ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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遂に今晩の22時30分からアニメの放送が開始されます。
記念として1話の放送終了後にもう一話、短めの話の投稿を考えております。



メラクは頭を抱えている 状態異常 “腹痛”

 

魔神族の勢いを削ぐために行われたソドムの戦いは思わぬ結果を迎える事になった。

四方に存在する全ての防衛拠点は陥落し夥しい数の魔神族は討ち取られた。

ここまでは計画通りであったが、問題はその後だ。

 

 

 

 

まさかの魔神王の参戦だ。

世界に残った最後の四強にして人類の天敵たる彼の参戦は誰にとっても予想外であった。

しかし結果として彼は打ち倒され、魔神族は機能を停止させた。

 

 

 

ミズガルズには数百年ぶりに平和が訪れる事になる。

それも過去例を見ない程に人類の敵のない世界だ。

獅子王も魔神王も竜王もなく吸血姫は人類の味方。

 

 

 

更には絶対的な力を持つ覇王の庇護と黄金の果実による人類の強化と兵器群の庇護。

これほどの世はそうありはしない。

 

 

 

そして複雑な事情が入り乱れた激戦であったが最終的にはこう処理されることになった。

 

 

 

 

“兵器群と十二星天の連合軍は快進撃を続けソドムの攻略および囚われた者らの救助に成功”

 

 

“しかし突如として魔神王が出現”

 

 

“事態を重く見た人類の守護者たるルファス・マファールは直々に出陣し魔神王を撃退”

 

 

“魔神王は致命傷を負い、魔神族もそれに呼応するようにその活動を停止”

 

 

 

 

実際は色々と複雑に各勢力の思惑が入り乱れているのだが、それを知る者はほとんどいない。

真実よりも判りやすい事実を人々は好む。

大切なのは難解な現実よりも民たちの納得なのだ。

 

 

 

魔神族が機能を停止したという事実もあり、ルファス・マファールが魔神王を倒したという報告を人々は受け入れつつあった。

多くの人々はこう思った。

ゾディアック建国からのルファスの活躍は正に快進撃としかいいようがなく、連日入ってくる報せは多くの者達の心を鼓舞している。

 

 

 

かつてアリストテレス卿が興し今はエルフが統治するリュケイオンの都市部では号外が配られていた。

人類共同体が構築した情報インフラは星の裏側の出来事であっても数時間もすれば全域に拡散する程に優秀であり、もちろん活字印刷技術もある。

故に大声を上げて幾人もの人物が熱も冷めぬといった感じで街中を走り回り、号外をばら撒いている。

 

 

多少は誇張されているとは言え事実だけがそこには書かれていた。

誰もそこに文句など挟めない。

だって事実として魔神族は動かなくなったのだから。

 

 

 

 

 

 

ゾディアックの女王ルファス・マファール、魔神王を撃退!

 

 

全世界において魔神族の停止を確認!!

 

 

魔神族の最大国家、ソドム崩壊!!

 

 

 

 

 

民たちがそれを笑顔で読んでいた。

誰の顔にも安堵が浮かんでいる。

ルファスが望んだ光景がここにはあった。

 

 

 

「やっと戦争も終わる」

 

 

「アリストテレス兵器群とルファス様がいれば人類は安泰だ」

 

 

「きっと明日はよくなる」

 

 

 

辺境にまで行き渡り始めた黄金の果実を食し、身体中に力をみなぎらせながら彼らは未来に思いをはせていた。

アリストテレス兵器群と覇王ルファスは不仲であるらしいが、それもどうにかなるはず。

聞けば覇王は兵器群の解散を決定したというけど、ここまでの活躍を見せてくれる彼らを消すというのも考え直すはずだ。

 

 

 

それはそうとと誰かが声を上げた。

リュケイオンで古くからずっと肉屋で生計を立てている青年だった。

彼の瞳の中におけるルファスはよく肉を買いに来てくれるお得意様でしかない。

 

 

余りに大きいモノを買おうとしてアリエスによく注意されていた事が印象的な、ただの女性だった。

彼女は時折母と共に市街地をぶらぶらと買い歩きしていたこともあった。

その時の様子は正しく何処にでもいる仲のいい親子だった。

 

 

 

「ルファスさん……遂にやったんだ」

 

