ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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【第4382号工場稼働を開始】



【播種全工程問題なし】



【進捗速度1470%増】


────アンドロメダ銀河系拠点からの通信ログ。







オルム 状態異常 “凍結”

 

 

場が静まり返っていた。

ルファスが守護者の座についた当初から宣言され続けてきたアリストテレス兵器群の解散。

根強い反対といまだ魔神族がいるからという理由で延々と先延ばしにされ続けてきたソレ。

 

 

 

ミズガルズ中にルファスは黄金の果実を今こうしている間にも配り続けている。

誰であっても容易くレベル1000に至れる至高の逸品、アリストテレスの技術の結晶を。

その根幹に仕込まれた罠を知りつつ、決して己はアレに頼らないと眼を背けながら。

 

 

 

第三者が見たら皮肉な話だろう。

アリストテレスの建造した祭壇でアリストテレスが用意した果実を配りながら、アリストテレスの作った機構を解体しようとしているのだから。

その名前と力に頼りつつ一方では否定しているのだ、これを矛盾と言わず何とする。

 

 

 

「人類の敵は絶え、故に兵器群はその役目を終えたと余は判断した」

 

 

しかしその程度の矛盾など彼女は気にも留めない。

ルファス・マファールは、人類共同体に君臨する守護者にして覇を唱える王は傲慢に振舞う。

 

 

矛盾? 

だから何だ。既にアリストテレスは亡く、その亡霊が世界を這っているだけだ。

一人の男の行き過ぎた懸念から生まれた怪物たちはもう眠るべきだろう。

 

 

そうしてはじめて彼女と世界を取り囲む鳥かごは軋む。

 

 

 

「大義であった。この太平の世……其方たちの尽力がなければ成しえなかっただろう」

 

 

 

心からの言葉だった。

幾度も繰り返すがやり方はともかくルファスはメリディアナを本当に高く評価している。

アリストテレス兵器群は確かに強大だが彼女の采配がなければここまで規模を拡大させられなかっただろう。

 

 

 

「しかしここまでだ。この尊き安定を守るのは人でなくてはならないのだ」

 

 

 

全てをアリストテレスに委ねるのが最適解だとルファスとて判っている。

彼らは腐敗しない。彼らは言い訳もしない。

無限に研鑽を続け絶対的な精度で人々を守り続けてくれる。

 

 

ルファスが目の前の問題を解決しようと奔走している間に、世界中のあらゆる場所で起きている悲劇を防いでくれる。

今こうしている間にも世界の何処かで魔物や賊から皆を守り続けている。

それはどれだけ彼女が強くなろうと出来ない事だ。

 

 

 

共同体を悩ませていた汚職も起きないだろう。

ベネトナシュの様に弱者に対する無関心さもない。

アリストテレスの遺した機構は正にご都合主義ともいえる。

 

 

彼らに全てを任せる。

それがベストだろう。

だがあえてルファスはソレをしない。

 

 

 

アレを作ったプランを知っているからこそ、その裏に善意で塗装された狂気があるのを悟ってしまう。

 

 

あいつらはやる。

確実に。

具体的には判らないが、神を再現しようとする輩のやる事はきっとおぞましい。

 

 

 

「あれよりお考えは変わらないようで安心いたしましたぞ」

 

 

 

杖を撫でながらメリディアナは返す。

己の失脚を告げられているのに彼女は取り乱したりなどせず淡々としていた。

諦めたとも違うようだった。

 

 

 

老人は一礼し続ける。

 

 

 

「では。引継ぎの期間を頂きたく」

 

 

 

「我らの担う業務は多岐に渡りまする。

それら全てを一挙に閉じてしまえば共同体は未曽有の混乱に陥る事でしょう」

 

 

 

流通網の管理にインフラの建設に整備。

最先端技術の開発に造船に食料の栽培。各国に建設している病院と医学の研究もそうだ。

更に更に加盟国の上空に展開した防衛軍の管理と街道の警備。

 

