ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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このお話の連載もついに4年目突入となりました。
これからも頑張って完結を目指していきます。


今回もまたプランのガバ話となります。
主人公は心から敬意をもって命名しました。




オルム  状態異常 “癌”

 

 

“ガン”

またの名を悪性新生物。

本来ならば分裂と死を繰り返す細胞がバグを引き起こし死ぬことがなくなった存在。

 

 

 

不死といえば聞こえはいいだろうがその実態はおぞましいの一言に尽きる。

無秩序に増殖と転移を繰り返し、宿主の栄養を強奪し、正常な臓器の機能を停止させて最終的には死に至るのだ。

 

 

 

 

────しかし、とアリストテレス卿は考えた。

 

 

 

ミズガルズは女神が作り上げた魔法だ。

そしてそんなミズガルズを内包する極点もまた女神の一部だ。

平たく言ってしまえば極点も含めた森羅万象は女神アロヴィナスの身体の一部と言っていい。

 

 

 

厳密には違うだろうがそれでも極点という椅子とアロヴィナス神は相互に深く結びついているのは間違いない。

 

 

 

そしてマナ。

勇者の出身世界には存在しないらしいが、この世界には溢れかえっている。

それも姿かたちを変え絶えず巡回し続けている。

 

 

 

その流転がウルズの泉を作り上げ惑星の生態系を創造したのだ。

この世の全てにはアロヴィナス神の影響が多かれ少なかれ宿っている。

言ってしまえば魔物だけではなくプランもルファスも、誰も彼もが女神の子といえる。

 

 

 

全てを辿っていけば最後は彼女にたどり着くのだから。

故に神羅全てをアロヴィナスという一つの生命という視点でアリストテレスは捉えた。

御座に座る彼女を源流とし極点は肉体、ミズガルズも含めた世界はそれぞれの細胞、その中を駆け巡るマナを栄養素と。

 

 

 

 

 

マナとは女神の力の一欠けらだ。

本当に小さな小さな総体からすれば素粒子一粒にも満たないモノではあるが、間違いなくアロヴィナスの一部だ。

女神の全体はそれこそ無限という言葉さえ陳腐に思える程に巨大だが───それでも分母は何処かにある。

 

 

 

不可説の先かもしれないし、人類では表現できる領域ではないかもしれないが確かに在る。

 

 

 

だからプラン・アリストテレスは一つの設計図を描いた。

生物と魔物を知り、ルファスやベネトナシュ、アイゴケロスという特異を知り、マナを知る彼だからこそ浮かんだ発想だ。

 

 

 

先ずこの宇宙を一つの生物と仮定し、そこに溢れるマナを細胞と定義する。

そして抽出したマナに手を加えて、周囲にその特性を無秩序に複製し続ける状態に加工出来ないか、と。

簡単に言えばマナをガン化させられないかという考えだった。

 

 

 

先ず前提としてマナは情報を記録できる。つまり因子を書き込める。

人格などの記憶を保持できるからこそ魔神族には自我のようなものがあるのだ。

これを用いれば───本人はやる気はなかったが───高濃度のマナ結晶に人格を複製することだって可能だろう。

 

 

 

皮肉なことにこの設計は非常に上手くいった。

何せ自分自身が癌に侵され、それがどのようなモノなのかを体験できたのだから。

ルファスには決して言わないが当時の彼は己の状態さえ一種の実験体として見ていたのだ。

 

 

 

竜王を確実に殺す為の兵器は何時しかその先にいる極点を壊すためのモノへと変わった。

これは彼が纏う天力を糧に増えるのだ、もしも気づかず何も考えないで極点から力を引き出せばその瞬間に終わりとなる。

そして極点から力を引き出せるのなら、こちらからも向こうに何かを送れるということなのだ。

 

 

 

 

出来たのは物質非物質であるかは関係なく、本当の意味ですべてに己を転写し続ける人の手による絶対存在だ。

マナのない世界でも問題なく活動可能で、むしろ活性化するまである怪物。

これこそ生体物理学、遺伝子工学、マナ学までも応用して合成したアリストテレスの傑作。

 

 

 

 

