセト級。

ただ破壊するのではない。

世界を壊す力を完全制御し、「壊すべきもの」だけを選択して撃ち抜く。

 

 

 

その異様な精密さに、オルムは言葉を漏らした。

 

 

「女神が危険視するのも頷ける話だ」

 

 

セト級は応答しない。

プランがそうだったように敵と問答など交わさない。

感情もない。あるのは命令を果たそうとする行動だけ。

 

 

 

《次弾装填完了。重力崩壊粒子──99.999%安定維持》

 

 

再び放たれた黒弾。

それに続き、別のサポートユニットが極小スパイラルビームを形成、重力撹乱域を直撃座標に照射。

 

 

 

オルムが左へ跳躍した瞬間、そこに“未来”が着弾する。

爆ぜる大地、歪む空間。

 

 

しかし、魔神王もまた“殺意”を見抜いていた。

 

 

 

咆哮と共に一気に距離を詰め、拳を振るう。

迫る龍の鉄槌。

それに対し、セト級は身を翻し────回避。

 

 

 

【逆重力噴射】が展開され、全身が光子粒子の逆圧力で逆滑走する。

逆さに飛べばこの世界は光速を超えられる。

この陥穽はセト級にも有効であった。

 

 

 

空間すら蹴るその動きに、地上戦闘という枠組みはもはや存在しない。

 

 

 

セト級は、“飛ぶ”のではない。

戦場という概念そのものを再定義して浮かぶ。

それが、アリストテレス兵器群「セト級」。

 

 

直撃は回避した。過ぎ去った景色に映る黒い欠落を見る。

だが、オルムが見る空間に一瞬生じた“点”はあまりに致命的だった。

まるで星の死を凝縮したような点から、空間が内側へと沈み込むように破裂する。

 

 

 

神の御使いの命に指がとどく存在を作り上げる。

それがどれほど身の程知らずなことか本当に判っているのか?

オルムは内心で現行の人類を糾弾する。

 

 

 

この身は女神の意思の体現。

女神が人を絶望に染めろというからそう在る。

唯一の希望は女神が選んだ勇者のみ。

 

 

 

これは何万年も、それこそ人類の開祖から始まった絶対の法なのだ。

アイネイアースから始まった舞台はまだ終わらない。

 

 

 

それ以外のモノは決して許されないというのに。

人は、自分の手で希望を作り出してはいけないのだ。

故に今の人類には正しい絶望を与える必要がある。

 

 

滅ぼすことはないが生かす事もない。

まるで一種の独裁者が国民を抑圧するように、魔神王は人々を苦しめ続けるのだ。

 

 

 

仮に彼がソドムのゴミ捨て場に投棄された無数の人骨を見ようと何も思わないだろう。

魔神族に大切な人を殺されたからなんだという?

お前は生きているのだから幸運を噛み締めて生きていけばいいと言い放つのが今の彼だ。

 

 

人は、勝手に希望を抱いてはいけない。

 

 

 

故にアリストテレス兵器群は悪である。

世界の意思に反する異物であり、排除すべきイレギュラーだ。

いま急速に勢力を拡大させているルファス・マファールという存在もろとも消さなくてはいけない。

 

 

 

 

魔神王ではなく本来の立場の者としてオルムはセト級をそう判断する。

彼の正体は実の所人類の敵などではない。

魔神王オルムの本来の名は月龍ミズガルズオルムである。

 

 

 

本当であればこの世界を守護し管理する女神直属の御使い、それがオルムの正体だ。

そこに疑問はなく、彼の意思などもない。

今の彼は女神の動かす手駒でありアロヴィナス神の意思をミズガルズに反映させる道具なのだから。

 

 

 

「存在してはならぬ物達よ」

 

 

 

「私の全霊を以て排除する」

 

 

大地が割れる。空が泣き叫ぶ。

龍の行動はそれそのものが大災厄だ。

 

 

 

全力で踏み出す。

完全に外敵と判断したものを抹消するために。

魔神王の本気はあらゆる意味で桁外れとしかいいようがない。

 