 

そして情報の管理と検閲。

 

 

────マナを介した全人民の思想の誘導。

 

 

アリストテレス兵器群はまさに人類共同体の心臓と言える程に発展している。

 

 

それらを全て「はいおしまい」としてしまえば共同体は麻痺してしまうだろう。

および少人数ながらも在籍している生身の者らの再就職先の確保も大事だ。

いきなり今日から無職になれというのは余りに酷だ。

 

 

 

「……マファール陛下、ちょっといいか?」

 

 

 

手を上げたのはミザールだった。

今日の彼はプルートの代表として来ている。

つまり彼の懸念は全ドワーフ、プルートの懸念だ。

 

 

本来ならば仲間として砕けた口調で話す事も多い彼だが、今日は幾らか礼儀を弁えた口調だった。

もちろんルファスはドワーフたちの考えもよく判る故に「構わん」と答えた。

背後に最近完成したばかりの最高傑作の「娘」を控えさせた彼はルファスの瞳を見ながら言う。

 

 

 

「プルートは今や兵器群と一心同体の身だ。殆ど彼らの依頼を受けて生計を立てていると言っていい」

 

 

 

「それをいきなり全部やめろと言われたら……俺たちは破産しちまう」

 

 

 

プルートはそのルーツからアリストテレスの手が入った国だ。

祭壇の存在はもちろんのこと、拡張性も含めた全てが彼らの庭といっていい。

つまるところアリストテレスの役に立つことがプルートの存在理由だ。

 

 

ソレを全ていきなり抉ってしまったら国として崩れてしまうのも頷ける話だろう。

ルファスは頷いた。

彼女は王である。多くの命と人生を背負う重さを決して忘れまいと努力し続ける女王だ。

 

 

 

「兵器群が担っていた業務を分野ごとに解体し、各国が担う事とする」

 

 

 

それは余りに集中しすぎた権力の分散だ。

例えば医学の研究と管理はエルフ。

最先端軍事技術は引き続きプルート等と言ったように。

 

 

 

アリストテレス兵器群はその存在を分解され全てを人類に還元する事となる。

もちろん加盟国の上空に展開されていた防衛軍も段階的に廃棄され、その代わりに国家を守るための力として果実が配布される。

一応のアイテム生産施設としてプルートは残り続け、規模は大幅に縮小されるだろうが時間断層も健在だ。

 

 

 

 

このやり方はうまくいけば潤滑に全てが回るだろうが、現実はそう上手くいくかは判らない。

必ずパイの奪い合いになるだろう。

どの国もうまみのある部分……例えば流通網の管理などは是が非でも欲しい筈だ。

 

 

ルファスがしっかりと手綱を握る事が出来ればよいが、そうでない場合はまた腐敗と停滞へ逆戻りする可能性もある。

しかし一番彼女が予想外だったのは魔女メリディアナの反応だった。

彼女は聞き分けがよい。恐ろしい程に。

 

 

あれだけ粘って見せると豪語していたのが嘘のようだ。

いま自分が全ての権力と財産と、人生を賭けて積み重ねていた物が奪われようとしているのに何も動じていない。

それでいて悪意もない。少なくともルファスにはそう見えた。

 

 

 

 

「この老いぼれもようやく肩の荷を降ろせそうで安心しております」

 

 

 

魔女は嫌味かどうか判断に困るセリフのあと、何事でもない様に言った。

 

 

 

「しかし困ったものですな。我々の担っていた分野は余りに多くての。

 全てを細分化などしたらそれこそ形作られる組織の数は十や二十では足りないかと」

 

 

 

「話し合いが必要でしょう。ある程度まとまった分野で切り分ける為にも」

 

 

 

もちろん積極的に協力する旨を魔女は続けた。

王たちは余りにその無欲ともとれる姿に微かな違和を覚えたが、まぁいいと流す。

もともと権力に興味のない人物だったのだろうと。

 

 

 

