ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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PV2が公開され、何とゲームまで発表されましたね。
10月が早く来ないかなと今から楽しみです。



そして今話では原作キャラがひどい目に合う描写があるので注意。
遂に彼女の活躍シーンを書ける……。


オルムは理解できない

 

 

肉が蠢く。

龍の肉体に幾つも水ぶくれが現れ、受信した情報を元に壮絶な悪意をオルムの脳髄に直接送りこみ続ける。

末期に至った癌は決して寄生対象を死なせることはなく、その無尽蔵の生命力を媒介に変異と進化を行い続けた。

 

 

 

手足の形が歪んでいく。

膨張する肉塊が着実に龍の形を変貌/変異させ永遠の責め苦を与える。

ソドムの被害者たちと“一致団結”しソレは彼らの思念を永遠に受け取りオルムに与えていた。

 

 

 

 

膨大で途方もない憎悪が【マナ・キャンサー】経由で龍の思考回路に叩き込まれる。

 

 

 

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 

 

 

斬死圧死爆死溺死頓死転落死墜死轢死狂死

 

 

 

ソドムで魔神族が人類に行った殺傷のレパートリーはまだまだいっぱいある。

その全てが送り返される。

死なない龍は死の苦しみを追体験しながら細胞が別物に置き換えられる苦痛を注がれていた。

 

 

 

 

苦しめ。

絶望しろ。

お前も失え。

 

 

 

死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 

 

 

 

むき出しの悪意と拒絶と憤怒。

ミズガルズに渦巻くあらゆる負の感情の濁流を流し込まれながらオルムは小さな疑問を抱いていた。

本当に心の底から、挑発でも何でもなく判らない。

 

 

 

何故私はこれほどまでに憎悪されている?

 

 

何ともふざけた話であるが彼は本気だった。

 

 

 

彼は龍だ。

概念が形をもった存在と言っていい。

老いも病もなく、怪我さえ負わない。

 

 

 

仮に損傷を受けてもミズガルズがある限り即座に再生する。

龍とは世界に組み込まれたシステムである故に死と言う概念はない。

故に死ぬということがどういうことか判らない。

 

 

 

だから彼は今まで共感などしてこなかった。

魔神族に悪魔に怪物に、人類の敵を統率し億を超える屍を築き上げながら何とも思ったことなどない。

好む好まないの問題ではない、彼は虐殺に何も感じない。

 

 

 

人類に命乞いされようと、諦めて受け入れようとオルムにとっては変わらない。

アロヴィナス神がそうしろというから絶望させ、女神が望むから殺す。

そこに彼の感情が入る余地はなく、好悪など存在しない。

 

 

 

だから全く判らない。

 

 

 

何故彼らはこれほどまでに私を苦しめようとしている?

たかが拷問された程度で。

たかが誰かを殺された位で。

 

 

 

自分が死んでないのだからいいじゃないか。

命を拾ったのだから女神に感謝して自分の番を伏して待てばいいだけなのに。

 

 

 

彼にとって女神とは絶対の神だ。

己の親であり世界の創造主であり運営者でもある。

アロヴィナス神に逆らうという発想がまず彼にはない。

 

 

オルムにとって人類が苦しみ絶望するのは当たり前のことなのだ。

だって女神が、この世界の支配者がそう決めているのだから。

それに異論を唱える等は理解の外であった。

 

 

 

魔神王として、悪魔王として、それ以外にも多々の名を持ちミズガルズの敵として君臨していた彼は激痛に苛まれながら答えの出ない難題に頭を狂わせていた。

 

 

 

何故彼らはここまで苦しんでいる?

 

 

 

手足を切られて痛い?

ならばさっさと死ねばいい。

この世界にはヴァルハラという魂の循環システムがあるのだから来世に速やかに移動すればいいのに。

 

 

 

どうしてそこまで生に拘る?

 

 

人類など何百万もいるのだ。

お前の代わりなど幾らでもいる。

代わりが多くあるということは単体の価値が低い事だ。

 

 

 

なのにどうして価値のないお前たちはそこまで自分の存続に拘る?