 

 

竜王に続き魔神王を倒す。

正しく神話に伝わる勇者を越える偉業だ。

あんな穏やかな女性がやったとは思えない位の。

 

 

 

農家の女性が頷いてその先を続ける。

彼女が知るルファスは時折土いじりを手伝ってくれる頼りになる大人の女性である。

アリエスがトウモロコシを食べきれない程に大量に持ち帰ろうとするたびにソレを没収するため追い掛け回していたのもいい思い出だ。

 

 

あの中性的な少年は時折とんでもない図太さを見せる時がありルファスはそれに手を焼かされる時もあった。

しかしきっともう、昔みたいにあんな馬鹿騒ぎは出来ない立場になったのだろう。

 

 

 

 

「無理してないといいけど……アリエス君がいるから大丈夫、よね」

 

 

 

彼女の言葉は口には出さなかったがリュケイオンで古くから暮らしていた者達の総意であった。

彼らにとってルファスは何百年も前からリュケイオンを護ってくれていた心優しい女性でしかない。

今や覇王と恐れられ、一部では現世の悪魔だという言説も上がっているが彼らは決して忘れない。

 

 

 

人々は己の生活に戻っていく。

きっと未来は明るいと信じて。

 

 

 

 

そしてリュケイオンにある屋敷の中でアウラもまたカルキノスから手渡された号外を手に取り微笑んでいた。

娘は立派にやっている。きっとルファスはかつての夢を叶えるだろう。

それがたまらなく彼女は嬉しかった。

 

 

 

彼女の部屋には娘の活躍を記した号外などを綺麗に保存した本があることを知っている者は多くない。

 

 

 

 

 

 

 

平和の輪郭は、地図では滑らかに見える。

だが上空から眺めれば、境界線は別の色を帯びる。

 

 

 

ルファスの正義は「拾い上げる」ために刃を抜き、

兵器群の正義は「万人」のために最適化を繰り返す。

どちらも結果として人類を助ける。それだけの話だ。

 

 

 

ただ、その手触りは違う。

同じ方向を向いているのに、足音のリズムが合わないだけだ。

 

 

 

違和感は最初は靴擦れのようにささやかで誰も気にしない。

だが距離が伸びるほど、皮は薄くなり、痛点は増え、やがて歩き方そのものが変わってしまう。

道は平らかとなりならし終えられた。終点にいるのは女神様。

 

 

 

 

 

一人の標的を二つの者が狙う。

そして両名は手を取り合うつもりなどないのだから。

 

 

 

 

征服されたソドムの市街地には夥しい数の人々がごった返していた。

殆どが完全に武装したゾディアック国の兵士たちだった。

後詰めとして派遣されてきた彼らは一つ一つの建物を調査し、中で硬直している置物とかした魔神族を引っ張り出して広場に集めている。

 

 

 

完全に脱力した置物はそれなりの重量があったが高レベルの者しかいない彼らにとっては片手で運べる荷物でしかない。

文字通り“山”と化したソレを一体ずつ属性やレベルなどを確認し兵器群は回収していく。

時間経過で霧散しないように多少の天力を与えて存在を補強すれば問題なくこれらは素材として再利用できる。

 

 

 

 

現状は大豊作としかいいようがない。

ルファスがオルムに干渉して放った【カーテン・コール】は世界中の魔神族を停止させ、あれだけ起きていた領土侵犯も今や0だ。

警戒と撃退に割り振っていた分のリソースを他に回せる上に散乱した資源も取り放題、今後しばらくは経済は凄まじい勢いで発展していくことだろう。

 

 

 

 

空には何隻ものアルゴー船が鎮座しており念のため未だに動いているかもしれない魔神族の捜索を続けていた。

事実上の残党狩りである。

本来ならば幕が下りた時点で魔神族やそれに類する存在は全て消え去るのだが今回はイレギュラー極まりない発令の為、誤作動を起こした個体がいる可能性は十分にある。

 

 

 

そして魔女のその懸念は当たっていた。

100万分の1以下のイレギュラーである【カーテン・コール】が不発に終わった個体がソドム近郊にある森、その中に隠れ潜んでいた。

 

 

 

