ラスボスからは逃げられない! 作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)
じゃないとテラが発狂してしまう……。
宙が揺れていた。
数百億キロにも及ぶ時空の断層が発生し、それはミズガルズの修正力で再生と破壊を繰り返し続けていた。
銀河を丸ごと弾丸に変換し、更には重力崩壊させずに純粋なエネルギーとして射出するという荒業と、それを迎撃する覇王の余波は銀河系間の空間さえ壊していく。
億やら兆やらそんな領域など遥かに超えた熱量が空間を満たしている。
たった一人の女は淡い浄化の力で迫り来る銀河と拮抗している。
誰もが眼を疑う光景だった。
覇王ルファス・マファールが最強なのは誰もが知っている。
しかし実際彼女がどれほど強く何処に限界があるかを知っている者はほとんどいない。
誰もが言うだろう。いかに彼女と言えどこれは無理だろうと。
しかしルファス・マファールはあらゆる想像の上を行く。
覇王は健在。それどころか彼女は明らかに押していた。
ミシミシと世界にヒビが入るがそんなこと彼女は気にも留めない。
一歩、また一歩と莫大なエネルギーの暴力を押し込んでいく。
音はおろか色さえ消えた世界にルファスはいた。
かつてない反発力を感じる中、彼女は更に更にと力を上げ続けていく。
ステータスだけ見れば彼女の腕力はレベル4200の時点でもタウルスよりも3割ほど上だ。
ならばタウルスも銀河を迎撃できるか? と言われれば絶対に不可能だと彼は答えるだろう。
明らかに数値とは別種のナニカが彼女の中で高まっていく。
もはやアロヴィナスの敷いた法における数値など彼女の前では意味がないのかもしれない。
何処までも。際限なく。
いまだ全貌を把握しきれない【ジ・アークエネミー】がその形を変えていく。
作り上げたルファスでさえ底知れないクラスは主の願いに応え続けた。
そして当然の如くルファスの肉体もまた彼女の意思を叶えるべく最適化を繰り返す。
勝利する。
されどそれは醜い怪物を滅ぼすだけにあらず。
これを作り上げた者達も全部拾い上げ、人としてあるべき人生に戻してやる。
それが彼女の今の願いだった。
そんな中ルファスは激戦の最中とは思えない程に清々しい気持ちに覆われ……不可思議な感慨を抱いていた。
(……久しいな)
全ての重責が消え去ったようなそんな身軽さ。
まだ何も知らない少女だった時、彼と共に強敵と対峙した時に感じたソレ。
ただ目の前の難題にぶつかり、もがきながら、試行錯誤しながら攻略していたあの輝かしい時代の感覚。
彼女は王としての責務を重荷に感じた事はない。
しかし王として多くのしがらみに直面しているのも事実。
彼女は最強だが彼女の民の中には強くなれない者達だっている。
メリディアナの言葉は正しい。
しかしそれでもと彼女は訴え続ける。
王になったからには自分だけ良ければいいというのはダメなのだ。
単純に邪魔だからとメリディアナを排せないのもその一つだ。
既にルファス相手には取り繕わなくなってきてはいるが、それでも彼女を支持する者が大勢いるのも事実。
彼女はルファスよりもずっと弱者に寄り添っている。
それが現状ルファスがアリストテレス兵器群との権力争いで苦戦している理由だ。
レベルが低いからこそあの女性は己と同じ者達を本当の意味で分かってやれる。
それでも彼女は止まらない。
どんなに不利であっても先に進み続ける。
立ちふさがる壁がどれだけ高かろうと。
だからルファスはまた一歩を踏み込んだ。
圧されていると察した怪物が唸りを上げて圧力を高める。
さしものルファスもミシミシと体の各所が微かに軋んだ。
しかし紅い瞳は真っすぐに彼らを見つめている。
憎悪でも敵意でもない。
決して貴方達を見捨てないと王としての決意に満ちた瞳で。
届け。
数千億の恒星。
数兆の惑星。