 

 

 

答えのない疑問に龍は焼かれながらその身を壊されていく。

臓器に、血管に、体内を循環するマナに【マナ・キャンサー】は己を転写し浸食を行い続けた上で手に入った情報をアリストテレスに送り続ける。

魔神族から得た知見をもとにそれらを整理し龍という魔法を迅速に解析している。

 

 

 

 

更に複製/増殖の速度を増した【マナ・キャンサー】がオルムの肉体を蝕んでいく。

もちろん途方もない激痛は減ることなくむしろ激しくなり続ける。

 

 

 

再現体が顔を顰める。

隠し切れない嫌悪がそこにある。

オルムの身体を構築するマナを癌に置換した結果として魔女はこれが今何を思っているか受信したのだろうか。

 

 

 

こいつの思考は何処までいっても大本と同じだ。

まだ己が邪悪だと自覚していた分ラードゥンの方が潔い。

 

 

 

「クソが」

 

 

 

取り繕いなどない暴言を吐き捨てる。

ここまでやられてなお自分が今まで何をしてきたか判ってないらしい。

しかし彼女たちはいちいちソレを説明してやるつもりなどなかった。

 

 

 

 

ただ暴力を返すだけだ。

オルムの顔面を勢いよく蹴り上げる。

バキバキと歯が何本も砕け、顔の形が変わった。

 

 

 

 

「がっ、ぁぁ!!」

 

 

 

重力の薄い地のせいか緩やかに跳ねていく彼に再現体は追いつき更に追撃を行う。

 

 

 

拳を振るう。

スキルや天法も乗せられていないがそれよりも濃い感情を込めた一撃。

ソレはオルムの肋骨の大半をへし折り肺を潰す。

 

 

 

地面に叩きつければ衛星全体にヒビが走り崩壊していく。

ミズガルズで放たれれば惑星の形が変わる一撃だった。

 

 

 

しかし死ねない。

ミズガルズのバックアップが発生し彼の命をつなぎとめる。

当然流れ込んでくるソレを糧にガンは活性化し彼の肉体が更にむごたらしい変貌を遂げた。

 

 

 

「おぉ! 前より立派になられましたな!!」

 

 

 

ハハハハハと肩を揺らして吸血姫の姿を着込んだ女が嘲笑う。

完成された完璧な生命を台無しにしてやっているという嗜虐が彼女を突き動かす。

良心の呵責も何も考えず絶対的な大義名分の下で暴力を振う事の何と甘美なことか。

 

 

 

 

左肩が巨大なコブの様に膨れあがる。

膿を垂らすソレは表面に黄色い血管の様な文様が入っており不気味に鼓動していた。

小さな切れ目がコブに入ったかと思えばソレは開かれ───蒼い目が現れた。

 

 

 

 

「─────」

 

 

 

悲鳴はない。

人も龍も変わらなかった。

想像を絶する事が起きればもはや恐怖さえ通り越すのだ。

 

 

 

己の肉体が不可逆的に作り替えられていくのを体感しながら彼には何も出来ない。

しかし彼の言を借りるとすれば死んでないのだから何の問題もない、となるだろう。

 

 

 

血走った瞳はじっと本体であるオルムを凝視している。

殺すなど生ぬるい。苦しめと視線で訴えかけながら。

 

 

 

(その目は何だ……?)

 

 

 

オルムは朦朧とする意識の中で思う。

こんな瞳は見た事がない。

いつだって彼の前に立ちふさがったのは光の象徴である勇者たちだった。

 

 

 

澄んでいて、力強くて、己の命より他者を気に掛ける美しい瞳しか彼は知らない。

 

 

ある勇者は語った。愛する者の為に負けないと。

何と美しい事か。

結局彼は勝てなかったが。

 

 

 

ミズガルズという異世界に連れてこられてもなお、世界の為の献身を捧げた生贄の瞳しか彼は見ない。

 

 

 

ある勇者は吠えた。

人々の平和の為にと。

永遠の平和などなく、そもそも勇者の行為全ては女神の助力があったからこそ成し遂げられたものだ。

 

 

 

 

ある勇者は憎悪した。

散々に人を使い潰しておきながら最後の最期に全て無駄だったと断言した女神とミズガルズそのものを。

かつての竜王による大災害は結局のところミズガルズの自業自得でしかなかったのだ。

 

 

 

 

挑んでくる光と正義の代表たちがそれぞれの信念を持ち、声高らかに何かを話しているのを彼は聞いていなかった。

彼にとって人類など虫のような存在であり虫がキーキー鳴いていようと興味など……。

 