 

 

空気が爆ぜた。しかし音と衝撃は全てにおいて遅い、遅すぎる。

ミズガルズが軋み、雲は千切れ、大地は揺れる。

一瞬で0から光速に等しい速度まで加速した彼はセト級に容赦なく拳を振るう。

 

 

 

神話的怪物の拳が天地を蹂躙するたびに、自然が悲鳴をあげる。

 

 

その中心。

一歩も動かず、表情すら持たず、ただそこに立っている存在が一体。

 

 

セト級。

 

 

アリストテレス兵器群の最上位に位置するこの存在は、怒りも感情も持たない。

だからこそ完璧に処理する。

一切の無駄なく、必要最小限の“応答”だけで、オルムの暴力を制御し続ける。

 

 

アリストテレスはいつもこうだった。

彼らは何時も無機質かつ冷たい。

 

 

「ッ!!!」

 

 

魔神王の拳が光を裂く。

瞬間、セト級の周囲に極微の「斥力球」が連続展開される。

 

 

ガッ―――ン!!

 

 

 

拳が空中で止まる。

斥力球が拳の衝撃を斜めにずらし、衝撃ベクトルを真横へ弾き飛ばした。

そのまま風圧だけで後方の山が吹き飛ぶが、本体には掠りすらしない。

 

 

 

セト級は、戦闘の中でオルムの軌道、筋出力、空間圧縮の痕跡までを読み取っていた。

今や彼の攻撃は、“観測できる現象”に過ぎない。

 

再び拳。

三万発、四十万発。

速度はマッハを超え、振動すら観測されぬ速度で放たれる連撃。

 

 

 

だが──

セト級の背後のユニットが発光。

 

 

 

【慣性制御】

 

【空間再配列】

 

【局所時間捻じれ】

 

 

 

──複数の制御が同時展開され、拳がまたしても“届かない”。

 

 

体感時間が停止、世界の全てが止まる中において魔神王とセト級だけが無音で戦闘を開始。

セト級は問題なく反応し重力操作の応用でオルムの拳に対して数万倍の重力/斥力で構築された壁を展開。

単純に弾くのではなく空間を重力レンズの応用で歪曲させあらゆるエネルギーのベクトルを逸らしてしまう空間防壁だ。

 

 

 

オルムは歯噛みした。

拳が届く距離にあるのに、触れられない。

自分ごと空間ごと“歪められ”、本来そこにあるはずの当たり判定が消失しているのだ。

 

 

吸血姫再現体とは違った方向性の当たり判定の消失。

コレも正しく世界のバグである。

 

 

セト級は一歩も動いていない。

攻撃を避けたわけでも、防御をしたわけでもない。

ただ、“そうならないように”世界を書き換えた。

 

 

 

魔法であろうと物理攻撃であろうと張力拡散を可能にするこれは万能としか言いようがない防御壁だ。

天法による結界とはまた違う、技術的に確立された防御技術である。

拳が不可視の力場に阻害され、逸らされた破壊のエネルギーが周辺の地理を粉々に書き換えていく。

 

 

 

暖機運転も終わりつつある中、障壁に込められた力の総量がドンドン膨れあがっていく。

十万、二十万、三十万。

ほんの一粒の砂が山脈に匹敵する程の重量を得てしまう程の膨大な重力の暴風雨は魔神王の拳を何の問題もなく防いでしまう。

 

 

 

一撃でこの障壁を粉砕するのは不可能だと判断したオルムは数の暴力に切り替える事にした。

両腕が掻き消える程の速度で動き、一秒の間に億にも届く程の拳激を壁へと叩き込む。

決して干渉できず歪める事のない重力が撓むというあり得ない事がありえかけている。

 

 

 

途方もない破壊力の前に障壁が撓んでいく。

魔神王の本気の猛攻は常識外れの怪物が多いミズガルズにおいてなお規格外。

むしろそんな存在の本気を引き出させたセト級が異質なのだ。

 

 

 

 

 

「オオオオオオオ!!!」

 

 

 