プルートの加工施設出身であるらしいが、ならば魔神族への報復が人生の目的だったのかもしれない。

それを果たしたいま、満足したのだと多くの者は納得した。

 

 

 

それはそうと余りに巨大なケーキが共同体に参加した王たちの前にはあった。

十や二十では足りないというが、実際は二十程度しか切り分けられないということだ。

いや、そもそもどういう風に切ろうかの計画さえまだ完成はしていない。

 

 

そして誰がどの部分を食べるかもだ。

今まで余りに受益しすぎていたプルートやクラウン帝国が美味い所を独占などしたらそれこそ共同体の内部で不満がたまるだろう。

野心と期待でぎらついた瞳を王たちは見せた。

 

 

同時に幾人かがメリディアナに視線を送る。

“本当にいいのか?”と問いかける様に。

彼らは魔女/アリストテレスの支持者たちであった。

 

 

 

アリストテレスの計画を全てではないにせよ大まかに明かされている彼らは目配せをしあった。

既にもう引き返せないのだと悟る様に。

 

 

 

そして会議は優雅に踊り始める。5時間にも及ぶほどに。

その結果、出来たのは大まかな時間の指定だけだった。

 

 

 

2年を目安に兵器群はミズガルズの表舞台から姿を消す。

それだけが確定したのだった。

これで世界は平和になり、ルファスがミズガルズを統一する下地は整う事となる。

 

 

 

最も平和で豊かな黄金の時代がミズガルズに齎されたのだ。

少なくとも表向きは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

諦めたように瞼を開く。

欠片も湧いてこない眠気にうんざりしながらルファスはベッドから起き上がった。

今の様に定期的にルファスは不眠に陥る時があった。

 

 

 

 

256年経とうとあの時のトラウマはいまだ消えず。

深く眠るという行為を彼女は本質的に恐れていた。

また自分が何も出来ない間に大切な誰かが消えてしまうのではないかと。

 

 

 

世界に打って出て、多くを見て多くの人と出会い、ルファスの世界観は広がった。

当然彼女が守りたいと思う者も増えた。

 

 

 

アリエスやカルキノスを始めとした十二星天。

自分を信じてくれるゾディアックの民。

そしてメグレズを始めとした自分に力を貸してくれる仲間たち。

 

 

 

 

ルファスの身体は彼女の望みに何処までも答えてくれる。

たとえそれが結果として彼女の不利益になったとしてもだ。

生きたいと思えば法則を捻じ曲げてでも生命活動は活性化するし、宇宙空間でも平然と行動できるようになる。

 

 

 

しかしそれは裏を返せば死にたいと思えば死んでしまうということだ。

その法則に従えば彼女は何処かで眠りたくないと願っている故に肉体は睡眠という概念を手放そうとしている。

宇宙でも深海でも活動できる女神の雛形が彼女だ、睡眠と言う概念さえ超えてもおかしくはなかった。

 

 

だがそれでも彼女はコレを手放そうとはしない。

ただ一言、母が贈ってくれた言葉が彼女を繋ぎとめている。

かつてのプランの様に何処か己の身を顧みなくなってしまった娘を思う言葉が。

 

 

 

ちゃんと疲れたら眠るのよ……。

 

 

 

もう居ないプランとは違う、彼女の戦う理由の一つの言葉をいまだ彼女は捨てられない。

ただのルファスとしてリュケイオンで生きている間は最も安心できる場所なのもあり表面化はしなかった。

眠れない時は暖かいお茶でも飲んで気まぐれに読書か散歩でもしてゆっくりと時間を潰す事も出来た。

 

 

 

しかし王になり本当の意味で信頼できる者が少なくなった現状ではそうもいかない。

結果、眠れない時は王として必要な知識の会得や世界の変化についていくための勉学に励むことが多かった。

だがここはソドム、己の居城でもなく今は綺麗に清掃されたとはいえ元は魔神族の居城だ。

 

 

 

