ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

193 / 221




「私がヴァナヘイムを変えて見せる」




────とある天翼族の王の決意。






ルファスの“解散命令”!

 

 

かつてのソドムの王宮。

本来ならば魔神王が座す予定だった広々とした空間には彼が座る筈だった玉座のかわりに巨大な円卓が設けられていた。

人類共同体において全ての構成国は対等であるという理念を表現するのがこの円卓だ。

 

 

 

更には各国の国旗が掲げられミズガルズの歴史においてもまれと言える程に錚々たる面々がそこには座していた。

何人もの芸術家が後の世に作品として残すことが確定しているほどに誰もが存在感に溢れている。

 

 

 

まず初めに人類の守護者にして新興国ゾディアックを統べるルファス・マファール。

黒い翼に輝くような金髪、深紅の瞳を備えた彼女は正しく歴史の主役だ。

復活した竜王ラードゥンの退治をはじめにその活躍には暇がない。

 

 

 

余りに輝かしい経歴の数々はかのユーダリル近郊に座す魔竜ノーガードの討伐が小粒になるほどだ。

 

 

 

今回その伝説に更に一ページが加わることになった。

すなわち魔神王の撃破と魔神族の停止だ。

彼女の力を以て史上初めて勇者に頼らずミズガルズは人類の天敵を倒した。

 

 

 

それの意味するところは想像を絶するものがある。

実際のところがどうかは置いといて、ルファスがどう思うかはさておき、そういうことになっている。

更には彼女の配下にはあの光の妖精姫ポルクスが居るというのも彼女の威光を増幅していた。

 

 

 

実際はポルクスをカストール共々無理やり捕獲したというのが事実だが、世間は違う見方をしていた。

すなわち、次代の救世主としてポルクスがルファスに力を貸しているのだと。

言葉にしないが大多数の者らはそう考えていた。

 

 

 

覇王があそこまで強いのもポルクスが加護を与えたからだと考える者も決して少なくはない。

ルファスが産まれるよりも遥か過去より星の数ほどに勇者たちに助力してきた実績をもつ彼女だ。

その影響力と名声はポルクス本人が思っているよりも遥かに大きい。

 

 

 

本人にその気はなくともポルクスの影響力は先にも語った通りルファスさえ遥かにこえるのだ。

そんな彼女は今はルファスの背後で穏やかに微笑みつつ兄と共に佇んでいた。

如何に厳重な警備があろうと戦闘力が皆無の彼女がこのような場に出るのは本当に珍しい事だ。

 

 

 

しかしこれはポルクス自身がルファスに提言した結果だ。

 

 

 

“私の名を存分に利用してください”

 

 

 

“光の妖精姫ポルクスは兵器群ではなくルファス・マファールを選んだ。

 その事実は立派な武器になります”

 

 

 

これはメリディアナと兵器群が着実に民心を得て影響力を増している事に対する対抗策であった。

ルファスは決して勇者ではないが、それに匹敵するのだという宣伝をするための。

そんな神話に名高い双子を従えた覇王は一言も発さずただ会議の始まりを待っていた。

 

 

これより始まるのは武力だけでは通じない複雑怪奇な世界による闘争。

されどルファス・マファールは逃げない。

気に入らない奴を殴って倒して終わり、世界はそんな単純ではないと彼女は良く知っている。

 

 

 

 

 

ルファスの隣に腰かけるのは先代人類の守護者にしてミョルニルの王たるベネトナシュだ。

彼女については既に大した説明もいらないだろう。

傍若無人という言葉に手足を生やしたような存在ではあるが、外道ではない。

 

 

 

されど───ミョルニルを除く───人類の完全な味方でもないという独特の立ち位置に彼女はいる。

怠惰と諦観に沈み錆に錆びていた彼女であったが今はもう違う。

あの日ルファスに叩きのめされた吸血姫は覇王との再戦を約束していた。

 

 

 

次はアリストテレスだの人類だの、世界の云々だのといった余計な要素は一切排除して純粋な闘争をすると。

結果としてどちらかが死ぬかもしれないが、それでも構わない。

ソレがいつになるかは判らないがその時を必ずと約束した結果、彼女は今はルファスに手を貸していた。

 