“極点攻撃兵器”

 

 

 

傑作には相応しい名前が必要だ。

故にプランは己が思う最も強い人物の名をコレに与えた。

ある世界において古代の学者はこの病を外側から見てこう評したとされる。

 

 

 

きしくもその二つは()()()()を持っている。

 

 

 

“キャンサー”

又の名を【カルキノス】と。

 

 

 

つまりこの究極兵器はこう呼ばれる。

 

 

 

【マナ・キャンサー(カルキノス)】と。

 

 

 

そう、プランが考える最も強い存在とはアロヴィナスでも自分でもなくカルキノスだ。

最後の日、ともすれば彼と出会ったのは人生で最もよかったことかもしれないという考えに間違いはない。

 

 

 

全てを終わらせかねない兵器に親友の名をつけるなど正気ではないが、アリストテレスからすればこれは当たり前の話だった。

優れた存在に優れた名前をつける、それの何処に問題がある?

 

 

 

本来ならば竜王を葬る筈だった兵器は間に合わず誰も完成まで仕上げられずに眠り続ける筈だった。

しかし人類を守るという役割は今だ健在であり、その為に動き出したのだ。

今だ未完成であり癌としての機能はコレの持つ力のほんの一欠けらでしかない。

 

 

しかし龍程度ならば問題はなかった。

 

 

 

人類の敵たる竜王、ひいてはその先に居るアロヴィナスを極点もろとも葬る為の兵器。

全ては人類に仇なす全てを排除するために、彼女が戦わなくても良くするために。

人類を守るためにそれ以外を全て消すアリストテレスの狂気とプランの嫌悪の権化がマナ・キャンサーであった。

 

 

 

 

 

 

 

再現体が自分に向けて何かを投げつけたことまでは月龍は判っていた。

しかしダメージも何もなく痛みも皆無であった故に何の警戒もしていなかった。

試しに己のステータスを開き見てみるがやはり何も表記されていない。

 

 

 

ここまで散々に暴れ回った兵器群が無駄な事をするとは思えないがその正体がつかめない。

そうしている間にも彼の体内では循環する天力を餌に通常の何万倍の速度でソレは広がり続ける。

 

 

 

────増殖開始。

 

 

────天力の汚染を開始。

 

 

 

 

(なんだ)

 

 

オルムは自分が何をされたか判らなかった。

彼は完全な存在であり病の事など知らない。

誕生から今まで状態異常にかかったことなど勿論ない。

 

 

 

───循環系の転移開始。

 

 

 

そもそも彼は長い年月を生きているが癌という概念を知らない。

知っていたとしても自分がソレに掛かるなど想像の範囲外だ。

自分は大丈夫というミズガルズに跋扈する強者に通じる陥穽。

 

 

彼もまた等しくそれを患っている。

 

 

 

先にオルムが宣言した通り既に勝敗は決まっているが、経過観察を行うために再現体が動く。

具体的にはもう少しだけ戦闘を継続し情報を収集するために。

同時にこのとてつもなく巨大な化け物をどう活用してやろうかという思惑も動き続ける。

 

 

 

『何をするつもりかは判らぬが……失敗したようだな』

 

 

 

 

「……………」

 

 

 

蒼い瞳には何の感情もない。

どうせ知った所でどうしようもないのだから。

仮にこの蛇が医学を基礎からしっかり学んでいれば汚染された部分を自分で千切り捨てるという対策も出来ただろうがもう遅い。

 

 

 

【観察眼】で見れば龍の中で方々に転移を開始した癌が見える。

どうやら体内を巡るマナの流れに乗ったらしくもう止まらない。

 

 

 

 

龍という生命体を模した上質な魔法の中でも循環系は在る。

血液に似たソレは実際は栄養ではなくマナを全身に行き渡らせる為の器官だ。

アロヴィナスは生命を理解できないが、どうやらそれらしく模倣すること位は出来たらしい。

 

 

 

つまり体躯こそ類を見ない程に巨大ではあるが龍の内部構造も実体を持つ魔物や竜、もっと言えば蛇と大して変わらない。

更に好都合な事に龍には癌を抑制し駆除するための免疫機構は存在していないらしい。

存在しないモノを前提とした免疫など在る筈も無し。

 