既に徹底的に敷地内は清掃され、罠や変な仕掛けがないかも念入りに確認されている。

更には城下には複数のエル級をはじめとした軍団が展開され、ベネトナシュにルファスさえ滞在するこの地は今は世界で最も安全な場所だ。

しかしそれでも、だからこそルファスは眠れない。

 

 

匂うのだ。

 

 

余りに鋭敏になりすぎた感覚は消しきれなかった血の匂いを感じてしまう。

かの戦いで数えきれない程の魔神族が霧散しマナに還ったのもあり、今のソドムのマナ濃度は非常に高い。

そしてソレが宿した記憶を彼女は嫌でも見えてしまう。

 

 

 

屍山血河の跡地。

どう見繕っても万単位の命がここで潰えたのが見える。

 

 

そしてもう一つ。

今日彼女は明確に過去に決別を言い渡した。

アリストテレス兵器群の解体だ。

 

 

 

プラン・アリストテレスの遺した遺産、自分たちの未来を守るために残されたソレを彼女は終わらせた。

厳密には2年後だが……終わらせた。

今こうしている間にも世界を守り続けている機構を停止させたのだ。

 

 

 

正しい判断だと彼女は断言できる。

違う。そうでなければならない。

これだけ多くの人々の人生を左右する決断をしたのだから。

 

 

 

「…………」

 

 

 

上半身を起こし窓の外を見る。

月は天高くまだまだ夜は長いようだ。

一応部屋の壁などを確認する。

 

 

とりあえず今日も大丈夫らしい。

 

 

 

何度かアイゴケロスやスコルピウスが埋まっていたことがあるからだ。

どうやら彼らは眠っている間に夜這いをしかけようとしたらしく翼が全自動で迎撃してしまったらしい。

結果、ほぼ瀕死で壁にめり込んだり窓の外に吹き飛ばされてたりしたことが幾度かあった。

 

 

 

十二星天の配下を信頼しているルファスではあるがソレはそれである。

本来ならば主、それも女の部屋に許可もなく忍び込むなど斬首されてもおかしくない所行である。

仲間に甘いルファスをして少し嫌だなと思う程度の行為だ。

 

 

 

そして“嫌だな”という心を受け取った翼は例外なく稼働し、容赦はなかった。

 

 

さすがに何度も死にかければ彼らも学習したらしくそういったことはしなくなったのは良い事ではある。

ちなみにルファスは知らない事だがゾディアック国においてルファスが就寝中にどうしてもという用事がある時はアリエスを頼る様にと言われている。

唯一彼だけには翼が迎撃を行わないからだ。

 

 

 

 

本当に久しぶりに彼女は微かに湧いてきたただのルファスとしての欲求に従う事にした。

何の目的もなくただ少しだけ散歩をするという欲求だ。

そうと決まれば紅い外套を手に取り歩き出す。

 

 

 

部屋を出て数歩進めば直ぐに【エクスゲート】が開かれ青髪の少女──ディーナが姿を現した。

万能を通り越し全能と言える力を持つ彼女であったがさすがにほぼ無休で人々を癒し続けたせいかその顔に浮かんだ疲労は色濃い。

ルファスはそんな彼女を尊いモノを見る様に目を細めた。

 

 

自分では出来ない戦いを彼女たちは行ってくれた。

ただ目の前の敵を倒すのではなく、傷ついた者らを癒しその痛みに寄り添う戦いを。

 

 

 

かの“怪物”を打ち倒すだけではなく救う事が出来たのは間違いなく彼女たちの助力があったからこそだ。

ただ殴って粉砕しただけではきっと深く接続されたソドムの者らも只では済まなかっただろう。

 

 

 

「ルファス様」

 

 

 

「良い。供回りを許そう……。それはそうと、これを羽織るといい」

 

 

 

