ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

182 / 221
ちょうど今日アニメPV1が公開されました。
ド派手な戦闘シーンが目白押しで、待ちきれないですね。

何とか三部のクライマックスをアニメ放映に合わせたいところではありますが、難しいか……。


今回は「本当にお前さぁ……」となるお話。



女神さまの“アンコール”!

 

女神アロヴィナスを以てしても唯一出来ない事がある。

単刀直入に言うと彼女は生命を作る事が出来ない。

余りに生命体としての次元が違いすぎるせいで彼女は命という概念が判らないのだ。

 

 

 

 

【錬成】にも言える事だが何かを作る時はソレをしっかりと理解していないといけない。

人型のゴーレムを作る時は人体構造を知っていなければならないし、銃を作るとしても中の構造をしってないとガワだけの張りぼてになるだろう。

 

 

 

 

では今現在ミズガルズに満ちる生命体はどうやって生まれたかというと、実の所アロヴィナスはギャンブルをしたのだ。

適当に下地の世界を作り、適当な物質をかき混ぜた挙句に時間を加速させて待つ。

そうやって水素と二酸化炭素を餌にする原始生命体の誕生を彼女はひたすら、ずっと、数億年は待った。

 

 

 

無限の力を持つ彼女はあまりに強すぎる力のせいで直にミズガルズに干渉できない故にそうするしかなかった。

何が言いたいかと言うと……つまるところ彼女は生命を操作する力などない。

 

 

 

いまミズガルズで闊歩している生物たちも元を辿れば殆ど全てが外来種であるとアリストテレスは知っている。

何せ進化の系統樹がなく、唐突に現れた生命がうじゃうじゃいたのだから。

 

 

 

だから歴代のアリストテレスは先ずはそこから始めた。

無尽蔵の宙を統べる女神に対して自分たちが唯一優れていると断言できる部分を突き詰める為に。

どんな計画においても最初に到達点を決め、そこに至るために逆算して計画を作っていくのはよくあることでもある。

 

 

 

アリストテレスの目的はただ一つ。

彼らは己たちの在り方をこう定義した。

 

 

 

※ 我々はアリストテレスだ。

 

※ 我々は我が子に“継承”をもって宿り、永遠に存在し続ける一族なり。

 

※ 我々はこの世界を嫌悪するものだ。

 

※ 我々は極点を願うものだ。

 

※ 我々は女神の失墜と人類の進化発展の為に存在する。

 

※ 我々はいずれ神という概念を撃ち落とす者である。

 

 

 

 

最終到達点は神を殺すのではない。

神という概念の零落だ。

そしてその座に人類を据える事である。

 

 

 

その為の人体への理解である医学。

その為の生物が変異した魔物への理解であるマナ学。

その為の歴代アリストテレスだ。

 

 

 

 

 

結果として吸血姫は解析されつくされ、技術へと落とし込まれた。

吸血姫という単体の超越種だった物はもはや神秘的な存在ではなく複数の人工子宮で培養される存在へと変わった。

その果てが【吸血姫再現体Ver.2】だ。

 

 

 

オリジナルがこの事実を知ったら許さない?

……それがどうした? 

何の問題もない。

 

 

 

250年以上仕事を放棄した小娘の癇癪など何故考慮する必要がある?

 

 

 

既にベネトナシュは勘づき始めているがそんなことはアリストテレス兵器群は考慮していない。

もしも抗議があったとしても彼女には“理解”を求めるだろう。

それでも飲み込んでくれない場合は残念ながら彼女は自分の掲げていた理念を再び実践してもらう事になる。

 

 

 

世界を動かすのは一握りの天才のみ。

強者こそが正しく全てが許される。

で、あれば彼女は黙って頭を垂れていればいい。

 

 

優れているのが本物を名乗れるのであれば彼女は既に偽物であり、こちらが本物だ。

 

 

 

250年間そうだったように不貞腐れながら玉座に座っていればいいのだ。

何もしなくていい。

彼女にはもはや何も期待していない。

 

 

 

もうベネトナシュはいらない。

しかし天然物としての希少価値はあるので生かしておいてやる。

絶滅危惧種は保存しなくてはいけないだろう?