 

 

 

チッチッチッ。

 

 

 

人差し指を立て、再現体は舌を鳴らして指を左右に振る。

明らかな挑発に月龍の目は細くなり、その奥に座する女神は歯ぎしりした。

創世記よりここまで女神を侮り挑発する存在など居なかった故に彼女は苛立つ。

 

 

 

 

産まれた時から誰とも交流などしたことがない女神に忍耐などという概念はない。

ただ彼女は更に膨大な量の加護を月龍に流し込み、何としてもアレを殺せと命令を下す。

それがどんな結果になるかなど彼女は知る由もない。

 

 

 

 

貴方たちは必要ないんですよ。

私の世界にあるシミ、それが貴方方です。

完璧に整えたベッドのシーツ。それを土足で踏みにじられた様な気分です。

 

 

 

 

ピピッと女神はミズガルズに念を送り込んだ後に月龍に指示を下す。

どうやら起きかけているらしい。

完全な起床は許されないが、端末くらいならば許してやろう。

 

 

 

そしてアレを使えとアロヴィナスは命ずる。

それが何であれオルムはただ従う。

 

 

 

全ては必然。

神の定めたとおりに動く自分が負ける訳などないのだ。

今までも、これからも、神の台本は例えそれがどれほどに悪辣だろうと遂行される。

 

 

 

月龍はとぐろを巻き敵対者を囲む。

1万キロを越える怪物が周囲を取り囲む光景は想像を絶する圧がある。

そのまま己の尾に噛みつき、無限に循環/回転を開始。

 

 

 

 

回る回る。

ひたすらに速度を上げ続ける。

これこそ月龍の持つ最大最強の奥義。

 

 

名は同じだが龍ならばそれぞれこの名を冠する力を所持している。

 

 

 

【循環する世界】

 

 

 

オルムが囲んだ空間を外界より隔離し超加速させる最強のスキルだ。

この世で最も強い破壊力を誇る武器、即ち時間経過による風化を相手に押し付ける能力だ。

かつてディーナがメリディアナに行った時間加速、その範囲と出力を強化させた能力である。

 

 

数万年、数億年の年月を浴びればどんな生物であろうと死ぬ。

更に加速させれば星さえも燃え尽きるだろう。

 

 

 

 

吸血姫は両手の指を大きく広げ、そこに黒い光──魔王の因子を得た事で扱える【デネブ・アルゲティ】が集った。

セト級は両手にマイクロブラックホールを複数生成し周囲にばら撒く。

展開された事象の地平が時間の速度を歪め、更にそれはクロノスに接続されていく。

 

 

 

エル級は星を背後に待機しその視線を真横に向けた。

ジジジと空間に解れが生まれ、この世で誰よりも強い存在がそこから現れる。

 

 

 

 

輝く金糸。

深紅の瞳。

身に宿すのは本来神でしか扱えない純粋なる“力”である。

 

 

 

彼女こそ小さな女神にして神に至る器を持つアリストテレスの正統なる後継者、覇王ルファス・マファール。

 

 

 

世界が軋む。

加速し続ける時空間が余りにマナ的な意味で重い存在を許容できず加速が遅延する。

 

 

 

一対の翼は宙よりも深き暗黒色。

超速で循環するオルムが思わず彼女を見てしまう程の華がある。

人類の美醜など興味もない彼だったが“美”というのはああいう者の事を言うのだなと思う程に。

 

 

 

 

「派手にやっているな。しかし時間を掛け過ぎだ」

 

 

 

覇王の視線はオルムを見て、その奥に居る神へと移った後に次いでミズガルズへと変わった。

彼女も時間加速の影響範囲内に在る筈だというのにその身に変化は何一つない。

 

 

 

幾度も回転を重ねながらオルムは疑問に思う。

何故だ?

何故こいつらは時間加速に巻き込まれているというのに死なない?