膨大な量のブラックホール。
名もなき銀河。
しかしいうなればそれら全てはそういう形をとった女神の力だ。
あくまでもアロヴィナスがそうあれと己の力を加工して作ったモノだ。
圧しきれないと察した怪物は次善の策で圧縮した銀河を保護していた概念的な鎧を外した。
女神の力による物理法則からの隔絶は無効化され、急速に三次元を支配する現実に落ちていく。
銀河を丸ごと圧縮したソレが無慈悲に内側に自重によって潰れていく。
結果、誕生したのは太陽系の一千倍以上ある巨大な闇黒の天体。
いまはまだ産声を上げ始めたがやがてこの特異点は全てを飲み込み周辺の星々さえ食い尽くすだろう。
もちろんこんなものがさく裂すればミズガルズも何もかも吹き飛ぶだろう。
その存在規模概算で太陽質量3000億個分かもっとだ。
怪物だって只じゃすまない。
何なら死ぬかもしれない。
しかし別にそれでよかった。
人生に希望など何も抱いてない者達は自分も含めた全ての終わりを望んでいた。
だからルファスは決めた。
そうはさせない。
変えてみせると。
翼に紅い文様が浮かび上がる。
彼女だけが持つ能力であるマナを支配し果実へと変換する能力をこの場で発動させる。
これの本質はマナを望む姿に変換する能力だ。
レベリング可能な果実というのはあくまで形態の一種に過ぎないのだ。
“力”が呼応しそれは怪物の作った弾丸/暗黒天体を変換していく。
纏わりつく物理法則を上回る速度で質量を消すのだ。
出来るかどうかじゃない、ルファスがそうなると決めれば現実は頭を垂らすしかない。
クリスタルに、ダイアモンドに、アロヴィタイトに。
順々に姿は変わり続け、最後に至ったのは───光り輝く質量なき概念であった。
遠方の魔王が絶句する。
嫌な記憶を思い返した彼は壮絶に顔を歪めそうになった。
アリストテレスがヘルヘイムを丸ごと収奪した時にアレは作られた事がある。
……彼は知らない。
あの時に作られたマナの塊をルファスが摂取し続けていたことを。
マナ・ニュートロン・スター。
もはや物質としての姿を保てなくなったソレは光り輝く概念であった。
凝縮されすぎた結果として超高密度マナ集積体となったこの小さな星は質量をもつことを許されないマナの塊である。
想像を絶する程のエネルギー体でありながら質量はなく、周囲に熱量を拡散させることもない。
【ヴィンデミ・アトリックス】
凝縮されたマナにマナを消す効力のあるスキルを宿した拳をぶつける。
“力”の補助さえ宿ったソレは呆気なく銀河一つ分のマナを消し去った。
怪物の手札は此処に尽きた。
如何に空間支配を応用しようと彼らにはルファスを倒せるイメージがない。
どれだけの全能に近い力を用いようと術者の想像を越える事象は作れないのだ。
「…………」
覇王が迫る。
どれだけ支配下の空間に拒絶を送り込み斥力を発生させようと駄目だった。
時間の流れを引き延ばし接近を拒んでも彼女は構わず同じ速度で動く。
星を圧縮して作った中性子星の剣をぶつける。
覇王の身体に刺さりもしない。
否定して拒絶して来るなと叫んで────何かが途切れた。
無限に供給が続く筈だった憎悪と狂気が消えていく。
夢うつつの中で復讐の夢を見ていた彼らを乙女たちが癒していく。
【ケバルライ】
“もう良いのです”
青い女が心から人々を案じ抱きしめていた。
彼女の持つ全能ともいえる能力が最大出力で展開されソレは悲痛な記憶を癒していく。
同時に彼女にも膨大な悪夢が流れ込んでいるというのに青い少女──ディーナは術を止めない。
ここで逃げたら自分は何も変われていない事を証明してしまう。
女神と自分は違えど同じ罪を背負っている故に。
【ケバルライ】
“眠りなさい。貴方の傷は全て私が癒しましょう”
聖域の乙女が奇跡を惜しみなく行使する。
身体を蝕んでいた無数の欠損と傷が跡形もなく消え去れば痛苦は収まっていく。