 

 

 

彼女のミョルニルもまた人類共同体の加盟国であり吸血鬼族も人類である故に保護対象だというのもある。

だが、それでも邪魔をするのなら排除する。

アリストテレス兵器群の彼女への対応はその程度であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

エル級とセト級を従えた吸血姫の再現体は膨れ上がるオルムの気配を前にして佇んでいた。

以前にルファスに粉砕されたユニットを更に強化/発展させた個体はレベルにして1500ではあるが、これの強みはそこではない。

たかが100レベルの向上など差異でしかないのだ。

 

 

 

彼女はもはや人工の生命体である。

吸血姫の外見だけを纏った全くの新種。

同じ「月」属性を持つ魔王の因子を混入され、更には様々なギミックを内包された形を持つ理不尽だ。

 

 

 

「…………………」

 

 

 

彼女はコテンと全貌を露わにせんと猛る龍を前にして首を傾げる。

キィィンと瞳の奥で蒼い光が渦を巻き回転を開始。

全身に行き渡るマナ/細胞/ゴーレムが回り始めた。

 

 

 

“一致団結”

 

 

 

ハードの稼働に合わせてソレを活かすソフトが流れ込む。

膨大な“力”の渦に根付いた純粋な意思の一欠けらが。

アリストテレス兵器群の本体とも言える思考が接続される。

 

 

 

体内を駆け巡る無数のピコサイズのゴーレムが演算を補助し、改良された脳がそれらを統括する。

かつてのアリストテレス卿の御業を再現する、その為にコレは存在していた。

ベネトナシュの肉体を以て神のみが到達していた域に届かせる、それがこの再現体の目的だった。

 

 

 

 

覇王との戦いにおいては指一本程度届かせていたモノが今では片腕程になっている。

その真髄を開帳してみせよう。

瞬間的にスキルエクスコアレスが発動されお馴染みの移動方法を開始。

 

 

【瞬歩】+【瞬歩】=【ブースト】

 

 

 

手足を動かさない奇妙なスライド移動のスキルが完成する。

ソレを用いて惑星サイズの怪物へと変貌を遂げようとしているオルムの顎下に潜り込んだ吸血姫は軽く爪先でオルムを蹴り上げた。

何の力も込めていないソレは本当に弱弱しく小石を少しだけ蹴り飛ばす程度しか出来ない筈だった。

 

 

 

しかし。

 

 

 

 

「ぐおおおおおおおオオオオっ!!??」

 

 

 

ぐんっと己の惑星にも匹敵する質量が跳ね上げられオルムは思わず叫んでいた。

そればかりか全身にとてつもない圧力と乱雑な力が加えられ雑巾でも絞るかの様に彼の身体がぐちゃぐちゃに曲がる。

セト級が追い打ちをかける様にミズガルズの重力を中和し無重力化させたことでその勢いは加速した。

 

 

 

そう、セト級はミズガルズの重力を消したのだ。

その瞬間、ミズガルズのあらゆる物体は浮かびあがった。

惑星全土の重力が消えた事で人も家屋も水も、全てがふわふわと宙を舞う。

 

 

 

 

だがそれも一瞬。

ゾディアックの玉座に腰かける覇王が指をカツンと鳴らせば直ぐに惑星全土に「土」属性の魔法が発動され1Gに戻る。

女王は無表情であったが隠し切れない不機嫌さで遠くを見つめ続けている。

 

 

 

覇王ルファス・マファールは全てを見ている。

距離や障害物など彼女には問題ではない。

彼女が見たいと思えばソレは観察可能になるのだ。

 

 

【エクスゲート】の応用で遠くの座標の景色だけを観測している。

彼女の瞳には宇宙へと全身を悶えさせながら跳ね上がっていく龍と、それを成した不快な模造品の姿が映っていた。

アリストテレス兵器群はどうやら懲りずにまた作ったらしい。

 

 

 