 

 

 

龍の内心を読んだようにルファスが言う。

彼女は変わらずその視線をミズガルズに向けつつ、つまらなさそうに答えた。

天文学を深く修めたルファスにとって暗黒天体の傍では諸々の法則が狂うなど常識だった。

 

 

 

 

「重力だ。極まったソレは時空を歪め、時間の進みさえも乱す」

 

 

 

そして【クロノス】という周囲の時間にデバフをかける装備品。

全てにおいて徹底的にオルムの能力にメタを張った構成としかいいようがない。

 

 

 

セト級はつまらなさげにこの長い年月を生きた筈なのに知識を蓄える事を疎かにした蛇を見ている。

5つのサポート端末が念力で重力のベクトルをつかみ取り、ミズガルズに何の影響も与えない様に制御していた。

その上で兵器群と覇王は事象の特異点の上で平然と佇んでいた。

 

 

 

 

複数展開された暗黒天体がそれぞれの重力を完全に制御した上で時空を逆転させている。

更にソレに加えてクロノスの世界の時の流れにデバフを与える能力を用いて完全に循環する世界を相殺しているのだ。

 

 

 

 

 

あぁ。丁度いいですね。彼女も一緒に倒してください。

出来れば生け捕りでお願いします。

今はアレが欲しいんですよ。

 

 

 

 

 

女神は変わらない。

力を通して無茶としかいいようがない指示をオルムに送る。

出来るかどうかではない、やるのだと。

 

 

しかしアロヴィナスは少なくとも自分は理想的な支配者であると考えている。

指示を増やしたのだからちゃんとそれなりの手数も増やすくらいの温情はあった。

目的達成の為の増援もしっかりと彼女なりに考えてはいた。

 

 

 

薄目を開けてこっちを見ている者がいたことくらいは判る。

起きるのはさすがに許さないが、アレくらいならばいいだろう。

 

 

 

龍たちにも女神は力を送り込む。

覚醒には至らせないが、その権能の一部を掌握しそこに力を流し込む。

 

 

 

人格───不要。

造形───不要。

能力値──最大値を設定。

 

 

 

 

ミズガルズが揺れる。

どの国のどの場所に居ても聞こえてしまうおぞましいうなり声が木霊した。

地響きにも似たソレは大地の中で共振し星を揺らす。

 

 

 

 

惑星と同化して微睡んでいた龍たちが活性化し本当に小さな吐息を漏らしたのだ。

 

 

 

地面の奥底から莫大なマナが噴き出る。

幾つかの火山が噴火し、大地は隆起し、光の森は過去に例をみない程に輝きを放ちながら揺れた。

特にヴァナヘイムの混乱は凄まじかった、何せ休火山だったはずなのに火口からとんでもない量のマナが吐き出されたのだから。

 

 

 

龍たちは揃って一つの術を発動する。

ソレを見て思わずルファスが小さく舌打ちをして眉を顰める。

お前たちは今、何を向けられているのか判っているのか?

 

 

 

マナに転写するガンを相手にマナの塊を出す。

とんでもない行為だ。

自殺という言葉さえ陳腐になるほどの滑稽さ。

 

 

 

正に火に油を注ぐような行い。

女神アロヴィナスは力こそ本物ではあるが決して賢明ではないという証拠。

 

 

 

 

【アバター】

 

 

 

ただ戦闘に特化された使い捨ての軍団が生成される。

魔神族よりも高純度で高性能、それでいて余計な自我などもない。

ポルクスの様な悩みもなくただ一つの目的の為に彼らは産まれ、使い捨てられる。

 

 

 

アルゴナウタイより単調ではあるがその数は無尽蔵。

女神の力を以てすればレベル1000の軍団はこれほどまでに簡単に作れる。

 

 

敵を排除しルファスを捕まえる。

女神の意向を矛盾なく実現し、ソレが終ったら消える。

道具に心など必要ない。個性など論外だ。

 

 

 

 

彼らには顔も何もない。

ただ人間の姿をしたマナの塊である。

それぞれのマナの属性に応じて色こそ違えどそれ以外は何の差異もなかった。

 

 

 

光を塗り固めて人の姿にしただけの木偶。

龍という端末から作り出されたとは思えない程に酷い出来栄えの者らだ。

そんな新しい標的を前に再現体が動こうとするが、その行く先を真っ黒な翼が遮った。

 