天法を幾つも重ね掛けし強化された怒涛の猛攻は着実に障壁に負荷をかけ続け、損傷させていく。

しかしセト級は冷静に判断する。

初の本格的な稼働で懸念もあったが縮退炉は問題なく稼働しており、補助としてついているエクスゲート反応炉も問題なし。

 

 

 

 

故に出力を上げた。

今までは30%程度だったソレを70%にまで。

周囲のマナや物質のみならずエクスゲートを連結させることによりあらゆる場所のあらゆるモノを燃料として供給された怪物は数段階飛ばしで能力を飛躍させる。

 

 

 

 

障壁など生ぬるいと言わんばかりに重力数値が上がり続ける。

やがては分子間引力さえ超え、時空を歪め、時間の進みさえ狂う程に。

セト級は思った。自分の能力はこうやって使うのか、と。

 

 

 

言わば今の彼は初めて剣を握った剣士、筆で線を書き始めた画家だ。

理屈は知っていても、実演は違うのだ。

しかし急速に経験を積み始める事により様々な応用も含めて学習を続けていく。

 

 

 

 

セト級とオルムの頭上に複数のマイクロブラックホールが瞬時に生成される。

どれもこれもがミズガルズを飲み込みかねない破壊力を秘めているが5機のサポートユニットが完全なベクトル操作を以てそれらを制御しているため世界には何の影響もない。

何十と言う暗黒の星が落ちてくるのを見て魔神王は微かに目を見開く。

 

 

その一瞬の隙にセト級は更に追い打ちを行う。

 

 

セト級は、次の瞬間に重力レンズを張り巡らせる。

エクスゲートの応用で“自らの存在を折り曲げて”別座標に転移。

転移したのではない。自身の「位置情報」をエル級のソレの応用で捻じ曲げた。

 

 

そして、蹂躙。

 

 

空中から5基のユニットが急降下。

それぞれの端末がアロヴィタイトの粒子を散布し、数万層の微重力制御フィールドを生成。

そのまま世界全体の“重み”が、オルムの上にかかる。

 

 

 

一歩、二歩、三歩──

魔神王が膝をつく。

世界そのものが、彼一人を押し潰そうとしている。

 

 

暗黒の星が墜ちてくる。

アレに当たれば彼とてただでは済まない。

 

 

 

飛びのいて回避しようとするが、重圧とは違う要因で足が動かない。

何故だと目線を向ければいつのまにか彼の足は超高密度のエネルギー結晶に包まれており、空間に座標事固定されていた。

小さく開いた【エクスゲート】からエル級がアロヴィタイトの一部を切り離して送り込み、それをセト級が操作することで空間のマナを結晶化させたのだろう。

 

 

 

「……!」

 

 

 

回避も防御も許されなかった。

重力そのものに対して、抵抗という選択肢は存在しない。

 

 

セト級の「指」がわずかに傾くたび、

空間が歪み、極小の“点”が現れ、崩壊を開始する。

 

 

 

『ブラックホールバレット』

 

 

 

闇の弾丸が飽和する。

無数の暗黒点が四方八方から魔神王オルムを襲った。

その一つ一つが、惑星を飲み込む“質量の暴力”を宿している。

 

 

 

全方位から空間そのものに引きずり込まれる感覚。

重力がねじれ、渦を巻き、光を食らい、存在の境界が引き裂かれていく。

反射も無効化も意味を成さない。

空間というキャンバスに描かれた“魔神王”という存在そのものが、塗り潰されていくような感覚。

 

 

 

「ぐ……が、あぁ……ッ!!」

 

 

 

神すら殺せる暴力。

“拳”でも“魔法”でもなく、ただ“重さ”だけで殺すという絶望。

刹那で骨が砕け、肉が捩じ切れ、

 

 

 

原子単位でオルムの身体が拡散されていく。

 

 

 

──それでも終わらない。

 

 

 

セト級は砲身となる腕をさらに掲げた。

指先が空間を刺し貫くように走ると、次の瞬間、六発、七発、八発──。

新たなブラックホールバレットが同時展開され、地表に降り注いだ。

 

