ラスボスからは逃げられない!   作:宇宙きのこ(ミズガルズ産)

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アリオト(マリオネット) 装備『マリオネット(アリオト )

 

 

“一致団結”

 

 

己の内側に深く意識を潜らせて繋げる。

自分は一人であって一人ではない。

体中に満ちる微小な存在全てと団結するのだ。

 

 

 

瞼を開く。

万分の秒にも満たない精神統一の後に来るのは滲むような充足とどこまでも透き通った思考だった。

体調は万全、精神は完璧。全ての要素が至高にまで高まった状態でアリオトは眼前の敵を見やる。

 

 

 

本来ならば一人で挑むなどありえない怪物がそこにはいた。

牙をむき出しにし唸りを上げる超巨大な紫の獅子───獅子王レオンが彼の前にはいた。

獰猛で凶悪な瞳には殺意が充満しアリオトにソレを向けている。

 

 

 

 

ニタアと涎をたらし王は残忍に笑う。

まだ一人雑魚が死にに来たかと。

中央大陸に君臨していた怪物は惨めでちっぽけな挑戦者を前に嗜虐もあらわに右腕を振り上げた。

 

 

 

ミシ、ミシと殺意が充満し空気が震える。

ただ腕を振り上げただけ。

それだけなのに獅子王から放たれる圧力はどうしようもなく死を連想させる。

 

 

 

そして落とす。

ネコ科の動物がそうするような単純なパンチ。

猫がやるのを見ている分には微笑ましいモノだが、獅子王のソレは大陸が揺れる破壊力を齎す。

 

 

 

しかしアリオトからすれば余りに……無駄だった。

技巧も工夫も戦術もないつまらない野生動物の動きだ。

子供のころ父と共にクマなどを駆除したことがあったが、あれよりもつまらない。

 

 

 

獅子王は確かにステータスだけ見れば最強の魔物だ。

ルファスがそうなったように力だけで全てを押し通せるのならば無駄な技術や能力などいらないというのも一理はある。

しかしそれはこの世界において自分に比肩する存在が永遠に発生しないという前提の話。

 

 

 

つまりもしもの時に備えた奥の手がないのだ。

全能力が高水準とは言えそれがないということは、つまり自分よりも格上が現れた場合はどうしようもない。

 

 

 

タンっと横に跳ねて軽々と躱す。

大地に亀裂を作り膨大な土砂を吹き上げたせいで獅子王はアリオトを一瞬だけ見失う。

アリオトの瞳が鮮やかな蒼に染まり、瞳孔は眩く輝く。

 

 

 

【観察眼】

 

 

 

本来ならば相手のステータスなどを読み取る能力。

しかしアリストテレスがそうであるように彼のソレもまた別種のモノへと変異を遂げていた。

構造上どうしても発生する弱点、つまり切断しやすい箇所の可視化だ。

 

 

 

獅子王の体に無数に浮かび上がる断線。

それは理屈上、切断が可能/容易な部分だ。

完璧な入刀の角度と適切な力さえあれば子供でも切断可能な部位がアリオトには見えた。

 

 

獅子王の全身を覆う体毛はあらゆる斬撃や殴打に対して強い耐性を持っているが、そんなのもはや意味がない。

アリオトが切ると決めた、その時点で切断は決定される。

勇者の願いに応じて剣が微かに蒼く輝く。

 

 

 

マナを介しアリオトと剣は一つとなり、アリストテレス兵器群の補佐が入る。

確定した勝利を観測し、そこから逆算して勇者はその身体を突き動かす。

 

 

 

銀の長剣───マリオネットを振るう。

もはや握っていることさえ忘れる程にソレは彼の手に馴染み、どこまでもアリオトの理想の剣筋を生み出してくれる。

今だって曇り一つない刀身が音もなく獅子王の右腕にスっと潜り込み、何の抵抗もなく両断する。

 

 

 

 

「─────!!!」

 

 

 

 

それだけで数十メートルはある巨大な右腕が切り飛ばされ獅子王は絶叫を上げて倒れる。

濁流の様に吹き出る大量の血。

アリオトはマントをはためかせ、返り血を一滴も浴びることなく獅子王に接近し更に剣を容赦なく振るう。

 

 

身体はどこまでも軽かった。

相手は“四強”だというのに一方的で容赦ない惨殺劇が続く。

 

 

 

一閃。

右足が飛んだ。

 

 

一閃。

左足が落ちる。

 

 

一閃。

最後に残った左腕も切断。

 