 

ルファスは感情を感じさせない声で再現体に、ひいてはその向こうで聞いているであろう者達に声をかける。

これ以上アレを感染させない為にキャンサーに気付いていないフリをしつつ彼女が食いつくであろう話題で揺さぶりをかけた。

 

 

 

「其方らの相手は向こうだ」

 

 

 

視線でオルムを示す。

スキルに意味はないと悟った彼は徐々に回転の速度を落とし始めていた。

もう間もなくで【循環する世界】は停止し第二ラウンドが始まる事だろう。

 

 

 

ルファスの瞳には彼の中で増え続ける悪性新生物が見えてしまっており、これからどうなるかの予想がついてしまったせいで哀れみさえ抱いていた。

そしてもう一人の人物にも同じく憐憫を宿した声で言う。

ミズガルズでは珍しくもなく、彼女が守りたかった人々が辿ってしまった成れの果てを諭す様に。

 

 

「復讐なのだろう?」

 

 

 

……………………………。

 

 

 

 

空気が微かに震える。

兵器群では決して放てない生の人間の葛藤の感情。

ディーナに対する所行を見るに間違いなく根底にあるソレが刺激され葛藤しているのが見て取れる。

 

 

 

報復心。

どう取り繕おうとしても魔女の根底にはそれがある。

普段ならば厳重に抑え込んでいるソレはあのゴミ捨て場の屍の山とオルム本人を見てしまったせいで大いに刺激されたようだ。

 

 

 

ラードゥンが消えその所行も過去になりつつある今、ミズガルズで最も憎悪されている存在は魔神王オルムだ。

魔神族という理由なき人類の敵を世界中にばら撒き幾度も幾度も復活を繰り返しそのたびに勇者を犠牲にしてきた絶対悪。

たとえその正体が女神の操り人形に過ぎなかったとしても、余りに遠くに居る女神よりは身近で何より彼は殴る事が出来る。

 

 

 

「…………」

 

 

アバターの軍団とオルム。

視線を双方に行き来させた彼女はやがて踵を返しオルムを痛めつける為にエル級とセト級を伴って動き出す。

【一致団結】を経由してとんでもない感情の波のやり取りがあったのは想像に容易い。

 

 

 

彼女の想いは一つ。

殺しはしない。

たっぷりと魔神王陛下にはアリストテレスの傑作を味わってもらおうか。

 

 

魔神王が苦しむところをみたい。

突き詰めてしまえば彼女たちの願いはそれだった。

散々に人々を虐殺したのだ、これくらいはむしろ有情とさえ考えていた。

 

 

 

兵器群としてもこの意向に問題はない。

龍と言うミズガルズで最も女神に近い存在に対して【マナ・キャンサー】がどの様な効果を齎すかのデータが欲しいからだ。

既に計画は仕上げの段階に入っており、こんなまたともない機会を逃す訳にはいかない。

 

 

 

 

アバターが動く。

顔も何もないというのに明らかに動きが違う個体が複数混ざっていた。

「日」属性で構築されたソレは陽光を塗り固めた人型であり、大本はヴァナヘイムの山頂で眠る日龍である。

 

 

 

それらが我さきにとルファス目掛けてとびかかる。

レベル1000の個体が複数、それも龍の化身と言う埒外。

武器などはないが、この域になれば拳を振るうだけで天変地異を引き起こせる。

 

 

そんな個体が女神の力と言う最大級のバフをかけて殴りかかってくるのだ。

かつての勇者ナナコであっても捌くのは困難と言える猛攻は揃った十二星天でさえ苦戦するやもしれない域にある。

 

 

 

だが。

 

 

 

“遅い”

 

 

 

覇王の前ではたった一言で評される。

余りに鈍い。それに技術もない。

動かしてるのが誰であるにせよ龍も女神も戦術など考えた事もないだろうからこれは当然であった。

 

 

 

先に見た真なる吸血姫とその贋作。

彼女たちの叩きだす速力とは比べ物にならない。

 

 