 

 

「閃きましたぞ」

 

 

 

唐突に魔女が清々しい声音で声を上げる。

ニタァとベネトナシュの顔が彼女ではない笑みを浮かべた。

どうやってこのふざけた蜥蜴に絶望と苦痛を返してやろうか考えていた彼女たちは読み取ったオルムの情報を元に一つの単語を見つけ出す。

 

 

 

なるほど。

確かにアレとならば付き合いもながいだろう。

で、あればこの人形にとっても多少は感情移入した存在になるかもしれない。

 

 

 

既に覇王との対立は決定的。

確かにあの破格の能力は魅力的だが、やりようは幾らでもある。

 

 

 

 

「ポルクス」

 

 

 

その名前にオルムの顔が固まった。

確信を得たと言わんばかりに再現体の口角が吊り上がる。

常に歴史上で一対の存在だったのならば、勿論交流だってあるはずだという読みは正しかった。

 

 

 

アルゴナウタイの者達は何も思わなかったのだろうか?

全て茶番で、自分を殺した相手と騙した女が呑気に雑談なんてするところを見せられて。

きっと恐らく、そういうことを考える汚くて余計な部分は取り除かれているのだろう。

 

 

 

女神は綺麗な部分だけを抽出してアルゴナウタイを作ったはずだ。

では、汚い部分は…‥きっとゴミ箱にでも捨てられたのだろう。

 

 

 

「はははは、なるほど……魔神王陛下にも在るではありませんか」

 

 

 

「彼女は関係ない……!」

 

 

 

何万年生きてるのかは知らないが駆け引きも何も知らない様な初心な言葉と態度はますます嗜虐を加速させた。

今や彼女はルファスが配下に加えて保護しているが……何とか出来ないモノかと思わず考えてしまうほどに。

 

 

 

 

「関係ない? これはまた奇妙な事を仰る」

 

 

 

「陛下とアレは言わば共犯者ではございませんか」

 

 

 

何万年も何十万年も。

ソドムのソレが端数になるほどに屍を積み重ねてきた地獄の主演。

そんなことをしておきながら関係ない等と、笑える冗談でしかなかった。

 

 

 

 

遠くを一度見る。

そこから誰が自分を観測しているか彼女は理解しつつ口にした。

 

 

 

 

「妖精姫……奴を同じ目に合わせてやれば少しは判るかの?」

 

 

 

ポルクスをお前の前で穢してやる。

壊してやる。魔神族が人類にそうしているように。

彼女は暗にそう述べていた。

 

 

その光景を想像するだけで何故かオルムの思考は真っ赤になった。

人で言う所の怒りを感じた彼は咄嗟に叫ぼうとした。

 

 

 

「貴様っ……!」

 

 

だが。

 

 

そのまま勢いのままに何かを叫ぼうとした男の口を吸血姫が掌で抑え込む。

掌に魔力が収束し魔法が発動の兆候を見せた。

何をするか察したオルムが自由に動く左手で再現体の腕を掴むがビクともしない。

 

 

 

右肩に現れた瞳が陶酔するように細められる。

男の焦りと絶望を心から堪能しているように。

 

 

 

蒼い瞳には無慈悲な悪意と嗜虐衝動が満ちていた。

心からこの行為を彼女たちは楽しんでいる。

キィィィィンと甲高い音と共に無慈悲に魔法が放たれた。

 

 

 

【ルナ・ショット】

 

 

 

 

最下級の「月」属性魔法。

月龍を相手にするには余りに心もとなくちっぽけなソレが魔神王の口内で乱射される。

連射性を重視されたソレはドドドドドドと容赦なく一匹の蛇を内部から蹂躙する。

 

 

 

「!!!」

 

 

 

「ははははははハハハハハ!!」

 

 

 

 

身体を跳ねさせ、手足を振り乱してオルムは暴れるが決して再現体は手を離さない。

己の手が焼けるのも構わず魔法の発動を続ける。

指が千切れたらむしろソレを喉奥に押し込んで嚥下させてやる。

 

 

 

歯と牙が折れ、舌ははじけ飛び、喉の奥を容赦なく抉る。

声帯は溶け落ち龍から会話という機能を奪い去っていく。

 