 

敗者が勝者に従う。

それは当たり前なのだから。

 

 

アリストテレス兵器群について興味がないと言えば嘘になるのもソレを後押しする。

かつてはあの男が残したつまらない玩具だと思っていたが、どうやらこれらは暫く見ない間におぞましい事になっているらしい。

 

 

 

吸血姫はつまらなさそうに肘をつきじっと一点を凝視している。

向かいの小さな椅子に座るアリストテレス兵器群代表メリディアナと彼女が護衛として背後に控えさせている小柄な人物たちに。

 

 

 

【バルドル】に似たアーマーとマスクで全身を覆い尽くしたソレ。

その正体が何であるかを殆ど察しつつ彼女は意外な事に怒りを見せなかった。

ベネトナシュは強者こそが正しいと信奉する魔物染みた価値観で生きているが、己の言葉/行動から逃げたりはしない。

 

 

 

思考にかかっていた蜃気楼が消え去り元来もっていた性質と直感を取り戻した彼女は既に思い出していた。

何十年も前、己に魔神族の討伐を依頼しにきたある女のことを。

必死に家族の仇を取ってくれと懇願するその女に自分が何と言ってせせら笑い、追い返したかも。

 

 

 

断る。

 

下らん。何故私が貴様の復讐に手を貸さなくてはならない?

 

全ては貴様が弱いからだ。

 

その不幸は身の丈にあったモノでしかない。精々噛み締めろ。

 

やりたいのならば自分で好きにやれ。

 

最も貴様の様な雑魚が果たせるとは思えんがな。

 

 

 

 

 

 

どうやらあの女は果たしたようだった。

そうとなれば彼女はもう何も言えない。

自分がやれといったのだから。

 

 

 

ベネトナシュは何処までも己の言葉には忠実だった。

ふざけた行いをされてもその許可を出したのは自分だという事実を認めて飲み込む。

 

 

しかし後悔はなく恥もない。

彼女は変わらないし今でも当時の自分は正しいと胸を張って言える。

自分の家族が殺されたというのならばその報復は己の手で行うべきだ。

 

 

 

彼女だってかつてのプランにそうした。

結果的に逃げられたがそれでも復讐は自分だけのモノだという考えは捨てなかった。

 

 

 

それが出来ないのならば潔く諦めて平凡な人生を送っていけばいい。

何もおかしなことは言っていない。

せっかく命を拾ったのだ、出来ない事に注力してソレを無駄にするなどバカバカしいではないか。

 

 

 

ベネトナシュは決して変わらない。

弱者に同情などしないし哀れみもしない。

何処までも冷たい無関心だけがある。

 

 

 

しかし弱者からのし上がってきたものを認める気概は彼女にもある。

目を細め彼女は見極めるように魔女を見ていた。

少なくとも今この場で飛びかかるような事はしない。

 

 

しかしいずれ必ずあの不快なマスクもろとも人形を粉砕してやると決意を抱きながら。

 

 

 

 

 

 

ルファスとメリディアナ。

向かい合って座る彼女たちのちょうど中間地点にクラウン帝国皇帝ボレアリスはいた。

かつてのアルカスに匹敵する体躯を持ち、芸術とさえ評される屈強な肉体を持つ彼は腕を組み瞼を閉じてひたすら会談の始まりを待っていた。

 

 

 

クラウン帝国がミズガルズ最大最強の国家であることは過去より変わらない。

しかし今の彼の立ち位置はまさに天秤の狭間であった。

 

 

 

ルファスとアリストテレス。

いま世界を二分する二つの勢力において帝国と彼は時代のうねりに翻弄される小人でしかなかった。

兵器群はあらゆるインフラを掌握し、経済を調整し、物流網さえ管理している。

 

 

 

もはや国土の広さやら人口の数などという問題ではない。

ミズガルズ全土、全世界規模で兵器群は巨大な網を広げつつある。

彼らの作り出した技術や概念、学問が無限に流出しそれは世界を染め続ける。

 

 

 