何時もの薄着とは言えないまでも冷える真夜中に出歩くには向いていない衣服のディーナに対しルファスは青色のマントを【エクスゲート】から取り出して渡す。

アリエスの羊毛をふんだんにあしらわれたコレはとてもモコモコしており昔はルファスもよく使っていた、言わばお古だ。

主の予想だにしなかった行為にディーナはしどろもどろになりながら感謝を述べる。

 

 

 

「ぁ、りがとうございます……」

 

 

 

「暖かさは保障しよう。何せかつては余も愛用していた」

 

 

 

薄く笑えばディーナは呆気にとられた様な顔をした後にはにかみながらマントをぎゅっと握りしめた。

本当に暖かい。身体も、心も。

覚悟して行ったとはいえ【ケバルライ】を通して受け入れた壮絶な痛苦の記憶と冷たい感覚がじんわりと解けていくようだった。

 

 

 

きっとこれはエリクサーでも出来ない治癒効果だろう。

暫く二人は無言で歩く。

ルファスが先導しその後ろをディーナが付き従う。

 

 

 

幾つかあるソドムの城塞の尖塔。

その中で最も高く星空を拝める場所にたどり着いた二人は腰を下ろし暫し輝く天を眺めた。

 

 

 

ほぅとルファスは微かに吐息を漏らす。

星はいつも変わらない。

ずっとそこに在り、輝き続ける。

 

 

 

 

星は何時だって綺麗だった。

ヴァナヘイムで母と共に虐げられていた時も。

リュケイオンで彼に教えてもらった時だって。

 

 

そして今、かつては夥しい悲劇を産み出したソドムの街から見上げた星も変わらない。

彼女は大きく変わり続けた。

良くも悪くも。

 

 

強くなって、王になって、色々な責任や命を背負う立場になった。

そしていま自分とは違う正義を掲げていた者の人生を踏みにじりもした。

全てが変わっていく中、変わらない星は彼女にとって……。

 

 

 

「いいものだな」

 

 

 

無意識に声が漏れる。

ディーナは一瞬だけ驚くが直ぐに同意を示した。

 

 

 

「仰る通りです」

 

 

 

そして数分間沈黙し星を見つめていた彼女たちだったがディーナは自分がルファスの前に姿を現した目的を思い出し口を開く。

 

 

 

「ご命令通りパルテノス様に接触しました」

 

 

本来ならば決して表舞台に出ることなき十三番目の星がその姿を晒す例外。

それがかつての女神の僕パルテノスだ。

 

 

 

聖域の乙女パルテノスはディーナを除けばこの世で最も女神を知っている存在だ。

また究極の天法使いである彼女はもう一つ特筆すべき力をもっている。

即ちパルテノスは女神の思考誘導を無効化できるのだ。

 

 

 

女神の放つソレはまず天力を媒介に行使される。

天力の持つ“元々存在するものを補強する力”という性質をもって感情を強化/増幅し己の手駒に変えていくのである。

しかしパルテノスはその天力そのものを完璧にコントロールできる故にソレは通じない。

 

 

 

つまり裏切られる可能性はないということだ。

極秘の計画を立てるルファスには必要不可欠の共犯者だ。

朧ながらルファスは終着点を定めつつある、その為には事情を知っている共犯者は必要不可欠だ。

 

 

 

「苦労を掛ける。余は本当に人に恵まれた」

 

 

 

はははと笑うルファスだったがその顔には少しばかり影があった。

理想と夢の為に戦っても戦っても果てが見えない現状にさすがに少し疲れたのかもしれない。

女神に弾劾を叩きつける為に動いていた、しかし現実はこれだ。

 

 

 

プランの用意した平和の中で生きて、アリストテレスの作った機構の中で王になった。

プランが編み上げた兵器群と権力闘争をし、目の前に用意された全人類の支配者の椅子もアリストテレス製だ。

何もかも掌の上でしかないと彼女が思いそうになっても仕方のない話だった。

 

 

 

何処に飛んで行っても結局はアリストテレスの鳥かごの中から出れない。

レベル限界と言う枠組みを超えた筈なのに目の前には新しい枠がある。

レベルだけ上げても意味がない。

 