黒い髪に青い肌。

黒目と白目が反転した異形の瞳を持つ魔神族。

少年の個体であるマルスは息を殺しただひらすらに祈っていた。

 

 

彼のレベルは300。

現代の魔神族の中では貧弱な部類だ。

女神が魔神族の強化に取り掛かる前の個体であり、ソドムにおいても下っ端で人間を虐げる時もいつも最後のおこぼれを預かっていた。

 

 

常にレベル1000の強者を見上げ続けてきた彼だからこそ判ってしまった。

ソドムに襲い掛かってきた者達がどれほどの化け物なのかを。

だから逃げた。逃げて逃げて、気づけばこんな所で隠れている。

 

 

 

空から降ってくるのはおぞましい赤子のぐずる声。

 

 

 

───あぶばうあばあああばばばば、きゃきゃ!

 

 

 

───きゃきゃっ!!

 

 

 

森の上空を巨大な赤子、エインヘリアルが何体も飛び交っている。

ユグドラシル級が生み出したアリストテレス流のアルゴナウタイはこういった単純な任務にうってつけである。

さすがの魔女メリディアナもこれらの個体の外見には思う所があったのか最低限必要な個体だけを残して他は全てマナに還元されてしまっているが。

 

 

 

 

(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……!)

 

 

 

何処かに行ってくれ。

頼むから自分に気付かないでくれ。

ひたすらに祈り続ける。

 

 

 

魔神族に神などいないという哀れな事実を知らないのは果たして幸か不幸かは判らない。

しかしマルスは絶望の底にいた。

あの3メートルはある赤子に見つかって生きたまま貪られるのはもちろんだが、それ以上に彼が恐怖するのは。

 

 

 

(深淵送りは嫌だっ!!)

 

 

 

プルートに送られる事である。

魔神族の間でもアリストテレス兵器群の所業は広がりつつある。

曰く人類は地下の底で魔神族を相手に想像も絶する様な実験を行っているのだと。

 

 

 

最初は誰もがそんな馬鹿なと思った。

人類が自分たちを惑乱させるためにばら撒いたデマでしかないのだと。

そもそも魔神族は人類の天敵であり、彼らに恐れられる事はあれど恐れることなどないと誰もが鼻で笑った。

 

 

 

 

しかし徐々に人類勢力が配備し始めたアイテムや武器を見て誰もが勘づく事になる。

明らかにレベルの合計よりも多い【クラス】の数もそうだが、多くの人類から同族の気配がするのだ。

どれだけ気のせいだと思う事にしても指輪や剣に埋め込まれた結晶、果ては今までは近接職のカモだと思われていたメイジが纏う水の鎧からソレは匂う。

 

 

 

 

明らかに姿かたちはもはや原型をとどめていないがどれもこれも魔神族の気配が色濃く発せられている。

もはや原型をとどめないほどに弄りまわされていながら、いまだ彼らは死んでいない。

死は人類への奉仕をやめる理由にはならないと言わんばかりの扱いだ。

 

 

 

死の凶星ルファス・マファールと死ぬことさえ許されないアリストテレス。

どちらか一つでも悪夢だというのに今のミズガルズには魔神族の天敵が二つも君臨していた。

 

 

 

 

 

「はぁ……ハァッ……!」

 

 

 

冷や汗がとまらない。

少しでも気を抜くと歯がガチガチと動いてしまう。

怖い怖い、死ぬことさえ許されない未来が怖い。

 

 

 

いまだ上空を周回する気配は消えず。

赤子たちはにっこりと無邪気に笑いながら魔神族という獲物を探している。

早く何処かにいってくれとどれだけ願っても意味などない。

 

 

 

目を瞑り祈り続けるマルスの耳にふと声がとどく。

 

 

「そこで息を殺していたまえ。あれらは見てくれ通り知能はそこまで高くはない」

 

 

 

「っっッ!!」

 

 

 

悲鳴を上げなかったのは奇跡だった。

視線を声のした方向に向ければそこには同族が居た。

白髪が特徴的な魔神族であった。

 

 

彼は人差し指を立てて「シー」と息を吐き静かにするようにマルスに囁く。

そのまま一方的に話し始める。

マルスの反応など期待してはいないが、それでも此度の騒動の感想を誰かに語りたくてたまらないのだろう。

 

 