純粋な戦闘力しか注目される事のないミズガルズにおいて情報戦、ミームの書き換えをアリストテレスは行い続けていた。

如何にルファスが強くとも不得手な面を彼らは徹底的についていく。

更に魔女が巧妙なのは決して敵対するルファスを罵倒したりはしないというところだった。

 

 

他者の悪口を口汚く吐き出したり、劣る点を指摘するよりも自分たちの理想を語る方が人々は受け入れやすいと彼女は知っているのだ。

他者を下げた所で自分が上がる訳ではないと理解しているのはさすがの年の功と言うべきか。

 

 

 

軍事力という点においてはもはや語るまでもない。

ルファスの果実によって着実にレベル1000の怪物を揃えつつあるクラウン帝国の軍さえ遥か彼方に置き去りにしている。

帝国の軍部の見立てでは仮に兵器群と戦端を開いた場合、1時間で帝国軍は壊滅するという試算が出ていた。

 

 

 

ソドム征服に駆り出されたエル級一体に恐らく帝国は踏みつぶされるだろう。

ちなみに窓の外に映る景色には此度の会談の護衛としてエル級が2機ほど駆り出されているのが見えた。

制圧を考えない場合はそれこそ秒もかからず何発ものエクスゲート弾道ゴーレムによってマルクトは消し飛ぶとも彼は聞かされていた。

 

 

 

 

かつて大陸遠征の際にマルクト近郊で行われた大規模な観艦式、アレを見て彼は直感的に悟ったのだ。

 

 

帝国の覇権は終わり、次の時代がやってくるのだと。

皇帝である彼を差し置いて堂々と観艦式で中央に位置取り、民衆に大陸解放を約束する演説を行ったのはメリディアナだった。

帝都マルクトの近郊で行われた事も含めてこれらは非常に判りやすい政治的なメッセージが含まれている。

 

 

 

“人類最大の力を持つのはアリストテレスだ”

 

 

 

“クラウン帝国さえ我々に比べれば取るに足りない”

 

 

 

そして果たされた民衆との約束。

魔女メリディアナは宣言通りに大陸を開放し人類は膨大な面積の土地を手に入れる事になった。

何せ大陸一つだ。それだけの土地が有れば出来る事など星の数ほどもある。

 

 

 

本来であれば歴史に名前など残らなかった筈の小さくて弱くて老いさばらえた女は今や誰もが無視できない存在になっている。

このボレアリスの半分以下の身長で、今も涼しい顔で席に座っている老人はチラとも皇帝を見もしない。

眼中にない。正にそれに尽きた。

 

 

 

 

無意識に皇帝は奥歯を強く噛み締める。

不甲斐ない己への憤りが彼を満たしていた。

竜王との戦争の時から彼はコレに襲われ続けている。

 

 

 

“劣等感”というには余りに彼我の差がありすぎた。

 

 

まだルファスが黄金の果実を配布していなかったころ。

かつてのアリストテレス卿が残した限定された技術によって生成された劣化品によるレベリングの限界はせいぜい400程度。

本来であれば十分に素晴らしい数値ではあったが竜の大軍団を相手にするには全く足りていない。

 

 

 

ハッキリ言おう。

当時のボレアリスは半ば諦めていた。

唯一竜王に比肩する強さを持つベネトナシュが全く動こうとしない状況の中で彼は共同体を裏切り竜王に服従するという道を本気で考えていた。

 

 

 

誤解しないでほしいのは彼は暴君ではないし、本気で民を愛し帝国の存続を第一に考える皇帝だ。

己の背負うモノの重さを真に理解し時にはソレを守るために非道な事をしなくてはならないと知っている本当の意味でノブレス・オブリージュを体現した王だ。

人類共同体に加盟したのも魔物や魔神族から国家を守るためだ。

 

 

 

しかし肝心要の共同体の最大戦力である吸血姫が怠惰と諦観に堕落し動こうとしないのであれば何の為の共同体かと彼が考えるのも無理はない。

実際にしっかりと稼働するからこそ防衛条約は意味がある。

もしも彼が、帝国が人類共同体に見切りをつけてしまっていたらその時点で共同体という枠組みは崩壊していただろう。

 