 

まだ食事の時にステーキをカットする方が困難だと思えるくらいに獅子王はみるみると解体される。

充血した瞳に憎悪を滾らせ自分を睨みつけてくる獅子王の眼前に迫ったアリオトは無表情で淡々とマリオネットを操演する。

 

 

 

腕が握った剣ごと消えた。

一秒を一万に分割し、さらにそれを万分の一に分割した時間の後────獅子王の全身に“線”がうっすらと浮かびあがる。

それに気づかず獅子王は怒りのままに吠えようとして崩れ落ちていく。

 

 

 

 

ボロボロと積みあがる数千にも及ぶ四角い肉塊。

それはかつて獅子王と呼ばれた存在のなれの果て。

余りにあっけない死に方ではあるが終わりとは得てしてこういうものだろう。

 

 

これはもしもの光景。

もしも彼がルファスの影響下から脱すれば数時間後には確実に訪れる未来だ。

幸か不幸か本人は知る由もないようだが。

 

 

 

 

剣を鞘に納めアリオトは暫し佇む。

数秒の残心を終えた後にようやく彼は口を開いた。

 

 

 

「本当にこれは再現できてんのか?」

 

 

 

“四強”と戦えると聞いてワクワクして挑んだ結果があまりに拍子抜けだったせいか彼の言葉は何処か硬い。

戦いの終了を意味するBOOOOOという警告音が周囲に響き【バルドル】を模したゴーレムがアリオトに近づいてくる。

 

 

 

 

『ご苦労様でした。獅子王再現体程度ならば既に問題はないようですね』

 

 

 

「本当にこの程度なのか? レオンって奴は」

 

 

 

肉塊の山にゴーレム達が群がり掃除を始めている様子を指さし先と同じ疑問を発する。

獅子王レオン、ルファスが作り上げた十二星天における獅子座。

単純な力だけならば星天の中でも最強と言われるらしいが、どこが強いのかアリオトにはさっぱりわからなかった。

 

 

 

彼の中にある強者の基準はルファスやベネトナシュ、アリストテレスという異次元な者たちばかりなせいもある。

 

 

 

『オリジナルには及びませんが、それでも極めて高い再現度なのは間違いありません』

 

 

 

種明かしをするならば今アリオトが斬殺したのは獅子王であって獅子王ではない。

ベネトナシュがそうだったように血液というサンプルから培養され製造された彼の複製だ。

中央大陸解放時に得られた血液を元にレオンは製造されたのだが……既に兵器群は彼の量産を中止していた。

 

 

 

理由は単純。

弱いからだ。

確かに製造が完了した再現体は基礎的なスペックだけ見れば当たりに見える。

 

 

実際これはオリジナルのレオンの7から8割程度の戦闘能力は保持している。

その程度の割合でも並みの魔物など歯牙にもかけない程に強かったはずである。

 

 

しかしそれだけだ。

獅子王はどれだけ強くしてもベネトナシュの様な不死性はなく、はたまた魔神王のような強力な固有スキルもない。

しかも全長100メートルを超えた獅子はそれだけで取り回しが悪く、何より気性に難がある。

 

 

 

吸血姫はまだギリギリとはいえ人類の範疇にあったのだなと思う程に獅子王は制御が面倒だ。

 

 

獅子王は精神の変動が激しすぎるのだ。

とんでもない癇癪もちと言っていい。自我を取り払った結果、さらに獣性が増して面倒になった。

こんなものを量産するならば旧式の昆虫やギガ級の方がコストもかからず従順で信頼度は雲泥の差だ。

 

 

更にはエル級などを始めとした革新的な次世代型の生産も始まった以上、これらに居場所はない。

 

 

 

故に兵器群は完成しつつあるアリオトの性能テストと廃棄処理の二つを同時に行った。

そして結果はこれだ。

古い時代の強者は新時代の勇者によって解体処理された。

 

 

 

『体調に問題はありませんか?』

 

 

 

「大丈夫だ。疲労も何もない」

 

 

 

何千と剣を振るった後だというのにアリオトに息の乱れはない。

汗一滴もなく全く何の問題もなかった。

獅子王があと100体出てきても問題なく処理できるなと彼は傲慢ではなく冷静に分析していた。

 

 

 

彼は既にベネトナシュに迫る力を得つつある。

ルファスさえいなければ彼こそ人類の守護者、ミズガルズ最高の栄誉を得られただろう。

しかし今はまだ足りない、これほどの力を持ちながらもいわば孵化したばかりの雛の様なもの。

 