 

 

4200でも足りないのならば何処まで行けばいいのだろうか。

 

 

 

 

「兵器群は……あれで諦めるでしょうか」

 

 

 

ディーナは懸念を述べる。

一応彼女は会談の内容を全て知っている。

ルファスが本格的に兵器群への圧を強め始めた事をだ。

 

 

 

現状アリストテレスの危険度は女神と同等以上だ。

彼女たちの計画の一端がソドムで明らかになったのは大きく、チラリと見えたその影は余りにも傲慢だ。

まさか神を創り出すなどとは。

 

 

 

「あの老婆は決して諦めんよ。アレは……あれらはきっと……もう止まれないのだろう」

 

 

 

現状で何をするかや、どうするか、などと言う理論云々の前に決してソレだけはないとルファスは確信している。

断固として彼らは諦めない。アリストテレスの負の側面を受け継いだ後継者たちは。

だからこそ厄介なのだ。

 

 

 

2年。

長いようで短いこの期間の間に何かを間違いなく仕掛けてくるとルファスとディーナは確信していた。

しかしだからといって止まる気はない。

 

 

 

……現状は全てが順調だ。

とりあえず表向きは兵器群は正式に解散を決定し2年後には世界から消えてなくなる。

傍から見れば覇王ルファス・マファールが権力闘争に勝利したと映るだろう。

 

 

 

実際そうである故に彼女は何も言うつもりはない。

己の目的に邪魔だから彼女は多くの人々を助けていた彼らを排除したのだ。

 

 

 

────そうまでして己の立ち位置を固めた後にルファスは宙の先を目指す。

 

 

 

 

「しかしそれは余も同じことだ。必ずや女神に我が声を叩きつけて見せる」

 

 

 

「悲劇と死で回る世界など間違っている。そのような世界の構造があの者らを産み落としたのだ」

 

 

 

かつてはルファスもメリディアナも被害者だった。

奪われる側だった。

余りに苦しくて悲しくて、悶えながら先に進み続けた結果がいまミズガルズで衝突している一対の怪物である。

 

 

 

 

どうすれば女神に届くか、ずっとずっと彼女は考えていた。

あの日からずっとだ。

しかし答えはすぐそばにあったのだ。

 

 

 

この世界そのものが女神の発動させた魔法だ。

つまり魔法であり天法でもある。

もっと言えばマナにも等しい。

 

 

 

で、あれば。

マナと極限とも言える高みで順応するルファスならば全てを取り込めるのではないか?

いまだ理論は完成せず、空論でしかない。

 

 

宇宙を吸収するとしてもその間、民たちはどうするかなどの問題もある。

まさか一緒に取り込むわけにもいかない。

 

 

 

だがルファスは確信していた。

あの怪物の放った銀河を迎撃した時、彼女は銀河一つ分のマナを掌握しニュートロンスターを経由しアロヴィタイトに変換した。

ならば理論上であれば黄金の果実にだって出来るはずだ。

 

 

 

 

まだ銀河一個程度。

残りは数千億か京か、はたまたもっとか。

しかもそれだけやってようやくスタートラインであり女神の前に立ったとしても何が出来るかなど判らない。

 

 

だがルファスは決めた。

必ず果たして見せると。

 

 

 

宇宙を取り込む。

何とも荒唐無稽な話だがディーナは笑わない。

彼女は祈る様に手を合わせ主に訴える様に言う。

 

 

 

「ルファス様……どうか宙をお掴み下さい」

 

 

 

まるで星空に願いを託すように。

遠い星に思いをはせる様に彼女は祝詞を捧ぐ。

 

 

 

「どのような結果になろうと、私は貴女を信じます。

 貴女と共に進み……必要とあればこの命が絶えても悔いはありません」

 

 

 

「……違うな。少し間違っているぞ」

 

 

 