 

 

最後に念入りとして喉を潰してから吸血姫は人差し指を彼の前で立てて「シー」とやる。

如何にここが宇宙で周囲には誰も居ないとしてもうるさくするのはマナー違反だ。

それにもうこいつの悲鳴は聞き飽きた。

 

 

 

 

しかし……もう少しだけ。

もう少しだけ楽しんだら離してやろう。

まるで魔神族の様な顔と思考で魔女たちは動こうとし……。

 

 

 

 

「人の子よ、待ちなさい」

 

 

 

 

ここに居るのはあり得ない人物の声に動きを止めた。

一瞬だけ完全に再現体は硬直し、魔女はまさかそんな馬鹿なと思いながら振り返る。

 

 

あり得ない。

どうしてここにこいつがいる?

如何に最強の能力を持っていようとこいつそのものは無力だというのに。

 

 

 

本人もそれを良く判っているからこそ滅多に人前には出なかった。

どこぞの森の奥底で縮こまっていたのに、何故、いまさら?

 

 

 

ミシミシと骨が軋む。

再現体が拳を握りしめている。

 

 

 

 

───あたしはお前が何をしているのか知っているのだぞ?

 

 

 

 

よくもおめおめと出てこれたな。

あの人形と同じくルファス・マファールの庇護下に入って安心でも得たつもりか?

 

 

 

 

左右に英霊を控えさせ、結界に包まれて死の空間に対応したその人物──ポルクスは透徹した瞳で述べた。

世に伝わる光の代表として闇の王に裁きを下す様に。

それがどれほど魔女の逆鱗を軋ませるか知りつつ、あえて彼女は言うのだ。

 

 

 

「魔神王オルム。闇の魔神族を支配する人類の敵よ」

 

 

 

 

「貴方の最期を見届けに来ました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し戻る。

嬉々として魔女がオルムを嬲っている間の話だ。

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

ミズガルズと月の間、宙の空間でマナ・キャンサーを観測していたルファスであったが今の彼女は目の前に跪く部下を見つめていた。

呼んだ覚えもない十二星天。

確かに規格外の力を持っているとはいえその代償に直接的な戦闘能力はもたない人物──ポルクスだ。

 

 

 

 

確かに兄のカストールは今回の戦いに参加しており、状況を見守るために遠くから見ていてもおかしくはないが……。

おおよその予想はつくがそれだけは出来ない。

 

 

 

アイゴケロスを背後に控えさせルファスは王として彼女を見下ろす。

彼女は暴君ではないが甘くもない主である。

部下に振り回される事などあってはいけないと自戒している故にその瞳は鋭い。

 

 

 

「ルファス様。伏してお願い申し上げます」

 

 

 

「魔神王の救助は出来ん。余は決して魔神族を助けぬ」

 

 

 

彼女はポルクスから全て聞いている。

魔神王と彼女は対の関係であり個人的な交流も深いのだと。

ポルクスにとってオルムは本当の意味での友人に近い存在だ。

 

 

 

余りに凄絶な光景に友人を助けてほしいとポルクスが思ってしまうのも無理はない。

しかしそれはそれだ。

オルムはいずれ排さなくてはならない存在であり、和解はない。

 

 

 

仮にルファスがそれを認めようと、彼女以外の全てが許さない。

世間一般には魔神族の所業は全て彼が指示していることになっているのだ。

 

 

 

 

苛烈な政策を行っていると自覚するルファスの大義名分は“人類の守護”だ。

全ての行為は人類の益となるからこそ彼女は王として認められている。

どれだけレベルが高かろうと、カリスマがあろうと、人類は決して責務を果たさない人物を王とは認めないだろう。

 

 

 

魔神族の所業はただでさえ擁護など出来ない。

ここで彼女がポルクスの言葉に頷いて魔神王を救助などしたらどうあっても言い逃れは出来なくなる。

それに何より……彼らの報復は正当なものだ。

 

 

 

 

しかし先んじて断言するがポルクスは動じない。

そんな事は彼女も百も承知だ。

こんな時、自分に戦闘能力がないのが恨めしい。

 

 

 

「いえ……私の提案は魔神王の件ではありません」

 

 

 