 

 

ゴーレムの瞳がぴかっと一瞬だけ輝きアリオトの状態をチェック。

アリオトという物質を構築する原子と同サイズのアト・ゴーレムたちは問題なく稼働しアロヴィタイトの力を勇者に与え続けている。

マナ・キャンサーの応用で作られた極めて“力”と相性の良い強化細胞への置換も問題なく進んでいる。

 

 

 

 

 

最終的にこの有機物と無機物は互いの長所を混ぜ合わされ、彼はレベルという概念からルファスとは違う形で逸脱することになる。

だが現時点で既にアリオトは永久の活力/体力を得ている。

彼はもう疲労という概念を卒業し、仮定の話ではあるが100年だろうと1000年だろうと一瞬も休まず最高効率で剣を振るえる程に強化されていた。

 

 

 

人の手で神を作る。

人を神に押し上げる。

アリストテレスが目指す理想図を彼を通して順調に実現しつつあった。

 

 

 

獅子王の肉片を手早く掃除し終わった後にゴーレムはアリオトに声をかけた。

 

 

 

『一度休憩なされますか?』

 

 

 

「いや。次の奴を出してくれ」

 

 

 

『畏まりました』

 

 

 

 

ゴーレムが一礼し退去するとブザーが響き周囲が結界で覆われていく。

周辺への被害を防止するこれはいわば闘技場を生成しているといっていい。

完全に周囲一帯が隔離されると眼前に【エクスゲート】が開かれる。

 

 

 

 

唸り声を上げて暗黒の回廊から現れたのは竜。

それもただの竜ではない。

十の首を持つかつてミズガルズを震撼させた怪物───“竜王”ラードゥンだった。

 

 

 

 

しかし二十の瞳には何も映っていない。

もはや悪意と破壊衝動さえ残っていないこれは本当にハリボテだった。

しかし戦闘能力だけならば先の獅子王と互角かそれ以上だろう。

 

 

 

だがそれでも獅子王程度だ。

普通ならばとんでもない領域の話ではあるが限界を超えた世界に歩を進めつつある剣の怪物にとっては少々物足りなく───。

 

 

 

“一致団結”

 

 

“接続完了”

 

 

 

ガクンと全ての首が同時に大きく震えた。

空っぽの器にそれを最大限に活用可能な意思が送り込まれる。

かつて世界に覇を唱えた存在が動き出し……剣士は無意識に歯をむき出しにしていた。

 

 

こいつならさっきよりは斬るのが難しそうだ。

何と素晴らしいことか。

それでいて先はまだ見えない。

 

 

 

自分の限界はまだまだずっと上にある。

それこそあのルファスに届くかもしれない場所に。

何処まで無限に強くなっていく己にアリオトは奈落の様な満足を嚙みしめてまず一つ竜王のそっ首を刎ねるのだった。

 

 

 

即座に再生が始まる。

ブクブクと切断面が泡を立てて盛り上がるのを見ながらアリオトは思う。

こいつはある程度生かしておいてやれば永遠に刻んで遊べるな、と。

 

 

試したい動きは無数にある。

頭の中で思い描いたソレを片っ端から試そう。

もはや自分の敗北など考えもしない────この程度に負けたのならば彼は素直に己の才の無さを恥じて自害するだろう。

 

 

 

自覚はない。

しかし圧倒的な力と引き上げられ拡張した剣術が彼を剣の鬼へと変えつつあった。

 

 

 

剣鬼アリオト。

その誕生は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてミザール。

ドワーフであることに誰よりも誇りを抱いていた彼もまたアリストテレスの糸に絡めとられつつある。

彼は次々と瞬きさえせずにアリオトの動きを凝視し鼻息を荒げていた。

 

 

仲間が剣狂いだというのは良く知っていた。

アリオトのソレは自分がゴーレムをはじめとした作品に向けるものと同種の熱意だということを彼は知っていた。

極めたいと心底願い、その為なら何を犠牲にしても構わないという狂気に彼は共感を抱ける同類だった。

 

 

 

「…………」

 

 

 

もはやアリストテレスへの負け惜しみ染みた憎まれ口もない。

魅入られるという表現が一番近い。

アリオトが動く。

 

 

 

剣は素人であるミザールからしても彼の動きはどこまでも洗練されていて、無駄がなくて、綺麗だった。

ともすればあのルファスよりも今のアリオトは輝いていた。

覇王が圧倒的な力で全てをねじ伏せる暴力の権化とするならば、彼は正しく磨き抜かれた剣だ。

 