戦闘者として拘りのある彼からすればあの戦いに混ざれなかったのは正しく痛恨だった。

故に彼はこの弱くて惨めな魔神族にペラペラと喋る事にした。

要は憂さ晴らしである。

 

 

 

後は“父親”が眠りながらも感じていた高揚の影響を彼も受けているのかもしれない。

 

 

 

「この展開は私としても予想外だった。いや、誰にとってもだろうな」

 

 

 

「名もなき兄弟たちは鎧袖一触で終わり、覇王とアレの激突はまさに天を砕く程だ」

 

 

 

 

そしてまさかの魔神王の敗北。

感じる気配からして死んではいないだろうが、それは殺すよりも生きていた方が価値を産むからだろう。

プルートではないが何処かの施設に彼は運び込まれ、生きても死んでもいない状態になっている。

 

 

オルムという存在の世界における格と彼が女神から与えられた権限をアリストテレス兵器群は骨の髄までしゃぶりつくすことだろう。

 

 

 

「私もしばらくは身を隠す。さすがにアレらとやり合うのは御免被る」

 

 

 

 

うんざりした様子で空を示せばここにはいないと判断した赤子たちが飛び去っていく。

マルスはそれを見て少しだけ震えが止まり始めた。

白髪の魔神族はそんな彼を見下ろしながら背を向ける。

 

 

 

「では、な。運が良ければ何処かでまた会えるだろう」

 

 

 

言いたい事だけを言って男は目にもとまらぬ足で駆けだしていく。

それでいて足音や衝撃などは全く発生させず赤子たちの警戒網には引っかからない。

 

 

 

「……何だったんだ」

 

 

 

結局名前も名乗らず居なくなってしまったおしゃべりな魔神族を気にしつつマルスは頭を下げ、虫けらの様に動き出す。

これから訪れるであろう魔神族の黄昏を思うと気が重くなったが彼はもう少しだけ生き残る事になる。

200年ほど先の未来で利用してやろうとした羊に呆気なく潰されるまで彼は生き残ることに成功する旨をここに記しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソドム陥落および魔神族の停止から一か月後。

かつては隆盛を誇った魔神族の大都市であり現在は人類の領土であるこの地で大規模な会談が数日にわたって行われようとしていた。

人類共同体の未来について議論することを主題にしたこの会談にはルファスやロードス、ボレアリスといった錚々たる王たちが賛同する予定である。

 

 

 

 

もちろん次期ヴァナヘイムの王であるメラクも先立ってソドムへと入場していた。

ヴァナヘイム王イカロスの子である彼もまた王族であり人類共同体の重鎮だ。

数奇な運命のもとルファスと一時期行動を共にすることとなった彼であるが、今は次期国王としての修行を優先している。

 

 

 

 

そんな彼は青ざめた顔で震えていた。

たった数枚の書類を穴が開く程に凝視し、そこに書かれた内容が嘘であってくれと何度も祈るが何も変わらない。

 

 

 

「そんな、あり得ない……!」

 

 

 

「残念ですが。胸中お察ししまする」

 

 

 

“魔女”メリディアナは悲痛な表情を浮かべて顔を横に振った。

少なくともこの件に関しては彼女は心からメラクに同情している。

メリディアナの顔を見て全てが真実だと察し、脱力した様にメラクはぺたんと膝から崩れ落ちた。

 

 

 

絶望としか言いようがない事実。

 

 

 

───ヴァナヘイムは魔神族に対して人身売買を行っていた。

───人類の敵を援助していたという逃れられない人類への背信行為だ。

 

 

懲りないというか、二度目である。

勇者を売り渡したこともありロードスがこれを聞けば何をするか判ったモノじゃない。

 

 

 

あの魔女でさえ嫌悪と軽蔑を隠そうとしない所行の数々。

それも混翼だけではなく共同体に未加入の他国の貧民階級の者らを積極的に拉致誘拐して。

ほんのはした金で人員を集めてそれを次々とソドムへと供給していたのだ。

 

 

 

もしもこれが人類共同体に知れ渡ったら、あのルファスが知ったら。

それこそ天翼族の滅亡は確定する。

彼女が実際やるかどうかはともかく少なくともメラクはそう思ってしまった。

 

 

 