マナは感情によって活性化する。それは手を加えられたマナ・キャンサーとて同じだ。
根幹たる憎悪が消え去れば怪物は空気の抜けたボールの様にしぼんでいく。
女神の細胞兵器は急速にその力を失い続ける。
「おぉぉぉぉォォォ……」
息が抜けていく。
同時に苦痛も、憎悪も、怨嗟も、悪夢さえ。
見る見る内に惑星級の威容を誇ったソレは小さく小さく矮小になっていく。
声にならない声が、幼子のような呟きへと変わっていく。
かつて彼らを憎しみで縛り、怒りで鼓舞していた衝動は抜け落ちる。
残ったのはもう苦しみたくない、痛いのは嫌だという本能にも似た儚さだけだった。
ひとつ、またひとつ。
肉片の中に埋もれていた人影が浮かび上がり、眠るように虚空へと消えていく。
憎悪に支配され、世界を呪い、己を呪い、終わりだけを望んでいた存在たちがようやく安らぎの中でまどろみに沈んでいくのだ。
その姿は、まるで長い長い悪夢から目を覚ました人間のようでもあった。
ルファスは無言でそれを見つめていた。
彼女の紅い瞳には怒りも裁きもない。
あるのはただ、もう休めという、王としての赦しの色だけだった。
残ったのは核となっていたオルムと、それに寄生していた肉塊。
地面も何もない宙域を力なく漂っている。
魔神王は眠っており、肥大化していた右肩の瞳はじっと迫る覇王を見つめている。
ルファスは歩いていく。
もう抵抗はなかった。
漂うオルムの近くにたどり着いた彼女は勝者として敗者を見下ろす。
返事はない。
ただ右肩の瞳だけが彼女を虚ろに見つめている。
「………………」
息も絶え絶えの彼は正に虫の息であり、今ならばルファスどころかアリエスでも殺せるだろう。
覇王はそんな彼を前に暫し佇む。
魔神族の王。
今まで世界に悲劇をばら撒いてきた元凶の一人。
何万年も人々を苦しめ続けてきた人類の敵とは思えない程に今の彼は無惨だった。
殺し殺されることを是とする世界に入るという事は自分もいつか死ぬ順番待ちの列に並ぶという事だ。
その道理に従うならば遂にオルムの番が来た、それだけかもしれない。
ルファスは手を翳し術と発動させる。
ポルクスが息を呑む。
例えどんな結果になろうと受け入れるべく妖精姫は覚悟を決めた。
【フィロ・ソフィア】
淡い光が照射される。
かつてプランがルファスの為だけに作ったミズガルズに本来存在しない魔物を生物に戻す術。
多くの破棄された資料の中で明らかにこれだけは完全な形で残されていたルファスへの遺産の一つ。
マナによって変異してしまった黒い翼を白い翼に戻すための術。
少女に普通の人生を送ってもらいたいという願いの結晶。
その本質である“マナの除去”及び“変異を正常に戻す力”を彼女は使う。
皮肉な事だ。
かつてプランを助ける為に培った癌への理解が此処に来てこの様に活用されるとは。
オルムの肉体に寄生し結びついていたマナ・キャンサーが消えていく。
肥大化し醜悪に変異を遂げていた右肩が人のソレに戻る。
ゆっくりと瞼を閉じ、薄らいでいく。
しかし完全な除去とはいかない。
女神の最高傑作ともいえる龍は言わばこの世で最も女神の本質に近い存在だ。
マナ・キャンサーと悪い意味で非常に相性が良く馴染んでしまっている。
少なくとも今のルファスでは根絶は不可能である。
絶大な効果を発揮するのは事実だが、それでも色々と勝手が違うこともあり特効薬とはいかなかった。
「出て来い。余に話があるのだろう?」
「さすがですな。マファール陛下」
【エクスゲート】が開かれ出てきたのは魔女本人。
ベネトナシュの端末を通さず直々に本人がやってきていた。
どうやっているのかは不明だがレベル500程度の彼女は結界も何も張らず宇宙空間で生存し平然と会話を行っている。
「此度は提案がございます」
「余にあの化け物の後始末を押し付けておきながらよく言う。その上で直接顔を見せる度胸があるとはな」