 

 

衝突と同時に微小特異点が連鎖爆縮を始める。

ミズガルズ全土の空間座標に異常な“歪み”が走る。

 

 

 

回避も防御も出来ず暗黒天体の弾丸の飽和爆撃が魔神王を襲う。

全方位から超重力に引きずりまわされ、原子レベルで引き裂かされていく。

これほどの破壊を叩き込まれれば本来であれば生存できるのはそれこそルファスくらいだろう。

 

 

 

九。

 

十。

 

 

十一。

 

 

更にダメ押しと言わんばかりに砲身の指を向けて追加の『ブラックホールバレット』が複数叩き込まれる。

地表上で生成された微小特異点のせいでジジジジジジとミズガルズ全土に微小なノイズが走り世界の法則に微細な罅が走る。

 

 

 

 

 

セト級とエル級は並んで浮上し超重力の暴力に包まれる空間を観察。

そこにはこれだけの力を撃ち込んだのだから死んだだろうなどと言う慢心は一つもない。

相手はこの世の根源を司る存在の一柱、この程度で終わってもらっては困るとアリストテレスは考えている。

 

 

 

“完璧”などというつまらない冠を称しているのだ。

ならば最低限それに相応しいだけのスペックは見せてもらいたい。

最低でも重力の奔流で死ぬなどつまらない存在なのは勘弁願いたい。

 

 

 

 

そしてその期待は見事に実った。

 

 

 

 

未だに重力が残留し歪んだ空間の中でナニカが蠢き、巨大化しようとしている。

縦に裂けた蛇の様な瞳孔が世界を乱す異物を睨みつけ敵意をむき出しにしていた。

今まで空虚な顔しかみせていなかった男の初めての生の感情だ。

 

 

 

こいつたちはいまここで殺さなくては駄目だという決意。

 

 

 

これこそ真なる月龍ミズガルズオルム。

魔神王オルムなど偽りの姿。

女神アロヴィナスの御使いであり、この世の調停者たる者の威容が解放されようとしていた。

 

 

 

 

エル級とセト級の前に【バルドル】に似た鎧を着こんだ小さな人影がエクスゲートより現れる。

150メートルを超えるエル級と10メートルのセト級に対してその者は150センチもない。

赤い裏地のマントを羽織り、マスクの後方から銀の長髪を流した人物の頭部からは捻じれ曲がった山羊の角が生えていた。

 

 

 

既に吸血姫の解析は終わっており再現の技術も確立させている。

で、あればその次だ。

優れたベースを更に優れた存在へと変える作業は必須だ。

 

 

 

 

元よりただ再現しただけでは覇王には及ばないと証明されているのだから。

だからアリストテレス兵器群は実行した。

次は負けない為に、せめて本命が完成するまでの繋ぎとして相応しい存在に至らせるために。

 

 

 

 

かつてプラン・アリストテレスが述べたキメラを作るという言葉。

それの完成形がこれだった。

 

 

 

 

血を弄り。遺伝子を刻み。

マナを作り替え。骨を補強し。

原子を整え。魂の代わりを注入。

 

 

 

もはや外見以外は吸血姫の要素は何も残ってはいない。

ただ戦闘に特化させられたソレは生殖をはじめとした兵器に不要な要素は全て取り除かれ、ただアリストテレスの都合のいい要素だけを盛り込まれた。

 

 

 

 

そして───完成した。

オリジナルの尊厳など知った事ではない。

元より好きにやれと言ったのは彼女なのだから、好きにさせてもらっただけだ。

 

 

 

 

コレの名はナンバー18。

またの名を【吸血姫(グリッチ)再現体Ver.2(ベネトナシュ2)】はじっと蒼い瞳で月龍を見下ろすのだった。

 

 

 






セト級 土龍再現体



10万を超える「土」属性の魔神族を消費して建造された最上級のユニット。
現状、戦闘力という点では吸血姫と並んで最高位に位置する。
このユニットは実質10メートル程度の土龍である。


元ネタはwildなアームズから。
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