故にルファスはリーブスラシルを抜く事もない。

ピィンと軽く“力”を込めて指で最も我先にと突っ込んできた個体を弾く。

 

 

 

 

『っッ!!!???』

 

 

 

 

ちょんっと弾かれた個体はグルグルと超速で回転しながら吹き飛ぶ。

次々と仲間を巻き込み粉々に粉砕しながらミズガルズにマナの雨を降らし続ける。

余りの脆さにルファスは瞬きさえせずそれを見送った。

 

 

 

うっかりミズガルズに拳圧を撃ち込むわけにもいかないルファスは極限まで手加減をせざるを得ない。

 

 

 

鬱陶しい者らを始末するために指先に軽く魔力を込めて弾く。

ギャンブラーがコインを投擲する様に彼女は超高密度に魔力を圧縮しトスした。

それは狙いたがわず次々とアバターたちに着弾しいっそ面白い程にその身を砕いていく。

 

 

 

ルファスの放った魔力弾が命中したアバターはまるでクッキーの様に粉々に粉砕されているのだ。

何もしらない者が見れば彼らが弱いからこうなっているのだと思うかもしれないがそれはとんでもない誤解。

あえて言うまでもないが彼らは十分に強い。龍の化身の名に恥じない力をもっている。

 

 

しかしルファス・マファールを相手にするには余りに弱いだけだ。

そして彼女からすればこの程度は拳を振るうまでもない些事である。

 

 

 

数ナノ秒にも満たない時間に行われた斉射によってアバターたちはほぼ全てが弾き飛び、残った者らは遠目からじっとルファスを見つめている。

感情も何もないただの人形たちでさえ覇王の脅威を目の当たりにしたじろいでいた。

神の命令は絶対、しかしそれを上回る程の感情を彼らは感じつつある。

 

 

 

だが、例外がいた。

ある個体だけは勢いよく臆する様子も見せずルファスに挑みかかった。

陽光の様な色彩をした個体がルファスに殴りかかる。

 

 

決して破れかぶれなどではなく己の意思で彼は覇王に挑んだのだ。

先とは違う確かな技術の籠った拳をルファスは人差し指で軽く受け止め、再び指先でつつけばまたもやアバターは粉々に消し飛んだ。

 

 

 

 

だが次が来る。

同じ「日」属性のアバターだ。

さっきとは違う個体だというのに先と全く変わらないどころか更に増した戦意を滾らせている。

 

 

 

『───────』

 

 

 

「日」属性のアバターには目も鼻もないというのに彼は全身から歓喜を発している。

他の者と違い明らかな確固たる自我を宿した気配にルファスは試しに声をかけてみることにした。

見るにマナが他の個体と違って大きく揺らいでいるのもそれを一助する。

 

 

 

 

「其方は随分と毛色が違うな」

 

 

 

 

『──────!!』

 

 

 

 

正にニタァという擬音が相応しい。

もしも顔が有れば壮絶な笑みを浮かべていただろう。

マナが激しく揺れる。

言葉こそアバターは喋れないが、彼を構築するマナ、そこに宿る感情/意思をルファスは読み取れた。

 

 

 

 

素晴らしい。

ここまでの強さを矮小な人の身で得るとは。

本体で相対出来ないのが口惜しいぞ。

 

 

 

一言でいえば戦闘狂。

乾き切った戦いへの限りなき欲求。

ルファスも覚えがあるソレが流れ込んでくる。

 

 

どうやら龍にも色々あるらしい。

大本たる龍の思考を読み取り、マナの流れからそれが何処にいるかを探知したルファスの背で翼が音を立てて軋む。

 

 

 

ヴァナヘイム。

 

 

 

思い出したくもない単語を見つけてしまいルファスの顔は正しく無を体現するモノとなった。

この馬鹿騒ぎはさっさと終わらせ、あの怪物の分析を早急に行う。

そう決めて覇王は拳を握りしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、もう一つの戦場においてオルムは───地獄を追体験していた。

月龍ミズガルズオルムの零落の時である。

 

 

 





  ヨシッ!


( ˙꒳˙ )و ̑̑ グッ  ←我ながら良い命名をしたなと満足するプラン。
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