さしものルファスもさすがに皮肉を述べるが魔女はどこ吹く風と言わんばかりだ。
魔女は極寒の瞳でオルムを見下ろしてから杖先で示す。
「コレは魔神族の管理権限を保持しております。
そして今、コレの内部にはマナ・キャンサーが強く結びついてもいます」
「我々はこれと同等の位階を持つ木龍の断片を用いて魔神族という法に干渉しておりますが、やはり正規でない故に制限も多いですじゃ」
メリディアナの言いたいことを察し始めたルファスは目を細める。
つまり。
「貴女様ほどマナの操作に特化した者はおりませぬ。
そして【ジ・アークエネミー】でしたか、アレには世界の管理者としての力も含まれておるのでしょう?」
ディーナから託された天に至る鍵。
アレはその名の如くミズガルズの管理者、つまりシステムへ干渉する為の鍵だ。
更にいうとルファスはその力を以てディーナの力/権利さえ我がものとしている。
理論上では可能だ。
しかしあくまでも空論。
魔女が出まかせを言っている可能性さえある。
それらを理解しつつもルファスを試す様に魔女は提案した。
「マナ・キャンサーを経由し魔神王の権限に干渉し、魔神族を操作できるかもしれませぬ」
「奴らを滅ぼせると?」
だとしたら、それはとてつもない偉業だ。
はじめて人類は勇者に頼らず己たちの天敵を克服したことになるのだから。
そして女神の台本にとてつもないヒビを入れる事にもなる。
ルファスの言葉に左様と魔女は頷いた。
「すでに従順な魔神族を生産する術は完成しております。
後は、天然物の発生を停止させ、その上で活動している全ての魔神族を止めるだけ……」
それをもってミズガルズに平和は訪れる。
全てはもう目の前だ。
ルファスとてその未来を目指して戦っていた。
しかしそれは────ミズガルズにおけるバランスを崩す行為となる。
魔神族と獅子王と竜王。
かつての四強は全て消え失せ、世界には一つの組織とそれが宿す二つの大勢力が残る。
人類共同体は文字通り世界を統一するのだ。
その中にとてつもない爆弾を宿しながら。
深海の国家群もあるが、アリストテレスは彼らには興味も示していない。
事が進めば彼らの存在など王であるエロスも含めてどうとでもなるからだ。
ゾディアックとアリストテレス兵器群。
完全に世界は二分されることになる。
今までは魔神族や魔物という共通の敵がいたから何とか取り繕えていたが、もうそれも出来なくなる。
人類共同体というプランの作った枠組みの中でプランの作った機構とルファスは戦う事になる。
ハッキリ言って女神よりもずっと厄介で危険な相手だ。
生の人間だけが持つ悪意と目的の為には決して諦めない根強さを魔女たちは持っているのだから。
「どうなされますか? ルファス・マファール陛下」
蒼く燃え上がる瞳で魔女は決断を促した。
彼女は既にもう決意を固めている。
魔神族という魔法の根底には一つの共有された命令コードが埋め込まれている。
それは本来ならば魔神王が倒された時に発令される時代の切り替わりを意味する指令であった。
即ち全魔神族の機能停止&霧散命令。
勇者が人類の敵を打破した時にオルムが発動させるソレは人類に休息期間を与えるための偽りの平和の始まりを意味する。
同時にその時の茶番の終わりでもある。
故にその名を【カーテン・コール】と言った。
それは静寂の中で始まった。
誰もが気づかぬほど些細な振動が、大地を伝い、空を震わせ、海を波立たせていく。
やがてその震えは世界の根幹へと到達し、ミズガルズという舞台そのものに刻まれていた古き命令コードを呼び覚ました。
本来ならば決して発動されない筈の指令が発せられる。
それはミズガルズで活動する兵器群の管理下にない全ての魔神族に平等に届けられ、彼らを動かす糸を断ち切った。
一斉にミズガルズ全土に世界の根底に仕込まれていたルールが動いた。