 

 

 

勇者と竜王の戦いはまさに神話の光景。

ルファスと兵器群により陳腐化されつつあるレベル1000の領域というものの真骨頂がここにはある。

 

 

 

4本目の首が落ちる。

兵器群をして刹那の瞬間とはいえ首を落とされたことに気づけなかったソレはブレスを吐こうと無様に口を開けたままだった。

一泊の後に切断面から血が吹き出た。

 

 

想像を絶する技量のせいか切断面からは一つもつぶれていない血管が見える。

きっと血管だけではなく細胞一つ潰さず綺麗に泣き別れさせたのだろう。

 

 

 

5本目の首が落ちていく。

続けて6本目。

アリオトは何と瞼を閉じてこれを成していた。

 

 

 

もはや見るまでもないという侮りか、はたまたあえて視界を潰すことでその他の感覚を研ぎ澄ませたのか。

 

 

 

竜王の鱗はオリハルコンと同等以上に頑強で柔軟、本来ならば刃を通すこと自体が奇跡。

だがマリオネットとアリオトの前にその程度では濡れた紙の様なものだ。

アリオトが最も斬ってみたいと思う存在を思えばこのレベルで苦戦していたら話にもならないのだから。

 

 

 

しかしさすがはアリストテレスというべきかアリオトが新技術になじむために難易度を一段階上げて刺激を与えることにしたらしい。

竜王再現体も獅子王のそれと同じく制御に難があるが、あえて彼らはソレを緩めた。

マナ・キャンサーとルファスの戦闘から得られた情報を元にアリストテレス兵器群はラードゥンの細胞に掛かっていたリミッターを外す。

 

 

 

細胞の意図的な癌化。

医術/生物学の最悪の応用であった。

 

 

 

跳ね上がった難易度にアリオトが壮絶な笑みを浮かべる。

怒りではない。むしろ燃えるような感謝がある。

こんな素晴らしい剣に、身体、さらにはそれを思う存分試せる相手まで用意してくれた者たちに彼は心から感謝していた。

 

 

 

瞳を閉ざしたままであるが、逆に視界という余分な要素が消え去り彼は世界のあるがままを感じていた。

勢いを増した竜王の気配を前に彼は口角を上げた。

 

 

そうだ、それでこそだ。

短い付き合いではあるが彼はアリストテレスのやり方を理解し、それに共感を抱いていた。

もっと強い相手を。もっと激しい死闘を。

 

 

 

斬って斬って、斬り続けた果てに覇王は座している。

もう俺はルファスの衛星ではない。

俺こそが主星になるのだと彼は煮えたぎった思いをさらに沸騰させる。

 

 

 

“竜王”の再生能力がその次元を跳ね上げる。

瞬間的に新しい頭が全て生えそろい、そろって大口を開けた。

喉の奥に十字の閃光が走れば一斉にブレスを発射。

 

 

 

放たれたのは炎ではない。

膨大なエネルギーを圧縮したソレは数億度を超えるプラズマであり、弾丸だ。

キュオンという大気が一瞬で燃え尽きて空間が沸騰する怪音と同時にアリオトの周囲の大地が大きく抉れる。

 

 

 

発生した余波は十字の巨大な光柱となり結界を大きく軋ませた。

アリオトは……当然無事であった。

もちろん竜王もその程度でアリオトを仕留められるとは思っておらずプラズマ弾を一つの首につき毎秒1000発、毎分6万発発射。

 

 

 

一撃あたりの威力は収束させたブレスに劣るが、それでも当たれば普通のレベル1000では重傷だ。

轟音と共に周囲一帯のあらゆる箇所に十字架が立ち上っていく。

 

 

 

模擬戦ではあるが込められた殺意は本物。

この程度でアリストテレスの最新技術を施されたアリオトが死ぬわけがないという歪な信頼があった。

 

 

光速で飛来する超圧縮されたプラズマはさすがに今の彼でも直撃すれば火傷を負うだろうが、当たらなければよい。

右に左に、弾丸を踊るように回避しながら竜王の下に超速で駆ける。

彼には見えてはいないが観えてはいる。

 

 

 

ドンと踏み込む。

スキルではない技術としての瞬歩。

後方から前方へと重心を移動させ、身体を撃ちだすように地面を蹴りつけて真正面に飛ぶ。

 

 

 

 