 

 

だがそれを押しとどめたのはルファスの存在だった。

アルカス帝の時代より現れアリストテレス家が王家にもっていた繋がりを利用し彼女は度々クラウン帝国と接触を続けていた。

長命な天翼族の中でも更に特異な彼女にとって250年と言う年月は体感としては長いが肉体面では全く問題にはならない。

 

 

 

 

彼は覚えている。

先帝に紹介されはじめて彼女と出会った時のことを。

何があっても彼女と敵対してはならないと代々言い含められていたこともあり最初はどうして帝国がたった一人を恐れているのかとさえ思っていた。

 

 

 

そして彼は太陽を直視した。

焼き付く程に近くで。

 

 

 

 

──私の名はルファス・マファール。

──次代を担う殿下とお会い出来て光栄です。

 

 

 

 

一目で理解できるほどに全てが桁違いだった。

僅かに燻ぶっていた見下しなど瞬時に吹き飛んでしまった。

言葉こそ丁寧だったが噴き出る覇気はどちらが皇帝なのか判らない程に圧倒的で、地上に太陽が顕現したようでさえあった。

 

 

 

そして迫る竜王の危機。

再び彼女は皇帝の前に姿を見せた。

黒い翼を広げ、世界に己の存在を見せつけると決めた彼女は確定事項の様にいうのだ。

 

 

 

竜王は私が倒すと。

その見返りは国だった。

怪物を打ち倒し国を得るなど夢物語でしかないが、彼女がやると決めればそれは現実になる。

 

 

 

それは何よりも喜ばしい言葉だったがそれでもボレアリスの懸念は消えない。

彼は皇帝であり勝利するとしても勝ち方を考えないといけない立場の者だ。

ルファスと彼女の仲間たちが勝利したとして、彼女たちだけが生きていても意味はない。

 

 

 

それは人類の勝利ではなくルファスの勝利でしかない。

 

 

 

更に仮に自分が竜王だとしたら厄介なルファスを避けて多方面に戦線を開くだろう。

もしくは竜の圧倒的な飛行速度を用いた一撃離脱戦法で都市に無差別爆撃を行うという点もある。

数は力であり、当時の竜王軍は異常なまでに竜を揃えていたのもあり実際に帝国はこれをやられた。

 

 

アイガイオンという空中要塞兼ね移動する竜の生産拠点は本当に厄介極まりなく、クラウン帝国はいつどこの町が吹き飛ぶか判らない恐怖に晒されていた。

 

 

ルファスが【エクスゲート】を使えたとしてもカバーできる範囲は限られており

手っ取り早く片をつけるために一気に竜を吹き飛ばそうにもそんな大規模な力を使えば星に影響が出てしまう。

 

 

 

勝利してもクレーターだらけの土地などどうにもならない。

 

 

 

どうあっても民の命は時間経過とともに減っていくのは明らか。

弱者に価値はないというミズガルズの在り方そのものが彼を蝕む。

 

 

 

帝国の降伏の為にルファスを竜王に売るという下策までふと頭によぎってしまうくらいに彼は考え───アリストテレスの力を見せられた。

単体での戦闘力はルファスには及ばないでもアリストテレス兵器群の戦力と彼らが齎した新アイテムはまさに世界観を変える。

 

 

 

苦悩するボレアリスの前に現れたのはあらゆる意味でルファスと正反対の老いて醜く弱い老人だった。

しわくちゃでシミの目立つ顔に白髪。

尖った鷲鼻に巨大な黒い帽子とローブという出で立ちは魔女としか表せない。

 

 

 

彼女は正確に皇帝の内心を言い当てて見せた。

その上でまだ共同体を見限るのは早いと諭され……結果があれだ。

 

 

 

「水」の超巨大スライムはひとたび展開されれば竜王軍のブレスによる爆撃から都市を守護し迎撃さえ可能とした。

誰であろうと携帯できるこれが行き渡った事で後衛の生存率も跳ね上がり、軍の編成は大きく変えることさえも出来た。

そして配布された「日」の結晶が齎した効能は語るまでもないだろう。

 