脳裏をよぎるかつての彼女の姿。

ボロ布を纏いヴァナヘイムで虐げられていた彼女を彼は覚えている。

それを知っている彼がルファスはヴァナヘイムを恨んでいると思ってしまうのも無理はない。

 

 

 

 

「確かに、今のヴァナヘイムは経済的に衰退しているけど……。

 これはっ、こんなことが許されるわけっ……!」

 

 

 

天翼族の空輸産業は既に斜陽だ。

ジスモア・エノクが作りあげたそれは彼の死後は国営となっていたのだが、今やその座にはアリストテレス兵器群が座している。

巨大な船は常に護衛を伴いミズガルズ中を軽々と結び合わせ、料金も安く迅速で確実。

 

 

物資だけじゃなくどんな種族のどんな者であっても共同体の領域ならばすぐに移動できる。

何なら日帰りで大陸を跨いだ旅行だって可能だ。

 

 

 

潮の流れなどを気にしなくてはならない海路よりも早く物資を様々な所に運べ、更にはアンカーを用いてのやり取りは瞬間的に可能ときた。

何千という距離はもはや意味をなさない。アリストテレスはミズガルズに網をかけたのだ。

と、なればヴァナヘイムに仕事を依頼する必要もなくなっていく。

 

 

 

天翼族の衰退はもはや避けられない。

で、あれば次だ。

メラクの父は最悪とも言える判断を下してしまった。

 

 

 

“人身売買“

 

 

それは殺人に匹敵する程の重罪。

いや、魔神族に渡したという意味ではソレをも兼ねている。

 

 

 

「……ルファスはこの事は?」

 

 

 

「まだ正式に上げてはおりません。

 しかしマファール陛下は共同体の盟主。直ぐに知る事になるでしょうな」

 

 

 

 

ゾディアックは独自の情報網をもっている。

世界各地に分散した混翼達は全てルファスの手足であり耳だ。

表と裏、両方を知り尽くした彼らの情報収集能力はミズガルズ随一であり、誤魔化しなど出来ない。

 

 

 

そもそも既にルファスは当たりを付け始めている。

ソドムにいた魔神族、あれだけの数をどうやって養っていたか疑問に思うのは当たり前だ。

明らかにそこらへんから攫ってきただけでは足りない、供給路があると考えるのは当然。

 

 

 

 

つまりは時間の問題だ。

ルファス・マファールの地雷中の地雷。

彼女の逆鱗に繋がる導火線に既に火はついている。

 

 

 

どうする? と魔女は目を鈍く光らせてメラクを観ていた。

 

 

 

 

若き天翼族の王子は頭を抱え込み項垂れた。

純白の翼がささくれだち痙攣を繰り返す。

深く深く考える。どうすればいいと。

 

 

 

今まで見て来たルファスの姿。

それこそ冒険者となる前の幼い姿から。

彼女がヴァナヘイムから受けた仕打ちを考える。

 

 

 

いまこの瞬間に故郷が存続していたのは奇跡と言えた。

もしも今の彼女がやる気を出せばその瞬間にあの国は終わりだ。

 

 

 

(…………!!)

 

 

 

 

彼女が率いる戦力を思う。

ルファスは例外としても十二星天を擁するゾディアックはこの世界で唯一兵器群と戦争が可能な集団だ。

更には混翼たちが優秀な官僚として控えるかの国に弱点はない。

 

 

 

(……………………っっ!!!!)

 

 

 

 

理由を考える。

仮にルファスがヴァナヘイムを滅ぼすとしたらどのように始めるかを。

もちろん完璧な大義名分があっちにはある。

 

 

 

 

ヴァナヘイムは人類を裏切り数多くの罪なき者達を魔神族に売り渡した。

故に余は人類の守護者として制裁を下す。

 

 

 

完璧だ。

文句などつけようがない、いっそ美しいまである大義名分だ。

 

 

 

 

イラつく。

もちろんルファスや現状にではない。

 

 

こんなバカなことをしていた父と天翼族たちに。

ヴァナヘイムに止めどなく怒りが湧いてくる。

彼もまた医学を学んだ身としてソドムの犠牲者たちの治療にあたっていた。

 

 