ルファスは小さく頭を横に振る。

ディーナの決意は嬉しいが一つだけ訂正しなくてはならない。

彼女は己の星の欠損を認める気はない。

 

 

 

「共に進むと言ったのだ。全てが終ったその時、その場には其方も居なくてはならない」

 

 

 

「死ぬことは許さん───決してな」

 

 

 

 

十二星天はルファスが集めた彼女だけの宝石だ。

昔、まだ無力で愚かだったころ愛しい人と共に見あげた星、黄道になぞらえて集めたルファスの願いの欠片。

共に覇道を歩むと決めた同志たちだ。

 

 

 

失う痛みを知る彼女は今あるモノへの執着が更に強くなっている。

共に戦う仲間たちに母にリュケイオンの人々。

王として不甲斐ない点も多い自分を必死に補佐してくれる混翼の者達に民たち。

 

 

 

まだまだルファスの両腕では抱えきれない多くの人々。

そんな全ての人々と彼女は未来に進みたいと願っていた。

 

 

 

 

王として何と中途半端な事か。

時には部下に死ねと命令しなくてはならない立場だというのにソレを彼女は拒んでいた。

必要とあれば代わりの代表など幾らでもいるメリディアナに平然と命を投げ捨てさせる兵器群とは対照的である。

 

 

 

彼女は欲張りなのだ。全て自分のモノである故に捨てる事が出来ない。

出会った時からそんな彼女の性質を知っていたディーナは苦笑した後に「はい」と頷くのだった。

 

 

 

 

全ては残り2年で決まる。

これはミズガルズ歴2798年のある日の話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔神王オルムは夢を見ている。

ミズガルズの何処かにある兵器群が管理する施設に収容された彼は完全に停止した時間の中で微睡んでいた。

体内に撃ち込まれたマナ・キャンサーが彼の自我を封じ込め夢うつつの中に捕らえている。

 

 

 

同時に彼の持つ権限を介して常にミズガルズの根底にある領域に兵器群はその権能を伸ばしていく。

最終的にはこの世界の全てを掌握するために。

そしてその先、向こうに、外に広がり続ける為に。

 

 

今の彼は生体部品である。

何、女神の人形がアリストテレスの歯車に転職しただけだ。

そして道具に意思などいらないとアリストテレスは考えていた。

 

 

 

……そういえば。

最近何やらミザールとか言うドワーフは旧式の部品を組み合わせて非効率としか言いようがない妙なゴーレムを組み立てて心を与えたい等と述べていた。

アリストテレスからすれば笑い話でしかないが。

 

 

あんな陳腐な旧式のブラキウムしか搭載されていないガラクタに何が出来るというのか。

 

 

 

 

 

思考させなければ脱出もされない。

簡単な話である。

しかしそれでもなお彼は無意識に問いかけ続けていた。

 

 

 

────何故だ?

 

 

 

流れ込んできた膨大な敵意と害意/殺意。

途方もない程のソレを受けて彼は……意味が判らなかった。

 

 

 

完全な生命体でありこの世に今は5柱しかいない龍には人のソレが判らない。

人が愛する者へと向ける強い想いと、それを奪われた時の怒りが。

 

 

 

お前たちは生きているのだからいいではないか。

親しい人が死んだ? 

だから何だ。人類など幾らでもいる、代わりを作ればいいではないか。

 

 

 

 

だが、だが……。

勇者たちも決まって同じことを言っていた。

大切な者の為…………愛する者の為。

 

 

 

“愛”

 

 

 

その概念を彼は分からない。

心を痛めた事すらないのだから。

 

 

 

 

だがしかし────もしもソレを自分が得る事が出来たのならば。

 

 

 

 

そうやって彼は思い続けるだけだ。

少なくとも今のところは。

 

 

 

 

 




アニメ放映も順調でとても嬉しい限りです。
特にアニメだと子羊のアリエスがものすごいかわいいですね。


後はEDも本当に素晴らしい出来で感動しました。










そしてあともう一回は腹パンしたいです

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