 

何せ一度だけではあるが死ぬほどの攻撃を受けても身代わりになってくれるのだ。

命の保険というものがどれだけありがたいことか。

 

 

 

究極の一ともいえるルファスと完成された群体である兵器群。

二者がいたからこそ人類は最低限の犠牲で勝利し今を勝ち取れた。

そしていま、彼女たちは魔神族という大敵さえ克服した。

 

 

 

全ての敵を排した人類の未来は明るい。

だというのにボレアリスの心は晴れない。

同じ時代に二つの怪物が産まれてしまった。

 

 

 

共に同じ起源をもつ両者はだからこそ相手を認められないのだろうか。

どちらも譲るつもりはない以上、衝突は避けられないだろうと彼は考えていた。

その上で帝国は選ばなくてはならないのだ。

 

 

 

いずれ必ず来るその日を憂鬱に思いつつボレアリスは時計を眺め続けた。

 

 

 

 

 

そして人類共同体の会談が始まる。

ルファス。ベネトナシュ。ボレアリス。

イカロス。ロードス。代理としてミザール。

 

 

 

その他さまざまな各国の王やその代理が集う円卓の議場において口火を切ったのはルファスだった。

彼女は集う者らの顔を見渡した後、低い声で言う。

ほぅ、とベネトナシュだけがその様子に感心したように表情を微かに変えた。

 

 

何だ、普通に王をやってるじゃないか、と。

 

 

 

「よく集ってくれた。我が友らよ」

 

 

 

「余は長々しい前置きは好まぬ。

 此度は共同体の未来について忌憚なき意見を述べてもらいたい」

 

 

 

人類の守護者にして共同体の事実上の指導者でもある彼女は言わば世界の王に最も近しい存在だ。

クラウン帝国さえもはや彼女の前ではもはや傘下であると言っていい。

歴史上においても片手の指で数える程度しかいなかった大帝国の支配者、ソレが今の彼女だ。

 

 

 

「知っての通り。魔神族は余が排した」

 

 

 

「かつて世界に君臨した四強はこれで全てが堕ちた。

 これからは我ら人類の時代が訪れよう。

 しかしそれは決して内紛の始まりを意味するものではない」

 

 

 

誰もが耳を傾ける。

あの白翼狂いのヴァナヘイム王イカロスでさえ。

傲慢とさえいえる物言いであるが彼女にはそれが許される力と実績があるのだから。

 

 

 

「結成より長く続いた我らの友情と団結。

 これを維持し更なる次元へと引き上げる事を余は望む」

 

 

 

女が薄く笑う。

蠱惑的な瞳に宿る紅い光は不気味でいながらも万人を魅了する。

根源的な本能を刺激され何人かが小さく喉仏を上下させた。

 

 

 

あのイカロスでさえこの化け物が本当にこんな醜悪な翼でさえなければと思う程だ。

最も翼が黒いという一点のみで彼は憎悪をルファスに向けるが。

 

 

 

「質問がございます。此度の作戦について改めてお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

 

 

最初に声を上げたのは対面して座るメリディアナだ。

王族でもないのにあらゆる種族の王よりも先に意見を述べる彼女に誰も文句は言えなかった。

ルファスが許可を出せば彼女は続けた。

 

 

 

「7421名。此度のソドムより救助された者らですじゃ。

 彼らは全てゾディアック国が引き取るのでしょうか?」

 

 

 

何の意味もない何度も繰り返し確認された応答だ。

しかし改めて各国の王の前で宣言する必要があった。

7400人というのは大所帯であり、いきなり何処かに準備もなく放り込むことなど出来はしないのだ。

 

 

 

「相違ない。一先ずは余が預かろう。彼らはまだ応急手当を済ませたばかり────そう急く事もあるまい」

 

 

 

既にルファスは彼らの社会復帰計画をくみ上げ終えていた。

混翼の者らに助力を乞えば彼らは素晴らしいまでの熱意で計画書を作り上げてくれた。

何せ既に一度体験した身、長所と短所など知り尽くしている故に。

 