世界に散らばる全ての魔神族。
ソドムの戦場で咆哮する者、人を嬲り支配を誇る者、潜伏して人を操る者。
彼らの全身に突如として鈍い共鳴が走った。
平原で。街道で。
凍土で。草原で。
砂漠で。海上で。
戦闘中。非戦闘中。
男も女も子供も。
ミズガルズに存在する全ての魔神族がその動きを止めた。
この日、全ての魔神族が一斉に糸の切れた人形となった。
所詮どれだけ魔神族に心があるといってもこれが本質なのだという証明の光景だ。
戦場にあった巨躯は、振り上げた武器を保ったまま硬直し、氷原を駆ける個体は凍りついた像のように崩れ落ちる。
燃え盛る炎を吐き出しかけていた口は半開きのまま止まり、嘲笑を浮かべた顔は凍りついた表情で凍結する。
ゾディアックに潜伏していたものも、街道を闊歩していたものも、砂漠で翼を広げていたものも、誰一人として例外ではない。
人を喰らい、国を焼き、歴史を覆ってきた存在たちが、まるで操り糸を断ち切られた傀儡のごとく、同じ時、同じ呼吸で動きを失った。
眼光は虚ろに濁り、崩れ落ちるものすらいない。
ただ停止し無音だけが残る。
ただ、世界に散らばる全ての魔神族が同じ瞬間に止まった。
それは死でも滅亡でもなかった。
断末魔もなく、抵抗もなく、ただ機能を断ち切られた器械のように沈黙へと堕ちていく。
永劫の敵として在り続けた影が、たった一つの命令によって一斉に消えた。
その異様な光景は、人類にとっては歓喜ではなく、まず何よりも「異常」としか呼べぬものだった。
これこそ魔神王のみが扱える休眠命令である。停止であり霧散ではないのが肝だ。
霧散させなかった理由はソレを行うと魔神族という魔法を解除したことになるかもしれないからだ。
その場合女神はもう一度魔法を再発動する可能性が高い。
再起動の余地を与えない。
完全にフリーズさせる。
それがルファスと魔女のやり方である。
何はともあれ人類は大いなる脅威を退けた。
つまり───そして世界は平和になったのだ。
女神が宙の果てで絶句する。
こんなことあり得ないと何度叫ぼうと現実は変わらない。
幾ら念を送って動けと命じても魔神族はピクリともしなかった。
自分が放った魔法なのに自分の支配下にない。
数億年の生涯の中で初めての出来事に彼女は心底気持ち悪がった。
出力をあげようとし、これ以上やるとミズガルズが砕けてしまいそうになり女神は諦めた。
もっと彼女が試行錯誤を行うことが出来る生命体だったならば手段はあったかもしれないが、アロヴィナスにその発想はない。
力技以外のやり方を彼女は知らないし、そもそも小細工という概念は彼女にはない。
───あり得ません、こんなこと、今までなかった……。
───何が起きているのですか? どうして……。
───もっともっと人々に絶望を与えないといけないのに!
苦しめないと彼らは幸せになれないのに!!
悲痛な叫びに怒りを滲ませて女神はミズガルズに力を送りはじめる。
全人類の思考を加速させ、ルファス・マファールへの敵意を増幅させるのだ。
とりあえずアレを打破し捕獲したあと、役立たずの魔神王の後釜に据えなくてはいけない。
その後はディーナを用いて兵器群を始末し、今ある世界に正しい絶望を振りまかなくては。
あってはならない平和のせいで人口が増加傾向にあり、これは許されないことだ。
半分、いや、8割は処分しなくてはいけない。
死と絶望と苦痛に世界を沈めなくては皆が幸せになれないのだから。
次の脚本に取り掛かる彼女は気づけない。
じっと己を見上げる視線があることを。
もう256年も観られ続けている事を彼女は知らない。
あの晩からずっと、彼女は観られている。
瞬き一つせず“彼ら”は女神を見つめていた。
だが女神は気づけない。
彼女は醜い存在など認識できないのだから。
演目「魔神族」は終劇しました。
次の演目をご期待してお待ちください。