明らかに前よりも凶悪にした上で。

レベルだけ見れば今のベネトナシュより低いだろうが、プランの技術を扱うのであればもはや吸血姫ではあの再現体はどうしようもないだろう。

 

 

 

魔神王オルム。

いずれ己の手で決着をつけると決めていた獲物が奪われかけているが彼女は動けない。

獅子王の際はまだ言い訳が利いたが魔神族の抹殺となれば誰も異論など挟めないからだ。

 

 

 

彼女は多くを見ている。

とうぜんあの山の様に積み重なった亡骸たちも。

ゴミの様に、事実魔神族にとっては食い終わったゴミなのだろうが、あれら一つ一つに人生があった。

 

 

 

 

レオンはまだ魔物ではあったが人類に積極的に敵対していたわけではなかった。

しかしオルムは違う。

彼と彼の配下である魔神族がやったことはルファスをして擁護は出来なかった。

 

 

 

 

故に彼女は動かない。

いずれ決着をつけるべき存在の真価を見定める為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミズガルズから文字通り蹴り出され、宇宙空間に追いやられた月龍は警戒も露わに吸血姫とセト級を睨んでいる。

エル級は青い母星を守る様に両者から離れた位置で待機しており、どうやらそこから動くつもりはないようだった。

既にエル級の戦闘データはあらかた取り終えており、ここからの主役はセト級と再現体だというのもある。

 

 

 

 

膨大な女神の力が龍に流れ込んでいく。

元より最も古い魔法ともいえる龍を構築するのはアロヴィタイトに近いというのもありオルムの力は段階を飛ばして強大化する。

きっとアロヴィナスとしてもこの戦いは興味深いのだろう。

 

 

 

人類の作り出した兵器が己の最強の手駒相手に何処まで通用するか疑問に思うのは当然か。

既に彼女の計画は動き出しているが、それはそうとここでオルムが兵器群を粉砕すれば儲けものだろう。

 

 

 

そして全ての龍の中で最も戦闘経験を積んでいる月龍がもしも勝てない場合、即ちそれは他の龍でも手に負えないということなのだから。

全長にして12300kmを上回るあらゆる意味でバカげた巨躯が二つの異物と対峙する。

10メートルと150センチの両者などコレの前ではアリと恐竜の比よりも小さな砂だ。

 

 

 

己の愛する箱庭であるミズガルズさえ破壊しなければ他は全て許可。

それが今のアロヴィナスの意向だとオルムは流れ込んでくる力から彼女の意思を読み取った。

 

 

 

『もはや何もいいますまい』

 

 

 

セト級から声が発せられる。

遠くからこの状況を観測している魔女が接続を利用して喋っているのだ。

 

 

 

 

『魔神族の王を騙る者よ』

 

 

 

一拍。

しかし壮絶な笑みの姿が思い浮かぶほどの圧がセト級から放たれる。

それはミズガルズにおける生命の総意であり、魔神族/女神の傲慢に傷つけられたすべての人類の心の底から吐き出された本音だった。

 

 

 

 

何処までもどす黒く醜い。

女神が決して見ようともせず、存在さえ認識できない暗黒の念。

明日の希望の為に今日を絶望に染められた人々は明日など求めていない。

 

 

 

明日を共に迎えたかった人を奪っておいて何をほざくか。

それらの代表として女は宣言する。

 

 

 

『死ね』

 

 

 

瞬間、オルムは巨大な骸を幻視した。

再現体とセト級の背後にとてつもなく巨大なそれが浮かび、顎を大きく開いている。

頭蓋など既に何万と見慣れているというのに……微かなざわめきを覚えた彼は龍の咢を限界まで開いた。

 

 

 

 

対応しセト級は両腕を大きく開き重力操作を、そして再現体はオルムに背を向けた。

 

 

 

全天を覆い尽くす程の光が放たれる。

それはまさに神の裁きであり、生物では抗えないはず天罰。

宇宙へと戦闘の場を移動させたことにより月龍はその力を大いに振るう。

 

 

 

 