 

 

何はともかくまずは療養し心身に負った傷を癒す。

全てはそこからだ。

魔女は恭しく頭を垂れて感謝を述べて引き下がる。

 

 

 

そこから先は特に何の面白みもない問答が淡々と繰り広げられる。

普段貴族同士で使う様な腹の探り合いや言質を取り合う様なつまらない競争はこの場にはない。

ルファスは次々と投げ込まれる質問に淀みなく答えていった。

 

 

彼女の中には明確な未来のビジョンが出来ていると誰もが判る程に受け答えに迷いはない。

かつてのユーダリルを見本に彼女は未来を見据えているのだ。

 

 

 

人類の敵が減少したことにより想定される人口の急激な増加に対する対策は?

 

 

 

“中央大陸を開拓し広大な農地を拓き食糧の供給量を向上させ、また雇用も創出する”

 

 

 

現在殺到している人類共同体への加入申請はどう処理する?

 

 

 

“立地や治安、情勢などを鑑みて段階的に受け入れていく”

 

 

 

残る深海国家とはどう接していく?

 

 

 

“既にエロス王より会談の申し込みが来ている。共同体の代表として余が行おう”

 

 

 

 

亜人たちへの対応を示してもらいたい。レベリングは行うのか?

 

 

 

“彼らには果実の配布は認めぬ。その上で近々自治区を作るつもりだ”

 

 

 

 

会議は長ければいいというモノではないと知っている故に質疑は黙々と続く。

飛行艇の空港の配置はどうするか、各国の輸入と輸出のバランスやこれからの道筋などについてが飛び交う。

誰にとっても意外だったのは吸血姫が以前までとは考えられない位に積極的に意見を述べた事だろう。

 

 

 

共同体の血流をたった一つの組織が管理するのか?

貴様らの機嫌を損ねた国は干上がれと?

 

 

 

飛空艇ばかりに頼った流通網へ疑問を投げかける彼女の言葉は遠回りではあるが兵器群への牽制も兼ねている。

何せミズガルズ中を結び合わせつつあるかのアルゴー艦隊を所持/運営するのはアリストテレス兵器群なのだから。

一つの組織が明らかに複数の国家を超える力を持つことに警戒を見せる彼女の言葉は誰もが思っていた事であるが口には出せなかったのもあり幾人かが小さく頷いて賛同を示す。

 

 

 

 

もっと早くそうしてくれればと誰もが思ったが口には出さない。

そして会議も終わりに近づくにつれルファスは先のベネトナシュの言葉を取っ掛かりに前から世界に堂々と宣言していた事を改めて通達する。

それを皮切りに会談も終わりが見え、少しばかり抜けてきた緊張が一気に引き締まっていく。

 

 

 

「人類は多くの脅威にさらされ続けていた」

 

 

 

「しかし余たちはその全てを打破しここに居る」

 

 

 

250年前から始まった竜王の脅威。

そして遥か過去から続いた人類の天敵たちの暴虐。

しかしどれも今は無い。

 

 

事実上人類共同体は全ての敵を平らげ、世界をほぼ統一したと言っていいだろう。

そしてその中においてルファス・マファールの影響力は増大し続けている。

このままいけば彼女はミズガルズの王になるだろう。

 

 

 

ただ一つ、アリストテレス兵器群の存在さえなければ。

 

 

だから。

 

 

 

「当初の予定通りだ。アリストテレス兵器群代表メリディアナに通達する」

 

 

 

魔女は深々と頭を下げる。

次に何と来るかなどもう判り切っている。

 

 

「改めて兵器群の解散を命じる」

 

 

そして段階的に兵器群が管理していた全ての航空網をはじめとした権限を分散すると覇王は魔女に命じた。

事実上の共同体からの追放/失脚命令ではあるがメリディアナは薄く微笑んでいるのだった。

 

 

 

 

この会談について後世の歴史家は語る。

覇王ルファス・マファールと兵器群が本格的に敵対する事になったきっかけの一つだと。

 

 






この後の22時30分のアニメが今から楽しみですね。
土曜日はいいルーティーンが出来そうです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。