ルファスがよく使うソレとは根本から違う純粋な技術の瞬歩によってアリオトは一瞬で竜王との距離を詰める。

剣を振るう。集中も何もない自然体で。

ただ頭の中に浮かんだアイデアにアリストテレスは“出来る”と返してきた故に実行。

 

 

彼の体に打ち込まれ共生を始めていたアロヴィタイトとマリオネットに埋め込まれたソレが共鳴を引き起こす。

ただ一筋、剣に何もかも全て───プライドさえも捧げた彼の一念はルファスとは違う方向性でアロヴィナスの想定を超えた。

 

 

彼は瞼の裏で思い描く。

竜王の頭の半分を奪うと。

どう切るか、どういう力加減で、どういう剣筋なのか、全てを完璧に思い描く。

 

 

妄想などという陳腐な域は通り越し、これは狂信だった。

ただ剣のみあればいい。俺はこれでいいという自己定義だ。

 

 

 

出来る出来ないではない。

やる。

己には絶対に可能だ。

 

 

そう信じて剣を振りかざす。

 

 

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純粋な剣技で彼はミズガルズの法を狂わせるに至る。

瞬間、竜王の頭が5本同時に空を舞った。

 

 

 

振るった回数は一度。

しかし発生した斬撃は5つ。

これは見えない速度で剣を振り回したのではない。

 

 

 

一回の攻撃で5回の判定を発動させただけだ。

 

 

 

「あんなのありか……」

 

 

 

観客席から全てを見ていたミザールは友の成した奇跡に感嘆と戦慄を混ぜてつぶやいた。

明らかにおかしい挙動だった。

だって剣を振るった回数は一回だけ、なのに落ちた首は5つ。

 

 

原理を明かそう。

マナを純化させたアロヴィタイトは更に強く意思に反応する性質を持っている。

最下級の「火」の魔法を放つときに叫んで気合を入れた方が火力が上がるのと根底は似通っていた。

 

 

 

アリオトは自分で“5つの斬撃を放つ自分”を瞼の裏で観測したのだ。

その観測結果がアロヴィタイトを通じて世界に張り付けられた、というのが事の真相である。

極まり切った意思は世界を歪ませる、その証明がまた成された。

 

 

 

極限まで至った剣士は心の中で実戦にも劣らぬ剣戟を行えるという。

実戦/現実と寸分違わぬというのならばそれはもう現実であるという理屈だった。

更にもう一つ、試しにアリオトはスキルを発動させる。

 

 

 

今まではただの目くらましと思っていた。

しかしそれは過去の話。

彼はこのスキルの本質を知った。

 

 

いや、本質を再定義した。

 

 

【ファントムソード】

 

 

半透明のアリオトが同じように剣を構え彼もまた竜王という獲物に向けて駆け出す。

ただの幻の振るう剣が何故か実体を持ち強固な竜の体を微塵に刻んでいく。

剣を振るう己の姿がすぐ隣にいるのだ、ならばそれを観測したアリオトならば相手が刻まれるさまを幻視するのは容易い。

 

 

幻とはいえ自分が斬ったのだ。

ならば切断されるのは当然の法である。

 

 

 

そうして始まるのは一方的極まりない解体劇だった。

わざと一本だけ残すように攻撃を加え、再生を終えると同時にまた9本首を落とすの繰り返し。

しかも一回ごとに手を変え品を変え、次々と新しい技術を彼は会得していく。

 

 

剣だけならばルファスと同等?

いいやもう違う。

剣だけならば遥か彼方に彼は追い去った。

 

 

 

 

 

かつての真なる竜王はあらゆる全てに悪意と破壊衝動を抱き、それを振りまいて君臨した。

自分に敵などいない。

自分こそ女神の最高の信徒であり絶望の権化だという絶対的な自負が彼の根幹であり強さの源泉であった。

 

 

 

それに対しここに産まれた勇者/剣鬼アリオトは万物全てに対し“斬れるか否か”という基準を持つ。

星だろうと概念だろうと魔法や天法であろうとあらゆる全てが彼にとっての獲物だ。

その果てにただ一人の黒い翼を見据えながら彼は冥府の底でアリストテレスと契約を結び成長を続けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてミザールとメグレズ。

決して落ちまいと決意を抱き続けた彼は───冥府の底でアリストテレスが遺した“究極”の兵器と対面していた。

 

 

 

 

「素晴らしい」

 

 

 

エルフはソレを前に茫然と魅了されたようにつぶやいていた。

 

 

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