迸る輝きは射線上に小惑星や彗星が存在すれば纏めて消し去る程の破壊力を秘めていた。

恒星に直撃すれば大穴が空きかねない程の圧倒的なエネルギーの暴力。

竜の扱うブレスなどコレに比べれば蝋燭にもならないほどの真なる龍の力。

 

 

 

『!!!』

 

 

 

龍が驚愕を顔に浮かべる。

ありえないものを彼は見た。

 

 

 

再現体がブレスの濁流の中、背を向けて突っ込んでくるという意味の判らない光景だ。

しかも光速など比較対象にならない程に早い。

脇から切っ先を通す形で槍を持ち、その矛先はピタリと龍の頭部を狙っている。

 

 

 

 

圧倒的な逆風の中だというのに更に加速していく。

新しいグリッチが見つかった結果、周囲の環境を書き換える事なく、全身に「水」の流動体を纏うだけで水中にいる判定が発生する事が判明していた。

その状態で【フロート】を使い無限加速する浮上と【サイコスルー】による力場を用いた射出、そして【ブースト】を組み合わせればどうなるか?

 

 

 

相対性理論やら物理法則やら、そんなものはとうの昔に意味がない。

秒もたたず何万光年もの移動を可能とする超々加速技術の完成だ。

更に背を向けて後ろに飛んでいる事により面倒な上限の壁もない。

 

 

 

そして攻撃時の速度を破壊力に変換する装備を持つことでこの速力は丸ごとダメージへと変換されることになる。

世界の上限など遥か彼方に突き破り、女神の法など置き去りにした天文学的な数値のダメージを槍は宿している。

 

 

ルファスには通じなかったが、もしもこの一撃必殺の技が決まればどうなるかは火を見るよりも明らかだ。

 

 

光が真っ二つに割れる。

いや、割れる等という表現では生ぬるい。

拡散/爆散/はじけ散っていく。

 

 

 

 

四方八方にオルムの渾身の力で放ったブレスが吹き散らされ、余波で幾つもの惑星が震えた。

何十にも拡散したとはいえ龍の本気の攻撃など掠りでもしたらその時点で星の一つや二つなど爆散するのだ。

しかし再現体は止まらない。これよりも劣るグリッチで加速した際もルファスの拳を平然と弾き飛ばした勢いは龍のブレスでは全く減速しない。

 

 

 

 

小さな小さな槍の切っ先。

150センチ程度しかない吸血姫が手に持ったソレは彼女の身長と同じくらいしかなく、刃はもっと小さい。

しかしそこに込められた効果は一撃で龍を消し飛ばして余りあるものがある。

 

 

 

先に見た幻視───骸が大きく笑う。

次はお前の番だとソドムで尊厳を踏みにじられ殺された人類が嘲笑う。

 

 

 

 

『────っっ!!!』

 

 

 

しかし彼は月龍ミズガルズオルムだ。

他の創世記より眠り続けている兄弟とは違い幾度も歴代の勇者たちと戦ってきた存在だ。

最初から負ける事などあり得ない茶番ではあったが、それでも彼の戦闘経験は全ての龍においてダントツである。

 

 

だから彼は他の龍ではまず取らない行動をとる。

オルムは、月龍は、世界の調停者はちっぽけな人類の兵器の攻撃を避けた。

 

 

 

 

 

大きく身じろぎし、人間がそうするように歯を食いしばり、その隙間から息を漏らしながら。

全長12300キロという数字から想像できない程に俊敏に身を捻り回避。

1ナノにも満たない後、オルムの頭部があった空間を再現体が残光を残しながら射抜き、そのまま星系の外へと飛んで行った。

 

 

 

完全に回避し掠りさえしていない。

だというのに鱗が複数枚軋み、ヒビが入った。

もしも直撃していたらオルムの身体は粉々になっていたかもしれない。

 

 

 

 

 

更に更に加速し消える。

既に時空が歪むレベルで加速し続けるソレは正しく銀の流星だ。

ほんの1秒であっという間に再現体は天の川銀河を飛び出し銀河間空間のいずこかへと消えて行ってしまった。

 