どれだけの惨状があそこで起きたか欠片とはいえ理解している。

だからこそ、あんなことを引き起こしたのが祖国だというのならば───いい加減にしろ。

 

 

 

 

(…………)

 

 

 

プチンと何かが彼の中で切れた。

父の愚かしさ。天翼族の罪。

そして己の立場。

 

 

全てを踏まえて彼は……腹を決めた。

もとよりこの身は次代の王。

知らなかったでは済まされない。

 

 

 

 

すっと一点を超えた瞬間に頭が冴えていく。

メラクという男は臆病ではあるが愚かでも卑怯でもない。

かつてプランは彼を「芸術家の方が向いている」と評したが、それは表層を見ての判断だ。

 

 

限界まで追い込まれた時こそ彼が最も力を発揮するタイミングなのかもしれない。

 

 

 

 

「……メラク殿下?」

 

 

 

纏う気配を変えた男に魔女が声をかける。

レベル1000とは思えない程に弱弱しく、常に人の顔色を見ているような男というのが彼女のメラクへの評価だった。

実際それは当たっている。彼はルファス一行の中でも特に引っ込み思案で常に何処か彼女を恐れていた。

 

 

 

しかしそれは全てではない。

彼はルファスを恐怖すると同時に彼女の背を追いかけてもいた。

どんな時でも強く堂々と己を主張する彼女に憧れるだけでなく、王族として少しでもその在り方を学ぼうとする気概がある。

 

 

そもそも一人だけ異端の価値観を持ちながらそれを曲げずに天翼族の王族として妥協しない時点で彼の根の部分はかなり頑丈だ。

魔女がメラクを知り分析を始めたのはたかが2年前後、250年を超える男の深層を探るには余りに短い。

 

 

 

「メリディアナ殿。まずは貴女に感謝を」

 

 

頭を抱えていたのが嘘の様に凛々しく立ち上がり堂々とした立ち振る舞いで彼は述べる。

いまだ翼が震えてはいるが、それも徐々に収まっていく。

どうしようもない怒りが彼を突き動かしているのだとメリディアナは瞬時に見破った。

 

 

 

「ヴァナヘイムがこのような事をしていたと私は知らなかった。

 ……我が身の恥としかいいようがない」

 

 

 

「と、すれば?」

 

 

 

魔女の何処かうかがう様な言葉。

魔神族の犠牲者を増やしていたという所行はメリディアナにとっても非常に不愉快な話だ。

本来ならばこれをネタにして彼をこちら側に引きずり込むか、最低でも影響力を確保するというのが彼女の考えだった。

 

 

 

魔神族も竜王も消えた今、彼女は本格的にルファスとの衝突を考えて動いている。

その一環として彼女の仲間たちへの勧誘を行い始めていた。

メラクへの脅迫染みた情報の開帳もその一つだったが……。

 

 

 

「いずれルファスには届く話。下手に隠し立てをしても無駄なのは明白だ」

 

 

 

「マファール王に全て打ち明ける。その上で私がこの件にはケリをつける」

 

 

処断は覚悟の身だった。

父だけでは足りないと言われれば彼は迷うことなく己の命を使うつもりだった。

実際はルファスはそのような事をするつもりはないが、それでも罪には罰が必要なのだ。

 

 

 

具体的には? と魔女が問えばメラクは一瞬の間の後にはっきりと口にした。

 

 

 

「父上に退位なさってもらう」

 

 

 

そして。

 

 

 

「私が王となり天翼族を立て直す」

 

 

 

「その為に……人類の為に、どうかアリストテレスの力を借りたい」

 

 

 

出来るかどうかの話ではない。

やらなくてはヴァナヘイムはおろか白翼の天翼族という種は滅びる。

だからこそメラクはそう宣言するのだった。

 

 

 

思っていたのとは違う道筋になったが、決して不快ではない変化にメリディアナはヒヒヒと笑った。

なんだこいつ、やればできるじゃないかと。

 

 

 

 




アニメでメラクの声を聴いた結果、更に色々と問題ごとを押し付けたくなってしまった……。



原作のおまけ(第40話 ディーナ、ゲットだぜ?)
でも町を壊されてあのルファス相手に激怒していたのもあり
一線を超えると彼は一皮むける男だと思っています。




だから頑張ってもらいましょう。
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