オルムを助けたいという願いがなければ嘘になる。

いずれあの男と自分は今までの報いを受ける時が来るだろうが、それでもあれはあんまりだと思う気持ちも本当はある。

しかしそれ以上にポルクスは長年の直感で危険視した存在への接触を考えていた。

 

 

 

【マナ・キャンサー】と呼ばれるアレは決して、決して野放しには出来ない。

しかし最強の力を持つ主が大義名分などに雁字搦めになって動けなくなっている。

で、あれば己の今までの立ち位置を使ってみようと彼女は思っていた。

 

 

 

「マナ・キャンサーと名乗る存在。アレに対して強行偵察する事を提案いたします」

 

 

 

「あり得ぬ! お前は主を危機に晒すというのか!!」

 

 

 

 

我慢できずに声を上げたのはアイゴケロスであった。

先に撤退を進言した彼からすればポルクスの言葉は狂気でしかない。

彼にとって今の提案はルファスに死を齎す毒を呷らせようとしているとしか思えなかった。

 

 

 

 

「属性こそ対極なれど貴様もまた我と類似した存在! 

 なればアレの発するおぞましさは肌身に感じている筈だ!」

 

 

 

 

「貴方の言葉は最もだわ。正直、私も……怖い」

 

 

 

少しでも気を抜けば震える腕をぐっと抑え込む。

恐怖が無限に湧いてくる。

 

 

 

「だけどアレは明らかに彼らの切り札の一つ。こんなチャンスは滅多にない……っ」

 

 

 

既に兵器群はこの戦いにおいて幾つもカードを切っている。

エル級にセト級、更に強化された吸血姫。

それらを踏まえてなお、アレは異質で異常だった。

 

 

 

将来的にルファスと兵器群は間違いなく真っ向から衝突する。

ならばその前に出来るだけ情報を収集しておきたかった。

 

 

しかし。

 

 

アレに近づいてはいけない。

アレと接してはいけない。

非戦闘員のポルクスでさえあの異物が発する波動を感じ取り本能が全力で警報を鳴らしている。

 

 

 

しかし逃げてはいけない。

延々と勇者たちに死の恐怖と苦痛を押し付けてきた自分がソレから目を逸らす事だけは決して出来ない。

 

 

 

「それにあの者は私を敵視している様子だったわ」

 

 

 

「……死ぬのがマシな目にあうやもしれんぞ?」

 

 

 

アリストテレスとソレに連なる者がナニをするか知っているアイゴケロスは心からポルクスに忠告する。

魔王と覇王はどうやらポルクスが何をしようとしているか察したようだった。

 

 

 

大義名分がないのであれば作ればいい。

獅子王との戦いの際、メリディアナはレオンを挑発し手を出させた。

その逆を彼女は行おうというのだ。

 

 

 

 

 

 

ポルクスは馬鹿じゃない。

本体は非力だというのもあり十二星天に加入してからは絶えず頭を回し続ける事を意識してきた。

アリエスがそうであるように彼女もまた決してスキルだけの置物になるつもりはなかった。

 

 

そんな彼女だからこそ判る。

言葉の端々からにじみ出る女神と魔神族、そして己にあの吸血姫を動かす者は途方もない憎悪を抱いていると。

 

 

 

 

───正直いって、吐きそうだった。

 

 

 

遂に嘘がばれてしまい、その被害者が怒り狂って己の名前を呼んでいるのだ。

目の前に行ったら何をされるか判ったモノじゃない。

だがしかし、それでも。

 

 

 

「私があの者を挑発します。もしもあの人物が己の怒りに負けたら、その時は……どうかそのお力を振るってください」

 

 

 

ルファスの眉が微かに吊り上がる。

余りにリスキーだった。

最悪……いや、ポルクスの命が危うい可能性は十二分にある。

 

 

 

 

そんな主の様子を察して彼女は続ける。

 

 

 

「ルファス様。私は今まで多くの人々を死へと追いやってきたのです」

 

 

 

ポルクスは多くの人々を決して逃れられない死の谷に叩き落してきた。

嫌だと思っていたとか自分の意思ではなかったとか、そんなのは言い訳だ。

 

 

 

 

「私の順番が来た。……そういう事です」

 

 

 

 

何処かで聞いた言葉にルファスは何も言えなかった。

 

 

 

 

 







アルゴナウタイの者らは果たしてポルクスを許しているのだろうか?
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