 

 

 

 

これで多少の猶予は───。

 

 

 

 

オルムが銀河の外にまで加速して消えていく吸血姫を見やり、意識をセト級へと移した瞬間。

彼の視界には無数の光が映った。

方々に散り散りになったオルムのブレスを重力で絡めとったセト級がスイングバイの応用で投げ返してきたのだ。

 

 

 

『ぐぅぅぅっ!!』

 

 

 

 

飛来する何十もの光の槍が月龍の身体に突き刺さり穴をあけていく。

苦痛で目を閉じたその一瞬、今までミズガルズを守る様に座していたエル級が座標移動を用いて消え去る。

そして蒼い恐竜は再び一瞬で戻ってくる。

 

 

 

200万光年ほど遥か彼方に消え去った筈の再現体と共に。

もちろん槍の切っ先をオルムに向けた状態で。

どんな速度でどんな場所に行こうとエル級は吸血姫を連れ戻せるのだ。

 

 

 

 

 

龍が眼を見開く。

馬鹿な、バカな、ばかな。

 

 

 

 

ERROR ERROR ERROR

 

 

over over

 

 

 

閃光や爆音はなかった。

そんな生ぬるい事ではこれは表現できない。

 

 

 

速力が高い程に攻撃力を上昇させる装備とアリストテレスの用いた背面移動。

更には多数のバフを乗せられたほんの刃渡り30センチ程度の槍の先端。

それがミズガルズオルムの12300キロの巨躯にふれた結果───。

 

 

 

 

余りの破壊力にオルムの姿がブレる。

ザザザザとノイズが走りミズガルズの法則は彼が受けなくてはいけないダメージを処理し続ける。

世界の全てが軋み、ミズガルズを運営する歯車が歪んだ。

 

 

 

彼が受けたダメージは……表記するのも躊躇われる程に陳腐な数字の羅列だった。

十回、二十回死んだ程度では到底賄えない程の。

 

 

 

 

世界にその数値と相応しい表現が落とし込まれた結果、蒸発である。

破片さえ残らない程に巨大な世界蛇は吹き飛んだ。

頭部の一部だけが勢いよく回転しながらセトの重力波によって太陽への突入軌道を取らされる。

 

 

 

一瞬で重力で潰さないのは温情か、はたまたゆっくりと迫り来る死を味わわせようという嗜虐か。

 

 

 

魔神王は猛烈な熱を覚えながら頭だけで震えた。

肉体などとうに超越した龍である彼は例えこのまま恒星に叩き落されようと本来ならば死ぬことはない筈だが……。

全体の98%を失った状態で太陽フレアに呑まれればさすがに死ぬだろう。

 

 

 

いや、破壊の連鎖が頭部にまで迫り来るのを防げない以上はもう終わりか。

彼は死ぬのだ、ここで。

 

 

しかし彼は思考を止められない。

頭になっただけでもある程度は生きていけるのだ。

しかしそれで何が出来る?

 

 

 

 

 

『ぉぉォォ……』

 

 

 

もはや力なく鳴く事しか蛇には出来ない。

とんでもない番狂わせが起きている事を理解しながらもそれだけが彼に出来る全てだ。

 

 

 

 

滅びゆく中、脳裏をよぎるのは今まで殺し続けてきた勇者たち。

……そもそも発端は何だったか、今更になって彼は思い返す。

 

 

 

判った。それで平和が手に入るのならば、私の身など惜しくはない。

 

 

 

 

新緑の髪を揺らした一人の青年がいた。

彼こそ天翼族の理想郷が崩落し、散り散りになった人々を再び一つに纏め上げた人類文明の祖。

 

 

 

『アイネイアース…………』

 

 

 

必死の思いで文明を再建した当時であったが、それでも女神の怒りは収まっていなかったのだ。

アロヴィナスからすれば自分の愛を否定し、挙句には自分が作ってやった世界に勝手に文明を作り出したのだ。

本来ならば喜ばしい事だったのかもしれないが当時の彼女は機嫌が悪く、それさえも許せなかった。

 

 

どうして判らないのですか?

私の愛を。私の想いを。

私は貴方達に幸せになってほしいだけなのに!

 

 

 

それが押し付けであると彼女は判らない。

己が傲慢である事にさえアロヴィナスは気づけないのだ。

だって生まれた時からずっと一人で誰かと意見を交わした事も、話し合った事さえないのだから。

 

 

 

 

 

アイネイアースは女神に嘆願した。

どうかこの命を捧げる故に子らを殺さないでくれと。

その献身と美しい自己犠牲に何とか怒りを飲み込んだアロヴィナスはこう考えた。

 

 

 

 

素晴らしい献身の心です。

ならば相応しい舞台を整えてあげましょう。

 

 

 

そうして女神は人類への攻撃を始めた。

魔神族のはじまりの名前はただ「敵」とだけ名付けられ、それは今よりも荒々しく、無慈悲に、人類を殺し続けた。

殺して殺して、もう人類は駄目だと誰もが諦めて絶望に屈しかけた時、オルムとアイネイアースは茶番を行う。

 

 

 

相打ちに見せかけた結果の決まりきったお遊戯。

アイネイアースには勝利など最初からなく、彼は全てを了承してあの寸劇を行った。

自分の死を以て人類がかつて女神に対して犯した罪は清算されるのだと心から信じて。

 

 

 

……本当はこれだけの筈だったのだ。

今の様に何度も何度も続けるつもりなどそれこそ女神にさえなかった。

 

 

 

 

相打ち。

共に消え去る世界の敵と救世主。

人々は歓喜し、アイネイアースの犠牲に涙し、明日を生きれる事に心から感謝を捧げた。

 

 

 

女神はソレを見て────心から感じ入った。

自分で作った脚本、自分で配置した役者。

それらが演じたのは最初から結末の決まった猿芝居。

 

 

 

 

しかしアイネイアースの必死の念がこの三流脚本に一流の熱を吹き込んでしまった。

三流脚本家に自分は一流なのだと誤認させるほどの熱を。

 

 

 

 

彼女は涙を流しながら惜しみない拍手をアイネイアースに送り続けた。

そしてこう考えた。

 

 

 

 

素晴らしい!

なんて美しいのでしょうか!

 

 

 

 

そうです、そうなのですね!

あの子供の様に!!

ただ幸福なだけではダメなのです!!

 

 

 

愛する子らよ、私の愛する人たちよ。

心から貴方達の幸せを私は願います。

しかしそれは貴方達を甘やかすことを意味するのではありません。

 

 

 

だから。もっとこの美しい光景を見たい。

 

 

 

貴方の大切なモノを教えてください。

それを私は奪わなくてはなりません。

 

 

 

貴方の弱点を教えてください。

私が貴方を攻撃するために。

 

 

 

貴方の夢を教えてください。

私はそれを砕きましょう。

 

 

 

だけど大丈夫。

絶望を乗り越えた先の幸せは何よりも輝き美しいのだと私が保障します。

 

 

 

 

終わる筈だった。

この一回だけの筈だった。

しかしアイネイアースが見せた人の輝きがアロヴィナスの判断を変えさせてしまった。

 

 

 

こうして数万年以上にわたり続くことになる生贄の儀が始まる。

 

 

 

 

私が貴方達を絶望させましょう。

決して越えられないと思える程の苦痛と試練を与えましょう。

死んで、苦しんで、のたうち回った果てに幸せはきっと貴方の所に降りてくるでしょう。

 

 

 

 

だから人よ、絶望してください。

未来にある希望の為に今日を絶望の中で過ごしてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてオルム。

まだ貴方の役目は終わっていませんよ?

 

 

 




「ここまでやっていいのか?」と思い原作を見返すたびに問題ないなとなる女神さまはマジで便利です。これには竜王もにっこり。


そして暑さの為になかなか思い通りに執筆が進みません。
来週分は何とかできそうですが、再来週の更新は難しいかもしれません。
申し訳ありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。